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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


現鏡
<オープニング>

「鏡がね、あるの」

だれかがぼそりと口を開いた。

「その鏡はね……色々なものを綺麗に映し出すんだって。
でも……」

そこで少女は口をつぐむ。
どう言っていいのか戸惑いながら。
が、ふっと思い直したように口を開き言葉を続ける。

「でも、ね。自分の好きな人だけは凄く醜く映すんだって。
そして、その人の顔はその通りに醜くなってしまう……誰か、お願い。
…この鏡を壊して」

好きな人を醜く映し出す鏡は、噂では東京のとある教会に預けられてると言う。
どうか、この鏡を少女の言うように壊して欲しい。


<ゴーストネットOFF>
昼下がり。
そこで少女―――雫から鏡の話を聞いた面々は少しばかり表情を変えた。

「…なんですって? つまりそれは私の大好きな海が汚れる可能性も
あると言う事ですか? 許せません! いえ、断じて許しません!!」

少女の呟きを聞いて立ち上がったのは海原・みなも。
豊かな青い髪をふるふると震わせ青い瞳には強い意思がはっきりと浮かび上がった。
誰だって、大好きなもの愛しい者には何時だって美しくあって欲しいと思うものなのだ。
なのに何故、鏡がそのような振る舞いをするのか。

そして次に立ち上がったのは。
「…醜くなる、ですか…大事な方が醜くなってしまっても構わない…と言うようには
言えませんし僕もお手伝いいたしましょう」
静かな雰囲気を漂わせる斎・悠也。
綺麗なものがより綺麗に映る鏡なら大歓迎だが逆ならばあまりに迷惑である。
だが、少々疑問も残らないでもなかったので彼は「手伝う」と言う事にした。
―――何故、鏡は割られることなく今日まであるのか?
金色の瞳が猫の瞳のように深く深くなっていく。

「…俺にはわからないが…破壊なら出来そうだ」
ぽそりと一人の青年が呟く。
感情は何処かへ忘れたような無表情さだが今の話で思うことがあったらしい。
「鳴神・時雨」と名乗ると彼もみなもと同じように立ち上がった。
「アンビバレンツ、だな。…だが面白い、俺も参加しよう」
最後に参加の意思を示したのは百目鬼・一。
どう自分が動くかを冷静に考えながら彼は銃へ弾をこめた。

「じゃあ…行かれるんですか?」
「当然です! あ、教会の場所は解りますか?」
今すぐにでも飛び出したくなる気持ちを抑えてみなもは雫へと問う。
が、雫はふるふると首を振るばかり。
「ごめん、場所はとある場所としか伝わってないの……鏡については
こんなに入ってきているのにね」
「では、まず調査ですね…個々に行った方が情報も大量に集まるでしょうし
この面々が集まるのは噂の出所である教会と言う事で如何でしょうか?」
悠也がとりあえずの案を皆に示す。
「そうだな、情報は多いほうがいい。もしかしたら違う側面での情報も
手に入るかもしれないしな」
一が悠也の案に対し同意を示すと時雨も同じように強く頷いた。
「賛成だ。では教会で落ち合うとしよう」
雫は返事がないみなもへ瞳を合わせる。
「海原さんもそれで良いですか?」
「はいっ、頑張って探してきます!」
「では、解散。……皆、気をつけてね?」
皆の言葉はそれぞれなかったが、それぞれ強く頷くとこの場所を後にした。
鏡を壊そうとせんがため。

<前奏・鏡>

鏡は全てを映し出す。
そう、全てを。
美しいものは美しく、醜いものは醜くあるがままをあるがままに。

だが。
ここに一つの鏡は意思を持った。
『何故、あるがままに映さなくてはならない?』

そうして。
鏡は歪んだ…けれども姿だけは美しい鏡へと変化した。
愛するものを映さずにはいられない。
本当に―――美しい、鏡に。


<事前調査・蝶舞>

ビル屋上。
まだ陽は落ちておらず柔らかな風が悠也を包んだ。

「さて…では調査を開始するとしましょうか…我が息は我が息吹にあらず……―――の息なり」

そう唱えると悠也は何枚かの和紙を蝶の形に切り抜いたものを取り出すと息を吹き込む。
するとそれは命を持った蝶の如く優美に舞い始めた。
何体もの蝶が主よりの命を待ち、問うように旋回を繰り返す。

「…教会と鏡を探してください。…何、気をたどれば難しくないはずですよ」

にっこり笑って蝶に命を告げると了解したかのように蝶は一斉に飛び立った。
それを確認すると悠也は別方向へと歩き出す。
作らなければならないものと用意せねばならないものが、この依頼にはあるはずだ。
それらを作り万全を期せねば失敗する事もある。

―――そう、鏡は今も動いているのかもしれないのだから。

何処とも知れぬ、解らない場所で。


<事前調査・ぐるぐる?>

「草間さんっ」
みなもが「お願い」と言わんばかりに瞳を潤ませる。
草間興信所。
色々なものを調査する会社であり、みなもも此処でバイトをしているのだが……
今回ばかりは「お願い」も無力なようで草間は頭を抱えた。
「…だからだな、俺は依頼があって報酬をもらえて初めて皆に調査を
頼むんであってだな……」
頭を抱えたまま草間はみなもへ聞かれたことに丁寧に返す。
と、言うよりも……この東京にどれだけの数の教会があると思っているのだ。
それをしらみつぶしに調査するとしても使う人員がただ事ではないし
本当に大仕事になろうと言うもので、頼まれたからといって安易に引き受けられるものでもない。
ふっと視線を上げると可愛らしいまでにふくれたみなもの顔がみえた。
「それは解ってますけど……むぅ……。いいです、ネットで調べてみます……」
「ああ、そうした方が絶対にいい……」
「…そのかわり、今度は絶対に手伝ってくださいねっ?」
「…………今度が、あればな」
ぼそり。
草間の、妙に疲れきった言葉が室内にやけによく響いた。


<調査・教会にて、ふたり>

「……此処か?」
時雨が教会の扉に手をかけようとするのを一が制した。
まずはどうして、この教会を選んだのか言わねばならないと思ったからだ。
都内某所にある、この教会には何故か奇妙な噂ばかりが付き纏うからなのだが……。
「さて……とりあえず、奇妙な噂のある教会から探せば良いだろう。
ここは、つい先日夜中に妙な声が響いた…という近所からの苦情があったが
教会では一切その様な事は無かったと黙秘を守っている所でな…怪しいと踏んだのだが」
「……しかし、人と言うのは見てくれだけで気持ちが変わるのか?」
「…鳴神は、もし自分の好きな人が醜くなったらどうする? 嫌じゃないか?」
一の問いかけに時雨は首を心持ち、傾げた。
どうも、その様な気持ちは理解できず、また何故ああも怒るのか理解できない部分はあるのだが…。
「………………解らない。だが皆が困っているのは理解できた。
だからこその参加で、こうして一緒に行動する事になろうとも思わなかった」
「それは俺も同じさ。誰かと行動して探す、なんて滅多に無いんでね」
じゃあ、行くとするかい?
一は、軽く時雨へ笑いかけると教会の扉に手をかけた。
まだ陽は明るいはずなのに、鬱蒼とした暗さが何故か二人を包んでいた。


<中間奏・鏡>

鏡は思う。
言葉など、やはり大した力など持たない事を。
現にどうだ。
こうも、人の見てくれを醜くするだけで相手は泣き叫び、時には醜くなった
自分の相手を蔑み、汚物を見るような瞳で見る。

決して、心など見てくれに敵うものではない。

美しい姿。
美しくあるもの。

今はもう、ありえない。
美しかったのは一人だけだ。

言葉をもたず、いつも穏やかな笑みを湛えていた―――ああ、あれは何時の事だったか。
遠い昔のようで、ついこの間の様な。

『イイヤ、モウナニモカンガエマイ』

覚えていればありもしない何かが痛む。
鏡は再び、醜く出来るものは無いかと周りへ意識を集中した。


<ネットで検索?>

「噂話、噂話…っと」

ネットカフェでみなもは噂話、それも鏡で教会にまつわる話を検索してみた。
それほど大した量も無いがかといって少なくも無い。
みなもは、むむ…と唸るとそれぞれを事細かに見始めた。
が。
「……どうして教会が解らないわけ?」
鏡の噂は多々ある。
鏡についてはかなりの情報量を拾えたといっても過言ではない。
なのに何故か教会の場所を特定できる噂が無いのだ。

(あ、でも……もしかしたら)

再び、みなもは情報を読み出す。
もしかしたら、ある地域に固まってはいないだろうか?
そこから教会が何軒、その地域にあるか調べて動いてみれば……。

「よし、解ったっ!!」
心の中で強く拳を握り締めながら、みなもはその地域へ足を向ける事にした。
該当する教会は二軒。
とりあえず、最初に表示された一軒へ行く事にして、みなもは席を立つ。
夕暮れが―――すぐ、そこまで来ようとしていた。


<符>

(…準備としては、これで大丈夫でしょうかね?)

先ほどのビル屋上から離れた、ある室内にて悠也は何かを眺めていた。
鏡。
果たして鏡は燃やせるのか?
『鏡を壊して欲しいの』
この言葉になんらかの含みが無かったろうか?
第一、壊せるのなら壊していたはずだ。
だからこそ、彼は符を作った。
この世ならざる炎を生み出す符を。

多分これでダメージは与えられるはず。
だが決定的、でもない。

(それでも、しないよりはマシ。もし全員でやって壊す事が不可能ならば
その時は……)

ざわざわと風も無いはずの室内に風が吹く。
まるで、この室内自体がどこかの地の底と繋がっているかのごとく影すら落として。
悠也の黒髪が、宙に舞った。


<教会>

辺りは、もうすっかり薄暗くなっていた。
夕闇さえも消え、真の意味での夜がやってくる。

「……では、こちらに問題の鏡はあるわけですね?」

一がゆっくりと言葉を噛み締めるように問う。
目の前の人物は、小さく頷くととある部屋を示した。

「こちらに、ございます。ですが扉を開けお見せする事は出来ません。
大丈夫、だといわれようとも…です」
「何故だ?」
開けない、という人物へ時雨がストレートに問う。
あるのに、開けないとは何故だろう?
このままでは、皆困るのに。
「……噂をご存知でしょう? 醜くさせる鏡だと言う事も。
これ以上の被害が出ないためにも扉は閉じるしかないのです」
「閉じたとしても被害がなくなるわけではないだろう?」
「…………」
きゅ、と強く目の前の人物――修道服を着ているが声の感じからして
まだ少年なのだろう――が口を噤んだ。
言いたいけれど言えない事でもあるように。
言葉を、選ぶように。

その時。
教会の入り口の扉が開いた。
一たちは一斉に、その方向へと視線をめぐらす。

―――そこに居たのは。

「……もう二軒しかないのに探し回っちゃった…お待たせっ」
「…僕も少々、蝶の式神探査で遅れましたが準備は完了ですよ? ……お願いです。
此処の鏡を我々に破壊させてはもらえませんか?」

みなもと悠也の二人だった。
どうやら、全ての面子が揃ったようである。


<鏡>

「壊せる…と、おっしゃるんですか?」
「俺達は初めから壊すためにやってきた。だが、扉を開けない、と
言われたからどうしようかと悩んだだけだ」
時雨は無表情に少年へと告げる。
少年はただ困ったように曖昧な笑みを浮かべた。
「今まで、壊せた事は無かったのです。だから保存しておくしかなかった。
ですが…壊せると言うのでしたら、どうぞこれを」
「鍵?」
みなもは不思議そうな顔をする。
扉には鍵もかけられているのに何故醜くなる人が居たのだろう。
「はい、そうです。…ですが鍵がかけられてるからといって万能なわけではなく
窓からの好奇心でやってくる侵入者も居た……ですから、今は部屋にある窓と扉に
この鍵を付けています…それでも万全とは言いがたいのですが」
少年の言葉に一は頷く。
「そうだな、世の全てに万全は無い。だが、だからこそ万全であるように
務める事ができるわけだ……では、行こうか?」
「そうですね…では貴方は此処で待っていてください。大丈夫です、きちんと壊してみせますよ」
「はい…お願いします。あれは、あの鏡は……」
が、言い切れずに居た少年の頭を誰かが撫でた。
時雨である。
「…辛い事は言う必要は無い」
皆も頷くと扉の鍵を開け、4人は鏡のある部屋へと入っていった。


<抵抗無き終わり>

「…これが問題の鏡? 意外に小さいのね……」
室内にかけられている鏡は縦の大きさがおよそ30センチほど。
確かに大きな鏡と考えていれば小さい方だが……。
「小さいとしても迷惑をかけることに変わりはありません。
さて、誰が一番に壊しますか?」
悠也がにこにこと辺りを見回す。
「では、まずは最初に行かせて貰うか」
一は銃を取り出すと正確に鏡へと何発か打ち込んだ。
反応は無い。
反撃する気配すらない。
鏡は何も言わないままだ。
が、間髪いれずに悠也が作った符が鏡へと張り付いた。
この世のものではない黒い炎がゆっくり鏡を燃やしていく。
そこへ時雨の攻撃が加わり……鏡は、砕け散った。
音もなく。
ただ砕け散った破片ばかりが涙のように。


<終奏・鏡>

…終わりは鏡本人にとってあっけないほど急速に訪れた。
だが鏡は少しばかり、安心してもいた。

これが終わりか、と。

人が愛すべきものを醜く映し続けていた終わりがこれならば
良いのかも知れない。

この世ではない力に負けるのならば。

『………ヨウヤク。ネムレル』

鏡が最後に思い出したのは声無き少女の儚い微笑み。
唯一、鏡が真に美しいと思い、共にいた少女の笑顔だった。




−End−

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1252/ 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生 】
【1060 / 百目鬼・一 / 男 / 31 / 喫茶店店員(?)】
【0164 / 斎・悠也 / 男 / 21 /大学生・バイトでホスト】
【1323 / 鳴神・時雨 / 男 / 32 / あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターの秋月です。
今回はこちらの依頼にご参加くださいまして有難うございました。
初めての方もいれば、二度目ましての方もいらっしゃって
ちょっと柄にも無く心臓がバクバク言っております。
斎さん、海原さん、二度目ですが本当にお逢いできて嬉しいです(^^)
そして鳴神さん、百目鬼さんは初めての参加本当に有難うございます!!
どの方も素敵な方ばかりなので私に書ききれるかどうかは
凄く滝汗状態なのですが。

でも、今回のはかなり自分的には変則かなあと思いながら
書いたのですが如何でしょう。
少しでも楽しんでいただけたら幸いなのですが……。
花粉が酷くなっていく季節ですが皆様どうぞ、お体大切に。
それでは、またいつか逢える事を願って。