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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


東京怪談・ゴーストネットOFF「玩ぶカード」

■オープニング■
 きゃいきゃいと楽しげに囀っている同級生の声に雫は耳を欹てた。
 断片的に聞こえてくるのは、神、大天使、悪魔、死神――実に雫の興味を引く単語ばかりであったから。
 ついに辛抱できなくなって、雫は5人ほどのその集団に問い掛けた。
「ね、ね? 何の話なの?」
「カードの話なんだよー」
 そう言って一人が示したものは一枚のカード。真っ白な翼を持つ金髪の天使がデフォルメもなく妙に写実的に描かれている。よくあるお菓子などのおまけカードのようだ。
「うわ、綺麗!」
「最近流行ってるんだ。運命のカードって、皆呼んでるよ」
「運命?」
「そう、ホラここのところに色がついてるでしょ?」
 少女が指差したのはカードの右端。なるほど確かにそこには絵が描かれておらず小指の先ほどの空白部分に色だけが乗せられている。
「この色が、白に近いほど幸運を呼ぶんだって」
「んー、黒に近いと?」
「不運を呼ぶって、言われてるけど?」
「ふうん、面白い☆」

 ちょうどその日を境に、ゴーストネットの掲示板はそのカードの話題が多く書き込まれるようになった。雫の友人達もどんどんそれにのめりこんで行く。
 そして、

【161】運命 投稿者:さやか
大悪魔が、でました。
私ってば人生終わり? ちゃは(><;)☆

 この書き込みを最後に、『さやか』と言う投稿者は訪れなくなった。
 同種の事が、幾度も起った。
 悪戯だろうか? それとも――
 雫が不安を感じ始めた頃、友人の一人が蒼白の顔で雫に元へと遣ってきた。
「――死神が、でたの」
 雫は目を見開いた。

■本編■
 今のところ護衛の手は足りている。雫からそう連絡を貰った志堂・霞(しどう・かすみ)は、ならば状況調査とばかりに年中行事な行動をとっていた。
「運命のカード? そりゃ知ってるわよ」
 毎度の如く訪ねてきた霞に佐藤麻衣は固焼き煎餅を咥えたままくぐもった声で事も無げにそう答えた。
「知っているのか?」
「知ってるもなにも流行ってるもの」
 不安そうに霞は麻衣を窺った。まさか麻衣までそんなカードに振り回されているのではないかと思ったのだ。
「持って、いるのかまさか?」
「まさか」
 珍しく質問が真っ当だった為だろう。麻衣の霞に対する態度はいつもより二割方穏やかだ。まあそればかりでもなくなってきていることを知っているのは兄である和明のみだが、その和明は現在社会人らしく労働に勤しんでいる。
「流行ってるけど興味ない。それに直ぐ廃れると思うわよ。なんか小学生が道にお菓子捨ててくって問題になってるみたいだし」
 こうした『おまけ』の流行ではままあることである。大量に買い求めて目的のおまけを取ったはいいが、その本体である所の駄菓子の始末に困って道端に捨てていってしまう。大抵は100円もしないような安価な菓子で、だから子供でも大量に買えてしまうところが始末に悪いのだ。たった@@円だから、と、つい買って、食べきれなくなった菓子は捨てる、と言うわけである。
 だがそう言った暢気な問題を霞は理解しない。理解したのはもっと別の事だった。いた疑問に思った、が正解だ。
「欲しいとは思わないのか?」
「全然」
 麻衣の性格ならそれが当然である。運だの占いだの、興味がなくもないがそんなものに振り回される気は更々ないのだ。だが、霞は納得しなかった。
「……麻衣は、『乙女』ではないのか?」
「はい?」
 占いや運勢などは乙女の夢。それに興味が無いイコール……考えたくない、考えたくも無いが嫌な予感が霞を支配した。
 人間突拍子も無い考えほど信じてしまって墓穴を掘るものである。
 震える声で、霞は麻衣に問い掛けた。
「まさか……麻衣……」
「なんか予想つくけど……言って見たら?」
 既に麻衣はジト目になっている。霞はごくりと生唾を飲み込み、意を決して問うた。
「男、なのか?」
「予想してたけどムカツクっ!」
 麻衣の鉄拳が霞の顎にクリーンヒットした。

「うぉのれ許せんっ!」
 男は雄叫びを上げた。小柄な身体つきに、銀の髪青い瞳。見た目は大変可愛らしいがその口から飛び出る罵声は、彼を惚れ惚れと眺めていた団地の奥様方を失望させるに十分事足りた。
 緋波・奏(ひなみ・かなで)は、狙う敵の動向を探っていた。探っていたのだがしかし、その動向と言うのが問題だった。意識を飛ばし、遠距離から気配をたって佐藤家を覗いていた訳だ。今現在の。
 なんというかこう……やってろと言いたくなるような四畳半脱線ラブコメ真っ最中の佐藤家居間である。
 己を瀕死の目にあわせプライドをずたずたに引き裂いてくれた相手のこの不幸でありながら実は幸せなんじゃないのかコラ的状況は、奏のプライドを更に刺激した。独り者の悲哀もあるのかもしれないがその辺りはそれこそプライドにかけて認めない。案外可愛い奴かもしれない。
 第一呪いはどうしたというのだ呪いは。
 その呪いの対象は花は蕾の中学生。四畳半脱線ラブコメの相手も花も恥らう女子高生である。(性格はさておき)
「俺を差し置いて……小娘に現を抜かすだとぉ!?」
 アナタ霞の恋人なんですか? というか麻衣はアナタよか幾つか年上なんですが?
「許せん! その呪いも小娘も木っ端微塵に粉砕し、その生首を奴に投げ渡してくれる!」
 なにかかなり間違った決意を胸に、奏は更に監視を続けることとした。

 案の定、スナック菓子のパッケージには連絡先の電話番号は記載されていなかった。連絡先の記載されていない菓子等市場には流れない。ただし記載されている情報は菓子によって異なる。工場の住所に本社住所、電話番号まで記載されている場合もあれば、製造元の住所としてそっけない記載がされているだけのものもある。なんにせよ連絡先の記載が無い物は販売は出来ない。食品衛生法に基づく審査に通らないからだ。
 だが、
「こう来たか」
 シュライン・エマ(しゅらいん・えま)は苦虫を噛み潰したような顔で目の前のビルを睨んだ。@@区×△町%丁目……その住所に確かにビルはある、しかし三階と記されているにもかかわらずその三階の窓ガラスにはでかでかと『テナント募集中』の幕が出ているのだ。
「国家基準も随分といい加減なのね」
「アテにする方がそもそも間違いですね」
 横合いから掛かった声に、シュラインは反射的に振り返った。そこにいたのはこれ見よがしに煙草を咥えた、眼鏡をかけた背の高い男だった。胡散臭げなシュラインの視線に気付いていないはずもなかろうに、男はゆったりとした動作で煙草を投げ捨て、続けた。まるで気負う様子が無い。
「食料品自体に問題が無く、会社登記がされている。そしてここが肝心ですが電話は繋がる。電話などと言うものは、書類に記載されている住所に繋がっているとは限らないものですが、その番号にかけて誰がが出れば普通疑いは持たれません。いくら国家が指定した基準でも判断をするのは人間です。ごまかしに気付けという方が難しい」
 皮肉げな笑みを浮かべ男はシュラインの顔を覗き込んできた。シュライン自身も身長はあるほうだがこの男は更に高い。どこか鋭い刃を思わせる視線を上から注がれ、シュラインは我知らず一歩下がった。
「唐突に登場して唐突に語り出さないで欲しいわね。誰、あんた?」
「ご同輩ですよ」
 短く答え、男はシュラインに名刺を差し出した。名刺を覗き込んだシュラインは別の意味で目を丸くし、名刺と男とを見比べた。
「――冴木、継人? 冴木?」
「何か?」
 冴木・継人(さえき・つぐと)は不思議そうにシュラインを見下ろした。シュラインは慌てて継人から視線を外した。
「いや別に、聞き覚えのある苗字だっただけの話よ」
「ほう?」
 面白そうに目を見張った継人は、無造作に煙草を咥え、そしてやはり無造作に火を付けた。
 その、指先で。
「こういう特技に見覚えは?」
「成る程、お身内の方? 私はシュライン・エマよ」
 名乗ってもう一度継人を見直す。確かにどこか印象が似通っている。見覚えの方と異なるのは、性別と、濃い退廃的な雰囲気だ。近い身内、年齢からするに兄だろう。
 継人は肩を竦めて煙草を吸い込んだ。
「護衛の方は人手が足りているようでしたのでね。出向いてきた訳ですが……まあ出向くまでも無かった」
「そうね」
 答えて、シュラインは『テナント募集』の幕の張られた窓を見上げた。
「さっきの話だけど、確認したの?」
「小売りからの線は辿ってみましたよ。そのスナック菓子は東京限定販売。製造している工場は不明ですが、卸される前は貸し倉庫に保管されているようです」
「倉庫は? 当たってみたの?」
「カタコトでしたがね」
 意味ありげな視線を受けて、シュラインは眉を顰めた。
 つまり倉庫に居たのは外国人労働者。恐らくは観光ビザで入国した不法就労者の類いだという事だ。商品の補充さえなされていれば、注文された数をトラックに積み込むだけでいいのだから確かにそれで十分手は足りる。何より製造者――この際は犯人でいいかもしれない、について詮索される恐れがない。
「全く、随分と小賢しい」
 どこか呆れを含んだ継人の声に、シュラインは沈黙した。
 この手触り。小賢しくそして不愉快なこの感触。どこかで、覚えがある気がする。もしそうであるとするならば、こうして地道な調査をしたところで、敵の尻尾さえ捕まえられないだろう。
「……戻るわよ」
「早い決断ですね?」
「嫌な予感がするの」
 さっさと身を翻したシュラインの後を、一拍遅れて継人は追った。
 聞きたい事はあったが(それはもう本件とは全く関係のないところでも山ほど)今聞いたところで答えは得られないだろう。その程度の事は把握できた。

 一時間も瞑想していただろうか、カードを注意深くテーブルの上に置き、護堂・霜月(ごどう・そうげつ)は大きく息を吐き出した。
「何もない」
「はい?」
 パソコンを弄っていた海原・みなも(うなばら・みなも)は驚いたようにモニターから顔を上げた。
「だから何も無いと言っておる。霊的な匂いはかけらもないのじゃ」
「そんな馬鹿な……」
 みなもは、そして雫もまた驚いて立ち上がった。
 現在、ゴーストネットにはかなりの数の書き込みが寄せられていた。友人が入院した、事故にあった、心筋梗塞で倒れ明日をも知れない。きちんとしたプロバイダからのメールアドレスを記載した書き込みも多く、確認のメールに何通かの返事も帰ってきている。
 少なくとも何も無いということは無いのだ。そのどれもに共通項が『なにか不吉な暗示のカード引いた』と言う共通項があるのである。これを偶然と考えるには、彼らは霊的な現象に晒され過ぎている。
「ないん……です、か?」
 一人救われたような顔で霜月を見たのは件の少女である。
「じゃあ、私……死なないの?」
「このようなかぁど一枚で死んでなるものか」
 霜月は力強く頷いた。しかしみなもは小首を傾げずにはいられない。
 寄せられた情報、その半分が勘違いや悪戯であるにしても、全部がそうだとはとても思えない。なにかが無ければこんな騒ぎにはならないはずだ。
 なにかが、そこになにかが必ずある。
 原因が無ければ結果は導き出されない。
「でも……」
 みなもが言いかけたその瞬間、それは起った。

 カードが光を、暗色の光を放った。
 暗雲のように立ち込めた光はそのまま、実体の無い形をとり始める。雲を糊塗するように、それは変化した。
「きゃああああああっ!!!!」
 少女が絶叫する。雫は声も無く硬直した。
 カードに描かれていた大鎌を持った死神。光はそれを形作ったのだ。
 度肝を抜かれたのはみなもも霜月も同じである。しかし霜月は即座に動揺から立ち直った。
「去ねい!」
 放たれた小柄が真っ直ぐに死神を射抜く。
 しかしそれは光だった。ただ型を模倣したばかりの光に、物理的な攻撃は虚しく突き抜けただけだった。
「いや……いやあああああああっ!!!!!」
 頭を抱え、絶叫した少女は脱兎の如く事務所から駆け出す。止める暇も無い。
「待って!」
 雫とみなもの声が少女を追ったが、その時にはもう少女はドアの外へと踊り出ていた。
 そして、
「え!」
 みなもは小さく声を上げた。その声に霜月もまた目を見張る。
「……なんと……」
 死神の体が撓んでいる。そもそも反対側を透かすような薄い光の塊だったそれは見る間に収縮する。黒く、染みのように黒く纏まった光は、次の瞬間にはじけて、消えた。

 はっと霞は面を上げた。麻衣が怪訝そうに覗き込んでくる。雫から話は聞いて、草間興信所の気配を瞑目して探っていた。距離はあっても少女の悲鳴は確かに霞の鼓膜に届いたのである。
「……」
 無言でまたしても光刃を振り回す霞に、麻衣はほとほと疲れたような目を向けた。
 まあこうして自分をわざわざ訪ねてきた位だ、なにかあったのだということぐらいは理解できる。
 そう、わざわざ。理由があって自分を訪ねてきた。
 理由が、なければ?
 その問いかけは少しだけ麻衣の中を抉った。だが麻衣はそれを故意に無視して、空間へと消えて行こうとする霞に向かって手を振った。
「いってらっしゃい」
 その声に、霞は少しだけ微笑んだ。ただ、嬉しかったのだ。

 転移した先は草間興信所のまん前だった。ビルから駆け出してきた少女に縋りつかれ、霞は慌ててその身体を引き剥がして様子を窺った。
「どうした?」
「し、死神、死神が……」
 ただそれを繰り返すばかりで一顧も要領を得ない。
 流石にじれて声を荒げようとした時、新たなる転移が空間を割った。
「志堂!」
 声と共に放たれた不可視の手がアスファルトを抉る。霞は少女を抱いたまま飛び退った。少女はといえば行き成りひび割れてくれた道路に、完全に恐慌状態に陥って意識を失ってしまっている。
「……緋波」
「決着、つけさせて貰うぜ?」
 にまりと奏は笑う。霞は眉を顰めつつも頷いた。そっと少女を路上に下ろすと、霞は即座に空間を断った。足手まといを抱えては戦えない。どこか足りないが、腕は足りないどころの相手ではないのだ。
 そして足りない奏はまんまとその思惑に乗った。
「逃げるか貴様!」
 路上に少女を残し、二人のはた迷惑な未来よりの来訪者は姿を消した。

 呆然と。
 部屋は他にどうする事も出来ない人間で満たされていた。何がおきたのか分からない。死神は消え、カードはただのカードに戻った。悪夢でも見た心境だった。
「あ!」
 真っ先に正気付いたのは雫だった。慌てて立ち上がりドアを振り返る。そう、すっかりと失念していたが、彼女の級友は逃げ出したままなのだ。ちょうどそのドアからはシュラインが継人と連れ立って戻って来たところだった。
「あ…」
 雫が小さく声を上げる。継人の腕には気を失った級友が抱かれている。――少し正しくない、抱かれていると言うよりは小脇に荷物宜しく抱えられているのだ。冴木継人というこの男、妹以外の女を女とも思っていないところがある。皆は預かり知らぬ事ではあるが。
「落し物ですよ」
 うら若き乙女を捕まえてこの言い草である。つまり霞が落としていった物を拾い上げた訳だ。
「他に言いようはないのあんた?」
 シュラインが呆れたように肩を竦める。それでやっと、部屋に現実が帰ってきた。

「でも結局なんだったんでしょう?」
 シュラインと継人に経過を話したみなもはうーんと唸ってしまった。霜月は眉間に皺を寄せ、所見だがと口を開いた。
「ぷらせぼ効果、というものではないかの?」
「プラセボ効果? 薬のですか?」
 語源はラテン語の「I shall please」(私は喜ばせるでしょう)。効き目のない薬によって、症状がおさまってしまう効果のことを言う。逆に悪化する事もありうるが要するに思い込みときっかけによって在り得ない現象がおきる事をさす言葉だ。
「でも、私たちも死神を見ましたよ?」
 みなもの声に雫が大きく頷く。
「それに思い込みだけなら、このカードだけじゃなくもっと色んなもので似たようなことが起きてていいんじゃないかな?」
 霜月は強迫観念が死神を現出させたのだと言いたいのだろうが、それだけでは説明が付かない。首を捻る一同に、霜月は件のカードを取り上げて見せた。
「紙自体に霊的な気配は無いが……触媒自体に力は要らぬものよ。式神符とてただ持っているだけでは何の力も無いただの紙じゃ」
「触媒、ね」
 シュラインは意味ありげに呟いた。
「成る程。今回の件には既に実例があった。死神を引けばなにかが起る、そう彼女は強く思い込んでいた、それが引鉄になった、と?」
 継人もまた納得したように頷いた。わからないのは雫とみなもである。不思議そうに大人三人の顔を窺った。
「つまりね」
 そう言ってシュラインはソファーに寝かされている彼女を示した。
「その子の場合は、既に噂が出来上がって、その子は怖くて仕方が無かったのよ」
「かぁどが世に出て、噂となって随分経っておるようじゃしのう」
「今回ばかりは彼女が脅迫によってこの紙切れ本来の力を呼んでしまった、今回は、ですがね」
 みなもはまだ分からない。皆が強調する『今回』と言う言葉が強く意識に引っかかった。
「今回、って?」
 継人がニヤリと笑う。
「このカードが引き起こした事件についてはあなたも調査されたんでしょう? カードをまず流行らせる。そして死神や悪魔、悪い事の暗示と思しきものを引いた相手を、意図的に害していく」
「噂は当然『真実』として語られ出すわ。悪い事が起きるに違いない、いいや絶対に起きる、誰もがそう思い出すわけ」
「その思いが、かぁどを真実本物にしていくわけじゃの」
 全く小賢しい。
 霜月は憎憎しげに吐き捨てた。
 みなもは頭に血が昇るのを感じた。なんと言えばいいのだろうこの感情を。単なる殺人や強盗などよりも強く。どうしようもなく強く嫌悪を感じる。
「そんなのって!」
「まあ、工場は押えましたし、これ以上カードが撒かれる事はありませんよ」
 そう言って継人は暢気に紅茶を啜った。しかしその瞳にも鋭い物が混じる。人でなしろくでなしを地で行く継人だが、その継人にしてもこの小賢しさは癇に障るのだ。
「一件落着、ともいえぬのう」
 霜月の声に、シュラインは深く頷いた。

「おや?」
 彼は小さく呟いた。メールの着信ランプが点滅している。慣れた手つきでそのメールを開くと、少し面白くない報告が、そして同時に楽しい報告がなされている。
 行った不正行為は調べれば直ぐにわかる事だ。そこから自分へはどうしても糸が繋がらないように工作してある。
 だからこそ暢気に呟いても居られる。
 だが、
「……ふむ。潮時ですかね」
 言って、彼は手元のパソコンに残るデータを打ち込んだ。CDにそのデータを保存し、履歴どころかハードディスクそのものをフォーマットする。
 足跡は残さない、その感触以外は。
「運命は所詮自分で選ぶものなんですよ」
 そして彼は残りの後始末をするべく、ゆっくりとした足取りで部屋を立ち去った。

 廃墟。嘗て麻衣を人質に取られたいわく付きの場所だが戦うにここより適した場所は無い。
 飛来する手の攻撃をかわしつつ、霞は反撃の機会をじりじりと狙っていた。
 奏は得意絶頂で手を振るい続ける。
「逃げるばかりか! 所詮は乙女心の一つも理解できぬ輩だな!」
 その言葉は嘗てと同じく霞を抉ったが、しかし嘗てと同じだけのダメージを与える事は適わなかった。
「学んでいる最中だ!」
 叫び、霞は奏に向かって跳躍した。光刃が薄く奏の衣服を掠める。
 力任せの跳躍である、避けるに死苦はない筈のそれを掠る程度にでも奏が受けたのは、先刻の四畳半脱線ラブコメ的光景が頭を掠めたからだ。
「う…」
 奏は低く唸った。
 負けてはいない。互角に勝負はしているが、なんかこう途方も無く負けた気がする。勝負とは別のところで決定的に。
「あ、預けておいてやる!」
 言い捨て、奏は空間を渡った。
 深追いする気はそもそも霞には無い。ただ、不可解だった。
「……なんだ?」
 乙女心は無論の事、少年心理も学ばねばならない霞だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1334 / 冴木・継人 / 男 / 25 / 退魔師】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0935 / 志堂・霞 / 男 / 19 / 時空跳躍者】
【1325 / 緋波・奏 / 男 / 16 / 時空跳躍者への刺客】
【1069 / 護堂・霜月 / 男 / 999 / 真言宗僧侶】
【1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生】

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■         ライター通信          ■
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 始めまして、里子です。今回は参加ありがとうございます。

 なんとなく嫌な引きが入っております。
 テーマも少し嫌な感じです。私の小さい頃にもありましたけど、おまけ付きのお菓子ってのはどーも。流行ると持ってないのが何か悔しいし、だけどそんなに食べたい訳でもない物買うのも勿体無いしで。
 道に捨てられてるって言うのは流行る都度問題になりますね。ああいうの。

 今回はありがとうございました。また機械がありましたら、宜しくお願いいたします。