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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


春は人を変える

碇編集長の手帳をまんべんなく調べる冬野蛍。
写真と地図をみて…にこやかに笑う。
「愛のキューピット♪」
写真に写っていたのは、〈あやかし荘〉で無様に倒れている三下と和装して立っている1人の男だった。
男はピンぼけで詳しく分からないがどこかで見たようなシルエットである。
「まさか三下さんが好きだったとはねー意外、意外」
と地図を頼りに目的地を辿っていくが…どうも〈あやかし荘〉ではないようだ。
思えば…どこかの角を間違えたのか自分が迷子になったようだ。
「迷っちゃった〜。えーん」

一方、碇は自分が手帳を無くしたことに気付き、慌てて編集部に戻る。
「私の手帳知らない?」
碇らしくない焦った口調である。
「いえ、知りませんが…」
「たしか…蛍ちゃんがもっていったような」
「…」
「どうしました?」
「いえ、なにも」
踵を返し彼女は蛍を捜しに向かった。
「アレを見られたら…恥ずかしい…」
赤面している碇は足早に歩いていく。

「ふえ〜疲れたよう〜」
半泣きで鳥居の土台に座って溜息をつく蛍。道をなんとかみつけゴールらしき神社にたどり着く。
「なんとか此処だと思う…ケド。三下さんと編集長にどういうつながりが?」
さすがになんかおかしいと思う蛍。
仮に三下が彼女を助けたとして彼女自身が彼を見間違えるはずはない。それに三下なら絶対分かり易い反応をしめす。それに三下は妖怪に好かれているから人間を好きになることはないだろうと勝手に決めつけてみる。
碇が勘違いでも彼に助けられたというならば其れは其れで、事は丸く収まるかもしれない。しかし彼女の性格からして…三下に明日がないと考えると同情したくなる。
危機を察知して人を危機から回避させる仕事の自分が、人を不幸にするのはもってのほかだと考えを改め直そうとするが…無理なようだ。どうしても三下しかつながりがない。
それにこの写真は誰が撮ったのかさえ分からない。写真の印象という物はそれ故恐ろしい。
仮に草間に頼んだとすれば、かなりやっかいになるので秘密裏に草間が1人で動くし、極秘義務という探偵のルールがある。
神社と三下をつなげるには今の場合、怪奇現象しか考えられないが…アトラスの雑誌傾向からして、それはごく当たり前だ。
「どうしたらいいのよう!」
頭をひねって、本当に三下が助けたのかということを裏付けるには不足している。いや絶対にあり得ないそう答えが出たのだ。しかし、手がかりは、今いる場所…。
「また子供が遊んでいるのか?」
聞き覚えのある声がした。
「あ!エル兄様!」
「…その声は…またお節介しているのか?」
男は溜息をつく
「声って、あー!目、どうしたの?」
蛍は驚きを隠せなかった。男…エルハンドは目を包帯で巻いているからだ。
「なに、数日前戦いで暫く目が見えなくなっただけだ。しかし、大丈夫。他にも物を見る方法は幾らでもある」
「神様も怪我するんだ」
「相手が…ならな…」
エルハンドの言葉を聞き損ね、首をかしげる蛍。
「何でもない。で、何のようだ?おちびちゃん」

碇は神社に向かう。するといきなり電柱に隠れた。
男と蛍がなにやら会話しているからだ。そして蛍は碇の手帳を持っている。
「あの子〜」
碇は冷や汗をかいていた。其れと同時に胸が高鳴る。一緒にいる男をみて…。
銀髪に、前髪で右目を隠している男。目に包帯を巻き、視覚がなくても位置がつかめているほどに不自由なく動く様…。
「…これじゃ、私ストーカーよね…」
溜息をつく碇。これでは自分のイメージやポリシーが崩れる。
「仕事が恋人と思っていたけどまさか…ね」
と呟いて踵をかえし立ち去った。

「ん?」
エルハンドはある気配に気がついたのかよその方を見る。
「どうしたの?兄様」
「何でもない」
「なにかある」
「うるさい」
不機嫌そうにエルハンドは答えた。
「話の続きだよ」
蛍は事のあらましをエルハンドに言った。碇が何者かに助けられてから、一目惚れした事を。
話を言うたびに、三下ではなく写真のピンぼけした男がエルハンドであることが分かってきた。
頷くだけのエルハンド。
「ちゃんと聞いているの?」
「聞いている」
「うそだ〜!」
蛍が抗議する。
「うるさいな、一つの感覚が使えない分、他の感覚が鋭敏になっているから怒鳴るな」
エルハンドは耳をふさいで訴える。
「うー」
「確かに、女性を救ったことはある…。そのときからそいつに目をやられていたから確認は聴覚と嗅覚…そして【気】だな」
「【気】?」
「男女でも遺伝子が異なるように【気】も異なると言うことだ」
「ふみゅ???」
「簡単に言ったら、鋭敏になればどんな物でも分かるそれだけだ。ただ、詳しくは知らないし何処の誰かは分からない」
「ふーん。どうしようかなぁ」
エルハンドの前でにやりと笑う蛍
「まさか…その碇という女性と私をくっつけるというのか?」
「うん」
その答えで、エルハンドは苦い顔をした。
「それだけは勘弁してくれ。仕事にも差し支える」

それでもするのが蛍という少女。お節介好きなのだ。
迷惑この上ないと思われても、やっぱりそうしたい。
「さてと…」
夜中、ブツブツと呪文をとなえ、アトラス編集部と碇の家、〈あやかし荘〉、神社につなぐ道の数十カ所にトラップを作った。
「ばっちり!」
明日が待ち遠しい気分の蛍。
問題はエルハンドがこのトラップを見破って解除されることだろう。
其れさえなければ、キューピッド計画は成功したのも同然だ。
「『道の角で頭ごっつんこ一目惚れ作戦』実行開始!」

碇は、朝起きると外がなにやら騒がしい事に気付く。
窓を開けると…ホラー映画さながらに鳥達が窓や壁にぶち当たりに来ているではないか!
「な!なによこれ!」
このままでは、家が壊れる
急いでドアを開けダッシュでにげる碇、鳥たちは彼女を追いかける。
途中の道では何故か羊の群れが横断して彼女の行く手を阻んだ。
「どうして此処に羊がいるのよ!きゃー」
鳥たちが襲ってくる。
そのまま羊の群れをかいくぐっていくと、今度は突進してくるネギを担いだ鴨たちをみて碇はずっこける。
鴨は鳴きながら、彼女を踏みつけていった。
「朝からいったい何なの?」

いっぽう〈あやかし荘〉の剣客エルハンドは、動物たちから身を守る術をもって平然と歩いていく。行き場のない動物たちが同行している三下に襲いかかっていくことを「感じ」とることで同情してしまう。
しかし目が見えないため、彼にしっかり術を施してあげることは出来ない。
「た、たすけてくださいぃ〜」
「助けてやりたいのは山々だが…あ…」
「うわぁあああ」
三下はそのまま羊の群れに連れ去られていった…
「…」
さすがの半神であるエルハンドも沈黙せざるを得ない…。
「やっぱり…あの蛍…私と彼女をくっつける気だな」
偏頭痛で悩む剣客だった。

運命の角でわくわくと見守る蛍。
しかし其れは、悲しくも失敗に終わることを背後の気でわかった。
「エル兄様怒ってる?」
「一応な」
「ふえーん」
「お前のやりたい事は分かったから…後は私が片を付ける」
蛍の頭をなでて答える剣客。
「この目は、俺と同じ正当神格保持者にやられたのだ」
「え?」
「さすがに同じ力の「神格」で戦うと傷を回復するのに手間が掛かる。相手は邪神だったので私が封印ししたが、戦いの傷で目を痛めたということだ」
青く光る宝石を見せる。神を封印した証だ。
「では?」
「そしてこの角で、碇女史が現れたと仮定するならば、相手は彼女に取り憑いて私の攻撃を防ごうとする。その瞬間を彼女が意識朦朧の中で見たのだろう…」
「どうするの?」
おずおずと蛍は剣客に訊ねた。
「もし、彼女が告白するというなら断る」
「ひどいよう」
泣いて抗議する蛍。
「神と人間が結ばれても何の得にもならない。只それだけだ」
包帯を取り外した剣客はゆっくりと目を開ける。久々に見た光だった。
「ふー」
溜息をついて彼は碇の所に向かっていった。
「エル兄様…」
蛍も指を鳴らしてからエルハンドを追いかけていった。

動物たちの襲来が収まったあとの碇はぼろぼろだった。鞄を犬に盗られる。猫たちが彼女に噛みついてくる。地面から蛙が合唱してくる等々…。
「わ…私に恨みあるのかしら?」
肩でいきをしながら、呟いた。
「大丈夫ですか?」
ふと男の声がした。
「あ!」
目の前に、前に自分の命を助けてくれた人が現れたことで碇は吃驚した。
心臓のドキドキが止まらない。
「ど、どうも…おはようございます。」
「緊張しなくても良いですよ」
ぎこちない彼女に男は、微笑みながら傷の手当てをしてくれた。
「あ…ありがとう。そして、先日はどうも命を助けて頂いて…」
「気にすることはない…。あのときは逆に迷惑をかけてしまったこちらが悪いのですから」
「と、とんでもないです」
首を振る碇。
「少し休んだ方が良いでしょう」
男は、彼女の手を引いて公園のベンチに座らせた。
草葉の陰(?)で見守る蛍。
そして、色々話していると、碇はお辞儀して泣きながら走っていった。
「酷い」
蛍は泣きながらその場にたたずむ男を睨み続けた。

「どうして?」
蛍はタコヤキを食べながら、エルハンドに抗議する。
「さっきも言ったように、不幸になるだけだし…それに常に俺には想い人がいる」
「過去にすがってるの?」
「いや。その女性も神格保持者。不死性を持っているので問題はない。今は事情で私の世界にいないだけだ…」
「ふーん」
「百年に一度逢えれば其れでいいのだ…」
「気の長い話ね」
「でもその時間なんて一瞬なものさ…」
「わかんないや」
蛍はそうつぶやいた。

数日後、何かを忘れたように碇は仕事に没頭した。理由は聞くまでもないだろう。
しかし、休日か余暇があるとエルハンドがいる剣道場にやってくるのである。
「友達なら良いよね?」
「…はぁ、好きにして下さい」
「それに貴方といると面白いネタを掴めるし♪」
「結局それか!しかしだな…」
エルハンドは真の目的を知って項垂れる。
「三下にもう少し優しくしてみろよ。彼の人生は同情せざるをえん…」
「考えておくわ」
剣客は溜息をつく。見物している蛍はクスクス笑った。

転んでも只では起きない彼女だった。
彼女らしいと言えば其れまでだが。

End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0276/冬野・蛍/女/12/死神?】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『春は人を変える』に参加して頂きありがとうございます。
近頃NPCにエルハンドばかり出てくるので少し趣向を変えてみようとかんがえてます。
では、機会があれば宜しくお願いします。

滝照直樹拝