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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


雛人形の怪


------<オープニング>--------------------------------------


『雛人形が夜中に踊って歌っているんです。怖いので調べてください。』
 おかしな投書があったのは、3月も半ばを過ぎた頃だった。碇麗香はそれを不思議そうに眺める。
「どうしてまだ雛人形なんて飾っているのかしら? 押入れの中からでも出てくるの?」
「旧暦なんじゃないですか?」
「どういうこと?」
「七夕が旧暦だと8月7日とか。その流れで4月3日がひな祭りにしてたり。地方によっていろいろあるんですよ。」
「詳しいのね。」
 碇はちらっと記者の一人を見上げた。どうして男の彼のほうが詳しいのだろうかと少し考えてしまう。
「編集長はどうなんですか? 今年は雛人形飾ったりしました?」
「あんなもの何年も押入れの中から出てきてないわ。」
「……そうですか。」
 言うんじゃなかったという顔つきで、彼はそそくさとその場を逃げ出そうとした。
「ちょうどいいわ。これ、調査してきてちょうだい。」
 がしっと背広の端を掴んで逃げれないようにする。
「え〜、さ、三下さんに……。」
「彼は今いないでしょ。頼んだわよ。」
「は、はい……。」


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「雛人形が歌って踊る……?」
 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと)から電話口で話を聞いた王・鈴花(うぉん・りんふぁ)は首を傾げた。フロウライトは同居している小説家の従兄から雛人形の話を聞いたらしい。
「雛人形が歌って踊って夜毎に宴会ってのは、楽しそうな話だけど、当事者にしたら、楽しいじゃ済まない話だよね。」
「うん。そうね。雛人形さん、どうしたのかな? 普通のお人形さんは歌ったりしないし……。お人形さん、何か言いたいことがあるのかな? 何か困ってるなら、鈴花聞いてあげたいの。……お兄ちゃん一緒に行ってくれる?」
 鈴花はフロウライトを兄のように慕っているため、お兄ちゃんと呼んでいる。鈴花の優しい気持ちはフロウライトにも伝染した。
「鈴花が行ってみたいならいいよ、一緒に行って彼らと話してみよう。誰に対しても理解しようと努力する、鈴花は本当に優しいね。」
 電話の向こうからフロウライトの微笑んでいる声が聞こえてくる。フロウライトという味方がつくだけで、鈴花は何よりも勇気付けられた。
「投書を下さった方に許可を戴いて、雛人形さんに逢わせて貰わないと……。」
「そうだね、その雛人形の持ち主に許可を頂かないといけないね。じゃあ、麗香さんに連絡先聞いてその連絡は僕がしておくよ。」
「お願いね。」
 フロウライトにその作業は任せることにして、鈴花は電話を切った。
「突然行って、雛人形さんにお話を聞くのは失礼だよね。まずはお友達にならなくちゃ。手作りのお茶菓子と紅茶を持って行って……。」
 人見知りな鈴花は果たして上手く雛人形と仲良くなれるのかどきどきしながら、どんなお菓子を作っていこうかと悩んだ。



 碇女史に指令された記者は運悪く、その後風邪を引いて寝込んでしまった。仕方なく三下忠雄の元へ話が回ってきたときに、偶然、風野・時音(かぜの・ときね)が傍にいた。その内容を聞いて、ふむふむと頷く。
「へえ、雛人形が歌って踊ってるんだ……。別に人形が銃器を持って大暴れをしてるわけでもないし、霊障あったわけでないんだね。」
「そうみたいですね。世羅さんが王さんを連れて見に行くみたいですよ。」
「三下さんは?」
「僕は違う仕事が入ってるんですぅ。」
 三下は涙ながらに時音に訴えかける。がしっと服の端を掴まれてしまったので逃げられない。
「えーと……代わりに俺に行って来いということ、かな?」
「お願いしますぅぅぅ〜。」
「見返りは? ……と言いたいところだけど、まあいっかな。面白そうだし。」
「ありがとうございます!!」
 飛び上がらんばかりに喜んでいる三下をそのままに、時音は恋人であるあやかし荘の住人、歌姫に挨拶して出かけていった。
 その情報を聞きつけたのは蒼乃・歩(あおの・あゆみ)である。
「時音が雛人形の征伐に行く?! これはチャンスだ!!」
 かつては時音の味方であった彼女は今や彼とは敵同士の間柄になっていた。前回の一件のドタバタで、時音と歌姫が恋人同士であることを知ってショックを受けた歩だが、それでも尚且つ時音を捕獲することを諦める気はなかった。
 時音の剣技には短命の呪いがかかっている。説得が無理ということを知った以上は、覚悟を決めて両手両足を引き裂いてお持ち帰りしなければならない。
「ふふふ。いいことを聞いたぞ。時音、覚悟してろよ!」
 爪を研いで待っていることにしよう。
 歩は舌なめずりをしながら、指を鳴らした。



 フロウライトと鈴花は時音と合流して、雛人形の持ち主の家へとやってきていた。投書したのはまだ小さい女の子だった。母親は今ちょうど出かけていていないらしい。
「ここです。」
 びくびくと少女は2人を雛人形が飾ってある場所へと案内してくれる。なかなか立派な5段の雛人形が置いてあり、現在では普通の人形にしか見えなかった。
 それでも鈴花は礼儀正しく正座して頭を下げる。
「……雛人形さん、初めまして。あたし、王鈴花です。」
「俺は風野・時音。よろしく!」
「世羅・フロウライトです。」
 礼儀正しく挨拶してみたが、人形は動かない。
「歌って踊っているらしいですけど、何してるんですか?」
 時音は無駄そうだなと思いながらそう問い掛けてみた。結果は黙殺である。
「あの、一緒にお茶会しませんか?」
 鈴花がごそごそと鞄の中から作ってきたお茶菓子を取り出す。
「お茶会の準備を手伝うよ。」
 フロウライトは少女に頼んでお湯を沸かしてもらった。そうこうしている間に、母親のほうが帰ってきたので、彼女にお茶を淹れてもらうことにする。
 フロウライトはその間、その母親に自分の疑問を聞いてみた。
「あの、どうして旧暦を使って雛祭りをするんですか?」
「あら、まあ。なあに? 雛人形が動くのが珍しいのかしら?」
 母親はころころと笑った。思っても見ない返事に、フロウライトは目を丸くする。
「え?」
「どこのおうちでも雛人形は夜中になると遊んでいるものよ。旧暦にしているせいで、花見だと騒いでいるから少々目立つだけでしょうけど。この子が怖がってるのかしらね。仲良くしなさいと言ってるのに。」
「はぁ……。」
 この家は、雛人形が動いていても別に怖いとは思っていないらしい。それ以上に、他の家でも動いているという。不思議な家だと思った。家系的に霊感が強いのかもしれない。
「花見をしたいだけか。鈴花の提案に乗ってくれるかもな。」
 人数分のお茶をお盆に乗せ、フロウライトは元の部屋に戻った。少女も母親に言い包められて、一緒についてくる。
「ただいま、鈴花。お茶だよ。」
「ありがとう。お兄ちゃんもお茶菓子、どうぞ。」
「うん、遠慮なく頂くよ。……鈴花はお菓子を作るのがどんどん上手になっていくね。」
 微笑みあう鈴花とフロウライトを放って、時音は雛人形をじっと見ている。
「やっぱり夜じゃないと動かないのかな?」
「そうかもね。」
「じゃあ、もう少し待ってみます?」
 鈴花の至極最もな提案に、全員が従うことにした。



 他愛のない話で盛り上がりながら、とうとう夜になった。渚と名乗った少女が悲鳴を押し殺したことによって、雛人形たちが動き出したことに気付いた。
「うわー、本当に動いてるよ。」
 時音は自分の目が一瞬信じられず、呆然と呟いた。
 雛人形たちが立ち上がり、わらわらとひな壇から降りてくる。渚はすっかり硬直してしまっていた。
「……雛人形さん、初めまして。あたし、王鈴花です。一緒にお茶会しませんか?」
 鈴花は慌てず騒がず、丁寧に挨拶する。用意していたお茶を淹れ、作ってきたお菓子を差し出した。
「礼儀正しいお嬢さん、こんばんは。お茶会とはいいですねえ。」
「私たちも花見をしようと思っているのです。一緒にやりましょう。」
「どうぞどうぞ。たいしたものはありませんが。」
 雛人形たちが次々と喋りだし、置かれていたひなあられなどを引っ張ってくる。
「渚お嬢さんもいるよ。」
 目ざとく見つけられた渚は時音の後ろに逃げ込んだ。雛人形たちは気にする素振りは見せない。
「楽しく騒ぎましょう。」
 甘酒を器に分けて、雛人形たちがそれを飲んで踊りだす。鈴花やフロウライトの周りを取り囲んで、鈴花の作ってきたお菓子を食べたりしていた。
 ある程度仲良くなったかな、と感じて、鈴花は詳しく話を聞いてみた。
「ええと……雛人形さんたちは花見をして歌って踊ってるの?」
「そうです。一年の大半を押入れに閉じ込められているので、これが唯一の楽しみなのです。」
「でも、ここのお家の方、怖がってるみたいだから、騒ぐならお家の方の許可を貰った方が良いと思うな。お兄ちゃんもそう思うよね?」
 フロウライトに小首を傾げて問いかけながら、ちらりと怯えている渚を見やる。
「これは失礼。彼女の母君にはちゃんと了承を得ているのですが、渚お嬢さんは我々に慣れないのです
よ。」
「どうでしょう。我々と楽しむことを教えてあげてくれませんか。」
「だって。渚ちゃんも一緒に遊んでみれば?」
 時音が背後に隠れている渚を振り返る。ぎょっとしたまま、勢いよく首を横に振る。
「やっぱり、我々とは仲良くなれないのですね……。」
 よよよ、と雛人形たちが泣き崩れる。
「……可哀相。ねえ、ちょっとでいいから遊んであげて?」
 自分とあまり年齢の代わらない渚に、鈴花は頼み込む。どちらも涙ぐんでいるので、フロウライトは2人の頭をよしよしと撫でてあげた。
「……少しなら。」
 譲歩した渚は、恐る恐る雛人形たちに近付く。雛人形たちは喜んで、どっと集まってくる。そんなことをするから余計に渚が怯えるのだろうと時音は思ったが、雛人形たちが本当に嬉しそうなので黙っていた。
「渚お嬢さんはいくつにおなりになりました?」
「初めはもっともっと小さかったのに。」
「いつの間にやらこんなに大きく。」
「お花も綺麗です。春ですねえ。」
 はしゃぐ雛人形たちに、フロウライトはそっと触れた。まだ赤ん坊だった頃の渚の姿が見える。この雛人形たちは本当に優しい気持ちしか持っていない。ただ純粋に歌って踊っているだけなのだろう。渚が気に入ってくれたら、それで丸く収まりそうだ。



 和やかに話がまとまりそうになった頃、突然の乱入者が来襲した。時空跳躍によって、この空間に現れる。
「ふふふ。今日こそ逃がさないよ、時音。」
「あ、歩! 何でこんなところに?!」
「覚悟しろ!」
 歩が凶器持ちの戦闘型プラモデルを数機周囲に並べて、部屋の中に突撃してくる。プラモデルたちも小さい身体であるのに、なかなかに危険な武器を持っていた。
 発射してきたミサイルにぶつかって、雛人形が悲鳴を上げて転がった。それを見た渚が雛人形たちの前に立ちはだかった。
「こら! お雛様を苛めると渚が許さないんだから!」
「渚さん!」
 フロウライトに庇われた鈴花が叫ぶ。
「危ない!」
 時音が渚を抱えてその場から背後に跳躍した。
 プラモデルたちは逃げ回る雛人形を追いかけ回して、一ヶ所に集めることに成功していた。
「安心して。あなたたちを時音から守ってあげるから!」
「え?!」
 歩の思惑に時音は呆気にとられてしまう。
「守ると言うよりは、人質に取ってるとしか見えませんけど。」
 フロウライトが冷静に自分の見解を述べた。
「何を言うか。これは守護部隊だぞ。お前たちに変なことを吹き込まれる前に保護しなければならないんだ。」
 歩は念動矢を使ってプラモデルたちを操っている。
 時音はさっと光刃を抜いた。あっちがその気なら、遠慮する必要もない。
「お雛様を傷つけないでね?」
 渚が時音の袖を引っ張ってそう頼んでくるのに、強く頷き返した。
 今回の相手は複数だ。時音は切り札を使うことにした。
 歩の攻撃を避けながら、時空の壁を光刃で巧みに切っていく。
「なんだ。覇気がないぞ、時音!」
 攻撃が当たらないことにいらついて、歩が叫ぶ。時音はそれを無視した。歩自身は後で時音と一騎打ちをすればいい。まずは、渚のために、雛人形の安全を確保しなければならなかった。
 光刃で切り裂かれた時空の壁が、蜘蛛の巣の様にプラモデルたちの動きを封じる。
「早く、雛人形を逃がして!」
「はい!」
 渚が果敢にも、プラモデルたちの合間を縫って雛人形の元へ駆け寄った。鈴花とフロウライトもそれに続く。両手に3、4体抱えて、安全な場所へと避難する。
 プラモデルたちが動かなくなってしまったことに、歩は舌打ちをした。こうなったら、と身構えると、時音もその不穏な雰囲気を感じ取って構える。
 すると、わらわらと雛人形たちが2人を取り囲むように寄ってくる。
「え?」
 時音と歩は呆然と周囲を見回す。
「ありがとうございます。」
「わざわざ渚お嬢さんと仲良く出来るような出来事まで作ってくださって。」
「……え?」
「これから仲良くすごしていきますので、また来年も遊びに来てくださいね。」
 雛人形たちは、時音と歩の戦闘をただのイベントの一環だと思っているらしい。拍子抜けした歩は戦闘意欲をことごとく削がれた。
「ちっ、今日のところはこいつらに免じて許してやる。でも、次は覚えてろよ!」
 歩は最後に一言を残して、時空跳躍をして去っていった。



 取り残された時音は、きょとんとしてしまった。プラモデルたちは念動矢を外され、ただのおもちゃへと戻っている。
「大事にならなくて本当によかったです。」
 戦闘が恐ろしかった鈴花はほっと胸を撫で下ろした。安心すると自然と涙が出てきてしまう。
「よしよし、大丈夫だからね?」
 フロウライトが泣きじゃくる鈴花を慰める。
「ごめん、みんな。変なことに巻き込んじゃって。」
 時音は一応謝った。渚はぺたんと座り込んで呆然としていた。
「よかった……お雛様、苛められないでよかった。」
「うん。仲良くしてあげてね。」
「大丈夫。もう怖くないから。」
 渚はにっこり笑って、雛人形たちを眺めやった。



 *END*


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1219 / 風野・時音(かぜの・ときね) / 男 / 17歳 / 時空跳躍者】
【1355 / 蒼乃・歩(あおの・あゆみ) / 女 / 16歳 / 未来世界異能者戦闘部隊班長】
【0142 / 王・鈴花(うぉん・りんふぁ) / 女 / 9歳 / 小学生(留学生)。たまに占い師】
【0140 / 世羅・フロウライト(せら・ふろうらいと) / 男 / 14歳 / 留学生】

(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
雛人形との戦闘はありませんでした。ただ、遊んでいただけですしね。
渚ちゃんと仲良くなりましたので、めでたしめでたしです。
如何でしたでしょうか。満足して頂けたら幸いです。
それでは、また機会があったらお目にかかりましょう。