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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三下秘剣帖


■ オープニング

 この度、アトラス編集部の主催で「世界のオカルトアイテム展」が開かれる事となった。
 夜な夜な泣き声を上げるというアンティークドール、一度身につけたが最後死ぬまで取れぬという能面、乗組員全員が洋上で謎の失踪を遂げた貨物船の航海日誌……等々、さまざまな珍品、奇品、魔品、とにかくいわく付きの品々が国内外から集められ、現在編集部の片隅に積み上げられている。
 ひとまず貸し倉庫にでも納めて結界を敷いて……という案もあったのだが、麗香の「そんな予算はどこにもない」という一言によってあっさり却下され、開催までの間、ひとまずそのような保管状態の下に置く事にしたわけなのだが……やはりというかなんというか、あっさり問題が発生した。
 ある夜、突然起こった地震により、積み上げられた品々の山が崩れ、たまたま近くを通りかかった、運の悪い2人の人間へとオカルトグッズの数々が雪崩となって降り注いだのである。
 地震の規模はたいしたものではなく、それによる被害などは何もなかったのだが……
「……ふふふ……かりそめの身体を得、今こそ我は蘇った……血を……命を……魂を我に捧げよ! 愚劣なる異教徒共め!!」
 突然、麗香が光る目でそう叫んだと思うや、巨大な両手剣を手に、外へと走り出していく。その身はいつのまにか黒い僧服のような衣装に包まれ、暗いオーラを全身から放っていた。
 そして……
「……哀れな……悠久なる封印の戒めの中で、お前は憎しみしか育まなかったというのか……よかろう、ならば今一度、我が力にて封じるのみ。ゆくぞ!」
 もう1人、凛と叫んで後を追う人影。
 誰あろう、三下だった。
 こちらは麗香とは対照的に、白銀に輝く全身鎧を身にまとい、純白のマントをはためかせている。手にした武器は、細身のレイピアであった。
「……」
「……」
「……」
 2人の豹変ぶりに一瞬何が起こったのかわからず、あっけにとられる編集者達だったが……真相はすぐに知れた。
 麗香が手にしていた大剣は、その名を”ヘルズアイ”といい、12世紀の初頭、息子を十字軍遠征で失い、気の触れたとある枢機卿が異教徒への怨念を込めて作らせたと伝えられる魔剣だった。
 手にした人間はたちどころに妖力に取り込まれ、人の魂を食らう剣の下僕となり果てるのだそうだ。
 一方、三下が手にしたのは、その魔剣ヘルズアイの力を封じるためにのみこの世に生み出された剣で、名は”ヘブンズアイ”。手にした者に、力と、知恵と、勇気を与える聖なる剣だという。
 それぞれに偶然手にした麗香と三下が、その力に取り込まれてしまったらしいのだが……なんにせよ、このまま放っておくわけにもいかないだろう。
 残された編集者達は、大慌てでなんとかしてくれそうな人物へと連絡を取り始めるのだった──


■ 集まった勇者達・真夜中の市街大乱戦

「悔い改めよ! 今ならばまだ間に合う!」
 三下の声が、夜の街に響いた。
「ふん、やはり来おったか! 貴様などとは語る口を持たぬ! この地を満たす汚らわしき人間共と共に地獄に落ちよ!!」
 麗香の声が、それに応える。身体は漆黒のローブに覆われ、全身からは黒々とした闇の気が炎となって吹き出し、揺らめいていた。
「滅びるがいい!!」
 血の色をした巨大な両手剣を頭上に掲げ、まっすぐに振り下ろす。三下へと向かって。
 2メートルを超える刃が、空気を薙いで地面を叩いた。
 刹那、

 ──ドォン!!

 轟音が上がり、アスファルトが陥没する。
 それだけにとどまらず、瘴気を伴った衝撃波がそのまま地面を削り、三下へと伸びた。
「……やはり、我が声は既に届かぬか……かつてと同じように」
 白銀の鎧に包まれたその奥で、三下の瞳がわずかに細まる。
 その胸の内に沸くのは、憐憫の情か、あるいは悲しみか……
 しかし、そんな表情を浮かべたのもつかの間、彼は迫り来る魔風に向かって、すっとレイピアを構える。
 その時にはもう、騎士としての風格を全身にみなぎらせていた。
 信じるもののために、己を賭して戦う。そんな気高い魂が、かすかに浮かんだ迷いを心の奥底へと封印したのだ。
 ……今はただ、戦うのみ。
 白銀の騎士が、その一刀を瘴気へと振るいかけ……
「……」
 その動きは、不意に止まった。
 顔がわずかに、斜め前方を向いている。
 視線の先に、いつのまにか1人の男が立っていた。
 目にも鮮やかな白いスーツに、木の杖を携えている。
 涼やかな瞳が瘴気を捉え、手が空中に弧を描いた。
 幻想のように淡く輝く杖に触れると、黒い奔流がたちどころに浄化され、無害な微風と化していく。
「……麗香さんらしくもないミスをしたものですね」
 やがて、全ての瘴気を無力化すると、穏やかにそう口を開く男。
 ──灰野輝史(かいや・てるふみ)であった。
「貴様……」
 鮮やかな彼の手並みを目にした麗香の顔が、悪鬼の形相を浮かべる。
「ほらほら、よそ見してるとケガするよ! 麗香さん!」
 その背後から、そんな声と共に巨大な影が襲いかかる。
「むぅっ!?」
 振り返りざまに、いきなり横へと跳ねる麗香。
 助走もなしでたっぷり5メートル、道路の端から端へと移動する体術は、明らかに常識から外れていたろう。
 が、しかし、さらにその上を行く常識外れの巨体が、一瞬遅れてアスファルトを揺るがした。
 ……三つ首の、巨大な獣。
 それぞれに、燃え盛る炎の色を瞳に宿した狼の頭を持ち、首の周りに無数の蛇が生えている。長くしなる尾もまた蛇だ。
 しなやかな身体は黒く光る毛皮に覆われ、逞しい筋肉の盛り上がりがはっきりと見て取れた。
 その内に秘めた破壊力は、一瞬前まで麗香が立っていた地点を、何の苦もなく爪が大きく抉ったのを見れば想像がつくだろう。
 巨大な獣は、ギリシア神話で冥府タルタロスへの門を守るとされている地獄の番卒、ケルベロスであった。
 テュポーンとエキドナの間に生まれた子であり、勇者ヘラクレスと死闘を演じた物語は、ギリシア神話の中でも有名なエピソードのひとつに数えられるだろう。
 そして今、その背中には1人の少女の姿があった。
「……ふうん、さすがに避けるか。麗香さんてば、そんなに強くなっちゃって、もう」
 と、小さく微笑むのは、巫聖羅(かんなぎ・せいら)である。
 彼女は女子高生にして、冥府から死者の魂や魔神等を召喚し、自在に使役する事のできる反魂屋なのだ。
「……ッ!?」
 さらに、着地した場所より、不意に上空へと身を躍らせる麗香。
 まさにその瞬間、爆音と共に空中に火炎の花が咲き乱れた。
 熱風と爆炎が周囲のもの全てに襲いかかったが、全身を取り巻く瘴気に守られた麗香には、今一歩届かない。
「ふむ……気付かれないようにうまく火種を蒔いたつもりだったんですけどね……ふん、だがまあいいでしょう。まともに食らわせれば、どうやらそこそこのダメージはありそうですからね」
 と、輝史の隣に立つ、黒いスーツ姿の男。
 メガネの奥で、知性的な瞳が冷静に自分の攻撃を分析していた。
 ──冴木継人(さえき・つぐと)。炎を自在に操る能力者にして、退魔師を営む若者である。
「……皆さん、相手は一応麗香さんなんですから、多少は手心を加えないと……」
 やや苦笑しながら、つぶやく輝史だ。
「あら、あたしは最初からそのつもりだよ」
 巨体が大地を揺らして隣に並び、聖羅が地上に降り立つ。
「こちらももちろん心得てますよ。ですが、場合が場合です、多少の事は仕方がないでしょう」
「うん、そうそう」
「……多少、ですか」
 どう見ても喰らえば致命傷になりかねないような攻撃をしているようにしか見えなかったが……実際に当たらなかったのだから、輝史もそれ以上は何も言わなかった。
 ただ、自分はきちんとフォローに回ろうと心に決める。
「そなた達は、私に力を貸してくれるのか?」
 3人の背後で、生真面目な声。
「ええ、もちろんですよ」
「あの恐いお姉さん、知り合いだからね」
「……仕事として受けましたからね」
「そうか……」
 三者三様の返事が返されると、騎士は一旦剣を収めてその場に膝をつく。
「すまぬ。他の者を我らの呪われた運命に巻き込むのは本意ではないが、いちはやくこの事態を収めるためには、腕の立つ者達の助力も必要不可欠なのだ。私自身はその行為に報いる術すら分からぬ無作法者だが、せめて最大限の感謝と敬意を示そう。どうか私に力を貸してくれ」
 真摯な態度で、語る騎士であった。
「……え、ええ……」
「こちらこそ……よろしく」
「……」
 対して、3人は少々戸惑いの様子だった。聖なる剣の意思が宿っているという事実は理解しているが、何しろその身体も声も「あの」三下なのだから。
「……麗香さんは元に戻すとして、三下さんはずっとこのままでいてもらった方がいいと思わない?」
「いえあの、さすがにそれはまずいのではないかと」
「なんにせよややこしい話ですね……まったく」
 などと、思わず小声で交わす三者であった。
「……下賎なる異教徒共め」
 低いつぶやきに、全員の目がそちらに向けられる。
「貴様等が何人束になろうと、我が怒りの炎はただ燃え盛り、貴様らを骨まで焼き尽くすであろう……その悪しき身と魂は、この世に一片たりとて残さぬ。覚悟するがいい……」
 大剣を手にした麗香が薄く笑い、目に赤光を帯びてそこにいた。
「……うわー、いつにも増してすっごい迫力……」
 聖羅がやや気圧されたようにつぶやく。
「異教徒、ですか。まあ、確かに俺はキリスト教徒ではありませんが……」
 と、静かに口を開く輝史。
「自分が信じた存在以外は認めないというのは、一神教を信じる者が陥りやすい誤りですね。確かそちらの教えには、汝隣人を愛せよ、という言葉もありませんでしたか?」
「異教徒は隣人などではない、敵だ! 滅ぼすべき相手だ!」
 対して、麗香が激しい口調で言い立ててくる。
「それを決めるのは神でしょう。貴方ではありませんよ」
「ふっ、私は神の代弁者だ。よって私の言葉は神の言葉に等しい!」
「……なるほど、そうですか。それはご立派ですね」
 小さく肩をすくめる彼だった。
 己のいいように教義を解釈する狂える魂……そんな相手と宗教談義を始めても仕方があるまい。それこそ時間の無駄というものだ。
「今時自分で自分を神様だなんていう奴は、詐欺師か頭のネジの取れかかった奴だけですよ。ああ、コメディアンというのもありますか……まあ、なんにせよ、冗談だとしても、さっぱり面白くないですけどね」
 継人も、あっさり斬り捨てる。
「なんでもいいからさ。とっととかかってきてよ。早く終わらせてくれないと困るって、編集部の人達にも言われてるしさ」
 聖羅も他人事のように淡々としていた。
 少なくとも、この中には狂える魔剣の言葉に恐れ入るような者などいない。
「……よかろう。貴様等、覚悟はよいな。我が一撃で冥府へと墜ちるがいい!」
 くわっと目を見開いた麗香が、巨大な剣を振りかぶる。
 3人と三下も、それぞれに身構えた。
 両者の間の緊張が一気に高まり、それが音を立てて切れようとしてまさにその時、
「きゃハハハハハハハハ!」
 突然、頭上で明るい声がして、
「うるとラごージャすスぺしャルろーりんグびりびりバリバリさんダーーーーーー♪」
 恐ろしく調子の外れた掛け声とともに、青白い閃光が空気を切り裂き、麗香へと迫った。
「むっ……!?」
 剣が受け止め、瘴気がそれを弾き飛ばす。
 激しい火花を上げながら四方八方に散った光は、どうやら電撃らしかった。
 麗香の背後で余波を受けた街路樹がまっ二つに裂け、炎を上げながらその場に倒れる。
「あーんもゥ! なんでよけルのヨ! バカバカ!」
 と、電柱の上に設置された丸いトランスにちょこんと腰掛け、頬を膨らませる1人の少女。
 黒いヒラヒラのドレスに、頭に髪留めという姿は、ウエイトレス風というか、メイド風にも見えた。背中には小さな羽のついたリュックを背負っている。年の頃は、大体10代半ばといった所だろうか。
「……あんた、誰?」
 聖羅が見上げ、尋ねる。
「ン? あタしのコトー?」
 ニッコリ微笑んだ少女が、身を翻した。
 まるで重さなどないように、電柱のてっぺんからふわりと一行の前に着地する。
「混線のォ〜〜国かラやって来まシタこのあタし〜〜♪ 呼ばれテ飛ビ出てジャんジャじゃ〜〜〜ん! ミリアで〜〜〜ス! こんちこれマタよろシクゥ! 皆ノ衆!」
 なんのつもりかその場でクルリと回って敬礼してみせる。
 ミリア・S、それが彼女の名だ。
「……」
「……」
「……そ、そう……」
 よくわからないが……とにかく味方らしい。
「アタシ知ってル知っテるこうイウの! テレビのアニメの撮影だヨネ? アニメっテ実写でもやるンだねェ。キゃハ、アタシも混ざルー!」
 ……が、正体不明の上に、かなりの誤解があるようだった。
 さらに、
「……」
 輝史の目が、ふっと上に向けられる。
 一行の前に、静かにヒラヒラと舞い降りてくるもの……
「これは……羽と……」
「バラの花ですね……」
 音もなく宙を漂い、ただ降りしきるそれらの雰囲気に、場が一種幻想的な空気に包まれていく。
「ねえ、あそこ」
 最初に気がついたのは、聖羅だった。
 彼女が指差したのは、傍らのビルの上。
 そこに、巨大な月を背景にして、ひとつの人影が超然と立っている。
「……静寂なる夜の帳を乱す者よ、貴様に戦いの美学というものを教えてやろう」
 朗々と流れる声は、夜気の中によく響いた。揺るぎない自信と実力に裏打ちされた、逞しい男の声だ。
「誰だおまえは!?」
 妖女と化した麗香が睨み、問う。
「ふっ……」
 男の口元に笑みが浮かび、こう応えた。
「……私の名か。よかろう、それを最期の言葉として胸に刻み、冷たく暗い死出の旅へと赴くがいい。一度しか言わぬぞ、よいか……」
 男が手にした剣を、まっすぐに麗香へと突きつける。
「我が名は断罪天使アーシエル! 今、絶対なる断罪を貴様の頭上に落としてみせよう! ゆくぞ! 音速の断罪!!」
「いけない! 皆さん下がって!」
 輝史が慌てて一同に告げた。
 と、同時に、
「ソニック・スラッシュ!!」
 凄まじい剣の振り下ろしにより生じた衝撃波が、巨大な砲弾となってその場を襲った。

 ──ドドォォォン!!

「きゃーっ!」
「……っ!?」
 揺れる地面、乱れ飛ぶ破片、狂ったような暴風。
 それらがひとつのセットとなって、ありとあらゆるものを粉砕し、突き抜けていく。
「……あ、相変わらずムチャクチャだわ……」
「まったくです……」
 聖羅と輝史は、以前にも会った事がある人物だった。
「…………知り合いなんですか?」
 と、継人が尋ねた。これ以上ないくらい、冷たい声で。
「ええ、まあ……」
「良かったら、紹介するけど?」
「いえ、結構です。友人は選ぶ主義ですので」
「……あたしもそうしたい所ね」
 ため息混じりにつぶやく聖羅だ。
「キゃ〜〜〜〜〜!! すンごいすンごい!! コれヨコレよコレなんだわ! あたしコーいうノ、パパの次にダーイすき!! きャハハハハハハ!!」
 ミリアのみが、頬に両拳を当てて嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。
 そんな彼等の前に、静かに舞い降りてくる断罪の天使。
 アーシエルと名乗ったが、本当の名前は広瀬和彦(ひろせ・かずひこ)という特撮俳優だった。
 その天才的な才能は、彼自身を演じる役柄と完全に一体化させてしまい、性格はおろか、役が持っているはずのありとあらゆる能力ですら使用可能にしてしまう。
 今のソニック・スラッシュも、現在絶賛放映中のとある特撮番組の劇中で、美形敵役であるアーシエルが使う技なのだ。言うまでもなく、そのアーシエルを演じているのが、この和彦なのである。
「……でも、あの剣、前に持っていたのとなんか違うね」
「そうですね」
 彼が手にした剣を見て、聖羅がふと言った。
 隣の輝史も頷いて、あらためてじっと見てみる。
 刀身そのものは、ほのかに赤く染まった両刃だ。長さは約1メートルちょっと位だろうか。柄はバラの花をあしらったデザインで、金銀や宝石をふんだんにちりばめた豪華な造りとなっている。戦闘用というよりも、儀式用らしいと思えるものだ。
「……」
 が、形よりも何よりも、刀全体から炎のように吹き上がる妖しげな気配に、輝史は嫌な予感を感じたのだが……

 ──PPPPPPPP……

 ふと、その輝史の懐で携帯電話の呼び出し音。
「……はい、もしもし。はい、はい…………そうですか……なるほど、わかりました。わざわざどうもすみません。ええ、間違いなくそれもこちらに……ええ、そちらも回収します。はい……」
 途中から顔色も声もどんどん重くなっていく様子に、聖羅と継人もそれが良くない知らせである事はすぐに感じ取ることができた。
 やがて、軽いため息と共に電話が切られると、
「何か……悪い知らせね?」
 聖羅がストレートに、そう聞いた。
「……そうとも言えませんよ」
 曖昧に笑った輝史が、今の連絡の内容を説明する。
「編集部に広瀬氏が現われて、事情を聞いている最中、あの剣を手にしたそうです。その瞬間にアーシエル化したとの事で……”私を呼ぶのはお前か”とかなんとか剣に語りかけたとか……」
「で、その剣とはなんなのですか?」
 続けて、継人が尋ねた。
「……ナポレオン率いるフランスに敗北が決定的となった神聖ローマ帝国の諸侯が、自ら死を選ぶ際に用いたと伝えられる悲劇の剣で……名称は”ローゼス・ヴィルヴェルヴィント”だそうです」
「直訳すると、バラのつむじ風……ですか。なんともまた派手な名前ですね」
「……いかにもあの役には合ってそうな感じかも」
 輝史の台詞を聞いて、聖羅と継人もまた、頭の痛そうな顔をした。
「私が瘴気を切り裂き、活路を開こう。その隙に奴を倒すのだ……ゆくぞ!!」
 そんな彼等をよそに、バラの魔剣を手にした断罪天使が高らかに宣言する。
「承知!」
 後に続くのは、凛々しい瞳の三下だ。
「……魔剣の数で言ったら1対2です。そういう意味ではこちらが有利ですよ」
「ややこしさがその分増すだけではないのですか?」
「言えてるね……」
「いえあの、皆さん、そんな悲観的にならずに……」
 そう言う輝史の顔も、もちろん複雑そうだ。
「アははは! 悪党はミナごろシだー!!」
 ミリアはミリアで、明るい声で物騒な台詞を張り上げる。
 かくて、本格的な戦いが、今火蓋を切って落とされた。


■ 激戦・魔戦・大混戦

「今宵の風は薔薇の香りだ。存分に味わうがいい!」
 アーシエルの声と共に、全てを蹴散らす旋風が生まれる。
「はぁっ!!」
 そのすぐ後を追って、三下が地を蹴った。
「ぬぅっ!!」
 麗香の魔剣、ヘルズアイが薔薇の風を切り裂き、四散させる。
 その隙を逃さず三下が切り込んだが、鋭い金属音を上げて一撃は受け止められていた。
 2つの魔剣が真正面から激突し、火花が散る。
 光を帯びた刀身が闇を蹴散らし、闇を纏った巨大な両手剣が光を次々に飲み込んだ。
 絶え間なく続く激しい剣戟の響きと、共に人を遥かに超えた神速の動き。
 狂える呪いで人に仇成すものと、それを滅ぼすためだけにこの世に存在するもの……両者はまさに互角だ。
「光の剣士、貴様の力はその程度か? 私を失望させるな!」
 アーシエルの叱咤が飛ぶ。
「おぉぉぉっ!!」
 髪の毛一筋分の間合いで麗香の剣を交わした三下が、裂帛の気合と共に無数の突きを繰り出したのはまさにその瞬間だった。
「ちぃぃっ!!」
 が、麗香の方も負けてはおらず、体勢を崩しながらも大きく後ろに跳んで間合いを取る。
「逃がさないっての!」
 そこに、巨大な獣が踊りかかった。3つの首の周りに生えた無数の蛇が、一斉に鎌首をもたげて緑色の煙を吐き出す。
 アスファルトの表面がとたんに泡立ち、ドロドロに溶け崩れた。
 触れたもの全てを瞬時にして腐食させる毒煙だ。
 麗香が剣で煙を引き裂き、さらに後方へと下がる。
 そこには、眼鏡をかけたスーツ姿の影。
「……ここから先は、通行禁止ですよ」
 空中で剣を振りかぶり、叩きつけようとする麗香だったが……
「……!?」
 その周りで、ふいに無数の火球が生まれた。
「私の仕掛けた火種は、そう簡単に感知できませんよ」
 薄く笑い、片手で眼鏡をそっと持ち上げてみせる継人。
 連続する爆発音と共に、その身体が闇の中、炎によって赤くシルエットを浮かび上がらせる。
「お、おのれ! 汚らわしい異教徒共の分際で小癪な真似を!!」
 それでも、剣風が炎を断ち、瘴気によって守られた麗香の身体には、ほとんどダメージがないようだ。
「ウわー! ワー! みンな強い強イーー!! さッすが正義のヒーローだヨネ!! あっちのオバサンも手強くッてイイカンジー! きャハハハハハ!」
「……」
 オバサンの一言が引っかかったのか、麗香の鋭い目がミリアへと向けられた。案外彼女の意思もまだ残っているのかもしれない。
 ……なんにせよ、いかにヘルズアイに宿った邪悪な意思が強力であったにせよ、これではさすがに多勢に無勢と言えるだろう。各個人の性格はともかく……という但し書きこそつくものの、秘めた能力はいずれも1級品なのだから。
 が、しかし、
「ふふふ……なるほどな。一筋縄ではいかんか。まあよい。ならばこちらも手駒を増やすまでだ」
 低く告げて、ニヤリと微笑む麗香。
「……手駒?」
 訝しげに眉を寄せて、輝史が尋ねる。
 この場には、今、自分達の他に人はいない。
 編集部にほど近い商店会のある通りなのだが、夜中でもあり、また三下に宿るヘブンズアイが人避けの結界を敷いたらしく、通りかかる者もなかった。ここでいくら物音を立てようと、周囲の民家の人間には、一切聞こえる事もないだろう。
 そんな中で「手駒を増やす」とは、一体どういう事なのか……
「……なんかヤバイものでも召喚するつもりかな?」
 傍らで低く唸るケルベロスを撫でながら、聖羅が言った。
「いや、奴にも私にも、そのような力はない……だが……」
 三下が何かを言いかけ、唇を噛んだ。どうやら何か思い当たる事があるようだ。
「さあ来い! 我が下僕共!!」
 剣を掲げ、麗香が叫ぶ。
 そのとたん、漆黒の刀身からおびただしい量の瘴気が噴出した。
 真上へと上がったそれは、上空で花火のように弾けると、あたりにまんべんなく降り注ぐ。
「な、なに?」
「これは……」
 が、一行には一切飛んでこない。
 あたりの民家や商店の屋根や壁に当たると、破壊するでもなくすうっと溶け込むように消滅する。
「一体何をしようというんですかね?」
 継人が、つぶやく。
 その答は、すぐに知れる事になった。
 ガラガラと傍らの店のシャッターが上がっていく。
 その隣の民家の玄関のドアもまた、開いた。
 いずれも、そこからゆらゆらとした足取りで、数人の人が出てくる。
 普段着であったり、パジャマだったり……服装、年齢、性別も様々だ。
 唯一共通しているのは、目の光がどんよりと淀み、焦点がまったく合っていない事だった。
 そのような人々が、通りに面した全ての建物より続々とこの場に進み出てくる。
「……瘴気を当てて人を操る……そういうことですか」
 輝史が、すぐにそれを見破った。
「そうだ。かつての奴もこの手を使い、何十何百という罪無き民を支配下に置き、人間の壁とした。奴のために命を投げ出す操り人形にな……」
「ひどいことするね……」
 三下の言葉に、聖羅の顔が怒りに歪む。
「ふふ……さあゆけ! 奴等を捕まえて引き裂いてしまえ!」
 麗香の号令と共に、たどたどしい足取りで向かってくる暗い目をした人々。
「どうするの? さすがにあの人たちを攻撃するのはまずいでしょ?」
 じりっと下がりながら、聖羅が言う。
「そうですね。なら、そっちは俺が相手をしましょう」
 1歩前に出たのは、輝史だ。
 静かな表情に落ち着いた声は、勇者を守る賢者──アーサー王に付き従った大魔道士マーリンのように頼もしい。
「1人では大変でしょう。私もそちらに回りましょう」
 さらに、もうひとつの影が隣に並ぶ。
 眼鏡をそっと片手で上にずらす姿は、継人である。
「あんた炎術師でしょ? そんな器用な真似、できるの?」
 そう尋ねたのは、聖羅だ。
「……」
 継人は彼女の方に振り返りもせず、手のひらに炎を立ち上らせると、それを無造作にこちらへと向かってくる人間の1人に放った。
 その炎は中年女性の腹のあたりにまっすぐに吸い込まれると、直後に一気に全身から青い炎が吹き出し、激しく燃え盛る。
「ちょ、ちょっとあんた! 何してんのよ!!」
 聖羅が思わず目を剥いたが……
「心配は無用ですよ。私の炎は私が命じた対象物だけを燃やすんです。それが物であれ、身体の中に取り憑いた悪いものであれ、それだけをね」
 あくまで冷静に説明する継人。
 確かに、炎が燃え続けたのはほんの数秒であり、それが消えると、後に残った女性には焦げ後ひとつない。ばったりと倒れこそしたが、表情もごく普通に気を失っているだけのようにしか見えなかった。
「……な、なるほど」
 さすがに、納得するしかない聖羅である。
「私は無論、敵と戦う。それこそが我が宿命だからな」
 言葉と共に剣を一振りするのはアーシエルだ。
「アタシも派手なホウがイイ! キャハ♪」
 と、これはミリア。
「……あたしもそっちかな。この子が生身の人間相手にしたって、引き裂くだけだから」
 ケルベロスの背に手を置いて聖羅が言った。
「なら、そういうことで行きましょう」
「すまぬ。皆の助力には心から感謝する」
「じゃあ、一気に決めましょうか」
「オー! 邪魔スる奴は、指先ひとツでミなゴロしダー!!」
「……殺してどうするんですか」
「では、参る!」
 役割は、決まった。
 全員が麗香へと振り返り、それぞれに行動を開始する。


 白い姿が、残像の尾を引いて、人々の間を駆け抜ける。
 目の前で樫の木の杖が一振りされると、それだけで意識を乗っ取られた人間の顔から邪気が消え、力を失った人形のように路上へと崩れ落ちた。
 他方では、次々と人型の青い炎が吹き上がり、バタバタと倒れていく。
 輝史と、継人。
 方法こそまるで違うが、どちらも着実に瘴気の魔の手から人を解放していった。
「いけっ! ケルベロス!!」
 少女の号令を聞いた冥界の獣が、雷鳴の如き咆哮を上げて麗香に襲いかかる。
 爪のひと薙ぎは車ですら一撃で粉砕し、吐き出す毒の煙はあらゆるものを溶け崩す恐るべき息だ。
 いずれも、まさに冥界の番人にふさわしい力だったろう。
「ワー! かッこイイッ!! ねねねね、おネーさンおネーさン! アレ、ロボットにヘンケーしナいノ? ロボット!」
「……しないわよ」
「ジャあ、おネーさンと合体スルとか?」
「……しないって」
「イちど倒さレタ後、変なコーセン浴びて巨大化スルんだヨネ?」
「…………あんたね……」
 目をキラキラ輝かせて聖羅に尋ねるミリア。
 冗談ではなく、本気で言っているようだ。
「魔剣ヘルズアイ! 貴様の実力、見せてもらおうか!」

 ──ドン!!

 ケルベロスの攻撃をかわした所に、ソニック・スラッシュが叩き込まれる。
「ふっ! そのような技が通じるかっ!」
 が、やはり剣の一振りによって風の渦は断ち切られ、余波も全て瘴気によって無力化された。
「……そのような子供騙し、我には通用せぬわ!」
 憎らしげに笑う、麗香。
「ふっ、子供騙しか。よく言った」
 一方、それを聞いたアーシエルもまた、口の端に笑いを浮かべていた。
「よかろう。そうまで言うのなら、貴様にはもうひとつの風の刃を見せてやろう」
「……なに?」
 言いながら、腰の剣を抜き放つ。本来アーシエルが持つ、彼専用の品を。
「貴様ごときには本来過ぎた技だが……まあいい。これも麗しい月の下での戯れ。いいか、手加減はしてやろう。だから後悔するな。そして死ぬな」
 2つの剣が頭上に掲げられ、美しい十字を描いた。
「食らうがいい! 音速の断罪、決して逃れられぬ2つの牙を!」
 薔薇が舞い、羽が乱舞する。
「ツイン・ソニック・スラッシュ!!」

 ──ドォォン!!

 音速を遥かに超えた速度で剣が振り下ろされ、空気を断ち切った。
 轟音と共に2つの衝撃波が生まれ、互いにねじり合いながら成長していく。
 全てを切り裂き、貪欲に飲み込んで無へと帰す空気の奔流。
「こ、これはッ!?」
 麗香の目が、限界まで見開かれた。
「キャハ♪ アタシもヤるゥ〜♪」
 嬉しそうに叫んだミリアが、ふわりと近くの電柱の上まで飛び上がった。
「皆で力を合ワセて勝利ヲつかむンだ〜♪ 勇者サマご一行のオ通りだゾ! イっけェ〜! あハハは!」
 重さなど無いかのように電線の上に進むと、麗香へとすっと指を突きつけ──
「ハイパーすぺシゃるローりぐ100万ボるトでりシゃスまーべラすエくセれんと……エート、それカラそれカラ……ウ〜〜〜〜ン……以下略ゥ! キャははは♪」

 ──キュゴッ!!

 まるっきり緊張感皆無の声で放たれた電撃は、先程の比ではなかった。
 彼女の全身とあたりの電線から炎みたいに紫色のスパークが飛び、目に見える範囲全ての家の明りが瞬く間に消えていく。
 この瞬間、実に都内で4万戸にも及ぶ民家、マンション、公共設備などで一斉に停電が起こり、一時的に都市機能が数時間に渡ってマヒする事となるのだが……後の電力会社の調査では、その原因がさっぱり掴めなかったという。
「うぉぉぉぉぉぉっっ!?」
 偉大なる風にケタ違いの電力まで加わった一撃は、さすがにどんな魔剣でも防げるものではなかったろう。
 さらに、
「ヘルズアイッ! 今こそ再び、永遠の眠りに就くがいいッ!!」
 風を巻いて真っすぐに突っ込んでいく白銀の鎧姿。
「おのれ! おのれぇぇぇぇぇ!!!」
 悔しげに漏らした声が、魔剣に操られた麗香の断末魔であった。
 鋼同士がぶつかり合う澄んだ音と共に、片方の剣が空中高く跳ね飛ばされる。
 くるくると回り、傍らに落ちてきてアスファルトに突き刺さるそれは……狂気の剣、ヘルズアイだ。
「……」
 幻のように麗香の全身がぼやけ、元の姿を取り戻していく。
 膝をつき、その場に倒れたときは、もう鬼編集長以外の何者でもない。
「…………終わったか」
 低くつぶやき、三下もまた剣を収めた。
「ヤったネ〜♪ ダイしょウり〜〜♪ せいギは必ズ勝つノダ〜〜! アーッはッはッはー♪」
 煙を上げる電線の上で、腰に手を当て、ミリアが高笑いする。
「……なんとかなりましたね」
「まあ、そうですかね……」
 輝史と継人が、顔を見合わせて頷き合う。
 操られた住人達も全員呪縛から解かれ、思い思いの格好で路上に横たわっていた。
「とはいえ……派手にやっちゃったね、今回もさ」
 ケルベロスを引き連れた聖羅も、その場にやってくる。
 彼女の言う通りだった。
 そこらじゅうに大穴が開き、建物の被害も結構ある。この通りで路上に駐車してあった車など、今はまともな形を保っているものすらない。街路樹は折れ、自動販売機は倒れ、火と煙が薄くたなびき、住人があちこちに倒れたこの光景は……まるで戦場で大虐殺でもあったかのようだ。
「ですが、人的被害はなしです。それだけでも良しとしませんか、皆さん」
「……」
「……」
「……」
 丁寧な物言いの主に、全員の目が向く。
 微笑を浮かべた甘いマスクの男性は……広瀬和彦その人だった。
 どうやら役が解け、本人の個性に戻ったようだ。
 残りの面々は「あんたがそれを言うな」とでも言いたそうな顔をしている。
「ネーネーネー、来週モ、ココで同じ撮影スルのー? だっタラそのトキ、またテツだってアゲルー! きャハ♪」
 ……とか言うミリアを除いて。
「あらためて、協力に感謝したい。この時代の勇者達に、我が誠意を込めて」
 振り返り、全員の顔を見渡して、騎士がそう口にした。
 手甲に覆われた手が、すっと持ち上がる。
「……いえ、こちらこそ。お役に立てて何よりです、騎士殿」
 輝史が慣れた仕草で礼を返し、自分の手を重ねた。
 それで気を取り直した他の面々も、すぐにそれに倣う。
「すまない。そしてありがとう。もう会うこともないだろうが、貴殿達の事は我が身が朽ちるまで決して忘れない。本当に感謝する。ありがとう……さらばだ」
 最後に騎士らしく無骨に微笑むと、自らの剣を傍らの地面に立つヘルズアイの隣に打ち込んだ。
 ちょうど交差する形で立てられた2本の剣が、その瞬間にまばゆく輝く。
 それが過ぎ去ると……後は墓標のように、ただ静かに地上に影を落とすのみだった。
 2つの意思は、また封印の奥底へと還ったのだ。
 三下の姿も元に戻り、その場にがっくりと崩れ落ちる。
「……さて、後はこれらに不用意に触れないようにしながら、編集部に持ち帰れば依頼は終了ですね」
「そうですね。下手に持とうものなら、我々でも危ないかもしれません」
 継人の言葉に、頷く輝史。
「へえ、誰でもあんな風になっちゃうのかぁ……さっきの三下さん、かっこよかったなぁ……もったいない」
「ナら、アタシ持とうカ?」
「……お願いですから、これ以上事態をややこしくするような事は言わないで下さい」
 女性陣の台詞に、嫌そうな顔をする継人だった。
 と──
「…………うぅん……」
 間の抜けた声と共に、三下が首をもたげる。
「あ、あれ? 僕なんでこんな所に? えーと……皆さん、何かあったんですか?」
 きょろきょろとあたりを見回して平和な事を言う彼は、すっかりいつもの三下である。
「……どうやら操られている間の記憶がないようですね」
「その方がいいでしょう。色々な意味で」
「ははっ、言えてる」
「……?」
 苦笑する面々をよそに、首を傾げて立ち上がる三下。
「……あ」
 その姿を見た一行の動きが、ピタリと止まった。
「え? あ、あの……何か?」
 突然全員の視線を浴びた三下が、目をしばたかせる。
 彼は立ち上がる際、支えとして、目の前にあった1本の剣の柄をしっかりと握っていた。
 こともあろうに……魔剣ヘルズアイの柄を……
 ごぉっと風が巻き上がり、強烈な瘴気が三下の身体を押し包む。
「わっ! わぁっ!?」
「いけない! 三下さん! その剣から手を離して!!」
 輝史が叫んだが……遅かった。
「ふ……ふふふふふ……残念だったな。今度は先程のようにはいかぬぞ……」
 暗い瞳と、全身から立ち上る瘴気を纏いつかせて、三下が低くつぶやく。
「……やれやれ。結局ややこしい事になるんですね」
 ため息混じりに、継人が言った。
「麗香さんの次は三下さんなの? もう……」
 聖羅も半ば呆れ顔だ。
 しかし、その隣では妖しい気配に反応して、既にケルベロスが低く身構え、唸り声を上げている。
「くくく……貴様達の技は既に覚えた。同じ手は2度と食わぬぞ。くくくく……」
 自信満々で笑う顔からして、その言葉に嘘はないのだろう。
 となると、前よりも激戦になることは必至だ。
 全員がそれを悟り、場の空気が一気に緊張の度合いを増していく。
 ……が。
「それはどうかな……」
 もうひとつ、自信と威厳に満ちた声が上がった。
 白銀の全身鎧に身を固め、今すっくと起き上がったその人物とは……
「れ、麗香……さん?」
 聖羅の目が、丸くなる。
「いい気になるのも今のうちだ。私がここにある限り、貴様の上に陽が昇る事などありえん」
「な、なにを……」
 麗香から放たれる無言の迫力に、三下の足がじりじりと下がっていく。
 そして、
「覚悟なさい三下ーーーーー!!」
「ひぃぃぃーーーーー!!!」
 有無を言わさず、麗香が三下に襲いかかった。
 剣ではなく、素手で頭を殴りつける。
「ふぎゃーーー!!」
 ぼこっと景気のいい音がして、三下は派手に後方へと吹き飛ばされた。
「このこのこのこの!! 何偉そうな事ほざいてんのよあんたは!! そんな事やってる暇があるなら、たまにはマトモな原稿でも上げてみなさい!!」
「ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 徹夜してでも上げますぅ〜!!」
「はっ! 徹夜なんていっぱしの編集者なら当たり前でしょ!! 貴様に睡眠を取る資格などないっ!!」
「そんなぁぁぁ〜〜〜!!」
 げしげしと遠慮なく三下を踏みまくる麗香……
 それはまさに、鬼編集長とダメ編集部員の光景に相違ない。
「……えーと……」
「……どうしろと?」
「あたしらの出る幕、あるのかな?」
「君子危うきに近寄らず……ですね。これは」
「コレでいいノダ!」
 かくて、一方的な戦いはヘブンズアイ……というか麗香の圧勝に終わり、無事再び2つの魔剣は封印されたという事だ。
 後に残されたのは、ボロ雑巾と化した三下だったが……これはまあ、いつもの事なので、大して気にする事はないに違いない。
 …………たぶん。

■ END ■


◇ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◇

※ 上から応募順です。

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0996 / 灰野・輝史 / 男性 / 23 / 霊能ボディガード】

【1177 / ミリア・S / 女性 / 1 / 電子生命体】

【1087 / 巫・聖羅 / 女性 / 17 / 高校生兼『反魂屋(死人使い)』】

【0973 / 広瀬・和彦 / 男性 / 26 / 特撮俳優】

【1334 / 冴木・継人 / 男性 / 25 / 退魔師】


◇ ライター通信 ◇

 どうもです。ライターのU.Cでございます。
 またもや納期ギリギリ……ううう、すまんです。この次こそは必ずや。

 輝史様、いつもありがとうございます。
 白い衣服に樫の杖。まさにマーリンですね。彼もドルイドですから、やはり通じる所が多いかと。一説によると、今でも魔女ヴィヴィアンに幽閉された塔に住んでいると言われていますが、ひょっとしたらお知り合いだったりするのでしょうか。魔術師同士の語らいとか、考えるとワクワクしますね。

 ミリア様、はじめまして。
 お父様、お母様(?)には大変お世話になっております。かなり天真爛漫のご性格のようで、この辺はお母様によく似ておいでです。というか、この親子が本気を出したら、世界のひとつやふたつは征服できてしまいそうな気がするのですが……その際は是非、おこぼれに預かりたいなと、はい。

 聖羅様、またのご参加、ありがとうござます。
 今回はケルベロスを召喚して頂きました。某女神●生とかに出てくるビジュアル系(?)ではなく、神話に忠実な思いっきり怪物の方で描いております。ちなみに首の数は一説によると3つどころか50とか100とかとも言われているようでして……さすがにそこまでやるとアレなので、一般的な3つという事にした次第です。

 断罪天使アーシエル様、またのご参加ありがとうございます。
 編集部で剣を探すとの事でしたので、悲劇の薔薇の剣、ローゼス・ヴィルヴェルヴィントをご用意させて頂きました。華麗なお姿にはきっとお似合いの一品かと。一振りするごとに血の如き赤い薔薇が舞い散るという設定にしてあります。ソニック・スラッシュもWで放って威力は数倍です。よろしければ、是非本放送でもお使い下さいませ。

 継人様、はじめまして。
 冷静な炎術師にして退魔士という設定がよろしいですね。いかにも敵を計算で追い込んで滅ぼしそうです。今回はそういう緻密な戦略を行う暇もありませんでしたが……それが残念です。それはそれとして、妹さんと無事再会できることをお祈りしております。ちなみに再会の場を描かれる場合は、私よりも里子ライターの方が良いかと思われます。私の所では笑いに走りかねません。危険が危ないです、はい。


 最後に、参加して頂いた皆様、並びに読んで頂いた皆様には深く御礼申し上げます。ありがとうございました。
 なお、この物語は、全ての参加者様の文章が全て同じ内容となっております。その点ご了承下さいませ。

 ご縁がありましたら、また次の機会にお会い致しましょう。
 それでは、その時まで。

2003/Mar by U.C