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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


それは土の中に

------<オープニング>--------------------------------------
 霊峰八国山。
 東京郊外にあるこの山に住む妖怪たちは、何か困った事があるとすぐに草間武彦の元にやってくる。
 今日もまた一匹…
 と思いきや、今日、草間興信所のドアを叩いた者は妖怪ではなかった。
 厚手のジャケットを着こなした若い男だが、彼の胸元は爪でえぐられたような傷が、三筋出来ていた。
 「よう、あんた。
  ちょっと相談に乗ってくれないか?」
 男は中に居た草間に声をかける。
 飄々とした風を装っているが、胸の傷は致命傷になりかねないと草間は思った。
 「お、おい、流砂か?
  どうしたんだ一体。」
 かつて霊峰八国山で松茸泥棒をしていた盗賊、式紙の流砂。
 彼は草間達と1戦交えた後、松茸泥棒から手を引き、霊峰八国山で知り合ったみなしごの子ネズミ妖怪達の後見人的な事をしていたのだが…
 「見ての通りさ。
  そういうわけで、ちと俺に代打を出してもらいたくてな。」
 ふっと笑って言う男の顔色は真っ青だった。
 「わかったから、とりあえず事情を話せ。
  話の途中で死ぬなよ。」
 草間の言葉は半分以上本気だった。
 「そうだな、あんたが依頼を受けるまでは死なないでいてやるよ。」
 流砂は語り始める。
 数日前の事だった。
 流砂がたまに世話をしている土竜(モグラ)ネズミの兄弟、忠一と忠次は、いつものように霊峰八国山の地面の下で平和に暮らしていたのだが、そこに招かざる客がやってきた。
 爪と牙、そして大きな体を持った四足の客達は『土食らい』と呼ばれる一族で、知能もやさしさも持たない怪物達だった。
 周辺のものを食い尽くしては移動を繰り返す『土食らい』達は、土竜ネズミの兄弟も標的にしている。
 なので『土食らい』に立ち向かった流砂なのだが、何匹か退治したものの傷を負って逃げてきたという。
 「地上におびき出して戦ってみたんだが、結構数が居てな。
  何匹かは退治したから、後、頼むわ。」
 流砂は静かに言う。
 「お、おい。
  わかったから死ぬなよ。」
 怪物退治の助っ人より、まず医者を呼ぼうとする草間だった。

 (依頼内容)
 ・『土食らい』という怪物の団体が地面の下で暴れて、霊峰八国山の地面の下を住みかとする妖怪達が困っています。誰か助けてあげてください。
 ・式紙の流砂という男が重体の為、医者の方も募集です。 
 ・式紙の流砂、土竜ネズミの兄弟は『畑を荒らすな!』に登場しています。参照してみるのも良いかもしれません。

 1. 八国山へ

 人魚の血を引く中学生、海原みなも。
 先祖の力を引き継ぐ彼女に、草間武彦が仕事を頼むのは、これが初めてではなかった。
 草間は、一通りの事情を彼女に説明する。
 「そういうの、許せません!」
 海原みなもは、電話ごしに怒りをあらわにする。
 平和な生き物を無差別に襲う『土食らい』が許せないと思った。
 青い髪が印象的な少女だった。
 「お、おい、別に俺がやってるわけじゃないからな。」
 みなもの剣幕に、草間は少したじろぐ。
 「わかってます。
  …そうですね、流砂さんの事もすごく気になるんですけど、私には癒しの力はありませんから、『土食らい』退治に直接向かいますね。」
 みなもは言う。
 「そうだな。
  じゃあ、誰か道案内を手配するから、西武鉄道の東村山駅って所着いたら待っててくれないか?」
 初めての人間を、一人で行かせるわけにもいかない。
 誰か、案内役を探すと草間は言った。
 「わかりました、お願いしますね。」
 みなもは電話を切り、身支度を始める。
 理屈でなく、こういう事件は許せないと思った。
 草間は、みなもへの電話を切った後、彼女の案内役が出来る人間を探す。
 やがて、以前に霊峰八国山へ行った事があるOLと連絡がついた。
 草間は彼女、一条朱鷺子に一通りの事情を話す。
 「いいわよ。その娘の名前と携帯の番号を教えてくれる?」
 朱鷺子はみなもの案内役を了承し、草間にみなもの特徴を尋ねた。
 「悪いな、よろしく。
  彼女の名前は海原みなも。
  水系が得意な中学生だ。
  青い髪をしてるから、すぐわかると思う。
  携帯の番号は…」
 こうして、海原みなもと一条朱鷺子は霊峰八国山へと向かった。
 草間はもう一度みなもに連絡を取り、朱鷺子の特徴と携帯の番号を伝えると、さらなる助っ人を集めようと奔走を始めるのだった。

 
 2. 朱鷺子とみなも

 東京都の外れにある東村山市。
 霊峰八国山は、その中心部にある東村山駅から徒歩30分程の場所にあるという。
 海原みなもは東村山駅のホームから北を眺めた。
 多分、遠くに見えてるあの山が霊峰八国山なんだろうな。
 みなもは、ここで仲間と待ち合わせて山へ向かう事になっているのだが、肝心の相手がまだ来ていなかった。
 待ち合わせの相手は、『文字のイメージを具現化する能力』を持ったOLの人だと草間さんが言っていたけど、どんな人なだろう?。
 みなもは静かに、相手が来るのを待つ。
 同じ頃、一条朱鷺子は東村山駅に着いた。
 「えーと、確か中学生の娘だって草間さん言ってたわよね。」
 朱鷺子は、みなもを探して駅のホームを見渡す。
 青い髪の少女は、すぐに目に付いた。
 「あなた、海原みなもさん?」
 朱鷺子はみなもに声をかけた。
 「はい。一条朱鷺子さんですね。よろしくお願いします。」
 みなもはぺこりとおじぎをした。。
 「よろしくね!
  じゃあ、私が道案内するから、歩きながら話しましょう。
  少し急いだ方が良いみたいだしね。」
 朱鷺子の言葉に、みなもも同感だった。
 東村山駅を離れ、2人は歩く。
 「…東京にもこんな所あったんですね。」
 みなもが
 駅の周辺は都会風だったが、気づけば畑と民家しか見えない。
 みなもは呆れる。
 「まあ、駅の周りだけ都会っぽい田舎町ってあるわよね。」
 「それは、確かに…」
 さすがに都内でも有数の妖怪の里だなとみなもは思った。
 さらに歩き、2人は八国山の入り口付近に差しかかる。
 「あ、朱鷺子さん、おひさしぶりです。
  あの、申し訳ないんですけど、松茸はもう時期が終わっちゃいました…」
 山の入り口で2人を迎えたのは、みなもと同い年位の少年だった。
 「おひさしぶり、陸奥君。
  ていうか、別に今回は期待してないからいいのよ…」
 朱鷺子は少年に言う。
 「えとー、そちらの方は初めましてですよね。
  僕、化け猫の陸奥です。」
 次に陸奥はみなもの方に向かって頭を下げた。
 「初めまして、海原みなもと言います。
  いきなりなんですけど、土竜の兄弟さん達や土の中の妖怪さん達は大丈夫ですか?」
 みなもは陸奥に尋ねる。
 「はい、土竜ネズミの兄弟達は長老様の所まで逃げてきて、無事です。
  でも、何匹かは手遅れで…」
 悲しそうに言う、陸奥だった。
 「もたもたしてられないわね。
  行きましょう。」
 「静かに暮らしている人…じゃなかった、妖怪さんを食べるなんて、例え食物連鎖が許してもあたしが許しません。」
 朱鷺子とみなもが声を揃えて言った。
 急ごうと、思った。
 2人は陸奥の案内で霊峰八国山の奥地、長老化け猫の所まで行く。
 そこには、陸奥の話通りに山中から避難してきたと思われる地中の妖怪達が居た。
 「あ、松茸のお姉さん、こんにちは。」
 そんな中に、土竜ネズミの兄弟達も居た。
 手の先の爪が、言われてみればモグラっぽい他は、土竜ネズミ達はごく普通のネズミに見えた。
 まあ、しゃべってるし妖怪なんだろうとみなもは思った。
 朱鷺子は土竜ネズミの兄弟に、土食らいの匂いなど、何か痕跡を追う手がかりが無いか尋ねる。
 「うーん、そうね、私が『犬』を呼ぶから、『犬』達に匂いとか教えてあげてくれる?」
 どうせなら、犬に直接教えてもらった方が手っ取り早いかなと思った朱鷺子は、地面に『犬』と書き始めた。
 すぐに、文字が具現化して『犬』が数匹現れる。
 土竜ネズミの兄弟は、『犬』にあれこれ教えているようだった。
 みなもは、他の妖怪達に『土食らい』の特徴を聞いてみる。 
 そうして土食らいの特徴を一通り聞いた後、みなもは近くにある水源の場所を尋ねる。
 水が多くある場所が、みなもにはありがたい。
 そうそう都合良く水辺で戦えるかはわからなかったが、聞いておく価値はあると思った。
 その辺にいた河童の話によると、西の方に多摩湖という湖があるとの事である。
 そうして一通り、聞くことを聞いた二人は、
 「とりあえず、私の『犬』で土食いを探してみようと思うんだけど、
  どこか、居そうな場所の心当たりはある?」
 具体的にどこら辺を中心に行動するかという事を話す。
 「えーと、南側に1番よく出るみたいで、シュラインさん達3人がそっちに行ってます。次は西の湖の周りにも結構出るみたいですけど、そっちは野放し状態です。他の場所では、あんまり出てないみたいです。」
 陸奥が土食らいの出没状況を話す。
 「なら、私は西に行きますね。湖が近い方が都合良いですから。」
 南の方は先に行っている人達に任せても問題無いだろうとみなもは思った。
 「そうね。それじゃあ、私達2人は西へ行きましょう。」
 朱鷺子も賛成した。
 もしかしたら、まだ逃げ遅れてる妖怪が居ないとも限らない。
 そういう意味でも、数カ所に別れて行動した方がいい気がした。
 「それでは、よろしくお願いします。
  この辺は長老様も居るんで、心配はいりませんから。」
 陸奥の見送りを受けて、朱鷺子とみなもは西の湖付近へと向かうのだった。

 3. 湖のほとり

 「変な生き物が地中を移動する軌道が解れば、地面に『爆』って書いて連ねとく作戦も出来るんだけど…」
 西の湖のほとりで、朱鷺子がつぶやく。
 「爆って…地面を爆発させちゃうんですね。
  なら、とりあえず湖の側の地面にいっぱい書いといて、『土食らい』を誘いこんでみませんか?
  水辺に誘いこんでくれたら、私も考えありますから。」
 近くに水脈があれば、みなもは多少派手な事も出来る。
 土食らいの移動して出来たトンネルに湖の水を流し込んで『土食らい』を地面に引きずり出してみたいと彼女は言った。
 「じゃあ、私が変な生き物を探してこの辺まで連れてくる来るから、みなもちゃん待っててくれる?」
 朱鷺子は言いながら、地面に色々字を書く。
 「お願いします。
  私、ここで待ってますから、あんまり危なくなったら呼んで下さいね。」
 みなもは朱鷺子の言葉にうなずく。
 「そうね、変な生き物を見つけたら、大きな蟻で追い掛け回してみようかな。」
 1人でつぶやきながら、朱鷺子が地面に『蟻』と書くと、何やら地面の下に新たな気配が生まれた。
 そうして一通りの準備を終えると、朱鷺子は森の奥へと消えていった。
 みなもは彼女を見送ると、湖の水に手を触れてみた。
 何となく優しい感じが、湖の水から伝わってくる。
 さすがに霊峰八国山の湖の水といった所だろうか。
 この水ならばいつもより上手く操れるかもしれない。みなもは湖の水を見つめながら、朱鷺子の帰りを待つ事にした。
 一方、森に消えた朱鷺子は犬に任せて周辺を探索する。
 すぐに、『犬』が何かに気づいたらしく駆け出した。
 朱鷺子は『犬』の後を追って走る。
 しばらくして、『犬』が足を止めてうなり始める。
 「ここに…居るの?」
 朱鷺子は地面を見渡してつぶやく。
 「らしいな。」
 背中から、男の声がした。
 朱鷺子はあわてて振り帰る。
 「あなた、流砂さんよね?」
 見覚えのある男だった。
 「犬の姉ちゃんか。俺の代打に来てくれたんだってな。」
 流砂は言う。顔色は良くない。
 「ちょっと、大丈夫なの?」
 草間の話だと、死にかけてるとの事だったが…
 「あんまり大丈夫じゃないが、まあ大丈夫だ。
  任せきりってのも性に合わないんでな。
  …それより、居るぜ。」
 流砂が地面の1点を見つめながら言った。
 朱鷺子が流砂の目線を追うと、地面が不自然に動いていた。
 「がんばれ、蟻さん!」
 朱鷺子が叫んだ。
  朱鷺子の蟻は彼女の声を受けて『土食らい』に向かう。
 「ほーう。」
 流砂が感心したような声を上げる。
 これで、みなもちゃんのいる湖まで変な生き物を追い込めば…
 と、朱鷺子は思ったのだが。
 「なんか、戦ってるみたいだな。」
 流砂がつぶやいた。
 「戦ってるみたいね…」
 地面の下がざわめいている。朱鷺子の放った蟻に、『土食らい』が襲いかかったのだ。
 数秒後、地面の下は一瞬静かになった。
 「なんか、私の蟻の気配が消えたんだけど…」
 「食われたんじゃないか?」
 朱鷺子と流砂は顔を見合わせて、苦笑いする。
 次の瞬間、地面が動いた。
 2人が居る真下の地面が崩れる。
 「おい、逃げろ!」
 流砂は言いながら朱鷺子を突き飛ばし、懐から何か紙を取り出して地面に叩きつけた。
 2人が居た場所のから『何か』が猛スピードで飛び出し、流砂の放った紙とぶつかる。
 「はじけろ!」
 流砂の声と同時に紙が爆発した。
 『うぉーん』
 一声泣いて、『土食らい』は地面に帰る。
 嫌な泣き声だった。
 朱鷺子と流砂は頭を押さえてうずくまる。
 「これね、嫌な泣き声って…」
 朱鷺子が苦しそうに地面をうかがうと、
 何やら地面が盛り上がりながら遠ざかっていく。
 「ち、キツイな。」
 膝をつく流砂は、朱鷺子より苦しそうだ。
 彼の体調は、やはり最悪のようだった。
 どうする?
 朱鷺子は一瞬悩み、地面に文字を書き始めた…
 その頃、みなもは湖の側で『土食らい』の泣き声を聞いていた。
 そう、遠くない。
 おそらく朱鷺子さんが見つけたんだろうけど、駈けつけるべきだろうか?
 それとも打ち合わせ通り、ここで待つべきだろうか?
 『土食らい』の恐ろしい泣き声を聞いて、みなもの心が戸惑う。
 だが、気を取り直して朱鷺子を信じて待つ事にした。
 とくん。とくん。
 自分の心臓の音が、一つづつ聞こえる。
 本当は、今すぐ駆け出したい。
 でも、待つべきだと思った。
 長い数分間が過ぎ、走ってくる朱鷺子の姿が見えた。
 犬を連れ、見なれない男の手を引いて走っている。
 「みなもちゃん、連れてきたわよ!」
 朱鷺子が叫ぶ。
 彼女の後ろの地面が、何やらざわめき、盛り上がりながら彼女に近づいてくる。
 朱鷺子は『蟻』で『土食らい』を追い掛け回す事はあきらめたが、逆に『土食らい』に『蟻』を追わせて誘い出す事にしたのである。
 良く考えれば、別に大した事の無い発想の転換だった。
 彼女が『蟻』を呼び出すと、案の定『土食らい』は食らいついてきた。
 みなもは、朱鷺子の後ろの地面のざわめきを見て緊張する。
 確かに大きい。2メートル位だろうか…
 でも、もうちょっと。
 湖の近くまで来れば…
 朱鷺子と流砂は湖のほとり、『爆』と書いてある地帯に差しかかり、一気に通過する。
 「蟻さん、ゴメンね!」
 朱鷺子は言いながら、『爆』の文字を発動させる。
 文字通り、地面が爆発する。
 今だと、みなもは思った。
 「水よ!」
 湖に両腕を浸し、みなもは叫ぶ。
 彼女の求めに応じて湖が波立ち、地面の下を水が浸食する。
 そして地面を侵食した水は、鉄砲水のように土食いの掘った穴になだれ込む。
 「うおぉーーん!」
 先ほどの数倍恐ろしい声と共に、『土食らい』が地面から水に押し出されて出てきた。
 爆発のせいか、傷だらけである。
 3人は頭を押さえてうずくまる。
 「犬さん、後お願い…」
 朱鷺子が弱々しく言う。
 元々生き物ではない朱鷺子の犬は、『土食らい』の声の影響を受けてはいなかった。
 勇壮に飛びかかる犬達。
 「式紙雷符…正十字紋」
 流砂が苦しそうにつぶやき、手に持った紙を放る。
 朱鷺子の犬を避け、紙が雷に変わって『土食らい』襲った。
 まだ動く、『土食らい』
 みなもが湖の水を、高水圧で直接『土食らい』に叩きつけた。
 ようやく、『土食らい』は動かなくなる。
 「なんだか、元気な生き物ね…」
 朱鷺子がぜいぜいと息をつきながら言った。
 「よし、この調子で続けるぜ…」
 死にそうな顔で言うのは流砂だった。
 実際死にそうなんだろう。
 「怪我人はおとなしく休んでいて下さい。」
 土食らいの死骸を湖に沈めながら言ったのは、みなもである。
 湖の水が余りにも言う事を聞いてくれすぎるので、彼女は大分消耗して疲れていた。
 「流砂さん、木の上かなんかに隠れて休んでて良いからさ。私達が危なくなったら、かっこよく飛び降りてきて助けてよ。」
 朱鷺子はからかうように流砂に言った。
 みなもはクスクスと笑う。
 「馬鹿にしやがって…
 でも、考え方自体は悪くねぇ。
  …悪いが休ませてもらう。」
 流砂はそう言って紙を放ると宙に浮き上がり、その辺の木の上に降りた。
 木の上なら、『土食らい』には襲われない。
 「じゃあ、次もお願いしますね、朱鷺子さん。」
 みなもはそう言って微笑むと、水辺にうずくまった。
 戦闘はサポートメインのつもりだったのに、なんだか思いっきり主力になってる気がする。
 この湖の水は、操れ過ぎるのだ。
 力を上手くコントロールして操らないと、自分の体が持たないと思った。
 「みなもちゃんも休んでてね。」
 朱鷺子は再び森の奥へと消える。
 それから、朱鷺子とみなもは同じような要領で2匹、『土食らい』を湖に埋葬した。
 周辺の『土食らい』はもう居なくなったのか、その後は『土食らい』を見つける事は出来なかった。
 なので、ひとまず終わりにしようかと朱鷺子とみなもが話し合った時の事だった。
 「うぉおおおぉーん!」
 今まで聞いた事の無いような、『土食い』の泣き声が聞こえた。
 場所は南の方角だった。
 朱鷺子とみなもは、疲れた顔を見合わせる。
 誰が戦ってるか知らないが、助けに行こうと思った。
 「木の上で寝てる流砂さんは、放っておいて良いですよね?」
 泣き声のする南へ走りながら、みなもが言う。
 「そうね、寝かせといてあげましょう。」
 そうして、朱鷺子とみなもは走り去る。
 水辺には、木の上で眠る流砂だけが残された。

 4. それは土の中に

 「…最後の最後で、貧乏クジを引いてしまいましたかな?」
 護堂・霜月は仲間達につぶやいた。
 「見方によっては当たりクジとも言えますよ。」
 答えたのは斎・悠也だった。
 「当たりでも貧乏でも、どっちでもいいわよ…」
 とにかく目の前にいる特大の『土食らい』を何とかしましょうと、シュライン・エマは言った。
 シュライン・エマ、護堂・霜月、斎・悠也の三人は、特大の『土食らい』を相手に苦戦する。
 二人を助けようと駈けつけて来たササキビ・クミノとレイベル・ラブの二人も、一時退却してしまった。
 そんな所に、朱鷺子とみなもは到着する。
 「うちの犬にしばらく時間稼がせるから、2人とも少し休みなさいよ!」
 朱鷺子はそう言って、地面に犬と書き始める。漢字のイメージを具現化するのが彼女の能力だった。
 「今まで、みなもちゃんと別の所に居たのよ。もうひと押しみたいだし、何とかがんばりましょう!」
 朱鷺子は元気が良い。
 「あんたに言われるまでもないわよ。」
 シュラインの顔に笑みが浮かぶ。
 朱鷺子の『犬』が『土食らい』に向かう。
 その隙に、霜月と悠也が壊れる寸前の結界まで引いてくる。
 「霜月さん、手伝いますね!」
 海原みなもは、悠也と一緒に霜月のサポートに回る。
 「でも、どうするの?
 あの泣き声が、やっかいよね。」
 朱鷺子が一堂に言う。
 良い所まで攻めても、泣き声のせいで決め切れずに逆に追いこまれてしまうパターンが続いている。
 「一気に決めるしかないわけですよね…
 そうだ、シュラインさん、草間さんの瓶、使いましょうよ。
 まだ、幾つかありましたよね?
 アレを口に放りこんで火を着ければ、上手くすれば、声を出させないように出来るかも知れないですよ。」
 言ったのは悠也だった。
 「火を着ける方法、ある?」
 先ほどは、それが思うようにいかずに失敗した。
 「それなら、私が『爆』って書いた紙を貼っておくわ。そうすれば、時限爆弾みたく出来るから。」
 「口に入れる狙いどころは、泣き声を上げる瞬間ですな。」
 朱鷺子と霜月が言う。
 「じゃあ、シュラインさん、俺達が攻撃してあれを泣かせますから、開いた口に瓶を放りこんでもらえますか?」
 悠也が言った。
 「瓶、幾つかあるんでしょ?
 私も『燕』でも呼んで瓶を持たせてみるからさ、一緒にやろうよ。
 口の中に入りさえしたら、後は私が『爆』の字で爆発させるから!」
 言いながら、朱鷺子が『爆』とマジックで紙に書いて、瓶に張りつけていく。
 「そうね、わかったわ。」
 そろそろ、朱鷺子の犬も食われそうだ。時間が無い。
 「お願いしますね、シュラインさん。」
 みなもが言う。
 そして、朱鷺子の『犬』が食われた。
 「みんな、お願いね!」
 シュラインの声を受けて、霜月、悠也、みなもの3人が、それぞれ『土食い』を攻撃する。
 「鋼糸を全て使ってしまったのは失敗でしたな。」
 錫場1本で『土食い』に殴りかかるのは霜月だった。
 得意の鋼糸が、1本でも良いから欲しかった。
 みなもはペットボトルに詰めた水を高水圧で噴出し、細い糸の様にして操って『土食い』を襲うが上手くいかない。
 「うーん、やっぱり霜月さんみたいに上手に糸、使えないです。」
 悔しそうに言うみなもだったが、はっとして霜月と顔を見合わせた。
 みなもは無言でペットボトルを霜月に手渡す。
 「水龍鋼糸よ、『土食らい』を撃て!」
 霜月が唱えながら水の糸を操り、同時に錫場で撃ちかかる。
 「鋼糸…では無いと思いますよ。」
 悠也が首を傾げながら風刃を繰り出す。
 「あの…水の糸を生み出してるのは、あたしですからね?」
 みなもがペットボトルの水を噴出させながら、『土食らい』を蹴り上げた。
 たまらず、『土食らい』が泣き声を上げる。
 シュラインと朱鷺子はそこまで、ひたすら泣き声を我慢する事だけを考えていた。
 苦しい顔をしながらも、シュラインは泣き声に耐えて瓶を投げる。
 瓶は上手く『土食らい』の口に入る。
 「い、行って、燕さん!」
 朱鷺子も苦しそうに言って、瓶を抱えた燕が『土食らい』へと向かうが、しゃべった分だけ動き出しが遅れてしまった。
 燕は閉じられた『土食らい』の口に衝突する。
 「私の燕さんが…
 燕さんの仇!
 『爆!』」
 自分が燕を爆破しようとしていた事も忘れて、朱鷺子は叫んだ。
 シュラインの瓶が弾け飛ぶ。
 「うお、これは…」
 悠也が後ずさる。思った以上の爆発だった。
 「火力が強すぎませんか…」
 みなもが呆れている。
 『土食らい』は上半身半分、吹き飛んでいた。
 当然、息はしていない。
 「武彦さん、何て物持たせるのよ…」
 ここまで効果があるとは思わなかったシュラインは、呆れる。
 「ま、まあ、結果オーライというやつでございましょう。」
 とりあえず、死体から離れた所で休もうと霜月が言った。
 朱鷺子が最後の力を振り絞って新たに呼んだ蟻達に『土食らい』の死体を埋葬させながら、一堂はその場を離れようとした。
 「む…何やら終わってしまったようだな。」
 レイベル・ラブが、ふらりとやってきた。
 彼女の話によると、
 『結果は知らないけど、もう、終わってるはずね…』
 そう言ってクミノは1人で先に帰ったという。
 「障壁の能力を封じぬ限り、奴は他の者と一緒には居れぬからな…」
 レイベルが、少し低い声で言った。
 一堂はレイベルを連れて、北へと歩く。
 また1人、誰か近づいてくる。
 化け猫の陸奥だった。
 「なんだか凄い泣き声がしたんで来たんですけど、どうやら大丈夫みたいだったですね。
 皆さん、おつかれさまです。
 後は僕達が何とかしますんで、もう休んでいて下さい。」
 彼に言われるまでもなく、戦う力が残ってる者は居なかった。
 一堂はしばらく長老の所で休んだ後に山を離れる。
 その後、『土食らい』が再び現れたという報告は、未だに草間の所には来ていない。
 「流砂って彼も格好良かったし、まぁ気晴らしだと思えば、これはこれで充実した休暇と思えるはず…」
 そう言って朱鷺子は、他の者達に笑っていたという。
 (完)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
 【1069/護堂・霜月/男/999/真言宗僧侶】
 【1027/一条・朱鷺子/女/27/OL(食品関係・業務課所属)】
 【1252/海原・みなも/女/13/中学生】
 【0164/斎・悠也/男/21/大学生・バイトでホスト】
 【0606/レイベル・ラブ/女/395/ストリートドクター】
 【1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】

 (PC名は参加順です。)
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■         ライター通信          ■
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 初めまして、MTSです。
 今回は御参加ありがとうございました。
 話の終盤、近所に糸使いの人が居たせいもあり、
 みなもの水の糸が結構役に立ったかなーという感じです。
 また、20代のOLだったら僕とも年齢が近いからともかく、
 女子中学生なんてどうやって書いたら良いのか戸惑いながら、
 みなもを書いたのですが、いかがでしたでしょうか?
 また、気が向いたらよろしくお願いします。おつかれさまでした。