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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


電脳遊戯

>オープニング:とある掲示板
 【178】知ってる?
 投稿者:ユリウス  投稿日:2003年2月25日00時37分

 最近コンシュマーでもオンライン専用ゲームが沢山でてきたけどさ、
 ソフト買って更に有料って学生にはきついよな。
 それで無料のネトゲにはまってるんだけど、『CROSS』っていうゲームは知ってるか?
 世界観は良くありがちな和風も入った西洋ファンタジー。
 システムも能力値割振って、キャラ作って、後はマウス操作でダンジョン探検って良くあるタイプ。
 一応他のPCとパーティー組んでメッセージ飛ばしたりも出来るんだけどさ。

 こいつの中で今噂が流れてるんだ。
 クエストっていう依頼みたいなもんがあって、その一つに魂の水晶球探索っていうのがあるのな。
 その魂の水晶球をアイテムで所有したまま『胡蝶の間』っていう洞窟のフロアに行く。
 そこでセーブして、ゲーム終了して1日待つと…凄いことが起こるって噂だ。
 俺は何かイベントでも起こるのかと思ってたんだけどさ。

 別にキャラには何も起こらなかった。
 ただ、それを試した俺の友達がその日から意識不明になってる。

 俺は怖くて試せない。
 誰か試してみるならアイテムは譲るぜ。
 今日の23時、登録したばかりのキャラでも行ける『冒険者の宿』っていう場所で待ってるからな。


>プロローグ:23時の怪
 その掲示板に書き込まれた内容は、2月25日23時に削除された。
 定期的にとられているバックアップからも―――


>『CROSS』:冒険者の宿
 冒険者の宿と名付けられたそこは、始まりの土地と呼ばれる場所にある。
 始まりの土地とは『CROSS』というゲームに始めて参加したユーザ達へ、様々な説明と操作練習をさせる為の場所。
 当然、ゲームのマニュアルはあるのだが、文字で読むより実際にやってみた方が解り易いことは多々あるものだ。
 初心者はここで、初心者用の依頼を受けることができ、その依頼によって基本操作や世界観等を覚えられるようになっていた。
 冒険者の宿、とは。
 依頼を受ける場所であり、共に依頼をこなしていく『パーティー』と呼ばれる組を作る為の出会いの場所だ。
 また他のプレイヤーキャラクターと情報を交換したり、不要なアイテムの交換や売買をする為の場所でもある。

 2月25日22時55分。

 待ち合わせ相手である『ユリウス』を探してやって来た宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)は、あまりの人――正確にはキャラクタ―の多さに頭を抱えていた。
 周りを見回せば同じような顔、同じような色ばかり。
 『CROSS』のキャラクターは職業毎に3パターンの形状がある。
 その中から一つ形状を選び、その後髪の色、瞳の色、服の基本色を50種の色から選ぶ仕組みだ。
 形状を変更出来るアイテムも用意されているが、それらはレアリティが高く、よって同じようなキャラクターが多く存在することになる。
 クローン人間ばかりのようなその状況。
「……一度離脱して探すか?」
 そんな考えが皇騎の頭の中をよぎる。
 他にも厄介なことはあった。
 『CROSS』の表示形式はキャラクタの足元に名前が表示される仕組みになっている。
 モニタで見る分には良いのかもしれないが、その能力によりキャラクタ自体の視点から見ている皇騎にとっては見難いことこのうえない。
 しかも己の能力を最大限に生かす為、皇騎は自分の姿をキャラクタに映していた。
 参加するキャラクタを作る際に魔術師を選択した為、服装こそ白に近い色の魔術師のローブ姿。
 しかし長い黒髪、涼しげな黒い双眸と、可愛らしいキャラクタが多いその中で綺麗とも格好良いともいえるキャラはかなり目立つ。
 ユリウスの捜索にプログラム化した式神を使用することも考えたが…この状況でこれ以上目立つことはあまり良くない。
 セキュリティの相手をするのはごめんだ。
「だがこのままでは埒があかん…」

 2月25日23時02分。

 他の方法をと考え出した皇騎に一つのメッセージが届いたのはその直後だった。
「CNo.5868さんですか?
 あたし、みなもと言います。ユリウスさんから魂の水晶球を受け取った者なのですが」
 女性の声に皇騎は自分の足元を見る。
 CNo.5868というのが自分の番号であることを確認すると、声の聞えた方向に向かい
「番号で呼ぶのは止めてもらえないですか。名前はコウキといいますよ、お嬢さん」
「コウキさんですね、はじめまして。」
 返答と共に、青い僧衣を纏った娘が現れる。
 その髪も瞳も青い。
 髪は深い海を思わせる静かな青、瞳はアクアマリンの宝石にも似た澄んだ青。
 青空にも似た色の僧衣を纏った娘――海原・みなも(うなばら・―)は皇騎の前で立ち止まった。
「貴方はユリウスさんのお友達ですか?
 それともあたしと同じようにゴーストネットから辿っていらした方ですか?」
 表情のないキャラクターの顔が、にこりと微笑んだように皇騎には見えた。


>『CROSS』:胡蝶の間
 ユリウスから渡されたポインタを使用し、みなもと皇騎は胡蝶の間へと辿り着いた。
 それは洞窟というよりも地下迷路と言う言葉が似合う長い道程であり、胡蝶の間はその最奥に存在する空間につけられた名。
 途中の敵を何とか二人で倒しながら辿り着いたそこは、中央にある川で隔てられている部屋。
 否。
 川のようなもので、と言うべきだろう。
 そこにあるべき水は干され、僅かに底の泥だけが川であった名残を残す。
「広い部屋ですね」
 洞窟内にいくつか存在した部屋のどの部屋よりも、そこは広い。
 川であったものの上には橋が一つ。
 橋は丸太を渡し、それに木の板を打ちつけたような簡単なもので、人が二人並んでなんとか歩ける程度の幅があった。
 二人並んで橋を渡り、奥へと進むとそこには祭壇らしきものがあり。
「あ、ポインタがあります。ここが終点みたいです」
 みなも――正確には彼女のキャラクタ――がポインタである円形状のモノを拾い上げ、背中に背負った袋に入れる。
「噂の内容はここでセーブをし1日待つ…か。」
「はい。攻略サイトのBBSでも同じ内容の噂がありました。ただ試した人は見つからなかったですけど。
それに…公式攻略本には魂の水晶球というアイテムが載っていなかったんです。」
「それは仕方ないことですよ、何せ…」
 一旦そこで言葉を区切り、みなもに見える筈はないのだが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「このゲームに『魂の水晶球』というアイテムは存在しないのだから」


「え?」
 自宅のパソコンの前で、思わず声に出す。
「存在しないというのはどういうことなのでしょう…?」
 さらり、肩から落ちたしなやかな青い髪をそっと手で撫で付け、質問を入力する。
【皇騎:みなもさんに会う前にここのサーバで調べものをしてみたのですよ。】
【皇騎:そうしたらアイテムデータの何処にもそのようなアイテムのデータはありませんでした】
【皇騎:イベント用のデータも調べましたが存在せず、ですよ。】
「でも確かに魂の水晶球は存在して、今ここに…」
 みなものステータス画面からアイテムの確認を行う。
 と、そこにはユリウスから譲り受けた魂の水晶球が確かにそのまま存在している。
 アイテム種別は使用用途不明のイベント用アイテム、個数は一つ。
「だとしたら、ここにある魂の水晶球は一体何だと思われますか?」


「それはまだ解らない」
 みなもの問い掛けに肩を竦めてみせる皇騎。
「ただ、イベントどころかアイテムすら怪しげな代物だということははっきりしている。
 魂の水晶球というネーミングから考えて、多分プレイヤーの精神、魂が取り込まれているのではないかと推理しているのだがね」
 しかし、それを確定させるデータは事前調査では掴むことが出来なかった。
「あたしも考えたんです。この胡蝶って夢は現の胡蝶じゃないかって」
 荘子が蝶になった夢を見たという故事より。
 夢と現実の区別がつかないこと、転じて人生の儚さなどのことを胡蝶の夢という。
「もしそうなら…現実で眠り、夢で起きているって感じじゃないかと思うんですけど…」
「ふむ」
 みなものその言葉に皇騎は眉宇をひそめる。
「夢で何かが起り、それを起こすつもりなら、セーブして1日待てという話も解る。
 1日睡眠をとらずに待てるような人間は殆どいないだろうからね。」
 しかし厄介だ――と皇騎は思う。
 夢という世界は基本的に個人単位のモノ。
 完全な閉鎖空間ではなく他者との繋がりを持つとはいえ、その場自体の支配力は夢の持ち主が所有し、また他者の夢に入り込むのは様々な問題がついてまわる。
 術者の中にはそういった術を得意とする者もいるが、それとて用意や経験、知識などあって、それでもまだ危険は残るのだ。
「あたし、眠ってみようと思います」
「みなもさん?」
「ここまで来ましたけど何も起らないし、後はもう噂通り試してみるしかないですよね。
 噂の真実の解明もしたいし、何より……昏睡状態にある人がそれで助かるなら助けてあげたいんです」
 伝わる強い意志。
 だから。
「私は暫らくの間ここに留まることにしよう。無理はしないように、いいね?」
 嬉しそうな返答と共に二人は一時的に別れることにした。


―――ことり、と。
  何かが動く音がした――― 


>『CROSS』:胡蝶の夢

 蝶の夢を見たのは何故か?
 蝶の夢は何だったのか?

 異変が起ったのはみなもと別れて一時間程経った頃だろうか。
 一人、その場に留まり休息を取っていた皇騎は、自分の隣りに座り込むようにして存在する青い僧衣の少女に視線を移した。
 現在接続されていないキャラであることを示す、透けるようなその姿。
 そこにふわりと誰かの影が重なる。
 僧衣、装備はそのままに、次第にはっきりと現れる姿。
 しっとりとした白い肌、腰まで伸びた艶やかな青い髪、澄んだ宝石のような青い瞳――殆ど変わらぬ姿、なれど。
 その瞳だけが、人とは違う――そして人間とも少し違う特徴を持ち
「あ、ら?皇騎さん?」
 困惑をあらわに問い掛けるその声も含めて、まだ若い――幼いともいえる少女。
「みなもさん、だね。どうしました?」
「歯は磨いてあったのであれから寝室に行って寝て…そう、あたしは寝た筈。
 だとしたらここはあたしの夢…」
「違いますよ。ここは『CROSS』の胡蝶の間です。」
 みなもさんの考えは正解に近かったようですね、と付け加え、みなもに手を差し出す。
 その手を取り立ちあがったみなもは、皇騎の肩越しに祭壇傍に立つ人影を見つけた。
「皇騎さん、後ろ」
 それは一つの姿。
 床に届きそうな長い黒髪、蝶を象った冠を被り、白地に若草色の絵柄が鮮やかな能装束をまとった女性。
 ゆらりゆらりと髪を揺らしながら、足音もなく静かにその女性は近づいてきた。

「何故変わらぬ?何故…妾の邪魔をする」
 透明な声。
 切なげな声。
「もう少し…もう少しだというのに…」
 悔しげな声。
 甘い響きの混じる声。
「消えてしまえ…妾の邪魔をするものなど要らぬ」
 怒り混じりの声。
 全てを否定する声。
 パン、右手に持った扇を閉じる音がその場に響いた。

「待って下さい。あたし達は昏睡状態にある人の調査に来ただけで邪魔なんて…」
「みなもさん、彼女――いや。その後ろにあるものを良く見なさい」
 女性に向かって飛び出そうとしたみなもの肩を掴み、皇騎は祭壇を指で差し示す。
 記憶の中ではただの祭壇のようなもの、であっただけなのに。
 今やそこには無数の魂の水晶球が存在していた。
「何方か存じ上げませんが…
 私達が邪魔をしたというのなら、何の邪魔をしたというのか、それぐらい教えてくださっても宜しいでしょう」
 みなもを後ろへと庇うように隠しながら問う。
「貴女の名前が胡蝶だとしても、まさか梅の花との縁を結べ…という話ではないでしょうからね」
「梅の花?」
 疑わしげなみなもの声に、ちらり、視線を向けると頷く。
「能装束で胡蝶…源氏物語に胡蝶という話があってね。
 それを元にした胡蝶という能が存在する」
 早春に咲く梅との縁を願う胡蝶が僧の夢に現れる話。
 夢の叶った胡蝶が僧に礼として贈る舞が、幻想的で美しい能である。
「…そしてどうやら…聞く耳もたず、という感じですね」
 その間にも女性――胡蝶は二人の間近へと迫っていた。
 そして胡蝶の周りに5つの小さな炎が浮かびあがり、蝶の形を取ってふわふわと宙を舞い始めた。

職業:魔法使い(表向き)、体力:8、腕力:8、知力:10、精神:15、器用:9
僧侶で体力18、腕力4、知力9、精神18、器用1

【皇騎・みなも VS 胡蝶・炎蝶×4】
【戦闘開始】

「え、早いっ!」
 前に出ようとしたみなもよりも早く、胡蝶は無言で扇を持った手を優雅に振るう。
 その先は…皇騎。

【胡蝶の攻撃:皇騎に命中、15ダメージを与えた。】

 胡蝶の攻撃は皇騎の左肩に命中した。
「くぅ…」
 この世界での基本設定を魔法使いという職業に合わせたのが皇騎にとっての不運だった。
 魔法使いの防御力設定は弱く、ダメージが殆どそのまま皇騎の負荷となる。
 左肩を右手で押さえ、顔を歪めた声をあげた皇騎を見て
「皇騎さん!!よくも皇騎さんを!」
 みなもは杖を構え殴りかかった。

【みなもの攻撃:胡蝶に命中、2ダメージを与えた。】

「あ、あたし腕力低く設定したの忘れてましたっ」
 武器で殴った場合の攻撃力。それは腕力の影響を直接受ける。
 しかし――僧侶という職業を選択したみなもには他の攻撃手段がない。
 僧侶は回復や補助の為の職であり、攻撃魔法を覚えるのは上級職に転職してからなのだ。
「みなもさん、下がりなさい。私に任せてもらいましょう…」
 呪を唱える皇騎の右手に光が産まれ、そこに細長い影が浮かびあがる。
「現れよ、髭切!」
 光の中から刀が姿を現した。

【皇騎は魔法を唱えた:髭切の召喚に成功した。】
【炎蝶達の連続攻撃:みなもに1回命中、1ダメージを与えた。みなもは炎上した。】

「きゃぁぁぁぁっ」
 みなもの悲鳴が胡蝶の間に響く。
 炎蝶が纏った炎がみなとの服に燃え移ったのだ。
「みなもさん!」
 慌てて駆け寄った皇騎が手を貸して、火が小さいうちに消すことが出来たが
「蝶達のダメージは低いですが、燃え移るとは厄介な。」
「ありがとうございます。ここに水があれば…炎を消すこともできたのですが…」
 辺りを見回してもみても、使えるだけの水は見当たらない。
 川は相変わらず干上がったままだ。
「確かに水で服を濡らしておけば、燃え移る心配はありませんがね」
「いえ…」
 少し躊躇った様子を見せ、おずおずと言葉を繋げる。
「あたし、水を操ることが出来るんです。
 ここは夢…じゃなくてゲームの中だから出来るかどうか解らないですけれど。
 水があればそれであの蝶達の炎を消せないかなと思って。」
 でも無いものはしかたがないですよね――。
 残念そうに息を吐くみなもに、しばし考えて皇騎は頷く。
「燃え移るような炎なら水で消せるかもしれませんね。
 …どうやらゲームのシステムは彼女達を縛っているようだから、やってみる価値はあるか」
 再びゆっくりと近づく胡蝶と炎の蝶達を半眼に見据え、
「女性にお願いするのは気が引けるけれど…胡蝶の攻撃に耐えてもらえないかな?
 そして胡蝶の攻撃が終ったらそのまま反撃せずにいてくれ」
「反撃しては駄目なんですか?」
「先程の様子を思い返してみたんだが…多分こちらが攻撃しない限り、胡蝶も炎の蝶達も動かないと思ってね。
 最初の胡蝶の攻撃だけは防げないけれど」
 申し訳無さそうな顔で肩を竦めてみせると、皇騎は瞳を閉じる。
「頼むよ…」

「はい」
 瞳を閉じた皇騎の前に、杖を構えてみなもは立つ。
「武術なんてやったことないですけど…皇騎さんを護らなきゃ…」
 皇騎さんを信じて。
 決意の篭ったみなもの瞳に、振り下ろされる胡蝶の扇が線を描くように見え――

【胡蝶の攻撃:みなもに命中、12ダメージを与えた。】

 それを杖で受け止めようとしたみなもの手は、杖と一緒に弾かれ、切られる。
 襲うのは痛み。
 肉ではなく神経そのものを引き裂くような強烈な痛みの感覚。
「!」
 目を伏せ顔を歪ませて、しかし、
「大丈夫…痛くなんかない…」
 切り裂かれた腕から滴り落ちる血。
「…それにこれで攻撃は終りなんだから…後は皇騎さんが戻るのを待つだけ…」
 僧衣を濡らす血に構わず、みなもは再び杖を構えた。

 それはほんの僅かな時間。
 けれども長く感じられる時間。

 ドォン、という鈍く響く音がみなもの背後で湧き起こった。
 何処か懐かしく感じる水の匂い、それを感じた直後。
「遅くなってすまなかった」
 声と共に皇騎は刀を構え、みなもの前へ出る。
「皇騎さん…」
「水は用意できたが急いだのでね、あまり長くは持たない。
 怪我人だというのに手当ても出来ず申し訳ないのだけれど…」
 会話の間にも二人の背後から水が少しずつ、足元を濡らしていく。
 皇騎はこのエリアのデータに少し手を加え、干上がった川を水の溢れる川に変化させたのである。
 しかしこの場にいるみなもへの影響を押さえる為に細心の注意を払い、またゲーム内にいるまま短時間でそれを行った為、水の出現時間は僅かな時間に限定されてしまったのである。
「大丈夫です。ありがとうございます」
 毅然と言い放つみなもは、水の流れを足元から順に全身で感じていく。
 ―――水、皇騎さんの作ってくれた水。お願い、あたしにチカラを貸して―――
 瞳を閉じ、手を組んで呼び掛ける、祈りにも似たみなもの思い。
 次第にみなもの髪が青みを増し、まるで水の中にいるかのように柔らかく広がっていく。
「あたしは、護りたいから。戦うことから逃げない」
 瞳を開き顔をあげたみなもの動きに応じるように、川を流れていた水が間欠泉のように噴き上がる。
 そのまま勢いを殺すことなくそれは胡蝶と炎蝶達に襲い掛かり押し流した。

【みなもの攻撃:胡蝶に命中、20ダメージを与えた。】
【みなもの攻撃:炎蝶Aに命中。炎蝶Aを倒した】
【みなもの攻撃:炎蝶Bに命中。炎蝶Bを倒した】
【みなもの攻撃:炎蝶Cに命中。炎蝶Cを倒した】
【みなもの攻撃:炎蝶Dに命中。炎蝶Dを倒した】
【みなもの攻撃:炎蝶Eに命中。炎蝶Eを倒した】

 巨大な鉄槌のような水の力に押され、炎蝶達は消滅した。
「やった…できました…」
「おっと。お疲れ様、大成功だ。」
 成功したことで気が抜けたのか、崩れるように倒れるみなもの体に手を伸ばし支える。
「後は…私に任せてくれ。みなもさんだけに見せ場を取られるのは男として寂しいものがあるのでね」
 皇騎はそっとみなもの身体を地面に降ろし、刀を胡蝶の方へ向ける。
 水の攻撃に胡蝶は身体を折り…だが。
 それでも胡蝶は歩いた。
 身を起こし、正面を見据え、震える足取りで、二人の方へと。
「貴女がどんな夢を抱いていたのか、語ってもらえないので解りませんが」
 水飛沫のついた髭切の刀身が胡蝶を映して光る。
「人間に仇なす…いえ。
 みなもさんに怪我もさせてしまいましたし、私の分も含めて、貴女にお返ししますよ」
 風が動く。
 水も加勢するかのように、皇騎の動きを妨げず、逆に胡蝶の動きを押さえる。
 一閃。
 上から来るそれを、胡蝶は扇で受け止めた。が。
 髭切は扇を斬り割り勢いそのままに胡蝶の肩に喰らいつく。
 そのまま勢いにのせて肩から腹へと切り裂いていく髭切。
 一瞬の出来事。
「あ」
 という音と僅かな口の動きだけで、胡蝶のその姿は霧散して消え。

【皇騎の攻撃:クリティカル!胡蝶を倒した】
【戦闘終了】

 無機質なシステムメッセージが戦いの終りを告げた。


>『CROSS』:夢の終り

「あら…あららら?」
 僧侶の呪文を使い傷を癒していたみなもが、急に妙な声をあげる。
「どうしました?」
「目の前がぼやけて…どうしたんでしょう…」
 顔の前に自分の両手を広げ、確認するかのようにじっと見ながら動かしている。
 そのようすに口の端を綻ばせ、楽しそうな笑みを零して、皇騎は腕を上げ差し示す。
「胡蝶が消えたことで、現世とこの場所との繋がりが消えかかっているんでしょう。ほら」
 皇騎が指差した先、それは胡蝶の後ろ。祭壇にあった沢山の――魂の水晶球。
 淡く光を放つそれが少しずつその形を失っていく。
 しばしその光景に見入っていたみなもだが、
「あ!!」
 何かに気がついたように慌てて荷物袋の口を開く。と、その中からも淡い光が漏れ出した。
 そっと手をいれて水晶球を取り出す。ユリウスから預っていた魂の水晶球だ。
 みなもの手の中で水晶球は一瞬見知らぬ誰かの笑顔を映し出し…そして一瞬光が強くなったかと思うと消えた。
「…解放…されたのでしょうか?」
 手に残されたのは、微かな温もり。
 そっと手を握りみなもは皇騎に問いかける。
 何処か不安の残るみなもの顔に向かって、皇騎は微笑んでみせた。
「大丈夫ですよ。この私が保証します」
 柔らかい、優しい微笑み。
 その笑みにみなもも安堵したような笑みを取り戻す。
「さあ、みなもさんも自分の体に戻りなさい。何処へ行けばいいかは…解るね?」
「はい」
 胡蝶を倒した直後からみなもの視界へ徐々に描かれていった蒼い流線。
 それは雨が山へ染み込み、小さな川となり、やがてと大河となって海へ繋がる水の流れにも似て。
「海が…導いてくれます」
 確信をもって、みなもはそう答えた。

>エンディング:ユリウス

【208】ありがとう
投稿者:ユリウス  投稿日:2003年3月12日16時30分
 青いお姫様と高貴なる騎士へ。

 友達は無事に戻って来た。
 他の奴等も無事に戻って、今はそいつらが見たその夢の話で盛り上がったりしてる。
 日本刀を持ち魔術師のローブを纏った魔法剣士と、青い小さな姫様の話だ。
 
 噂はまだ残っているけれど、クエスト自体が今は発見できなくなっている。
 魂の水晶球というアイテム自体、全て消えてしまった。
 もう、怖いことは起こらないんだろう。

 本当にありがとう。
 俺を信じて助けに来てくれて。
 助けてくれて。

追伸:
 魔法剣士はクールなカッコイイ男で、お姫様は後数年経ったら絶対口説きたいような美人だったって…
 最近の酒場BBSではそんな盛り上がりをしてることを追記しておく(笑)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0461/宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)/男/20歳/魔法使い
1252/海原・みなも(うなばら・―)/女/13歳/僧侶

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、ARCANAです。
 今回は電能遊戯にご参加ありがとうございました。

 皇騎さんはカッコイイ、なんでも出来るお兄さん!というイメージで書かせていただきましたが…
 問題が一つ。
 なんでも出来るから…何をさせよう、でした。
 最初式神プログラムやらダイブの内容やら書いていたのですが…すみません文字数オーバーです。
 いえ現在もオーバーしてるんですがそれ以上にオーバーしてた為に削ってしまいました(汗)
 ごめんなさい、精進します。

 今回はもうお一人の参加者、みなもちゃんが13歳という若さだった為に、みなもちゃんのサポートをするお兄さんという役回りになりました。
 レディに易しい皇騎さんならきっとそうしてくれるだろう…という願望あわせてでしたが如何でしたでしょうか?
 また、みなもさんの方とは出だしが少し違います。
 ユリウスとみなもさんとの掛け合いがありますので、良かったらそちらもご覧ください。

 お暇があったらで結構ですので、ご意見・ご感想、心よりお待ちしております。
 ご指摘などでも歓迎します。まだまだ修業中の身ですので。

 それでは宮小路・皇騎さんの今後のご活躍をお祈りし…またお会いできる日を夢見ております。