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どこかで聞いたような何か
〜 一列縦隊の何か 〜
「これ、なんだかわかりますか?」
そう言って、依頼人の少年は「赤く塗られた木製の物体」を取り出した。
「鳥居、じゃないのか?」
それを見るなり、武彦が即答する。
確かに、それは高さが一メートルほどしかなく、鳥居にしては少々小さい気もしたが、形だけ見るならどこからどう見ても鳥居である。
しかし、零はそれを見て首を傾げた。
「でも、鳥居にしては何か変ですね。
……確か、鳥居は上が長いんじゃありませんでしたっけ?」
そう。
この木製の物体は、確かに鳥居に似てはいたが、よく見ると、二本の横木のうち、貫と呼ばれる下の横木の方が、笠木と呼ばれる上の横木より長くなっている。
一般に見られる鳥居とは、まるで正反対であった。
「ええ、実はこれ、鳥居に似せて作られた、ゴミのポイ捨て防止グッズなんです」
少年のその言葉を聞いて、武彦はいつかこれについてテレビで聞いたことを思い出した。
河川敷にこれを設置したところ、少なくともその周囲にだけはほとんどゴミが捨てられなくなったとか、確かそんな話だったはずだ。
「で、その鳥居もどきがどうかしたのか?」
武彦が尋ねると、少年は困ったような笑顔を浮かべた。
「それなんですけどね。
最近、これにいたずらした人がいるみたいなんです」
そう言いながら、少年はメモ用紙を取り出して、何やら絵を描き始めた。
「これが、こんな風になっちゃってるんですよ」
メモ用紙の上に、「鳥居もどき」がいくつもいくつも集まって、一列縦隊を組んでいる様が描き出されていく。
その様子を見て、武彦はつい大声を出した。
「これは、まさか、連ね……!?」
「そう、そのまさかです。
そのまさかなんですけど、ほら、横木の長さが逆じゃないですか。
そのせいで、なんか、効果までほぼ正反対になっちゃったみたいで」
「おい、それ、実はかなり大変なことになってるんじゃないのか!?」
あっけらかんとした様子の少年に対して、再び武彦が大声を出す。
すると、ことの重大さがわかっているのかいないのか、少年は苦笑しながらこう答えた。
「ええ、なんかいろいろ出てきちゃって、結構大変なんです。早くなんとかしてください」
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〜 なぜか気になる何か 〜
「いろいろ出てくる鳥居って……相変わらず、草間くんのところはそんな依頼ばっかりなのね」
人づてに事件の話を聞いて、有澤貴美子(ありさわ・きみこ)は軽く苦笑した。
貴美子も武彦と同じ探偵業を営んでいるが、幸か不幸か、今のところこういった怪奇現象がらみの依頼は来たことがない。
普通の依頼を、普通にこなして、普通に報酬を受け取る。
武彦から見ればうらやましいことこの上ないのかも知れないが、実際にそういう生活を送っている貴美子にしてみれば、やはりいささか面白味に欠ける。
そんな貴美子の目には、今回の事件はとても興味深いものに映った。
(しばらくぶりに、草間くんのところに顔を出してみようかしら)
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
実際の所、貴美子は過去にも何度か武彦の依頼の手伝いをしたことがあった。
武彦とは昔からの知り合いであったし、貴美子自身もドルイド教会に所属するウィッチの一人として、この手の怪奇現象がらみの依頼に関心を寄せていたからである。
(ちょうど、今は手も空いてるし、そうすることにしましょう)
貴美子はそう決めると、改めて聞いた話を整理し始めた。
最も貴美子が興味をもったのは、「鳥居もどき」でも、中から出てきたという化け物でもなく、この依頼を草間興信所に持ち込んだという少年のことであった。
もし、「鳥居から出てきた化け物」が普通の人間にも見えるものだとしたら、今ごろすでに大騒ぎになっているはずであるが、少なくとも彼女の知る限りではそんな雰囲気は全くない以上、「普通の人には化け物は見えない」と考えるより他ない。
しかし、そうなると、今度は「どうしてその少年には化け物が見えたのか」ということになる。
(ひょっとしたら、霊能力でもあるのかしら)
もし、そうだとしたら?
そうだとしても、別に即どうこうというわけではない。化け物が見えるくらいには強いが、化け物をどうこうできるほどではないレベルの霊能力の持ち主、というだけのことなのかも知れない。
けれども、貴美子には、なぜかその少年のことが気になったのである。
(これは、とりあえず調べてみた方が良さそうね)
そう考えて、貴美子は早速その少年についての噂を集め始めた。
少年についての情報は、最初は拍子抜けするほど簡単に手に入った。
名前は遊佐勇(ゆさ・いさむ)で、現在中学二年生。
二ヶ月ほど前にこの辺りに越してきたが、地元の中学校ではなく私立の中学校に通っているらしい。
活発で人なつっこく、小さな子にも優しく接する性格。
そこまでは、近くの中学校の生徒に聞けばすぐにわかった。
だが、その後が問題だった。
彼の両親の名前、職業。
彼の住所、及び、彼が通っているという学校。
そういった細かいことは、彼はあまり話したがらないらしく、誰も聞いたことがなかったのである。
このことに不審なものを感じた貴美子は、次の日、本格的に「遊佐勇」という少年の身元を調査してみた。
その結果、得られた答えは……「遊佐勇という少年は、実在しない」というものだった。
「これは、なにかウラがありそうね」
貴美子は資料をバッグに押し込むと、草間興信所へと向かった。
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〜 呼ばれてきた何か 〜
貴美子が草間興信所に着いたとき、そこに残っていたのは武彦と零だけだった。
「お久しぶりね、草間くん」
貴美子がそう声をかけると、草間は少し驚いたように顔を上げ、それから小さくため息をついた。
「なんだ、貴美子か……何か用か?」
「何か用か、とはご挨拶ね。せっかく面白い情報を持ってきてあげたのに」
試しにそう言ってはみたものの、武彦の反応はやはり素っ気ない。
「悪いが、こっちは今取り込み中なんだ」
しかし。
「その、あなたが今手がけている依頼に関する情報なのよ」
貴美子がそう続けると、草間は再び顔を上げた。
「なんだって?」
もう、こうなってしまえば貴美子のペースである。
そのことは過去の経験から十分わかっているから、貴美子はわざとすぐ本題に入らず、辺りを見回してから武彦にこう言った。
「草間くん、素敵な彼女に、お金の苦労させちゃ駄目よ」
突然の話題転換に、武彦は一瞬きょとんとした表情を見せてから、少し不機嫌そうに答える。
「そんなことはわかってる。
それより、その情報ってのは何なんだ」
どうやら、これ以上からかうのはやめておいた方がよさそうだ。
そう感じて、貴美子は話を元に戻した。
「あなたのところに依頼に来た子なんだけど、どうも偽名を使ってるみたい。
それも、あなたに対してだけじゃなく、知り合い全員に対して」
その言葉に、武彦の表情が険しくなる。
「その上、彼の住所や家族について知っている人は誰もいない。
普通の少年にしては、あまりにも怪しすぎるわ」
「確かに……」
腕組みをして、何やら考え込む武彦。
だが、その時、零が不思議そうにこう言った。
「でも、あの子には邪気のようなものは感じませんでしたよ?」
「確かに、いつも元気で明るいとか、小さい子にも優しいとか、いい噂しか聞かないけど。
一応、用心するに越したことはないと思っただけよ」
貴美子の答えに、草間がますます難しい顔をする。
「だったら、なおのことだ。
どうして、名前を偽る必要があるんだ?」
「そうよね……」
と、貴美子がそう呟いたとき。
突然入り口のドアが開いて、そこから一人の少女が飛び込んできた。
いや、よく見ると、その人物は「少女」ではなく「少年」――水野想司(みずの・そうじ)であった。
にも関わらず、なぜ貴美子が彼を「少女」だと誤認したのか。
もちろん、想司の外見が少女のようだ、ということもある。
けれども、それ以上に問題なのは、彼が「女性用の」修道衣を身につけていたことである。
予期せぬ展開に、目を丸くする武彦と零。
想司はそんな武彦の隣に駆け寄ると、両脇に抱えていた二人分の修道衣を差し出した。
「さ、草間さんも、零さんもっ♪ 天下分け目の大決戦だよっ☆
ささっ、早くこれに着替えてっ♪」
その想司に、当然のごとく草間が抗議する。
「はぁ? おい、何で俺がこんなものを……」
しかし、その抗議の言葉は途中で途切れた。
無理もない。
武彦が「こんなもの」と言った途端に、興信所の外のほうからものすごい殺気が押し寄せてきたからである。
「ちょっと、いったい何なのよ」
状況を把握しかねて、貴美子は入り口のドアを開けて……そこで硬直した。
なんと、何十人もの修道衣の人々――男女比率は明らかに男性のほうが多いが、なぜか全員身に纏っているのは「女性用の」修道衣である――が、表に待機していたのだ。
「その人たちは、『全国シスター激萌え党』の人たちだよっ☆
向こうが神道系の巫女さんなら、こっちはキリスト教系のシスターさんで対抗するんだっ♪」
硬直している貴美子に気づいて、想司が説明する。
それから、彼は武彦の方に向き直ると、意味深な笑みを浮かべて、貴美子にも聞こえるくらいの声でこう言った。
「草間さん……メイドさん以外の萌えも学ぶべきだよっ☆」
「なっ、おい、それはどういう意味だっ!?」
唐突にそんなことを言われて驚いているのか、あるいは図星をつかれて動揺しているのか、武彦がムキになって想司に反論する。
その様子を見て、貴美子はつい「もう少しからかってみたい」という気を起こしてしまった。
「あら、草間くんにそんな趣味があったなんて。意外ね?」
「な、おい、貴美子っ! 別に、俺にはそんな趣味は!!」
「このこと、彼女はもう知ってるの?」
「おい、だから、誤解だ、誤解なんだっ!!」
「さぁ、どうだか?」
反論するたびに、どんどん深みにはまっていく武彦。
その武彦の耳元で、想司が意味深な笑みを浮かべてささやいた。
「草間さん……これ、着るよね☆」
もはや、武彦に選択権はなかった。
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〜 何か、もとい、何がなんだか 〜
『全国シスター激萌え党』の修羅共を引き連れ、自らもシスターの格好をして、想司は意気揚々と河原へ向けて進軍した。
隣には、半ばヤケクソの武彦と、事態がよくわかっていない零の二人が、やはりシスターの格好をして続いている。
さらに、そのはるか後ろを、貴美子が他人のフリをしながらついてきている。想司は貴美子にも修道衣を着るように誘ってはみたのだが、「宗旨が違うから」の一言で断られてしまったため、彼女だけは普段通りの格好をしていた。
「さぁ、いざ行かんっ♪ 愛と正義と『萌え』のためにっ☆」
想司の言葉に、『全国シスター激萌え党』のメンバーが、人目もはばからず怪気炎を上げる。
周囲の奇異の視線が痛いのか、武彦は何とか集団の中心付近にいようとしたり、フードを下げて顔を隠そうとしたりしていたが、場慣れしている想司にはこの程度全然気にならなかった。
そして、一同が河原にあと一歩と迫ったとき。
上空から、二人の人影が想司たちの方に向かって飛んできた。
先に現場に向かっていた、葛西朝幸(かさい・ともゆき)と神島聖(かみしま・ひじり)である。
「草間さん! 一体何やってるんですか!?」
武彦に気づいて、朝幸が呆れたような声を出す。
「俺に聞くな! 俺にもよくわからないんだ!!」
この状態で大声で名前を呼ばれてますますヤケになった武彦に、今度は聖が携帯電話のカメラを向ける。
「はいはい、草間はん、笑って笑って!」
「だあぁ! こら、写真を撮るな、写真をっ!!」
想司はそんな様子を黙って見つめていたが、少し落ち着くのを待って、おもむろに二人にこう尋ねた。
「朝幸さんも、聖さんも、一緒にどうかなっ?」
「いや、俺は遠慮しておく」
即座に首を横に振る朝幸。
一方、聖はというと、どこか想司とは違った方向を見つめながら、半ば独り言のようにこう呟いた。
「俺も、やっぱり見てる方がええなぁ」
想司が彼の視線の先を辿ると、そこには『全国シスター激萌え党』の数少ない女性メンバーの中でも、一番の美人と目される女性の姿があった。
ともあれ、二人を今勧誘している時間はないと悟ると、想司は苦笑しながら続けた。
「じゃ、後から来る貴美子さんを手伝ってあげてよっ♪
僕たちが合戦をやってる間に、回り込んで鳥居を奇襲するって言ってたからさっ☆」
「わかった。それなら、おやすい御用だ」
「了解や。鳥居の方は、俺らに任しとき」
口々にそう答えて、貴美子の方へ向かう二人。
それを見送ってから、想司は全軍に号令をかけた。
「さぁ! 今こそ合戦のときだよっ☆
僕らの『萌え』の強さを、ヤツらに思い知らせてやろうじゃないかっ♪」
かくして、戦いは始まったのであった。
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〜 終わらない何か 〜
貴美子と合流した聖たちは、戦場となっている一帯を大きく迂回し、川辺を歩いて鳥居へと向かった。
幸い、鳥居の前にいたはずの要の姿はすでになく、残りの怪人たちも『全国シスター激萌え党』の迎撃で忙しいため、三人は誰にも発見されることなく、鳥居からおよそ百メートル余りのところまで近寄ることができた。
「結構な数があるわね。どうにかして、一気に片づけられないものかしら」
二十ほどもある鳥居を前にして、貴美子が首をひねる。
すると、朝幸が何かを思いついたように口を開いた。
「一列縦隊なら、俺の風で一気にドミノ倒しに出来るかも知れませんね」
「でも、この位置からで大丈夫?」
「ああ、俺、飛べますから」
貴美子の疑問にそう答えると、朝幸は水面すれすれを飛ぶようにして、うまく鳥居の列と同一直線上へ移動した。
まだ、敵に気づかれた様子はない。
聖がそれを確認して両手でOKのサインを出すと、朝幸は先頭の鳥居目がけて、嵐のような強風を解き放った。
三人が見守る中、狙った通りに鳥居が倒れていく。
しかし、どうやら少しばかり風が強すぎたらしく、そのうちのいくつかが、倒れた拍子に宙を舞った。
「おっと!」
その飛んだ鳥居を、今度は聖が念力で受け止める。
二人の見事なコンビネーションで、無事に鳥居は制圧された……かに見えた。
聖が受け止めた鳥居は、四つだった。
だが、朝幸が飛ばした鳥居は、五つだったのである。
聖が止め損なった鳥居は、そのまま勢いよく飛んでいって、なぜか河原に置かれていたおいてあったゴミバケツに命中した。
衝撃で、ゴミバケツが倒れ、蓋が開く。
すると、次の瞬間、ゴミバケツの中から大量の化け物が飛び出した。
「!?」
予想外の展開に、慌てて朝幸がこちらへ戻ってくる。
けれども、それとは対照的に、貴美子はいたって落ち着いていた。
「どうも、妖魔の類はあの中に押し込んであったみたいね」
「そうみたいやな。どいつもこいつも、巫女衣装の似合いそうもないヤツばっかりや」
聖がいつものとぼけた調子でそう相づちを打つ。
「ここは私に任せて」
貴美子はそう言って苦笑すると、その場で目を閉じ、呪文のような言葉を唱え始めた。
すでに辺りはだいぶ薄暗くなり、あちこちの街灯は全てスイッチが入っている。
その街灯から、貴美子は光の精霊を集め、浄化の光を広く浅く閃かせた。
清らかな光が辺りを包み、化け物たちを次々と浄化していく。
光が消えたときには、化け物のほとんどは浄化され、残ったものも皆一様に弱体化していた。
「すごいですね」
戻ってきた朝幸が、感心したように言う。
「まあね」
貴美子はそう短く答えると、疲れたように一つため息をついた。
「これ以上やると倒れるから、後はお任せするわ」
そう言われて、聖は改めて河原の方を見る。
『巫女様萌え党』と『全国シスター激萌え党』の連中は、相変わらず激しくもバカバカしい戦いを繰り広げており、鳥居を制圧されたことになど気づいてすらいない様子である。
「お任せされても……よう考えたら、今さら鳥居を制圧したところで、何の解決にもなってへんのとちゃう?」
そんな言葉が、自然と口をついて出る。
「言われてみれば……でも、俺、これ以上あの集団に関わるの嫌ですよ」
そう答えて、露骨に不快感を示す朝幸。
確かに、聖としても、あのコスプレ集団と同類と思われるのは、出来れば避けたい。
「ん〜、どないしたもんかなぁ」
誰にともなく、聖はその問いを口にしていた。
答えは、意外なところから聞こえてきた。
「いいんじゃないですか? 少なくとも、これ以上何かが出てくることはなくなったワケですし」
「せやな……って!?」
後ろから聞こえてきた声に、聖が驚いて振り向くと、そこには依頼主の少年の姿があった。
「い、いつの間に……」
目を丸くする一同に、少年は楽しそうに微笑んでみせた。
「いつの間にか、です」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 その後 〜
『巫女様萌え党』と『全国シスター激萌え党』の両者には飽きるまで合戦をさせておく、ということで合意した後。
貴美子は依頼主の少年を連れて少し離れたところへと移動すると、彼に自分が調査したことについて話し、彼が何者で、なぜ偽名を使っているのかを尋ねた。
場所を変えたのは、もちろん、聞いている人間が少ない方が本当のことを話しやすいだろうと思ったためである。
その作戦が功を奏したのか、貴美子の問いに、少年は神妙な顔で答えた。
「もう、そこまで調べたんですね。
じゃ、話しますけど……実は、僕もあの鳥居の向こう側から来たんです」
その予期せぬ答えに、貴美子はびっくりして彼を見返した。
もし彼の言っていることが真実だとすれば、腑に落ちないことが多すぎるのである。
しかし、そんな疑問の多くは、彼の次の一言で氷解した。
「もちろん、別の手段を使って、ですけど。
それで、すっかりこっちが気に入っちゃってまして」
「ああ、だから早くあの鳥居を封じて欲しかったのね」
貴美子がそう聞き返すと、少年は照れたように笑った。
「ええ、知り合いに見つかって、連れ戻されても厄介ですし」
「そういうことだったの」
つられて、貴美子も少年に微笑み返す。
すると、少年はじっと貴美子の目を見つめて、おもむろにこう頼み込んできた。
「あの、一つお願いがあるんです。
誰か、僕の親代わりになってくれる人を捜してもらえませんか?
身よりのないかわいそうな子、ということにでもして。
戸籍とかの細工は、僕の方でやっておきますから」
唐突な依頼に、貴美子は再び驚かされたが、言われてみれば、確かに彼の身分をこのままにしておくというのも問題がある気がする。
少し考えた後、貴美子は冗談めかしてこう尋ねた。
「わかったわ。
引き受けてもいいけど……依頼料はどうするの?」
「出世払い……に、なっちゃいますね。
あ、でも、もしすぐに、ということなら、どこかの銀行からでももらってきますけど」
にこやかに笑いながら、とんでもないことを答える少年。
(私の負けみたいね)
貴美子はそう考えて苦笑すると、少年に諭すように言った。
「出世払いでいいから、そういう犯罪だけはやめてね」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0759 / 海塚・要 / 男性 / 999 / 魔王
0424 / 水野・想司 / 男性 / 14 / 吸血鬼ハンター
1294 / 葛西・朝幸 / 男性 / 16 / 高校生
1295 / 神島・聖 / 男性 / 21 / セールスマン
1319 / 有澤・貴美子 / 女性 / 31 / 探偵・光のウィッチ
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私の依頼にご参加下さいまして誠にありがとうございました。
・このノベルの構成について
このノベルは全部で六つのパートで構成されており、そのうち二、三、五、六番目のパートには複数の種類がありますので、よろしければ他の参加者の方の分もご覧になっていただけると幸いです。
・個別通信(有澤貴美子様)
はじめまして、撓場秀武です。
「少年の正体」と言うところに気づいて下さったのは貴美子さんだけでしたので、今回はその辺りを中心に活躍していただきましたが、いかがでしたでしょうか?
もし何かありましたら、遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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