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調査コードネーム:春を待つ季節
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :界境線『札幌』
募集予定人数 :1人〜2人
------<オープニング>--------------------------------------
誰にだって、苦手なものの一つや二つはある。
なんの毒もない無害な蝶から、逃げ回る人がいるように。
理屈ではない。
生理的な拒絶反応、というやつである。
だから、
「いやぁぁ!! オバケぇぇぇぇぇ!!!」
新山綾の素っ頓狂な悲鳴も、あながち責めることはできないだろう。
地上四階の窓の外に人間の顔が浮かんでいれば、普通は驚く。
まして綾は、大の幽霊嫌いなのだ。
もっとも、好きな人などあまりおるまいが。
「あああ‥‥落ち着いてください‥‥ミス・ニイヤマ」
物理魔法の詠唱に入っている大学助教授に、窓の外の幽霊が告げる。
「けっしてあやしいものではありませんから‥‥」
「うそつけ」
にべもなく言い放つ綾。
この状態で怪しくなければ、世に怪しい者など存在しない。
とはいえ、幽霊が日常的な反応をしたことで、茶色い髪の魔術師は少し落ち着きを取り戻したようだ。
「オバケではありませんから‥‥」
「じゃあ、なんで浮いてるのよ」
「戦乙女(ヴァルキリー)の翼です」
「‥‥なるほど」
その一言だけで、綾が首肯する。
悪霊(キジーナ)魔術は、件のロシア魔術師たち十八番だ。
「で、何の用よ? ここを襲撃にでも来たの?」
「いえ‥‥私は組織から逃げてきました。貴国への亡命を希望します。それと、保護を」
窓の外。
闇の中に女性が浮かんでいる。
銀色に近い髪を短く切りそろえた秀麗な顔。
それは、新たな戦いの幕開きなのだろうか。
いまの綾には解答の持ち合わせがなかった。
「とにかく、入ってちょうだい。詳しい話をきくわ」
※「札幌の街に雪が降る」「ヴァルキリーの翼」の続編です。
以後、「北の魔術師シリーズ」と銘打ちます。
※バトルシナリオです。推理の要素はありません。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日と木曜日にアップされます。
受付開始は午後8時からです。
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春を待つ季節
新千歳空港に降り立った巫灰慈は、肌を刺す寒気に軽く身を震わせた。
まだまだ北海道は寒い。
九州地方などでは、もう花の頼りも聞こえているというのに。
「本当に、面白い国ですね」
同行者が口を開いた。
アエリア・G・セリオス。
まだまだ幼さを残す少女である。
「四季のある国だからな」
巫が笑う。
日本で生まれ育ったわけではないアエリアにとっては、季節の移ろいなどを実感として感じるのは難しいかもしれない。
「それより、どんな方なんですかぁ? 綾さんって」
「怖いお姉さんだ。機嫌を損ねねぇようにしろよ」
訊ねる少女と、からかう青年。
「だれが怖いって? ハイジ」
二人の聴覚域に女性の声が飛び込んできた。
冬の大雪山で食べるシャーベットのような声だ。
新山綾である。
「うおぅ!?」
奇声を発した浄化屋が、アエリアの背後に隠れる。
なかなか情けない光景であった。
ついでに、背の高い彼が、少女の背中に隠れきれるはずもない。
「なにやってんですか?」
黒髪蒼瞳の少女が呆れる。
聞くところによれば、巫と綾とは恋人同士のはずだ。
どうして逃げ隠れする必要があるのだろう。
そんなふうに考えてしまう。
ようするに、大学助教授も浄化屋も、じゃれているだけなのだが。
まだ少女には男女間の機微は判らない。
「連絡のあったアエリアちゃんね。よろしく。綾よ」
右手を差し出す茶色い髪の魔術師。
むろん、握手を求めたのだ。
だが、アエリアは綾の手を握り返さなかった。
「はいです☆ よろしくおねがいします♪」
嬌声とともに飛びつく。
「わわわ!?」
クールな魔術師らしからぬ声をあげて、少女もろとも床にひっくり返る綾。
いくら細身とはいえ、さすがに一四歳の身体は抱き留めるには大きすぎた。
「あたたー 大丈夫? アエリアちゃん」
「えへへ☆ ごめんなさーい」
浄化屋に助け起こされながら、会話を繰り広げる。
「どうでもいいけどよ。空港ロビーであまり素っ頓狂な真似をすんな。目立ってしょうがない」
「いいじゃない? ねぇ♪」
「はい☆」
本人たちが良いというなら、あえて何も言うまい。
他の利用客の視線の痛さも、気にしなければどうということはなかろう。
「ほれ。さっさといくぞ」
巫が促す。
「なんか不機嫌ねー 妬いてる?」
恋人の腕に右手を、少女の腕に左手を絡めた魔術師がからかうよう。
「ばっ!? そんなわけあるか!」
顔を赤らめながら反論する浄化屋。
「あらあら☆」
大輪の花が咲きほころぶように、アエリアが笑った。
「で、状況はどうなってるんだ?」
軽自動車のハンドルを操りながら、巫が問う。
車の所有者は綾であるが、技術において浄化屋の方がはるかに勝るため、彼が運転している。
「亡命を希望しているのは、エカチェリーナ・ソーンチェワという女性よ」
「エカ‥‥?」
アエリアが舌をもつれさせる。
聞き慣れないロシア語に戸惑ったのだ。
わずかに微笑した綾が、
「カチューシャよ。愛称は」
と、簡単に言い直す。
「はい」
「それで? 日本政府は亡命を受け入れるのか?」
前を見つめたまま核心へと迫る巫。
「この国の牢獄には、政治犯も思想犯もいないわ。恥多い国だけど、他国に誇れるものがあるとすれば、間違いなくこれね」
婉曲的な言い方を綾はした。
数瞬の時差を置いて、青年と少女が頷く。
つまり、亡命は基本的に受け入れられるということだ。
もっとも、国際政治が絡んでしまう場合もあるので、確定的なことは言えない。
かつて中国で天安門事件が起こったとき、逃げてきた革命家や学生たちを、日本政府は強制送還したことがあった。
中国に送り返せば処刑されてしまうことを承知で。
人道にもとる行為ではある。
だがあのとき、日本としては中国と事を構えるわけにはいかなかったのだ。
むろん、そのような政治的判断が非難を被らないはずがない。
事実として、日本は国際社会からの孤立を深めることになった。
「高価な失敗になったわけですね?」
「そう。失った信用を取り戻すのに一〇年の時間が必要だったわ」
「しかも、まだ完全に取り戻せたわけでもねぇしな」
シニカルな笑いを閃かせる三人。
やがて軽自動車は、北広島市を通過して札幌市内に入った。
目指す先はミツウロコ商事。
株式を公開しておらず、業務実績は不明。従業員数も不明。求人もしていない。電話帳に記載されている番号をダイヤルしても、無機質な声で営業終了のメッセージが流れるだけ。
「ダミー会社みたいですね」
「そのまんまダミー会社よ。内調の出先機関のひとつなの」
アエリアの問いに綾が応える。
茶色い髪の魔法使いにとっては、なにかと因縁のある内閣調査室。
なかでもこの出先機関は、出発点ともいえる場所だ。
やや深刻さを増した綾の顔を、不思議そうにアエリアが見つめる。
だが、少女は、口に出しては何も言わなかった。
問うべきではない、と、理性以外の声に告げられたからである。
「それより綾。そのカチューシャって女。罠の可能性はねぇか?」
「たとえば、どんな罠?」
「‥‥死間とか」
「ありえなくは、ないわね」
死間とは、内応を装って敵に潜入し、その油断を誘う計略の一つである。
偽情報を提供したり、獅子身中の虫として混乱させたり。
最悪の場合には、全面攻勢のきっかけを作ったり、と。
もちろん、そんなことになれば、潜入した工作員は確実に殺されるだろう。
従事する者の死が避け得ないから、死間、と呼ばれる。
別名、苦肉の策、とも。
ちなみに、この策謀が描かれるのは、三国志演義という歴史小説の中だ。
呉の有力な将軍である黄蓋が、大軍を擁して迫りくる魏に降った振りをし、その陣容を混乱に叩き落とした。
赤壁の戦いと呼ばれる名シーンである。
「でも、こっちがそのことを知っているんですから、計略にならないと思うんですけど?」
戦略に詳しくないアエリアが首をかしげる。
「ところが、相手が知ってるからこそ使える計略もあるのよ」
笑いながら綾が応える。
「どういうことですか?」
ふたたび少女が小首をかしげた。
それに応じたのは運転中の浄化屋である。
「もしも俺たちがカチューシャとかいう女を信用せず、亡命も保護も拒否したらどうなると思う?」
「あ、なるほど」
「そういうこった。どっちに転んでも敵は損をしねぇんだ」
カチューシャが本当に組織を裏切っていた場合は、労せずして敵は裏切り者を処分することができる。
逆に死間だった場合には、ただ単に計略が失敗するというだけで、人的資源の損失にすらならない。
一波揺らめいて万波揺らめく。
心理謀略戦の基本だ。
「だから、その女性も受け入れるんですか?」
二手先を読んだような、アエリアの言葉。
このあたり、少女らしからぬ知性である。
「んー それだけじゃないんだけどね」
「というと?」
「わたしがカチューシャちゃんを気に入ったから、というのはダメ?」
「綾らしいぜ」
巫が笑う。
どのような状況下であっても、この黒い瞳の魔法使いは女性の味方である。
同性愛趣向者というわけではない。
むしろ、女性の権利擁護者といいった方がしっくりくるだろう。
「ホント、変わってねぇよな。綾は」
やや遠い目をする浄化屋。
二人の出会い。
暴行された女性と、それ復讐を行う魔術師。
冬の日比谷公園。
「あの男どもが何をしたか、もうみんな知ってるわよね。残念ながら真由ちゃんに関して法も警察も無力だったわ。だから、わたしが罰を与えたの」
一年以上も前の記憶が、鮮やかに蘇る。
冷然とした言葉。
夜風になびく茶色い髪。
あの頃、現在のような関係になるなど、だれが予測しただろう。
運命な気まぐれなこと、かくのごとし。
「いや‥‥俺が綾を選び、綾が俺を選んでくれたんだ。運命なんてわけわかんねぇもんに左右なんかされてたまるかよ」
とは、口に出さぬ浄化屋の想いだ。
北の拠点都市の街並みが、車窓に映し出されていた。
爆光が闇を裂き、視界を埋め尽くす。
「きやがったぜ!」
装甲車のハッチから上半身を覗かせた浄化屋が、立て続けに火弾を放った。
フィンガーフレアボム。
物理魔法の一つである。
闇の彼方から、幾人かの倒れる気配が伝わる。
「しゃ! 突っ切れ!! サトル!!」
叫ぶ。
インカムを通して、運転席へと伝わっているはずだ。
深夜の道央自動車道。
札幌から室蘭へ。
港では、陸上自衛隊の(押収したままになっている)『むらさめ』が彼らの到着を待っている。
このイージス護衛艦で、東京までカチューシャを護送するのだ。
現状、ロシア魔術師たちの勢力圏は北海道から出ない。
東京に入ってしまえば、ある程度は安全なはずだ。
そのあとは、組織から足を洗い、平凡な一市民としての生活が、カチューシャを待っているだろう。
むろん、無償ではない。
組織に関する情報提供。それがカチューシャの今後の人生を補償する商品だ。
しばらくの間は監視が付くだろうが、綾が保証人になったことで、実生活レベルにおいては、ほぼ完全な自由が認められることになっている。
「ありがとうございます‥‥」
そういってカチューシャは深々と頭をさげたものだ。
「乗りかかった船よ。それに‥‥」
綾が続ける。
「それに、お礼は無事に港を出てからにしてちょうだい。連中、北海道からカチューシャちゃんを出さないよう、躍起になって攻撃してくるに決まってるんだから」
その魔術師の予想は、忌々しいまでに的中した。
装甲に音を立てて銃弾が降り注ぐ。
ほとんど総攻撃の様相である。
「怖くない? アエリアちゃん?」
車内、黙然と座席に腰掛けている少女に、魔術師が語りかけた。
「大丈夫です」
やや強張りつつも、アエリアは微笑する。
彼女もまた、戦うために札幌を訪れたのだ。
「弱音なんか吐かないんだから‥‥」
内心に呟き、唇をかむ。
だが、わずかに震える膝は、止まってはくれなかった。
装甲車の内側まで銃撃が届くことはない。
頭では判っている。
「情けない‥‥こんなことで‥‥」
握りしめた拳。
掌に爪が刺さる。
「ま、最初は誰でもそんなもんだ。無理しなさんなって」
ぽん、と、少女の頭に手が置かれた。
浄化屋だ。
幾度も死線をくぐってきた彼にとっては、この程度の攻勢は危機のうちにも入らない。
「もっとも、戦いに慣れちまうのもまずいけどな」
笑っている。
この連中はよく笑う。
と、アエリアは思った。
東京の貧乏探偵の仲間たちもそうだ。
どんなピンチや逆境でも、そうやって乗り越えてしまう。
いつか、肩を並べられる日が来るのだろうか?
本当に来るのだろうか?
無作為な思考は、強烈な爆音によって掻き消された。
瞬間。
傾ぐ車内。
悲鳴を発して横転する乗組員たち。
アエリアの身体も投げ出され、受け止めようとした綾もろとも内壁に叩きつけられる。
「か‥‥は!?」
大学助教授の口から、微量の血と呻きが漏れた。
「綾さん!?」
すぐに身をどかし呼びかける少女。
「サトル! どうしやがった!!」
信じられぬ平衡感覚でただ一人転倒を免れた巫が、インカムに向かって怒鳴る。
「灰慈さん! 綾さんが!!」
「あとだ!」
アエリアの悲鳴に怒鳴り返す浄化屋。
本当は、すぐだって恋人に駆け寄りたい。
抱き寄せて気遣ってやりたい。
だが、それはできないのだ。
綾が負傷した今、彼女の担ってきた役割は、浄化屋がつとめなくてはならない。
すなわち、指揮だ。
「サトル! どうなってる!!」
繰り返す。
やがて、インカムに反応が返ってきた。
『バズーカまで持ち出してきやがった‥‥片輪をやられた!』
苦渋に満ちた声。
これでは、もう走行することはできない。
「ちっ!」
「‥‥ハイジ‥‥すぐに車を捨てるのよ‥‥」
なんとか立ち上がった綾が告げる。
動けない装甲車など、鉄の棺桶と同じだ。
「わかった。行けるか? 綾?」
「魔法を使うのは‥‥ちょっと無理かも‥‥肋骨にひび入っちゃったみたい‥‥」
痛みで集中できない、というわけだ。
「判った。やすんでろ」
「わるいわね‥‥」
「気にすんなって」
不敵に笑った浄化屋がハッチを開ける。
装甲車の周囲を、一〇台ほどの乗用車が包囲していた。
降り注ぐ銃弾。
さっと身を屈めた巫が、車内に様子を伝える。
「敵の数は三〇ってとこだ」
頷いて、それぞれの武器を手に取る諜報員たち。
「私も戦います。ミスター・カンナギ」
カチューシャも立ち上がる。
「ダメよ‥‥カチューシャちゃん‥‥あなたが出たら的にされるだけ‥‥」
「‥‥はい」
「そういうこった。ここで綾を守ってやってくれ」
言って、ふたたび物理魔法を使う巫。
開いたハッチから数十の火球が飛び出し、次々と乗用車を炎上させてゆく。
ごく短時間だが、敵が動揺した。
「行くぜ!」
その機を逃さず、浄化屋が闇に身を翻す。
手にした得物は霊刀『貞秀』。
猫科の猛獣の動きで接近し、一閃!
攻撃に当たった敵が、数メートルの距離を吹き飛んでアスファルトと接吻する。
内調の諜報員たちも、勇猛な浄化屋の後に続く。
とはいえ、
「この数の差じゃなぁ」
やけにのんびりした声が、巫の耳元に響いた。
「三〇対六。ひとり頭五人の計算だぜ。サトルのノルマは一〇人な」
「じゃあ、巫のノルマも一〇人だ」
互いの無事を祝うことすらなく、冗談を飛ばし合う。
一種、救いがたい精神状態にあるようだ。
いくら武勇に優れた彼らでも、一人で一〇人と戦えるはずがない。
仮に、二人で二〇人を片づけたとしても、まだ敵の方が数が多いのだ。
どうやら性質の悪い結末が待っているようだ。
「泣き言いっても始まらねぇ! 行くぜ!!」
「おうよ!!」
霊刀を携えた浄化屋と、金の瞳を輝かせた半魔族(ハーフデーモン)が、漆黒の闇を切り裂く。
一方、アエリアは謝り通しだった。
自分をかばって怪我をした綾に対して。
「いいのよ‥‥アエリアちゃんが無事で良かったわ‥‥」
痛みをこらえ、大学助教授が微笑する。
「でも‥‥」
目を伏せるアエリア。
その横で、無言のままの綾が拳銃を取り出す。
魔法を扱うのは無理でも、援護射撃くらいはしてやる。
そういう女性なのだ。
驚いた少女が押しとどめた。
「待ってください。綾さん。私がやりますから」
「無理しないの‥‥」
「どっちが無理ですか! 少なくとも、怪我してない私の方が上手くやれます!!」
激語して拳銃をひったくるアエリア。
「あ‥‥」
負傷している魔法使いは、さしたる抵抗もできず武器を渡してしまった。
「いきます!」
ほとんど自棄のように、少女が車外へと飛び出してゆく!
「ばか‥‥!」
何の準備もせずに乱入してどうするのだ。
慌てて綾が追おうとする。
が、肋骨の痛みで膝をついてしまった。
装填された八発の弾丸は、あっという間に空になってしまった。
一発の命中弾もなかっただろう。
これでは、何をしに飛び出したんだか判らない。
しかも、予備の弾丸を持ってくるのも忘れてしまった。
「もう! 私の馬鹿!!」
後悔は無限。
だが、初めて戦場に臨む恐怖は、消えていた。
敵の攻撃が集中する。
銃弾と黒塗りのクォレル。
「そんなの! 効かないんだから!!」
声とともにひろがった純白の羽が攻撃を弾き返す!
もちろん、アエリアの身体に羽など生えていない。
肩口にとまっていた小さな天使が、成人女性と同じ大きさになり、少女を守ったのだ。
これこそがアエリアの能力、「天使招来」だった。
「へへへ。やっと本気になりやがったな。ガキんちょ」
浄化屋が笑う。
俄然元気を取り戻した諜報員たちが、猛反撃に転じた。
「ガキんちょは、やめてください!」
怒鳴りながらもアエリアが笑った。
もしかしたら、これが、仲間になった瞬間だったのしれない。
本当の意味で。
「そいつはすまねぇな!」
霊刀を振り回し、物理魔法で敵を討ち減らす巫。
むろん、まだ完全に味方が有利になったわけではない。
むしろ不利なままである。
それでも、アエリアの参戦で、秤は大きく動いた。
あとは、動きをこちらに引き寄せるだけである。
「いくぜ! アエリア!」
「はい! 巫さん!」
厳寒の北海道に現出した灼熱の戦場。
歴戦の戦士と若き女戦士が、縦横無尽に駆けめぐる。
エピローグ
護衛艦『むらさめ』は、予定時刻を四時間ほどオーバーして出航した。
「あんまり無茶するなよ」
とは、カチューシャの護衛を引き継いだ三浦陸将補の弁である。
まったくその通りだったので、浄化屋も少女も大学助教授も、一言もなく引き下がるしかなかった。
予定時刻になっても到着しない彼らを心配して三浦が部隊を派遣してくれたから、こうして朝日を拝むことができたのだ。
無事に、とはいえない。
巫とアエリアの身体は、無数の擦過傷と打撲傷で化粧されていたから。
「だがまぁ。お前さんの実力、見せてもらったぜ」
浄化屋が言い、少しはにかんだように少女も笑った。
黄金色の朝日が内浦湾の波に光の束を投げる。
きらきらと。
太古から続く海が、光の飛沫を飛ばしていた。
終わり
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0143/ 巫・灰慈 /男 / 26 / フリーライター 浄化屋
(かんなぎ・はいじ) with貞秀
1311/ アエリア・G・セリオス/女/ 14 / ウェイトレス
(あえりあ・じー・せりおす)
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
「春を待つ季節」お届けいたします。
いかがだったでしょう。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って。
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