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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


死人の森
◆後始末
「やぁ、どうも。」
その男は草間興信所事務所の扉をくぐるなり、馴れ馴れしく草間に声をかけた。
「・・・また、あんたか。」
扉をくぐって入ってきた男の顔を見て、草間は露骨にいやそうな顔をした。
男・・・ナイトはその草間の顔を見て愉快そうに喉の奥で笑う。
「嫌な顔も男前だな。それなら女の依頼人は途切れまいよ。」
「冷やかしはお断りだ。用がないなら帰れ。」
草間はそう言うと読んでいた新聞に再び目を戻した。
しかし、ナイトは草間の目が活字をとらえるよりも早く新聞を取り上げた。
「人の話は聞くもんだぜ?」
吸血鬼であるナイトは、人の物理が通用しない。
事務所の扉から草間のデスクまで、一瞬で移動するのも大した問題ではない。
ナイトの有無を言わせぬ様子に、草間は溜息をつくと椅子を勧めた。
「・・・で、話ってのはなんだ?」
「吸血鬼を狩ってもらいたいんだ。」
ナイトは椅子に座ると、苦笑いで言った。
「吸血鬼が吸血鬼退治か?」
「まーね。ここから少し離れた町に、雑木林って言うか、一寸した森があるんだが、そこでなりそこないどもが大発生しちまってな。そいつらを退治してもらいたいんだ。」
「なりそこない?」
「吸血鬼のなりそこない・・・吸血鬼とグールのハーフみたいなもんだ。光の弱くて、人間を襲うが血は吸わず肉を食う。運動能力は吸血鬼並だ。」
「何でそんな連中が、森に繁殖してるんだ?」
草間の言葉に、ないとは少しばつが悪そうに肩を竦めると答えた。
「吸血鬼をそこに封印しておいたんだが、奴が思ったより力があったらしくてな。人間を呼びつけて食い漁ったらしい。あっという間に人食いの森に大変身だ。」
「大変身じゃないだろう。森の外へ出たらどうするんだ?」
「それは平気だ。奴らは街頭の明りですら目を焼くほど光に弱い。森の外・・・街の中へは出れないんだ。」
「あんたの力ならその位軽いんじゃないか?」
「生憎、奴らは鼻が敏感でね。俺の匂いをかぎつけたらあっという間に逃げちまうんだ。森ごと焼き払っちまおうかとも思ったんだが・・・少し紳士に行こうと思ってね。」
ナイトの言葉に、今度は草間が溜息をつく。
「自分の尻ぐらい自分で拭えよ。」
とは言うものの、放っては置けない。
「高くつくぞ。」
「礼はするさ。」
そう言うと、ナイトは森の場所を示した地図を机の上に置き、事務所を出て行った。
草間は眉をひそめてそれを見送り、早速電話を手にとった。
出来そこないとは言え、吸血鬼の退治となればそれなりの人員が必要だからだ。

◆昏い森
草間から連絡を受け、ナイトという男が持ち込んだ地図のコピーを受け取ると、葛西 朝幸は早速現場へと向かった。
目の前には昼間でも鬱蒼とした影に覆われたような森が、ひっそりと横たわっている。
周りには囲いらしい囲いもなく、出入りは自由にできるようだ。
「無用心だな・・・人が迷い込んだらどうするんだ?」
森の中へ一歩踏み込むと、今までの明るさが嘘のように暗くなる。
木漏れ日などというものはほとんどなく、方向感覚が狂うような暗闇に包み込まれた。
葛西はその様子だけ確かめ、森の外へと出る。
次はとりあえず上空から森の様子を見て見ようと思ったのだ。
その時、先刻の葛西のように森の中を覗きこんでいる人物に出会った。
「お。朝幸、お前も来とったんか?」
「聖?」
森のほうを覗き込んでいた男・神島 聖は葛西を見て少し驚いた顔をした。
草間の事務所に寄ったときに、葛西も引き受けてくれていると聞いてはいたが、こんなにも早々に出会うとは思わなかったのだ。
「中の様子はどないなん?俺はとりあえず外側だけ囲うもうかと思って来たんやけど。」
「中は木漏れ日も無くて真っ暗だ。不用意に立ち入るのヤバそうなんで戻ってきたところだ。」
葛西も少し驚いたようだが、その素振りを見せずに言った。
「さいか。ほなら、ちゃっちゃっと囲んどいた方がええようやな。」
そう言って、神島は森を取り巻く結界を張るための準備に取り掛かる。
「俺は上から少し様子を見てくる。」
葛西も多くを語らずに自分の行動へ戻る。
幼馴染ゆえの信頼か、互いに相手の言葉を多く求めない。
二人はいつも自分の思う通りに勝手に行動していたが、タイミングは良く合っていた。
息が合うというのは、こう言うことを言うのかも知れない。
「じゃ、また後でな。」
「ああ。」
そして、神島は森へと向かい、葛西はそれを見送った。

「うわぁっ!」
風術士の葛西が、上空からの偵察を終えて森の近くの広場へと舞い降りると、森の中から出てきた人物と鉢合わせてしまった。
空を飛ぶと言う行為の奇特さを、一般人に騒がれるのは鬱陶しいと思うので注意していたのだが、その人物が森から出てきたので気がつかなかったのだ。
葛西が鉢合わせた人物の方を見ると、案の定、眼鏡をかけた痩身の青年は好奇と驚きの目で葛西を見ていた。
また鬱陶しい質問攻めかとうんざりしそうになったが、青年は口を開くと意外なことを言った。
「キミは風術士か。始めて会うけど結構優雅なんだな。」
そう言うと、青年は落としたバッグを拾い上げた。
しかも、見た目は男のようだったのだが、声の感じからすると女のようだ。
「あんたは?」
風術士という存在を知っているということは、少なくとも一般人ではないだろう。
「俺は大塚 忍。怪奇雑誌のルポライターだ。」
大塚はそう言うと、葛西に名刺を渡した。
「怪奇雑誌のルポライターか。悪いけど、あんたの取材に応じてる暇はないんだ。」
「大丈夫、取材じゃない。俺も草間興信所で依頼を引き受けてきたのさ。」
「なんだって?」
今度は葛西が驚きの目で大塚を見る。
確かに術者としての気を感じはするが・・・
「キミみたいに大きな能力じゃないけどね。そこは体力でカバーさ。」
大塚はそう言うと人のよい笑みを浮かべた。
愛想がいいというのだろうか、その笑顔に葛西も毒っ気を抜かれる。
これもまたこの大塚の能力なのだろうか?
「俺はいま森の中を見てきたんだけどね。血生臭さがプンプンしてて気分が悪い以外に、変わった様子は発見できなかったよ。」
「上空から見た様子も変わらない。隙間なく木が並んでいる所為で、上空からでは中の様子は探れなかったんだ。ただ・・・」
「ただ?」
「森の中央くらいに少し空き地のような場所がある。その一部分だけ木がないんだ。」
上空から見た森は穴の小さなドーナツのような状態になっていた。
中央付近にぽっかりと口を開けた空き地が見えていた。
「空き地か・・・」
そう聞いて大塚もしばし考え込む。
「何かに仕えるかもしれないな。少なくとも足場も見通しも悪い場所より戦いやすい。」
大塚は森の中での戦闘をよくシミュレートしているようだった。
葛西のように空に浮かべる人間は足場のことなどは考えない。
少し感心して、葛西は大塚を見るのだった。

◆光の檻
月明かりが晧々と照らす中、葛西、神島、宮小路、北波、大塚の5人は吸血鬼が封印されていると言う森へとやってきた。
念のためにと宮小路が手配した照明車が、森の周囲を更に晧々と照らしている。
街灯程度の光でも恐れる吸血鬼ならば、これで森の外へ出るということはないだろう。
森の中で思い切り戦えると言う物だ。
「奴が何処におるかわからへんからな。それぞれバラけて行こうや。」
神島の提案に一同は肯いてそれぞれ森の中央目指して別の場所から入ることになった。
「では、また森の中央で。」
宮小路がそう言って真っ先に森の中へと入って行き、他のメンバーもそれぞれの入り口を目指して散っていった。

「これが結界か・・・」
大塚は神島の張った結界にそっと手をのばすと少しピリッとする物を感じて、森の中へと踏み込んだ。
神島が結界の中へ入れるようにと、額に小さな印を入れてくれたので通れるが、この印がなければ通ることはできない。
中にいる吸血鬼が外へ出ないようにと言うよりは、中へ人間が迷い込まないように施されたようだ。
森の中は、昼間見た時とすっかり姿を変えている。
濃密な闇がべったりと張り付き、視界を閉ざしているようだ。
「探し回るのは・・・無理かな?」
とりあえず手元に持っている磁石で中央の空き地がある方角だけはわかっている。
あまり動き回って場所を見失うのも危険だ。
そう思って、どうするか足を止めた時、不意にそれはやってきた。

「!!」
森の中へ入って間もなく、葛西は声無き悲鳴のような物を感じた。
それと同時に何かが動き出す気配。
「早いな・・・獣か・・・?」
風術士である葛西は、物が動く時の空気の動きを読み取った。
一瞬の動揺、そして何かが素早く動く動きだった。
次の瞬間、葛西は弾かれるようにその気配の方へと向かった。
もちろん地面から体を浮かび上がらせているので、障害物も少なく移動は素早い。
しかし、次々と感じる何ものかが動き回る気配も、それに輪をかけて素早い。
「吸血鬼・・・か・・・」
葛西はとにかく先を急いだ。

大塚はいきなり襲い掛かってきた野犬のような生き物に、聖水を入れた水鉄砲をぶちまけていた。
普通の犬ではないのは確かだ。
胸を悪くするような腐臭を匂わせ、聖水が当たった部分がジクジクと焼け爛れている。
それに伸びる四肢は犬のものではなく・・・四つんばいの人間、歪に歪んだ体を持つ人間なのだった。
「『なりそこない』たちか・・・」
大塚は聖水鉄砲を構えながら、じりじりと間合いをはかる。
前にも、食われてグールとなっていた連中とであったことがある。
その時は銀の武器が効いていた。
こいつらグールも、吸血鬼と同じ聖なる属性には弱いのかもしれない。
次飛び掛ってくる前に・・・そう思って大塚は身構えた。
しかし、その瞬間、グールたちは突風に横なぎに吹き飛ばされた!
「大丈夫かっ?」
葛西が現場に駆けつけ、風を操りグールを遠ざけたのだ。
「何だあれは・・・野犬か?」
「ちがう、あれは吸血鬼に血を吸われた人間の慣れの果てだ。吸血鬼ほどじゃないが、それに近い能力がある。」
大塚は葛西にざっとその性質を教えた。
「あれが『なりそこない』・・・」
葛西はその端正な顔を嫌悪に歪める。
グールはもう人間ではない。
その四肢はあらぬ方向にねじれ、四足の獣になって再び葛西と大塚の方へ駆け寄ってきた。
葛西はすかさずポケットからフラッシュを取り出すとスイッチを押した。
眩い光がグールの目を焼き、それに怯んだのか再び遠ざかる。
「やっぱり決定打にはならないか。」
神島の荷物から勝手に持ち出したフラッシュは、カメラマン仕様の本格的なもので光量も大きかったが、グールを倒す決定打としては難しいようだ。
「奴らの足を止められるか?」
不意に大塚が葛西に聞いた。
「あ、ああ。動きを遅くする程度なら大丈夫だ。」
葛西はその意図が読めずに途惑うが、足止めだけなら問題がないと告げた。
「じゃあ、次に来たら奴らをその辺に足止めしてくれ、俺の声が届く程度のところでいい。イチかバチか・・・やってみる。」
そう言うと、大塚はぐっと手を握り締めた。
葛西もうなずき、グールのほうを見る。
じりじりと二人の様子を窺っていたグールは、再び弾けるように飛び掛ってきた!
「食らえっ!」
葛西は腕を振るって見えない刃を打ち出すように、グールのほうへ投げつけた。
空中でグールは、まるで見えない鈍器で殴られたように地に落ち、そしてその場でうずくまる。
「おさえたぞっ!」
葛西のその言葉を聞いて、大塚は聖水入り水鉄砲を構え、そして聖なる言葉の暗唱を始めた。
「The people that walked in darkness have seen a great light...」
闇を行く者は偉大なる光を見、死の陰に怯える地上の者達の頭上にも光が輝いた。
大塚が詠唱を始めたのは聖なる言葉。歌にもあるイザヤの書の一説だ。
そして、その言葉と己の霊力を同調させ、手に握った水鉄砲の聖水へとこめてゆく。
「・・・Amen !」
聖水は真っ直ぐにグールへと撃ち出される。
その信仰が無い大塚には、効果の程はわからなかったが、重い風に押さえつけられ聖水を浴びたグールは日に焼けるような衝撃を受け、断末魔の叫びをあげた。
襲い掛かる端から、葛西が押さえつけ、大塚が聖水を浴びせ掛け、次々と討ち取ってゆく。
「この調子で行けば上手く行くかもしれないっ!」
予想以上の成果に喜ぶ大塚の言葉に、葛西は重く首を振った。
「こいつらは雑魚だ・・・アイツに効くかどうかはわからない・・・」
そう言ってじっと暗闇を見据える。
大塚も気がついた。
すぐそこには森の中央にある空き地があり、月光が降り注いでいる。
そこに立つ、ただならぬ気配の影・・・そこにはグールたちを生み出した大元・・・吸血鬼が立っていたのだった。

◆封印された森の主
「奴が・・・吸血鬼・・・」
葛西は緊張に強張った声で呟いた。
恐れや恐怖があるわけではない。
しかし、この気配の濃密さには緊張する。
「他の皆も集まったようだな・・・」
大塚は空き地の反対側から月光の中へと姿を現した神島、宮小路、北波の姿をみつけた。
「俺たちも行こう。」
葛西はそう言うと、月光が溢れる空き地へと踏み出した。
大塚も後に続いて月光の中へ踏み込むが、少しも明るくなったような気がしない。

「貴様が、吸血鬼とか言う奴か?」
北波が豪胆にも吸血鬼に向かって声をかける。
空き地の中央に立っている男は、側で見ると外見は人間の男とあまり変わらない。
吸血鬼、鬼と呼ばれるにはあまりにも平凡な姿だったのだ。
黒いシャツに黒のスラックスと言う黒づくめの男は、ちらりと北波を見ると笑った。
『そうだ。人の子よ。』
言葉は少ないが、威圧的な頭の中に直接響く。
『今宵は、静かなこの場所に、少々賑わいを添えてくれたようだな。』
「それがどうしたっ?お前がぐずぐずしてるなら、こっちから行くぜっ!」
そう言うなり、北波はいきなり身構えた。
「不浄なる者どもよ、見い出せよ。天のハザマに久遠の安息を・・・」
刀を大きく振りかぶり、天にむけて突き立てる。
「雷塵白夜っ!」
天上に輝く月が爆発するような輝きを放ち、吸血鬼の頭上に落ちる。
爆音とともに青白い火柱が上がった!
「・・・やったかっ!?」
火柱の中で影を揺らしている吸血鬼を見て、大塚はそう言ったが、葛西は気配を感じて首を振った。
「いや、何事もなく、あそこにいる。」
「和尚!ご隠居っ!」
次に宮小路が軽く口笛を吹いて、何者かを呼び寄せた。
大梟が羽音ともに暗闇から現れる。宮小路の式神だ。
「囲んで、動きを押さえてくださいっ!」
宮小路は二羽にそう命ずると髭斬を構えた。
「結界やったら、俺にも任しとき!」
そう言ってから、素早く神島が葛西に駆け寄った。
「朝幸、ちょい、手伝いや。」
「何だ?」
「俺の結界呪を風に乗せて奴の周りを囲んでくれ。」
そして、神島は再び小刀で手の平を切る。
今度は更に呪力が強まるように、簡単な印の形に切った。
そこから血が滴るのを確認して、神島は手を掲げた。
「我が血に結ばれし力よ、その効力を示せ・・・」
葛西はつむじ風のように風を神島に纏わせる。
滴る血が、まるで水に墨を流したようにゆっくりと周りをくゆり始めた。
「結界の方陣!」
言葉と同時に風が吸血鬼へと伸びる。
墨のようにくゆる血が吸血鬼を取囲んだ。
「俺も・・・Thou art gone up on high; Thou hast led captivity captive, and received gifts for men, yea, even from thine enemies...」
大塚の詠唱があたりに響く。
それぞれが決定打でなくとも、幾重にも囲まれた結界に吸血鬼は身動きが取れない。
「これで、最後です!」
身動きの取れなくなった吸血鬼の心臓めがけて、宮小路は髭斬を突き立てる。
霊刀『髭斬』は深々とその男の胸を貫いた!

『く・・・小癪な・・・人間どもめ・・・』
しかし、吸血鬼は苦しげに声は震わすものの、その姿はいまだ保たれたままだ。
『真の信仰無きお前らに、私が倒せるものか・・・』
宮小路の刀を胸に突き立てたまま、吸血鬼は結界から逃れようとギリギリと力を込める。
「逃がすかぁっ!」
その体に、北波も霊紋刀をつきたてる。
しかし、二本の霊刀を体につきたてられても、その力の膨張は止まらない。
「満月の夜に元気になる吸血鬼なんてのは、美学が無くてよくないねぇ。」
不意に頭上から声が響く。
五人が見上げると、月を背に男が立っている。
「やっぱり来たな!」
「ナイト!」
面識?のある大塚と宮小路がその男の名を呼んだ。
「やあ、やあ、やあ、ごくろーさん。」
美学があるのか無いのかわからぬ男は、ひらりと結界に押さえつけられた吸血鬼の前に飛び降りる。
「さて、ここで俺がこいつを食らえばそれで終りなんだが、折角捕まえたのはキミたちだ。」
ナイトは芝居がかった大袈裟な身振りで五人に向き直って言った。
「依頼者としては、つつましき日本の風習に乗っ取って、キミたちにもお裾分けをするべきなのかな?」
その言葉に北波、神島、葛西の三人は呆気にとられる。
自分たちでは押さえているのもやっとの存在を前にして、この悠長な物言いは何だ?
しかも、この男からは邪気も霊気も感じない。
空から降りてきたのを見てなかったら、暢気な迷子にしか見えなかった。
しかし、ナイトはそう思った三人の思考を読んだのか、苦笑いして言った。
「能ある鷹は爪を隠す。見かけが平凡な奴ほど、実は危険なのかもしれないぜ?」
そう言って、にやりと笑ったその唇には確かに鋭い牙が見えた。
「さて、ミヤコウジ君とオオツカさんはどうかな?吸血鬼の血を飲めば、その力を少し得ることができるぜ?」
宮小路はその言葉に苦笑して首を振った。
「それと引き換えのリスクを考えると、いいお話とは言えませんね。ご遠慮します。」
「じゃあ、オオツカさんは?」
そう言って、からかうようにウインクしてみせるナイトに、大塚は怒りか羞恥か顔を赤らめて言った。
「勝手に食え!最初からそれが目的だろう!」
「では、遠慮なく。」
ナイトは五人の前で、ゆっくりと吸血鬼に近付く。
「!」
神島の結界も易々と通り抜け、吸血鬼の喉に手をかける。
吸血鬼は怯えた目でナイトを見ていた。
恐怖に引きつりながらもその目を離すことができないのは、ナイトの邪眼にとらわれているのか?
「人間を侮ってた貴様の失策だな。」
囁くように吸血鬼にそう言うと、官能的な仕草でその喉に牙をたてた。

◆戦い終えて、日は昇り
五人の目の前で吸血鬼は消滅し、ナイトと名乗った吸血鬼を食らう吸血鬼は霧になって姿を消した。
気がつくともう朝日が上る時刻であったらしい。
空き地に朝日が差し込み、漂っていた邪気を夜気とともに拭い去ってしまった。
「なんや・・・トンビに油揚げをさらわれたよーな気がしてんのやけど・・・」
差し込む朝日に照らされながら、神島は愚痴るように呟いた。
目の前には力を失った灰だけが残されている。
「まあ、彼らしいと言えば彼らしいですが。」
宮小路はそう言って苦笑した。
退治された吸血鬼が人間を餌としか思っていなかったように、ナイトには自分たちは便利な道具だと思われているのかもしれない。
しかし、道具としての価値は認めているらしいと思わせるのが、何となく憎めないのかもしれない。
「おい、兄ちゃん、これ振っとけよ。」
こめかみを抑えて腑に落ちない顔の神島に北波が塩を渡す。
「塩?」
「そうだ、昔から清めは塩って決まってるからな。あれだけの邪気を浴びてたんだ、清めといた方がいいぞ。」
吸血鬼に清めの塩は少し結びつきづらかったが、日本人でもある4人は何となく納得して北波から貰った塩で身を清めた。
「・・・あれ?なんだ?」
灰にも塩と聖水をかけて後始末をしていた大塚が、灰の中から何かを見つける。
「宝石?」
手にとるとそれは玉子くらいの大きさの大きな赤い宝石のようだった。
「ルビーみたいやな、鑑定せぇへんとようわからんが、これだけの大きさやったら、相当な価値もんやで。」
「吸血鬼の残したルビーか・・・」
そう言って葛西が手にしてそれを陽にかざすと、ルビーはパチンと軽い音を立てて割れた。
「ああっ!!」
欠片はちょうど五つに割れていた。
「太陽に弱い化け物が残した物は、太陽に弱いのか?」
その一つを手にとって、北波はまじまじと眺めた。
「まあ、ちょうど分けられて良かったかもしれませんね。」
宮小路も微笑みながら欠片を手にする。
欠片からは邪気ではないが、力強い波動を感じる。
何かの護符のような物に使えるかも知れない。
そんなことを考えながら、五人はそれぞれ欠片を手にとり、森を後にしたのだった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
1294 / 葛西・朝幸 / 男 / 16 / 高校生
1295 / 神島・聖 / 男 / 21 / セールスマン
1048 / 北波・大吾 / 男 / 15 / 高校生
0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生

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■         ライター通信          ■
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今日は、今回は私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
ちょっとトンビに油揚げな展開となってしまいましたが、如何でしたでしょうか?
途中、森の中は二班に別れて行動しています。もしお時間があるときにでも読んで頂けると、こっちはこんなことしてたのかとわかるかも知れません。どうぞ、よろしくお願いします。

葛西さん、はじめまして。なんとか無事?に吸血鬼を退治いたしましたが、如何でしたでしょうか?
風術士というのはなかなか珍しい能力ですね。なんだか、色々つかえそうでこれからの活躍も期待しております。
今回手に入れたルビーは吸血鬼が残した物で、多少の魔力があるようです。私の依頼限定になってしまいますが、良かったら何かにお役立て下さい。機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

では、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。