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調査コードネーム:ナチスの財宝
執筆ライター :水上雪乃
調査組織名 :界境線『札幌』
募集予定人数 :1人〜3人
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小さな一つのひびから、堤防が決壊することがある。
それは、そのまま人間社会にも敷衍できるだろう。
蟻の一穴。
そのような呼ばれ方もする。
この場合、たった一人の女性の亡命が、日本政府にとっての切り札になるはずであった。
エカチェリーナ・ソーンチェワ。
愛称はカチューシャ。
彼女のもたらした情報によって、ロシア魔術師たちの組織の全容とその目的がはっきりと見えてきたからである。
「やっぱり北海道を狙ってるのね」
新山綾が嘆息する。
デスクの上には投げ出した報告書。
彼らの正体は白ロシア。
ロシア革命の際に滅ぼされれたとされる、怪僧ラスプーチンの一派。
歴史の表舞台から姿を消した彼らは、ふたたび主演の座を狙っている。
すなわち、北海道を支配下に置くことで。
「そして北朝鮮と手を結んで一大帝国を築く、か。壮大な野望だこと」
美人だが希少価値を主張するほどではない顔に、嘲笑のような波動がざわめく。
時代錯誤も甚だしい。
怪僧だの魔術師だのが歴史を主導する時代は、とうの昔に終わったのだ。
何の特殊技能も持たぬ一般人が知恵を出し合い、試行錯誤を重ねて歴史を築く。
一人の天才が五分で考えたことより、千人の凡人が一〇年がかりで考えたことの方がずっと勝る。
そのような道を、人類は選択したはずなのに。
「歴史を逆行させるつもりなの?」
と、呟きに応えるように、電話が鳴る。
『少し後手に回ったようだ』
男の声がいきなり告げた。
「どういうこと? サトル」
『もう北朝鮮とは、なにがしかの密約を交わしたらしい』
「また動いたのね?」
『ああ。武装商船三隻を借りたらしい、積丹沖に向かった』
「ウニでも密漁するつもりなのかしら?」
『だったら平和なんだがな。連中、サルベージ船を連れてるぞ』
「サルベージ‥‥?」
『どうやら、ナチスドイツの財宝を引き揚げるつもりらしいな』
いきなり眉唾くさい話である。
「金かしら? プラチナかしら?」
綾の声に毒気が籠もったのは、ある意味当然だろう。
『もっとすごい財宝さ。世界を変えるほどの、な』
「なにそれ?」
『ウラン。量にして四トンと言われている』
冷静きわまるサトルの声。
背中を氷塊が滑り落ちるのを、綾は感じた。
それは、核と呼ばれる禁断の兵器の材料となるものだったから。
※「北の魔術師シリーズ」です。
※バトルシナリオです。推理の要素はありません。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日と木曜日にアップされます。
受付開始は午後8時からです。
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ナチスの財宝
一九四三の初頭。
大日本帝国陸軍航空本部は、ときの首相、東条英機の特命を受け原子爆弾の製造に着手する。
この研究を推進したのが仁科芳雄博士である。
ところが、原子爆弾の材料となるウランは、日本には存在しない。
そこで航空本部は、盟邦たるナチスドイツにウランの供給を要請することになる。
それに応じて同年の夏、ノルウェーのナルビク港からUボートが出航した。
この頃、ノルウェーはドイツに占領されていたのだ。
どうしてわざわざヨーロッパの北の果てであるナルビクから出港したかというと、一応、事情がある。
南大西洋やインド洋は、すでに連合軍に制海権を握られており、たかだか潜水艦一隻で航行するのは危険度が高すぎたからだ。
南が駄目なら北。
ごく単純な理由である。
かくして、そのUボートは北極海を横断し、秋にはベーリング海峡を越えた。
なかなか苦難に満ちた旅程だったらしい。
そして日本まで後一歩のところで、ソビエトの駆逐艦に捕捉されてしまう。
Uボートの目的は輸送であって戦闘ではない。
彼らは逃げに逃げ、日本海に入る。
どうやら東京までは逃げ切れないと悟って、小樽か函館の港に入港するつもりだったらしい。
ところが、本当に目と鼻の先、積丹沖で撃沈されてしまうのだ。
四トンものウランは、人々の手の届かない海底へと消えた。
結局、日本での原子爆弾製造は間に合わず、アメリカに先に使われることとなる。
それは、使った側も使われた側も鼻白むほどの、圧倒的な破壊力だった。
以来、核兵器は禁忌とされるのだが‥‥。
「禁断の果実をもぎ取ろうってわけか。あいつらは」
イージス護衛艦「むらさめ」の艦上、潮風に黒髪をなびかせながら巫灰慈が呟いた。
目的地まで、あと三時間ほどの航海である。
「むらさめ」が母港としている室蘭からは、渡島半島を大回りして津軽海峡を越えなくては日本海に出られないのだ。
「やっぱり漁船かなにか小樽で調達した方が良かったんじゃないですか? 時間の節約にもなりますし」
控えめに疑問を呈するのは、白里焔寿だ。
茶色い髪と緑の瞳をもつ女子高生である。
「たしかに時間は節約できますが、漁船では攻撃を受けたとき、ひとたまりもありませんよ」
とは、草壁さくらの言葉だ。
白ロシアの残党にしても北朝鮮にしても、民間船だからといって攻撃を躊躇うとは思えない。
漁船などでは、良い的にされるだけだ。
こちらも武装していなくては、抑止力にもなりはしない。
「海保から巡視艇を借りるって手もあったんだけどねぇ」
新山綾が苦笑を浮かべた。
大げさに戦闘用艦艇を動かさなくとも、武装商船三隻ていどなら巡視船でも対応できよう。
だが、結局、海上保安庁は首を盾に振らなかった。
「ケチなのか?」
浄化屋が訊ねる。
綾があでやかに笑った。
「ケチっのだったら笑い事で済むし、苦情の一つもいうんだけどね」
実際問題として、海上保安庁に余力がないのだ。
ことに北海道方面の第一管区は、先の邪神との戦いで一〇隻近い巡視船を失っている。
とてもではないが、内閣調査室と協同作戦をとる余裕はない。
それに、綾のコネクションという方向から考えても、海上保安庁より陸上自衛隊の方が協力を要請しやすかった。
「でも、なんで陸上自衛隊が護衛艦を持ってるんですか?」
当然の疑問を発する焔寿。
「前の戦いで海自の信用が失墜したんでね。護衛艦二隻は陸自の北部方面の管理下に置かることになったのさ」
事実を四捨五入しながら巫が説明する。
その横で、綾がなんだか不機嫌そうにたたずんでいた。
紅い瞳の浄化屋と緑の瞳のシャーマンが、仲良さそうだからであろう。
「ここんとこ、ハイジが連れてくる助っ人って、若い女の子ばっかり‥‥」
内心でそんなことを考えていたのかもしれない。
ちょっと自分の年齢を意識してしまう大学助教授だった。
まあ、目前に控える急務に比較すると、かなりどうでも良いことではある。
少し離れたところで、さくらが穏やかに微笑していた。
ずっと年少の綾と巫の関係を微笑ましく思ったのだろう。
誰でも自分以外のことは良く判る、という古くさい警句がある。
金髪の美女だって、恋人の調停者のこととなると虚心ではいられない。
当事者とは、えてしてそういうものである。
微妙な雰囲気を漂わせる大人たちを、焔寿が困ったように眺めやっていた。
焔寿が一連の事件を知ったのは、巫を介してである。
つまり、ともに浄化に携わる家柄ゆえ、多少の交流があったのだ。
といっても、本人同士に直接の面識があるわけではない。
焔寿の実家にあたる静宮家は、古来から影働きに従事してきた家柄である。
これまで表舞台に立ったことはなく、おそらくこれからも立つことはないであろう。
その意味では、件のロシア魔術師たちと近いものがある。
違いは、静宮には檜舞台に昇ろうという野心がないということだ。
黙々とあるいは淡々と影働きに従事し続ける。
歴史に名を残す英雄たちの影となり、国を支える影柱として。
退嬰的、とも取ることはできるが、それ以上に彼らは知っていたのだ。
特殊能力を有するものが、脚光を浴びることは幾重にも危険である、と。
したがって、白ロシア魔術師たちのやり方を是認することはできない。
焔寿が巫の要請に応じたのも、そういう事情だ。
歴史には常に光と影がある。
無数の野心が沸騰し、無数の陰謀が火花を散らす。
勝者だけが歴史を刻み、敗者の涙は死屍のうえに流れる。
ある意味においては、勝ったものだけが正義だ。
ロシア革命のとき白ロシアは敗れた。歴史は彼らに背を向けた。
ナチスが滅びたように。帝政日本が消滅したように。
ふたたびそれを興そうとするのは、
「大いなる逆行、というべきでしょうね‥‥」
「いかがなさいました? 焔寿さま」
「あ‥‥いえ、べつに‥‥」
さくらに声をかけられたことで、焔寿の意識は現実の岸辺へと立ち戻った。
思考の海を散策するうち、どうやら思いの一部を口に出してしまったらしい。
「焔寿さまが思い屈しても、この際は無意味だと思います。差し出がましいようですが」
すべてを見透かす微笑を金髪の美女が浮かべる。
「‥‥すみません」
「謝るようなことではないですよ」
「はい‥‥」
なんとなく目を伏せる焔寿。
軽く頷いたさくらが、前方を見はるかした。
いまだ敵影は見えない。
彼女には今回の仕事に関して、一つの腹案があった。
それは、虚構と現実をひっくり返すほど壮大な作戦だったのだが、いくつかの理由で却下されている。
現状、内閣調査室の頭を悩ませていることは、ただ一点である。
それは、四トンものウランをどうするかということだ。
戦闘に関しては、まったく問題視されていない。
イージス護衛艦の戦闘力は、重巡洋艦にすらひけをとらないのだ。武装商船三隻など、ほとんど一瞬のうちに蹴散らすことができる。
問題は、いつ攻撃を仕掛けるか、というところであろう。
ウランの引き揚げそのものを妨害する形で仕掛けるか。それとも、引き揚げさせておいて奪取するか。
前者は比較的容易である。
このまま全速力で作業海域に突入し、敵を撃破するだけで良いのだから。
「だがよ。それだと今後何度も同じ事が起きねぇか?」
浄化屋が言う。
「そう。その通りよ」
綾が応える。
四トンのウラン。喉からどころか、胃からでも腸からでも手を出して欲しがる国などいくらでもある。
一度撃破されたくらいでロシア魔術師たちが諦めるとは限らないし、彼ら以外にもサルベージしようと考える連中が現れる可能性も否定できない。
手に入れることができれば、億兆単位の商品になるのだから。
「となると、奪いとっちまったほうが後腐れがねぇな」
腕を組む巫。
もちろん、言うは易し、ということは判っている。
奪い取るということは、一度は敵の手にウランを委ねるということだ。
もし作戦に失敗したとすれば、それは一時的な失策では済まない。
「サルベージ船が引き揚げた後、武装商船に積み替えるより前に仕掛けるしかないわね」
「だな」
綾の言葉に頷く。
武装商船は足が速く逃亡を許す可能性があるが、足の遅いサルベージ船なら拿捕は容易だ。
タイミングはシビアだが、おそらくこれがベストな方法だろう。
「最悪の場合には、沈めるしかないですけどね」
涼やかな顔で、辛辣なことをいう焔寿。
過激ではあるが、最後の手段はそれしかない。
逃亡を座視することだけは、絶対にできないのだから。
「レーダーに反応っ!! 総員第一級臨戦態勢を取れ!!」
艦橋から拡声器を通して響く三浦陸将補の声。
四人の特殊能力者の顔に、さっと緊張が走った。
白波を蹴立てて巨艦か奔る。
敵影は四。
うち一隻はサルベージ船だ。
「タイミングは、ほぼばっちりね」
戦闘艦橋に身を移した助教授が不敵に笑う。
前方では、三隻の武装商船が臨戦態勢をとりつつあった。
おそらくは、ウランをサルベージ船から積み替える作業を諦め、逃亡のための時間稼ぎをしようとしているのだろう。
「‥‥無駄ですね‥‥」
さくらの呟き。
ごく微量の憐憫が、声に含まれている。
武装商船と護衛艦では、そもそも戦闘能力的に比較にならない。
ロシア魔術師たちは、その名の通り魔術を用いてくるだろうが、残念ながらそれも意味がない。
護衛艦の艦砲の射程は一〇〇〇メートル以上。
ミサイルにいたっては、その一〇〇倍にも達する。
魔法だろうと妖術だろうと、対抗できるものではなかろう。
まして、武装商船の装備など機関銃と手持ちロケットランチャーくらいのものだ。
仮に直撃したとしても、さしたる損害も受けない。
最初から勝負の見えた戦いなのだ。
たとえるなら、巨象と猛犬、というところだろうか。
身体の大きさで決まってしまう。
小兵が巨漢を倒せば喝采を受けるが、これは、滅多にないからこそ目立つのだ。
もちろん武装商船の方でも、その程度のことは理解しているだろう。
我と我が身を犠牲の羊として、仲間を逃がそうというのだ。
「悲愴な覚悟ではあるが、な」
「でも、同情して負けてあげるってわけにはいかないですよ」
巫と焔寿の会話。
まったく、緑の瞳の少女の言うとおりだった。
内調には内調の、負けられぬ理由がある。
世界で唯一、核を使われた国として、あの禁断の兵器だけは許すわけにはいかない。
やがて、武装商船団からの攻撃が始まった。
乾いた音を立てて直撃する銃弾。
むろん「むらさめ」は小揺るぎもしない。
「撃て!!」
三浦の声と同時に、一斉に火砲が吠える。
ミサイルが宙を舞い、魚雷が海中を踊る。
思わずさくらが目を背けた。
わずか一分にもみたぬ時間で、三隻の武装商船が海の藻屑と消える。
爆光と炎を撒き散らしながら。
「‥‥一方的だな‥‥」
呟く浄化屋の声も苦い。
無益な戦闘は、同時に犬死でもある。
さっさと逃げ出してくれれば良かったのに。
口にだす事は許されぬ思いであった。
「急ぎましょう。サルベージ船に逃げられます」
感傷を振り切り、毅然として焔寿が前方を見据える。
サルベージ船までの相対距離は、およそ三〇〇メートル。
たしかにあまりのんびりしている余裕はない。
「最大戦速で突進して接舷しろっ!」
ふたたび三浦の指示が飛ぶ。
およそ三〇分の追走劇の後、「むらさめ」とサルベージ船は抱擁を交わした。
まるで憎しみ合う双子のように。
「いっくぜ!!」
先頭を切って、巫が甲板から飛び降りる。
落差は三メートルほどあるだろうか。普通、こんな高さから飛び降りたら良くて捻挫くらいするだろう。
抜きはなった貞秀をサルベージ船のクレーンに突き立て、落下速度を殺す。
ついでに、手首をひねり落下角度まで変えてしまう。
とんでもない技量と勝負勘だった。
銃弾と魔法が遅いくるなか、顔色一つ変えずにこの離れ技をやってのけたのだ。
一閃!
血飛沫をあげて倒れ込む魔術師。
「さーて。パーティーのはじまりだぜ。ちゃんとチケットは持ってきてるか」
笑う。
それは肉食獣の笑み。
血の饗宴の幕開き。
「焔寿さま。私たちも」
「はい」
やや遅れて、さくらと焔寿が移乗を開始する。
より正確に表現するなら、他の戦闘員が乗り移る隙を作るため、浄化屋は曲芸を披露したのだ。
そして野性的なハンサムが作ってくれた間隙を、さくらたちは逃すわけには、いかなかった。
タラップが降ろされ、駆けながらそれぞれの技を使う。
さくらの狐火。
焔寿の業火。
巧みに連携しながら、次々と敵を倒してゆく。
それでも、なるべく致命傷を与えないように気遣うのは、二人の優しさゆえなのだろう。
短いが激烈な戦闘の後、サルベージ船は自衛隊に占拠される。
魔術師たち死者は一〇名程度。重軽傷は二〇人ほどだった。
自衛隊側は、重傷者が一名でただけである。
ほぼ完勝といって良いだろう。
「あとは‥‥これを回収するだけですが‥‥」
船上に置かれた黒い箱を見つめるさくら。
「少し小さすぎませんか‥‥?」
焔寿も小首をかしげる。
目算するしかないが、とても四トンのウランが詰まっているようには見えない。
「二トンあるかないかとこじゃねぇか?」
貞秀の汚れを拭き取りながら、巫が言った。
この手の「伝説」は誇張されることが多い。
おそらくは伝わる過程で、量が二倍なってしまったのだろう。
それでも、かなりの量ではあるが。
「でも、ガイガーカウンターに反応ないのよねぇ」
いつの間にか近寄ってきた綾が、手に持った機材を覗きこんでいた。
「五〇年以上も前のものだぜ? ちっとは放射線が漏れててもふしぎじゃねぇと思うがなぁ」
「ですよね?」
ふたたび小首をかしげる焔寿。
「開けてみてはいかがでしょう? いずれにしても救命活動が終わるまでこの場を動くことはできませんし」
さくらの提案。
たしかに、海に飛び込んだ敵を全員回収するのには今少し時間がかかる。
作業が終わるまで首を傾げ続けているというのも、なかなかに無益な話だ。
「判ったわ。とりあえず、みんな防護服に着替えて」
そう言った綾が「むらさめ」に戻ってゆく。
念のため、対核防護はした方が良かろう。
日本海にしては穏やかな波が、ゆらゆらと揺れている。
春の日差しを照り返しながら。
エピローグ
「‥‥‥‥」
綾は無言だった。
「‥‥‥‥」
さくらも無言だった。
「‥‥‥‥」
巫もまた、無言だった。
「‥‥お金ですよ‥‥? これ」
かなりの時間を置いて、焔寿が言った。
黒い箱にぎっしりと詰まっていたのは、紙幣だった。
しかも日本円ではなく、ドルとルーブルだ。
今の価値に治せば、八〇〇〇億円分くらいはあるだろう。
本物だったら。
「偽札、よね? きっと」
「そうでしょうねぇ。戦時に敵国に偽札をばらまいて経済を混乱させる、というは古来からの戦術のひとつですから」
のんびりとさくらが答える。
なんだか失調してしまっているようだ。
「そもそも、だ。そんなにウランが余ってんなら自分で原爆つくらねぇか? ドイツ」
浄化屋の言葉。
まったくその通りである。
ナチスドイツの優生思想によれば、同盟国たる日本だって卑下の対象だっのだから。
考えてみれば、気前よくウランを渡すとは考えにくい。
「今となっては推測の範囲を出ないですけど‥‥」
ぽつりぽつりと焔寿が自説を開陳する。
Uボートは、日本を支援するために訪れた。
これは事実だろう。
ただし、ウランの譲渡という支援ではなく、ソビエトやアメリカに偽札をばらまくというスパイ活動的な支援だ。
ウラン云々は、まあ、ウソというかはったりである。
これも推測するしかないが、当時使っていた暗号をソビエトは誤解読してしまったのではないか。
あるいは、どうせ沈んだものとして、きちんと報告しなかったか。
いずれにしても、それが後世に伝わってゆく過程で変質した。
願望も含まれていたのかもしれない。
「こんなもんのために命の取り合いしちまうんだからな‥‥」
巫の呟き。
声もなく、女性陣が顔を見合わせた。
愚かな戦争の愚かな産物が、ただ黙ってたたずんでいる。
六〇年ぶりの外気を受けながら。
終わり
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0143/ 巫・灰慈 /男 / 26 / フリーライター 浄化屋
(かんなぎ・はいじ)
0134/ 草壁・さくら /女 /999 / 骨董屋『櫻月堂』店員
(くさかべ・さくら)
1305/ 白里・焔寿 /女 / 17 / 天翼の神子
(しらさと・えんじゅ)
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
「ナチスの財宝」お届けいたします。
なにはともあれ、白ロシア魔術師たちは、これで戦力のほとんどを失いました。
次で、北の魔術師シリーズは最終章となります。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って。
☆お知らせ☆
3月31日(月)、4月3日(木)の新作アップは、著者、私事都合によりお休みさせて頂きます。
ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。
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