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<東京怪談・PCゲームノベル>


花見に行きましょう

■もう8分咲き
嬉璃の企画から数日…、外の桜は満開まで後わずか。
少し皆の様子を覗いてみようじゃないか、諸君。

企画がはじまって直ぐ、九尾桐伯は管理人室にやってきた。
「お花見するそうですね」
「お、いつもはやいのう」
「今回は、前に練っていた計画を実行するのでしょうか?」
「いや、あの件は、未完成のままだから、今度はのんびりと…純粋に花見を楽しむつもりぢゃ。まぁ場所取り係は彼奴しかいないが」
嬉璃は桐伯の問いに「あっぱれ」と書かれた扇子を出して答える。
「ほうほう、のんびりですね。では知り合いに連絡してきます」
彼は微笑んで、その場を後にした。

■待ち合わせは〈あやかし荘〉
春の暖かさが心地よい。野猫は屋根でひなたぼっこしている。
近くの公園にある桜は満開である。しかも快晴で花見日よりだ。

今回のために取りそろえておいた、日本酒各種を丁寧に箱に詰め、仕事用具を鞄の中に入れた。あらかじめロングドリンク(ソフトドリンクのこと)は〈あやかし荘〉の冷蔵庫に入れてもらっているので、他の頼りになる人に一緒に持ってもらおうと考える。のんびりと桜を愛でながら仲の良い人々との花見ほど楽しい事はない。そう思った桐伯だった。
「さて、管理人室で待ちますか」
部屋から出て、管理人室に向かう桐伯を待っていたかのように、
「おはよ〜!!」
柚葉が挨拶した。
「柚葉さんおはようございます」
にこりと笑って挨拶する。
「お花見楽しみだね」
「ええ、ちゃーんと柚葉さんも飲める美味しいカクテルもあるから楽しみにして下さい」
「わーい、待ち遠しいなぁ!」
はしゃぐ柚葉をみて、自分も早く現地に行きたくなる桐伯だった。

「二人が張り切っておったの」
嬉璃がお茶をすすりながら居候エルハンドに話しかけた。それは先ほどきた遮那とシュラインのことらしい
「楽しい行事とはそういうものだよな」
エルハンドも茶をすする。お互いご隠居気分で待っていた。
「できましたよ〜」
恵美とシュラインがお重をもって管理人室に入ってきた。
「お、集まってますね」
「お花見〜♪」
桐伯と、柚葉がやってくる。
「あとは、戒那と悠也だけぢゃな?」
「そうですね」
嬉璃の問いに桐伯は答えた。
二人を待つ間、談笑でにぎわう管理人室。
しばらくして…
「「おじゃまします〜」」
悠也と戒那がやってきた。
「お、結構はやかったみたいぢゃ♪」
嬉璃がぴょんと飛び跳ねる感じで管理人室から出る。続いて桐伯とシュラインが。
玄関にいた二人は、両手では持ちきれない感じのお重と、お菓子の詰め合わせを持っている。
「おはよー。たくさん持って来ちゃった」
戒那が喋る。
「なにかまわん。大食らいは何人でもいるからの」
嬉璃がうきうきしながら答えた。
「あ、嬉璃くんにはこれね」
といって、戒那は和菓子の詰め合わせ(小さい箱)を渡した。
「おお、ありがたい」
嬉璃は喜ぶ。
しかし、悠也のお重と〈あやかし荘〉で用意したお重合わせると、分担して持つ方が良いようだ。
「エルハンドさん、奥にジュースを冷やしているので手伝ってくれませんか?」
「わかった。両手で持つほどでもなかったらお重も持とう」
「デザートやお菓子は、ちゃんと箱に入ってるから柚葉くん少し持ってくれる?」
「は〜い」
各々が自分でもてる範囲で荷物を持ち、場所に向かうことになった。

■宴のはじまり
あやかし荘で集まった一行は、三下が手を振る場所までゆっくりと、歩いていった。
春の暖かさを感じ、時折風が吹いて散る桜を眺めて。
近くの公園にある一番大きい桜の木の下で、茣蓙がひかれている。
「ちゃんと茣蓙だ☆」
悠也は喜んだ。
「青いビニールシートだと…殺人現場を思い出すからね」
「ははは」
皆は笑って、真ん中にお重を並べる。
エルハンドは、ジュースの入った箱をおいてから、ポケットから小さい白い箱をどこからともなく取り出した。
「バーテンダーの九尾がカクテルを作りやすいように用意してきた」
「ほう其れが?」
桐伯は白い箱を眺める。只の小さな箱だった。
剣客は何か唱えると、それは、小さいバーのカウンターに似た物となった。しかも、デザインは花見の場に全く違和感がない。ふつうに地べたに座ってもカクテルが作りやすいように出来ている。
「ありがとうございます。遠慮無く使わせて頂きます」
桐伯は、剣客に礼を述べた。
「始める前に…」
嬉璃が言い始めた。
「ひさしぶりじゃ、蛍」
「蛍ちゃんおひさしぶり!」
「嬉璃さん、柚葉ちゃんおひさしぶりです!」
嬉璃と柚葉は蛍と顔見知りであるようだ。今まで心配していた、時音と遮那、三下は安堵した。
皆はお酒かジュースを各自選んでコップやグラスに注ぐ。そして嬉璃の
「乾杯ぢゃ!」
の一声で、宴が始まった。

こちらはゆったり組といったところだろうか?
悠也の作ったお弁当はプロ顔以上の代物で、一緒に住んでいる戒那がうらやましいと思う人がいるだろう。それに加え、桐伯の用意した日本酒と桜にちなんだ、カクテルを飲んで桜を愛でる。
悠也の御重のお弁当箱には色とりどり気軽に食べられる小さいおにぎり、ちょっとした和風懐石、和洋折衷、生姜の利いた、から揚げに出汁巻き卵も美しく、煮物は京風でもちろん人参は桜の花形。白身魚の粕漬け、お弁当の定番のカニとタコさんの形のウィンナーはほうれん草と一緒にオリーブオイルでいためたもの。バスケットにクラブサンド、ムール貝のにんにくバター詰め、若鶏のオリーブ煮込み等…その他おつまみを色々作って入っている。
悠也はシュラインの煮物を食べることが楽しみだったので、美味しそうに食べる。芋の煮転がしを含む「お袋の味」。
嬉璃といえば、先ほどもらった和菓子を大事そうにもって、ゆっくりと日本酒を飲んでいた。
シュラインも、悠也が自分の料理を喜んで食べている事が嬉しく、悠也の料理を食べ、桐伯のカクテルを飲んだ。
戒那も、桐伯のカクテルに悠也の料理。其れで桜を楽しんでいる。
柚葉は桐伯にノーアルコールカクテルとお酒数人分をたのんで、三下たちの元に戻っていく。
家族的に良い雰囲気。すでにシュラインからデジカメを借りる了承を得た誰かが、その雰囲気を残すためにシャッターを押した。

桐伯が一つ見覚えのない酒瓶を見つける。
「これは…新潟「八海山」?だれが持ってきたのだろう」
鮨屋や飲み屋に結構出回っている人気の地酒、新潟の「八海山」。種類によっては高価な品だ。
桐伯が持ってきた地酒は山形「十四代」と石川県「菊姫」、福井の「黒龍」、土佐の「酔鯨」だ。
直ぐに誰かが持ってきたのはわかった。独りで剣客が同じ物をもって少しのおつまみで飲んでいるからだ。
呼んで礼をしたいところだが、今は独りでいたいのだろうと桐伯は思った。
が…。
「彼も呼んでくれば?」
シュラインが桐伯に言った。彼女も気がついたのだろう。
「エルハンドさんもこちらに来れば?」
「そのお酒に合う料理あるよ〜」
戒那と悠也が剣客を呼んだ。男はそれに答えるかのように、やってくる。
「お邪魔して良いかな?」
「いいよ」
皆は笑顔で答えた。

■たけなわ
夕日が花見の終わりを告げる。
皆が各自分担で、片づけをお小なって、〈あやかし荘〉まで向かうことになった。
三下がこの現場に残って後かたづけするのは確定事項で…。

一日中はしゃいでいた柚葉は、遊び疲れてすやすやと眠っていた。
悠也とシュライン、恵美と遮那は、空になったお重を持ってひとまず先に〈あやかし荘〉に戻っていった。
戒那は、柚葉が風邪をひかないように毛布をかけてあげた。
「寝顔が可愛いね」
「ですね」
戒那に答える桐伯。
酒瓶を箱に詰め、しっかりと蓋をする。
「一番はしゃいでいたのはこいつぢゃ」
嬉璃も珍しく優しそうに柚葉を眺めていた。
時音がやってきて、
「僕が持っていきましょうか?お酒」
「ありがとう。助かります」
桐伯は、柚葉をおんぶする。
「兄妹みたい」
戒那がクスクスと笑った。
「そうですよ、本当に妹のようで可愛いです」
桐伯は微笑みながら答えた。
そして、ゴミの確認をした後〈あやかし荘〉に戻っていった。

桜は人の想いを受け止め、て又来年も美しく咲くだろう。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0121/羽柴・戒那/女/35/大学助教授】
【0164/斎・悠也/男/21/大学生、バイトでホスト】
【0276/冬野・蛍/女/12/死神?】
【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】
【0506/奉丈・遮那/男/17/占い師】
【1219/風野・時音/男/17/時空跳躍者】
※番号順です。
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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚・花見に行きましょう』に参加して頂きありがとうございます。
初めての7人参加なのでどうしようかと悩んでいましたが、何とかお花見季節の4月に間に合ったようです。
家族のような仲の良い関係のシュライン様、悠也様、戒那様、桐伯様がすてきだなと思いましたが、上手く表現出来なくて申し訳ありません。
遮那様、今回もどうでしたでしょうか?
時音様と蛍様、今後はどうするかお考え下さいませ。
殆どの方の描写は異なっておりますので、他の方の作品も御覧下さい。

では、又の機会にお会いできたら幸いです。

滝照直樹拝