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調査コードネーム:あの──────の家の前で
執筆ライター :紺野ふずき
調査組織名 :草間興信所
■ オープニング ■
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親愛なるキーちゃんへ。
こんにちわ。覚えてますか? ミカです。
引っ越してから全然連絡しなくてゴメンね。
本当はキーちゃんの声も聞きたかったし、
手紙も出したかったんだ。
でもね、私一人転校して、皆はそこで変わらないで……
それがすごく寂しかった。
だから、連絡取らなかったんだ。
本当にゴメンね。絶交されても仕方ないよね。
十年もほっぱらかしちゃったもんね。
あのね今度の土曜、そっちに仕事で行く事になりました。
学校とか公園とか……まだ変わりないですか?
あまり時間は取れないけど、歩いてみようかなって
思ってます。
キーちゃん。
良かったら、怒ってなかったら、また逢えるかな。
よく遊んだ帰り道の、あの場所覚えてますか?
夕焼けのオレンジに茶色のタイルが光って、
二人で良くそれを見上げたよね。
お腹が──ていたから、二人とも──────みたいって。
来れ───なら来てください。
時間が──まで、待ってます。
あの──────家の前で。
ミカ
P.S
怒ってたら恐いから、連絡先は記さない事にするね……
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その日、草間の元へ訪れた娘の手には、一通の手紙が握られていた。
文面からするに、昔なじみの友人からの手紙のようだ。
内容は至って簡単。再会を望むものだった。
ただ所々インクが滲み場所の指定が曖昧になってはいるが、当人同士共に過ごした記憶を辿れば、その場所の見当も容易く付くはずだ。
草間は「ふむ」と頷いた。
「それで……この手紙をもらって何か問題があったのかな」
草間の前で悲しげな目をしたのは『冴場・希美(さえば・きみ)』。二十才のOLだ。
希美は目に涙を溜めて、草間を見上げた。
「いいえ、手紙には何の問題も……ただ」
「ただ、どうしたんだい?」
「ただ、私……小学校六年生の時にあった交通事故が原因で、それ以前の記憶が無いんです。家族や友人は一生懸命、記憶が戻るように尽くしてくれました。でも、どんなに思い出そうとしても思い出せず、今はもうその記憶が無くても不便の無い生活を送っているので、そのままになってしまって……」
草間はもう一度、手紙を読み返した。
ミカと言う少女は十年前に転校していった。と、すれば希美はその当時、十才。小学校の四年生か五年生になる。事故にあったのは六年生の時。ミカとの記憶は全く無い状態なのだ。この手紙のぼけた部分が致命傷となってしまった。
希美は手紙がポストの中で雨に濡れていた、とポツリと言った。
「この手紙をもらって、直ぐにお母さんに聞きました。お母さんはミカの事を覚えていました。とても仲の良かった友達で、毎日遊んでたって……昔の写真の中にもミカはいました。三年、四年と同じクラスでいつも隣で笑ってました。お母さんにこの手紙を見せたら、遊んでた場所までは分からないって……」
「なるほど。で、君はどうしたいんだい。残念だが失った記憶を元に戻す事は……」
「いいえ、そんな。ただ、彼女に逢いたいんです。逢って話がしたい。話せば私の記憶も戻るかもしれない。それにはこの待ち合わせの場所がどこか知りたいんです。仕事が終わるのが遅くて、自分で調べている時間も無いし……お願いします!」
草間はしばし思案に暮れた。
ミカと連絡が取れれば一番早い。しかしミカは、連絡先を一切手紙に添えなかった。
草間は封筒の消印を見た。そこには『広島』とあるが、それが実家なのか一人暮らしの住まいなのかさえ分からない。また、ミカが転校した後に引っ越しを重ねていれば、ミカの線を辿るには膨大な時間を費やす事になる。捜査は希美側に絞った方が良さそうだ。
草間は受話器を取り上げると、それを肩に挟んで振り返った。
「君の記憶を取り戻す為にも、腕の良い連中を紹介しよう。時間は確かにあまり無いが、まあ何とかなるさ」
希美は希望に満ちた顔をほころばせた。
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■■ 金曜日 午前 ■■
「あ、ありました」
「こっちも見つかったわ。これで今と昔の違いが分かるわね」
ヒソヒソと二人は声を忍ばせた。
場所は図書館閲覧室。『持ち出し禁止』のプレートの下がる部屋の中だ。重要書籍や資料が並ぶこの部屋には、コピー機が備え付けられていた。
二人はそこを陣取った。
一方の名はシュライン・エマ。
優しいが凛とした風情を湛える瞳と、細く女らしい線を持った草間の片腕だ。と、言ってもそれは副業であり、翻訳業にゴーストライターと言う二つの仕事を持っている。
そしてもう一方は、グレーのツーピースにブーツと言うカッチリとした出で立ちの少女、白里焔寿(しらさとえんじゅ)だ。茶の髪に翡翠の瞳を持っている。足下にまとわりついているアメリカンショートヘアーは、焔寿の愛猫であった。名はチャームと言う。蒼いリボンを付けた美人だ。
「大人しくしてるのよ、チャーム」
チャームは焔寿を見上げて、ニャアと鳴いた。
「それにしても、よく見つからずに入れたわね」
「本当に」
二人は顔を見合わせ苦笑した。カウンターの死角を、チャームは二人の先導となりながら、涼しげな顔で通り過ぎたのだ。
そして図書館員は、それに全く気が付かなかった。まさか猫が堂々と歩いて入ってくるなど、思っても見なかったのだろう。逆に抱いていたら気づかれたかもしれない。チャームの作戦勝ちと言った所であろうか。
コピー機は、シュラインの操作に従って紙を吐いた。
複写しているのは現在と十年前の地図だ。もちろん今日の依頼人の家周辺のものである。
二人は出てきた二枚を見比べた。空き地にはマンションが建ち、無かった道が通ったりしていた。
「建物が残っているといいんだけど……」
シュラインは地図を丁寧に折り畳んだ。全部で四組ある。内、一組を焔寿に手渡した。
「シュラインさんは、これからどうしますか?」
「ううん、地図を見ながら色々辿ってみようかしら。小学生の行動範囲だし、そう広くは無いはず……」
「私、希美さんのお母さんに、通学路を聞きに行ってみようと思ってるんですけど、シュラインさんも良かったら一緒にどうですか?」
焔寿に言われて、シュラインはハタと気づいたようだ。入学式や授業参観。その行き帰りの道が通学路の可能性は高い。だとすれば本人が忘れても、希美の母は覚えているはずだろう。
「その手があったのね」
「はい」
二人と一匹は揃って希美の家へと向かった。
空にはうっすらと雲が出始めている。
「嫌な雲行きになりそうね」
シュラインは呟いた。
駅から五分。希美の家は表通りを一つ入った、小さな眼科の前にあった。こじんまりとした戸建てで、庭の花壇にはチューリップの芽が顔を覗かせている。
僧は、その家のチャイムを鳴らした。
「はあい」と遠い声がする。現れたのは、希美の母らしき中年の女性だった。年は四十代前半であろうか。柔和で明るい目をしている。
僧は軽く一礼し、名を名乗った。
「儂の名は浄業院是戒(じょうごういんぜかい)と言う。草間興信所から希美殿の件でお伺いした」
堂々とした立ち居。骨太で荒々しい感じのする、いかつい顔をしているが、大阿闍梨と言う位を持する僧の事、悪事を働かぬ者にその目が剥かれる事は無い。
希美の母はニコリと笑い、是戒を玄関へと通した。
「では貴方が、希美の事を助けてくださる……。生憎と今、希美は仕事に出ているんですけど……」
是戒は頷いた。
「いや。当時のお二人の写真があれば、お借りしたいだけなのだが……」
「写真ですか? それなら昨日、希美が持っていったばかりで、まだあの子の部屋にありますから、ちょっと待ってて下さいね」
そう言って希美の母は正面の階段を昇って行った。
右手にはトイレ、左は廊下を少し行った所に扉がある。
残された是戒はふと、玄関右手に備え付けられた下駄箱の上に目を留めた。白い陶器の一輪挿しに、黄色いチューリップが挿してある。希美の母はこの花が好きなのだろう。庭にも同じ花が植えてあった事を是戒は思い出した。
パタパタとスリッパの音が聞こえ、まもなく希美の母がやってきた。
「これをどうぞ。昨日持たせた物と同じ写真です。あの子は自分で選ぶ事が出来ないので、私が選んだものなんですが……」
是戒は神妙な顔で頷いた。
それは何気なくて、とても哀しい言葉だった。しかし、希美の母にとってはそれが当たり前のようだ。あっけらかんとしている。
希美が草間にも話した通り、『記憶を失っている』と言う事実は、さほど重要ではなくなっているようだ。
八年前に失った十二年分の過去。ここまで来るのは、相当な苦悩があっただろう。本人の戸惑いや不安。周囲の感じる悲しさや寂しさは計り知れない。だが今は、その上に新しい思い出がある。
まして、希美はもう二十才だ。十二才までの記憶を頻繁に呼び起こす事も無い年齢だろう。
是戒は希美の知らない希美の過去を受け取った。
「記念の品、必ず大事無くお返しさせて頂く」
「はい。宜しくお願い致します。あの子と陣内さんは、小学校の三年、四年と同じクラスでした。逢う事で、あの子の記憶に波が起これば、って淡い期待も抱いているんです。あの子には内緒なんですけどね」
思い出せるものなら。
そう思うのが常だろう。
是戒は一礼を交わし、ドアノブに手をかけた。そこへタイミング良くチャイムがなった。
「あら……」
希美の母が扉を開くと、立っていたのはシュラインと焔寿である。
「む?」
「あら」
「え?」
三人は顔を見合わせた。
「まあ、お知り合いですか?」
そう希美の母が問うた所へ、今度は別の声。
「こんにちは」
細身にサングラス。草間の協力者だと名乗ったその名は、東鷹栖号(ひがしたかすなづく)だ。本来なら情報屋が正しき職業である。
「まあ、玄関先では何ですので、こちらへ」
希美の母は四人を左手通路奥の居間へと案内した。八帖ほどの和室で、中央にこたつが置いてある。
「どうぞ。今、お茶を持ってきますから」
一行は是戒の前にシュライン、焔寿の前に号という配置で腰を据えた。
「これを先程、お借りしたのだが」
是戒はそう言って写真を取りだし、こたつの上に置いた。
「私たちも図書館でこれを……」
シュラインはコピーした地図を広げて見せる。
「現在地は──」
一同が地図を覗き込んでいると、希美の母がトレーを手にやってきた。
「お坊さんは、お茶で宜しいでしょうか?」
「これはかたじけない」
希美の母は是戒に日本茶を差し出した。他の者の前にはコーヒーを置く。配り終えるのを見計らって、焔寿は口を開いた。
「あの……お尋ねしたい事があるのですが」
「はい」
「希美さんの通学路をご存じですか?」
希美の母は間髪置かずに頷いた。
「ええ。ただ、寄り道先は分かりませんけど」
と、言って朗らかに笑う。
焔寿は十年前の地図を希美の母に渡した。地図の縮尺は二千分の一。住宅地図などで使用される、家主や店名などの名の入った、かなり詳細な地図である。正位置は南を下に置いた。
「これで、その道を教えてもらえませんか?」
「いいですよ。と、言っても難しく無いので、口で説明しても簡単なんですが……」
やはり土地の者は、自分の住んでいる場所を探すのが早い。まもなく「あった」と小さな声を上げた。指さしているのは『冴場』の名のある住居である。
「ええと、家を出て、初めのT字路はこの商店街の方です」
指が東へ行った後、最初の曲がり角を南へ下りた。
「商店街をずっと過ぎて、突き当たりを左へ行くと、直ぐに公園が出てきますので、それに沿って歩きます」
この場合、言葉で言う左は東だ。地図を正位置で見ると右になる。指は南から東へと向かった。
「あとはずっと真っ直ぐ。大体十分くらいの道のりでしょうか」
辿り着いた先には『本町第一小学校』という空間があった。道の左手である。そこまでの距離は、およそ指一本の長さしかない。
「ミカさんのお家の場所も、分かればお願いしたいんですが」
希美の母は首を傾げた。
「途中までなら知っているんですけど……」
地図に戻る指先を一同は目で追った。
「この公園、学校へ行く時は直進なんですが、陣内さん──ミカちゃんの家に行く時は公園の手前を入るんです」
指が公園と民家に挟まれた道を下りる。
「この道のどこかに、『ケムシミチ』って言う抜け道があるらしくて、そこから行くと近いんだって言ってました。別の行き方もあるんですが、かなり遠回りになるんだそうで」
「『ケムシミチ』?」
「何でしょうね。子供達は皆、そんな風に呼んでたみたいですよ。少し先まで行けば、ちゃんとした道もあるんですけどね。生憎、ミカちゃんの家についてはこれ以上何も……」
公園の脇を入った道には、東方向へ六本、西方向へ一本の横道がある。そのまま真っ直ぐ進むと、少し大きな裏通りへとぶつかるのだが、西方向への道はこの裏通り近くにならないと出てこない。
どうやらそこまでの間に、地図にない『ケムシミチ』と呼ばれる西へ向かう道があるようなのだが……。
「住所などは、ご存じないですかな?」
是戒の言葉に、希美の母はしばらく顔を傾けていたが、やがて一つだけ思いついたようだ。
「ちょっと待って下さい」
と、言って席を立った。
戻ってきた時、手にしていたのは古い手紙の束だ。黄ばんで表に書かれたインクも、茶色く変色している。年賀状のようだ。
希美の母はそれを一枚一枚繰っていた。
「あった。ありました。『陣内ミカ』。住所は『本町三の十二の五、グリーンコーポAの203』です」
「三の十二の五、十二の……」
希美の家は『本町三の三の三』。ミカは同じ三丁目内だ。地図を辿っていたシュラインは、公園を南下した道の左方に『十二番地』の区画を見つけた。この道から『五号』と言う場所へ向かうには、間にある『七号』と『八号』と言う、縦長の区画を越えなければならない。
だが、よくよく線を拾って行くと、ここには切れ間がないのだ。公園の終わりから始まり、裏通りに近い場所まで、ずっと繋がっている。つまり先程の西への道は、この二つの区画の迂回路なのだ。そこまで下りてから、今度は北へ戻る道を掴まえる。でなければ『五号』と言う住所にたどり着けなかった。
子供でなくても面倒を感じるルートだ。
号は地図から目を離し、希美の母を見やった。
「他に何か手がかりになりそうな事はありませんか? ミカさんの他に親しかった方は?」
希美の母はもう一度席を立つ。今度は卒業アルバムを手に戻る。
「『高見洋子』ちゃんと、『樹下由加里』ちゃん。三年生の時からずっと一緒で、希美があんな風になってからも良くしてくれました」
開いたアルバムから二人を捜し出した希美の母は、一同にそれを見せた。六年生時の始めに撮った写真だ。ミカはもういない。希美も記憶を無くす前なのか、はつらつと笑っていた。
「二人の住所が裏に……」
希美の母が開いたページは住所録になっている。号はそれを書き写した。
「母上殿。『茶色のタイルの家』と聞かれて、思い当たる節は何も無かったですかな?」
「残念ですが……」
希美の母は、是戒に向かって首を振る。
「でも、私の知る範囲では、そう言った特徴的な家は無いと思います。あれば私の目にも入るはずですから」
「となると……お聞きした通学路からは、少し外れた場所になるのだな……」
「とにかく手分けして探してみましょう」
シュラインは地図を折り畳み、カバンの中へしまった。一行が立ち上がると、希美の母はそれを引き留めた。
「良かったら、少し早いお昼でも召し上がって行きませんか? さっき席を立った時に、お寿司を頼んでおいたので、もう少ししたら届くと思いますよ」
時刻は十一時過ぎ。
希美の母の笑顔に、一同は上げた腰を何気なく落としたのだった。
■■ 金曜日 午後 ■■
「学校に公園、帰り道、子供の遊び場、茶色いタイルの壁、夕焼けが映る見晴らし……。希美殿の学校の近くを歩くか。何はともあれ行動せん事には、始まらん」
食事後、散会した是戒は、脚力を生かして希美の帰宅路を辿っていた。だが、希美の母が言った通り、目当ての建物らしき影は無い。
学校の前に立ち、是戒は思考を巡らせていた。
早い昼食だったせいか、校庭は昼休みの生徒達でまだ賑わっている。校門に立つ僧侶と言う物は目立つのであろうか。数人の子供達が、歓声をあげながらやってきた。
「お坊さんだあ!」
「どうしたの、お坊さん!」
元気な膝小僧を剥き出しにして、無邪気に笑うその顔。
是戒も自然と笑みを浮かべた。
「何々?」
太い鉄格子のような校門に掴まって、子供達は興味津々だ。絶えず聞こえてくる賑やかな喧噪も、是戒の耳には心地よい。
「茶色いタイルの壁を知らんか?」
そう問うた是戒に、子供達は「ううん」と考え込んだ。
「『ブロックのお家』は?」
一人の男児が言った。
「『ブロックのお家』ってどこ?」
もう一人が首を傾げる。
「『煙突のお家』じゃない?」
さらに別の女児が言った。
「知らない、それ何処?」
別の子供がまた首を傾げる。
聞いている是戒にはさっぱりわからなかった。
「その二つがどこにあるのか、教えてもらえんか?」
「アッチ!」
それまで違う事を言っていた二人の子供が、揃って同じ方向を指さした。それは是戒から見て左になる。
たった今、通ってきた道でもあった。同じ建物を言っているのだろうか。それとも偶然、方向が重なっただけなのか。
是戒は唸った。
「あっちと言うと、公園があるが……」
「そう。そのずっと向こうだよ」
「ずっと向こうー!」
「茶色いお家だよ!」
「うるさい犬がいるよ! 吠えるんだよ!」
「怖いよ、でっかいの!」
子供達の良いところと、悪いところは図に乗りやすい事である。競い合うように話す二人の声は、いつしかキャンキャンと言う子犬のケンカに等しいものとなった。
やがて。
ピリピリピリピリーッ!
鋭い呼子が吹き鳴らされた。
「こらーっ! そこの生徒! 校庭の真ん中で遊びなさい!」
と、若い女性教諭が、タイトスカートにジャージと言う出で立ちで走ってきた。生徒達は一斉に逃走を始める。その様子は蜘蛛の子を散らすかの如く、だ。是戒は思わず笑い出した。
「どこのお坊さんか知りませんが、困ります! 近所の人から通報が来るんですよ。不審者が居る! って!」
「む、これはすまん。捜し物をしておったのだ」
是戒は気圧されて目を瞬かせた。
「捜し物?」
「この辺りで『茶色のタイルの家』を探しておるのだが……」
女性教諭は険しい顔のまま、是戒を睨んでいる。それが時折、小刻みに傾いた。一応、考えてくれているらしい。
なかなかに一生懸命で愛嬌のある先生だ。
是戒にはそう映った。
「分かりません!」
そして女性教諭は考えるのを止め、きっぱり言った。
「駅からここまでの道には無いですね」
「ふむ」
「でもどこかで見かけたような……。確か家庭訪問の時……」
「何でも子供達は公園のずっと先に、それらしき物を見たと言っておったが」
女性教諭は固まった。再び考えているらしい。その背中に誰かの投げたドッジボールが、ドスッとぶつかった。
女性教諭は振り返ると、ボールを小脇に抱えた。校庭では数人の生徒達が「わー」と言って逃げて行く。
「思い出せません! これで失礼します!」
是戒が礼を言う隙も与えず、女性教諭は手を振り上げて走って行った。
「こらーっ! 人に向かってボールを投げちゃ、いけませええん!」
ピリピリピリピリーッ!
呆然と是戒はその背を見送った。だが、何となくそれらしき手がかりは得られたようだ。
是戒は子供達の言う『あっち』、つまり西を目指して歩き始めた。
しかし、公園から先の道は一本。見る限りでは、茶色のタイルは見あたらない。
是戒は立ち止まった。
そこへ──
「おぼおおさあああん」
何処かで聞いた声に呼び止められた。振り返ると先程の女性教諭が走ってくる。是戒の前に立ち止まると、肩で息を切らした。
「思い出しました! 桜木君の家の隣が、そんな家でした!」
「ほお! それは何処に?」
「この先をずっと真っ直ぐ行って、猛烈に吠える犬を左! です。それでは、失礼します!」
子供達もそんな事を言っていた。女性教諭はそれだけ言うと、慌ただしく戻っていった。
「何とかなりそうではないか?」
是戒は呟くと、歩を早めた。
空は曇天。雲行きはかなり怪しい。
歩いていると、左前方から犬の唸り声が聞こえた。見ると、腰丈のブロック塀の上に設けられた鉄柵から、白い鼻が覗いている。
「うむ。間違いない」
是戒がその角を曲がると、犬が勢いよく吠えだした。鉄柵を飛び越えたいのか、体当たりしたいのか。よくわからない暴れ方で大きな体を踊らせている。
「何もせん。ここを通らせてくれぬか?」
是戒の声に、犬は唸った。しばらくそうしていたが、犬は黙って玄関の前に横たわった。
全長を見るとかなり大きい。犬種は犬の中でも最大級クラスの、アラスカンマラミュートと呼ばれるハスキー犬を大きくしたような種類だ。
庭の隅には犬舎が置かれており、プレートには『ラブ太郎』と書かれていた。
おとなしくなった犬に頷き、是戒はそっとその場を立ち去った。
そして、歩き始めて六軒目──
「……『茶色のタイルの家』」
是戒はそこで立ち止まった。
黒く低い鉄柵と艶の無い茶色のタイル張り。小さな庭は芝で埋め尽くされている。三階建ての鉄筋コンクリートの家は、子供達の言った通り、四角いブロックを思わせた。
シュラインと焔寿は公園にいた。
焔寿は足下のチャームを抱き上げてその頭を撫でた。本当は希美達と同じ状態で街を歩いてみたかったのだが、今日の雲行きでは待っていても、夕焼けは訪れそうにない。
落胆している焔寿を、シュラインは慰めた。
「元気だしてがんばりましょう」
焔寿はコクリと頷く。
学校に行った事の無い焔寿には、同級生という存在が身近にいなかった。だから、希美やミカのような関係は羨ましかったのだ。離れていてもこうして逢いに来てくれる友達。
だが、希美はその事を全く覚えていない。何もしなければ、二人は互いにすれ違い、そのままとなってしまうだろう。
「会わせてあげられると良いんですけど……」
「大丈夫。その為に皆で探してるんだもの」
シュラインは言った。
焔寿は頷くと、地図を覗き込んだ。三つの場所に印がつけられている。希美とミカの家、学校。それらを結んだ三角形のほぼ中央に公園はあった。
シュラインは考えを口にした。
「手紙を見るに、目的地は小学校からの帰りに行ける範囲……。つまり荷物を持って歩いて行ける範囲にあるわね」
ランドセル、体操着、それに時と場合によっては、白衣と上履きを持っている事もある。これらを抱えて、そう長い距離をウロウロするはずはないだろう。
「だとすると、やっぱりこの三点から大きく逸れずに動くと考えるのが、妥当だと思うんだけど」
「そうですね。学校の方は是戒さんが行くと言ってましたから」
「じゃあ、私達は逆ね」
「ミカさんの家から希美さんの家の間ですね」
シュラインは頷く。
「茶色のタイル張りの家なんて珍しい気もするし……、人がいたら聞いてみましょうか」
「そうですね」
二人は公園を突っ切り、あの遠回りとなる迂回路へ足を運んだ。
ミカの家までは『ケムシミチ』が近い──
そう希美の母が言っていたが……。
「あまり良い感じのする道では、無い気がしますね」
焔寿は不安そうな顔をしている。その予感は果たして的中した。
公園から数十メートルの距離に、その入口はあった。
頭上には隣家から張り出したトタン屋根、両サイドにはヒイラギモクセイと言う、少しギザギザした葉の垣根が出口まで続いている。覗き込むと向こう側の民家が見えた。下は砂利で、自転車の轍が無数に付いている。
恐らくこれが『ケムシミチ』だろう。いかにもそんな気配がする。
「冬の今なら大丈夫よね?」
「た、多分ですけど……」
冷や汗を掻きながら、シュラインと焔寿はそこをくぐり抜けた。走っても走っても拭えない何かが追ってくるような、そんな気持ちで。
「それで、どこに出たのかしら……」
「後ろに看板があります」
振り返ると頭上に、『千歳屋』と言う古ぼけてすすけた看板が見えた。どうやらその店の脇を抜けてきたらしい。二人は胸を撫で下ろして地図を広げた。
公園を南下、その道に沿って平行に目をやる。
「『千歳屋』、千歳──」
シュラインの視線が止まった。
『ケムシミチ』は恐るべきショートカットだった。縦長の二区画が連なる住宅地を突っ切って、一気に出たそこは五号。つまりミカの家のすぐ近くだった。
二人の前には直進路と左折路が開けているが、その左を選び、しばらく行って右に出てくる『株式会社、今市』を右折すればそこがミカの家となっていた。
「でも、残念な事に『ケムシミチ』なのね……」
「迂回した方がいいかもしれません」
通り抜けてきた垣根に、ビッシリと集るケムシを二人は想像した。
「止めときましょう」
「は、はい」
正直、想像したくなかった。気分を入れ替えると、二人は辺りを見回した。
右前方に高いマンションが見えている。その他に目立った建物は無い。
地図でマンションの位置を確認すると、二人の見ている十年前の地図には、何も記されてはいなかった。空き地だったようだ。
「シュラインさん。近そうだし、行ってみませんか?」
「そうね。向こうに茶色の建物が無いとも限らないし……」
二人は地図を収めて歩き始めた。大きな鉄筋コンクリートの壁が近づいてくる。シュラインと焔寿の歩いている道は、丁度このマンションの側面に面しているようだ。正面へ回る為に、手前の角を曲がった。すると──
「あら」
「おお、シュライン殿、焔寿殿」
是戒がやや上方を見上げ、マンションを背に佇んでいた。
二人も振り返り、是戒の視線を追った。そこにはあの茶色のタイルが並んでいた。
「これ……」
「うむ。恐らく」
三人はしばし、その建物を見つめていた。
これが日差しを受けた時、希美達には一体何に見えたのだろう。シュラインは囁くように呟いた。
「……小学生の夕方時なら、お腹が減った頃よね。美味しそうに見えたとすれば……チョコレートかしら」
「うん。きっとそうですよ。だって、そう見えるもの」
焔寿ははにかむ。
幼い子供達の発想の広さは、是戒が身を以て、つい先程学んできた事だ。そうであってもおかしい事など一つも無い。
頷く是戒の額を、ポツリと冷たいものが打った。
「む、降ってきおったか」
「雨?」
三人は空を見上げる。
頭上ではますます雲が厚みを増していた。
■■ 金曜日 午後三時 ■■
方々を歩いて、号は最後に辿り着いた。
空からは小さな水玉が落ち始めている。
「これが例の建物かどうか分かればいいんだけど……」
シュラインが言うと、号は頷いた。
「確かめましょう」
まだまばらな雨とも言えぬ雨の中、号は静かに歩み寄ると問題の家の鉄柵に触れた。
テレパシスト──号は命の有無に限らず、そこにあるものの記憶に侵入する事が出来る。
十年前に何があったのか。
それをこの家の鉄柵は覚えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミカちゃんが転校する日。クラスでやったお別れ会で、あたしが最後に言った言葉はクラスの代表としてで、全然あたしが思ってる事じゃなかった。
向こうでも早く友達を作って下さい──
なんて……これっぽっちも思ってなかった。
ただ、あたしは彼女がすぐに戻って来るものだと思っていた。
会の後、彼女の家に行った時も、あたしは彼女に「さよなら」を言わなかった。おばさんに日本地図を見せられて、「ここへ行くの」と言われた時も、自分の住んでいる所さえハッキリしなかったあたしは「ふうん」とだけ言った。
日も落ちて帰ろうとすると、おばさんが言った。
「みか、キーちゃん送ってってあげなさいよ」
何となく空気が重い。
苦しかった。
ミカちゃんは終始うつむいていた。
おばさんに見送られて家を出ると、あたりは一面夕焼けでオレンジ色だった。その中であたしは、今日帰ってから見る予定の、二人が大好きだったアニメの話をしていた。
彼女は笑いながらも心ここにあらずと言った感じで、生返事を繰り返した。目の前に茶色の家が見えてくると、彼女は返事さえしなくなった。ここがあたし達二人の家の中間点──いつものバイバイの場所だった。
■■ あのチョコレートの家の前で ■■
「ここでいいよ。みかちゃん、じゃあね」
「……うん」
夕焼けをまともにうける茶色の家の、ちょっと変わった長方形のでこぼこしたタイルが、光沢を帯びている。
彼女はそれを見上げて言った。
「きーちゃん……、見て、ほら──」
チョコレートミタイダヨ──
大粒の涙を流して静かに泣く彼女も、やっぱり「さよなら」は言わなかった。
■■ 金曜日 午後三時十五分 ■■
チョコレートの家。
謎は解けた。が、こんなにも近い場所なら、記憶を取り戻そうとした時に、通ったのではないだろうか。
一行は首をひねった。
しかし、事故を起こした当時、希美は六年生だ。四年生だった頃から見れば、クラス替えもして友達も変わっている。親や友達が案内した場所に、ここは含まれていなかっただろう。公園も学校も商店街も、皆手前だ。ここを通らずに事が足りてしまう。
そしてミカが転校してから二年。記憶を失った少女に、誰がその事を持ちかけただろう。
「難しいわね」
シュラインがポツリと呟く。
「そうですね。そこにいる人達の事も覚えていないのに、引っ越していった人の事を持ち出すはずはない……。皆、自分を思いだして欲しいでしょうからね」
号の言葉と共に、雨が音を立て始めた。
「明日は晴れるでしょうか」
「……うむ」
焔寿と是戒は空を見上げる。
このタイルに西陽の当たる時が、希美の記憶に光の射す時かもしれない。
四人に残された事は、希美が過去を取り戻せるよう祈る事だけだった。
■■ 土曜日 午後四時三十分 ■■
晴天。
空は見事に晴れ、雲一つ無い天気となった。
待ち合わせの時間にはまだ早い。
その日の下を号と希美は歩いていた。ゆっくりと過去を見るように、街の一つ一つを確かめる。
昨日、一人回った街を号は案内して歩いた。生憎と仲の良かった二人は、転居に一人暮らしと、その所在を確かめるまでは出来なかった。
二人は公園の横を抜け、南へ向かった。
「号さんは、この辺りに詳しいんですね」
希美は無邪気に笑んだ。
「そんな事はないですよ。昨日、随分と歩いたので覚えてしまったんでしょう」
肩をすくめて笑う号に、希美は驚いたようだ。
「そうだったんですか。ごめんなさい」
「いいえ。昨日は希美さんが仕事だったので無理でしたから。今日は少し早めに来てもらいました。一緒に歩こうと思って」
号はふと立ち止まった。そこには鬱蒼と茂る垣根と、素晴らしく狭い道がある。号は希美を振り返った。
「この道、何か思い出しませんか?」
と、問う。しばらく考えた後、希美はかぶりを振った。
「……いいえ、ごめんなさい」
「謝らなくていいですよ。焦らないで。この状況を楽しむくらいで行きましょう」
「楽しむ?」
号は微笑を浮かべてみせた。
「そうです。童心に帰って」
希美は静かに目を閉じ、深呼吸した。本人も一生懸命なのだろう。何回かそれを繰り返した後、号に向かって笑い返した。
「分かりました。童心に帰って」
「その調子です。行きましょう」
「え、ここを通るんですか?」
まるで怖い物でも見るような目で、希美は垣根を見た。
「大丈夫。昨日、ここを二人の女性が通りました。何も『いなかった』みたいですよ」
希美は眉根を寄せる。
「いなかった、って……何かいるんですか?」
「まあ、行きましょう」
号はそう言って希美の手を取った。希美は恐る恐る号に誘われ、垣根をくぐりだす。
「……は、走ってもいいですか? 何となく『ケムシ』がいそうで」
「いいですよ」
号はニコリと笑って、希美が走るのに付き合った。
垣根をくぐり抜け、希美は大きな溜息を付く。
「こんな所があったんですね。知らなかった」
「まだ、他にも知らない所がありますよ」
号はそう言って、今度はミカの家へと希美を案内した。
「ここは?」
「今日、お逢いするミカさんの住んでいた場所です」
「ここが?」
希美は目を細めた。
ミカの家は角地にあり、二棟並んだアパートの手前だった。幼い頃は何度となく訪れていたはずなのだが……。
「ごめんなさい、やっぱり」
希美は静かに首を振った。
意気消沈する希美に、号は変わりない態度で接する。
「いいえ。次に行きましょう」
「はい……」
希美は頷いて、ミカの家だったアパートを振り返った。
号はそんな希美を黙って見守る。
希美はアパートから目を離すと嘆息した。
その瞳は哀しかった。
■■ 土曜日 午後五時 ■■
待ち合わせの場所に全員が揃った。
困った事が起こったのだ。あの家に全く陽が当たらない。大きなマンションがそれを遮って、辺りには暗い影が落ちている。
案内された希美も困惑の表情を浮かべていた。
「あの……本当にここで?」
不安そうな声に、シュラインは頷いた。
「ええ、間違いないないんだけど……」
「……そうですか」
一行はマンションの庇の下にいた。
待ち合わせの場所は正面の家なのだが、いくらなんでも知らない者が自分の家の前で佇んでいたら、家の持ち主が気にするだろう。マンションなら人の出入りはいくらでもあるはずだ。そこで場所を少しだけずらしだのだが……。
希美にはあの家を見ても、何も感じる所が無いようだ。実はまだ、一行は希美に『キーワード』を話していなかった。
見て思い出す事を願っていたのだが、琴線には触れなかったようだ。希美の反応は鈍い。
「失礼」
号はそっと希美の額を指で触れた。
希美の目が大きく見開かれる。
「そのまま……」
号は静かに囁いた。
「あの手紙、覚えていますよね? 『お腹が空いていたから』と入れると、光に照らされた茶色のタイルは……、何に見えると思いますか?」
号の指先から送られてくる思念。それを希美は受け取った。
「チョコレート……?」
希美はそう言った。だが、それはどこか虚ろで、見たままを口にしたような台詞だった。
「あの、この家は……」
希美はそれっきり難しい顔をして口をつぐんだ。
時間が過ぎるにつれ、希美の顔に苦悩の色が濃くなって行く。
「む……」
是戒が眉を潜めた。
一人の娘が犬を気にしながら、通りを曲がってやってくる。相変わらず動物が苦手なのだろう。ミカに違いない。
「希美さん」
焔寿はソッと希美を庇から押し出した。
「大丈夫かしら」
「後は本人次第だのう」
その背をシュラインと是戒が見送った。
ミカは一行を不思議そうな顔で見た後、希美に向かってペコリと頭を下げた。
「ごめんね、キーちゃん!」
だが、希美は黙りこくっている。ミカは恐る恐る顔を上げた。
「……やっぱり怒ってるよね?」
希美はミカの顔をじっと見つめている。思い出そうと必至なのだ。
希美が見ているのは、二十才の娘の顔。化粧を覚えて女らしくなり、十年前の子供時代のものとは違う。記憶に一致する所が無いのかもしれない。
口を開かぬ友人にミカは戸惑い始めた。そこに哀しそうな色が混じった時、希美はやっと口を開いた。
「ごめんなさい。謝らないといけないのは私の方なの。実は……事故で記憶を失って、小学校から前の事を覚えていないんです」
ミカは口を開けたまま、呆然と立ち尽くした。
「き、キーちゃん?」
突拍子も無い話だろう。直ぐには信じられないのも無理は無い。だが、希美の顔は冗談を言っていなかった。
「本当なの? でも、この場所に来てくれたじゃない」
言いながら、茶色のタイルを指さす。
希美は静かに首を振り、ミカに手紙を開いて見せた。
「あの人達に探してもらったの。この手紙をもらってから……」
濡れて読めなくなった手紙。その文字をミカは指でなぞった。
「じゃあ、ここに書いてあった言葉も覚えてないんだね。ここは、キーちゃんと最後のお別れをした場所なのに……」
希美は何も言えなかった。
だが、その時奇跡は起こったのだ。
今までマンションの影に隠れていたはずの陽が、建物の合間を縫って煌々と射し始めた。
二人を──
そして、あの茶色のタイルを照らすオレンジの光。
ミカは家を見上げた。
希美も見上げた。
「あの時と同じだよ。キーちゃん……見て」
ミカは泣いていた。
ハッとしたような希美の顔が、ゆっくりとミカへ向く。
次の瞬間、言葉を発したのは希美だった。
「ミテ……チョコレートミタイダヨ……」
希美はボンヤリしていた。
十二年間、途切れたままの糸が今、ようやく繋がったようだ。ミカは素直に歓声を上げた。
「き、キーちゃん!」
「ミカちゃん! チョコレート、チョコレートって言ったよね? この家──」
後は声にならなかった。
傾いて行く陽の中、手を取り合って涙ぐむ二人に、是戒は笑んで頷いた。
「切れる縁などあるものか。皆、何処かで必ず繋がっておる……、出会えた事がその証。憤りも恐怖も、抱く必要はない」
ただ、笑え──
一行は二人を残し、現場を後にした。
■■ 依頼終了 ■■
数日後。
草間の元に希美とその両親が訪れた。深々と頭を下げる三人に、草間は何度、顔を上げてくれるように頼んだか分からないと言う。
その至福の笑みから、果たして報酬は取れたのか。
各々に届くはずの金一封二万円を、シュラインは何故か辞退したそうだ。
「受け取ると後で恨まれそうなのよねえ」
そう呟いた事は、探偵には内緒のようだった。
終
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 (年齢) > 性別 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ(26)】
女 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
【0838 / 浄業院・是戒 / じょうごういん・ぜかい(55)】
男 / 真言宗・大阿闍梨位の密教僧
【1056 / 東鷹栖・号 / ひがしたかす・なづく(27)】
男 / 情報屋
【1305 / 白里・焔寿 / しらさと・えんじゅ(17)】
女 / 天翼の神子
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■ あとがき ■
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こんにちわ、紺野です。
初めましての方、いつもお世話になっている方……、
この度は当依頼を解決して下さりありがとうございました。
体長を激しく崩しておりまして、書き上げて真っ白で
何も思い浮かびませんf(^ー^;
苦情や、もうちょっとこうして欲しいなどのご意見は、
喜んで次回の参考にさせて頂きますので、
どんな細かい事でもお寄せ下さいませ。
感想や激励メールは、泣いて喜びます。
いつにも増して短いあとがきで、ごめんなさい。
本当に真っ白です。
今後の皆様のご活躍を心からお祈りしつつ、
またお逢いできますよう……
紺野ふずき 灰(死)
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