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<東京怪談・PCゲームノベル>


剣客の下宿3 管理人さんにお礼を

◆風野時音の場合
庭で、天空剣の修行をしている風野時音。特殊能力は己に宿る『神格』を覚醒させ、其れを剣に付与することで、「万物と気(精神)を斬る」事を極意としている。今まで使っていた退魔剣神陰流と光刃を捨てる事を決意したのだ。
修行といっても、延々と木刀を素振りするという単純なモノだった。振れれば分解もしくは斬る光刃と違うので、体にしっかり『物体を斬る』型を覚える必要があるのだ。そのあと、延々と続く瞑想による気のコントロールである。
8時間もその修行を終えた彼は疲弊しきっていた。
「ま…まさか此処まで辛いモノとは」
「そういうものだ。君の運動能力は超人並みだろうが、神格を覚醒される為には苦痛の日々になる」
剣客エルハンドは笑いながら言った。
「常に鍛錬をしないと、力は落ちるし、『神格』を扱えない。だから私は常に稽古をしている訳だ」
「そうなのですか」
「実際、『神格覚醒』は光刃と同じ要領なのだが、今の状態だと君の場合光刃が先に出てしまう。其れを体から忘れさせなければならない」
彼は一振りの日本刀を渡す。
「さて、試斬と実戦といくか」
「はい」
これがほぼ毎日、〈あやかし荘〉もしくは道場で続く風景だった。

「エルハンドさんが管理人さんにプレゼント?」
管理人室で嬉璃から聞いて時音は吃驚する。
「剣客、なかなか渋いことを考えておる。ただ、どう言った物を渡すのが良いのか分からないようぢゃ」
ニタリと笑って煎餅をとった。
「私も恩がありますからね、手伝いますよ」
時音は直ぐにエルハンドの元に向かった。
「真面目ぢゃの〜」
煎餅を食べながら嬉璃はのんびりしていた。
時音はエルハンドの部屋をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
時音は中にはいると、剣客は一刀彫で何かを彫っているようだ。
「なに、一寸した余暇だよ、小鳥を彫っている。」
「そうですか」
これを恵美にあげるのだろうか?と考えた時音だった。部屋に、木を彫る音がこだまするだけ。
何となくだが剣客に声がかけづらかったが、時音はエルハンドにプレゼントの話を聞いたことを伝えた。
「嬉璃から聞いたのか?」
「ええ、僕も何か手伝いさせて下さい」
エルハンドは作業を止めて、机に彫刻刀と木材を置いた。木屑を小魔法で山にしてからゴミ箱に捨てた。
「其れは助かる。ありがとう」
「そのお礼は、ちゃんと管理人さんに渡せてからですよ」
「おっと、其れもそうだな。で、何か案があるかな?」
「え〜っと…」
しばし考える時音。彼は考えると過去に時間旅行の一片を思い出す事がある。今回…良い音色のオルゴールを思い出した。
「オルゴールなんかどうでしょう?」
「オルゴールか…いいな」
時音の案にエルハンドは微笑んだ。
「しかし、手作りで」
「ほうほう」
「魔法や神の力を使わず、自力で作るのは良いかもしれませんよ」
「そうだよな。君が言っていることは良いことだ」
時音は、彼の笑顔をみて、自分が役に立てるという事が嬉しかった。


次の日、道場で稽古を軽くすませた後に歌姫と途中の公園で落ち合う時音と剣客。
材料を買うためと、歌について詳しい歌姫がオルゴールの機械部分を選んでくれる事になった。
3人とも和装に身を包んでいるので、全く違和感がない。どこかに祭りに行く感じにも見えるのだが。歌姫は子供のように喜んで小走りに先を急ぐ感じだった。
「あまり先行くと、迷子かこけちゃうよ」
時音は歌姫に笑いながら言ったら、彼女は笑いながら「大丈夫」という笑みを返す。
平穏である。しかし、時音はその先で思いがけないことに遭う事を予期していた。
歌姫が、オルゴールの機械部分見本で音色を調べ、ジェスチャーで、この音楽は良いよと剣客に教える。時音はその間に、箱になる木材を買って戻ってきた。
(決着がまだ残っていた…)
木材をエルハンドに渡すと、時音は師と恋人をみる。
首をかしげる歌姫だが、剣客は頷いた。
「決別のために、私が教えた『神格』を覚醒してくるが良い。私は彼女を〈あやかし荘〉まで連れて帰る」
エルハンドの答えは救いだった。一礼してその場から立ち去る。
「戦い、勝って、己の運命を切り開け」
剣客はそうひとりごちた。

公園…
そこに、惨劇が待っていた。
幼なじみにして今は敵である蒼乃歩…彼女はすでに破壊者となった退魔剣士の所持する光刃の危機にさらされていたのだ。
「歩!」
「ばか…おそいんだよ…人間になんか」
「しっかりしろ、其れはお前だって同じじゃないか…」
彼女の後ろには、彼女が必死に守ろうとする二人の人間…三下と柚葉がいたのだ。
まだ、人を信じてくれている事が時音には嬉しかった。本当なら憎しみで彼らさえも殺すはずだった彼女が…。
光刃の能力で、徐々に体が崩れていく歩…。治す術は神陰流の時間逆流と同じ効果しかない。が…そこまでの能力は時音にはなかった。
「きたか…風野時音!」
「式顎…」
時音は歩を抱きしめて顎を睨む。顎は、二人の会話を傍観するかのように待っていた。虚空のような目で…。
「お前はにげろ…三下さん達を連れて」
歩は時音に訴えた
「馬鹿なことが言えるか!同じ跳躍者に「距離」はない。式にしたって同じだ。それに…」
「それに?」
「お前が…人を守ろうとすることが嬉しかった。敵のまえに本当にキミは僕の幼なじみだ…」
時音が涙した。歩は其れを頬に受け止め、
「バカ…。だから破滅的お人好しなんだよ、お前は…」
涙を流す歩。
「退魔剣は使わず…アイツを倒す」
「え?アレしか持って無いじゃない!」
歩は時音の言葉を聞いて驚きの声を上げる。
「…三下さん」
「は、はい」
「歩を頼みます。それに危険なのでこの場所から最低5kmは離れて下さい」
「わ、分かりました」
重傷の能力者を担いだ三下は、柚葉と一緒にその場から離れた。
「決着だ…破壊者、式」

途中で、三下達はエルハンドと歌姫にばったりあった。エルハンドは彼らの状況を見て気付く。
「時音君を助けて下さい。そしてこの人も」
三下は剣客に懇願する。おぶっている歩…どんどん塵になっていく。
「時音は心配ない。先に彼女と君たちの手当が必要だ。近くに君の仕事場があるだろそこを借りるぞ」
皆は急いで月刊アトラス編集部まで走っていった。

顎の光刃を紙一重でかわしていく時音。また、剣客に習った精神盾を生み出し防御に集中した。
「なぜ光刃をつかわぬ!」
「光刃は捨てた! 今の幸せのために、明日への未来のために!」
「そんな夢物語が存在するか!」
「存在する!未来は…未来は変わるんだ!」
剣を入れているバックで、光刃を受け止める。そしてぼろぼろになったバックから日本刀が現れた。
「これでお前を倒す」
日本刀を腰にさして抜刀する。正眼の構えで間合いを取っていく。
「おろかめ!神陰流を極め、破壊することがお前の望みだったはずだ」
「其れは違う。貴様のように破壊者にはならない!」
「言ったな!今此処でお前を亡き者にしてくれる!」
顎は時空跳躍し、時音の懐に入った。
「!」
「終わりだ」
破壊者の光刃が…空を切った。しかし、そこには時音の姿がない。
「跳躍したか?…!」
彼の頬に赤い一筋の線が浮かび上がり…そこから血がにじみ出る。
「馬鹿な…っ!」
振り向いた先には…時空跳躍で移動した時音がいた。彼の周りには青白いオーラを纏っていた。
「すー…神格覚醒…」
そう時音が呟いた瞬間…。己に存在した『神格』が顎を襲う。破壊者は光刃で、その気を受け止めるが、光刃から伝わる精神干渉で、苦しみに表情を歪ませる。
「隙有り」
すでに時音は顎の間合いまで届いていた。峰打ちで彼の右手を折った。
「ぐぁああああ!」
骨はくだけ光刃が薄れ出す。
そして、刃の向きを変え、その刀に『神格』を込める。刀は、神々しい光を放つ。
「なんだ!その剣は!退魔剣ではない!退魔剣以上に強い剣があるというのか!?」
式は見たこともない時音の能力に恐怖した。
「終わりだ、式。そして最後の訃時の思念!」
時音は、「力」を込めて式を…彼の心の中にいる【訃時】を切り裂いた。
沈黙が訪れる。
式顎は動かない。時音は納刀しようとするが、刀は『神格』の力に耐えきれず粉々にくだけた。
「これが天空剣…すごい力だ…」
その力を出しても、体の疲労、精神疲労が光刃を振るうよりほとんど無かった。
「式?」
式は、光刃を持つことなくその場で立ったまま、気を失っている。生きている事は分かった。
退魔剣固有の剣気すら感じられない。
そして、足下に、漆黒の宝石が転がっていた。
「これが…エルハンドさんが言っていた封印石…?」
天空剣は、すべての命を殺める剣であるが、神の力をもって危険な存在を封印する剣でもある。
また、式も時音と同じように悲しい過去がある。時音は無意識に…彼に救うために退魔剣の呪縛を解いたのだ。訃時の思念と共に。
「克服したのかな…僕…」
時音はひとりごちた。

時音は、エルハンドの術で呼び出され、急いで空間跳躍(退魔剣とは関係がない)でその場に向かった。
エルハンドの時間魔法「時間治癒」により歩は一命を取り留めた。「光刃で切り裂かれた時間を巻き戻した」ということである。
涙ながらに喜ぶ柚葉達にとまどいを隠せない歩を見て時音は笑った。
「な…何がおかしいんだよ」
「人間もまんざらでもないとおもってるだろ?」
「ま…」
否定しようとする歩だが…目の前の「友達」の姿をみて言うのを止めた。
「こ…今回は手足引きちぎって、お前を…連れて帰るのは止めるわ。助けてもらったし」
赤面しながら歩は言った
「ありがと」
そのまま彼女は跳躍して消えた。
「素直じゃないようだ」
エルハンドがそう言うと、その場にいた碇編集長や仕事場にいる人々が笑った。

〈あやかし荘〉に戻った剣客は、三日三晩部屋に閉じこもっていた。
木を彫る音だけ聞こえる。
気になる人が覗こうとするが、鍵が掛かっており尚かつ結界が張られており近づけない。
時音も彼が如何に真剣に作っているかが分かった。
4日目には何も聞こえない。
恵美が心配してやってくるが、時音が「疲れているからそっとしてあげましょう」とたしなめる。
5日目…。エルハンドは、管理人室にやってきた。
「大丈夫ですか?」
恵美が心配そうに訊ねる。
「ええ、大丈夫です。それと感謝の気持ちを込めてこれを貴女に差し上げます」
綺麗なレリーフが彫られたオルゴールの箱だった。
「あ、ありがとうございます」
開けると、ぽろろん、ぽろろん、と良い音色が〈あやかし荘〉に響き渡る。
「大事しますね。エルハンドさん」
何故か、恵美の目から涙が溢れている。
「あ、あれ?どうして」
笑いながら恵美は言った。
「…お気に召して光栄です。では、失礼します」
一礼してからきびすを返し、剣客は立ち去った。
部屋の前に時音がいる。
「見ていたか?」
「あのオルゴールは『ゴンドラの歌』ですね」
「気がついたか。あれは歌姫嬢御用達だぞ」
「ははは」
「彼女の想いがちゃんと相手に遂げられればいい。さて…早速稽古だ。行くぞ、時音」
「はい」
二人は稽古道具を用意して道場に向かった。

End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【0970 / 式・顎 / 男 / 58 / 未来世界の破壊者】
【1355 / 蒼乃・歩 / 女 / 16 / 未来世界異能者戦闘部隊班長】

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■         ライター通信          ■
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どうも滝照です。
剣客の下宿3に参加して頂きありがとうございます。
またこんどお会いしましょう。
短い通信ですみません。

滝照直樹拝