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恋の呪い
◆オープニング
草間はそれを見た瞬間、驚きのあまりその身を止めた。
なぜから、真夜中にあわられた依頼人は、生身を持たぬ、幽霊だったからである。
時間はすでに遅い。
いったんは眠りについたものの、なんとなく起き出して来た草間は、溢れる月明かりに、ふと視線を送った。
そこにいたのは、一人の少年であった。
生身で無い証拠に透けているものの、整った顔の少年が女の子にもてるであろう事は容易に予想出来た。
「な、な、ななな！」
寝ぼけているのか？
草間は目をこすったが、事態は変わらない。
「俺･･･殺されたんです」
少年は言った。
「え・・・・？」
殺されたとは穏やかではない。
「俺は・・・死ぬはずなんかじゃなかった・・・！！こんなところで死ぬはずなかった！！」
身をよじった少年は、苦しげであった。
「お願いします･･･！俺を・・・解放してください！」
そういうと、少年は消えた。
「一体何が起きたんだ・・・・」
後に残されたのは一枚の写真。
草間は床に落ちたそれを拾い上げた。
写されているのは、制服姿の少年と、予想どおりの女の子たち。
「ん？なんだ？これは」
一番右の、おとなしそうな少女である。
その右手は、包帯が巻かれていた。
別段、包帯をしているからどうと言う事ではないが、どこか草間の心に強く残った。
「最近、突然お亡くなりになる方が多いんですね」
翌朝の事である。
昨夜と違って、太陽の光に満ちている事務所は明るく暖かい。
テレビのニュースを見ながら零が言った。
なるほど、確かにここ一月で突然死を迎えた人が数人。
無機質な声はそれを伝えていた。
突然死と聞いて、昨夜のことを思い出さずにいられない草間である。
突然死・・・意に沿わぬ死か・・・。
「ちょっと前には恋の占いが流行ったのに・・・」
なんだかおかしいですね。
そう言って、零が笑う。
「恋の占いか・・・・」
確か、雑誌で掲載されて、流行っていたよな・・・。
「一つ・・・調べてみるか」
さっそく誰を向かわせるか、草間は頭の中で数人の名前を浮かべたのだった。
◆ビラ配り
それは学校帰りの学生でごった返す、天気の良いある日の事だった。
中央ターミナルとして使用されているこの駅は、利用する人も多く、四時を回ったその時間は、ちょうど帰宅途中の学生で溢れていた。
改札から出てきた学生は、友達とのおしゃべりに余念がなく、早足で目の前を通過して行く。
そこに現れた二人組。
なにやらビラを配っている。
一人はまるで少女のような外見の少年であった。
無邪気に笑うその少年の様子は、一見微笑ましく誰しもが口元をほころばせた。
だが誰も知らない。
この水野・想司（みずの・そうじ）少年こそ、もっとも危険な少年であることを。
外見で判断してはいけないのがこの少年なのである。
それで失敗した某新聞社の社員が毎回毎回後悔しているのは世間様の知らない事で。
その想司を見て顔をほころばせる通行人も、その隣を見て、ぎょっと通り過ぎて行く。
澄んだ蒼い瞳と明るい金の髪は、明らかに日本人ではない。
通常それだけで目を引く。
目を引くが、だがそれだけだ。
たしかにここは日本だが、鎖国をしているわけではなし、外人が居たところでおかしくはない。
そう、普通なら。
だが、この青年は普通ではなかった。
その背には大きな翼があったのだ。
先だって問題を起こした、見習い天使のアシャである。
通行人がぎょっとして通り過ぎて行くのさえ気にせず、ビラを配っている。
「・・・？皆さん、どうしたんでしょうか？」
にこにこ笑いながら、辺りを見渡すアシャ。
その格好が、いやもといその羽が通行人を驚かせている原因だとはつゆほど気づいていない。
「さぁ☆きっと、僕ら二人の労働に従事するその姿に感激して胸を痛めているのさ☆」
にこっと笑った想司は、通行人の手に無理矢理ビラを押し付けた。
「そうですね」
唖然とする通行人にビラを押し付け、アシャも微笑む。
「さ、ビラは配り終わったよ☆あとは待つだけさ♪」
ほがらかに終了を告げる想司に、アシャは、はい！と勢い良く返事をしたのだった。
◆占い
「そう……『濃いの占い』が事件の真相に深く深く濃厚に関わっているのだという事は僕にはキュピーンと理解できたのさっ♪ならば、事件を解決に導くのは至極簡単！僕らが、彼らの客を奪い去るような『さらに濃い占い業』を開業すれば良いということさっ♪（はあと）」
「そうですね！さすが想司様です♪」
パチパチパチ。
室内に拍手が響く。
「ちょっとまて！お前ら！」
「ん？なんだい？草間クン♪」
にっこり笑った想司の顔には邪気はない。
「なんだい・・・じゃない！」
「なんでしょうか。草間様♪」
ニコニコニコニコ。
アシャの笑顔はあくまでにこやかだ。
「お前ら・・・・どうでもいいけどな・・・」
ぐいっと、草間は拳を握った。
「どうしたんだい？草間クン☆僕とキミの仲じゃないか♪はっきりいいたまえ☆」
どんな仲なんだ・・・。
半ば泣きたい気持ちになったのは誰にも攻められまい。
「そうです。なんでも正直におっしゃってください。悩み事を溜め込むのは体に良くありませんよ。禿げます」
にこやかなアシャの言葉。
「お前らな・・・」
ぐぐっと絶えていた草間も、もう限界だった。
「人の事務所で何やってんだぁぁぁぁーーーー！！！！」
「なんだって、もちろん、『濃いの占い』さ☆」
まるで当たり前のような想司の言葉に、草間はがくっと肩を落とした。
「さぁ、この死闘に生き延びればきっと見えますっ☆」
そういうと想司はチャキッと光る剣を出してみせた。
室内で振りまわり事この上なく危ない。
構えた拍子に、棚に重ねてあった書類がザックリ切れて宙に舞う。
「お・・・い！？？」
「さぁ、いくよ☆」
「ちょっとまてぇぇぇーーーー！！」
やぁー！っと突き出した、想司の剣がファイルに突き刺さり、バサバサっと書類の束が落ちた。
「うわぁぁぁーーー！！書類がぁぁーーー」
草間はもはや反狂乱であった。
「さぁ、僕らがこうやって占いを続けることで、敵の商売敵となり、彼らをおびき寄せる事が出来るはず・・・♪もう一息だよ☆」
一体どうゆう理屈だ！っと心の中で叫ぶ草間を尻目に、草間興信所はもはや想司に占領されてようとしていた。
重厚なBGMが流れ、怪しげな呼吸音が流れるこの空間は、もはや別物と化しつつあった。
◆商売敵の占い
外からそっと覗き込む少女に気づいたのは、アシャだった。
ひょっこり顔を出して、にこっと微笑む。
「どうかしましたか？」
「えっ？あ、あの」
「あ、そうなのですね！」
「え？」
戸惑う少女に、アシャは何かを思いついたように手をぽんっと叩くと、うれしそうに微笑む。
「想司様、お客様です♪」
「あ、あの！」
少女の言う事などまったく聞いていないアシャは、その腕を取ると、室内にじりじりと引っ張り込んだ。
「わ、私、別に客じゃ・・・！！」
「ささ、ここにどうぞ♪」
そういうと、強引に少女を興信所のソファーに座らせた。
少女は訳が判らずキョロキョロ辺りを見回すばかりである。
その背に流れるのは黒い髪。
長く伸ばした髪を一つに結わき、黒ぶち眼鏡。
それだけで少女を大人しく内気な暗い少女にしている。
だがそれは、外見的な印象ばかりではない。
戸惑ったように対応する少女は、どこか不器用なようで、あまり人付き合いに慣れてるとは言い難い。
内気で人見知りのするタイプであろうことが伺えた。
体調が悪いのか、目の下にはくまが出来ていて顔色が冴えない。
「おい、一体何やってるんだ、むりやり・・・」
そんな少女の様子に、常識人、いや、本来ならこの興信所の主である草間武彦は、アシャの行動を止めようとしたが、それは出来なかった。
「さぁ、占いを始まるぞ☆」
横から想司が飛び出して来たのだ。
「うわぁ！！まさか、それを本気でやるのかぁぁーー！！」
光る剣は決して作り物ではなく、本当に切れる。
人を切ったら、真っ二つとまではいかなくても怪我をするのは明白。
「何言ってるんだい？草間クン。もちろん、やるとも☆」
誰か神様仏様、お願いだから止めてくれと切に願う草間武彦は、唯一の常識人であった。
「ん？」
その時、想司の目に入ったものがあった。
「それ、どうしたんだい？」
それは少女が腕に巻く包帯であった。
なにやら只ならぬ気配を発しているような気がする。
「あ、これは・・・・」
少女はそう言ったっきり、黙り込んでしまった。
「まぁ、お怪我ですか？それは大変です」
冗談ではなく、ほんとうに深刻そうにアシャは覗き込んだ。
「いえ・・・・これは怪我じゃなくて・・・・あの」
俯く少女。
「ふーん？」
そんな少女に、想司はしげしげとその腕を覗き込で。
「ふむ・・・そうか！わかったよ☆」
「え？」
「これこそが、本当の『濃いの占い』なんだね☆」
「あ、あの。こ、濃いの占い？？？」
感動したよ！っと一人感極まる想司に、少女はどうすることも出来なくて、ただおろおろするばかりであった。
いや、一人ではない。
もう一人、アシャも共に、感動している。
「そうなんですね！！さすが想司様です！（にっこり）」
おーい。
勝手に話を進める二人に、もはや草間は何も言う言葉がない。
かくゆう少女も、唖然と二人を見つめていた。
「あ・・・！」
その時である。
突然、何かを思いついたように、アシャがその身を止めた。
「もしかして・・・！」
深刻な顔をして想司を振り返る。
「なんだい？」
「もしかして・・・あれこそが、敵の占いなのでは！！」
意外な事に、そのアシャの言葉に、想司が動きを止めた。
お？
その反応に、思わず草間は観察モードに入る。
すると。
「そうか・・そうか・・・そうなんだね！！」
想司は、一気に歓喜の声を上げた。
うれしそうな想司とアシャ。
だが何がずれている気がするのは、きっと自分だけじゃないと、草間は思う。
「じゃ、僕らもさっそくやってみよう☆人一人の命を奪うぐらいの占いだ。きっと効果大に違いない☆」
「はい！！」
「よし！！じゃ、腕に永遠のライバルの名を刻めばいいんだね☆こうすれば、僕達はいつまでもライバルさ♪」
ちょっとまて。
いつからそんな話なったんだ？
草間の心の声は、一生懸命叫んでいた。
何か違う。
何が違うぞ。
「じゃ、さっそくやってみようじゃないか☆」
やるんかい！！
お前ら商売敵じゃなかったのか！！
そんな草間の心の声は、もちろん二人に届いていない。
「僕の永遠の好敵手・・・・。もちろん、三下サンの名をこの腕に！！」
少女のように細い腕をまくり、腕をぐいっと掲げる想司。
そこに、アシャがにこにこしながら手を伸ばした。
「じゃ、私がお手伝いしますね♪思いを込めて書かせていただきます！」
どんな思いなのやら。
そんな草間の心中などまってくの無視（聞こえているはずもないが）で、アシャはサインペンを取り出した。
想司の手を取ると、すらすらと文字を書き込む。
にこにこ笑うその文字に、思いがこもっているのかいないのかよくわからない。
「ふ〜・・・」
もはやすべてを諦めた（その前に努力してないが）草間は、ソファーに座り、タバコに火を付けると、一息ついた。
「今頃、アトラスの三下は・・・どうなってるんだろうな・・・（遠い目）」
それは神のみぞ知る。
そのように思われた。
◆蛇足
「ん？」
三下ふと辺りを見回した。
だがあたりは何の変哲もない、いつもの風景、いつものアトラス。
「おかしいなぁ・・・何か、寒気が」
風邪かな？
そんな事を思いながら、ひそかに想司の魔の手が伸びていることを、三下は知らなかった。
「さ、これでOKです。私が力を込めましたから♪三下様本人さえ呼び寄せる事が出来るはず♪」
「ふっ。待ってろよ♪三下さん☆」
その行方は・・・神でさえ判らないかもしれない。
あとはただ、祈るのみ・・・であった（何が）
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【0424 ／ 水野・想司 ／ 男 ／ 14 ／ 吸血鬼ハンター】
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■ ライター通信 ■
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ども、こんにちは。 ライターのしょうです。
いつも依頼へのご参加ありがとうございます。またお会い出来てうれしいです。
そして、落ちこぼれ天使アシャの召喚、ありがとうございました（＾＾）本人もきっと喜んでいることでしょう。前回に勝るとも劣らないボケっぷりを発揮してくれたのではないかと思います（え？）
ちなみに、占いなのですが、他の方の分を見ていただければ判りますが、サインペンで書いた程度では、通常の普通の占いとなります。ですが、占いの効果は・・・ばっちり？かもしれません（爆）
ご感想等頂ければ幸い。
最近、自分のペース的にかなりまったりと依頼を出していますが、またお会いできる機会がありましたらうれしいです。
では、またお会いできる事を祈って。
ありがとうとざいました。
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