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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


タイムカプセルを追え!


------<オープニング>--------------------------------------


おっは〜☆ 瀬名雫でーす。
ようやく期末テストも終わり、春休み! やったー。
で、いらない教科書とかを整理しようと部屋の掃除をしていたら、宝の地図を見つけたの。
子供が書いた簡素でわけの分からない絵だけど、この半円の図形は○×小学校の裏山だと思うわ。
きっと過去の私がタイムカプセルでも埋めたのかも!
すっごく興味があるから、誰か一緒に探しにいかない?
見つかったら、今度はみんなのを新しく埋めようよ。

というわけで、持ち物はシャベル、安全帽と懐中電灯。お弁当に自分が埋めたいもの。他は各自が必要と思うものを持って来て。
日曜日の8時に○×小学校前に集合だからね!


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「あー? 弁当いるのかよ。」
 鬼柳・要(きりゅう・かなめ)は集合前に雫からのメールを見返し、自分の忘れ物に気付いて溜息を付いた。
「ま、いっか。あそこにコンビニあるし。」
 要は目に付いたコンビニに入り、おにぎりと水を買う。
「せりりん、もう来てっかな。」
 時計を見ると集合時間が少し過ぎていた。自分の目測では間に合うはずだったのに、弁当を忘れたせいで遅刻だ。
 ○×小学校の正門の前にはすでに、3人の人影があった。企画者の瀬名雫と、海原・みなも(うなばら・みなも)、そして「せりりん」こと芹沢・火嵩(せりざわ・ほたか)である。
「遅ぇよ。」
 許されそうな僅かな遅刻であるのに、何故か火嵩は不機嫌そうだ。
「どうしたんだ? せりりん、何怒ってんだ?」
「うるせぇ。」
「なんかお前大荷物だなー。何入ってんだ?」
「だからうるせぇって言ってんだろ!」
 火嵩の少し大げさな持ち物に絡みすぎたせいか、要は鳩尾に肘鉄を食らってしまった。
「もーホント、何で機嫌悪いんだか。」
 恨めしげに見上げてくる要を火嵩は無視する。
 久しぶりに母親に会って、今日のことを話したら重箱で弁当を持たされたなんて言いたくない。しかも、18歳にもなる男に向かって「お友達と食べてね♪」と言い放った母親に呆れを通り越して感心するしかなかった。
 ちらりと要の手にしているコンビニの袋を見る。どうせあれだけでは足りないだろうから、恩を売りがてら、一緒に食わせてやるのもいいだろう。
「これで全員かな?」
 雫が人数の少なさにきょとんと首を傾げる。
「こいつみたいに遅刻してくるんじゃないか?」
「そうかもしれませんね。先に探しておきましょうか。」
 みなもは着古した冬の制服に軍手、長靴と探す気満々である。
「そうだねー。先に目ぼしいところを漁っておこっか。」
「まずは地図を見せてくれませんか?」
「うん。いいよー。」
 雫の地図を覗きこんで、全員で頭を抱えた。山らしき絵に×印がついているだけだ。
「これじゃ分かんねぇよ。」
「あ、でも見てください。木らしきイラストがありますよ。この木の近くを掘ってみるのはどうでしょうか。」
「じゃあ行ってみよー!」
 雫を先頭に、3人はその後に続いた。



 大木はすぐに見つかった。見つけ易すぎたと言えなくもない。
「詐欺だろ、これ。」
「うわー、木ばっかじゃん。」
 火嵩が半眼で呻いた。要の言うとおり、○×小学校の裏山は鬱蒼と木々が茂っていたのだ。
「どれがイラストの木か分かりませんね。」
 みなもは呆然と周囲を見回した。一体どこの根元に埋まっているのか分かりそうにもなかった。
「…………小学生って何考えているか分かったもんじゃないわね。」
 雫は過去の自分の幼さをしみじみ噛み締める。
 ぽんとみなもが手を叩いた。
「これを試してみましょう。」
 じゃ〜ん、と取り出して見せたのは、ハンガーで作られたL字型の棒だった。
「みなもちゃん、これって……。」
「はい。ダウンジング棒です。」
「ダウンジング棒って?」
 要が首を傾げる。火嵩も名前くらいは聞いたことがあったが、詳しいことは知らなかった。雫が得意そうに解説してくれる。
「L字の長い方を地面に向けるように両手でこう持って、探したいものを念じながら歩き回ると、お目当てのものの近くにきたら自然と棒が上に上がってくるのよ。」
「お手製なので、どれほど効力があるか分かりませんけど。」
「楽しそうだし、やってみよっか!」
「はい!」
 うきうきと周囲を散策し出した女の子2人には少しついて行けなくて、要と火嵩は静観することにした。
「タイムカプセルってどんなのですか、雫さん?」
「多分、大き目のお菓子の紙箱とかに入れて埋めたんだと思うのよね。」
 雫に言われた形状を必死に想像しながら、みなもはダウンジング棒を一つ一つ木々に近づけていく。
「あああ、雫さん、開きましたよ!!」
「ここってことね!」
「すげー!」
「……早いな。」
 要は興味深々に目を輝かせていたが、火嵩は胡散臭そうに目を細めた。
「ここ掘って!」
 雫もさっそくシャベルを手にして、地面に突き立てた。
「他のところも調べてみたらどうだ?」
 火嵩は作業に着手する前にみなもにそう提案してみる。
「そうですね。もうちょっと調べてみましょう。」
 みなもはあっさりと首肯してダウンジング棒を持ってうろうろし出す。そしてすぐに悲鳴を上げた。
「雫さん! ここも開きます。……あ、こっちも。ここでも開きますよ。」
「…………意味ねぇじゃん。」
 要は拍子抜けした。みなもの背中は哀愁に震えている。
「でも開き方が多少違うとかあるんじゃないか? 一番開きが大きい方に進んで行くといいとか。……原理はよく知らないんだが。」
「ナイスアイディアだわ。芹沢くん。」
 火嵩の案を受け入れ、みなもと雫はあっちだこっちだと言いながら奥へ分け入っていく。要と火嵩はただその後をついて行った。
「この辺みたいですね。」
 みなもが最終的にたどり着いたところは、木々が開けた場所だった。心理的に、その空間の中央よりは外周のどこかの木々の下に埋めたのだろうと考えられる。
「掘ってみて!」
 雫は適当にシャベルを使い出す。みなもも火嵩も各自それぞれ穴を掘り出した。
「なんか面倒〜。」
 要はだるそうにヤンキー座りをしつつ、シャベルを投げやりにざっくざっくとしている。



「はぁ〜よぅやっと着いたわ。」
 神島・聖(かみしま・ひじり)は大きく溜息を付いて真っ赤なスポーツカーから出てきた。タオルを首にかけ、シャベル片手に、口にはタバコを咥え、ついでとばかりに懐中電灯付きヘッルメット装備、とまるで工事現場のおっさんのようだった。
「何埋めようか悩んどったら遅ぅなったわ。」
 ○×小学校の前にはすでに人影はない。裏山はそんなに広くないからすぐに見つかるだろうと思って歩きかけたとき、ふいに後ろから声が聞こえた。
「渋滞には気をつけろっていつもゆってるじゃん……。遅刻すんなよな。」
 葛西・朝幸(かさい・ともゆき)が聖の車のトランクから這い出てきている。
「朝幸、お前っ、なに勝手に入り込んでんねん!」
「えー。だって聖がこそこそしてるからどこ行くのかと思って。」
「こそこそなんてしてへんやろうが! お前の方がずっとこそこそしてんちゃうんか。」
「まあ、デートじゃないとは思ったよ。その格好だし。」
「朝幸〜〜!」
「何しに来たの?」
 朝幸は聖の背後を窺うが、小学校しかない。不思議そうに首をかしげて、聖を見上げてきた。聖は今更追い返すわけにも行かず、雫のメールを見せて状況を説明した。
「とりあえず、先に雫を見つけて地図を見せてもらわなな。」
「雫って何埋めたんだろうねー。やっぱ、ラブレターとか? それとも0点のテストだったりして。」
 朝幸と喋りながら、聖はずかずかと裏山に入り、道なりに適当に歩いていると、ちょっとした空間が開けている場所を見つけた。数人で土を掘り起こしている様が見て取れる。
「すげっ、俺の勘、よぉ当たるわ。」
「むしろここしか来るところないから。」
 朝幸の呆れた言葉は無視して、聖は雫に近付いた。
「あー、遅刻ー。」
「すまんすまん。堪忍な。これどうなってんねん?」
「この辺りに埋まってるんだろうっていう目星がついたから掘ってるの。」
「なるほど。」
「こーゆーの埋めるつったらさ、やっぱり目印とかあるところじゃない? 大きい石でも置いてあるとか。」
 朝幸がきょろきょろと周囲を見回す。
「あ、この辺とかそれっぽいかも。聖も一緒に掘ろうよー。」
 目に付いた場所を朝幸はシャベルで掘って行く。
「ちょぉ待っとって。先に知り合い探すから。来てるはずなんやけど……えーと、鬼柳はどこかいな。」
 聖は穴を掘ることに集中している人影に素早く目を走らせた。



 発掘に興味のない要ははシャベルの運びが遅い。10センチも行かないうちに違うことが気になってきた。
「そういやせりりん、何埋めるんだ?」
 近くで黙々と掘っていた火嵩を振り返る。
「どうでもいいだろ。お前もさっさと掘れよ。」
「えーいいじゃん。せりりんのことだから、何かやばいもんだろ? 見せて見せて。この鞄に入ってるのか?」
「馬鹿。触るな!」
「おっ、表情が変わった。やっぱここにあるんだな!」
「やめろって!」
 火嵩は慌てて鞄を自分の後ろに隠すが、逆に要の好奇心に火をつけてしまった。実は鞄の中に埋めようと思ったものは入っていないのだが、まだ見られたくないものが入っている。母親に無理矢理持たされた重箱の弁当である。どうせ昼には見つかることになるのだが、火嵩はまだ心の準備が出来ていなかった。
「そういうお前は何埋めるんだよ?」
「秘密。俺のもんじゃないし。」
「はあ?」
「それより、せりりんのは?」
「お前っ、自分勝手だな! お前のはどこだ? そのポケットにでも入ってるのか?」
 火嵩もじりじりと要ににじり寄るが、要は要で鞄を奪おうと身構えている。
「絶対せりりん、何か色恋に関係がありそうなもんを埋めそう!」
「しつこいな。お前を埋めるぞ!」
「ふっふっふっふっふっふ。」
 きらきらと目を輝かせている要に呆れて火嵩が叫んだ途端、背後から地を這うような声が聞こえてきた。
「見つけたでぇ〜。鬼柳!! 小さい頃から人ん家の柿盗みくさって! ここで会うたが百年目。観念して埋まらんかい!」
「げっーー! 神島!!」
 突然の宿敵の登場に、要はぎょっと飛び退いた。聖は言葉どおり逃がそうとはしない。ぐいっと襟首を掴み、引きずっていく。
「朝幸、深く穴を掘ってぇな。こいつを埋めるさかい! ついでに結界も張って見つからんようにしとかんとな。証拠隠滅や。」
「馬鹿ー。離せー。」
 要がじたばたと抵抗するのを少しの間見送って、火嵩は何事もなかったように自分の作業に戻ったのだった。



「そろそろお昼にしませんか?」
 ふーと額を拭って、みなもがそう提案した。探す場所はだんだん少なくなってきているが、そう思ったら急に空腹が襲ってきた。
「そうね。お腹空いたし、お弁当食べよっ! 私、ちゃんとシート持ってきたから。」
 雫が大きめのシートを開いている空間に広げる。
 大騒ぎしていた聖と要、黙々と掘っていた火嵩や朝幸も集まってきた。
「みんなお弁当持ってきた?」
「弁当? 持ってきてない。」
 雫に尋ねられた朝幸はあっさりそう答えた。ちらりと聖を見上げる。
「だって、出かける前に聖のおばちゃんが聖に持たせた分、俺も食べていいつってたもん!」
「はあ? お前、俺の弁当、白米たっぷりに梅干1つの日の丸弁当やで。それ食われたら俺の分があらへんやんか!」
「俺、知ってるもん。聖、それだけじゃ足りないからって、おかずに三段のお重持たされたでしょ。」
 ふふふんと勝ち誇ったように朝幸は聖の隣に座る。聖より先に横から上品に貪り食べ始めた。
「俺はこれ買ってたせいで遅刻したんだよなー。」
 要はコンビニのビニール袋からおにぎりと水を取り出す。
「あ、あたしもおにぎりなんです。水筒には豚汁が入ってるんですけどね。」
「……なんでそんなものを水筒に入れてんの?」
 みなもの不思議な行動に、要は当然の疑問を抱く。
「豚汁好きなんです。」
「あ、そう。」
 要は深く追求しないことにして火嵩を振り返った。一人弁当も出さずに黙り込んでいる。
「せりりん? 忘れたのか?」
「お前じゃあるまいし。」
「つ、冷たい! せりりん、今日は本当に機嫌悪くない?」
「うるさいなー。俺、絶対食べきれないから、お前も食えよ。」
「はあ?」
 がんっと鞄から重箱を出し、火嵩と要の間に置く。激しく運動した後におにぎりだけでは少ないなと思っていた要はありがたいと思った。
「うわ……また多いな、これは。どうしたんだ? せりりん、自分で作ったのか?」
 聞きかけて、要は口を閉じた。確か、火嵩は家族と折り合いがよくない。
「まあいいや。美味そ〜。」
 火嵩が何か言う前に、要はさっさと箸を持った。
「みなもちゃん、そのおにぎりの中身は何なの?」
「鮭です〜。他にもたらこと昆布があるんですよ。」
「へ〜。自分で作ったの?」
「もちろんです。雫さんのお弁当も美味しそうですね。」
「うん。今日は手作りなの〜。」
 みなもと雫はそれぞれのお手製の弁当を褒めあっている。
「おい、最後の1個取るなや。俺、それまだ食べてへんで。」
「えー。じゃあほら、聖、あーん。」
「何しとんねん。」
 口では言いながら、聖は朝幸から最後のから揚げを貰った。
 みんな幸せで嬉しいな、とみなもは思った。



 お腹が一杯になったところで、やる気も復活し、それぞれまた地面を掘り出した。初めはだるそうだった要も、だんだん面白くなってきて熱中している。朝幸はシャベルで掘るのが面倒になって、お茶の間サイズの竜巻を発生させ、ゴンゴン掘っていく。
「この3つの岩を結んだ交差点の下とかに埋めてあるのかもしれませんね。」
 みなもは気になるものを見つけては、関連があるのではないかと考えて、探すことを楽しんでいる。
「あ、なんか引っかかったぜ?」
 要が土の中から何かを引きずり出してきた。元は紙だったらしい箱が、ぼろぼろになって出てきた。中にまで土が入ってしまっている。
「ほら。」
 すぐにでも中身が見えそうだったが、要は先に雫に渡した。
「何を埋めたの?」
 朝幸が興味深そうに雫の手元を覗き込んでくる。
「何埋めたのかなー。」
 記憶にない雫は他のみんなと同じくわくわくしながら箱を開けた。中から出てきたのは、藁で作られた簡易な人形と、太くて長い釘だった。
「………………。」
 火嵩は出土品に絶句する。
「あーそういえば、これやばそうだったから埋めたんだったわ。」
「えー趣味しとんな。」
「でしょ!」
 聖の皮肉に雫は笑顔で返した。本気でそう思っているのかもしれない。
「……何これ。」
「呪いの藁人形。今のところ必要ないし、何か面白くなったら掘り起こそうと思ってたのよ。思い出したわ〜。」
「…………雫さんって小さい頃からオカルト大好きだったんですね。」
「そうみたいね!」
 軽やかにそう笑われ、全員複雑な心境になったのだった。
「そうそう。せっかくだし。みんな、何か埋めない? 私、入れ物ちゃんと持ってきたの。」
 ごそごそと自分の鞄を漁って、雫はお菓子の缶を取り出してきた。
「紙だったらやっぱりぼろぼろになっちゃうからね。」
「雫さんは何を入れるんですか?」
 みなもの問いに、待ってましたとばかりに雫は綴じられた紙の束を抱え上げた。
「じゃーん。これこれ。ゴーストネットOFFの歴代事件調査書。私の歴史よ〜。」
「そ、そうですか。」
「みなもちゃんは何も埋めないの?」
「あたしは別に……。」
「何か埋めたらいいのに。色紙でも買ってきて、みんなに一言ずつ書いてもらうとかは?」
「あー、俺も買いたいものあるからついでに買ってこようか?」
「いいえ、そんな。いいですよ。一緒について行きます。」
 朝幸の提案により、みなもは2人で買い物に行くことになった。2人を送り出し、雫は残りのメンバーに声をかける。
「他の人は?」
「俺は鬼柳埋めるで〜。」
「なんでだよ!」
 要は聖によって頭から土の中に突っ込まれそうになる。
 その間に火嵩はポケットに入れていた腕時計を取り出し、雫の持っている箱に入れた。防戦一方の癖に、要はそれを見逃さなかった。
「せりりん、何それ! 女物の時計じゃん!」
「お前はうるせぇよ。大人しく埋められとけ。」
 火嵩は忌々しげに吐き捨て、それ以上の説明をする気は全くない。
 父親の前の彼女であり、火嵩の初恋の人からもらったその人の腕時計がどうしても捨てられず、いい機会だと思って埋めようと決めただけだ。今はその人と顔をあわすこともないし、父親自身、その人のことを覚えているか分からない。
 火嵩の頑なさに、要は渋々引き下がった。なかなか複雑そうな家族関係なので、下手に口を挟まない方がいいと判断したのだ。
「じゃあ、俺はこれ。」
 要はダンヒルのライターを入れる。
「なんだ? 別れた彼女からのプレゼントか?」
「違ぇよ。姉貴の別れた彼氏の持ちもんだよ。いつまでも未練たらしく持ってるから、強引に隠してやるんだ。」
「ふぅん。」
 一見意地悪をしているようだが、実はシスコンなんだな、と火嵩は思ったが、口にはしなかった。冷やかしてやろうかと思っていたが、火嵩のことにも深く触れてこなかったので、これで貸し借りなしだろう。
「神島さんは?」
「だから、鬼柳や言うてるやろ。」
「だから、埋まらねぇよ!」
「ほんならどないしよっかなー。」
 何を埋めようか考えていて遅刻までした聖は一応持ってきたものをポケットの中で触った。この中に入れてしまうのは可哀相な気がする。
「俺はええわ。」
「ん? そう?」
「こうてくる色紙にしっかり書かせてもらうわ。」
「分かったわ。」
 雫はその箱を置き、とりあえずいらない穴を塞ぎ始める。どの穴に埋めるかは、3人と相談して以前雫が埋めていた場所とは違うところに決めた。



「金筒に何入れたんですか?」
 買い物を終え、帰る前に字を書きたいと言った朝幸に付き合ったみなもが不思議そうに尋ねた。言いたくないのなら、すぐにでも断ろうと身構えている。
「んーラブレター。」
「え?」
「思い出の品は勿体無くて埋められないじゃん。だから、好きな人への気持ちを書いて、写真と一緒に埋めることにした。」
「素敵ですね。」
 みなもは感動して微笑んだ。
「うん!」
 朝幸も嬉しそうに笑う。
「あー帰ってきたー。みなもちゃん、ペンあるよ。はい、書いて書いて。」
 雫から色ペンを受け取り、みなもは今日の楽しかった思い出を色紙に書き始める。他の人にも回して書いてもらった。
「俺、別のところに埋めるから。」
 朝幸は手頃なところを探して、自分で穴を掘る。
「なんや? 何埋めんねん?」
 聖が何事かと思って寄ってくる。
「ラブレターだよ。想いが叶ったら、その時一緒に取り出しに来て、見てもらうことに、するんだ。」
 小さい竜巻で掘っている土に視線を向けながら、朝幸がちらりと聖の横顔を窺った。特になんの変化もないことを少し残念に思う。
「んじゃ、俺もこれ埋めようかな。」
 金筒を埋め、土を半分くらいまで被せ終わった頃、聖がぽつりと言った。
「へ?」
 聖は朝幸にポケットに潜めていたものを取り出して見せる。それは折りたたまれた紙だったが、開くと中に何かが入っていた。
「何これ。」
 黒い小さい石みたいなものが大量に出てくる。
「お前に貰ろた不思議な種。何が咲くか分からん言うとったやろ。」
「あー……。」
 そんなこともあったっけ、と朝幸が思い出す間もなく、聖がそれを植えてしまった。
「今度来たとき、一杯花が咲いとるとええな。」
「そうだね。」
 なんか嬉しいかも、と朝幸は笑った。
「こっちも埋め終わりましたよー。」
 すっかり泥だらけになったみなもが叫んだ。
「お疲れさま! また忘れた頃に探しに来ようね!」
 雫と手を振って別れ、それぞれ帰途に着いた。
 その前に、みなもは学校の水道を借りて、力を使ってシャワーにして汚れ落としをした。まだ寒いので、力で温度調節はきちんと行う。疲労した身体に水が染み入るようで、気持ちがよかった。


 *END*


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも) / 女 / 13歳 / 中学生】
【1358 / 鬼柳・要(きりゅう・かなめ) / 男 / 17歳 / 高校生】
【1111 / 芹沢・火嵩(せりざわ・ほたか) / 男 / 18歳 / 学生】
【1295 / 神島・聖(かみしま・ひじり) / 男 / 21歳 / セールスマン】
【1294 / 葛西・朝幸(かさい・ともゆき) / 男 / 16歳 / 高校生】
(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
懐中電灯…何かに使おうと思っていたんですけど、使えませんでした。
荷物が重くなってしまってすみません。(汗)
楽しく書かせていただきましたが、如何でしたでしょうか?
満足して頂けたら幸いです。
それでは、また機会があったらお目にかかりましょう。