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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


GHOST IN THE MOVIE
〜 帰ってきた幽霊 〜

「草間さーん、草間さーん」

 誰かに呼ばれた様な気がして、武彦は目を覚ました。
 辺りを見回してみても、部屋の中は真っ暗で、人の気配もない。
 時計を見ると、まだ午前四時を指している。
「……気のせいか」
 そう考えて、武彦が再度眠りにつこうとしたとき。
「草間さーん、草間さーん」
 今度は、はっきりと聞こえた。
 どうやら、若い男の声のようである。
「誰だ?」
 不審に思いながら、その声のした辺りに向かって問いかけてみる。
 しかし、返ってきたのは、微妙にズレた返事だった。
「あぁ、今、明かりつけますから」
 その言葉と同時に、武彦の目の前にいきなり人魂が出現する。
 人魂の明かりに照らされて、申し訳なさそうな笑みを浮かべているのは……いつか草間興信所に来たことのある、三沢治紀(みさわ・はるき)というお笑い芸人の幽霊だった。





「で、なんだ、こんな夜遅くに」
 ぶっきらぼうに尋ねる武彦に、治紀は楽しそうに答えた。
「いや、実はですね、僕、映画に出ることになったんですよ」
「映画? 幽霊が?」
「ええ。この前亡くなった黒原監督と言う方が、『まだまだオレには撮りたいものがある』って」
 なるほど、確かに監督が幽霊ならば、役者も幽霊で不思議はない。
 だが、武彦が知っている映画監督の名前の中に、黒原などという名前はなかった。
(おそらく、無名で終わった三流監督だろう)
 そんなことを考えながら、武彦は先を促す。
「ふーん……で、何をやるんだ?」
 すると、治紀は困ったような笑みを浮かべた。
「それがその……ちょっと幽霊だけじゃ、役者もスタッフも足りないんですよねぇ」

(なるほど、そういうことか)
 武彦は治紀が現れた理由に気づくと、ため息を一つついた。
「で、俺に集めるのを手伝えと?」
「お願いします! この三沢治紀、一生に一度のお願いです!」
「お前の一生は、一体いつからいつまでだ」
 深々と頭を下げる治紀に、武彦が身も蓋もないツッコミを入れる。
「うん、いいツッコミです……じゃなくて。
 僕たちを助けると思って、どうかお願いします」
 ツッコミはツッコミとして受け止めつつも、治紀はなおも食い下がった。

 と、次の瞬間。
 その治紀の後ろに、不意に多数の人魂が出現した。
 そして、人魂あるところ幽霊ありの言葉通り(?)、その下には、深々と頭を下げた多数の幽霊がいたのであった。
「お願いします!」
「お願いしやす!」
「頼みます、大将!」
 口々にそう幽霊たちの目には、「頼みを聞いてくれるまでてこでも動かない」という決意が炎を上げている。
 ことここに至っては、武彦としても頼みを聞かないわけにはいかなかった。
「わかった、わかった!
 ったく、やればいいんだろう、やれば!」
 半ばヤケクソ気味の武彦の叫びが、彼の部屋の中にこだました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 幽霊漫才りたーんず 〜

「こりゃすげぇな」
 草間興信所の様子を見て、守崎北斗(もりさき・ほくと)はそう呟いた。
 右も、左も、幽霊でごった返している。
「さすがは日本の幽霊。足がある人は一人もいませんね」
「いや、驚くポイントはそこじゃないから」
 よくわからないところで感心している英国紳士(?)のウォレス・グランブラッドに北斗がツッコミを入れていると、その幽霊の群れをかき分けるようにして、見覚えのある幽霊が二人の前にやってきた。
「お久しぶりです、ウォレスさん、北斗さん!」
 懐かしそうに笑う幽霊に、北斗は半ば呆れながら言った。
「治紀、アンタまだ成仏出来てなかったのかよ!」
「いや、なかなか笑いの道も険しいものでして。
 千里の道はローマに通じる、って言うじゃないですか」
「言わねぇよ。混ざってるぞそれ」
 治紀のボケに、北斗が反射的にツッコむ。
 すると、治紀は満足そうな顔をして続けた。
「さすが北斗さん。ツッコミもますます冴え渡ってますね」
 その表情を見ていると、なんだか事情を聞く気も失せてくる。
「……ったく。
 まぁ、前に相方やったよしみで付き合ってやるよ」
 苦笑しながら、北斗はそう答えた。
 それに対して、治紀は丁重に礼を言った後、ふと何かに思い当たったようにあちこちを見回し始めた。
「……あ、北斗さんがいるということは、ひょっとすると?」
 彼が探しているのが、おそらく北斗の兄の守崎啓斗(もりさき・けいと)であろうことは北斗には容易に想像がついた。
 というのも、ウォレスと北斗、啓斗の三人は、以前治紀が草間興信所を訪れたときにも、武彦に頼まれて依頼を手伝っていたのである。
 けれども、治紀がいくら左右を見回したところで、啓斗の姿が見つかるはずもない。
 なぜなら……啓斗は、ちょうど治紀の背後にいたからである。
「ああ。来てるぜ? 兄貴も」
「呼んだか?」
 北斗が顎で治紀の背後を指したのと、啓斗が口を開いたのは、ほとんど同時だった。
「うわっ! い、いつの間に……」
 驚く治紀に、啓斗はなんでもないことのように応じる。
「そんなに慌てなくも良いじゃないか。久々に会ったんだから」
 これもある意味ではボケと言えなくもないのだが、啓斗の場合、まったく自覚がないのでタチが悪い。
 しかし、そこは治紀も芸人のはしくれ、ボケにはボケをとばかりにこう返す。
「いや、久々とかなんとかじゃなくて、いきなり背後から出てこないで下さいよ。
 心臓が止まるかと思ったじゃないですか」
 しかし、相手が啓斗だったがために、そのボケも不発に終わった。
「そんなに驚いたのか。それは悪いことをしたな」
 治紀が期待していたのとは違う――しかし、治紀が予想していた通りの答えを返す啓斗に、治紀は「やれやれ」とばかりに首を横に振った。
「……相変わらずですね、啓斗さん」
「そうか? あれから冗談も練習したんだぞ?」
 真顔で答える啓斗だが、北斗はイマイチ信用できない。
(百歩譲って練習したのが本当だったとしても、兄貴の場合、練習の内容自体が間違ってたりしそうだよなぁ)
 治紀もやはり不安に思ったのか、嬉しそうな表情を作りながらも、様子見に軽いボケを繰り出してきた。
「そうなんですか?
 いや、そこまでしてもらえるなんて、僕は本当に無法者です」
 それに対する啓斗の反応は、まさに「期待は裏切り、予想は裏切らない」を地で行くものであった。
「お前、一体なにやらかしたんだ?」
 その様子に、見るに見かねたウォレスが啓斗に変わってツッコミに入る。
「そこは、『それを言うなら果報者やろ!』とツッコむところではありませんか?」
 それに便乗して、北斗もさらにこう続けた。
「ついでに言うと、その前の『心臓が止まる』ってのもな。
 幽霊の心臓なんて聞いたこともないし、幽霊になった時点で身体の方の心臓は止まってるだろ」
 そのツッコミを、きょとんとした顔で聞いている啓斗。
「啓斗さん、ひょっとしてバスケットの神様になる練習でもしてたんですか?」
 こらあかんわ、とばかりに呟いた治紀に、啓斗はどこまでも真顔で対応した。
「いや、俺は冗談の練習をしたつもりだったんだが」

(だから、そこがツッコミどころなんだ、ってーの)
 心の中でそう呟いて、北斗は大きなため息をついた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 脚本家はB級ホラー 〜

 そんなこんなで一同がわいわいやっていると、不意に辺りの幽霊たちが静まり返った。
「何だ?」
 啓斗たちが様子を見ていると、やがて、一人の幽霊が啓斗たちの前に進み出てきた。
「わざわざ集まってもらってすまなかったな。オレが黒原だ」
 どうやら、この幽霊が監督の黒原らしい。
 啓斗はそれを見てとると、早速黒原に質問した。
「最初に一つ、聞いておきたいことがあるんだが」
「おう、何だ?」
「北斗が『当たれば出演者にもギャラが入る』と言ってたが、本当か?」
 それを聞いて、黒原は笑いながら答える。
「あぁ、そのことか。
 見ての通りオレはもう死んでるし、他のスタッフもほとんど死んでるヤツばかりだ。
 死人に金はいらねぇからな、儲けが出たらその分は生きてる人間で好きに分けてもらってかまわねぇぜ」
 その答えに、啓斗は満足してこう言った。
「そうか。なら、本気で役者をやらせてもらおう」
「おう、よろしく頼むぜ」
 黒原はそう言うと、残りのメンバーの方に向き直った。
「で、お前たちは何をやるんだ?」
 その問いかけに、まずシュライン・エマが口を開き、北斗がそれに続いた。
「私はスタッフ参加ね。予算の管理とか、そういうことをやろうかしら」
「あ、俺もスタッフで。
 そうだな、特殊効果なんかどうだ? 爆薬の扱いも慣れてるしな」
 そして、残った水野想司(みずの・そうじ)、海塚要(うみずか・かなめ)、ウォレスの三人は、揃って役者を希望する。
「僕は当然映画に出るよっ☆」
「もちろん私も出演させてもらおう」
「私もキャストとして参加したいです」
 それを聞いて、黒原が少し考えるように呟く。
「そうか。じゃ、役者が四人に、スタッフ二人か」
 その呟きを、「まだ人数が足りない」という意味と判断してか、北斗がこんな事を言いだした。
「それと、人数が足りないなら龍一も呼んで来るって事で。
 あ、ちなみに草間も当然参加な」
「そうそう、草間さんがいないと話が成り立たなくなっちゃうよっ☆」
 どういう意味かはわからないが、想司もそんなことを口にする。
 それに対して、武彦はというと、もともとこうなることを予期していたのか、小さくため息をついただけだった。

 ともあれ、これでだいたいの役割は決まった。
 次は、映画の話の筋の確認と、配役の決定だろう。
「ところで、一体どんな話を撮るんだ?」
 啓斗が黒原に尋ねてみると、黒原は小さく頷いた。
「それだ。
 もうすぐオレのなじみの脚本家が来るんで、そいつとも話し合って決めてくれや。
 あぁ、ちなみにその脚本家は生きてるからな」

 と、その時、誰かが草間興信所のドアをノックした。
 ドアの近くにいたシュラインがドアを開け……そして、そこで硬直する。
「…………!!」
「シュラインさん? どうかしまし……!?」
 シュラインの様子に気づいて歩み寄ったウォレスも、やはりドアの外に立っていた何者かの姿を見て、驚愕の表情を浮かべた。
 次の瞬間、その「何者か」が興信所の中に、そして啓斗たちの視界に入ってくる。
 たくましい体格に、ややラフなファッション。
 そして、その顔には、何とホッケーマスクがあった。
 これで、手に持っているのがバッグではなくチェーンソーなら、完全に有名ホラー映画の殺人鬼である。
 その男に向かって、黒原は親しげに呼びかけた。
「おう、二木っちゃん! 来たねぇ」
 それを聞いて、我に返ったウォレスが黒原に尋ねる。
「『二木っちゃん』……お知り合いですか?」
「知り合いもなにも、こいつがオレの言った脚本家よ。
 外見と本名から取って、ついた名前がジェイソン二木だ」
 そう言ってにやりと笑う黒原に、想司が率直な感想を口にする。
「なんだか、すごくニセモノっぽい名前だよねっ☆」
「それ以前に、これでは脚本家というより殺人鬼だろう。なぜそんなものを?」
 続いて要がそう尋ねると、二木は慣れた調子で答えた。
「ああ、ガキのころに顔に大やけどをしてな」
(やけどのあとを隠すにしたって、もう少しマシな隠し方があるだろうに)
 啓斗はそう思ったが、また話が長くなっても面倒なので、そこはあえて気にせずに話を先へ進める方を選んだ。
「そんなことより、早く話し合いを始めるぞ」

 話し合いが始まって、真っ先に自分の意見を言ったのは北斗だった。
「俺は、せっかくだからアクションがいいと思うな」
 その意見に、啓斗も賛同する。
「そうだな。俺も、アクションや時代物がいいと思う」
 すると、今度はその中の「時代物」という言葉にウォレスが反応した。
「そう! 時代物! 時代物と言えばやはりサムライ!
 ジャパンムービーといえばサムライムービーに他ありません!」
 一方、要はあくまでもマイペース、というかどこかズレている。
「私はジャンルは問わん。
 ジャンルは問わんが、私は『帝国屈指の暗黒卿』の役で出演するぞ」
「その時点で、ジャンルも決まる様な気がすんだけど」
 北斗の的確なツッコミも、要にとってはどこ吹く風のようだ。
 だが、次の瞬間、その要のみならず、啓斗たち全員にクリーンヒットするような強烈なツッコミがくる。
「盛り上がってるところ悪いんだけど、予算の都合も考えてくれない?
 私は、生きている人間が参加する以上、衣装とかの調達の楽な現代物の方がいいと思うんだけど」
 もちろん、このツッコミの主はシュラインである。
 現実を見据えた彼女のツッコミに、全員が否応なしに現実に引き戻された。

 しかし、一人だけ、彼女のツッコミにもまったく動じていない者がいた。
 想司である。
 彼は、なんでもないことのように、あっさりとこう言ってのけた。
「それなら、大学の映画部の人たちに協力してもらったらどうかなっ♪」
「映画部?」
「うん☆
 知り合いに、東郷大学映画部の笠原利明(かさはら・としあき)さんって人がいるんだっ♪」
「そりゃいいな。協力してもらえれば、人手の面でも機材の面でも大きく前進だ」
 想司の提案に、明らかに乗り気の黒原。
 だが、啓斗はその想司の言葉の中に、いくつかの不吉な単語が含まれていることに気づいてしまっていた。
「東郷大学」の「笠原」。
 そのふたつの単語から、守崎兄弟が思い出すのは、いつぞやの忌まわしい事件のことしかない。
(まさか、あいつの関係者じゃないだろうな)
 啓斗がそんなことを考えていると、やはり北斗も同じことに思い至ったらしい。
 彼はおそるおそると言った感じで、想司にこう尋ねた。
「東郷大学の笠原……ひょっとして、そいつの親戚に和之(かずゆき)ってやついたりしねぇ?」
「和之さんは、利明さんのお兄さんだよっ☆」
 笑顔で答える想司。
 それを聞いて、北斗は額に手を当てた。
「やっぱし……」
 そんな守崎兄弟の様子に少し戸惑いつつも、ウォレスが話を本題に戻す。
「それはそうと、想司さんはどんな映画がいいと思いますか?」
 想司のことだから、やはりアクション系だろう。
 そう予想したのは、啓斗だけではなかっただろう。
 だが、それに反して、想司はにこやかにこう答えた。
「僕? 僕としては『純愛もの』がいいと思うんだけどっ☆」
「純愛もの、ねぇ。
 想司くんの言う純愛ものってどんなの?」
「ん? それはねぇ……」
 予期せぬ返答に驚いて聞き返すシュラインに、想司は自らの考えた「純愛もの」のストーリーを語り始める。
 けれども、当然と言えば当然の事ながら、それは世間一般で言う「純愛もの」とはかけ離れた内容であった。
「想司くん……それのどこが純愛ものなの?」
「そもそも、一体どこから純愛ものなんて言葉が出てきたんだよ」
 シュラインと北斗が、立て続けにそうツッコむと、想司は相変わらずのマイペースでこう答えた。
「しのぶがそう言ってたからっ♪」

 すると、その時。
「きたきたきたきたきたきたぁっ!」
 突然、二木が大声を上げて立ち上がった。
 奇声を発しながら突然立ち上がるホッケーマスクの怪人の図。
 魔王である要と、ある意味魔王以上に神経の図太い想司を除いた全員が、一斉に退いたのも無理のない話であろう。
「な、何が来たの?」
「アイディアとインスピレイションに決まってるだろ!
 脚本は、オレが三日で書き上げる。だから、三日後にまたここに集まってくれ」
 そう言い放つと、二木は自分のバッグをひっつかんで飛び出していった。





「お待たせ。出来たぜ」
 二木が戻ってきたのは、約束通り三日後だった。
「お疲れのようですね……やはり徹夜で?」
 心配して尋ねるウォレスに、二木は照れたように頭を掻いた。
「ああ。二十四時間営業の牛丼屋で三日間粘った。だいたい十五杯は食ったから、もう牛丼は当分いいな」
 ホッケーマスクの怪人が三日間も牛丼屋に居座るのは、どう考えても立派な営業妨害である。
 それに、牛丼を十五杯食べたと言っても、食べるとき、そのマスクはどうしていたのか。
 皆、言いたいことは山ほどあるというような顔をしていたが、それよりも、まずは脚本の中身を確認する方が先である。
 期待と不安の入り交じった表情で、一同は脚本に目を通し始めた。
 
 脚本の中身は、二木の外見に負けず劣らず恐ろしいものだった。
「確かに、全員の希望が入ってはいるけど……」
 唖然とした表情で呟くシュライン。
 その表情が、全てを物語っていた。
 二木は、比較的細部まで考えられていた想司の案を中心に、全員の希望をムリヤリ混ぜ込み、よせばいいのに独自のアレンジまで加えてしまったのである。
(こんなもの、当然監督から待ったがかかるだろうな)
 啓斗はそう思ったが、よく考えてみれば、ここで待ったをかけるような監督なら、そもそも最初からこんな脚本家をなじみになどしたりしない。
「いやいや、さすが二木っちゃんだ。
 これだけの要求を全部一本にまとめるなんて、到底他の脚本家にゃできねぇぜ」
 茫然とする一同を後目に、満足そうに笑う黒原。
「気に入ってもらえたか。
 じゃ、オレは副業に戻る。何かあったらまた連絡くれよ」
 二木はそう答えると、早速バッグを持って帰り支度を始めた。
 その彼に、想司がこう尋ねる。
「副業って?」
「二木っちゃんは、普段は新宮で林業をやってるんだよ」
 二木に代わって、想司の問いに答える黒原。
 それを聞いて、啓斗はこう質問せずにはいられなかった。
「林業って……じゃ、やっぱり木を切る時は?」
「ああ、今時ヘイヘイホーでもねぇしな。木を伐るときは、やっぱりチェーンソーだよ」
 やはり聞かれ慣れているのか、さらりとそんな答えが返ってくる。
(それじゃ、まるっきりあの殺人鬼じゃないか)
 そう思ったのは啓斗だけではなかったようだったが、そのうちの誰にもすでにツッコむ気力は残っていなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 シーン1・舞台裏 〜

 最初の場面の撮影は、草間興信所、並びに近くの路地裏で行われた。
 幸い、機材等の面は、東郷大学映画部の面々の協力を得られたことで相当カバーできた。
 もともと「大学自体が心霊スポットに近い」という同大学の学生だけあって、「幽霊と一緒に作業するなんてとんでもない」という人間より、「幽霊でも、無名でも、一度はプロでやった人たちと一緒に出来るなんて素晴らしい」という人間のほうが多かったのが、こちらにとっては幸いだった。

 むしろ、問題は、出演者の方にあった。
「で、何で俺がこんな役なんですか!」
 最初に遺体となって発見される捜査員の役を振られた龍一が、全力で抗議する。
「阪上さん、お仕事が忙しいから最初の方だけの役がいいって言ってたじゃないですか」
 スケジュールを円滑に進めるため、とりあえずそう反論したシュラインだったが、龍一が嫌がる気持ちも分からないではなかった。

 この役は登場した瞬間から遺体のため、死んだフリ以上の演技は必要ない。
 しかも、登場はそのシーンのみで、以後回想シーンも復活もない。
 そういう意味では、まさに彼の希望通りの役柄であるのだが……。
 なんと、この遺体、なぜかメイド服を着せられた状態で発見されると言う設定なのである。
「こんな恥ずかしい格好できませんよ!」
「そんなこと言われても、脚本家さんはもう新宮に帰っちゃったし、監督は乗り気だし……」
 なんとか、プロットの変更が不可能であることを告げて納得してもらおうとするシュラインだが、当然龍一もこの程度では引き下がらない。

 そして、結局、最後の手段が採られることになった。
「うるさい」
 まくし立てる龍一の背後に、不意に要が現れ、蛍光灯のような見た目の剣(?)で龍一の頭を殴った。
 不意をつかれて、その場に崩れ落ちる龍一。
 それを見ながら、要は平然と言った。
「どうせ遺体の役だけなら、気絶していても問題なかろう。
 とっとと着替えさせて、撮影に移ってしまえ」
「おう、そうだ、こんな簡単なシーンはちゃっちゃと終わらせるぞ」
 黒原のその一言もあって、一同は「本当にいいのかなぁ」と思いつつも、龍一を回収して撮影の準備を始める。
 その途中で、北斗が要に質問した。
「でも、さっきのこぶにならねぇか? 遺体には外傷なしって設定だろ?」
「遺体はメイド服を着て発見されるのだぞ?
 あの位置なら、カチューシャでいくらでもごまかせる。
 そんなことも知らんとは、『萌え』に対する理解がなっていないな」
 要は呆れたように答えると、黒原の方に向き直って、こう尋ねた。
「それはそうと、私の出番はまだか?」
「帝国屈指の暗黒卿なんて言ったら、話の最後に出てくる黒幕だろ。
 黒幕が最初から出てきてどうすんだ」
 その黒原の返事を聞きながら、シュラインは今後の苦労を思って頭をかかえた。
(最初からこの調子じゃ、先が思いやられるわ)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 シーン2・IN THE FILM 〜

 ソージー(水野想司)が向かった先は、国内某所の山奥だった。
「こんなところに、何があるって言うんです?」
 尋ねる三治(三沢治紀)に、ソージーは黙って目の前の滝を指さした。
「滝? 滝がどうかしたんですか」
「滝じゃないよ☆ 滝壺の辺りをよく見なよっ♪」
 そう言われて、三治が滝壺の近くに目をやってみると、滝壺の近くで黙々と木刀を振っている一人の男(ウォレス・グランブラッド)の姿があった。
「あの人は?」
「『ウィリー・ザ・サムライ』」
 そのソージーの一言で、三治は全てを理解した。
 かつて腕利きの捜査官として名を馳せたが、「ウェイ・オブ・サムライ」に魅せられ、ついにはサムライとなるべく日本へと去った孤高の捜査官ウィリー。
「そのウィリーさんに、協力を求めに来たんですね」
「やっとわかったようだねっ、三治くん♪」
 その言葉とともに、ソージーはひらりと崖っぷちの柵を飛び越え、ウィリーのもとへと断崖絶壁を駆け下りていった。
「ま、待って下さいよ、ソージーさんっ!!」
 三治はそう叫んだが、ソージーが聞く耳を持つはずがない。
 ソージーのような超人的運動能力を持たない三治には、遊歩道を大回りして滝壺の方へ向かう以外の道は残されていなかった。





「はぁ、ふぅ……」
 やっとの思いで三治が滝壺に辿り着いたときには、すでにソージーとウィリーの話し合いは終わっていた。
「話はソージーさんから聞きました。微力ながら、私も協力させていただきます!」
 やる気満々でそう答えるウィリーに、治紀はこう答えるのが精一杯だった。
「はぁ、どうも、ありがとうございます……」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 シーン3・IN THE FILM 〜

 その後、地元の探偵・久佐(草間武彦)の協力もあって、ソージーたちはついに犯人達の拠点としていると思われる洞窟にたどり着いた。

「すごいですね、これは」
 明らかに人の手が加えられているとわかる壁面を見て、ウィリーが呟く。
「ああ。間違いなく、ここにヤツらのアジトがある」
「これで、猟奇殺人犯も年貢の収め時だねっ♪」
「そうなったら、僕たちヒーローですね」
 久佐、ソージー、そして三治の三人も、そんなことを小声で話しながら、周囲に警戒しつつ、ゆっくりと洞窟の奥へと進んでいった。

 そして、洞窟の奥の、少し広くなっているところに辿り着いたとき。
 不意に、四人の足下から、五色の煙が立ち上った。
「うわっ!?」
「な、なんだ!?」
 予期せぬ出来事に驚くソージーたち。
 しかし、「ウェイ・オブ・サムライ」を極めるため、精神修行を怠らなかったウィリーは、他の三人より早く、冷静さを取り戻した。
「曲者っ!」
 そう叫びながら、真っ直ぐ踏み出し、煙の外に出る。
 だが、煙の外に出たウィリーを待っていたのは、忍者とメイドを足して二で割ったような格好の何者か(守崎啓斗)によって投じられた、いくつもの手裏剣だった。

 ウィリーの実力ならば、回避することは容易い。
 けれども、回避すれば、手裏剣は煙の中に飛び込んでいく。
 まだ、三人の仲間が、その中にいるというのに。

「喝っ!」
 気合一閃、ウィリーは最初の手裏剣を居合い抜きで弾き返した。
 そのまま二つ目を弾き返そうとするが、これはさすがに間に合わず、手裏剣が肩口に突き刺さる。
 それでもウィリーはひるまず、手裏剣のいくつかを弾き返し、多くを身体に受け、しかし一つたりとも後ろに反らすことはなかった。
 そうこうしているうちに、残りの三人も煙の中から飛び出してくる。
「このっ!」
 ウィリーの横を抜け、メイド忍者に向かって飛びかかるソージー。
 その後ろでは、久佐が拳銃を構えている。
「ちっ」
 メイド忍者は軽く舌打ちすると、懐に手をやり、何かを取り出して地面に叩きつけた。
 すると、今度はメイド忍者のいたところから五色の煙が上がり……煙が晴れたときには、すでにメイド忍者の姿はなかった。
 



 メイド忍者が去り、危機が去ったのを見届けて、ウイリーはその場に膝をついた。
「ウィリーさん! しっかりして下さい! 傷は浅いですよ!!」
 心配そうに駆け寄ってきた三治に、少し無理にでも笑顔を作ってみせる。
 その時、肩に突然再度激痛が走った。
 久佐が、無造作に手裏剣を引き抜いたのである。
「久佐さん!」
 責めるように言う三治を無視して、久佐はさらりと言った。
「毒が塗られていた様子はないな。
 命に別状はないだろうが……まぁ、大事をとってしばらくは静養した方がいい」
 ウィリーはここで捜査を離れるつもりはなかったが、ソージーまでもが静養することを進めるのを聞いて、ついに折れた。
「わかりました……残念ですが、今回の捜査は皆さんにお任せします」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 シーン4・舞台裏 〜

 次のシーンは、ソージーこと想司のモノローグの場面である。
 もともと短いシーンだったこともあって、撮影は最低限のスタッフのみで行われた。
 そのため、それ以外のメンバーは、一足早く帰京することになったのである。

 行きと同様、大荷物を背負っての路線バスにローカル線。
 荷物を持たない幽霊はともかく、生身の人間は、ほとんど皆疲れた顔をしている。
 もっとも、この程度で疲れるはずのない要や、疲れてもそうそう顔に出ない啓斗は、いつも通りの表情をしていたが、それは例外であった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 シーン5・IN THE FILM 〜

 そして、その二日後。
 ソージーのもとに、久佐から「真相を知る情報屋を見つけた」との連絡が入った。
 彼の呼び出しに応じ、都内某所の廃ビルへと向かったソージーと三治。
 しかし、指定された部屋には、情報屋の姿も、久佐の姿もなかった。

「これは……どういうことです?」
 不思議そうに、辺りを見回す三治。
 だが、ソージーはまったく動じることなく、部屋の奥に向かって叫んだ。
「わざわざ来たのに、挨拶もないのかなっ?
 いるのはわかってるんだ☆ 早く出てきなよ、久佐さん……いや、コードネーム『メイドモーエ』!」
「ええっ!?」
 驚きの声をあげる三治。
「『メイドモーエ』と言えば、萌えの暗黒面に魂を売った暗黒卿の手先! まさか……」
 すると、その声に答えるかのように、部屋の奥の物陰から、久佐と、先日の抜け忍メイドが姿を現した。
「俺の正体を見破ったのはさすがだが、俺の誘いに乗ったのは失敗だったな」
 久佐はそう言って笑うと、傍らに控えている抜け忍メイドに指示を出した。
「やれ! お前の真の力を見せてやれ!!」
「はっ」
 抜け忍メイドは短くそう答えると、自分の足下に先日と同じ煙玉を放り……そして、その煙の中から、二人になって飛び出してきた。
「ぶ、分身の術っ!?」
「相手にとって、不足なしだよっ♪」
 驚く三治は置いといて、懐から取り出したヌンチャクで応戦するソージー。
 けれども、さすがに二対一では厳しく、じりじりと押し込まれ始める。
「くらえっ!」
 抜け忍メイドの片方が、ソージーの足下を狙って手裏剣を投げる。
 ソージーは何とかそれをかわしたが、その無防備になった瞬間を、抜け忍メイドのもう片方は見逃さなかった。
「死ねっ!」
 抜け忍メイドの刃が、まさにソージーを切り裂こうとしたとき。
 どこからともなく飛んできた扇が、その刃をたたき落とした。

「何奴っ!」
 扉の外に、黒い頭巾をかぶった怪しげな人影があるのを認めて、『メイドモーエ』が慌てた様子で叫ぶ。
 すると、その人影は、頭巾を取って、きっぱりこう言い放った。
「愚か者め! 私の顔を見忘れたか!」
「なっ!?」
 その顔を見て、『メイドモーエ』が、抜け忍メイドが、そして三治までが硬直する。
「敵を欺くには、まず味方から、ってね♪」
 そう呟いて、ソージーはにやりと笑った。

 実は、ウィリーの怪我は、『メイドモーエ』が思ったほどの深手ではなかった。
 そのことに気づいたソージーは、『メイドモーエ』を罠にかけるべく、彼に指示された場所に向かう前に、こっそりウィリーにこの場所を教えていたのである。

「おのれ、二人してこの俺を謀ったな!?
 ええい、やれ、やってしまえっ!!」
 明らかに狼狽した様子の『メイドモーエ』。
 それでも、「忍者」と「メイド」で忠実さ二倍の抜け忍メイドは、果敢にソージーとウィリーに挑んできた。
 まだ、現時点での人数は三対三。五分である。
 が、ソージーの側には、さらに隠し玉があった。
「師匠! この利誠、義によって助太刀いたしますぞ!!」
 その声とともに、ウィリーに師事する青年剣士・利誠(笠原利明)が切り込んでくる。
 ことここに至って、形成は完全に逆転した。

 それを見て、ついに『メイドモーエ』が動いた。
「ええい! かくなる上は……来いっ!」
 その叫び声とともに、横にあったドアの中へと逃げ込む。
 そして、二人の抜け忍メイドもそれに続いた。

 ソージーが駆け寄ってみると、ドアの向こうには、怪しげな異空間が渦巻いていた。
 しかし、異空間であろうと何であろうと、ここで『メイドモーエ』を逃しては元の木阿弥である。
「僕たちも追うよっ♪」
 仲間たちにそう告げると、ソ−ジーは返事も待たずにドアの中へ飛び込んだ。

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〜 シーン6・ハプニング発生 〜

 最後の場面の撮影は、東郷大学キャンパス内にて行われた。
 前日のうちに、映画部の面々によって撮影現場にあった荷物は全て運び出され、その代わりに「異空間の風景」が描かれた布が、壁、床、そして天井までの全てを覆っている。
 恐ろしいことに、この「異空間の風景」は、どんな特撮番組の異空間よりも不気味で、異質な邪悪さに満ち、出演者やスタッフを「本当に異空間に迷い込んだのではないか」と不安がらせるほどの出来映えであった。
 これを描きあげたのは、東郷大学・前衛芸術部部長の笠原和之である。
 描き出すもの全てが精神攻撃となり、一度などは本当に異空間とつながってしまったことさえある「天災芸術家」の彼にしても、この巨大な「異空間の風景」は会心の作品であった。

 その異空間に、ソージーたちが迷い込んだところから、撮影が始まる。

「こ、ここは……?」
 驚いて辺りを見回すウィリーたち。
「『モエー空間』……萌えの暗黒面のオーラに満ちた空間だよっ☆
 この中では、暗黒の『萌え』の力は数倍にも増幅される……」
 ソージーがそこまで説明したとき、要演じる『帝国屈指の暗黒卿』が姿を現した。
「ふはははははっ!
 そこまでわかっていながら追ってくるとは、まさに飛んで火にいる夏の虫よ!」
 典型的な悪役のセリフを口にしつつ現れる『帝国屈指の暗黒卿』。
 だが、その姿は、「典型的な悪役」とはかけ離れていた。
 黒いマントを風にたなびかせ、現れた彼の衣装は……なんと、マントを除けばビキニパンツ一丁だったのである。
「自らの肉体に! 筋肉に萌える!! ここまで『萌え』を極めた私に、しかもこの空間で勝てると思ったか!!」
 そう言って、ポージングをしながら高笑いをあげる『帝国屈指の暗黒卿』。
 その彼の目の前に、不意に何かが落ちてきた。
「……何だ?」
 『帝国屈指の暗黒卿』を演じる要はもちろん、他の役者も、そしてスタッフも首を傾げる。
 ここで物が落ちてくるなど、台本にはなかったからだ。
 不審に思いながらも、一同はその「落ちてきたもの」に目をやって……皆、我と我が目を疑った。

 要の足下に落ちてきたのは、体長が三十センチほどもある、蜘蛛のような八本の脚を持つ熱帯魚(?)であった。
「なんだ、これは?」
 怪訝な表情をしつつも、その魚を拾い上げようとする要。
 その背中に、今度は牛のような角と尻尾を持つ、真っ赤なナマコが数匹降り注ぐ。
 さらに、それに続いて、辺り一面の壁から、上半身がカマキリで下半身が猫の生物やら、頭が三つにハサミが六つある金色のザリガニやら、そう言ったクリーチャーが大挙して出現した。
 ただでさえ精神衛生上よくない空間での撮影中に、このハプニングである。
 こうなっては、もう撮影どころではない。
 当然、監督としては、ここで一旦撮影を打ちきることだろう。
 誰もが、とっさにそう思って、黒原の方に目をやった。

 しかし、黒原はカメラを回し続けた。
「続けろ! 異空間に怪生物、いいじゃねぇか!!」
「いいわけねぇだろっ!」
 北斗がそうツッコミを入れてはみるものの、もちろんその程度では止まらない。
「カメラ! 替われ! オレが撮る!!」
 黒原は席を立つと、カメラを操作していた幽霊を押しのけ、嬉々として撮影を続けた。

 こうなった以上、もはや北斗たちにできることは一つしかなかった。
 すなわち……全員で協力して、怪生物を駆逐することである。





 怪生物との死闘は、およそ三十分以上にも及んだ。
 次々とわき出してくる有害無害の怪生物を、殴り倒し、斬り捨て、異空間に押し返す。
 いつぞやの羽根つきガエルの乱入に守崎兄弟がパニックに陥ったり、「背中にイソギンチャクの乗っかった巨大なゴキブリのような化け物」を見てシュラインが固まったりといったピンチもあったが、それでも一同は戦い続けた。

 そして。
「背中に『打ち止め』と書かれた、サソリの尻尾を持つ青いタカアシガニ」を撃退すると、ようやく怪生物の出現が止まった。
 勝利を確信した途端、今までの疲労が一度に押し寄せてくる。
「乗り切った……んだよな」
 誰にともなくそういいながら、その場に座り込む北斗。
 その耳に、不意に拍手の音が聞こえてきた。

 拍手の主は、黒原だった。
 呆れたことに、あれだけの怪生物の中、最後までカメラを回し続けていたのである。
「いや、ものすごい臨場感だったぜ。いい絵が撮れた」
 満足そうにそう言った黒原には、皆、もうただただ茫然とするより他なかった。

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〜 その後 〜

 撮影が終わって、編集し終わったフィルムを見た後。
「あんなことになっちゃったけど、これで本当に満足できたの?」
 シュラインは、黒原にこう尋ねた。

 出来上がった映画の方は、まさに「とんでもない」ものであった。
 ただでさえストーリーがぶっ飛んでいる上、撮影スタッフの実力も三流で、学生に任せた方がうまくいっているようなところも多々ある。
 さらに、あの最後の大騒動で、何がなんだかわからない終わり方になってしまっており、どこをどう編集しても、とても公開できるようなシロモノにはなり得なかった。
 
 それでも、黒原は満足そうに笑って言った。
「ああ。
 俺が最期に撮りたかったのは、きっと撮る方が楽しんで撮れる映画だったんだろうな。
 思えば、中途半端にプロになって以来、こんなに楽しく撮ったことなんて、一度だってなかった」
 そして、利明を始めとする映画部の面々の方に視線を向けて、こう続ける。
「今回の撮影、楽しかったぜ。
 俺みたいなのが言うのもなんだが、お前たちには才能がある。
 この先もしっかり頑張って、俺なんかよりずっとずっとでっかい映画人になりな」
 それから、彼は草間の方に向き直って、深く頭を下げた。
「草間さんよ、アンタにもずいぶん迷惑かけたな。
 けど、これでようやく成仏できそうだ……この恩は、向こうで必ず返すぜ」
 そう言い終えて、顔を上げた黒原の姿が、徐々にかすれて、薄くなっていく。
「じゃあな、あばよ……」
 その言葉を残して、黒原は天へと帰った。
 後を追うように、幽霊スタッフ達も、一人、また一人と成仏していく。
 その様子を、シュラインたちは黙って見送った。





 その後。
「で、なんでまたアンタだけ残ってんだよ!」
 北斗のツッコミに、今回唯一成仏しなかった幽霊――治紀は、真面目な顔できっぱりと答えた。
「いや、僕がやりたいのは役者じゃなくて、あくまでお笑いですから。
 今回の撮影は楽しかったですけど、まだまだこの程度じゃ成仏できませんよ」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0526 / ウォレス・グランブラッド / 男性 / 150 / 自称・英会話学校講師
0086 /   シュライン・エマ   / 女性 /  26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0568 /    守崎・北斗     / 男性 /  17 / 高校生
0554 /    守崎・啓斗     / 男性 /  17 / 高校生
0424 /    水野・想司     / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター
0759 /    海塚・要      / 男性 / 999 / 魔王

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私の依頼にご参加下さいまして誠にありがとうございました。

 さて、今回は何やらいろいろ出てきてしまって(笑)大長編になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で十のパートで構成されており、二番目、及び四番目から八番目までのパートについては複数の種類がございますので、よろしければ他の参加者の方の分もご覧になっていただけると幸いです。

・関連ノベルについて
 今回のノベル中で語られた「過去の事件」には、以下の拙作三編(いずれも草間興信所)が該当いたします。
 「ボケは死んでも治らない?」「消えた部室の謎」「どこかで聞いたような何か」
 ノベルに登場した一部のNPCについての記述もありますので、興味のある方はぜひご覧になって下さいませ。

・個別通信(ウォレス・グランブラッド様)
 二度目のご参加ありがとうございます。
 さて、ウォレスさんには英国出身のサムライ「ウィリー・ザ・サムライ」の役をやっていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
 もし何かありましたら、遠慮なくお知らせいただけると幸いです。