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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


お困りですか?〜花粉症〜
■お困りですか? 投稿者:新月堂

花粉が飛ぶ季節になりました。
花粉症にお悩みの方。
是非、新月堂にご一報下さい。
新月堂があなたの力になります。
花粉症にお悩みの方は新月堂へどうぞ。


「は?」
雫は呆れたような頓狂な声を出した。
心霊系サイトにこのような宣伝をしてくるのは珍しかったのだ。
「……花粉症かぁ」
瀬名雫は視線を上げ、学校の友達の事が苦しそうに鼻をすすり、涙目をしょぼしょぼさせていたのを思い出していた。
花粉症ではない雫には分からない苦しみだが、辛そうというのは彼女にも分かった。
だから、この記事をすぐに消去する事は躊躇われた。
もしかしたら、この記事を見て少しは楽になる人がいるかも知れない…と。
しかし、一方でこんな所に書き込みするようなのにろくなのは無いという事も雫は感じていた。
自分で管理しているサイトの書き込みを否定するわけでは無いが、雫は冷静にそう分析していた。
「ん〜どうしよう?」
悩む雫。
彼女は、書き込みされたいた新月堂のURLに飛んだ。
すると、黒の背景に薄黄色のグラデーションで新月堂のロゴがディスプレイ一面に映し出され、そのロゴの上にカーソルを移動させるとカーソルがハンドに変わり、リンク先がある事を示していた。
雫はロゴをクリックした。
画面が変わり、黒地に白文字と薄黄色で統一された和風なサイトが出てきた。
「へぇ〜結構良い感じ♪」
だが、サイトの内容を読みすすめる内に、雫の眉間に皺が寄り、身を乗り出すように画面に食い入って行く。
「ナニこれ〜?」
サイトにはこうあった。

◆お困りですか?
 新月堂は病気・美容・浮気・誘拐・呪いなど
 様々なお悩みの力になります。
 お客様のお好みと症状に合わせて、漢方から呪術まで幅広く取り扱っておりますので
 まずはお気軽にご相談下さい。



▽三者三様の思惑
アーケードから差し込む陽の光がわずかに春を帯びて来たと感じるような日だった。
休日という事もあり、商店街は買い物客で賑わっている。
そんな中、涙目の端を押え鼻をすすりながら歩く少女が一人。
巫聖羅は呼吸器官としての役割を果たしていない鼻に代わる口をだらしなく開け放したまま、ポケットから一枚の紙を取り出した。
そこには新月堂の住所と地図が書かれてある。
数日前、掲示板の書き込みを見た聖羅は藁にも縋る気持ちですぐに新月堂にメールを送った。
彼女自身、最近花粉症とおぼしき症状が出て辛い毎日を送っているのだ。
だが、彼女の頭の中では新月堂に対して、警告のベルが低い唸りを立てている。
それでもこの辛さをどうにか出来るのなら……
それが聖羅の出した結論だ。
「あーこの商店街の〜…ずずっ。向こう、か」
返信されて来たメールに添付されていた住所と地図の写しを見ながら鼻を啜り上げ、十字路の歩行者天国を右に折れた聖羅は声をかけられ振り向いた。
声をかけたのは小柄な、腰まである長い黒髪を持った少女、志神みかね。
みかねもまた、新月堂への客である。
彼女は花粉症では無いのだが、彼女の友人がそれは酷い花粉症で、それを知っていたみかねはゴーストネットの書き込みを見つけ、友人に一緒に行こうと誘ったのだった。
だが、本日の天気は晴れ。それはとても素晴らしい快晴で、その前日は雨という、花粉症の方ならお分かりだろう……こんな日に外出するのは命取りなのである。
その為、みかねの友人は已む無く断念。
みかねは彼女の為もあり、一人で新月堂へと行く途中だったのだが、場所が分からなくなってしまっていたのだ。
「あの……私、新月堂ってお店探してるんですけど、知りませんか?」
「え?あんたも新月堂に行くの?」
「えっ……って事は、あなたもなんですか?!」
驚き、顔を見合わせた二人は次には安堵の息を吐いた。
「良かった〜。実は何気に不安だったのよね」
「私も!本当は友達と行く予定だったんだけど、友達来られなくって……」
「じゃあ、一緒に行こうっ」
二人とも、笑顔で聖羅の地図を頼りに歩き出した。
新月堂へ向かう間もひっきりなしに聖羅は鼻をすすって、みかねが心配そうに大丈夫?と何度も尋ねた。
賑わう商店街を通り、電気屋とパン屋の間の小さな薄暗い小道へと入り、遠ざかって行く商店街の賑やかな音を背後に聞きながら二人は進んだ。
小道の奥のT字路を右に曲がると、小道よりは広い道に出た。
道の両脇に昔ながらの家屋の並ぶ道で、聖羅はもう一度紙に目を落とした。
「えっと……新月堂は道を曲がって、左側の端から三番目だって」
「三番目……」
辿り着き、みかねと聖羅は建物を見上げた。
純和風の趣きのある家で、楠に金箔で新月堂と書かれた板が引き戸の隣にあった。
「ふぇ〜私、もっとかわいい感じのお店かと思ってた」
みかねの言葉に聖羅も頷く。
「なに?……めちゃくちゃマトモそうじゃない」
どこかがっかりしたようにぼそりと呟く聖羅。
と、二人がやって来た小道から何かが聞こえる。
静かなこの場所ではよく声が響いた。
二人の人間が小さな声で言い合いをしているらしい。
「呪術か……いよいよ別れの時が来たかもしれないな」
『ふん…出来るものならやってみろ。何度でも取り憑いてくれる。地の果てまで追ってもな…貴様の性根を叩き直さん事には、往くに往けんわ』
「おー恐ろしいねぇ」
みかねと聖羅が目を向けると、細身で長身の男が小道を曲がったところだった。
なにやらブツブツと独り言を言ってるのか口が動いている。
だが別に彼、忌引弔爾には独り言を言うクセはない。
が、どうしても他人から見るとそう見えてしまう。
彼が新月堂を訪れた理由は自分に取り憑いているものを祓って貰いたいからだ。
弔爾に取り憑いているのは妖刀と呼ばれるもの。妖刀の名前は弔丸という。
期待半分で新月堂を訪れた彼は店の前に先客がいるのを見て、少し気まずそうに眉を寄せて立つ彼は白い布の巻かれた細長いものを持っていた。
弔爾は二人より少し離れた場所で立ち止まると、新月堂の看板を見た。
弔爾もまた二人が先ほど思ったように、少し意外な表情を浮かべ、まだ弔爾を見ている二人の少女に何食わぬ顔で聞いた。
「あんたらもここに用があるのか?」
「そうよ。……見たところ花粉症じゃないみたいだけど……何用?!」
弔爾を怪しい人物と判断したのか、聖羅は仁王立ちになり格好良く詰問しようとしたのだが、盛大なくしゃみ連発で逆に弔爾に失笑をかってしまった。
「うぐぅ……」
恥ずかしさと悔しさでうめいた聖羅にみかねが宥めていると、新月堂の扉が開いた。

▽ようこそ、新月堂へ
カラリ……
擦り硝子の引き戸がわずかに開いた。
開いた隙間からは薄暗い闇が洩れ、一声猫が鳴いた。
地面から数十センチ上の隙間に猫が一匹頭だけを外に出して、三人を見上げてもう一声鳴いた。
何事かと三人が見ていると、店の中から今度は人の声がした。
「はいはい。まったく……頭を出す隙間は自分で開けられるのだから、最後まで自分で開けなさいといつも言ってるでしょうに……」
少し高めの男性の声と共に、引き戸が大きく開けられた。
そこに立っていたのは紺色の着物と羽織を着た、息を呑む程白い肌を持った男性だった。
「おや?」
軽く目を見開いた男は何か三人に向かって口を開こうとしたが、猫がのったりとその丸々と大きな俵のような体を店の中へとゆったり尻尾を振って戻すのを見て、呆れたように言った。
「もう、ぽん太さんは出たいんですか?出たくないんですか?今度出たいと言っても開けてあげませんからね!」
まるで人間に言う様な男の口調に、三人は唖然と見ていた。
「やっぱり……変。マトモじゃない……」
聖羅の呟きに男は三人の方を改めて向いた。
「いらっしゃい。新月堂へようこそ……巫さん」
にこりと微笑んだ男に、聖羅は飛び上がった。
「な、何で?!」
「何でって……メールをくれたでしょう?あなたが巫さんですか」
今度はしっかり聖羅を見て、男は微笑んだ。
「あ……」
「……嵌められたな」
苦笑する弔爾の横でみかねは目を輝かせながら言った。
「すっご〜い!まるで探偵みたい」
単純にすごいと誉めたみかねに聖羅がジト目を向けた。
「ま、立ち話もなんですし、中へどうぞ」
半身を避けて中へと三人を促した男は先に店の奥へと消えていった。
「……じゃあ、ちょっくらお邪魔しますかね」
頭を掻き、弔爾は敷居を跨いだ。
みかねもそれに続こうとして、動こうとしない聖羅を振り返った。
「どうしたの?入らないの?」
「むぅ……油断ならないわね」
不思議そうに首を傾げるみかねの前で、聖羅はひとつ小さく気合を入れた。
「よしっ!行きましょ」
「うん」
二人も新月堂へと足を踏み入れた。

▽処方箋
やはり、新月堂は普通ではなかった。
新月堂店主、白柳文彦は実に紳士的で礼儀正しい人物だったが、世間一般とはどこか常識というものがずれているようだった。
まず、彼が持ち出してきたのは漢方薬だった。
「花粉症対策はいろいろあるのですが……症状の軽い方ならコレなんか良いと思いますよ」
「何?コレ」
ずずっと鼻を啜り上げながら尋ねた聖羅に、文彦は小さなブリキの缶の蓋を開けた。
「お茶です。甜茶というものなのですけど、これを一日……そうですね、最低三回呑んで頂ければ症状は和らぎますよ」
「え〜?」
一日三回、という言葉に明らかに不満の声を漏らす聖羅。
みかねも弔爾も少し拍子抜けした様子で、缶を見た。
「あの、私の友達は酷い方なんです。すぐ効くやつはないんですか?」
みかねの言葉に店主は顎に人差し指を当て、少し宙を見てから店内の壁に並ぶ商品とおぼしき物の前を歩き始めた。
「ん〜これなんか、効果覿面ですよ」
「なんですか?」
「まだ、薬に加工してないんですがね……」
そう言って手に持って戻って来たものは、何か真っ黒で硬そうなもの。
「……ヒっ!」
小さく引き攣るような叫びをみかねが上げた。
文彦の手にあったのはトカゲと思われる黒焼き。
「お、おい……それ、何に使うんだ?」
「何って、花粉症の薬ですよ?」
さらりと当たり前の事の様に言った男に、三人の背に冷たいものが流れた。
「あ、それとも少し痛いですが一日で治るやつがいいですかねぇ」
そう言って、店の奥の私室らしきところから厚い布で覆われた一つの虫篭のようなものを取り出してきた。
その中からは、絶えず低い何か威嚇するような羽音が洩れている。
「あ……あの!そ、それはなんですか?!」
不安と恐怖で暴発しそうになる力を必死で押さえつつ、尋ねたみかねににっこりと笑んで文彦は言う。
「これは、まぁ蜂です。ちょっと獰猛ですけど、この子達の毒を使えば花粉症なんて一発ですよ」
最後に試してみます?と言われ、みかねは必死で首を振った。
「や、やっぱり……マトモじゃない〜」
「……俺、帰るわ。花粉症じゃねーし」
そう言って踵を返そうとした弔爾の腕を聖羅は捕まえた。
「…なんだよ」
「一蓮托生!!」
びしっと言い放った聖羅の言葉に、一瞬固まる弔爾だが、すぐに腕を振り解いた。
「アホか!俺は帰る」
大股で出口へ進み、引き戸に手をかけようとした弔爾の動きが止まる。
何か、葛藤しているように見える。
いや、その通り。彼の中で弔爾と弔丸が戦っていた。
(俺は帰るぞ!)
『人の難儀を救う為に時を費やす事は素晴らしき事。それを行う彼の手助けをしようとは思わんのか!』
(思うか、ボケ!俺は花粉症じゃねーしあんな得体の知れない薬、死んじまうわ!!)
『安心しろ。貴様は儂の施した呪によって死ぬ事叶わぬ。よって死なぬ』
にんまりと弔丸が笑ったような気が、弔爾にはした。
『薬の路はその身を呈し苦痛に喘ぎ極めんとするものと聞く。ならば世界を救う為、犠牲となれ!』
(アホな事言うな!!)
くるり、再び向きを変え、文彦の元へ早足で歩いてくると、弔爾――いや、弔爾の体を操った弔丸は勢い込んで言う。
「この体、現代の流行り病を駆逐する為ならば喜んで差し出そう。さぁ、如何様にも…!」
「ちょ、弔爾さん!?何言ってるんですか!」
慌てたように言うみかねに心の中で弔爾はそうだそうだと声を上げるが、弔丸は聞く気なし。
「良いんですか?」
目をぱちくりさせて聞き返す文彦にも大きく頷いた弔丸に、聖羅はあんぐり口を開けて見ている。
「有難う御座います!実はね、この子達の効能はまだ試した事がないんですよ〜いや、良かった」
本当に嬉しそうににこにこと笑顔を向け言った言葉に、みかねと聖羅が固まる。
二人とも体を寄せ合い、互いに手を握る。
「では、遠慮なく試させて頂きますね」
「応!」
心地よい気合の入った短い返事に満足そうに頷く文彦は、布のしたに手を入れた。
「では、行きますよ……」

新月堂からその日、甲高い悲鳴と物が飛び交い壊れる音が絶えなかったという……


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1087/巫聖羅(カンナギセイラ)/女/17歳/高校生兼『反魂屋(死人使い)』】
【0845/忌引弔爾(キビキチョウジ)/男/25歳/無職】
【0249/志神みかね(シガミミカネ)/女/15歳/学生】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。
ヘタレライターの壬生ナギサです。
今回は皆様同一シナリオとなっております。
如何でしたでしょうか?
外観は純和風の老舗問屋のような感じの新月堂ですが
取り扱う品は奇想天外、摩訶不思議。
しかし、私の発想ではそこまで奇想天外の品が出せず……
それでも、皆様が楽しんで頂けたのなら幸いです。

何か意見やご感想などがあればお教え下さいませ。
では、またご縁と機会がありましたらお会い致しましょう。