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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


パパって呼んでもいいですか?
●オープニング【0】
 春3月、窓から穏やかな日差しが差し込む午後。ゆったりとした時間が草間興信所に流れていた。草間武彦も、のんびりと新聞を読んでいる。
「また盗難事件か。店の金庫から、金が盗まれてるとはなあ……これで何件目だ?」
 しかし平穏は、いつだって突然破られる。
「パパ!」
 事務所の扉が勢いよく開かれ、幼い女の子が駆け込んできた。背中にリュックを背負い、手には封筒を持って。
「はじめまして、パパ!!」
 草間の元へ一目散に向かう女の子。これってまさか、隠し子って奴ですかぁっ!?
「ママがね、これからいっしょにくらせることになったから、れーこだけさきにパパのとこにゆきなさいって!」
 『れーこ』と名乗った女の子は、困惑した様子の草間に封筒を手渡した。草間零が疑惑の眼差しを草間に向けながら、女の子に名前を聞き直す。
「まるやまれーこ、5さいだよっ! ママはぎんざのほうせきやさんではたらいているの!」
 元気よく答える女の子。その間に封筒の中の手紙を読み終えた草間が、皆にも手紙を見せていた。

『お久し振りです、草間さん。
 どれくらい経ったのでしょうね、あれからもう。
 寂しさをぐっと堪え、この子を女手1つで育ててきました
 礼子と名付けました……ええ、あなたが言っていた名前です
 手を握ってあげてください、好きなだけ
 何時だってあなたのこと、忘れて
 ませんから、私は。
 すみません、しばらく礼子をよろしくお願いします。

                        丸山佳織』

「俺は、丸山佳織なんて女は知らないぞ」
 礼子に聞こえぬよう、小声で皆に話す草間。だが皆の視線は半信半疑。いや、6:4で疑いの方が多いか。
「さっきね、へんなおじちゃんがいたから、はしってにげてきたの」
 ジュースを持ってきてくれた零に、礼子はあれこれと話していた。
 まあ、礼子が本当に草間の隠し子かどうかはさておいて――何となく変な手紙じゃないですか、これ?

●礼子ちゃん、こんにちは【1B】
 世の中には、古くから言われているこんな言葉がある。曰く『人の不幸は蜜の味』と。今の草間がまさにその対象であった。
 草間が面白いことになっている……もとい、困ったことになっていることを聞き付けて、さっそく集まってきた者たちの姿で事務所は混雑していた。
 まず草間を取り囲むように、3人の姿があった。草間の左方に居る九尾桐伯、前方に近い水城司、そしていつの間にやら背後を取っていた守崎啓斗だ。
 またそれとは別に、ソファに悠然と座って会話を交わしている者たちも居る。朧月桜夜に真名神慶悟といった、陰陽師な2人である。
 そして残るは、礼子を取り囲む零を含んだ女性たちで――。
「ところで草間さん、心当たりは?」
 海原みなもがふと振り返って、草間の方を見た。その表情は、どこか今回の事態を面白がっているようにも見える。もちろん草間は、ぶんぶんと首を左右に振って否定した。
 そんな草間に視線を向けている者がもう1人居る。天薙撫子である。今の撫子の視線を漢字で表現するなら、『不潔』という2文字こそ相応しかった。まあ別の言い方をすれば、白い目で見ているということだ。
 撫子は視線を草間から礼子に戻すと、すっと身を屈めて礼子の手を軽く握った。表情は打って変わって笑顔になっていた。
(……なるほど)
 小さく頷く撫子。エルトゥール・茉莉菜が、撫子の動きに並行するように、礼子に話しかけていた。
「礼子ちゃん。もう1度、さっきのことお話してくれます?」
「うん、いいよっ、おばさんっ!」
 にっこり微笑んで言う礼子。邪気などは全く見られない笑顔だ。だがその言葉に、茉莉菜の表情が一瞬ピキッと固まったのはここだけの話である。
「……お姉ちゃんに」
 礼子に改めて言い直す茉莉菜。すると礼子は先程の話を再び話し始めた。
「まるやまれーこ、5さいだよっ! ママはぎんざのほうせきやさんではたらいているの! あのね、てんぎんどうっていうんだよ! れーこ行ったことあるけど、とってもりっぱなのっ!」
 宝石店の名前らしき物が礼子の口から出てきて、意外な表情を浮かべる茉莉菜。そこに、無毒な青大将の幼生を手に絡ませてくつろいでいた、巳主神冴那が口を挟んできた。
「元気いいわね……れいこちゃん。私のお友だちも、とても元気がよくなってきたのよ。春だから……れいこちゃんみたいに……表に独りで行けるようにもなったのよ」
 友だちが何者かはおおよそ想像がつくが、そんな前置きをしてから、冴那は礼子に住んでいる所や、両親のことを尋ねてみた。すると礼子は、草間の方を指差してこう答えたのである。
「あのね、ママがね、ここにこんなすがたのおとこのひとがいるから、それがパパだっておしえてくれたの。とってもやさしいんだっていってたよ!」
「れーこちゃん、ママやパパの写真はある?」
 みなもが思い出したように礼子に言った。
「うんっ、ママのしゃしん、れーこもってるよ!」
 礼子はみなもにそう答えると、リュックの中をがさごそと探し始めた。
「はいっ、これだよ!」
 礼子がみなもに写真を手渡した。
「……礼子ちゃんは嘘を言ってませんわね。そういうことは微塵も感じられませんし、嘘だったとしてもお母さんが言ったことを、そのまま言ってるんでしょうね。少なくとも礼子ちゃんは、草間さんがパパだと心から思っていますわ」
 礼子から離れた茉莉菜が、零に小声で教えた。話を聞きながら、礼子の心の中を読んでいたのである。零が茉莉菜に聞き返した。
「じゃあ、やっぱり草間さんの子供なんですか?」
「それはまだ分かりませんわ。ただ今は……シュラインさんの反応が気になるのと……あの妙な手紙ですわね」
 茉莉菜はひんやりとした空気の流れてくる台所の方を見た後、撫子の方に視線を向けた。撫子は件の手紙を見ながら、別の紙に何やら書き込んでいる所であった。
「妙な手紙、ですか?」
「ええ、文章が不自然。それから、改行の位置がおかしいですわ。普通、『忘れて』『ませんから』なんて、切らないでしょう?」
 零に手紙の妙な部分を教える茉莉菜。その時だ。
「お前もかぁーっ!!!」
 草間の絶叫が室内に響き渡り、皆の視線が集まった。
「……武彦さん。ちょっとうるさいわよ」
 台所から顔を出したエプロン姿のシュライン・エマが、ぼそっとつぶやいた。視線は氷のように冷たく、またカミソリのごとく鋭い。その手には何故か、フライパンがしっかりと握られていた。ひょっとして……かなり怒ってるんじゃないですか?
 そして事務所の空気がひやっとしたその時、勢いよく扉が開かれて入ってきた者たちが居た。
「旦那、女史おひさー」
 さらっとした挨拶と共に先に入ってきたのは、女優のサイデル・ウェルヴァだった。それに続き、メイド姿の女性も無言で入ってくる。ササキビ・クミノの使いでやってきた、メイドアンドロイドのモナだ。
 2人はちょうど、ビルの前でばったりと出くわしたのだった。

●母を探しに……【2】
「何だい旦那、しけた顔して? それにこりゃまた……千客万来だねえ」
 事務所をぐるっと見回して言うサイデル。その視線が礼子の所でピタッと止まった。
「旦那らの子供かい? いつ作ったの?」
 サイデルが、草間とシュラインの顔を交互に見て言った。この様子では、ここが今どういう状況になっているか知らないのだろうか。
「違う! 冗談も休み休み言え!!」
「おーこわ。じょーだんじょーだん、ユーモアが足りないねえ」
 肩を竦め、やれやれといった様子のサイデル。事情が飲み込めないモナが、誰とはなしに質問を投げかけた。
「どうしたんですか、これは」
「あっ、頼まれた物は、そこの棚の封筒に詰めて置いてあるからなっ!!」
 質問に対し、いち早く動いたのは草間だった。もっとも質問に答える訳でもなく、とっとと用事を終わらせて、モナをクミノの所へ戻らせようという意図が見え見えだったのだけれども。
「草間の隠し子が来たと聞いたから、あれこれ話していたんだ」
「100人くらい産ませていて、トーナメントでも開くつもりみたいですよ」
 質問に答えた啓斗の言葉に、桐伯がさらっと言葉を被せた。無論冗談なのは明白。けれども『隠し子』という単語が出た後の話は、モナの耳にはほとんど入っていなかったことだろう。何故ならモナは、すぐさま草間に詰め寄っていたのだから。
「すぐにここを出て、母親を探しに行かないんですかっ。色々と話を聞かせてほしい、とのことですっ」
 モナの表現が間接的になっていたのは、恐らくクミノからそう指示が出たのだろう。つまり、モナの見聞きする内容はクミノにも届いていて……クミノがここに居るのと変わりがない訳だ。それはそれとして、詰め寄られた方にしてみれば、たまったものではない。
「だから知らんと言ってるだろ……」
 草間は深い溜息を吐いた。そこに、横から申し訳なさそうに割り込んでくる者の姿があった。みなもである。
「あの……草間さん、この方はご存知ですか?」
 みなもは手にしていた写真を、そっと草間に示した。そこには細身の優し気な女性が1人写っている。きっとこれが礼子の母親、佳織なのだろう。
「……いや。あいにくだが、覚えていないな」
「嘘は言ってないみたいですわね」
 草間の言葉を補足するように、茉莉菜が口を挟んだ。が、また言葉には続きがあった。
「まあ本当に覚えていないのかもしれませんが」
 覚えていないのなら、確かに嘘は言ってないことになる。でも、火に油を注ぎかねない言葉であって――その途端、撫子や零が草間を見る目が厳しくなり、シュラインがぎゅっとフライパンを握り直した。
「だから俺は本当に覚えてないんだ……」
「無責任! と言ってますっ」
 突然モナが草間の胸ぐらにつかみかかった。それを慌てて桐伯と司が振り解いた。きっと草間の態度にクミノが業を煮やし、直接モナを操ったと思われる。
「ごほごほっ! だからっ……知らんもんは知らんっ!」
 咳き込みながら、モナに答える草間。するとモナは、くるっと草間に背を向けると、礼子の方につかつかと歩いていった。
 それからおもむろに礼子の手を握ると、そのまま扉の方へ礼子を連れたまま歩いてゆく。
「……どこへ行くの?」
 冴那が尋ねると、モナは振り返りもせず答えた。
「母親を探しに行く、とのことです」
 それだけ言うと、礼子を連れたモナは事務所から出ていった。その後を慌ててみなもが追いかけてゆく。
「ま……待ってくださいっ。あたしも行きますっ!」
「俺も行く! 司兄ぃ、草間、何らかの動きがあったら、俺の携帯にちゃんと連絡してくれっ!」
 啓斗もそう言い残し、3人の後を追いかけていった。
「零、頼む!」
 草間が零に声をかけると、零は小さく頷いて同じく事務所を出ていった。4人について行かせるつもりのようだ。

●隠された真意【3A】
「……ホットケーキ作る必要なくなっちゃったわね」
 シュラインがぼそっとつぶやいた。どうやらエプロン姿だったのは、そのためだったようだ。まあ、フライパンはともかくとして。
「あ、武彦さん。私も後で、色々と今までの疑問とか聞きたいことあるの。隠し子とか、愛人とか、養育費とか。逃げたら、泣きながら辞職願叩きつけた足で裁判所に行き、未払いの給料で裁判起こすんで、そこの所よろしく」
 無表情のまま淡々と一気に話すシュライン。言ってる内容が支離滅裂なのは、それだけ怒りの具合が大きいに違いない。
「ともかく冗談はここまでにして……不思議ですね」
 桐伯が不思議に感じたのは、礼子が草間の隠し子なのかシュラインが問い詰める様子がまるで見られないことだった。そこに気付いた桐伯が問うと、こんな答えが返ってきた。
「……まあ今回『は』、隠し子じゃないみたいだから。あの手紙じゃあね。急ぎ丸山さんの所に行った方がいいかも……」
「手紙だって?」
「出来ました」
 サイデルが反応すると同時に、撫子が声を発した。手にはひらがながずらっと並んだ紙が握られていた。先程からずっと、手紙の文面を全部ひらがなに置き換えていたのである。
「見てください。各行の先頭の文字を。あ……念のため言っておきますけれど、礼子ちゃんは普通の人間ですからね」
 撫子が皆に見えるように、紙を動かした。
「お・ど・さ・れ・て・い・ま・す……か」
 慶悟が1文字ずつ、区切って読み上げた。確かにそう読むことが出来る。
「あ、それそれ。さっきアタシが言いかけたのは!」
 桜夜が慶悟を指差して言った。
「やけに段落の多い手紙だと思いましたよ」
「……啓斗にも知らせておこう」
 頷く桐伯の隣で、司が携帯電話を取り出して、メールを打ち始めた。無論宛先は啓斗だ。
「ああ、素直に先頭の文字を読むだけでよかったんですのね。けれど、文章が隠れているのは先頭だけとも思えませんわね」
 じっと紙を見つめ、茉莉菜がつぶやいた。すると、サイデルが撫子の手から紙を取り上げた。
「ふうん、何だかややこしいことになってるんだね。人数居たから、あの迷監督の名作にエキストラで出演! ってのに誘っても面白そうだったんだけど。またの機会がいいか」
 サイデルはそんなことを言いながら、近くにあった鉛筆でその紙に何やら印をつけていった。
「ほら、返すよ」
「あっ」
 撫子はサイデルから返してもらった紙を見て、はっとした表情を浮かべた。そして再度、皆に紙を見せる。そこには、全ての句点に×印がつけられていたのである。
「思った通りでしたわね」
 茉莉菜がシュラインをちらっと見た。
「やっぱりそうよね。『たすけて』……となってるもの」
 シュラインがそう言った途端、草間が強く机を叩いた。
「くそっ! そういうことかっ!!」
「……心当たりがあるからこそ、そこまで頭が回らなかったんでしょう?」
 口調こそ丁寧だが、とげだらけのシュラインの言葉。ぐさぐさと草間に刺さっているに違いない。
「宝石店の名前、どなたか聞いてましたか?」
 司が皆の顔を見回して尋ねると、自らの腕に絡ませた青大将の顎を撫でてあげていた冴那が口を開いた。
「確か……『てんぎんどう』って言ってたわね」
「天銀堂? 銀座にあります、それなら。結構古くからある宝石店だったはず」
 顎に手を当てて思案する司。
「ねえ、最近強盗事件が頻発してるでしょ? ひょっとしたら、強盗にあった店ってその子の親の宝石店なんじゃないの?」
 桜夜が何気なく草間に尋ねた。しかし草間が左右に首を振った。
「いや、いずれも違っていた。だがなあ……ちょっと気になるんだ」
 草間が難しい表情のまま黙り込む。その時、慶悟がソファから腰を上げた。
「行くとしようか……変な男たちが居た、とも言っていたしな」
 そうだ。礼子はこうも言っていた。『へんなおじちゃんがいたから、はしってにげてきた』とも。件の手紙と合わせて考えたなら、導かれる答えは自明である。
 慶悟が事務所を出たのをきっかけに、司に撫子、それと桐伯が続いていった。慶悟と司は天銀堂を調べるために、撫子と桐伯は周囲に怪しい者たちが居ないか探すために。

●各個撃破【5C】
「もしもし、天銀堂さんでしょうか。草間礼子と申しますが、この間の件で相談したいので担当の丸山さんお願いいたします」
 草間とともに事務所に残っていたシュラインは、天銀堂に電話をかけていた。本人に直接事情を聞く必要があると思ったからである。
 電話の向こうでは、しばし何か話し合っている様子が漏れ聞こえていた。ややあって、返答がくる。
「……はい? 今日はまだ出勤していない? あ、そうですか……ではまた、改めてかけ直させていただきます」
 電話を切ったシュラインは、すぐに皆の顔を見回した。
「居ることは間違いないけど、出勤してないって……どういうこと?」
「……不味いぞ」
 渋い顔で草間がつぶやいた。
「出勤出来ない状態に置かれているのかもしれない」
「不味いわねえ……」
 草間の言葉に呼応するかのように、桜夜が言った。視線が桜夜に集まった。
「……下に、黒服の怪しい男たちが居るって」
 困ったような表情の桜夜。式神である咲耶姫が見聞きした情報を、伝えているのだ。
「何人です? どんな人たちです?」
「んっと……4人? アジア系の顔立ちで、目付きが鋭くって……カタギじゃないんじゃない?」
 茉莉菜の質問に、桜夜が答えてゆく。それを聞いたサイデルが、ある提案を出した。
「4人か。だったら各個撃破だね」
 その言葉の意味は、すぐに分かった。桜夜が男たちが正面からやってくると告げたのである。つまり、1人ずつしか入ってこれない事務所の入口から。
 男たちはそれからすぐに飛び込んできた。もちろん1人ずつ。けれども、来ることが予め分かっていたのだから、状況は草間たちに有利であった。
 まず最初に飛び込んできた男の首筋に、扉の陰に隠れていたサイデルが思いきりチョップを喰らわせた。これで1人目完了。
 次に飛び込んできた男の頭には、同じく隠れていたシュラインが形が変わるくらい勢いをつけて、フライパンを振り降ろした。2人目完了。
 その次に飛び込んできた男には、正面から出迎えた草間が有無を言わさずパンチをみぞおちに叩き込んでいた。はい、3人目完了。
 そして最後。やや間があってから、銃を手にした男が飛び込んできた。
「オトナシクシロ!」
 片言の日本語でそう言ったかと思うと、男は天井に向かって銃を撃った。その瞬間だ。天井を破って、男目掛けて巨大な錦蛇が落ちてきたのは。
「……あら。今の銃弾に驚いたのね」
 冷静に言い放つ冴那。この錦蛇は、冴那が忍ばせておいた物であった。
「知ってるかしら……。蛇は……舌で匂いを嗅ぐのよ。ちょっとした空気の流れも感じ取ることができる……不穏な空気も。動く物があれば飛びつくし、熱を感じても飛びつくし……この時期はつい調子に乗って噛んでしまったり……」
 冴那は錦蛇に絡み付かれた男に、淡々とそう説明していた。が、男の耳にはそんなことは入る余裕はないだろう。
 瞬く間に男は、銃を床に捨てて両手を挙げていた。これにて4人目完了。
「お見事ですわ」
 傍観者に徹していた茉莉菜が、パチパチと手を叩いた。
「さて、と。事情を聞かせてもらうとしようか」
 床に落ちた銃を拾い、草間は錦蛇に絡み付かれたままの男に突き付けた。
 男の話によると、男たちは強盗団の一味で、礼子を人質にして佳織に強盗の手引きをさせようという腹積もりだったのだ。そして、今頃はアジトに佳織が監禁されているはずだとも。
 そんな話を聞いたシュラインは、すぐに電話に飛びついていた。警察に連絡するために。

●真相【6】
 その日の夜――警察署の前には草間を含めた一同の姿と、礼子の手をしっかと握った佳織の姿があった。佳織の右頬には、殴られでもしたのか湿布が張られていた。
 事情聴取のために警察署に集められた一同は、そこで事件の全容を知ることが出来た。
 まず、男たちは中国から密入国してきた強盗団であった。その手口は、標的とした店の店員の何らかの手段で脅し、強制的に協力させるという物だった。
 今朝の新聞に載っていた事件もこの強盗団の犯行で、新たな標的となったのが天銀堂、哀れにも目を付けられたのが佳織だった訳だ。
 礼子のことを盾に強盗団の脅しを受けていた佳織は、礼子の身を守るために件の手紙を持たせて草間の元に送ったのである。探偵の草間なら気付いてくれるだろうと、強盗団に気付かれぬようなメッセージを文面に隠し。
 その直後、佳織は男たちに拉致されて監禁されてしまったのだが、一同の働きもあってすぐに警察によって救出されていた。
「本当に草間さんや、皆さんには申し訳ないことを……」
 深々と頭を下げる佳織。佳織が何故草間を知っていたのかという疑問だが、実は5年ほど前に大きなお腹を抱えて道で苦しんでいた佳織を、草間が助けて病院に連れていったことが答えであった。草間はそのことをすっかり忘れていて、名前などを名乗っていたことすら覚えていなかったのである。
 無論、礼子が草間の隠し子ということもない。それが分かった途端、何人かが非常に恥ずかしそうな表情を浮かべた。あえて名前は伏せることにするが。
「……れーこのパパじゃないの?」
 礼子が草間の顔をじっと見上げて言った。すると草間はゆっくりと礼子のそばに歩いてゆき、礼子と同じ目の高さに身を屈めた。
「ああ、残念だがパパじゃない」
 草間はそう静かに言うと、礼子の頭をそっと撫でた。
「……けれど、いつでも遊びに来ていいぞ。パパの真似事くらいは出来るだろうしな」
 優し気な表情を浮かべる草間。礼子はしばらくじっと草間の顔を見つめていたが、やがて元気よくこう答えた。
「うんっ!! れーこ、あそびにゆくね!! くさまパパッ!」
 満面の笑みを浮かべた礼子の目の端に、うっすらと涙が浮かんでいた――。

【パパって呼んでもいいですか? 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0024 / サイデル・ウェルヴァ(さいでる・うぇるう゛ぁ)
                    / 女 / 24 / 女優 】
【 0033 / エルトゥール・茉莉菜(えるとぅーる・まりな)
                   / 女 / 26 / 占い師 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0444 / 朧月・桜夜(おぼろづき・さくや)
                   / 女 / 16 / 陰陽師 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0922 / 水城・司(みなしろ・つかさ)
          / 男 / 23 / トラブル・コンサルタント 】
【 1166 / ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)
   / 女 / 13 / 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。 】
【 1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも)
                   / 女 / 13 / 中学生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全12場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、草間の隠し子騒動の顛末をお届けいたします。えー、駆け足のお話となった今回ですが、『推理:6』などとなっていたのは、事件の全容を読み取るにはそこまで必要だろうと思ったことですね。皆さんの推理はどこまで当たっていましたか?
・今回はプレイングが色々と絡まったことと、前提条件のあれこれで……書いたことの半分も行動出来ていなかった方も居られるのではないかと思います。これは本当に申し訳ありません。ですが、こうなってしまうことがあるのもプレイングの妙ということで。
・巳主神冴那さん、17度目のご参加ありがとうございます。錦蛇、男を捕まえましたね。噛みはしてないでしょうけど……舐めまくっているでしょうね、きっと。ああ、天井を破った請求書は回っていませんので、ご安心を。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。