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■打!■
●狩人たちのファンファーレ
今回の依頼はサバイバルゲーム場に現れる幽霊の取材だった。
投稿された葉書にはこれといって大きな事故とかがあったということは書かれていない。しかし、幽霊という情報を得ては、何の能力も無い三下を一人で生かせることは出来なかった。毎度毎度、頭が痛い話だ。
碇・麗香は溜息を吐いた。
「ほぉ・・・サバゲーで幽霊かいな・・・」
淡兎・エディヒソイことエディーは丸眼鏡のブリッジを人差し指で上げて云う。
日本人離れした容貌と銀髪は、彼が日系ロシア人である証拠であろう。
「ぼこぽこランドっていうサバイバルゲーム場なのよ。ちょうど特集を組むところだったし、この際だから幽霊話のほうも取材して載せようかと思ってね」
碇麗香を横目に、三下は心なしか震えていた。
手際よく話が進むのをドキドキしながら三下は見ている。トレーに乗せたコーヒーを震える手で、皆に給仕した。
そんな三下に気づいているのかいないのか、碇編集長は続ける。
「これがそこの地図ね。装備品は自前でもいいし、何なら他の編集部から借りてくるわよ」
「いや、結構や。自分のもっとるからな」
エディーは云った。
「モロ、俺向きの依頼だね」
少年のような屈託の無い笑みは依神・隼瀬がこれからの依頼を心底喜んでいる事が分かる。相手が幽霊だろうが悪魔であろろうが依神には関係無かった。撃つ対象があって、しかもそれが動いてくれるなら上出来だ。
それに関してはエディーも五代・真も同じ意見だった。
「それとBB弾はこっちで用意するわ、意外に高いから」
「それは助かるよ」
「遠慮なく撃ってもいいんだよな?」
碇の言葉に五代は二ヤリと笑った。
「とりあえず・・・一人頭1万発は欲しいな」
「一万・・・まぁ、今回は・・・・・・必要でしょうね」
「今回は?」
天慶・真姫はおっとりと首を傾げる。
「質問なのですがぁ・・・さばいばる・・・って何なのでしょうか?」
「・・・・・・」
瞬時に皆は凍りついた。
「知らないんか、あんた」
「はい、経験はありません。ですが、皆さんを見ていると何だかとても楽しそうですね」
「・・・まあ、こんなとこに女の子がおったさかい、変やと思おとったケド」
ちらりとエディーは真姫を見た。
「しゃあないな、レクチャーしたるわ。偽モンの・・・って云っても、本物そっくりやけどな。BB弾ちう弾で撃ち合うんや」
「え、『びぃびぃだん』? まぁ、銃を撃つんですか・・・少し・・・不安ですね。足手纏いかもしれませんけれど、どなたかペアを組んでいただけないでしょうか?」
そう云うと真姫はエディーの方を向いた。
何か嫌な予感がする。エディーは知らず眉をひそめた。
「直接的に援護することは出来ませんけれど、索敵には自信があるんですよ。霊魂の方にも、特有の『音』がございますから、接近すれば分かりますもの」
ずっと閉じられた真姫の目を見れば彼女の世界に光が無いのがわかる。わかるからこそ、彼女の申し入れにYESと云ったらどうなるか連想できた。
故に、意地悪ではなくNOと言いたい自分がいる。
「風の音、木々のざわめき。そのようなものから、飛んでくる方向や速度、着弾位置ぐらいならば把握できます・・・だめですか?」
「そ・・・そんなん・・・なぁ」
「んじゃ、決定だな」
五代の一言(トドメ)にエディーは『しまった!』と思ったが遅かった。
周囲を見渡せば、メンバーは4人。
二手に分かれても数は余らない。第一、弾が避けられるなら十分だった。ここは諦めるしかないだろう。
「・・・わかった・・・」
「んなら交渉成立!・・・なあ、三下さんよゥ」
「いっ!?」
いきなり五代に名を呼ばれ、三下は文字通り飛び上がった。
「あんたも一緒にやろう?な?」
「えぇッ!」
「行ってきなさいよ・・・どうせ、ウチに居たってヘボい原稿しか増殖しないんだし」
半ば投げやりに麗香は言った。
「酷い・・・」
「意味不明の原稿見せれられる身にもなって欲しいわよ。アレ、拷問以外何者でもないのよ!」
「わああ〜ん!」
「よかったなあ、三下さん。気分転換に一緒に撃ちまくろうな・・・なvv」
依神の嫌味とも慰めともつかぬ言葉に三下は更に泣いた。
幽霊と言っても呪われたとか、死人が出たとか、そういう話は葉書には書いてなかった。そう思っても良いのかどうかは分からないが、この際そんなことは問題無い。
多分、遊び足りないのだろう。
迷惑かけてないようだが、ゲーム場の売上に関わるようなら、そうそうに成仏(あげ)てしまったほうがいいと碇は判断した。
幸い、今回のメンバーは体力もあり銃も好きなようだし(一人、真姫を除いては・・・だが)、これ以上の情報は必要ないだろう。
碇は自分だけでそう納得すると、そうそうに現地に向かってもらうことにした。
本当なら言わなければいけない事があるのだが、碇はそれを己のたわわな胸の奥に秘しておくことに決めた。
●ぼこぽこB・H・D祭!
「ここですかぁ・・・」
真姫はのんびりと言った。
遠くでは鳥の泣き声が聞こえる。目さえ健全であったのなら長閑な風景が見れたことだろう。
「何・・・ぼこぽこ・・・B・H・D祭??・・・まぁ、どうせ僕は的にされるんですから関係ないですけどね・・・」
どこまでもイジケ虫な三下である。
「祭りっていうと、大会なんやろうな」
「・・・てーと、賞品が出たりしてね」
ショルダーホルスターに収めたダブルイーグルに依神は触れる。
「まぁ、細かいことはいいとして。二人組が満足するまでたっぷりお相手するか」
五代は嬉しそうに車から装備品を出して云った。
「作戦とかは・・・」
おずおずと三下が訊ねた。
「作戦?・・・攻撃あるのみ!防御なんてもんは、はなから頭に無い!要は勝って、生き残ればいいんだ」
「そんな〜」
「俺もそれに賛成〜☆」
「それが『サバイバル』ってもんだろ?」
「そうそう、三下さんも頑張れよ。俺たちが敵に回ったら大変だぜ」
依神はニタ〜リと笑う。
三下は何とも云えない情けない顔をすると、『ドナドナ、ドナ〜♪』と呟くように歌い、備品整理を始めた。
久しぶりの野外に真姫は心なしかうきうきしていた。
多くの能力者を輩出する天慶一族を統べる真姫の外出など、本来なら許されるはずが無い。当然の如く、外出を許されなかった真姫はエディーに助けられて屋敷を脱出し、依神の運転するコルベットで遁走した。
今朝の脱出劇ほど今まで心躍らせる事件は無かった。
自然と笑みが浮かぶ。
遠くでゲーマー達を呼びかける声が聞こえ、組み分けのくじ引きをするようにとのアナウンスがある。五代は三下の腕を掴み、引っ張ると勇んでテントの方に連れて行った。
そこには景品がずらりと並んでいる。隣のテントはポスターの裏にマジックで『野戦病院』と書いてあった。実際、怪我をした人間が来ることもあるが、弾に当たった者は『怪我人』と呼ばれ、ここに来る。大抵は始まってすぐに打たれた暇人がここに来ていた。
「アトラス編集部さ〜ん」
「はいッ!」
三下がギクシャクとくじを引く。
「えっと・・・アメリカ軍??」
書かれていることの意味がわからずに三下は首を傾げた。
「大当たりですよ!!」
開催者はふいに三下の肩をバンバンと叩いた。
「当たったんですか?」
「ええ、そうです・・・いやあ、あなたは運がいい。今回の参加者は563名。総勢73チームの中で、当たりはたったの三本ですからね」
「はぁ・・・」
「当たりかぁ・・・三下さんにしては珍しいんとちゃう?」
「何か・・・怖いですよお・・・」
三下は泣きそうな顔で云った。
いつもいつも貧乏くじしか引けない自分にとって、その事実は信用できなかった。当たりが三本というのが何より怪しい。
三下の話を横で聞いていた男たちがこちらのほうへ集まってくる。「へー」とか「ほぉ〜」とかいう声が飛んだ。
だが皆、一様にニタニタという笑いを浮かべているのが気にかかる。
「頑張って生き残ってくださいね!」
「生き残る?」
「そうですよ! 栄えある『B・H・D祭』ですから♪ あなた方を含めた三チーム・・・つまり11人で残りの552人を相手に戦うんです!!」
「なんですとぉ!」
B・H・D・・・つまり、アメリカ軍史上、最悪にして最も忌まわしい任務を映画化した時の題名である。三下は今更ながら気づいた。
三万人の市民全員が敵に回り、そこへ落ちたアメリカ軍兵士が必死になって戦うという・・・あれである。
「おぉッ!おもしろそーじゃ〜ん♪俄然、燃えるよ〜☆」
依神は嬌声ともつかぬ声を上げる。
今日という日のために愛銃を用意してきた甲斐があるというものだ。使い慣れたコルトパイソンをウェストホルスターへ、シグを予備としてポーチに入れ、足首にデリンジャーをセット。愛用のスコープ付きM16ライフルはLEVEL5にフルチューンしてある。
これを使うときが来たかと思うと嬉しくて仕方が無い。三下の悲壮な表情と対照的に依神は上機嫌だった。無論、エディーも五代も同じ気分だ。
500人程の中からたった二人の幽霊を探しつつ、戦わなければならないが、そんな事は些末なことだ。
「碇編集長に頼んで弾はサンロク弾にしてもらっておいて正解だったな」
五代の言葉に三下は凍りついた。
銃の改造がLVEL5で、弾は通常より重いサンロク弾。もし自分が敵に回らなければいけなかったとしたら・・・と考えると三下はぞっとする。
よかった・・・こちら側で。
敵さん達よ、ご愁傷様。成仏してください。なまんだぶ・なまんだぶ☆
わけのわからないことを三下は呟いていた。
●漢たちよ 野を駈けよ 闘いの聖霊の如く
「どおりゃあ〜〜〜〜!!」
五代が大地を蹴ると敵陣へ一気に突っ込んだ。素早く前方にあるブッシュに隠れてエアガンを撃った。右8時方向の敵は抹消済みだ。
パパパッと音がしたと同時に弾がブッシュに隠れた五代の横を掠めた。避けて地面を転がると抱腹前進で進む。五代を狙った銃口は依神のふいの出現に狙いをずらした。その隙に依神は敵三人をダブルイーグルで撃つ。
至近距離で打たれた敵は突然のことに呆然としていた。
無論、依神は浄化用の水晶弾も持って来ては居た。こうして戦っていればあの幽霊に巡りあうこともあるだろう。それまでの間、こちらはゲームに興じていればよい。
気分は本気モードで、ライフルはフルオートで打ちまくっていた。
「ふふふふ……最後まで生き残って見せるぜ! 俺を倒そうって奴は全員返り討ちにしてくれる!!」
などと叫びながら走り回る。
どちらにしろ満足してくれれば自然と成仏するだろうというのが、依神の自論だ。
森林レンジャーの標準タイプ装備に身を固め、その上からロングコートを着た依神は、防弾用のマスクのレンズを指で拭った。こうも走り回ると、レンズが曇って仕方がない。
依神はマスクを外すと、首に引っ掛けた。
ベストのポケットからテグスを取り出す。木々の間に罠を次々と仕掛けていった。
その器用さと手際の良さに、スコープで見ていた五代は舌を巻いた。
「やるねぇ・・・嬉しいじゃんか、俺の仲間が優秀ってのはよ。さて、こっちも合流するか。さっきの銃声の遠さからすると、もうじきこっちに来るな・・・」
云い様、パシュンという音が依神のいる方向から聞こえる。
「いったこっちゃねぇ・・・しょうがねえな」
独りごちた。思わず笑みが浮かぶ。
弾の方向からすると、自分から見て3時の方向だ。五代は44マグナムを握りなおすと依神のいるブッシュに走りこんだ。
「来たぜ!」
「危ないなぁ!ここは・・・」
「知ってる。スコープで見てたぜ・・・トラップだろ?あんた、いい腕だな」
「まあな・・・ってことは、敵さんからも見えてるってことか?」
「そうかもしれねえが、構っちゃいられねえよ」
「そりゃそうだ・・・うわあ!!」
ボコンッという音が30センチ横で跳ねた。視覚の端に蛍光色の影が過ぎる。五代が振り仰ぐと、8センチほどのボールが宙を跳ね上がっていた。そして、地面に落ちる。
「ゴムボール?・・・まさか・・・・・・」
最後まで言う間もなく次弾が飛んできた。どうやらその物体の弾性からすると、スーパーボールを弾にした80ミリ対戦車砲らしい。
威力のほうは・・・・・・あまり考えたくない。
「まったく!そんなもん作ンなよっ!!」
「しょうがねえ・・・後進すっか」
「あーもう、ムカつく!!」
「ここはエディー達と合流したほうが良さそうだな」
「同感だね」
依神は云うとマスクを被り直し、後ずさり始めた。このまま敵が飛び込んで来たら、トラップの餌食になるだろう。それならしばらく時間が稼げる。
ある程度まで下がると立ち上がり、二人は山林を駈ける。見つかる前に回り込み、次々とHITしていった。
●青春ダッシュは硝煙の香り
「怖いよ〜!」
「ちょっとは撃たへんかい!」
うずくまる三下に弾が当たらないように、エディーは重力をコントロールして弾を叩き落す。そして、すかさず使い込んだHW製S&WのM659で近距離にいる敵に打ち込んだ。ステンレス製のシルバーモデルで、機能美と使いやすさを兼ね備えた銃だ。
「こう、色々な方向から撃ってこられると避けるのが大変ですわ」
さすがに500人以上の人間を相手に、山林を駈けるのは大の男でも辛いものがある。しかし、真姫は文句一つ云わずに飛んできた弾の方向と距離を聞き分け、エディーに伝えていた。そんな彼女の表情も久しぶりの外界に対する緊張は無く、この最中で笑顔まで浮かべていた。
「500メートルほど先にいます。三人です」
「ラジャー・・・おらおら、避けてみいや!」
物凄い勢いでBB弾が長い銃身から発射される。当然のことだが、このスナイパーライフルもカスタム済だ。エディーは確実かつ、冷酷にHITさせる。先程から内腿や二の腕の内側など、皮膚の薄くて痛い場所を狙われ、うめくゲーマーの声を真姫は何度と無く聞いていた。多分、エディーは故意に狙っているのだろう。
エディーは構えを解くとあたりを見回す。周囲を濃いブッシュが覆っているのが良いといえばそうなのだが、如何せん枝も多くて移動時には難儀しそうだ。
「エディーさん」
「何や?」
「依神さんたちがこちらに向かってきますけれど」
「ほぉ〜・・・そうか。丁度良い合流しよか」
「はい。そうですね・・・・・・ここからだと聞こえるかしら?」
「は??・・・何を・・・」
「依神さぁ〜ん!」
「叫ぶんやなーい!」
シュパパパパパァン!という音が聞こえ、真姫の真横のブッシュを千切り飛ばした。
「きゃっ!」
「大丈夫かいな」
「えぇ・・・」
遠くで打ち合う音が聞こえ、そばらくするとそれも止んだ。枝を掻き分ける音が近づいてくる。エディーが身構えた。
「依神さん達ですわ」
「何や・・・早よう云ってーな」
「よおっす!」
「幽霊さんは居ましたか、依神さん?」
「まだだよ・・・そっちは何人倒した?」
「通算160人程やな。そっちはどうや。おったんか?」
「まだ遭遇してねえよ、エディー・・・・・・よう、元気か?嬢ちゃん」
依神の後ろから五代の無骨な笑顔が覗いた。陸自迷彩が殊のほか良く似合っている。真姫は「はい」と答える。
五代たちは途中面倒になって数えてはいなかったが、大体のところでは180人近く倒していた。こちらの仲間であった残りの2チームは開戦5分で四方八方からメッタ撃ちにされ、敢え無く撃沈の運命を辿った。
「もぉ、帰りましょうよー」
不甲斐なさから無視され続けていた三下は懇願し始めた。
「無駄や」
「そんな!」
「大体なァ・・・ゲームが終わらないだろうが。撃たなきゃ戦死の運命にあるってのに、戦わないなんて男じゃねぇ!生き延びてみろ、ここでも会社でも!」
正論だが微妙にピントのずれた五代の発言に三下はうな垂れた。確かにルール上、当たれば『戦死』と見なされ、野戦病院行きになる。だが、ここでは当たったぐらいでは、せいぜい青痣になるだけだ。五代たちの頭の中では、すでにここは戦場なのだった。
「戦え三下!明日のために!!」
「嫌ですゥ〜」
「根性無し!!」
「五代さん・・・」
「何だ? 嬢ちゃん」
「幽霊さんが・・・・・・」
霊音を探査していた真姫は幽霊ゲーマーの出現を告げた。
「来たか!・・・よぉっし、派手にフィニッシュ決めるぞ!」
五代の勝鬨の声に皆は応えた。
「ラジャー!」
幽霊二人組の他にも二十人程いた。
エディーは舌打ちした。これでは避けるにも範囲が大きくて四角がどうしてもできてしまう。周囲を見回した。信頼のおける仲間たちは各々特殊能力を有していた。盲目の真姫とてそうである。僅かな衣擦れや、心音に至るまで、彼女に聞き取れない音はなく、それにより行動に制限を受けないのが何よりも救いだった。しかし、真姫の能力を持ってしても、至近距離になったら危ないだろう。それなら半径5メートル内に近寄らせないままHITさせるしかない。
この人数ではあまりにも少ない。その上、あの幽霊を成仏させなければならなかった。
「弾の残数はどないや?」
「大ボトル一本半だな、俺は・・・依神、あんたはどうだ?」
「俺かァ? 俺もそれぐらいかなあ。あんまし無駄弾撃ってないしな」
問題は人間である。幽霊に集中してるわけにもいかず・・・っといっても双方の内、片方を無視することも出来ない。
まず、人間をメインに攻撃し、それからBB弾が無くなるまで幽霊と遊んだ後、依神の持つ水晶弾を主砲にして成仏させるしかないだろう。
「まァ、そんなところだな」
あちこちにブービートラップを手早く仕掛けながら依神は云った。
最小で最大の効果を上げるよう巧妙に仕掛けられた罠を音で『見』ながら真姫は心底感心する。依神の手先に集中していた真姫は空気が揺れ、発生音の生じる瞬間を鼓膜で感じた。と同時に、破裂したような音を聞いたが、それは今日初めて聞く音だった。
「何か来ますっ!!」
真姫は叫んだ。
それ以上云えなかった。
五代が弾影を捉える前にそれは突っ込んできた。かろうじて持ち前の反射神経で避け、地面に伏せる。皆も伏せたが、三下は間に合わない。
「うっぎゃああああああ!!」
皆は三下の悲鳴を体で聞いた。普段の小さな声からは想像も出来ないほどのものだった。つん裂く悲鳴の残骸が耳に残る。ジンと聴覚神経が痺れた。
皆は三下を振り返り驚愕した。
「三下・・・・・・左肩被弾・・・・・・?」
呆気に取られ、依神は喘いだ。
「ペットボトル?」
「酷ぇな・・・・・・」
五代もそれから二の句がつげなかった。水と空気を利用したペットボトル爆弾だ。ICBMのつもりであろうか?
声も出せずに三下は蹲っている。
「はッ!また来ます!!」
真姫の声にエディーは反応した。弾影を目の端に捉えた瞬間、それに重力をかける。グボッと音がすると、それはたわんで地面に落下した。
エディーは機関銃士の弾を片っ端から薙ぎ払う。依神はM16で遠距離のゲーマーを撃った。五代はその隙にマグナムを片手に敵陣へ飛び込み、奇襲をかけた。見事な連携プレーに敵は次々『病院送り』になった。
「来ました、幽霊さんです!」
真姫の声に皆は反応した。
「さあ、来いよ。満足するまでたーっぷり遊んでやるぜ!」
五代は叫ぶとマグナムをぶっ放す。相手もすかさず反撃してきた。取りあえずエディーはAKの弾を重力で落とす。その合間にライフルも撃ったが、相手が幽霊では手ごたえは無い。
そして、また魔の爆弾はやって来た。
今度は三弾同時発射だ。その後を追従するように500ミリリットル爆弾も狙ってきた。不幸にも離れたところにいた三下は爆弾の猛攻撃の的になる。
「何で僕ばっかり〜!」
三下の悲鳴を無視して依神は敵陣に走りこんだ。巫女体質の依神にはボトルに微弱な霊波が感じれた。高校生だったという幽霊たちの無邪気過ぎる悪意に腹が立った。
「危ねえだろうが!!」
叫んだ依神は走りながらコルトパイソンに水晶弾を仕込んだ。落ちていたピコピコハンマーを咄嗟に拾うと、真姫は次第に強くなる霊波の方へダッシュした。エディーと五代も後を追った。
「待って、依神さーん!」
「俺も混ぜろ〜」
「うち、ほっぽっとかんといて〜な」
「てめえら、強制送還だァ!!」
ブッシュの影に隠れていたそれに水晶弾を撃ち込む。敵も然る者で、依神の弾を避ける。走り寄り、幽霊が見事な体捌きで足を薙ぐと依神は体勢を崩した。がっちりと羽交い絞めにされ、もがくが離れない。依神は足首にセットしたデリンジャーを引き抜いた。
「俺の背後にまわるんじゃねぇ!」
幽霊のこめかみに突き付けると容赦なく撃った。背後から五代の「念」を込めたマグナムが援護した。
『うわああ!』
幽霊の輪郭が歪むと薄れ、次第に霧散した。
「あの世でも楽しくサバイバルゲームしなよ」
「ったく・・・・・・ガキンチョどもが」
持ち主を失った銃と迷彩服に二人は呟いた。
「そういや、あと一匹いたよな?」
「ああ・・・」
「早く成仏させようぜ」
「そうだな・・・・・・っと、やべぇ!!」
振り返った依神は真姫の姿を目に留め、不意に走り出す。現れた幽霊に向かって真姫が懸命にピコピコハンマーを振り下ろしていた。エディーは幽霊の銃を無効化するために重力をかける。傍にいる真姫も当然影響を受けた、蹲りつつ、数倍増しのGに耐え、真姫はハンマーアタックを試みた。
「キャーッ!!」
「嬢ちゃん!」
「天津神よ!捕縛したまえ!撃ち払いたまえ!」
『・・・マダ・・・遊ビ足リナ・・・』
「子供はもう寝る時間だぜ!」
依神と五代は銃を抜くと狙いを定めた。
●遊び疲れて 日が暮れて
「泣くなよ!」
「僕なんか・・・僕なんか」
「おっさん、うっとうしいわ」
イジケまくっている三下に飽き飽きしたエディーはパーキングエリアで買ったたこ焼きをほおばりつつ、ツッコミを入れる。五代はと云うとB・H・D祭の賞品を箱から取り出し、さっそく改造していた。車の中だというのに、実に器用にネジを締める。真姫は感心しながらその音を聞いていた。
実体化するほどゲームが好きだったのだから、幽霊はきっと今回の闘いを満足したに違いない。皆はそう思うことにした。それがこちら側の言い分だったとしても、あの状態では他の方法も選べない。ここは諦めて成仏してもらうしかなかった。
ともあれ、三下以外のメンバーは満足だった。真姫も満足していた。
また外出するなら楽しいほうがいい。なかなか聞けない山野を渡る風もさざめく葉の揺れる音も聞けた。草臥れるほど走り回りもした。
踏みしめた土の感触を思い出しながら、真姫は次の依頼に心を馳せた。
ゆっくりと暮れなずむ陽の色は鮮やかな茜。栄える山々の陰も春の色に変わっている。薄紅の桜雨を降らせる日も、もうすぐだ。
高速の向こうは自分たちの街。
そして、解決すべき明日もそこにある。
■END■
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1207/ 淡兎・エディヒソイ/ 男 / 17 / 高校生
0493/ 依神・隼瀬 / 女 / 21 / C.D.S.
1335/ 五代・真 / 男 / 20 /便利屋
1379/ 天慶・真姫 / 女 / 16 /天慶家当主
(五十音順)
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■ ライター通信 ■
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はじめましてこんにちは、朧月幻尉です。
今回はお楽しみいただけましたでしょうか?楽しんでいただけたのなら、それに勝るものはありません。
私はとても楽しく書かせていただきました。
見事にPCさんが揃ってビックリです☆
大阪弁がクール&ポップなエディーくんは書くのが難しかったのですが、ドキドキしながらも書けたという印象が強かったです。
ご感想・ご意見・苦情等ございましたら、お聞かせください。
それでは、またお会いできることを願って!
朧月幻尉 拝
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