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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


甘味処異常戦線

●〜序:1〜 スイートな神父様♪
「麗香さんッ♪」
 呼ばれて碇・麗香は振り返った。そして、次の瞬間溜息を吐く。彼が現れたのは、三時のおやつとコーヒーを入れるため、給湯室の前に来た時だった。
「あ……もう、おやつの時間ですもんね。今日は斜前の『シャルロット・ア・オランジュ』ですか? それとも、『ローズティームース』? あ〜判った、『タルトタタン』でしょう?」
「何の用なの、ユリウス?」
 一気にまくしたてつつ、碇が開けようとした冷蔵庫から視線を外さない青年に向かって麗香は言った。まったく、この人の甘いものに対する勘はやたらと鋭い。彼の云った通り、今日の麗香のおやつは『ラ・ターブル渋谷のタルトタタン』だ。
「何の用はないじゃないですかぁvv」
 新米用の僧衣を纏った青年は笑う。視線は常に冷蔵庫を見たままだ。
「今日は何のおやつなんですか〜☆」
「タルトタタン……大正解だけど、当たったからってあげないわよッ!」
「ケチ……」
 ユリウス・アレッサンドロ枢機卿はいじいじと、指で壁をぐりぐりし始める。これで教皇庁きっての公認凄腕エクソシストとは思えない。
「これはお客さんのよ」
「お客さん?」
「例の調査員たちよ。今日はその中に女の子が居るの。それでケーキ用意してあげたんだから、貴方の分は無いの!」
「そんなあ〜(泣)」
 ユリウスを無視し、手早く支度を整える。トレーを出し、ケーキを乗せてゆく。その仕草を……いや、乗せていかれるケーキをユリウスは見ていた。
 トレーを持つと麗香は給湯室から出た。後ろから付いてくる青年枢機卿を視界から追い出し、編集部に向かって歩く。
「ねぇ、麗香さぁ〜ん」
「五月蝿い!……で何の用?」
 編集部のドアを開けながら麗香は云う。開けずらそうにしているのをユリウスはサッと開けてやった。
「あら、有難う……でも、あげないわよ」
 さっさと麗香は歩いてゆく。ユリウスは無言で従った。

「甘味処選手権?」
「そうなんですよ・・・・・・協賛はアトラス編集部でしょ?色々と試食できそうで・・・じゃなかった、独りで東京見学も何ですし、同行してもらいたいんですけどねえ」
 にこにことユリウスは笑う。甘いものが好きなのは先程のやり取りの通りだが、この機会に乗じてというのは聖職者のすることであろうか。
 碇麗香はじっと見つめる。
 ユリウスはうっとりとした表情で目の前のデザートをつつきまわしていた。
 それは、あまりにも「おやつ、おやつ!」と騒いだので、麗香は近所のカフェバーから『バナナ春巻きのココナッツアイスのせ』を頼んでやったのだ。おまけにトッピングも付けろと五月蝿い。しかたなく好物のチョコソースとシナモンも付けた。
 ユリウスの目尻は下がり、口元は締りがなくなっていた。
 東京見物って云ったって、自分の近所の洋菓子店は全部知ってるじゃないのよ!…と、麗香は思っていたが黙る。
「それってお祭りですか?よく分かりませんけれど、甘味がたくさん食べられるというのは素敵ですね」
 天慶・真姫は嬉しそうに云う。
「そうでしょう? そうでしょうッ!?」
 唾を飛ばしてユリウスは力説する。
「甘いものは皆さんを幸せな気分にしてくださいます。知ってますか?笑顔にも、『音』があるんですよ」
「ふんふん……」
「心臓がどきんと鳴って、頬の筋肉が緩む音がして…。そう、例えるなら…「にこっ」という『音』なんです。私、その『音』を聴くのが、とても好きなんですよ」
 盲目のため、真姫はユリウスの顔はわからないが、先程からユリウスの『にこっ』と云う音を何度も聞いていた。
「何度もやめろって言ってんのに、どうしてお前は勝手に抜け出すんだよ、真姫!自分がどういう立場にいるか分かってんのか?」
 隣で一部始終を眺めていた天慶・律が口を挟む。
「でも……なかなか家から出していただけないんですもの」
「確かに屋敷の外には滅多に出してもらえないけど、それはお前の安全の為であってだなぁ…」
「身の安全が確保されたら、外に出てもいいのでしょうかね?」
「え……あぁ……」
 不意にユリウスに云われ、律は驚いた。
 ふむと頷くと麗香にユリウスは云う。
「いいそうですよvv」
「わぁ♪……律兄さまありがとう」
 妹の期待に胸膨らませる表情(かお)を見ると、ダメだとは云えなくなった。自分がしっかり守ってれば、妹は外の世界もたくさんのお菓子も楽しむことができる。
 今までたくさん我慢してきたのだから、ちょっとは楽しんでもいいだろう。
「いやぁ、これで万事解決だな。実は俺、天慶の家は過保護すぎだって、前から思ってたんだ……あ〜、これ内緒な」
「はいっ♪」
 明るい笑顔に律は晴れがましい気持ちになった。
「料理大会もあるんですよね?」
「え?」
 うふふvv…とか、くふふ♪とか、気味の悪い忍び笑いの表情からすると、どうやら料理大会の審判員がやりたかったらしい。実際、プロの部では有名菓子店が数多く出場する。それが目当てだということが解り過ぎて、麗香は何か嫌な気分になった。
「わかったわよ……確か審査員が一人足りないはずだから、出てくださるなら審査員のほうは何とかします」
「本当ですか?」
 ウキウキと手揉みしながらいう。
「お願いします!一緒に行きましょうよvvきっと楽しいですよ」
 そこにはデザート漁りの誘いを必死でする枢機卿がいた。

●〜序:2〜 黒い猫の暗躍(スイートダンス)♪
「ぬぁあああああああんですってぇえええええええ〜〜〜ッ!!」
 『甘味処選手権』の大会プログラムを握り締め、雪ノ下・ノエルは叫んだ。
 バリバリと窓が揺れ、ティーカップがカチカチと鳴る。大音波に耐え切れず、カップが一つ二つと割れた。
 叫びは店の外にも聞こえ、喫茶店「黒い猫」の周囲20メ―トルに居た人々は皆振り返る。お客が引けてからだったのが幸いと云えば幸いだろう。
「母さん……突然どうしたんだよ」
「何でもないわッ!」
 どう見ても、何も無いようには見えないのになぁ……と、愛息子は思ったが黙っていた。見た目だけは若く、本当は110歳という喫茶店のマスターこと彼の母親は相当ご機嫌斜めだった。
「し……審査員が……ユリウス・アレッサンドロ枢機卿!?」
 ぷるぷると手が震える。
 苦々しい自分たち魔女の過去が脳裏を駆け巡った。暗黒に身を売った魔女ならいざ知らず、何にも悪いことをしなかった魔女まで追った奴らの一人が自分の出場する大会の審査員とあっては黙っているわけにはいかない。
 一方、母の聖職者嫌いが発動したのを息子はそ知らぬフリしてやり過ごす。
「本当、ムカつくわ……ん?……そぉねぇ〜」
 考えてみればチャンスと思えなくも無い。
「いいこと思いついたわ……」
 ニタリと笑うとノエルは護符と蝋燭を取り出す。店のカーテンを閉め、ドアのフックに『CLOSE』の札を掛け、鍵を閉めた。
 生贄の鶏は無いので、仕方なく冷蔵庫の鶏肉を使う。まな板の上に鶏肉を置き、護符を貼ると蝋燭に帆を灯して呪文を唱える。
 白い霧が辺りに立ち込めると、それはゆっくりと形を成した。
「出(いで)よ、悪魔の僕にして、魔女の使い。下級悪魔インプよ!来て、我に手を貸し、かの枢機卿を貶めるのだ!」
 ノエルの声に呼応し、インプが現れる。ノエルはインプを引っ掴むとまな板の上に押し付けた。無造作に包丁を振り下ろし……
「あたしたち、魔女の怒りを文字通〜り、喰らうがいいわ!」
 と、のたまいインプを念入りに八つ裂きにする。
 ノエルはインプの血を瓶に集めて蓋をした。一見するとインプの血は抹茶色をしている。これを混ぜてユリウスに食べさせれば、その身は呪われ、神父として生活することが困難になってくるはずだ。
「を〜〜〜ほほほvv 見てらっしゃい、ユリウス・アレッサンドロ枢機卿! 堕落の道を一直線に進むがいいわ!………………あぁーッ!」
 割れたカップを発見し、ノエルが叫ぶ。
「お気に入りのカップがぁ! きぃいいいいい〜〜〜〜ッ!! もう、許さないわっ!」
「それ、母さんが……」
「黙りなさい!……この仕返しは、大会でさせていただくわよ……ほほほ♪」
「だからぁ……」
 それは違うと何度も云う息子の声を無視し、ノエルは『楽しい』大会の準備を始めるのだった。

●街角天国
「しっかし、よくもまぁ集まってくるもんだ」
 律はあたりを見回した。
 大通りを封鎖して露天の店が並ぶ。全国中のありとあらゆるお菓子や洋菓子の名店が簡易テーブルなどを使って俄仕立ての店を開いていた。巡回するパトカーのスピーカーからは「本日、大変込み合っております。5万人の方々が……」とアナウンスが流れていた。
「傾国を連れてこなくって正解だったかな」
 律は行き交う人の群れを眺めながら呟く。傾国とは律が使役する式神の名だ。
「ねーねー、そこのお嬢さ〜ん」
 呼ばれて真姫は振り返った。
「なんですの?」
「俺たちと遊ばない? いい所知ってるんだよ♪」
「まあ、そうなんですか?」
「だからァvv……」
 そっと真姫の腰に腕を回そうとした男の腕を律はすかさず掴んだ。
「な……何?」
「真姫に触わるな!」
「お?……君も可愛いねvv 一緒にお茶でも……」
 云われて律は硬直した。握り締めた拳が震える。
「俺は……男だァ!!」
 こんな事が、天慶兄妹の行く先々で起きた。待ち合わせ先までこれが続くと思うと、律は切なげな溜息を漏らさずにはいられなかった。
 しかし、ユリウスと合流したところで安心できるわけでもないのだが。

「わぁ〜〜……凄いですねぇ……」
 数え切れないケーキに見とれて、ユリウスはぼーっとなっていた。そして、いきなり大きな声を上げる。
「あッ!」
「え? 何だよ神父さん」
「シュバルツベルダークランツが!……あれ、さくらんぼを洋酒で煮てあって美味しいんですよぅ」
「またケーキかよ」
「あれを馬鹿にしちゃいけませんよ。ココアのスポンジがですねえ……」
「へーへー、わかりましたよ」
 ふらふらとあっちこっちに歩き回るユリウスに呆れて律は云う。先程から、お菓子を見てはこれは何処の何だの、これはクリームが絶品だのと騒いでいた。
 今はフランクフルタークランツを試食しようか、さくらんぼケーキにしようかと考え込んでいる。10分かかって、両方食べることに決めると、三人分貰って真姫を呼んだ。
「真姫さぁ〜んvv」
「はい、何でしょう神父様」
「ここのケーキは国産小麦粉で作っていて美味しいですよ。いかがですか?」
「私もいただきます」
 ユリウスは紙皿に乗せたケーキを渡す。
 街路樹の下に置かれたベンチに座って、行き交う人を三人は眺めた。麗らかな春の陽射しが眩しい。露天のアイスティーを飲みながらの日向ぼっこは皆を幸せな気分にしてくれた。
「これも何かの縁ですかねえ……ケーキ友達っていうのかな?」
「そうですねvv」
「いやあvv いい友達が出来てよかったですよ♪ だけど、人ごみの中で疲れませんか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ。雑踏は『音』が多すぎると聞いておりましたので、少し不安でしたけど……これも社会勉強のうちですものね」
 にこにこと笑って真姫は応えた。
「真姫さんは立派ですね」
「そ……そんな」
 ユリウスに誉められ、真姫は真っ赤になる。
 祭りに乗じたナンパヤローから真姫を守るつもりでいた律は意外な所に敵となりそうな人物を認めた。ジト〜ッという目で見る。
「審査のほうはいいのかよ……時間じゃねぇの?」
「あぁッ!……いけない、急がないと間に合わなくなっちゃいます! すみませんが、私はここで……」
「待ち合わせるのはどうですか?」
「そうですね……終わったらあのデパートの前で落ち合いましょう」
 ユリウスは斜め前の建物を指差した。
「はい」
「では、いってきますねvv」
 ユリウスは意気揚揚と会場へ向かっていった。

●ブラックデザート来襲
「第18回甘味処選手権〜!」
 多分、テレビ局のアナウンサーだか、お笑いタレントであろう人物がマイク片手に叫ぶと、観客の「おぉ〜ッ!」というどよめきがあたりを満たす。それに気分を良くした司会者はまくし立てるように喋り始めた。
 待っているのにもさすがに飽きた天慶兄妹は、ユリウスの審査する大会を見学することにした。
「お……いたいた。判るか、真姫?」
「えぇ、神父様の『にこっ』っていう音が聞こえますもの」
 本当にこの人の音は太陽のような暖かい音がする。真姫は連発されるユリウスの『にこっ』という音を聞き、不意に笑い出した。
「どうしたんだ?」
「だ……だって……すごく嬉しそうな音なんですもの」
 といって、真姫は笑いはじめる。
「本当に楽しい人♪」
「まぁ……おかしな人だよな……」
 二人が話し込んでいる間に次の作品が発表された。
「次は喫茶店『黒い猫』の店長、雪ノ下ノエルさんの作品『魔女のクリーム餡蜜』です!」
 にこにこと笑ってノエルが登場した。クリーム餡蜜をトレーにのせて持ってくる。クリスタルの容器の中には、あの『インプの流血入り抹茶アイス』があった。
「ふふふ……♪」
 ノエルがニタッと笑う。ノエルの口元から『にゅ』と云う、筋肉が歪む奇妙な笑いが真姫には聞こえた。
「にゅぅ〜?」
「どうした、真姫」
 突然、奇妙な声を出した妹の顔を律は覗く。何か変なものでも食べたのだろうか? 不安になって、妹に声を掛けようと思った瞬間、真姫は律に囁いた。
「律兄さま、神父様が危ないです」
「え?」
「あれ、きっと何か変なものが入ってます! だってあの人の頬が『にゅ』って……んにゅーって歪んだ音がしましたもの!」
「それで、『にゅ』なのかぁ……」
「神父様ぁ!」
 真姫は大きな声を出したが、周囲がうるさ過ぎて届かない。律は苛々とあたりを見回すが、伝える術(すべ)が見つからない。これなら傾国を連れて来るべきであった。
「えぇい!……くそぉ!」
「どうしましょう……」
 うろうろする二人をよそに審査員たちの試食が始まった。
 ノエルの視線がユリウスに集中している。他の審査員たちは「シンプルながらに美味い」などと批評をしていたが、一向にユリウスは食べ始めない。
「食べませんの、神父様?」
 余裕たっぷりにノエルは言った。この一口がこ奴の最後になるかと思えば、大ッ嫌いな聖職者にでさえ丁寧な言葉が云える。

―― さぁ〜〜〜食べなさい。ここが地獄の一丁目よォッ!

「う〜〜ん……」
 口を尖らせてユリウスはノエルを見上げた。
「食べなきゃいけませんかねぇ〜?」
「ほほほッ!当然ですわぁvv」
「ん〜……」
「さあさあ♪」
「うーん」
「ほらほらvv」
「ふぅ……」
「ねぇねぇ♪」
「あ〜う〜……」
 こんなやり取りが暫く続いた。
「もしかしてあの神父さん、おかしいって気が付いてるのかぁ?」
「きっとそうですわ!」
 天慶兄妹は無邪気にも手に手を取って喜ぶ。
 食べ始めないユリウスを変に思った司会者は、マイクをユリウスに向けた。
「どうなさったんですか?」
「……いやぁ……私、餡子はあまり好きじゃなくって」
「はぁ??」

『『『『『『わははははは〜〜〜〜ッ!!』』』』』』

 間延びした司会者の声に会場は爆笑の渦と化した。
 餡子は嫌だ発言に真姫と律は仰け反る。
「アンタはアホかぁ〜〜〜〜〜!!」
「まぁ……神父様ったら」
 見ると、壇上のユリウスはノエルに申し訳なさそうに頭を下げていた。
「私、チョコとかぁ〜……クリームとかが大好きなんです。餡子のねっちょりした感じとかダメでして……それにぃ〜……」
「……そっ…それにッ?」
 激噴寸前のノエルの声は震えていた。
「大好きなクリームに餡子が混ざって、その上に黒蜜が乗っかってるのって信じられないんですよね〜☆」

―― し……信じられないですってッ!? そんなアンタの方が信じられないわよぉッ!!

「ムカつくぅ〜〜〜〜ッ!!」
 云うや否や、ノエルは箒を振りかざした。一体、何処から持ってきたのか。
「やっぱり聖職者なんて大ッ嫌いよぉッ!! 喰らえ〜〜☆」
「わぁ! 何するんですか〜!……痛い痛いッ!」
 べしべしっと箒でユリウスの頭を叩く。立ち上がって逃げるユリウスをノエルが追い駈け回す。背の高いユリウスを背の小さいノエルが追っ駆ける様は、さながらコントようだ。飛び跳ねては叩くノエルの動きに観客たちは口笛を吹いて囃す。
「おう、姉ちゃん頑張れや!」
「きぃ〜〜〜〜〜ッ! みんな、あなたのせいよ!」
「私、何もしてませんよぅ!」
「恥じかかせたわねッ」
「し……知りませんって!」
「問答無用!!」
「だ……誰か……」
 さすがにリーチがありすぎて抵抗できない。怪我でもさせてしまったら大変だ。そんなユリウスを見かねて、スタッフがノエルを捕まえた。
「何すんのよ!」
「君……失格ね」
「へ?」
「失格です!!」
「そんな……」
 スタッフは「はい、こっちね〜」と云って、ノエルを引っ張っていった。ユリウスはハンカチを取り出すと汗を拭く。やれやれと席に着き、コップのジュースを飲み干した。
 
●それぞれの夜〜その1〜
 結局、甘味処選手権はデパ地下の有名店「フルール・ド・パリス」に決まった。優秀作のアップルクランチパイが限定1000名に振舞われる。それは甘いプラリネがかかったものだ。天慶兄妹も行列に並ぶ。
 三人ははちきれんばかりにケーキを食べ、一日中遊び明かして別れた。
「また、遊びに行きましょうね……律兄さま♪」
「そうだなァ……でも、一人で出歩くなよ」
「でも……」
「俺が守ってやるからさ」
「はいっ☆」
 そう云うと真姫は律の腕に抱きついた。
 さらさらと桜が舞う散歩道を二人は歩く。薄い雲が月を覆った。灯された明かりのように白く輝く花並木の下を屋敷に向かって歩いていった。

●それぞれの夜〜その2〜
「くぅううううううやぁああああああしぃいいいいいいいいっ!」
 だんだんとテーブルを叩きながらノエルは叫んだ。
「もぉいいじゃん……」
 あまりの悔しがりように息子は肩を竦める。
「くぅ……今度こそは食べさせてやるわよ!! 見てらっしゃい!」
 キッチンに向かうと、ノエルは冷蔵庫から鶏肉を取り出した。サイドテーブルの引き出しから護符も出す。
「これからが本番よ! を〜〜〜〜〜〜ほほほッ☆」
 ノエルは包丁を振りかざすと。鶏肉に…ダンッ!!…と、突き刺した


●優雅なり難し、猊下の朝

 夜が白々と明ける頃合い。
 それは暗雲を引き連れてやってきた。
 我が身の未来を知らず、若き枢機卿は惰眠を貪る。

「……か…猊下……」
「あん…こ……いやで……ちょこそぉ……」
 ふと腕が上がり、『それ』は、いかにも甘甘な夢を堪能するユリウスをベッドから叩き出した。
「猊下ッ!!」
「……リ…アさん……?」
 眠たげな目を擦り擦り、ユリウスは起き上がった。
「これはなんですかッ!」
「……はァ〜?」
「新聞ですよ!! 箒で追いかけられるとはどういうことですかッ! 恥ずかしい!!」
「あ〜〜〜〜……ごめんなさいぃ〜〜〜……」
 ぺこりと頭を下げた。
「げぇええええええええいぃいいいいいいかぁああああああッ!!」
 炸裂鉄甲弾を装着した銃でその人は狙いを定めた。
「わあ!ごめんなさいぃ(泣)」
「許しません!!」

 そして、ドタバタという騒がしい足音が近所中に響き渡っていった……

 ■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1379/ 天慶・真姫  / 女 / 16 /天慶家当主
   (Mahime・Tengyou)

1380/ 天慶・律   / 男 / 18 /高校生 兼 天慶家当主護衛役
(Ritsu・Tengyou)

0589/ 雪ノ下・ノエル/ 女 / 110 /喫茶店マスター兼魔物退治屋
(Noel・Yukinosita)

                   (五十音順)


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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、朧月幻尉です。
 今回は当作品に参加いただきありがとうございました。
 「優雅なり〜」は…まあ、おまけといいましょうか…締めといいましょうか(^^;)
 本編のほう、ノエルさんの聖職者嫌いが発動なさったそうなので……こうなったら闘いかなと(笑)
 二度目のご参加ありがとうございます!
 真姫さんはとても可愛らしい方なので、ユリウス猊下とお話するシーンはほのぼのしていて楽しく書かせていただきました。
 楽しんでいただけましたら幸いです。

 ご感想・ご意見・苦情等お申し付けくださいませ。
 では、またお会いできますことを願って……

             朧月幻尉 拝