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<東京怪談・PCゲームノベル>


嬉璃が家出?

九尾桐伯と風野時音は、恵美の頼みのもと管理人室に集まった。
「どういう事なのでしょうか?」
「分かりません…」
思い当たる節がないと恵美が答える
桐伯からして、納得いかない事である。嬉璃が昔の約束をはせなかった後悔の念を引きずっているというのだろうか?また、あの封印した、開かずの扉にある異空間が〜東京大空襲〜残っているからなのか…。
「前の事件に関わるというなら…開かずの扉以外無いと思いますが…どうします?九尾さん」
「…まず、近辺を探してからそのことを考えましょう。恵美さん、何か思い出したら教えて下さい。お願いします」
「分かりました…私も嬉璃ちゃんを捜します」
3人は〈あやかし荘〉中を分けて嬉璃を捜すことにする。
裏山は時音、本館は恵美、旧館は桐伯だ。

●森の中の時音
森の中に、微かな嬉璃の気配を読みとろうと必死の時音。気配は、木々の精の会話(らしきもの)しか、感じない。
「どこに行ったのでしょうか…」
藪を、ナイフで藪を斬ってから、周りを見渡す。
ふと、遠くで聞き覚えのある声がした。嬉璃の声だ。
「そこにいるのかな?」
急いでその場所に行くのだが姿がない。
おかしい…。
後ろから又声がした。
今度は立ち止まって聞き耳をする。
………
「おにさんこっちら」
「まってよ〜」
「エミごはんよ〜」
「は〜いおかあさま、またねきりちゃん」
「うんまたね」
………
過去の再現?
………………
時音は我に返った。
「これは、いったい」
周りを見渡しても、長くそびえ立つ木々しかない。しかし、一つ気になる物があった。
「これは…幻想樹…」
【終わらない戦争】時、魔と退魔は誰かに伝える手段で、別の生命体に残留思念を残す能力がある。その一つ幻想樹。
「この時代にも、こういった物が。が…確かに第二次世界大戦時に人の想いが木に宿ってもおかしくはない…」
時音はその幻想樹に手を当てた…。
過去の記憶…それは嬉璃なのかエミという少女なのか定かではない。無力で残虐に殺されていくあの戦争の酷たらしさを訴えるような…。
時音は、人に裏切られても、人を信じて生きている…複雑な思いをした。
「もしかすると…」
時音は幻想樹の根を掘った。予想は当たった。
桐の箱が見つかったのだ。しかし、鍵がかかって開きようがない。
「これが重要な手がかりになれば…」
時音は急いで本館に戻った。

■嬉璃を信じて…
一度手がかりになりそうな物を管理人室で広げる。
鍵と手紙、そして桐の箱…。
「何故?出て行くときにこういった回りくどいことを」
時音は首をかしげた。
「手紙の内容からすると…狂言ではないですね。私たちが本当に心配しているかどうかを試している事じゃないでしょう」
桐伯は一つの可能性であるいたずらである事を否定した。
「嬉璃ちゃんは、過去のけじめということは?」
「やはり、過去に戻ってやり直したんですよ」
時音と桐伯は恵美に答えた。
「記憶を残す幻想樹から掘り出した木の箱…そしてその鍵…確かに嬉璃さんが残した物ですね」
残留妖気を感知した時音がいう。
「まずは開けてみましょう…」
鍵をとり、箱の鍵穴に差し入れ回す。
ガチャッと金属音が、箱の鍵が開いた事を知らせた。
ゆっくりと、蓋を開ける。
箱の中に市松人形と櫛、そしてハモニカの楽譜が筒のように丸めて入っている。
「ひょっとして…」
恵美はこれ以上言葉を出すことが出来なかった。
「これは恐らく、エミさんの遺品ですね…」
桐伯が答えた。
「これを残していなくなったことは…開かずの間に行ったという…可能性が高い…」
時音が最悪のシナリオであると推測する。
「助けに行かなくちゃ…」
「待って下さい」
恵美が立ち上がるところを桐伯が止める。
「今は…嬉璃さんを待ちましょう。彼女を信じて…」
「でも…」
「開かずの間の世界が、幻覚なのか時代ごと繋がっているのか分かりかねません。彼女自身が無事に約束を果たして、帰ってくることを信じることが今僕たちに出来ることです」
時音は空間干渉に対して知識を持っているが、〈あやかし荘〉自体の空間干渉事件では何が起こるのかは見当がつかないのだ。
「それに…恵美さんがあの世界に行くのは危険すぎる…」
桐伯が恵美にそう言った。
「…」
「信じましょう…」
桐伯はそれ以降口を開くことはなかった。

しばらく桐伯の言うとおり、嬉璃が帰ってくるのを待った。
しかし、いっこうに戻ってくる気配はない。
恵美は、気の疲れから寝込むことになる。
やはり…手がかりは開かずの間なのだろうか?

●時音と歌姫
時音は、開かずの間の性質を調べてみた。
「…やはりこういう事か…」
直ぐに、自分の部屋に戻る。
時音は防護服と緊急救急セットを取り出し、荷物入れに詰め込んだ。
歌姫は心配している。そっと彼の肩に手をおいた。
「大丈夫ですよ。待ってて下さい。必ず戻りますから」
微笑みで彼女に答える。
「まだ、開かずの間が残っている以上、嬉璃さん自身に何か納得がいかないのでしょう。其れは僕も同じです」
歌姫は彼に抱きつき泣く。行っちゃ駄目と止めている。
「でも、嬉璃さんが危ないんです。あの開かずの扉は…嬉璃さんの記憶と東京大空襲の時代に繋がっています。しかもリピート状態で。一つ間違えると…嬉璃さんは帰って来れない…。手助けできるのは時間跳躍の能力を持つ僕しかいないんです」
時音は歌姫を優しく抱きしめた。
「なので、信じてまって下さい…」
時音は歌姫の涙をぬぐってあげ、口づけをした。
しばらくの沈黙…。
やおら立ち上がる時音は、
「では桐伯さんと一緒に開かずの部屋に行きます」

■嬉璃を捜そう
桐伯は、鉄鋼糸を常時より長めに用意しエミの遺品も持って、時音は退魔の時の修羅の気を呼び起こし、問題の開かずの間にやってきた。
「お互い考えているのは同じようですね」
「多分…ね」
お互い、口元は笑っているが目が真剣だった。
「この先は障壁が出来ている。嬉璃さんはイヤでも自分で解決したいのだろう…」
「自分との戦い…ですか」
時音のは昔のことを思い出した。
「時音くんの時代はどうだった?」
「其れはもう…地獄でした。嬉璃さんも…」
「…ですね…」
時音の言葉に桐伯は想像しかできないが…何となく分かる。
「一度障壁を光刃で破壊してみます、間合いから離れて下さい」
時音は光刃を出して、上段から障壁を斬る。しかし、障壁は光刃さえも跳ね返し時音は壁に激突する。
「いたたた…。かなり強い意志ですね…」
時音は背中を押さえながら立ち上がった。
「となると…」
桐伯は、桐の箱を障壁にかざす。
すると、障壁はガラスが割れるようにバラバラと崩れた。
(もしや?)
桐伯は何か不思議に思った。
「…どうしました?」
「何でもないです。行きましょう」
時音の質問に答えないまま開かずの間に入った。

時間の狭間を歩く二人。
数メートル先に光が見える。
警戒して、その光にたどり着いた。
古い建物が並ぶ東京。この地域は富豪の住居地区のようだ。丘の上に建って、東京全貌が見える。
「これが昔の…東京」
「まだ空襲ははじまっていないようですね」
「何故分かります?」
「少し調べてみたのです…。これは…幻想樹と同じように嬉璃さんの記憶の再生を延々リピートしているのですよ」
「そうですか…」
「エミさんの遺品は大事にしましょう。記憶の世界といえども、タイムパラドックスの危険があります」

近くに広場がないか探す二人。
「この声は」
気付いたのは桐伯だった。
「エミちゃんこっち〜」
「まって〜」
ひとまず、物陰に隠れる桐伯と時音。
よく見ると、嬉璃と洋服姿の女の子が走って遊んでいる姿だ。
女の子は、どことなく恵美に似ている。
「つかまえた〜」
「きゃはは」
「何して遊ぶ?」
楽しく遊ぶ二人を見続ける桐伯と時音。
「再現にしては予想以上にリアルすぎる…」
時音は呟いた。
「時間的には…そろそろ空襲警報が鳴るはず」
空を見上げ、桐伯は言う。
丁度、空襲警報が鳴った。
「私たちもどこかに逃げましょう」
「はい、彼女たちを見失うことがないように…」

「エミちゃん急いで!」
「まってきりちゃん!おかあさまが!」
「あ!おうちが!もえる!」
「おかーさまーっ!」
「エミちゃん行っちゃ駄目!駄目だよ!」

時音がエミを救おうと駆け出そうとするが、桐伯が其れを止める。
「桐伯さん」
「嬉璃さんが出てくるチャンスかもしれません。記憶の繰り返しならば」

桐伯の予想は当たった。
現代の嬉璃が戦時中の嬉璃と交代してエミを庇ったのだ。
丁度そのときエミのハモニカが地面に落ちたのを桐伯は見逃さなかった。

場面が一瞬止まる。動いているのは桐伯と時音、そして嬉璃だった
「…おまえ達…さがすなといっておったのに」
嬉璃は、桐伯と時音の存在に気がついたのだ。
「過去に引きずっていても何も解決しないですよ…」
桐伯は嬉璃に近づきながら怒り口調に喋った…。
「そんな物分かっておるわ…しかし…儂にとってあの子は…エミはかけがえのない友達なんぢゃ!…この空間がある限り、儂はこの時代で苦しんでいることを意味しているんぢゃ!…自らの手で…其れを克服したい」
嬉璃は、涙目で訴える。
「嬉璃さん…気持ちは分かりますが…」
桐伯は、ハモニカをとり嬉璃に渡す。
「今この空間は、現実性も帯びています。嬉璃さんがこの空間で死ぬことになったら、現在にいる恵美さんは悲しみますよ…」
時音は、嬉璃と同じ目の高さまで腰をかがめ言った。
「僕も、【終わらない戦争】で人を信じられない様になったし、眠ることも出来なくなった。其れは自分が弱かったからです。過去にあったあの出来事は、今でも僕の心の傷として残っています…。しかし、〈あやかし荘〉に来て、過去のままでは無理だと分かりました。嬉璃さん…帰りましょう」
時音の説得は力有るものだった。
さすがに桐伯でも此処までは言えない。戦争を知るものと知らないものの差であろうか?
しかし、
「もう少し待ってくれ…やり残していることが一つだけある…せめてこの空間でもあの約束を…」
嬉璃はそう答えた。
「そのハモニカですね」
桐伯は訊いた。
「ああ…そうぢゃ…あの子が生きている時に…な」
嬉璃は答えた。
「しかし、幾らこの空間で何度も体験しても…ハモニカをさがすことが出来なかった。出来たとしてもその後ぢゃった、イヤな思い出も思いだし泣くしかなかったが、エミとの楽しい思い出が此処には詰まっておる…」
ハモニカをもって嬉璃は喋る。
「そろそろ…場面が変わるところぢゃろう…」

■タイミング
東京大空襲の後は見るからに無惨な光景だった。
学校や病院に死臭が漂い、焼け野原に崩れた建物の中に焼死体の体が見え隠れする。
桐伯達にとって、様々な物が振れることは出来るが…この空間では「存在」しないようだ。
時音が光刃をナイフ程度の大きさで召還し、其れを時空間測定器としてずれを調べてみる。
「僕たちはわずかに「過去」にずれているみたいですね」
「過去に?」
桐伯は尋ねた。
「怪我はさせたくないから、儂が意図的にずらしておるのぢゃ」
嬉璃が答えた。
「何度も回っておれば、何となくこの空間の限定したところをコントロールする術は分かった。だから先ほどの【記憶】でエミを救えたのぢゃ」
とことこと嬉璃は歩いていく
「今はどこに?」
「…病院ぢゃ…」
桐伯の問いに、悲しく答えた嬉璃。
病気でエミが死ぬところだ。
「…ハモニカを渡すことがこの場面になるとは…何とも辛いことぢゃ…」

病院の場面に移った。
今まさに息を引き取ろうとしているエミに、嬉璃が励ましている姿がみえる。

「またあそんでね」
「うん…だから元気になって、エミちゃん!」
「ああ…おかあさまもおとうさまも……」
「!!」

「私たちはどうすればいいのでしょう?」
「しばらく待ってくれ」
桐伯の問いに、嬉璃はそういって、ゆっくりと昔の嬉璃の側に近づき…
ハモニカを帯に挿した。
急いで、嬉璃は戻る。

昔の嬉璃は帯に何かが挟まっている事に気付く。
さがすと約束していたハモニカだ。
これは神様の救いか?
「エミちゃん!ほら!」
ハモニカを見せる嬉璃
エミは嬉しそうに
「約束、守ってくれたんだ…きりちゃん」
エミはハモニカを手にとって、にこやかに笑う…
「元気になって、またはモニカ吹こうね!」
「うん…ありが…とう…」
「エミちゃん?」
「…」
「エ、エミちゃーーーーん!!」
嬉璃は大泣きした。
しかし…エミの顔は安らぎに満ちていた。

「これで、儂の後悔は無くなった…」
嬉璃に一筋の涙が頬に伝った。

■帰還
空間が閉じ、真っ暗闇になる。
「お主らに本当迷惑をかけた…悪かった…」
嬉璃が二人に謝った。
「貴女の気持ちは分かりますけど…。今回は本当に困ります」
桐伯は嬉璃を抱きかかえた。
「嬉璃さん…辛いことは僕以上かもしれません。でも今は…」
「分かっておる」
「心配している人が【現在】にいる事もですよ」
「ああ…」
暗闇の中で話し合っている。
「どうしても…儂だけでこの空間を閉じたかったんぢゃ…」
「「其れがいけないんです」」
時音と桐伯は同時に言った。
「す、すまん」
頭を垂れる嬉璃。
「恵美さんが心配で寝込んでます。早く元気な姿を見せてあげないと」
時音が言った。
「しかし戻ると言っても…この暗闇を歩いているだけでは?」
桐伯はこの暗闇がどう言ったものなか分からない。
「この暗闇は、只のトンネルですよ。出口は無いですが…でも大丈夫です。嬉璃さんと恵美さんに『絆』があるし、僕にも『絆』があります。その力さえ借りれば、出口は出来ます」
時音はさわやかな笑顔で答えた。
時音の光刃が暗闇を切り裂いた。その亀裂の先には…時音の愛する人が待っていた。

■その後
恵美は泣きながら嬉璃をしかった。でも心の中では安堵していた。
嬉璃は、エミの遺品をどうするか悩んだが、恵美は、
「残しましょう」
と言った。
「辛いこともあった時代でしょうけど、良い思い出が詰まってるじゃないですか」
「…そうぢゃな」
飾ることはなかったが、桐の箱は大事に保管されている。

嬉璃の記憶が具現化した、開かずの間は、いつの間にか無くなっていた。
〈あやかし荘〉の意志が嬉璃の心の傷を克服してもらいたいが故、作り出された物なのかもしれない。
そう思った、桐伯と時音だった。

End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】
【1219/風野・時音/男/17/時空跳躍者】
※番号順です。
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■         ライター通信          ■
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「嬉璃の家出」に参加して下さいましてありがとうございます。
桐伯様お久しぶりです。
時音様も良くお越し下さいました。
かなり暗い内容のノベルとなりましたが如何でしたでしょうか?

では、又の機会宜しくお願いします

滝照直樹拝
20030311