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<東京怪談ノベル(シングル)>


柚葉の「ケイオス・シーカー」来訪記

 夜の繁華街を、一人の少女が歩いていた。地図の場所を探して。
 どれくらい歩いただろうか、やっとその地図の場所に少女はたどり着く。そして店の雰囲気を見てまず思う。
(へぇ〜、桐伯さんの店って、こんな所にあったんだ……こんな雰囲気初めて、面白そうなの〜♪)
 狐の尻尾を生やした少女、柚葉。
 先日自分の住む、あやかし荘の嬉璃が風邪を引いたときに、一緒に薬になる花を探し行った九尾・桐伯の経営するバー、「ケイオス・シーカー」の店の前へと着ていた。
 桐伯が桐伯と別れる際に、柚葉が一度店に行っていいかという話しを聞き、桐伯が今日着てみないかと誘ったのだ。
 そして店の前。いつもの柚葉では、絶対に来る事が無い雰囲気の世界がそこには広がっている。
 不思議に自然と、楽しさが柚葉には沸いてきた。
(何だかわくわくする♪ でも、服装が分からなかったから、いつもの服装だけど……大丈夫だよね? 桐伯さんなら許してくれるよね♪)
 バーには、あまり似つかわしくない短パンという服装。でもやっているのが桐伯さんだから、と柚葉はあまり深くは考えず、そのまま店に入った。

 ドアが開く。ケイオス・シーカーの店内は、豪華客船のような内装。そしてピアノの生演奏の流れていた。
 とても落ち着いた雰囲気の店である。
 そして、実際柚葉にとっては、あまり近づきたくない雰囲気だったりする。
(……うーん、なんだか私、この雰囲気苦手……でも、せっかく誘ってくれたんだし、頑張るぞ〜っ!)
 自分で自分に気合を入れて、柚葉は桐伯を探す。そしてカウンターに居た桐伯を見つける。
「えっと、九尾さん、こんにちは〜♪」
 元気よく声を掛け、ぶんぶんと手を振る柚葉。周りの客がその声を聞いて一斉に振り返る。
(ぅ、やっぱりこの雰囲気苦手……)
 内心で、強くそう思う柚葉。そして、その声に気づいた九尾がやって来る。
「あぁ、きてくれたんですね、ありがとございます。 ……でも柚葉さん、あまり大声で話してはいけませんよ? ここは、落ち着いた雰囲気を楽しむ場所でもありますから、ね?」
 いつもの微笑で、柚葉に注意を促す。柚葉は見知った人の顔に少し安心をしながらも、怒られたと思って。
「あ、ごめんなさいなの〜」
 しゅんとなる柚葉、自慢の狐の尻尾も力なく垂れ下がる。桐伯が優しく柚葉の頭を撫でながら。
「いえいえ、構いませんよ。来るのは初めてでしょうからね? これから同じような店に行くときには注意すれば良いことですから。 ほら、カウンターの席に座りましょう。 色々と柚葉さんでも大丈夫なものを、飲ませて差し上げますから、ね」
 と、桐伯は柚葉をカウンターの席へと誘導した。桐伯の一番間近な場所に。

(へぇ〜……一杯お酒があるんだなぁ……)
 カウンター越しに、備え付けられたお酒の数々を見ながら、柚葉は思う。
「お酒はまだ……飲めませんよね? ノンアルコールのカクテルも、色々と種類がありますから。あまり物怖じせずに飲んでくださいね?」
「え、うん。 ありがとう、桐伯さん♪」
「まずは……そうですね、シンデレラでも飲ませて差し上げましょうか。今の柚葉さんにもぴったりでしょうし」
 と言って、九尾は準備を整えていく。シェーカー、材料の氷、オレンジジュース、パイナップルジュース、そしてレモンジュース。
 全てのジュースをシェーカーへと入れて、シェイクを始める。快音がバーの中に響き渡っていく。柚葉も桐伯のシェーカーを振る姿を見ながら、その姿に見とれていた。
(わぁ、面白い〜♪ それでいて桐伯さん、かっこいい!)
 シェークも程々に、グラスへと注ぐ。乳白色の綺麗なカクテルに目を奪われる柚葉。
(綺麗な飲み物〜♪)
 尻尾をぱたぱたと振る柚葉に、桐伯は苦笑をしながら。
「さぁ、飲んで見てください。もしも合わない様だったら、他のもありますから。ね?」
「うん、分かったの、じゃぁ頂くね〜!」
 勧められたノンアルコールのカクテルを飲む柚葉。程よい酸味と甘味が調和したそのカクテルの味は柚葉の好みにぴったり。更に尻尾をぱたぱたと激しく揺らしながら。
「美味しい〜、ボク、この味大好き♪」
 よほど嬉しかったのだろう。尻尾をぱたぱたと振る柚葉。カクテルを出して、桐伯は良かったと思いながら、更にカクテルを作っていく。全てノンアルコールのカクテルを。
「これがシャーリー・テンプル。そしてこちらがエッグ・ノックというカクテルです。どちらも柚葉さんの好みに合うように、私なりにアレンジを加えてみました」
「柚葉の為なの? えへへ、ありがとう♪」
 次から次へと勧められるカクテルを飲む柚葉。そんな柚葉の喜ぶ姿を笑顔で見守りながら、次第に夜は更けていった。

「さてと……そろそろ店を閉じる時間ですね……柚葉さん?」
 客も居なくなった店内で、柚葉は寝息を立てている。
 夜中あたりから既にうとうととしていたので、そのまま寝かせておいたのだが、まだ寝たままである。
「すぅ……ふにゅぅ、もう飲めないよぉ……でも、美味しいのぉ〜」
「……ちょっと、飲ませすぎちゃいましたかね? ……あやかし荘の方まで送っていきましょうか……」
 周りの店員に店の方の片づけを頼むと、桐伯は背中に柚葉を背負う。
 暫く二人で道を進んでいると、背中でごそごそ動く柚葉がが目を覚ました。
「……にゅぅ……ぇ……? 桐伯さん?」
 まだ半分寝ているのか、声色も朧気な声色である。そんな柚葉を気遣って桐伯は。
「大丈夫ですよ、そのまま眠っていてください。 ちゃんとあやかし荘まで連れていってさしあげますから」
「……分かったのぉ……宜しくね、桐伯さん……すぅ……」
 更にぎゅっと、柚葉が抱きついた。
「ふふ……寝顔は可愛いものですね。 さてと、早くあやかし荘に返してあげませんと、風邪引いてしまいますね……急ぎましょう」
 桐伯は、あやかし荘への道を足早に急いだ。