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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


レッスン1・探偵になろう − 探し物編 −


------<オープニング>--------------------------------------


 土砂降りの雨の夜。草間武彦は変な生き物を拾った。人型をしていたので思わず助けてしまったのだが、怪奇現象を引き寄せてしまう自分の運を恨まずにはいられなかった。
「武彦! 俺、お前の助手になる!!」
 そう高らかに宣言しているのは、片翼の悪魔である。尖った尻尾と角を持ち、八重歯が牙のようになっている。
「お前には無理だ。」
「なんでだよ! マスターの手伝いをするのが悪魔の役目だぜ!」
「そんなこと聞いたこともないぞ。」
「気にすんな。この翼でも分かるように、俺は悪魔としては落ち零れだから。全然問題なし!」
「ルート、悪魔が善良な思いから俺の手助けがしてくれるとは思えない。」
「なんで?!! 俺、こんなに武彦のために仕事したいのに!!」
 ルートは拳を握り締めて大絶叫を放った。そのうるささに草間は耳を塞いだ。
 どうやら、この悪魔は生まれて間がないらしい。悪魔の何たるかを知らないうちに、草間がうっかり名前を決めてしまったので、彼のマスターとして認められてしまっていた。いくら落ち零れと言っても、どんな性悪な悪魔になるか分かったもんじゃない。
「なー武彦ー、ちゃんと仕事できるからさー。ちょこっと信じてみようぜー?」
「……仕方ないな。でも、まずは素質があるかどうか調べてからだ。」
 押しに弱い草間は、渋々折れた。ルートはよっしゃーと喜んで宙を飛び回っている。
「なになに? 何すればいいんだ? どんなのどんなの?」
 わくわくと純粋に目を輝かせているのを見ると、後ろめたい草間の方が性悪であるような気分になってくる。
「行方不明の猫の捜索だ。」
「猫? なんだあ、武彦のところにも普通の依頼が来たりするんだな。」
「大きなお世話だ。……依頼人は高瀬美幸。猫の名前はユキ。名前のとおり全身雪のように真っ白な猫だ。尻尾が先で二股に分かれている。2週間ほど帰ってきてないらしい。」
「おし! 俺に任せとけっ! 武彦、行って来るぜー!!」
 ルートは喜び勇んで興信所を飛び出して行ってしまった。
 嵐の去った後に静けさに草間はほっと息を吐いた。
「甘いなあ、ルート。俺のところに普通の依頼が来るわけないだろ。」
 依頼内容が書かれた紙をひらひらとさせて、草間は肩を竦めた。
「この猫は人の姿に変化できる猫又だ。」
 ユキはかつて草間の元へ依頼をしにやってきたことがある。そのときは人間の姿をしていたが、霊感の強い妹の零などはしっかりと猫の姿に見えていた。変化に不慣れなユキは霊感のある人には変化した姿を見えないという欠点を持っているのだ。
「さてと、試験官をかねて見張りを頼んでおくか。」
 草間は受話器に手を伸ばした。



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「武彦さん、普通の云々って、今自分で言って少し悲しかったでしょ。」
 シュライン・エマがパソコンの向こうから顔を出した。ルートとのやりとりをずっと聞いていたのだが、会話に入りそびれていたのだ。
 パソコンの電源を落とし、がっくりと肩を落としている草間の背中をぽむぽむと叩いて、奥の部屋へと入っていく。そこは草間の仮眠室になっていた。
「何してるんだ?」
 中からごそごそと物音がするので、草間が不思議そうに覗いてきた。シュラインが草間の服を持って出てきたところと鉢合わせる。
「え?」
 行動の意味が分からず、草間は目を丸くした。シュラインは深く溜息をつく。
「武彦さん、あのままあの格好で外に出したのはまずかったと思うわよ? 下手に興信所の名前出されたりしたら信用がた落ちってこと分かってる? 興信所が悪魔飼ってるなんて、自分で事件を捏造しているとか思われたらどうするのよ。」
「うっ……。」
「そんなことだろうと思ったわ。」
 経営方針に関して、草間はシュラインに頭が上がらない。シュラインにしてみれば、草間が気にしなさすぎだと思うのだが。
「それにしても、ユキくんってあのユキくんよね……懐かしいわぁ。美幸さんとかどうしてるのかしらね。」
「美幸は元気みたいだけどな。」
「そう。久しぶりだし、会いに行ってくるわ。」
 シュラインはひらひらと手を振って興信所から出て行った。



 海原・みなも(うなばら・みなも)は不思議な物体を見つけていた。ゴミ箱に頭から突っ込んで足をバタバタさせている。一緒に尖った尻尾らしきものが動いているのは気のせいなのだろうか。
「ぷはっ。おわっ!!」
 勢いよく頭を出し、それは派手に尻餅をついた。どうやら生き物ではあるらしい。
「大丈夫ですか?」
 みなもが恐る恐る近付くと、彼はばっと顔を上げた。頭には角があり、口の端から牙みたいなものが見えている。背中からは黒い片翼が広がっていた。どう贔屓目に見ても悪魔に見える。
「なあ、猫知らない?」
「……えーと……?」
 みなもはとりあえず聞きたいことが一杯あった。どれから聞こうか悩んでいるうちに彼は違うものに興味を惹かれたらしい。テケテケと歩いていってしまう。
「あの……ちょっと……。」
「ちょっと待ちなさい、ルート。」
 追い縋ろうとしたみなもよりも早く、足早に長身の影が横切った。みなもにはその相手に見覚えがあった。
「シュラインさん!」
「あら、みなもちゃん、どうしたの?」
「いえ、彼が……。」
「ああ、ルートのこと?」
「ルート?」
「ここだけの話、武彦さんが拾ってきちゃったのよ。」
「拾うって……あの彼ってもしかして……。」
「そう。悪魔なの。」
 あの怪奇探偵はとうとう魔界にまで勢力を伸ばしたのかと、みなもは納得してしまった。
 シュラインはルートを電信柱の裏から引きずり出して、持ってきた草間の服を手渡す。
「ルート、いいからこれを着て。」
「なんだよ、これ。」
「武彦さんの服よ。」
「何でそんなもんを?」
「その格好じゃあ目立つから。翼や尻尾、角も隠してちょうだい。いいこと? 悪魔の格好では草間興信所の名前を出しちゃ駄目よ。」
「え?」
「いいからちゃんと守りなさい。武彦さんのためなんだから。」
「分かった。」
 ルートは草間の名前を出されると弱いらしく、大人しく服を着て(大きかったので、袖や裾は大幅に折らなければならなかったが)、外見は人間らしく装った。
「よしよし、いい子ね。それじゃあ、一つヒントをあげるわ。ユキくんは雄猫よ。」
「雄かー。」
 ルートはふむふむと考えながら、興味深そうに周辺を探って行く。
 みなもはシュラインに近付いて詳しい事情を聞いた。
「……なるほど。そんなことがあったんですね。猫又で、変身しても霊感のある人には見えないのかぁ。会ってみたいな。シュラインさん、あたし、ルートさんと一緒に探してみますね。あのう、美幸さんの住所とか分かりませんか?」
「はい、これが住所よ。頑張ってね。」
 メモ用紙を受け取り、みなもはルートの傍へと寄って行った。シュラインは監視のため、ルートから一定の距離を取っている。



 草間の電話で呼び出しを受けたのは、斎・悠也(いつき・ゆうや)と北波・大吾(きたらみ・だいご)と江戸崎・満(えどさき・みつる)の3人だった。監視はもう一人シュラインがいるが、彼女はすでにルートについていると聞かされた。
「とうとう弟子を取ったのか?」
 普段の服装である作務衣をきて、差し入れの灰皿と人数分の湯飲みを持ってきた、満がにやりと笑って草間をからかってくる。
「本当になんだか面白いことをしてますね、武彦さん。」
 悠也が興味深そうに呟く。退屈しないネタの持ち主に、思わず笑みを漏らしてしまう。
 草間は拗ねたように口を噤んだまま、敢えて弁解はしなかった。
「……悪魔か。悪魔に惑わされた山伏は、冥府魔道に堕ちて天狗になっちまうらしいけどな。西洋の悪魔っつうのは、やっぱ東洋のとは別のモンなのかねェ?」
 学ラン姿に霊紋刀入りの竹刀入れを持ち歩いている大吾は純粋にルートに興味があるらしい。
「で、俺たちは何をしたらいい?」
 にやにやとしていた満がふと真剣な口調になった。草間がそれを感じ取って、軽く溜息をつく。
「探偵に向いているかを審査して欲しいが……とりあえず、他に迷惑をかけないかどうか見張っててくれ。」
「審査項目は?」
「好きにして構わない。無事に猫を見つけれたら、評価は高いけどな。」
「分かった。」
「今、美幸の家へ向かっているらしいから、これが住所だ。頼んだぞ。」
 草間の言葉に、3人は軽く頷いた。



 みなもは困惑していた。
 ルートは相も変わらず奇怪な行動を繰り返している。突然人様の家に壁抜けで入っていったときには、どうしようかと思った。幸運にもその家は留守で、目撃者もいなかったが。
 今、ルートは橋の下に書かれた落書きをしげしげと眺めている。
「あのう、ルートさん、何してるんですか?」
 みなもが恐る恐る問い掛けてみた。
「何って、猫を探してるんだろ。」
「でも、まずは元いた家の近辺から探してみるもんじゃないかしら?」
「…………それもそうだな! 元いた家ってどこだ?」
「これが住所ですけど。」
 みなもはシュラインから貰ったメモをルートに見せる。
「よっしゃ! 行くぜ!」
 ルートはみなもの腕を掴むとひょいっと何かを跨ぐような動作をした。
「え?」
 近くで頭を抱えながら見ていたシュラインの呆気に取られた声が空しく響く。
 ルートとみなもの姿がその場から掻き消えてしまったのだ。
 草原で遊んでいた子供の一団が、うっかりその現場を見てしまったらしく、ぽかんと口を開けてこちらを見ている。
「今のなんだ?」
「消えたよね?」
「あ、あの。もしかしたら、ここに何か不思議な力が働いているのかもしれないわ。危ないから近付いたちゃダメよ?」
 シュラインはしどろもどろにそう解説すると、逃げるようにその場を後にした。
 ルートはみなもを連れて瞬間移動をしてしまったようだ。向かったのは恐らく美幸の家だろう。果たして無事に着いているのだろうか。
 シュラインは急ぐ道中で携帯電話を取り出した。
「谷田でーす。シュラインさん、どうしたの?」
「八橋くん、ユキくんを知らないかしら?」
「ユキ? ユキってもしかしてあの猫又の?」
「そう。美幸さんの猫よ。」
「懐かしいな〜。」
 谷田・浩二は以前ユキの事件に関わった一人である。シュラインはそのときに浩二に八橋というあだ名を付けて使っている。他にも「幽霊デリバリー」の異名を持ち、たびたび草間興信所に幽霊を連れてくることもあった。
「知らないのね?」
「聞いてないけどー……そういえば、そろそろ美幸さんの誕生日らしいよ? バイク仲間にちらっと聞いた話だからよく分かんないけど。」
「そう。どうもありがとう。」
「いえいえ〜。何かまた大変なことになってんの〜? 頑張ってねー。」
 浩二は飛び火してきては堪らないとばかりにさっさと電話を切ってしまった。シュラインは苦笑しながら、携帯電話を仕舞った。
「……誕生日、ね…………。」
 責任感の強い優しい猫だから、美幸の為に何かをするつもりなのだろう。



 突然の出現物に、美幸はぽかんと口を開けていた。少年と少女がいきなり部屋に湧いて出たら、誰でも驚くと思う。悲鳴を上げて失神しなかっただけ褒められたものだと思うのだが。
「すみませんすみません。怪しいものじゃないんです。あたしたち草間興信所から派遣されてきて……。」
「おい、シュラインが草間の名前出すなって言ってたぞ。」
「今はいいのよ! 依頼主なんだから、話を聞かないといけないでしょう。」
「そうか。おい、ユキはどこだ?」
「違いますー!」
 みなもは大混乱を起こしている。一瞬でこんなところに連れてこられたことに心底驚いたし、目の前に美幸の姿があって驚愕は焦りに変わり、意味の分からないことを言い出したルートに最早何を言えばいいのか分からない。
「えーとえーと……。」
「あの、落ち着いてね?」
 逆に美幸に心配されてしまった。
「お、驚かないんですか?」
「驚いたけど……こんなこともあるのかなって思って。以前彼氏が死んじゃったとき、私に会いに来てくれたりしたし、そういう不思議なことも世の中には存在するんだなって思ったからね。」
 素晴らしい大人だとみなもは感動した。思わず美幸に拝みそうになる。
「あのう、ユキさんが失踪した状況はどんなのでしたか?」
「さあ、それが分からないのよ。突然ふっと帰ってこなくなっちゃって。毎日きちんと定刻には帰ってきてたのに……。」
「そうですか。」
 どうやら美幸はユキを普通の猫だと思っているようだ。
「みなも! 写真がある。この猫がユキか?」
「そうよ。」
「この写真くれ。人に見せたら分かるかもしれない。」
「ルートさん、くれ、じゃなくて貸してくださいって言ってください。」
「いいわよ。純也と入れ替わりでうちに来た猫だから、ちゃんと見つけてね。」
「……純也さんって……。」
「うん。死んだ私の彼氏。」
 みなもは柔らかく笑う美幸に泣きたくなった。
「早く見つけてきますから。」
 いまだ写真を眺めているルートを引きずって、みなもは美幸の家を辞した。



 美幸の家の玄関先で、ルートとみゆきは、悠也、大吾、満と鉢合わせた。
「これが悪魔?」
 大吾は普通の人間に見えるルートを胡散臭そうに見つめる。
「よかった。ちゃんと翼とかは隠したんですね。」
 悠也がほっと息を吐く。
「俺たちは監視だから、好きにしてくれていいぞ。」
 満はどこか疲れている感じのみなもの頭をよしよしと撫でた。
「ルートはちゃんと美幸さんに情報を聞くことはできましたか?」
「はい、一応は。写真を借りてきましたし。」
「なるほど。」
 悠也は頭の中で、自分のチェック項目に丸を付けた。
「職務質問するぞ。いいか?」
「なんだよ、職務質問って。」
「ちゃんと試験を受ける気があるのか質問すんだよ。」
「試験を受ける気ならあるぞ。俺は武彦の助手として認められるぜー!」
「何かコイツと俺、口調似てるよーな気がすんなー。」
 大吾とルートが騒いでいる間に、シュラインも合流してきた。
「シュラインさん、びっくりしましたー。」
 みなもがひーんとシュラインに泣きつく。
「大丈夫だった?」
 何の心構えもなく瞬間移動を体験したみなもをシュラインは慰める。
「ふーむ。手段に難あり。」
 満がルートの行動を厳しくチェックした。
 その混乱の中、悠也はいくつかの蝶型の和紙に息吹をかけて美幸の家の方へと飛ばした。家に残っているユキの気配を蝶たちに追わせる。
 やがて、蝶はユキの居場所を捉えた。ここからかなり遠い場所にいるようだ。
「……何してるんでしょうか、彼は。」
 不思議そうに首を傾げる。とりあえず、今はルートのお手並みを拝見するしかない。
「それにしても、またすごいものを拾ったんですねえ、武彦さん。」
 悠也はルートを見つめながら目を細めた。悪魔の血の流れるこの身体で分かるルートの属性は、かなり上級のものだった。本人は落ち零れだと言ったらしいが、とんでもない力を持った種族に連なっている。これから経験を積んでいけば、草間が危惧するようなことは起こりそうだ。
「その辺は武彦さんに任せましょうか。案外面白い悪魔が出来るかもしれませんね。」
 本当に退屈しない人だ、と悠也は楽しそうに笑った。



 ルートは写真を見せながら、人に話を聞いていく。初めの方は、「この猫どこにいる?」などという聞き方をしていたので、みなもに正され、今ではちゃんと「見た覚えないか?」になっていた。短気らしいルートが見つからないどころか目撃証言もないことに苛立って、「本当に知らないんだろうな、脳ミソ覗くぞ。」と言い出したときには、悠也に張り倒された。満が即座に点数をつける。
 みなもの提案で、保健所に連絡を取り、ペットショップを覗いてみたが、それらしき猫はいなかった。
「動物と会話できたら、二股の尻尾の猫なんてすぐ見つかるんじゃねーの?」
 腕を組んだまま、近くで見ていた大吾が見かねて質問形式で探し方を教えてきた。
「そっかー。やってみよう。」
 ルートが手当たり次第に動物に話を聞いていく。逃げようとした猫を縛りつけて脅したり、非協力的な犬にはお仕置きを食らわす。何してんのよ、とシュラインに思いっきり引っ叩かれた。
 その中から有力な情報を聞いて、ルートは足取りも軽く先を進んでいった。
「もう隣町まで来てしまいましたね。本当にこんなところまで来てるんでしょうか?」
 みなもが不安そうに周囲を見回す。歩き通しで、みなもは少しお腹が空いた。ちょうど近くにコンビニを見つける。
「ルートさん、ちょっとお菓子でも買ってきていいですか?」
「買い物か! 俺もしてみたい!」
 シュラインは器物破損を起こしたらどうしようと思いながらも、わくわくしているルートを止める言葉が思いつかない。
「いらっしゃいませ〜。」
 店員の明るい声が聞こえてくる。シュラインはその姿を見て、目を見開いて硬直してしまった。相手もぎょっとしたように顔を歪める。
 みなもはそれに気付かずに、お菓子の棚へと向かおうとした。ルートは店員というか、カウンターの上をじっと見つめている。
「お前、こんなところで何してんだ?」
 ひょいっと店員の襟を持ち上げたので、みなもが驚く。
「何して……?!」
 言いかけてみなもは絶句した。店員の姿が一瞬にして消えていたからだ。一瞬ルートがどこかに瞬間移動させたのかと思った。
 ルートが猫の襟首を持ち上げていた。
「ユキ、見っけ。」
 全身真っ白で尻尾が二股に別れている猫がぶらぶらと宙に浮いていた。



「何で、カウンターなんかに乗ってたんだ?」
 ルートは不思議そうに問い掛けた。それは先にユキを見つけていた悠也も思ったことだった。人間に化けれるということは知っていたが、猫に見えてしまうので、カウンターに乗っかっているようにしか見えなかったのだ。
「違いますよ。働いてたんです。」
「なんで? 猫なんか働けないだろ?」
「猫又なんですよ、僕。人間に化けて働かせてもらってたんです。レジ打ちをしてたんです。」
「……人間に見えなかったけど?」
「霊感のある人には効かないみたいなんです。最近、結構上手く化けれるようになったと思ったんだけどなあ。」
「あたしには人間に見えましたよ。安心してください。この人は悪魔なんで。」
 みなもが落胆しているユキを必死に慰める。
 ユキはシュラインを見上げて目礼した。
「シュラインさん、お久しぶりです。」
「ええ。お久しぶり。でも、びっくりしたわ。純也さんの姿していたから。」
 みなもははっとした。純也とは、美幸の死んだ彼氏の名前ではなかったか。
「化けると言っても、他人の姿を借りるので、今いる人じゃ道端でばったり会うってことになりかねなかったから。ちょっと借りたんです。美幸には見つからないように遠いところでバイトしてみたんですけど。」
「美幸さんが心配してましたよ? 帰らないんですか?」
「今、お金が欲しいのよね?」
 シュラインがにっこり笑う。ユキは動揺で尻尾を左右に揺らした。
「どういうこと?」
 いまいち状況が分かっていないルートは首を傾げている。
「見つかったんだから、そのまま美幸のところに持って帰ってやればいいだろ。」
 ひょいっと持ち上げ、ルートが瞬間移動をしそうだったので、みなもとシュラインが慌てて止めた。ユキもじたばたと手足を動かして抵抗した。悠也と大吾と満は、どうやってルートが問題を解決するのかと見守っている。
「僕、今お金欲しいんです。もうすぐ美幸の誕生日で、プレゼントを買ってあげたいんですよ。」
「ああ。恩返し?」
「そうです。」
「でも、ずっと家を空けてると美幸さんが心配するので、少しは帰った方がいいと思うのですけど。」
「明後日には帰りますから。明日もう一日働いて、プレゼントを買って帰るので。」
 美幸にそう伝えてください、とユキは頭を下げた。
「あー面倒くせー、今すぐ連れて帰ってやるから、また自分で頑張って抜け出して来い!」
「ちょっと待ってくださいよ!!」
 ルートがひょいっとユキを宙に投げる。一瞬にして姿が掻き消え、悲鳴だけが残った。
「なっなんてことするのよ! 人の話、聞いてなかったの?!」
「あ、悪魔……。」
「いえ、実際、彼は悪魔ですけど。」
「問題解決に最大の難ありだな。」
「やれやれ……。」
 5人それぞれが思ったことを口にする。
「なんでー? ちゃんと依頼完遂したぞ!」
 悪魔が故、何で責められているのか分かってないルートはきょとんとしていた。
 その後、シュラインとみなもが美幸に事情を多少説明して、ユキを開放するのに奔走したのは言うまでもない。



 草間興信所にて、それぞれの評価が発表されていた。簡単に話を聞かされ、すでに草間は眉を曇らせている。
「美幸さんにきちんと情報を聞くことは出来てたみたいですね。捜索方法は普通でしたけど、人様に迷惑かけまくりです。ユキさんは猫に見えてましたけど、話をして問題解決は全然できませんでしたね。」
 悠也は特に最後のルートの行動を思い出して、深く溜息をついた。悪魔らしいと言ってしまえば聞こえはいい。終わりよければ全てよし、は本当だと思った。後味が悪くて、全体的に評価が下がってしまう。人間の血が半分流れていることにより、良心も多少は引き継がれていることが今の悠也には少しありがたかった。非道だと思えることが出来る。
「発想力なし、忍耐力なし、行動力まああり、能力の応用性微妙、漢気(おとこぎ)全くなし!ってところか?」
 大吾は辛辣に言ってのけた。
「まだまだ探偵助手には認められないな。これからどう精進するか見物だけど……。悪魔だしなあ。」
 一週間とかなら一度連れて帰ってみてもいいと思うが、明後日には帰ると宣言しているユキを、よりにもよって瞬間移動で飛ばすとはどういう神経をしているのか。いきなり現れたユキに美幸が驚くに決まっているのに。
 大吾はルートは探偵に向かないと肩を竦めた。
「推理力は確かになかった。みんなに教えられてなんとかできる感じだけど、手段は選ばずってところか。でもまあ、何事も一番初めから完璧に出来るわけないからな。やっぱ経験が大事だろ。」
 満は草間をからかうようににやりと笑った。
「まだ判断を下すのは早いってことか?」
「どっちにしろ、草間だって、そうすぐすぐ切り捨てようって思ったわけでもないだろ?」
 草間の思考を満は正確に見抜いている。草間は少し嫌そうな顔をした。
 ルートの評価はいずれも厳しい。元々諦めさせるために仕掛けた提案だったが、ルートは解決できた喜びに舞い上がっている。それなのに、お前は無理だと言えない。草間でもそこまで心を鬼にはできなかった。
「あ、ちなみに、ルートは悪魔の中でも上級に分類されますんで。」
 悠也が部屋から出る直前にそんなことを言い置いていった。
「……俺にどうしろって言うんだよ?」
「零、俺、事件を解決したんだぞ!」
 ルートの賑やかな声が草間のところまで聞こえてきた。



 *END*


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも) / 女 / 13歳 / 中学生】
【0164 / 斎・悠也(いつき・ゆうや) / 男 / 21歳 / 大学生・バイトでホスト】
【1048 / 北波・大吾(きたらみ・だいご) / 男 / 15歳 / 高校生】
【1300 / 江戸崎・満(えどさき・みつる) / 男 / 800歳 / 陶芸家】
(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
ユキ・美幸・純也・浩二は龍牙の初仕事で登場したNPCたちです。よければ読んでみてください。
>シュライン・エマさま、覚えて頂いていて嬉しいです。
かなり楽しんで書かせてもらいました。
如何でしたでしょうか。満足して頂けたら幸いです。
それでは、また機会があったらお目にかかりましょう。