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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ザ・セントウ
●序
 草間興信所に、一人の女性が訪れた。銭湯を経営しているという梅原・杏子(うめはら きょうこ)、24歳だという。
「うちは幽霊さんや人外の方にもお風呂を使って頂いているんですけど」
 杏子はそう切り出した。草間の目が点になる。世界は広いと言えども、そういう風に銭湯を開いている所はそこだけだろう。
「それはいいんですけど、最近お客さんが二つのグループに分かれちゃって」
 彼女の話によると、温い湯派と熱い湯派にまずは分かれ、そして次々と互いの相違点が分かってきてしまい、ぱっくり二つのグループになっていがみ合っているのだという。
「時間をずらすとか、日にちをずらすとか……」
「それも提案したんですけど、お互いに自分が先だと主張なさって」
「いがみ合ってる訳だ。……で、それを仲直りさせろと?」
「いえ、いっその事しっかり一度白黒つけていただこうと思いまして」
「え?」
 再び草間の目が点になる。
「私は提案しました。来る日曜日に、ケイドロをして決める事に!」
「へ?」
「当日、厳正なるくじ引きでどっちが泥棒でどっちが警察か決めます」
「そ、それでうちは何をすれば良いんですかね?」
「どちらかのグループに加わって、加勢して欲しいんですよ」
「何故加勢を……」
「事態をより楽しく、盛大にする為です!」
 参加要項を書いた紙を置き、杏子は帰っていった。草間は溜息を大きくつき、壁に貼っておくのだった。

●先達
「何だ、これは?」
 金髪を掻きあげ、黒の目をぎょろりとさせて真名神・慶悟(まながみ けいご)が怪訝そうに尋ねた。慶悟の目の前には件の張り紙があった。
「変な依頼だよな。何で加勢を求めるんだっていうんだよな」
 煙草の煙を吹かしながら、草間は言う。慶悟は手を口元に当て、「ふむ」と呟く。
「つまりは、あれだな。子どもの遊びだ。警察・泥棒の略だろう?鬼ごっこのような」
「まあ、そうだな」
(俺は修行三昧だったからな……遊びはよく分からん)
 慶悟はそう考え、苦笑する。詳しくは理解してないが、おおよその内容は大体予想がつく。
「面白そうだな……」
 ぼそりと呟きながら手を口元から離し、懐から煙草を出してくわえた。目の前で煙草を座れていたら、自分まで吸いたくなってしまう。不思議なものだ、と慶悟はぼんやりと考える。
「なら、参加してみるかい?」
 草間はそう言いながら、ガタガタと机を鳴らしながら引出しを開ける。そして一枚の紙を取り出し、慶悟に手渡した。
「何だ?」
「アンケートだ。グループ配分用のな」
 慶悟は紙を受け取り、ざっと目を通す。そこには風呂に関する五項目の質問が書かれていた。慶悟は紙を掴んでソファに座り、記入をしていく。
(結構回答に困るものもあるな)
 アンケート用紙に書き込みつつ、ぼんやりと慶悟は考える。
「真名神君」
 突如、草間が声をかけた。慶悟は訝しげに草間の方を見る。草間はにやにやしながら慶悟の方をじっと見ていた。
「何だ?」
 眉を顰めつつ、慶悟が尋ねる。すると、草間はまっすぐに慶悟を指差した。否、慶悟ではなく、慶悟の口元にくわえられている煙草を。
「灰、落ちるぞ。何でも掃除しにくいらしいからな」
 慶悟は慌てて灰皿を探し、灰を落とそうとする。……アウト。ギリギリで灰は床にこぼれてしまった。慶悟はじっと灰のこぼれてしまった場所を見る。草間が妙に嬉しそうに笑う。
「大変だな。一応掃除しておいた方がいいんじゃないか?」
「……悪かったな」
「いや?掃除して貰えれば別にいいさ」
(この男……)
 慶悟は眉を顰めながら草間を軽く睨む。
「ああ、言っておくけど。ここを掃除するのは俺じゃないからな。うちの可愛い妹か、バイトのお姉さんだけだからな」
(……この男)
 全く同じ言葉を、慶悟は反芻した。その言葉に含まれている意味は少しずつ違うものの。
「じゃ、宜しくな」
 草間は慶悟が書き終わったアンケート用紙を受け取り、変わりに箒と塵取を手渡す。慶悟は仕方なくこぼしてしまった灰を塵取に取る。
「そういえば、そのアンケートは誰が集計するんだ?あんたか?」
「まさか。梅原杏子が前日に取りに来て、グループ配分してくれるそうだ」
(なるほどな)
 慶悟はこぼしてしまった灰を全て取り、ゴミ箱に捨てる。塵取に入った煙草の灰が、明らかに慶悟がこぼした以上にあったというのは、何となく黙っておくのだった。

●当日
 パーンパーン、と花火が打ち上げられている。中々盛大な大会だ。ただ普通の大会とは違うのは、参加者の殆どが人外の者であるという事だ。幽霊から妖怪、種々様々な種族が集まっている。そこに加勢する、6人の人間達。
「結構な数ね。まさかこんなにいるとは思わなかったわ」
と、シュライン・エマ(しゅらいん えま)は呟いた。黒髪に切れ長の青い眼が、ぐるりと周りを見回している。
「本当ねぇ。皆、銭湯が好きなのね」
と、藤咲・愛(ふじさき あい)は呟いた。赤い髪に赤い目。身の内に秘める情熱が露出したかのようだ。シュラインと同じく、ぐるりと周りを見ながら。
「まあ、結構な人数がいるのはいい事だ。やりがいがある」
と、慶悟は煙草に火を付けながら言う。
「ふむ、結構な人数……銭湯に皆入りきるのかのう」
と、護堂・霜月(ごどう そうげつ)は呟いた。網代笠の隙間から見える、銀の目。妙に目がキラキラしているように見えるのは気のせいであろうか。
「これでバイト代もらえるんだから、オイシイよね!」
と、村上・涼(むらかみ りょう)はにっこりと微笑みながら言った。黒髪に黒の目。何故か傘を持っている。こんなにもいい天気なのに。
「そうそう!これで金になり、さらにネタにもなるんだから。最高よね!」
と、冴木・紫(さえき ゆかり)はぐっと拳を握り締めながら力説した。黒髪から覗く青の目は、闘志に燃えている。
「それではー、大会の説明をしますー」
 前の方で、梅原杏子がハンディマイクを片手に叫んだ。大きな時計台の下にいる。一瞬、皆が沈黙して杏子に集中する。
「ケイドロとは、警察・泥棒に分かれてする鬼ごっこです。泥棒は逃げ、警察は泥棒を捕まえて牢屋に入れてください。牢屋に入れられても、捕まってない泥棒の人がタッチすれば、逃げる事が出来ます。警察の人はそれを勿論阻止できます。牢屋に見張りをつけるのも自由です」
 杏子はにっこりと笑う。
「警察は、泥棒を捕まえるのが絶対条件です。泥棒にタッチするだけでは捕まえた事になりませんのでお気をつけて。また、牢屋に連行する間に逃げられても駄目です。前もって言っていた通り、持ち物は自由です。何をしても大丈夫です。では、グループ分けの発表です」
 杏子は、模造紙に書かれた名前の羅列を広げた。赤組と白組に分けられている。草間興信所のメンバーは、赤組は慶悟・霜月・涼・紫、白組がシュライン・愛となっていた。
「あら、2対4なのね」
 シュラインが苦笑しながら呟く。
「だが、別に俺達だけがやる訳じゃないからな」
 慶悟はそう言って、模造紙を指差す。総勢50人。25対25に綺麗に分かれている。
「では、代表者の方々は前へ!」
 杏子の言葉に、二人の代表者が前に出た。額に赤い鉢巻を付けた赤組団長セキと、腕に白の腕章をした白組団長ハクだ。
「赤組、集結!」
「白組、集結!」
 その言葉で、調査員達は分かれた。敵として、味方として。
「では行きます!お風呂の温度は……」
 杏子の問いに、互いが叫ぶ。慶悟の耳には、赤組の声しか聞こえないが。
「熱め!」
「お風呂上りは」
「牛乳!」
(本当は、フルーツ牛乳の方が好きなんだが……選択肢に無かったからな)
 こっそりと、慶悟は心の中で呟く。ここでそのような事を言うのは、少々怖い。
「お風呂の時間は」
「短く!」
(長いんだが……出たり入ったりするからな)
「お風呂に入るのは」
「食前!」
「無論、お風呂とは……」
「極楽―!」
「では、警察か泥棒かをくじで決めます!」
 杏子はそう言い、二本の棒を取り出した。団長達は緊張した面持ちで、それをひく。そして掲げられた先には、セキの手の棒先にリボンが巻かれていた。
「赤組、泥棒!」
 杏子が叫ぶ。
(つまり、俺達は泥棒だな)
「赤組は赤い鉢巻を、白組は白い腕章を忘れないで下さいね。一応言っておきますけど、それを外したり隠したりしたら、ルール違反ですから。時間制限は3時間。泥棒が11人以上残っていたら、泥棒の勝ち。警察は泥棒全員を捕まえるか、時間制限が来た時に15人以上捕まえていたら警察の勝ち。これで良いですか?」
 一同が「おおお」と叫んだ。咆哮に近い。
「では、牢屋はこの時計台の辺りで。一応ロープで囲いをしておきますね。では、この時計が1時をさしたら、泥棒の皆さんは逃げてください。その1分後に警察の皆さんは追ってくださいね」
 カチカチ、と時計が時を刻む。赤組は今にも逃げる用意をし、白組は直ぐにでも追いかけられるように時計を眺めている。カチリ。時計が丁度1時をさした。途端、赤組は逃げ始める。参加者ではない見物人たちも、各々が好みのグループの鉢巻か腕章をして応援をしている。
「では、また後程!」
 霜月はそう叫ぶと、地を強く蹴って遠くに飛んでいってしまった。慶悟は小さく笑う。
(所詮、遊び。たまにはこういうのも悪くないだろう)
 走っていると、後ろから杏子の声が聞こえてきた。
「一分経過しました!どうぞ、追ってください」
(来るか)
 慶悟は懐から符を取り出し、木の影に身を潜ませつつ、構えた。
「直ぐには捕まってやらんからな」
 どこかしら楽しそうに慶悟は呟き、追って来る警察を静かに待つのだった。

●戦闘
(囲まれた)
 慶悟は瞬時にして気付く。自分の身を潜めているこの場所は、しっかりと周りを囲まれている。数は恐らく3人。……否、人という数え方をしてもいいものだろうかと悩んでしまう。相手は、恐らく妖の者なのだから。
「いるんだろ?」
「出てきなよ」
「そうしたら、痛い目に遭わないよ」
(……幾分低い年齢。数は3……)
「来ないのなら」
「こっちから」
「行くよ?」
 慶悟は慌てて結界を張った。その途端、風が起こる。風の刃が。何とかそれらは結界によって防ぐ事が出来た。
(カマイタチ、か)
「見つけた」
「見つけたよ」
「何だ、人間」
 三人は小さな男の子の格好をしていた。しかし、だからと言ってみすみす捕まってやるわけには行かない。慶悟は印を組み、カマイタチに禁呪を放つ。
「動けない!」
「何する!」
「意地悪!」
(そんな、よってたかって罵らなくても)
 慶悟は苦笑しながら禁呪を完成させる。勿論、全力で行使したわけではない。あくまでもこれはお遊びなのだから。
「悪いが、まだまだ捕まる気は無いんでな」
 慶悟はそう言うと、懐から符を取り出す。じたばたもがくカマイタチ達。軽くかけた術は、今しばらくすれば解けてしまうだろう。現に、一人脱出に成功しようとしているのだから。
「逃がさない!」
 慶悟は向かってこようとするカマイタチの一人に向かって符を放つ。行く手を阻む、結界符。無論、これも軽いものだ。暫く頑張れば解けるであろう。やっと禁呪を解く事の出来た二人に手伝って貰いながら、必死でカマイタチは慶悟を追おうとする。
「さて、じゃあ俺は行かせてもらおう」
 慶悟はそう言ってもう一度印を組み、穏形法を行使する。これで、カマイタチは慶悟が何処に行ったか分からない筈だ。
「何処に」
「行った?」
「逃がさない!」
 必死で探すカマイタチ。慶悟は小さく笑みを漏らし、思わず挑発する。
「どうした?俺はまだいるぜ。……来ないのか?」
「何を!」
「絶対に」
「捕まえる!」
(断る)
 慶悟はくく、ともう一度笑ってからその場を離れた。穏形法により、慶悟が何処に行ったか分からなくなってしまったカマイタチ達の必死になっている顔を想像しながら。
「……意外に、楽しいのかもしれん」
 慶悟はそう言って、懐から煙草を出して一本口に咥えた。火をつけ、煙を吐き出したその瞬間。
「いたぞ!」
 カマイタチだ!煙に気付かれたらしい。
「全く……しつこいな」
 慶悟はそう言いつつも口元に笑みを携え、煙草を使って五芒星を描く。簡易結界を張る為に。

●終了
「終了でーす」
 四時になった途端、杏子の声が山中に響いた。ハンディマイクによる終了を告げる声だ。
「もう終わってしまったか……」
 カマイタチは残念そうに去って行く。思えば、結構な時間カマイタチと戯れていたのだと慶悟は苦笑する。最初の所に戻ると、泥棒は計15人が牢屋に入っていた。白組がにわかに湧き立つ。
「見ての通りです。白組の勝ちですー」
 シュラインと愛は手を取り合い、笑う。慶悟・霜月・涼・紫は一瞬残念そうな顔をしたものの、直ぐに顔を見合わせて笑っていた。
「という事で、今日は先に温めにお風呂をたき、明日は先に熱くしますね」
 うおおお、と白組が湧く。赤組はしょぼんとして残念そうに溜息をつく。それでもどこか清々しいようにも見えるのは気のせいか。
「では、皆さんで銭湯に行きましょう。牛乳と珈琲牛乳、おにぎりも用意してますから」
 にっこりと杏子は笑い、シュラインに目配せした。用意をしたのはシュラインも同じ。このケイドロが始まる前に杏子と一緒におにぎりを作っておいたのだから。
「ああ、楽しみ!不思議な銭湯なのよね」
とシュライン。
「本当。大きなお風呂に久しくゆっくり入るって無かったのよねぇ」
と愛。
「フルーツ牛乳はあるかな……」
と慶悟。
「やはり、しゃんぷう系は『ふろーらる』がいい匂いよのう。思わず新しいものを買ってしまったわ」
と霜月。
(ちょっと待て。世の中には必要なものと必要でないものがあるはずだが)
 皆の目が、自然と霜月の頭に集中した。
「良かった、着替え持ってきて。小銭はいらなかったけど」
と涼。
「皆、アヒルちゃんの出番よ!皆の分はちゃんと確保しておいたから!」
と紫。一つずつ皆にアヒルの玩具を渡していく。愛はそれを持って何かをいいかけ、やめた。何か引っ掛かるものがあったらしい。
「皆さん、有難うございました」
 パタパタと杏子が走りより、皆に頭を下げた。「お陰で、大盛り上がりです」
「そ、そう。それは良かったわね」
 苦笑しながらシュラインが答えた。
「フルーツ牛乳はあるのか?」
 至極真面目な顔で慶悟が尋ねた。杏子はにっこりと笑う。
「ええ、ありますよ」
「流石に、砂風呂は無いのよね?」
 愛が尋ねると、暫く杏子は考え込む。
「今は無いですけど……ちょっと考えておきますね」
「アヒルちゃんは浮かべても良いわよね?」
 確認するかのように、紫が尋ねる。
「ええ。……それにしても、沢山買われたのですね」
「そうよ!恥ずかしかったし、結構懐痛くなったけどね!」
 何故か涙目の紫。
「ここでは、求人はしてないんだよね?」
 履歴書を何故か出しながら、涼が尋ねる。杏子が苦笑する。
「……すいません。アルバイトならあるんですけど」
「私が目指すのは正社員よ……」
 遠い目をしながら、涼はぼんやりと呟く。
「今年の流行は『ふろーらる』じゃよな?」
「え?」
 突然の霜月の言葉に、杏子は一瞬戸惑う。
「いや、梅原殿は風呂屋じゃから。しゃんぷうの流行に詳しいかと思ってのう」
「ええと……そうですね。フローラルかもしれませんね」
 杏子の視線は、自然に霜月の頭に注がれた。そして一同は銭湯に向かうのだった。とりあえずは温い湯の沸かされた、銭湯に。

<依頼完了・銭湯入浴付き>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0381 / 村上・涼 / 女 / 22 / 学生 】
【 0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0830 / 藤咲・愛 / 女 / 26 / 歌舞伎町の女王 】
【 1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター 】
【 1069 / 護堂・霜月 / 男 / 999 / 真言宗僧侶 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハです。ライターの霜月玲守です。この度は「ザ・セントウ」に参加していただき、本当に有難うございました。今回はギャグ路線・一発勝負でいってみました。如何だったでしょうか?
 今回、赤組と白組に分けさせて頂きました。そして、ケイドロの結果はあの通りです。泥棒側の敗因は、仲間を助けに行くという意識の有無で決めさせていただきました。泥棒・警察は勿論クジです。一人でクジしました(寂)
 真名神・慶悟さん、いつもご参加有難うございます。今回は遊びといえども手を抜かないように立ち向かう、と言う事で。フルーツ牛乳派という設定がとてつもなく可愛いと思ってしまいました。
 この話は皆様それぞれの話となっております。他の方の話も併せて読まれると、より一層深く読み込めると思われますのでお暇な時にでも是非。
 ご意見・ご感想を心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時迄。