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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 それは土の中に

------<オープニング>--------------------------------------
 霊峰八国山。
 東京郊外にあるこの山に住む妖怪たちは、何か困った事があるとすぐに草間武彦の元にやってくる。
 今日もまた一匹…
 と思いきや、今日、草間興信所のドアを叩いた者は妖怪ではなかった。
 厚手のジャケットを着こなした若い男だが、彼の胸元は爪でえぐられたような傷が、三筋出来ていた。
 「よう、あんた。
  ちょっと相談に乗ってくれないか?」
 男は中に居た草間に声をかける。
 飄々とした風を装っているが、胸の傷は致命傷になりかねないと草間は思った。
 「お、おい、流砂か?
  どうしたんだ一体。」
 かつて霊峰八国山で松茸泥棒をしていた盗賊、式紙の流砂。
 彼は草間達と1戦交えた後、松茸泥棒から手を引き、霊峰八国山で知り合ったみなしごの子ネズミ妖怪達の後見人的な事をしていたのだが…
 「見ての通りさ。
  そういうわけで、ちと俺に代打を出してもらいたくてな。」
 ふっと笑って言う男の顔色は真っ青だった。
 「わかったから、とりあえず事情を話せ。
  話の途中で死ぬなよ。」
 草間の言葉は半分以上本気だった。
 「そうだな、あんたが依頼を受けるまでは死なないでいてやるよ。」
 流砂は語り始める。
 数日前の事だった。
 流砂がたまに世話をしている土竜(モグラ)ネズミの兄弟、忠一と忠次は、いつものように霊峰八国山の地面の下で平和に暮らしていたのだが、そこに招かざる客がやってきた。
 爪と牙、そして大きな体を持った四足の客達は『土食らい』と呼ばれる一族で、知能もやさしさも持たない怪物達だった。
 周辺のものを食い尽くしては移動を繰り返す『土食らい』達は、土竜ネズミの兄弟も標的にしている。
 なので『土食らい』に立ち向かった流砂なのだが、何匹か退治したものの傷を負って逃げてきたという。
 「地上におびき出して戦ってみたんだが、結構数が居てな。
  何匹かは退治したから、後、頼むわ。」
 流砂は静かに言う。
 「お、おい。
  わかったから死ぬなよ。」
 怪物退治の助っ人より、まず医者を呼ぼうとする草間だった。

 (依頼内容)
 ・『土食らい』という怪物の団体が地面の下で暴れて、霊峰八国山の地面の下を住みかとする妖怪達が困っています。誰か助けてあげてください。
 ・式紙の流砂という男が重体の為、医者の方も募集です。 
 ・式紙の流砂、土竜ネズミの兄弟は『畑を荒らすな!』に登場しています。参照してみるのも良いかもしれません。

 1.ササキビ・クミノとレイベル・ラブ

 『土食らい』。
 土の中に住まう怪物。
 流砂の話を聞き終えた草間は、助っ人の手配を始める。
 彼の話だけでは詳しい事はよくわからないが、『土食らい』霊体というわけではなく、肉を持った物理的な存在な事は確かなようだ。
 おそらく、その攻撃手段も、物理的なものが中心だろうと草間には思えた。
 純粋に物理的な戦いなら、あいつの力が役に立つかもしれない。
 草間は1人の少女の事を思う。
 同時刻、ササキビ・クミノは自分のネットカフェに居た。
 「私と一緒に居れる存在は、あなた達アンドロイド位ね。」
 コーヒーを持ってきてくれたメイドアンドロイドに、クミノは声をかけた。
 彼女の周りに展開されている『障壁』は、彼女に向けられる物理的な攻撃を一切無効化する。魔法攻撃も半減してくれる。
 それだけなら良いのだが、彼女に危害を加える気がないものが障壁の効果範囲に入ると、死んでしまうのだ。前触れも無く、突然に。
 何らかの方法で障壁を封じておかないと、クミノは道端で長話をするだけで大量殺人犯になってしまう。
 「ゴミ掃除には、便利なんだけどね…」
 アンドロイドにつぶやいているのか、独り言なのか。クミノはつぶやいた。
 ピーピーピー。
 柔らかい電子音が響く。電話の音だ。
 クミノは電話を取る。
 「クミノか?
  ちと、手伝って欲しい事があるんだが…」
 電話をかけてきたのは、知り合いの怪奇系探偵のようだった。
 「草間か。
  ともかく話を頼む。」
 私は出来る事と出来ない事がはっきりしてる。
 草間もそれを知っている。
 だから、話の内容は大体想像がついた。
 「『土食らい』って化け物が居てな…」
 草間は事件の事をクミノに話した。
 「『土食らい』というゴミの処理をすればいいのだな?
  バンカーバスターでも呼べれば、一瞬で片付くとは思うが…」
 クミノは受けた攻撃の威力に比例する現用兵器を呼ぶことが出来る。
 「そりゃ、『土食らい』が核ミサイルでも使ってくれば、バンカーバスターでも波動砲でも呼べるだろうけど…」
 お前は山ごと吹っ飛ばす気なのかと、草間は言う。
 「冗談もわかんないのね、草間は。
  …そうね。
  確かに奇妙な依頼だけど…大丈夫、信じてる。
  私も、伊達に2年もゴミ処理係りをやってたわけじゃないから。」
 やれる事はやってみると、クミノは言った。
 「でも…私で良いの?
  相手が妖怪なら、私みたいなのよりも、もっと他の強い人にしたらどう?」
 物理攻撃以外使用禁止のルールで戦闘の大会でもあるなら、確かに私の出番だろうけどもとクミノは言う。
 「妖怪と言っても、かなり物理的な方向に偏った奴みたいだからな。
  お前向きだとは思うが、やってくれないか。」
 草間は言う。
 「言ったでしょう、信じてるって。
  私の力が必要だから。
  私が出来る事だから、草間は私を呼んだんでしょう?」
 クミノは微かに笑った。
 「私は、直接現場へ向かったほうがいいわね?」
 草間興信所に行く必要は無いと、クミノは思った。
 「そうだな、道案内でもつけてやりたいが、お前の場合はそうもいかないしな…」
 『障壁』の副作用のおかげで、彼女は仲間とつるんで現場に向かう事も出来ない。
 「草間が気にする事ではないさ。
  ともかく、ゴミ処理をする場所を教えてくれる?」
 クミノは霊峰八国山の場所を草間に尋ねると、一人、山を目指すのだった。
 こうして彼女との連絡を終えた草間は、その後も助っ人の手配にしばらく奔走する。
 結局、7人の助っ人が集まった。
 草間武彦は、ふうっとため息をつく。
 一番難しかった医者の手配も、何とかなった。
 さて、次はどうする?
 草間は考える。
 真っ先に山へと向かったのは、護堂・霜月だった。
 シュライン・エマ、斎悠也の二人は、一度ここに来て流砂の様子を見てから行った。
 初めて八国山へ行く海原みなもは、一条朱鷺子が道案内をしている。
 そして、ササキビ・クミノは一人、山へと向かう。
 6人の人間が山へと向かっているわけだ。 
 7人目の医者、レイベル・ラブは、今から流砂の治療に来てくれると言う。
 …もう、これ位で充分か。
 草間は一息つきながら、流砂のほうを見る。
 「よう…すぐに医者が来るぜ。
  逝くなよ?」
 ベッドで片ひざを立ててうずくまる盗賊に、彼は声をかけた。
 「まあ…な。」
 流砂は目を閉じたまま返事をする。
 気のせいか、先程より顔色が良く見えた。
 この分なら、死ぬ事は無さそうだなと草間は思った。
 程なくして、レイベルがやってくる。
 「患者は、そこで膝を抱えた男か?」
 レイベルは草間に尋ねる。
 「そりゃまあ、俺の他には草間の旦那しか部屋に居ないしな。」
 流砂が答える。
 「む、思ったより元気そうではないか。」
 聞いてたより、よっぽど具合が良さそうに見えた。
 「つまらん…まあいいか。
  それより流砂とやらに尋ねたいが、あなたは医者にかかる秘訣というのを知っているか?」
 言いながらレイベルは、流砂に近づく。
 「ほう、是非、ご教授願いたいもんだな。」
 にやにやしながら、流砂が言った。
 「ならば教えてやる。
  医者にかかる秘訣はな、死ぬ前に来ることだ。
  死ぬ前に来れば、まあ、何とかなる事もある。」
 言いながら、レイベルは流砂の胸の傷に手をやる。
 「そりゃ、違いねぇや…」
 流砂はしみじみと言った。
 「…むう、やはり、誰か治療したな?
  傷自体は、ほとんど塞がってるぞ。」
 レイベルが首をかしげる。
 「そうか、悠也か。」
 そういえば、治癒能力を持った奴が来ていた。
 「さあな、気のせいじゃないか?」
 流砂はそっぽを向く。
 「まあ、いいわ。
  私は私で、処置はしておくぞ。」
 レイベルは流砂の治療を続ける。
 「私が生まれた頃は、消毒や包帯はしない方が傷はきれいに手早く治ると言われてたんだがな。」
 「あんた何歳だよ…」
 「395歳だ。
  つーか、女性に年齢や体重など尋ねるものではないぞ、覚えておけ。」
 レイベルは流砂の腕をつねった。
 「いてて、やたら力強いな、あんた…」
 「余計なお世話だ。」
 それよりも聞けと言って、レイベルは過去の誤った医療常識の数々を講釈する。
 レイベルの話を聞いて流砂が笑い転げるうちに、処置は完了した。
 「さて…怪我が治ったら、行くぞ?
  流砂、免許はあるか?」
 彼女は当然のように、流砂に言った。
 「おいおい、怪我人を働かせる気か?」
 流砂はベッドから立ち上がりながら言う。
 「行かぬのか?」
 レイベルが不思議そうに尋ねる。
 「まあ、行くさ。」
 流砂は外へと歩き始める。
 「ともかく、気をつけろよ。
  レイベルじゃあるまいし、死んだらそれまでなんだからな。
  …ん、そうか。レイベル、お前は別に死んでもいいんだよな?」
 草間はレイベルと流砂を見送ろうとして、気づいた。
 死んでも勝手に生き返るのが取り柄のレイベルなら、クミノと一緒に居れるかもしれない。
 「ケンカを売っとるのか?」
 レイベルが憮然とした表情をする。
 「いや、ササキビ・クミノってのが居てな…
 草間はレイベルに、クミノの事を説明した。
 「ほう、面白い障壁を持った娘だな。
  まあ、私なら平気だろう。
  クミノという娘を見かけたら、合流するとしよう。」
 そう言って、山へ向かうレイベルと流砂を、草間は見送るのだった。 

 2.『土食らい』退治。

 レイベルと流砂が草間興信所を出発した頃、ササキビ・クミノは八国山に到着する。
 「あ、ササキビさんですね?
  え、えーと、草間さんから話は聞いてます。」
 山の入り口で、中学生位の少年が彼女を出迎える。
 彼は八国山に住む化け猫で、名前は陸奥だと名乗った。
 「草間から話を聞いたのね。
  なら、私の側に長く居るとどうなるかも知ってるわね?」
 クミノは陸奥に言った。
 「はい…」
 陸奥は、すまさそうに頷くと、今の状況について軽く説明した。
 『土食らい』が最も多く現れる山の南側には、シュライン、霜月、悠也の三人が向かっている。
 湖がある西側には、海原みなも、一条朱鷺子の二人が行った。
 山の北に居る長老の所には、土竜ネズミの兄弟を始めとした、山の地中妖怪が集まっているという。
 「土竜ネズミの兄弟達は、無事なのね。
  なら、私は、食べる事しか考えないゴミを処理するだけでいいのね?」
 他の者が居ない東側で『土食らい』を探してみると、クミノは言った。
 「すみません、よろしくお願いします。」
 陸奥はもう一度おじぎをすると、去っていった。
 クミノは山の東部へと歩き始める。
 物理攻撃力だけ高くて、防御力が低いような奴。例えば、重火器を持った人間などが相手ならば、ゴミ掃除はたやすいんだけどね…
 HMGの弾を斬り飛ばし、戦車を粉砕するような化け物相手じゃね…
 山の東部の適当な所で、クミノは足を止める。
 獲物が現れるまで、森林浴を楽しむ事にした。
 周りを見渡せば、のどかな森林の風景。やはり、ここにゴミはいらないと思った。
 しばらく、何事もなく時間が過ぎる。
 …あれかしら?
 地面が波打ちながら近づいてくるのが見えた。
 やがて、体長2メートル程の化け物が、地面から姿を表した。
 何の芸も無く向かって来るようである。
 「障壁…消されてないわね。」
 何らかの能力で障壁そのものを封じられてしまうのは困るが、その心配は無いようだった。
 『土食らい』は、まっすぐにクミノに食らいつこうとする。
 「それじゃ、だめ。」
 クミノは他人事のように、『土食らい』を眺めた。
 彼女に飛びかかろうとする『土食らい』は、障壁に当たって進めなくなる。
 「ただの体当たりじゃ、大したものは呼べないわね。」
 つぶやくクミノの手には、大型の拳銃が握られていた。
 クミノは『土食らい』の頭に拳銃を向け、引き金を引く。
 『土食らい』の頭から血しぶきが上がった。
 同時に、
 『うぉーん』
 と、『土食らい』は泣き声を発する。
 「…くぅ!」
 クミノは頭を押さえてうずくまる。
 ただの泣き声ではない。
 精神的なダメージをもたらす妖力だと、クミノは思った。
 クミノの手にある拳銃の姿が薄れ、消えかかっている。
 彼女は左手で頭を押さえたまま、再度『土食らい』に銃を撃った。
 『うぉーん』
 再び、泣き声。
 …攻撃を受けると、それに応じて泣くわけね。
 少しだけ、この化け物は私に似ていると思いながら、クミノは頭の痛みに耐え切れずに意識を失う。
 しばらく時間が流れる。
 やっぱり、だめね…
 まどろみの中、クミノの意識は少しづつ戻ってくる。
 『ええーい!
  嫌な声で泣くな!
  やかましい!』
 遠くで、女性の声が聞こえたような気がした。
 『この声が、やっかいなんだよなぁ。
  俺も、この声にやられた。』
 男連れのようである。
 『泣けば済むなら、医者はいらぬぞ。』
 女性の声は続く。
 『おい、娘。
  いつまでも寝るな、しゃきっとしろ。』
 間近で聞こえる女性の声。
 そして、クミノは頬に痛みを感じた。
 「私を…殴ったの?」
 目を覚まし、クミノは目の前に居る女性を驚いた表情で見る。
 「しゃきっとしない奴には、こうして気合を入れるのが昔からの決まりなのだ、娘よ。」
 レイベル・ラブはクミノに言った。
 攻撃じゃないって、障壁が『判断』したんだろうか?
 クミノは殴られた頬をさすりながら考える。
 目が覚めた事は事実だった。
 「あのな…底の抜けたエンジンの無い車なんか、怪我人に運転させるなよ…」
 『土食らい』にとどめを刺しながら言ったのは流砂である。
 彼はレイベルが用意した、ぼろぼろの廃車(動力は人力)の運転席に座らされていた。
 良くなりかけていた体調は再び悪化したようである。
 「じゃ、俺は死ぬのはごめんだから行くぜ。
  世話になったな、レイベルさん。」
 流砂は、クミノとレイベルの方を交互に見た後、背を向けた。
 「まあ、普通の者は死んだら死ぬからな。
  命は大事にするがいい。」
 レイベルは流砂を見送った。
 「よし、クミノとやら、行くぞ。」
 クミノの方を振り返るレイベル。
 「私と一緒に居ると、死ぬわよ?」
 なんなんだろう、この人は?
 と、クミノはレイベルに目をやる。
 「特に問題はあるまい。」
 レイベルは平然として、歩き始める。
 5歩、歩いた所で、レイベルはおもむろに倒れた。
 クミノはレイベルの脈を取る。
 「死んでる…」
 ちょっと、障壁の効きが早過ぎる気もするが、死んだ事には違いないようだ。
 やりたい事がよくわからなかったが、一応、埋葬位はしてやろうと、穴を掘り始めるクミノ。
 ついでに、土食らいを引き寄せる餌になってもらおう…
 穴を掘り終えてレイベルを入れる。
 だが、
 「こら、死人を簡単に埋めてはいかんぞ。
  生き返らない事を最低1週間は確認しろ。」
 レイベルは土を払いながら立ちあがった。
 「レイベルさんて…なんなの?」
 確かに死んでいたのに…
 「私は死んでも、大概、勝手に生き返るのだ。
  それを買われて、お前と一緒に居るように草間に頼まれてな。」
 なおも土を払いながらレイベルは言う。
 「さすが…あの怪奇探偵の仲間ね。」
 クミノは思わず笑ってしまう。
 「クミノ…あなたに言われる筋合いは無いと思うがな。」
 レイベルも笑ってしまった。
 「でも、さっきから気になってたんだけど、レイベルさんが持ってきた大きな鉄板は何なの?」
 「ん?
  これは『土食らい』の奴が来た時に下から襲われないように地面に敷いてだな…」
 死んでも勝手に生き返るストリートドクターと、物理攻撃では死なない女子中学生の二人は、こうしてチームを組むのだった。
 「良い所で死なないでね。」
 「好きで死んでるわけではないぞ。」
 つぶやき合いながら、二人は『土食らい』を探して森をさまよう。
 
 3.それは土の中に

 ササキビ・クミノとレイベル・ラブの二人が、しばらく力づくで『土食らい』を退治して回った後の事だった。
 山の南側では、シュライン、霜月、悠也の三人が、特大の『土食らい』を相手に苦戦していた。
「…最後の最後で、貧乏クジを引いてしまいましたかな?」
 護堂・霜月は仲間達につぶやく。
 「見方によっては当たりクジとも言えますよ。」
 答えたのは斎・悠也だった。
 「当たりでも貧乏でも、どっちでもいいわよ…」
 とにかく目の前にいる特大の『土食らい』を何とかしましょうと、シュライン・エマは言った。
 3人は、悠也の張った結界に一時避難していた。
 「物理的な攻撃にはかなり強い結界だと思うんですが、あんまり持ちそうにもありませんね。」
 どうしたものかと、悠也は言う。
 流砂の和紙を借りていなかったら、結界もすでに壊れてそうだ。
 先程から、『土食らい』は結界に体当たりを繰り返す。
 何の細工も無いただの力押しなのだが、それで、結界が破れかけているのは事実だ。
 「もう少し回復すれば、多少はやりようも…」
 『土食らい』の叫び声を間近で聞いて、精神的に強いダメージを受けた霜月が苦しげにつぶやく。
 だが、『土食らい』は彼の回復を待ってはくれないようだった。
 あと2回も『土食らい』の体当たりを受けたら、結界は破られそうである。
 そんな現場に、東の方から、女性が2人やってきた。
 20台の女性と、まだ中学生位の少女である。
 レイベル・ラブとササキビ・クミノだった。
 「なんだ、やけに大きいではないか。」
 レイベルは、5メートル程の体長がある『土食らい』を眺めた。
 「物理的な攻撃である限り…強さは問題では無いです。」
 ササキビ・クミノはそう言って駆け出し、結界と『土食らい』の間に割って入る。
 『土食らい』がクミノに衝突する寸前、それは彼女を取り巻く障壁に遮られ、止まった。
 「大丈夫。物理攻撃は私の体には通りません…
  私の周りの『障壁』は、そういうモノ。」
 クミノは、顔色一つ変えない。
 「それは…便利な事です。」
 つぶやいたのは、霜月だった。
 「そして、受けた攻撃に応じて現代兵器を召還します。」
 小さく言うクミノの手には、いつのまにか大型の機関銃が握られていた。
 「そんな大きい銃なんか、使えるの…」
 呆れているのはシュラインだった。
 「やれるだけ、やってみる…
 でも、多分だめだと思う。
 後は…頼みますね。」
 言いながら、クミノは機関銃のトリガーを引く。反動で、彼女は背中にある木に叩きつけられる。
 「くぅ…」
 彼女の口から苦しそうな声があがる。
 別に物理攻撃ではないから、こういう時には障壁は彼女の身を守ってはくれない。
 それでも、クミノが握り締める機関銃から放たれる無数の弾丸は『土食らい』を襲う。
 血しぶきが上がり、そして、
 『うぉおおおおおーん!』
 今までで1番大きい泣き声が、響き渡った。
 皆、顔をしかめる。
 クミノの障壁は、物理攻撃以外の攻撃には無力ではないが、無敵でも無かった。
 「やっぱり…だめね…」
 クミノは泣き声に耐えられず、その場に倒れこむ。
 息はしているが、意識は無い。
 手に持った機関銃も同時に消滅していた。
 「充分です。後は任されましょう。」
 「どなたか存ぜぬが、ご苦労でした。」
 言いながら悠也と霜月が結界から飛び出し、風刃とカマイタチで『土食らい』を牽制する。
 その隙にシュラインがクミノを助けて結界の中に回収しようとしたが、
 「死にたくなければ、やめた方が良いぞ。」
 結界に近づいてきたストリートドクター、レイベル・ラブが言った。
 「どういう意味よ?」
 レイベルのぶっきらぼうな言い方に少し腹を立てながら、シュラインが言った。
 「その娘の『障壁』は、側にいる親しい者を問答無用で殺す作用があるんだよ。
  だから、死にたくなかったら下がっておれと言っている。」
 レイベルは言いながら、ササキビを担ぎ上げる。
 「そ、そうなの…」
 クミノは心配だが、命も惜しい。シュラインはとまどう。
 「だから、私に任せておけ。
 私は死んでも勝手に生き返るからな。」
 レイベルは死んでもいつのまにか生き返る事が特技である。
 「この娘を安全な所に置いたら、すぐに助けに来てやる。
 ただし、私がこの娘の障壁に殺されなかったらな。」
 そう言って、レイベルはササキビをかかえると走り出した。
 「ごめん、頼むわね!」
 確かに、レイベルでもないとササキビと一緒には居れそうになかった。
 霜月と悠也は、なおも『土食らい』に苦戦している。
 シュラインは何とか二人をサポートしようと、様子を見る。
 レイベルは100メートル程、クミノを抱えて走った。
 ここまで来れば、大丈夫だろう。
 クミノを置いてシュライン達の所に帰ろうとしたが、急に体に力が入らなくなった。
 「ふむ…
 奴らの手助けは出来そうに無いか。
 私が生き返るまでには、結果も出ているだろうしな。
 それにしても、今日はよく死ぬ日だ…」
 ぶつぶつと言いながら、レイベルは目を閉じる。
 彼女の呼吸と心臓は、停止していた…
 その後、特大の『土食らい』は、レイベル達のさらに後にかけつけた、海原みなもと一条朱鷺子の助力もあって退治された。
 約30分後、全てが終わった後で、クミノは目を覚ます。
 レイベルさんが、ここまで運んでくれたのね。
 彼女が傍らを見ると、レイベルはまだ寝ていた。
 戦いの音は、聞こえない。
 …もう、終わったのね。
 私がやれる事は、やったわね…
 クミノは地面に座ったまま、レイベルが起きるのを待った。
 やがて、レイベルが目を覚ます。
 「…むう、どうやら寝すぎてしまったな。」
 レイベルがつぶやく。
 「結果は知らないけど…もう、終わってるはずね。」
 クミノが言う。
 「まあ、クミノよ。あなたは良くやった。あまり寂しそうな顔をするな。」
 レイベルがクミノの肩を叩いた。
 「そんな顔…してない。」
 言いながら、クミノが立ちあがる。
 終わったのなら、帰るまでだ。
 「まあ、元気でな。
  楽しかったぞ。」
 レイベルはクミノに手を振った。
 「私もです。」
 そう言って、クミノは来た時と同様、一人去っていくのだった。
 レイベルは彼女を見送った後、シュライン達と合流して、山を離れた。
 その後、『土食らい』が再び現れたという報告は、未だに草間の所には来ていない。

 (完)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
 【1069/護堂・霜月/男/999/真言宗僧侶】
 【1027/一条・朱鷺子/女/27/OL(食品関係・業務課所属)】
 【1252/海原・みなも/女/13/中学生】
 【0164/斎・悠也/男/21/大学生・バイトでホスト】
 【0606/レイベル・ラブ/女/395/ストリートドクター】
 【1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】

 (PC名は参加順です。)
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■         ライター通信          ■
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 お買い上げありがとうございます、MTSです。
 今回の話は、3グループに別れて展開する話になりました。
 同じグループのノベルは、大体同じ内容になっています。
 ところで、クミノの障壁については解釈が色々になってしまってるそうですが、
 僕も、僕なりに解釈してみました。
 気に入って頂けたら嬉しいのですが…
 また、後半の戦闘に関して、クミノが倒れてからの経過は、
 クミノが全然出てこない事もあるので、意図的にカットしておきました。
 他の方のノベルには詳しく書いてありますので、
 気になるようでしたらご覧下さい。
 ともかく、おつかれさまでした。