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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


真夜中のサーカス
◆サーカスの招待状
ある日、帰宅途中の碇 麗香は不思議な少女に出会った。

「これ、どうぞ。」
少女は碇にチケットのようなモノを5枚差し出した。
見るとそれは正真正銘チケットのようで、『真夜中のサーカス・招待券』と書かれている。
「サーカス?この辺でやってるの?」
碇は辺りを見回して言った。
しかし、それらしきテントや建物の影も形もない。
「はい。そのチケットの裏にある場所でやってます。是非、来て下さい。」
少女はそう言うとちょこんと頭を下げた。
「サーカスねぇ・・・」
深夜の人気のない住宅地で、幼い少女が呼び込みをやっているサーカスとは一体どんな物なんだろう?
「あ、これ、日付今日じゃないのね。」
チケットを裏返してみると、簡単な地図と日時が書かれている。
場所は何処かの広場で、日時は一週間後になっていた。
「はい。是非、来て下さい。」
「そうね、時間があったら・・・」
行くわと言いかけて、碇は少女の姿が消えているのに気がついた。
「・・・軽業なのかしら?」
曲がり角のない一本道で、ほんの一瞬で姿を消す技がどんなものか知らないが。

碇は、とりあえずバッグにチケットをしまうと、明日にでも誰かに渡して取材させてみようかと思うのであった。

誰か、サーカスに行きませんか?

◆サーカスの取材?
「サーカス!?」
アトラス編集部を訪れていた久喜坂 咲は、碇から話を聞くと目を輝かせた。
「真夜中にやってるサーカスかぁ・・・なんだか、真夜中ってところがメルヘンチックで可愛いわよねっ♪」
「そうかなぁ・・・」
碇からチケットを受け取り、浮かれている久喜坂の後で、母里 廉と塚原 庚矢は苦笑いしながらそれを見つめている。
「聞くからに怪しげな話だと思うのだが・・・」
塚原は、久喜坂には聞こえないように小声で母里に言った。
「話を聞けば聞くほど・・・キナ臭いね。」
母里も困ったように呟く。
碇から聞いた少女の話しも、真夜中にサーカスをすると言うその発想も、普通に聞けば怪しいこと極まりない。
少なくとも、久喜坂のようにメルヘンチックで可愛い♪とは言えなかった。
「二人とも、何してるの?」
くるっと二人の方を振り返った久喜坂が、笑顔で紙片を差し出す。
「はい、チケット。」
「あ、あの・・・夜更かしは肌に悪くないかな?」
母里はやんわりと行くのを止めさせようとするが・・・。
「ええっ?廉は行かないの?」
「え・・・」
その言葉に隣りを見ると、塚原はすでにチケットを受け取っている。
「姫君にお付き合いするよ」
涼しい顔でそう言う塚原を見て、母里は久喜坂からチケットを受け取った。
「うん、興味あるな。ボディガードも兼ねて、行くよ。」
微妙に複雑なものを感じながら母里はそう言うと、塚原の方をちらりと見た。
「じゃあ、今夜ね。他の人も行くって言うから、ここの前で待ち合わせね。」
男二人の微妙な状態も気にせず、久喜坂は満足そうな笑みを浮かべると明るくそう言った。

こうして、取材メンバーは何とか集められたのであった。

◆裏路地のサーカス
「こんな所でサーカスってやるの?」
思いっきり不信そうな顔で、巫が言った。
チケットに記された場所は、深夜のオフィス街。
周囲は背の高いビルに囲まれているが、人気はまったくと言っていいほどない。
「俺たち以外に客は居ないのか・・・?」
塚原は辺りを見回す。
どんなに探しても、サーカスへ向うような客は居ない。
もっとも、真っ当なサーカスとは考えづらいので、客もそれ相当におかしいとは考えられるが・・・。
「もしかしたら、もう始まっちゃってるのかも!」
チケットを手に先頭を歩いていた久喜坂が、慌てて言った。
「急ごう!地図だと、場所はこっちよ!」
「お、おいっ・・・」
久喜坂は母里の手を掴むと、ぐんぐんと急ぎ始めた。
「待てよっ。」
その後を塚原が追う。
「私たちも行きましょう。」
宮小路が巫に声をかけ、巫もそれにうなづくと、先を急ぐ三人を追った。

クス・・・クスクス・・・

5人が居なくなり、静かになった道路に少女の笑い声がかすかに響く。
それは、まるで楽しい出し物で見ているかのような、そんな笑い声だった。

「こっちのはずなんだけど・・・」
ビルの谷間、狭い路地へと続く道を見て、久喜坂は足を止めた。
「まさかこんな奥に・・・?」
巫もその路地の奥を覗き込んで言う。
こんな細い道を入っていったところに、何があるだろう?
人が二人並んでやっと通れるほどの道だ。道と言うよりは、建物の隙間かもしれない。
「とりあえず、地図が示すのがこちらなら、行くだけいってみましょう。」
宮小路はそう言うと、今度は久喜坂に代わって最初に路地へと足を踏み入れた。
路地は街頭の灯りが届かず、じんわりと暗い。
しかも、表から見ていたより、ずっと奥が深いようだ。
「奇妙な・・・気配がする。」
久喜坂の後を用心深く歩いていた塚原が呟く。
「何かしら、結界・・・みたいな感じ?」
久喜坂も感じていたようだ。
さっきから足元や周囲の壁をしきりと気にしている。
「結界と言うよりは、異界かも知れないな・・・」
ずっと黙って様子を見ていた巫が、不意に口を開いた。
「異界・・・」
巫の言葉に、久喜坂が納得したようにうなずく。
「そうかも。なんだか違う世界に来たみたい・・・」
路地に入って10メートルほど進んだだろうか?
そんなに進んだのに、両側のビルの塀には何の変化もない。
でも、振り返れば元居た場所がかすかに見える。
進むべきか?戻るべきか?・・・考えるべきなのだろうか?
「ここ・・・ですか?」
先頭の宮小路が足を止める。
目の前に立ち塞がったのは鋼鉄製の扉。そこに木で出来た看板が下がっている。

『真夜中のサーカス』

見上げると、ビルの間を滅茶苦茶に鉄板で綱き塞いだような壁が上空へ向けて続いている。
暗い中では一番上は見えない。何故か空すら見えなかった。
「なんだか・・・変・・・?」
久喜坂もここへ来て、サーカスと言う浮かれた気持ちが薄らいできた。
小さな灯りが照らしているその看板は、朽ちて落ちんほどの古さだ。
「いらっしゃいませ。」
不意に小さな声がして、5人は驚いて背後を振り返る。
まったく何の気配も感じさせずに、少女はそこに立っていた。
「チケットをお持ちですか?」
少女はそう言うと小さな手をのばした。
年の頃は10歳くらいだろうか?
良くみればまだあどけない顔の少女は、5人からチケットを受け取る。
「サーカスって、ここでやってるの?」
巫がそうたずねると、少女はこくりとうなずいた。
「こちらの扉からお入りください。階段を降りたところです。」
そう言うと、鋼鉄製の扉を押し開いた。
扉は嫌な軋みを上げて、開かれた。
「どうぞ。」
一同は嫌な予感がしたが、勧められるままに扉の中へと踏み込んだ。

5人が扉をくぐった途端、扉は背後でかたく閉じられた。
塚原がノブを掴んでガタガタと揺すったが、びくともしない。
「イヤな世界のセオリーかよ・・・」
ある程度予想はしていたが、着々とはめ込まれている様でいい気分はしない。
「進むしかありませんね。」
宮小路は静かに言った。
慌てても仕方がない。こう言う状況の時は冷静であることが何よりも必要だ。
「気をつけて・・・」
母里は久喜坂の手を握ると、宮小路の後に続いた。
「きゃっ・・・」
しかし、同じ一歩を踏み出した久喜坂の足が階段の中へと沈む!
「わっ!」
背後で、巫も声をあげた。
必死に手摺のところにしがみついているが、足が階段の中へと沈んでいる。
「捕まれっ!」
塚原が慌てて巫の腕を掴み、引き上げようとするが・・・何の不思議か腕はスルリと手から抜けて、巫の体は階段の中へと沈んでしまった。
「咲ちゃん!」
母里も同じだった。確りと握っていたはずの手からすり抜け、久喜坂は階段の中へと沈んでしまったのだ。
「くっ!」
塚原は階段を足で蹴ったが何の変化もない。
二人の女の子は階段に飲み込まれてしまった。
「ますます、先に進まざるを得ない状況になってしまいましたか・・・」
あっという間の出来事に、三人はなす術もなかった。

◆暗闇の刺客
「・・・この階段は何処まで続くんだろう?」
母里が終わらぬ階段に思わず呟く。
女の子二人の行方を見失った三人は、長く続く階段を黙々と進んでいた。
「無限回廊と言うわけではなさそうです。本当に深くまで続いている。」
宮小路が壁に手を当てて言った。
「そのようだな。ここが人間界かどうかは別にして、実際に深くまで進んでいる。」
塚原もそれは感じていた。
術ならばその気配がある。しかし、ここには違和感こそ感じるが術の気配はない。
「あ、あれ・・・。」
母里が行く手に出口らしき物を見つけ指差す。
「出口かな?」
指差した先に、幾重にもカーテンがかかった出口が見えた。
「そのようだな。」
塚原がカーテンをまくると、中は暗闇が満ちている。
「中に入るしかないか。」
先に進まないことにはどうにもならない。
「ちょっと待ってください。」
カーテンをくぐろうとした塚原を、宮小路が呼び止める。
「彼らに様子を見てきてもらいましょう。」
そう言うと、宮小路は何事か口の中で唱え、二羽の大梟を召喚した。
「ご隠居、和尚、向うの様子を見てきてください。」
宮小路の頼みに、淡い光を纏いながら、宮小路の式である二羽の梟はカーテンの向うへと消えた。

しばらくすると、中へ入った式は宮小路に声を伝えてきた。
「・・・中に誰か居ます。巫さんと久喜坂さんのようです・・」
宮小路は式から伝えられた声に眉をひそめる。
「攻撃を受けている・・・?」
そこまで伝えたところで、それを遮るように塚原が立ち上がった。
「行くぞ、中がどうなっていても、二人が居るならこうしてはいられない。」
「俺も・・・」
母里も立ち上がった。
手にはすでに退魔刀の『宵鬼』が握られている。
「あ、待って・・・」
宮小路はそれを制止し様としたが、二人はそれを振り切ってカーテンの向うへと駆け込んだ。
「奇妙な・・・」
宮小路は式が伝えてきた情報を訝しく思いながら、二人の後を追うことにした。
式神が伝えてきた情報は、二つ。
一つは中に巫と久喜坂が居ること。

もう一つは、巫と久喜坂が式に襲い掛かってきたこと。

状況が良く把握できないまま、三人はカーテンの向うの闇の中へと踏み込んだのだった。


◆見世物小屋の観客
三人が暗闇の中へ踏み込むと、頭上に淡く輝く球状のものを見つけた。
シャボン玉のように淡い光彩を放つその中には、見失った二人、巫と久喜坂が閉じ込められていた。
二人は必死にそのシャボン玉の壁を叩いて、こちらに何か叫んでいるがまったく声は聞こえない。
どうやらあのシャボン玉は何かの結界のようだ。
「結界ならば、刀で切れる。」
塚原はそう言うと、静かに刀を抜いた。
御神刀「天后」。如何なるあやかしもその浄化の力によって消え失せる。
「俺もやるよ。二人がかりでやれば何とかなるかも・・・」
母里も手にしていた刀を構える。
宵鬼の生み出す刃なら、そこに触れずとも切り裂くことができるかもしれない。
「では、結界が解けた後は任せてください。御隠居、和尚、落ちる二人を受け止めてください」
宮小路はそう言うと、自分の肩へと戻った二羽の梟に命じた。
塚原と母里は、気を研ぎ澄ませて、ゆっくりと刀をかざす。
「デートを邪魔してくれたお礼、させてもらうぜ。」
「咲ちゃんを怖がらせたのは許せないよ。」
二人は剣舞のように呼吸を合わせ、その力を刀に託した。
それを悟ったのか、シャボン玉の中の久喜坂が巫と共に体を伏せた。
次の瞬間、二人が刀より繰出した気の刃は、見事二人を包む結界を切り裂いた。
落ちる二人を、梟の羽ばたきがすくい上げる。
見事、久喜坂と巫は助け出されたのであった。
「咲ちゃん!」
床に下りた久喜坂に母里と塚原が駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
宮小路も座り込んだ巫に手を貸した。。

そして、その瞬間、眩いばかりの光が辺りを照らしたかと思うと、5人は割れんばかりの大歓声と喝采にに包まれたのだった。

何が起こったのかわからない男性三人は、いきなり目の前に現れた観客に言葉もない。
「本日の上演はこれにて終了いたします。ご来場ありがとうございました。」
舞台の終了を告げるアナウンスが流れ、そしてステージは暗闇に包まれた。

◆次回上演のお知らせ
暗闇が次に晴れたとき、五人はビル立ち並ぶオフィス街の真ん中に立っていた。
何がなんだかわからず、途方に暮れた五人の前に、サーカスの入り口で出会った少女が立っていた。
少女は、ペコリとお辞儀をすると、トンボ返しのようにくるんと宙を切り、一匹の狐に姿を変えた。
そして、ケーン・・・と高く一声鳴いて、オフィス街の暗闇へと姿を消していった。
「ちょっと・・・これって・・・」
巫がそれを見つめて、振るえながら言った。
「狐に化かされたって事?」
「そのようですね。」
真相がわかってみればあまりのことに、苦笑いしながら宮小路が言った。
「すごーいっ!これってサーカスよりすごいかも!」
それを聞いた久喜坂が、いきなり声をあげた。
「狐に化かされるなんて、サーカスより珍しい体験じゃない!ねぇ?廉?庚矢?」
「そ、そうかなぁ?」
久喜坂に微笑みかけられた母里は、何と言っていいのかわからず曖昧に微笑んで答えた。
塚原は苦笑するのも難しいらしく、引きつった笑みを無理やり浮かべようとしている。
「まあ、狐に化かされたなら、普通のサーカスのレポートよりはマシかもしれませんね。アトラスの記事的には・・・」
宮小路が、励ますように巫にそう言うと、巫は肩を震わせながら大声で言った。
「そうかもしれないけど、プライドが許せなーいっ!!」

それは、誰もが同じ事なのであった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1234 / 塚原・庚矢 / 男 / 18 / 学生
0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生
0904 / 久喜坂・咲 / 女 / 18 / 女子高生陰陽師
1321 / 母里・廉 / 男 / 18 / 高校生
1087 / 巫・聖羅 / 女 / 17 / 高校生

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回は私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
こんな感じでお話展開いたしましたが、如何でしたでしょうか?
女性陣とは別行動をしておりますが、お話は繋がっておりますので、よろしかったらそちらもご覧になってみてください。

初めまして。サーカスへは観客とてではなく、出演者としてのご参加となってしまいましたが、如何でしたでしょうか?心配しておられた通り、思いっきり胡散臭いサーカスでした(^^;
戦闘らしい戦闘もなく、母里さんの剣術があまり描写できなかったのですけど、これからの活躍も期待しております!頑張ってくださいね。

では、またどこかでお会いいたしましょう。
お疲れさまでした。