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<東京怪談ノベル(シングル)>


■カードマイスター狂想曲■

●RUN☆RUN・・・乱!?

「参りました」
「やったぁ♪」
 対戦相手はペコリと頭を下げた。あたしも慌てて頭を下げる。

 あ〜っと・・・あたし、月見里・千里。天下無敵の女子高校生だよ〜ん☆
 今日は池袋で行われてるASTCGの大会に参加中なの。
 友達たちは「普通、女の子がカードゲームしたりしないでしょ!」って呆れるけど、そんなことないよ。ここの会社のゲームが美味しいって分かったら皆もハマると思う。だって、「キャラ」も「フレーバーテキスト」も「技の名前」も変えられて(料金高いけど)、イラストレーターも選べるんだモン!! おいしいじゃない?

―― ふ〜ふふふ♪・・・・・・今日のために、特訓したんだもんね〜vv

 あたしは『チの国の女王ララエ・ビィラ』のヴィジョンカードを撫でる。あと一回勝てば上位入賞出来た。そうしたら、景品が手に入る。
 なんと、今回の景品は「カード発注プレゼント券」! あああああああああああ!! 欲しいよォ〜(泣)
 だから、今回は是が非でも勝つの。・・・違う! 今回『も』勝つの! 今朝、崖から落ちる夢を見ちゃったけど、きっと大丈夫。災い変じて福となす筈。
 あたしは固く拳を握り締める。

「次は誰かな?」
 周囲を見回した。対戦相手が誰かって、やっぱり気になるよね?
 丁度、係員(店員さん)が名前をわたわたとトーナメント表に書いていく。今日は人手が少ないみたい。
「え〜っと・・・あたしはぁ〜☆」
 目を凝らして、トーナメント表を見た。
「・・・・・・いっ!?」
 そして、目を疑った。
 当店名物腐女子の味方にして、かのドリームナビゲーターがッ! 店員なのに!! 仕事してないし、参加してるっ!
「どーして、アンタが参加してるのよォ」
 つい、叫んじゃった。
「五月蝿いわねぇ!」
 ふいに云われ、その声に振り返ると本人が立っていた。
「ジャリに『アンタ』呼ばわりされたか〜ないわよ。今日は休みなのよッ!」
 人手が足りない訳だ。ただでさえ、店員人数が少ないのに、メイド服着て高笑いってどーゆーこと?
「チャッキチャキやんないと終わらないでしょ! さっさと勝って、私はカードを発注するのよ!」
「ずる〜い!」
「ここまで来たのは実力! 文句があるなら、私に勝つことね・・・・・・を〜ほほほほほッ!」
「見てなさい!」
 あたしは手加減しないことを心に・・・もとい、マイスター魂に誓った。

●魔の格闘カード

 大会レギュレーションはクロス戦1デュエルマッチ・ガンスリンガー戦。あたしは相手のキャラクターカードを見た。

―― うぅ・・・・・・グラファリトかあ。ヤダなぁ〜(泣)

 こっちのカードは魔法3・格闘0で、スタミナは55.対して、グラは魔法1・格闘3のスタミナ60。
 あたしの手持ちカードは『修理、気まぐれの風、ブランネージ、ゴーレムチャリオット、尊き素材の眠る地、ゴーレム工房、価値あるガラクタ、バシリスクの瞳(以上各4枚)月桂樹の冠、翼を持つものの扇(以上各3枚)熟考、グラシュテ、ルトゥール(以上各2枚)腐食粉、粉砕の矢、瞑想の指輪、玄武のお守り、魔封じの護符、古文書(以上各1枚)、過去見の水晶球×4、底なし沼×1』サイドボードは無し。
 向こうのデッキ構築にもよるけど、かなり痛い相手。
 おまけにこっちはウッドゴーレムが無い。飛ばれたら死んじゃう(泣)しかも、グラは風属性。飛ぶ可能性は大アリだぁ。賭けデッキにしたのがいけなかったんだけどね。
 取りあえず、さっきゴーレム工房を場に出して、過去見の水晶球もあるから大丈夫なはず。と、思いたいな☆
 このターンで、素材を二枚とブランネージを出す。
「ブランネージ!」
「を〜ほほほッ!」
 これで大丈夫。思った傍から、相手の高笑いが思考を遮った。
「くっくっく・・・・・・お嬢ちゃんvv世間の風は冷たいわよォッ」
 ニタ〜リと眼鏡の奥で不穏な感情の色が踊る。
「何よぅ!嫌な笑いね!!」
「お黙んなさい・・・取りあえず、『シュワルツハーケン!』、一騎打ち!」
「むかつくぅ〜(怒)」
「行くわよ、コンボ叩き込んであげるわッ! レイブレード! エクストラブレ〜ド!・・・ほら、12点よ。そっちどうぞ」
「むぅ・・・粉砕の矢で玄武のお守りを破壊。ゴーレムから6点」
 ちょと考えても、一杯考えても、手はない。仕方なく、このターンは終わらすことにした。相手は喰らったダメージをスタミナからダメージ置き場へ移動する。
「こっちは終わり。どうぞ」
 冷静に云ってはみるものの、カードのほうは心許ない。向こうもスタミナがなくなってはきてるけど、こちらも元々5枚カードが少ない。勝敗は2〜3ターンでついちゃう。

ー― ギリギリだよう・・・嗚呼、スペシャルカード発注券が遠くなっちゃう(泣)

「ドロー、エクストラドロー・・・・・・」
 彼女が慣れた手つきでカードを二枚取った。その手が、不意に止まる。
「いいの?」
「へ?」
「では・・・」
 おもむろにカードを纏めると、また広げる。そして、手札から一枚を取った。
「クリティカル、真空斬! 10点」
「クッ!まだまだ・・・・・・ドロー、エクストラドロー。バジ目で2ドロー」
「後は?」
「無いですよ〜だ☆」
 こんな感じでターンが終わっていく。その後、ゴーレム壊されてから、なかなかカードが出揃わない。ここは焦って判断を狂わさないように注意するしかなかった。

―― うぅっ、ヤバイよ……ブランネージが来ないぃ〜〜〜ッ(泣)

「じゃ、こっちの番ね」
 エクストラカードまで取って、彼女は不吉な笑いを浮かべた。
「時は私に味方したわ!」
「なッ!・・・まさか!!」
「を〜っほっほ! では、ジャ〜ンプ、真空斬、ヘビーブレード! 15点よ、受け止められてッ!?……あら。そう云えば、貴女飛んでないじゃない」
「えぇ、飛んでませんとも!」
 あたしは手持ちカードをばら撒けた。
「ほ〜〜〜〜ほほほッ!じゃあ、30点ね……どお?」
「い……生きてません」
「当然ね」
「くーやーしーいぃ〜〜〜〜〜ッ!!」
 一ヶ月間の特訓の苦労が水の泡。しかし、負けは負け……なんて割り切れるほど諦め良く引き下がれない。
「次は負けないんだから!」
「あら、そォ? 受けてたってあげられるほどヒマじゃないんだけど……まあいいわ。店に来れば相手してあげるわよ」
「学校終わったら行くから待ってなさいよ!」
 あたしはビシィッ!と指差した。

 大会が終わって、打ち上げに参加するでもなく、あたしは家路に着く。ビニールバックの中のカードがずっしりと重い。打ち込まれたコンボの仕返しをゴーレムでもって必ず返すと心に誓い、今日もレシピ作りに励む。

 明日の小テストがなによ!
 内申書がなんだって〜のよ!!
 今日は勉強なんかするもんですか。当然よ。
 えぇ、絶対負けないんだからッ!
 戦え、あたし! たとえティエラが無くなっても、あたしのヴィジョンは永遠不滅!!

「馬ッ鹿野郎〜〜〜〜っ!!」

 明るい月夜にあたしの叫びが木霊した。

  ■END■