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だいえっと・だいえっと
■act.1
Subject:こんな話聞いたことある?
投稿者:ゆかりん☆
こんにちは〜。
丁度さ、春に向けてダイエットの季節だよね〜っ。
でさ、最近、広告バナーで見つけた
「つけてるだけでダイエット出来るイヤリング」
ていう奴を、友達と一緒に一週間前に通販で買ったんだっ。
早速つけてみたら、あたし体がスリムになって来てさ〜
(もちろん、食事制限はしてないよっ)
もう吃驚って感じ(^-^)
でも一緒に買った友達は、それつけるようになってから「頭痛い」「勉強分かんない」って言い出してさ〜、昨日から学校に来なくなっちゃったんだ(T_T)
メール流しても返事返ってこないし、ちょっと心配……
ほかに、こんな経験した人いない?
原因何か調べたいんだけど、
誰か調べるの手伝ってくれないかなぁ……
■act2
「わかる、判るわぁ、その気持ちっ」
テーブルに置かれたケーキの一つに手を伸ばしながら、朧月桜夜(おぼろつき・さくや)は、うんうんと頷いていた。
実のところ桜夜も、ちょっと最近「見えないところ」に余計なお肉がついてきてるかな、とか思う今日この頃だったわけで、あのバナーに興味があったのだ。
「これから春に向けて、やっぱ考えちゃうもの」
「そうなのっ」
向かいの席に座って一緒にケーキを食べてるのは、ゆかりん☆こと谷川由加。桜夜と同い年の彼女は、ぽっちゃりした感じの普通の女子高生だ。
でもさっき、一ヶ月前に撮った写真を見せて貰い、桜夜は愕然としたところ。
前はぽっちゃりが結構大変な感じだったのだ。
で、その写真に一緒に写っていたのが、由加の親友である美里である。彼女は桜夜と同じぐらいの体型に見える子だ。
「友達、容態が落ちついてるみたいで良かったね」
「うん」
さっき二人でその美里を見舞いに行って無事を確認し、今は瀬水月隼(せみつき・はやぶさ)との待ち合わせ場所である、ネットカフェにいる所。
取り敢えず、美里の頭痛は少し落ちついたみたいで、後2,3日もすれば外出できるだろうと言う話だった。
しかし一時は文字が読めないくらいに衰弱していたらしく、携帯メールに返事、どころか操作の仕方も忘れてしまっていたらしい。
「お医者さんも原因が分からないなんて、変」
「そうね……やっぱりこれのせいかしら?」
桜夜はそう言いながら、二人の間にある、まったく同じ物でできた二対のイヤリングに目を落とした。
一対3980円と言う、なにげに購入意欲がわきそうな値段のそれは、小さな三つの石を放射線状にあしらわれている。
『赤いのがヘマタイトで、体力や生命力とかに関係して、黄色いのがパイライト、実行力・決断力・持久力や忍耐力を高め、血行を良くする作用がある。最期がダイヤモンドでこの石は心霊的エネルギーで心身の浄化を促すが、マイナスの波動も吸収してしまう危険もある』
「で、この形が護符の形で、身体を整える効果をパワーアップさせているって事ね」
イヤリングと一緒に送られてきたという使用説明書を読みながら桜夜は思わず首を傾げた。
先にちょいっと霊的影響を見てみたら、両方のイヤリングに微妙な霊的反応があった。悪い気配ではないのだけれど、この形状といい、かなり気になるところ。
「美里さんは、着けた2日目からものすごい頭痛がしたって話してたよね」
「うん。でも私見て、しばらく頑張ってた」
「説明書には違和感があればすぐ外せって書いてあったけど……目の前に成功例があれば、頑張っちゃうか」
「あはは」
そんな会話をしながらも、テーブルの上のケーキはどんどん消費されていった。
■act.3
無事に瀬水月隼(せみづき・はやぶさ)と合流した桜夜は、由加を以前の写真付きで紹介した後、取扱説明書を渡して、ぱぱっと今までの経過を説明をした。
もちろんイヤリングに霊的な反応があることも付け加えておくのは忘れない。
ふーん、と頷いた隼はいろいろと数字の書かれた数枚のプリントアウトを桜夜に渡した。
「なによ・これ?」
「あのHPに苦情を出した奴の、パーソナルデータ」
追加注文したコーヒーを片手に、隼はため息をつく。
「頭痛・体調不良・やる気がなくなった・逆に太った、とか言う苦情が出てた。で、返答は『あなたにはいらない物ですので、すぐに外して下さい。一週間程度で元に戻るでしょう』って話だったな」
「え? いらない、なの? 合わない、じゃなくて」
桜夜は目をぱちくりさせる。
普通は、買って貰った物なのだから、体質に合わないとか、けっこう遠回しな言い方をするものだと、思うのだけれど……
「普通はそう言う言い方しないわよね?」
「……太ってる人って、いないじゃん」
横からプリントアウトを覗き込んでいた由加が、ぼそっと呟いた。
確かに、身長のわりに痩せ形の子が多い気がする。
「それは写真見なきゃ判らないけど、あたしより痩せてるかなって子もいるわね、確かに」
「……ふーん」
桜夜の一言で、隼は何かを理解したようだ。
そして何か思い出したらしく、桜夜を見ている視線が、ちょっとばかり怪しいのに気が付いた。
桜夜は、すっと目を細める。
「隼、どこみてんのよ」
「……べっつにぃ」
すっとぼけて、隼は取扱説明書に視線を移した。
やっぱり胡散臭い。
そのまま隼を一睨みした桜夜は、そのまま由加イヤリングに手を伸ばした。
持った感じでは、何か霊が付いてる感じはなく、どちらかと言えば、手が温かくなるような感じだ。
これはプラスの霊気よね、と一人納得の桜夜の耳に、説明書とイヤリングを見比べていた隼の声が聞こえる。
「パワーストーンっていくつもつける物なのか?」
その問いに、桜夜と由加は顔を見合わせた。
「そう言えば、そんなのあまり聞かないわ」
「いくつか合わせたら副作用がでる、とかある?」
「どうでしょ。お守りとか護符は、複数つけると喧嘩するとか言うけど……」
そこで、うーんと唸る3人。
困ったな、と思いながら、桜夜は美里が付けていた方を手に取った。
「あら?」
何故か、冷たい気配が漂っている。
これはマイナスの霊気だけれど……何がこんなのを引き寄せてきたのかしら?
と、考えたところで、ふと思い出したことがある。
取扱説明書に書かれていたダイヤモンドの解説。
それと、苦情に対する「いらない」の返事。
「……ひょっとしたら、なのだけど」
桜夜は隼が持っていた取扱説明書をひったくり、テーブルの上に広げた。
「ほら、ここに書いてあるダイヤモンドの説明で、負の波動を引き寄せる危険もあるって書いてあるでしょ? これ、ダイエットが必要ない子がつけたら、負の波動を引き寄せ、本来の効果とは反対の作用が出てくるんじゃないかしら」
「そういや……苦情の一つに逆に太った、ってのがあったな」
隼は軽く指を鳴らす。
「それ、正解かもしれないぜ?」
「そんな危険なの、ネットで販売しちゃうわけ?」
急に由加が、泣きそうな表情になった。
「私は効果があったから、別にいいんだけど、頑張ろうとした美里ちゃんがかわいそう」
「そうよね〜。痩せた太ったってのは、女の子にとって一大事なんだもの」
桜夜は顎に右手を添え、少し考えた。
「販売店の住所判ってるし、お店に行ってみましょ」
「……」
ニッコリ微笑む桜夜の横で、なにげに一歩身を引き加減の隼がいた。
■act.4
秋葉原の一角にある、細い階段を上ったところにあるその販売店は、通販先の占い専門部の店だった。
3人で受付の所で用件を話したところ、奥の部屋に通された。
そこは、古今東西のあやしげーな占いグッズが並んでいて、いかにも占い部屋という感じ。
「このイヤリング、デザイン私が考えたんですよ」
で、そこの主任だという長い髪のおねぇさまが、あっさりとイヤリングについて話し出した。
「これでも占星術をやりましてね、それに基づいてパワーストーンの配置をしたりしてみたんです」
相手が占星術なら、こっちは日本古来からの陰陽師。
専門分野に遡ってでも抗議すると決めていた桜夜、
「でもこれ、負のパワーをものすごーく吸いやすいんじゃないですか?」
と取り敢えずジャブ。
「そうですか?」
おねぇさまは笑顔を崩さない。
「でも、パワーストーンは人間が本来備えている力を引き出すお手伝いをする物ですし……」
「でも、負のエネルギーは結構簡単に寄ってくるものでしてね……」
と、二人は笑顔の鉄仮面のまま、あとの二人をそのまま置き去りに、なにげに専門的な話に突入して行ってしまった。
そしてそのまま、喧々囂々と2時間以上、相手と笑顔でやり合った桜夜は、
「今後は作用の事も考ええてさせていただきます」
とおねぇさまに言わせ、HPでの説明をもっと詳しくすることと、由加と美里が支払った金額は全額返還する事まで勝ち取った。
勿論由加に、感謝されたのは言うまでもない。
「まったく、あのお姉さん頑固だったわね。こういうダイエットに関することは、もうちょっと気を使え〜ってのよっ」
部屋に戻った桜夜は、まだ興奮さめやらぬ様子だ。
その目の前には、行列の出来る店のチョコレートケーキが鎮座している。
由加がお礼にと、買ってくれたのだ。
「……あんまり喰うと太るぞ、桜夜」
と指摘する隼に、桜夜は
「今日はイイのよっ」
とウインク。
その後口にした一口のとろけるようなおいしさに、桜夜はもう、満足一杯の笑顔を浮かべていた。
おしまい。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0444/朧月・桜夜/女/16歳/陰陽師】
【0072/瀬水月・隼/男/15歳/
高校生(陰でデジタルジャンク屋)】
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■ ライター通信 ■
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ども、へっぽこライター、小杉 由宇です。
今回も参加いただきまして、本当にありがとうございました!
少々、私事でどたばたしておりましたので、前回より時間が
掛かってのお届けになってしまいました。
申し訳けございません。
さて今回はまるで、別の商品のようにお二人でのシナリオと
なっておりますです(笑)。
個人的には少人数の方が得意ではあるので、ものすごく楽し
く書かせていただきましたが>まて(汗)
いつも仲良い桜夜さんと隼君を目指して書いたつもりではお
りますが、いかがでしょうか?
これからも仲良いお二人の活躍、楽しみにしております。
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それでは最期になりましたが、感想や苦情や文句等々、お伝
えいただけると嬉しいです。
それではまた、お会いする機会がありますことを!
小杉 由宇@黄砂は嫌い 拝
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