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花見に行きましょう
■もう8分咲き
嬉璃の企画から数日…、外の桜は満開まで後わずか。
少し皆の様子を覗いてみようじゃないか、諸君。
シュラインは買い物帰りの直後、家の電話が鳴ったので受話器を取った。
「もしもし、あ、九尾さん。どうもこんばんは」
家族同然な感覚で会話する二人。
「え?〈あやかし荘〉で花見?いいわね〜♪」
彼女は桐伯の知らせを喜んだ。
「じゃあ、私はお言葉に甘えて九尾さんのカクテルと悠也のご馳走にお呼ばれしようかしら、え?
悠也が芋の煮物を食べたいって?困ったなぁ☆ 作ってくるって伝えておいて下さい。じゃ当日に」
色々ある東京の中で、心許せる人の誘いは気持ちが良い物だ。
シュラインは、鼻歌交じりで煮物の仕込みをするのだった。
■待ち合わせは〈あやかし荘〉
春の暖かさが心地よい。野猫は屋根でひなたぼっこしている。
近くの公園にある桜は満開である。しかも快晴で花見日よりだ。
二人、あやかし荘にやってきた。奉丈遮那とシュライン・エマのようだ。
花見の手伝いをするために遮那は〈あやかし荘〉へ急いだ。両手には紙コップや割り箸などが入っている買い物袋を持って。その途中でばったりシュラインにあった。
「おはようございますシュラインさん。良い天気ですね」
「おはよう、遮那くん。お花見には良い天気よね」
「ですね〜途中に咲いている桜も良い感じで咲いてました」
「早めに場所を取った事は正解だったみたいね」
和やかなムードで歩いて話をする二人。
「カメラも持ってきたの」
シュラインはデジカメを遮那に見せた。
「お花見の始まりから終わりまで写そうと思うから。気をつけてないと…決定的瞬間も撮るからね♪」
「ははは」
遮那はすこし顔が引きつる。(あやかし荘TV取材参照)
〈あやかし荘〉についた二人は、
「シュラインさん、今から僕は恵美さんと料理作るのですが、一緒に手伝ってくれませんか?」
「え?私?」
「やっぱり皆で作った方がはかどりますし、楽しいですから」
「そうねー。この日のために煮物作ったけど、それでも足りるかどうか分からないし…良いわよ」
「ありがとうございます」
シュラインは微笑んで了承し、遮那はお礼を言った。
〜台所〜
遮那とシュラインが〈あやかし荘〉に入って、管理人室にいる嬉璃と剣客に挨拶してから台所に向かう。
すでに、台所で恵美と歌姫がおにぎりや料理を作っている最中だった。
「「おはようございます」」
「おはようございます、シュラインさん、遮那くん」
「さて、私が来たらには、誰もが美味しいと言うお料理作っちゃうから!」
腕巻きしてやる気満々のシュライン。
やはり皆で作業するとはかどる物であった。
「「よしできた!」」
つまみ食いしたくなるような美味しいお重のお弁当ができあがった。
歌姫はパックにおにぎりを何個か入れている。
「どうするの?」
シュラインは歌姫に尋ねた。
「徹夜で花見の場所取りをしている時音さんに渡しに行くのだそうです」
「へ〜」
恵美が事情を説明する。コクリと頷く歌姫。シュラインは「時音くんも隅に置けないわね」と思った。
「では僕も、場所取りの人と合流します。おしぼりとか布巾も持っていきます。シュラインさん手伝って下さりありがとうございました」
「いえいえ、そろそろ戒那さんや悠也も来る頃だろうし…あとでね」
歌姫と遮那は手を振って台所を後にした。
■宴のはじまり
あやかし荘で集まった一行は、三下が手を振る場所までゆっくりと、歩いていった。
春の暖かさを感じ、時折風が吹いて散る桜を眺めて。
近くの公園にある一番大きい桜の木の下で、茣蓙がひかれている。
「ちゃんと茣蓙だ☆」
悠也は喜んだ。
「青いビニールシートだと…殺人現場を思い出すからね」
「ははは」
皆は笑って、真ん中にお重を並べる。
エルハンドは、ジュースの入った箱をおいてから、ポケットから小さい白い箱をどこからともなく取り出した。
「バーテンダーの九尾がカクテルを作りやすいように用意してきた」
「ほう其れが?」
桐伯は白い箱を眺める。只の小さな箱だった。
剣客は何か唱えると、それは、小さいバーのカウンターに似た物となった。しかも、デザインは花見の場に全く違和感がない。ふつうに地べたに座ってもカクテルが作りやすいように出来ている。
「ありがとうございます。遠慮無く使わせて頂きます」
桐伯は、剣客に礼を述べた。
「始める前に…」
嬉璃が言い始めた。
「ひさしぶりじゃ、蛍」
「蛍ちゃんおひさしぶり!」
「嬉璃さん、柚葉ちゃんおひさしぶりです!」
嬉璃と柚葉は蛍と顔見知りであるようだ。今まで心配していた、時音と遮那、三下は安堵した。
皆はお酒かジュースを各自選んでコップやグラスに注ぐ。そして嬉璃の
「乾杯ぢゃ!」
の一声で、宴が始まった。
こちらはゆったり組といったところだろうか?
悠也の作ったお弁当はプロ顔以上の代物で、一緒に住んでいる戒那がうらやましいと思う人がいるだろう。それに加え、桐伯の用意した日本酒と桜にちなんだ、カクテルを飲んで桜を愛でる。
悠也のお重のお弁当箱には色とりどり気軽に食べられる小さいおにぎり、ちょっとした和風懐石、和洋折衷、生姜の利いた、から揚げに出汁巻き卵も美しく、煮物は京風でもちろん人参は桜の花形。白身魚の粕漬け、お弁当の定番のカニとタコさんの形のウィンナーはほうれん草と一緒にオリーブオイルでいためたもの。バスケットにクラブサンド、ムール貝のにんにくバター詰め、若鶏のオリーブ煮込み等…その他おつまみを色々作って入っている。
悠也はシュラインの煮物を食べることが楽しみだったので、美味しそうに食べる。芋の煮転がしを含む「お袋の味」。
嬉璃といえば、先ほどもらった和菓子を大事そうにもって、ゆっくりと日本酒を飲んでいた。
シュラインも、悠也が自分の料理を喜んで食べている事が嬉しく、悠也の料理を食べ、桐伯のカクテルを飲んだ。
戒那も、桐伯のカクテルに悠也の料理。其れで桜を楽しんでいる。
柚葉は桐伯にノーアルコールカクテルとお酒数人分をたのんで、三下たちの元に戻っていく。
家族的に良い雰囲気。すでにシュラインからデジカメを借りる了承を得た誰かが、その雰囲気を残すためにシャッターを押した。
桐伯が一つ見覚えのない酒瓶を見つける。
「これは…新潟「八海山」?だれが持ってきたのだろう」
鮨屋や飲み屋に結構出回っている人気の地酒、新潟の「八海山」。種類によっては高価な品だ。
桐伯が持ってきた地酒は山形「十四代」と石川県「菊姫」、福井の「黒龍」、土佐の「酔鯨」だ。
直ぐに誰かが持ってきたのはわかった。独りで剣客が同じ物をもって少しのおつまみで飲んでいるからだ。
呼んで礼をしたいところだが、今は独りでいたいのだろうと桐伯は思った。
が…。
「彼も呼んでくれば?」
シュラインが桐伯に言った。彼女も気がついたのだろう。
「エルハンドくんもこちらに来れば?」
「そのお酒に合う料理あるよ〜」
戒那と悠也が剣客を呼んだ。男はそれに答えるかのように、やってくる。
「お邪魔して良いかな?」
「いいよ」
皆は笑顔で答えた。
■たけなわ
夕日が花見の終わりを告げる。
皆が各自分担で、片づけをお小なって、〈あやかし荘〉まで向かうことになった。
三下がこの現場に残って後かたづけするのは確定事項で…。
台所で遮那とシュライン、恵美がお重を洗っていた。いっそのこと此処で洗えば帰りは楽になるからとも言える。
「今日は楽しかったね」
「はい、とても」
「また、出来ると良いですね」
シュラインは、二人の関係がどうなるか気になったので、どうしたモノか頭の隅で考えていた。
丁度そのころである。
「シュライン、電話じゃ」
出入り口あたりで嬉璃がシュラインを呼んだのだ。
「誰から?」
「怪奇探偵からぢゃ」
「武彦さんから?」
にやけ笑いで答える嬉璃。彼が此処に電話するのは珍しい。普通なら携帯のはずだが…。
「ごめんなさい、電話にでなくちゃ」
「「いいですよ、二人でしますから」」
シュラインは電話に向かった。
実際は…彼が電話してくるわけがない。
「あの二人だけにする為、呼んだのね?」
「お、物わかりが早いな」
シュラインは、嬉璃の企てに直ぐに気付いていた。
「「そうそう」」
野次馬が増えていく。戒那と悠也だ。
「皆同じ考えだったのね」
皆でクスクスと笑った。
ゆっくり、陰から見る四人。
二人っきりになった遮那と恵美。
遮那は、先日の母の言葉が頭から離れない。悩む17歳。年頃の男の子はそう言うものだろう。
しかし、恵美をどこぞの馬の骨に奪われるのはイヤだった。
彼は勇気出して告白しようと決意した。
「あの…恵美さん…」
「はい?何?遮那くん?」
洗い物をしている恵美は遮那の方を振り向いた。
「実は…あの…」
やはり…この言葉「好き」という言葉が出ない。
一秒が一分に感じる沈黙。
「今日の…お花見楽しかったですね♪」
「…ええ、そうですね」
恵美も彼の言い方が妙だと気付いていたのか…、拍子抜けした返事をする。
「ははは、片づけしますか」
「はい」
勇気が出せなかったことに自己嫌悪する、奉丈遮那17歳の春だった。
一方、野次馬さんたちは。
「うわぁ、下手ですね〜」
「うまくいくことはそう無いよ」
「奥手ぢゃからの、二人とも」
「でも、ここに「決定的瞬間」を納めているから…」
悠也と戒那、嬉璃が呆れている所を、シュラインはにこりと笑ってデジカメを見せた。
「ばらまきます?」
「それは、二人が可哀相よ♪」
「ホントはやり気だったりして」
「儂らはひとまず退散ぢゃ♪」
4人はある企てを秘めて管理人室に向かったのである。
桜は人の想いを受け止め、て又来年も美しく咲くだろう。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0121/羽柴・戒那/女/35/大学助教授】
【0164/斎・悠也/男/21/大学生、バイトでホスト】
【0276/冬野・蛍/女/12/死神?】
【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】
【0506/奉丈・遮那/男/17/占い師】
【1219/風野・時音/男/17/時空跳躍者】
※番号順です。
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■ ライター通信 ■
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滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚・花見に行きましょう』に参加して頂きありがとうございます。
初めての7人参加なのでどうしようかと悩んでいましたが、何とかお花見季節の4月に間に合ったようです。
家族のような仲の良い関係のシュライン様、悠也様、戒那様、桐伯様がすてきだなと思いましたが、上手く表現出来なくて申し訳ありません。
遮那様、今回もどうでしたでしょうか?
時音様と蛍様、今後はどうするかお考え下さいませ。
殆どの方の描写は異なっておりますので、他の方の作品も御覧下さい。
では、又の機会にお会いできたら幸いです。
滝照直樹拝
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