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<東京怪談・PCゲームノベル>


花見に行きましょう

■もう8分咲き
嬉璃の企画から数日…、外の桜は満開まで後わずか。
少し皆の様子を覗いてみようじゃないか、諸君。

場所取り係で、三下が行く羽目になったが、彼では心許ないと言うことで風野時音も同行することになった。早めに良いポジションを獲得したので焦ることもなかった。
「まずは、ビニールシートで場所を〜」
「その後は悠也さんの希望通り茣蓙を敷くそうですよ」
「はい」
着々と進める二人、やはり1人より二人の方が作業ははかどる。
「場所取りの第一段階は終わった〜」
三下はいい汗をかいたように爽やかに言ったが、何故か似合わない。
「では、僕は少し散歩してきます」
時音は会釈してその場をうろうろした。
過去にこの近辺で重傷の状態で【現代】に跳んできた事を思い出した。そんな思い出に浸りながら、桜並木の木々に「花見の時は満開になって下さい」という思いを込めてさわる。
ふと、頭の中に少女の声がした。
「『退魔剣神陰流』は呪いよ。【人】を【魔】に変えるか【廃人】にする諸刃の剣よ、使えば使うほど人として無くなる…其れで良いの?」
どこかで聞いた声だ…。たしか、時間跳躍するときに…。
頭からその考えを振り払うように頭を振った。しかし頭から離れない。
「誰か僕に何かを伝えたいのは分かるけど…僕は…これで戦ってきたんだ…」
自分の宿命を呪うように、また其れが定めだと思いこむように呟いた。

■待ち合わせは〈あやかし荘〉
春の暖かさが心地よい。野猫は屋根でひなたぼっこしている。
近くの公園にある桜は満開である。しかも快晴で花見日よりだ。

三下と時音は困っていた。
「くー」
いつの間にか、桜の木の下に少女がマントにくるまり静かに眠っているのだ。
「風邪を引くといけないから、起こしましょうか…」
三下がそう言ってるときに、少女が起きた。
「ふわぁ…おはようございまふぁ」
挨拶があくびに変わる。
「「君?どうしたの?」」」
男2人同時に訊ねた。
「あ、ボク…冬野蛍です!…え、えっとー…」
自分が此処で寝ていることが分かってないようだ。
「ここは、寝るところじゃないよ。家の人が心配してますよ」
時音が優しく諭す。
「問題ないよ。いつもだから」
蛍はそう答えた。
「こまったなぁ」
困り果てるふたり。
「大丈夫だから♪」
説得力がいまひとつ(全然ない)な蛍の言葉だった。
その後に、遮那がやってきて3人そろって悩むことになる。

■宴のはじまり
あやかし荘で集まった一行は、三下が手を振る場所までゆっくりと、歩いていった。
春の暖かさを感じ、時折風が吹いて散る桜を眺めて。
近くの公園にある一番大きい桜の木の下で、茣蓙がひかれている。
「ちゃんと茣蓙だ☆」
悠也は喜んだ。
「青いビニールシートだと…殺人現場を思い出すからね」
「ははは」
皆は笑って、真ん中にお重を並べる。
エルハンドは、ジュースの入った箱をおいてから、ポケットから小さい白い箱をどこからともなく取り出した。
「バーテンダーの九尾がカクテルを作りやすいように用意してきた」
「ほう其れが?」
桐伯は白い箱を眺める。只の小さな箱だった。
剣客は何か唱えると、それは、小さいバーのカウンターに似た物となった。しかも、デザインは花見の場に全く違和感がない。ふつうに地べたに座ってもカクテルが作りやすいように出来ている。
「ありがとうございます。遠慮無く使わせて頂きます」
桐伯は、剣客に礼を述べた。
「始める前に…」
嬉璃が言い始めた。
「ひさしぶりじゃ、蛍」
「蛍ちゃんおひさしぶり!」
「嬉璃さん、柚葉ちゃんおひさしぶりです!」
嬉璃と柚葉は蛍と顔見知りであるようだ。今まで心配していた、時音と遮那、三下は安堵した。
皆はお酒かジュースを各自選んでコップやグラスに注ぐ。そして嬉璃の
「乾杯ぢゃ!」
の一声で、宴が始まった。

時音と歌姫はのんびりと昼食を摂ってから、一緒に散歩をしていた。
後ろに蛍を猫つかみしているエルハンドがやってきた。
「どうしました?」
時音がエルハンドに気付き訊ねた。
「この、おちびさんが…」
「おちびさんじゃないもん!蛍ってちゃんと名前があるもん!」
「名前があろうと、ちびはちびだ」
「うぐぅ…」
「とにかく、大事な話が二人にあるそうだ」
「え?」
時音と歌姫が蛍をみる。
剣客は彼女を放した。
「先日…時音さんに『退魔剣神陰流』は危険って伝えたのはボクなの…」
真剣に報告する蛍。
「このままじゃ、未来でも現在でも【廃人】か【魔】になっちゃうって」
「あのときの言葉は君だったのか…」
時音は自分の置く宿命に葛藤していた。歌姫は心配そうに時音を見つめる。
「自分だけで解決したい事だったのに」
時音は、吐き捨てるように呟く。
「確かに、退魔剣はかなりの精神力を使う能力だ。同じ事は私でも出来る」
エルハンドの手から、いとも簡単に光刃をだした。それに驚く時音達。
「しかし、生身の定命者がこの剣を使うことは、まさしく命と引き替えになる。蛍が言っていることは嘘ではない」
「分かってます…」
光刃を消した剣客は、一間おいてこう言った。
「時音…、その退魔剣を手放しても、同じ効果を得られる方法はある」
「それは?」
「私の主流剣技…天空剣だ」
「それは、神にしか使えないはず…?」
伝説では天空剣は神々が使う技であり、能力者でも神格域まで達しないと習得不可能らしい。
エルハンドが道場で教えているのは、特殊能力無しの居合い、剣道、試斬の三者一体だけだ。
「光刃をすでに二つ手にしているお前なら問題ない。蛍の助言と、今の恋人を大切にするか。それとも…そのまま自滅するか自分で選ぶが良い」
「…」
時音は黙ったままだった。
剣客の誘いは有りがたい事だったが…今更剣を捨てることは出来ない…。
その胸中を察するかのように、剣客は一息つき、
「しばらく考えるのだな。私はこの食いしん坊のお守りを続けるよ」
「ボク食いしん坊じゃないもん!」
「三下の弁当を丸飲みした奴が何をほざく」
「はなして〜ボクは猫じゃないよ〜!」
エルハンドは反論する蛍を又猫掴みにして、花見に戻っていった。
「僕は…どうすればいいのだろう…」
拳を握り、悩んだ…。

■たけなわ
夕日が花見の終わりを告げる。
皆が各自分担で、片づけをお小なって、〈あやかし荘〉まで向かうことになった。
三下がこの現場に残って後かたづけするのは確定事項で…。

一日中はしゃいでいた柚葉は、遊び疲れてすやすやと眠っていた。
悠也とシュライン、恵美と遮那は、空になったお重を持ってひとまず先に〈あやかし荘〉に戻っていった。
戒那は、柚葉が風邪をひかないように毛布をかけてあげた。
「寝顔が可愛いね」
「ですね」
戒那に答える桐伯。
酒瓶を箱に詰め、しっかりと蓋をする。
「一番はしゃいでいたのはこいつぢゃ」
嬉璃も珍しく優しそうに柚葉を眺めていた。
時音がやってきて、
「僕が持っていきましょうか?お酒」
「ありがとう。助かります」
桐伯は、柚葉をおんぶする。
「兄妹みたい」
戒那がクスクスと笑った。
「そうですよ、本当に妹のようで可愛いです」
桐伯は微笑みながら答えた。
そして、ゴミの確認をした後〈あやかし荘〉に戻っていった。

時音は独り部屋にいた。
退魔剣神陰流を捨てるか否か…。
先ある宿命は…決まっている。狂気に走り、魔に墜ちることを。
これで生きていた。戦ってきた。捨てることは出来ない。
しかし、今の幸せの一時を壊す諸刃の剣…。
彼の決意は決まった。
それは…。

桜は人の想いを受け止め、て又来年も美しく咲くだろう。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0121/羽柴・戒那/女/35/大学助教授】
【0164/斎・悠也/男/21/大学生、バイトでホスト】
【0276/冬野・蛍/女/12/死神?】
【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】
【0506/奉丈・遮那/男/17/占い師】
【1219/風野・時音/男/17/時空跳躍者】
※番号順です。
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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚・花見に行きましょう』に参加して頂きありがとうございます。
初めての7人参加なのでどうしようかと悩んでいましたが、何とかお花見季節の4月に間に合ったようです。
家族のような仲の良い関係のシュライン様、悠也様、戒那様、桐伯様がすてきだなと思いましたが、上手く表現出来なくて申し訳ありません。
遮那様、今回もどうでしたでしょうか?
時音様と蛍様、今後はどうするかお考え下さいませ。
殆どの方の描写は異なっておりますので、他の方の作品も御覧下さい。

では、又の機会にお会いできたら幸いです。

滝照直樹拝