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<東京怪談・PCゲームノベル>


花見に行きましょう

■【もう8分咲き】
嬉璃の企画から数日…、外の桜は満開まで後わずか。
少し皆の様子を覗いてみようじゃないかピップ…げふんげふん、失礼。覗いてみよう、諸君。

「遮那、因幡さんから電話よ」
母親から声をかけられる。
「はーい。もしもし遮那です。恵美さん、こんばんは」
[こんばんは、TV取材の時はどうもありがとう]
「いえこちらこそ、…で、何のご用でしょうか?」
[もう桜が三分咲きだから、来週には満開と思うの。嬉璃ちゃんがね、お花見しようと言うことになったんですよ。遮那くんも参加します?]
「はい、必ず行きます!」
[また、詳しいことが分かったら連絡するから、お願いしますね]
「はいまたです」
電話を切ったあと、浮かれ気分の遮那。
しかし、母親がにこりと笑って
「遮那、その日しっかり勇気出さないとがっくり肩を落とすことになるわよ」
「え゛?」
「告白は度胸だからね〜。早くしないと誰かに取られちゃうわよ〜」
にこやかに、仕事の支度をしている彼の母は言った。
すでに心の内を読まれていた遮那は赤面して弁明しようとする。
「そ、そんなことっ…」
しかし、仕事の上でも先輩である母にかてるわけがない。
占い師家業の母子では隠し事などとうてい無理である。占い師は相手の思考読術・勘などが人一倍優れているからだ。
「勇気かぁ…」
溜息をつく遮那17歳の春。

■待ち合わせは〈あやかし荘〉
春の暖かさが心地よい。野猫は屋根でひなたぼっこしている。
近くの公園にある桜は満開である。しかも快晴で花見日よりだ。
二人、あやかし荘にやってきた。奉丈遮那とシュライン・エマのようだ。

花見の手伝いをするために遮那は〈あやかし荘〉へ急いだ。両手には紙コップや割り箸などが入っている買い物袋を持って。その途中でばったりシュラインにあった。
「おはようございますシュラインさん。良い天気ですね」
「おはよう、遮那くん。お花見には良い天気よね」
「ですね〜途中に咲いている桜も良い感じで咲いてました」
「早めに場所を取った事は正解だったみたいね」
和やかなムードで歩いて話をする二人。
「カメラも持ってきたの」
シュラインはデジカメを遮那に見せた。
「お花見の始まりから終わりまで写そうと思うから。気をつけてないと…決定的瞬間も撮るからね♪」
「ははは」
遮那はすこし顔が引きつる。(あやかし荘TV取材参照)
〈あやかし荘〉についた二人は、
「シュラインさん、今から僕は恵美さんと料理作るのですが、一緒に手伝ってくれませんか?」
「え?私?」
「やっぱり皆で作った方がはかどりますし、楽しいですから」
「そうねー。この日のために煮物作ったけど、それでも足りるかどうか分からないし…良いわよ」
「ありがとうございます」
シュラインは微笑んで了承し、遮那はお礼を言った。
〜台所〜
遮那とシュラインが〈あやかし荘〉に入って、管理人室にいる嬉璃と剣客に挨拶してから台所に向かう。
すでに、台所で恵美と歌姫がおにぎりや料理を作っている最中だった。
「「おはようございます」」
「おはようございます、シュラインさん、遮那くん」
「さて、私が来たらには、誰もが美味しいと言うお料理作っちゃうから!」
腕巻きしてやる気満々のシュライン。
やはり皆で作業するとはかどる物であった。
「「よしできた!」」
つまみ食いしたくなるような美味しいお重のお弁当ができあがった。
歌姫はパックにおにぎりを何個か入れている。
「どうするの?」
シュラインは歌姫に尋ねた。
「徹夜で花見の場所取りをしている時音さんに渡しに行くのだそうです」
「へ〜」
恵美が事情を説明する。コクリと頷く歌姫。シュラインは「時音くんも隅に置けないわね」と思った。
「では僕も、場所取りの人と合流します。おしぼりとか布巾も持っていきます。シュラインさん手伝って下さりありがとうございました」
「いえいえ、そろそろ戒那さんや悠也も来る頃だろうし…あとでね」
歌姫と遮那は手を振って台所を後にした。

■宴のはじまり
あやかし荘で集まった一行は、三下が手を振る場所までゆっくりと、歩いていった。
春の暖かさを感じ、時折風が吹いて散る桜を眺めて。
近くの公園にある一番大きい桜の木の下で、茣蓙がひかれている。
「ちゃんと茣蓙だ☆」
悠也は喜んだ。
「青いビニールシートだと…殺人現場を思い出すからね」
「ははは」
皆は笑って、真ん中にお重を並べる。
エルハンドは、ジュースの入った箱をおいてから、ポケットから小さい白い箱をどこからともなく取り出した。
「バーテンダーの九尾がカクテルを作りやすいように用意してきた」
「ほう其れが?」
桐伯は白い箱を眺める。只の小さな箱だった。
剣客は何か唱えると、それは、小さいバーのカウンターに似た物となった。しかも、デザインは花見の場に全く違和感がない。ふつうに地べたに座ってもカクテルが作りやすいように出来ている。
「ありがとうございます。遠慮無く使わせて頂きます」
桐伯は、剣客に礼を述べた。
「始める前に…」
嬉璃が言い始めた。
「ひさしぶりじゃ、蛍」
「蛍ちゃんおひさしぶり!」
「嬉璃さん、柚葉ちゃんおひさしぶりです!」
嬉璃と柚葉は蛍と顔見知りであるようだ。今まで心配していた、時音と遮那、三下は安堵した。
皆はお酒かジュースを各自選んでコップやグラスに注ぐ。そして嬉璃の
「乾杯ぢゃ!」
の一声で、宴が始まった。

皆が浮かれているあいだ二人は、食べながらでもお茶を煎れたり、縁の下の力持ちをしていた。
三下と柚葉が、交代すると言ったので、お言葉に甘えて休憩する。
目の前には、桐伯の作ったノンアルコールカクテル2つと二人分を一つにまとめていたお重である。
少し向こうで、三下は蛍に自分の弁当を食べられてしまって途方に暮れているところ、桐伯側から歩いてきたエルハンドにこっぴどくしかられている所や、家族のように談笑している桐伯達を眺めている。
「またこうやってお花見できたら良いですね」
「そうですね」
「もうすぐしたら新学期ですね」
「進路はどうするの?遮那くん」
「僕は…大学入って…占いのほうも修行したいなと」
「頑張って下さいね」
恵美は遮那の進路を聞いて、笑顔で応援してくれた。
遮那にとって、恵美とこう他愛のない話しをすることも幸せである。TV取材事件からお互いの距離が縮まったかどうかは分からない。また母親のお節介な言葉が頭にこびりついて離れなかった。
遮那がおにぎりを取ろうとしたとき、上から暖かいモノが重なった。
恵美の手である。あと数インチで、頬がくっつくほどだった。ほのかに恵美のいい匂いがする。
お互いかなり近づいていたことに吃驚して手をどける。
「「ご…ごめんなさい」」
二人同時に謝った。
しばらく沈黙して…二人とも頬を赤らめながら笑っていた。

■たけなわ
夕日が花見の終わりを告げる。
皆が各自分担で、片づけをお小なって、〈あやかし荘〉まで向かうことになった。
三下がこの現場に残って後かたづけするのは確定事項で…。

台所で遮那とシュライン、恵美がお重を洗っていた。いっそのこと此処で洗えば帰りは楽になるからとも言える。
「今日は楽しかったね」
「はい、とても」
「また、出来ると良いですね」
シュラインは、二人の関係がどうなるか気になったので、どうしたモノか頭の隅で考えていた。
丁度そのころである。
「シュライン、電話じゃ」
出入り口あたりで嬉璃がシュラインを呼んだのだ。
「誰から?」
「怪奇探偵からぢゃ」
「武彦さんから?」
にやけ笑いで答える嬉璃。彼が此処に電話するのは珍しい。普通なら携帯のはずだが…。
「ごめんなさい、電話にでなくちゃ」
「「いいですよ、二人でしますから」」
シュラインは電話に向かった。
二人っきりになった遮那と恵美。
遮那は、先日の母の言葉が頭から離れない。悩む遮那。年頃の男の子はそう言うものだろう。
しかし、恵美をどこぞの馬の骨に奪われるのはイヤだった。
彼は勇気出して告白しようと決意した。
「あの…恵美さん…」
「はい?何?遮那くん?」
洗い物をしている恵美は遮那の方を振り向いた。
「実は…あの…」
やはり…この言葉「好き」という言葉が出ない。
一秒が一分に感じる沈黙。
「今日の…お花見楽しかったですね♪」
「…ええ、そうですね」
恵美も彼の言い方が妙だと気付いていたのか…、拍子抜けした返事をする。
「ははは、片づけしますか」
「はい」
勇気が出せなかったことに自己嫌悪する、奉丈遮那17歳の春だった(しつこい)。

桜は人の想いを受け止め、て又来年も美しく咲くだろう。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0121/羽柴・戒那/女/35/大学助教授】
【0164/斎・悠也/男/21/大学生、バイトでホスト】
【0276/冬野・蛍/女/12/死神?】
【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】
【0506/奉丈・遮那/男/17/占い師】
【1219/風野・時音/男/17/時空跳躍者】
※番号順です。
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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚・花見に行きましょう』に参加して頂きありがとうございます。
初めての7人参加なのでどうしようかと悩んでいましたが、何とかお花見季節の4月に間に合ったようです。
家族のような仲の良い関係のシュライン様、悠也様、戒那様、桐伯様がすてきだなと思いましたが、上手く表現出来なくて申し訳ありません。
遮那様、今回もどうでしたでしょうか?
時音様と蛍様、今後はどうするかお考え下さいませ。
殆どの方の描写は異なっておりますので、他の方の作品も御覧下さい。

では、又の機会にお会いできたら幸いです。

滝照直樹拝