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<東京怪談・PCゲームノベル>


エイプリルフールは大混乱!!


 がしっと、メガホンを手にしたのは田中・裕介(たなか・ゆうすけ)だった。
「今日、このあやかし荘にいる女性全員がそれぞれ違うメイド服を着ている!!」
「なっ、なんてこと言うんですかー!」
 三下があわあわと挙動不審な動きをする。祐介は無言でメガホンを三下に手渡した。
 すぐにばたばたという音が響いて、あやかし荘の管理人である因幡恵が飛び込んできた。
「ちょっとこれは一体どういうことなんですか、三下さん!!」
 恵は、黒と白のメイド服になっていた。ふんわりと広がった黒いミニスカートから白いフリフリのレースが覗いている。頭の上にもきちんと白いレースが巻いてある。
「か、可愛い……。」
 祐介は感動してそう呟いた。
「エイプリルフールだから、俺の作ったメガホンで嘘ついてたんだよー。何でも本当になる、不思議なメガホン。名付けて『ウソつきペンペンくんPT5号』!」
 アキラの発言を聞いて、恵は三下に詰め寄った。
「なんで、私がこんな格好になってるんですか?!」
「ぼ、僕じゃありませんよぉ〜〜。」
「その手に持ってるものは何なんですか?」
「え? ええええー!! ゆ、祐介さん!!」
 ちゃっかり罪をなすりつけられたことに気付いて、三下が絶叫する。
「三下がそんな大胆なことが出来るとは思えんがのう。」
 嬉璃が溜息を付きながら、その光景を見守った。嬉璃の服は恵と形はお揃いだが、濃い青色と色が違った。
 ちらりと祐介を見やる嬉璃の視線が痛い。祐介はポーカーフェイスでそれを乗り切った。
「嬉璃も可愛いよ〜。」
 アキラが褒めてやると満更でもない顔をした。意外に単純であるらしい。
「これで嘘ついたら本当になるんですね。だったら……。」
 恵が三下の持つメガホンに手を出そうとするので、祐介は慌ててそれを奪い取った。
「このメガホンは女性には触れません。」
「なんてことを!」
 信用できず、恵はメガホンに手を伸ばす。何か膜に覆われているようで、メガホンから数ミリの距離がちっとも縮まらない。
「そんな……。」
 恵はがっくりと膝をついた。
「あやかし荘にいた女性はこれだけ?」
「綾さんと柚葉ちゃんは外に出てるからいないわよ。」
「じゃあ、歌姫さんはいるんだな。」
 祐介がうっとりと呟いたとき、自作の歌を歌いながら、歌姫が現れる。
「恨み深〜きこの胸に〜。」
「歌姫さん!」
 祐介は目を輝かせて歌姫を見つめた。
 彼女はミニスカートのチャイナの上に白いエプロンをつけるというメイド服だったのだ。日頃和服ばかりを着用している歌姫のチャイナ服に、祐介はメロメロになった。
「すごく似合ってる。……美しい。」
 歌姫はにこっと笑うと、持ってきたお盆から湯のみをテーブルの上に並べ始めた。本当にメイドみたいな行動にも、祐介は感激する。
「これ、本当に直らないんですか? 原理はどうなってるんです?」
 三下では埒があかないと悟った恵は、続いてアキラを問い詰める。
「今日一日だから我慢してよー。可愛いからいいじゃん。」
「よくないです!」
 恵は怒り心頭らしい。
 祐介はその光景を眺めながら、歌姫の淹れてくれたお茶に手を伸ばした。
 喉を潤してから、悲鳴を上げて飛び上がった。
「か、辛い!!」
 熱湯であったため辛さが増しており、祐介は口を手で押さえて呻いた。不意に歌姫の悲しそうな表情を見て居たたまれなくなってしまう。
「美味しいですよ。」
 涙ながらにそう訴えると、歌姫は嬉しそうに微笑んだ。
(か、かなり怒ってますよぉ〜〜〜。)
 辛いお茶が歌姫の報復であることを理解した三下は、心の中で泣いていた。しかも、ひどく心外そうな演技をする彼女がどれほど怒っているのか分かるというものだ。祐介は気付いていないようだったが。



「たのもー。」
 北波・大吾(きたらみ・だいご)が学ランに霊紋刀が入った竹刀いれを持ってやってきたのは、メイド騒動が鎮静化した頃だった。祐介に辛いお茶とお菓子の波状攻撃を一通り喰らわして、歌姫は満足したらしい。恵はすっかり落ち込んでしまっている。嬉璃は達観してしまっており、アキラと共に(普通の)お茶を啜っていた。
 部屋の中をぐるっと見回して(なんでその場にいる女がカフェにいるような制服を着ているのか不思議に思った)、アキラの元へと歩み寄る。そして、じろじろと眺め出した。
「こんにちは?」
 不思議そうに首を傾げながら、アキラは愛想よく挨拶をしてくる。
「俺より年下じゃねェか。こりゃ、キツい事はできねーな。」
「は?」
「お前、本当に理科室、魔界にしてンのかよ?」
「さあ。俺、魔界なんて行ったことないから知らない。」
 至極最もなアキラの返答に、大吾はきらりと目を光らせた。生意気なガキだという認識だけが植え付けられた。
「ガキの癖に、なんてマッドサイエンティストだッ。俺が天に代わって成敗してやるッ! 俺の義姉の寝言なんだが……。」
 霊紋刀を抜き出そうとするので、アキラがびっくりして目を丸くした。ついでに両手を挙げて保身を図る。大吾はふと、視線を落として、いいことを思いつく。
「あのさ、そのメガホンで霊紋刀の威力なりを上げる事とかも出来るのか?」
「出来るけどー。効力が一日しかもたないよ?」
「ちっ、使えねぇな。」
「まーとりあえず、どうぞ。」
 祐介が笑顔でメガホンを大吾に渡してくる。何を言おうか少しの間考えて、大吾はメガホンを握った。
「ねー。何で中2は皆……ふんどししてるの?」
 言った後、アキラの表情がさっと変わった。眉を寄せて難しい顔をしている。
「始業式があるまでは、中2は中2だろーからな。そもそも、男の癖にしてねーほーが悪いンだ。」
 勝ち誇ったように大吾が言い放つ。彼はふんどしの愛用者であるのだ。
 アキラが困ったように小首を傾げた。
「その言い方はダメだよ〜。中2の子みんなふんどしになっちゃうよ? 女の子も。」
「………………。」
 大吾はしばし絶句した後、だらだらと汗をかき始めた。
「……いいじゃねェか、春の訪れに、ここは一つ男気っつゥ……。」
「うん。別にそう考えるのは勝手だけどね。だから、女の子までふんどしになっちゃうってことだよ。」
「…………俺、殺されっかな。」
「うん。多分殺されるね。」
 大吾は凹んで部屋の隅に蹲る。
「アキラ、お前ふんどしになったのか?」
 祐介が面白そうにそう聞いてきた。
「見たい?」
「見たくはないけど、どうなんだって聞いてるんだよ。」
「ふんどしになってるわけないじゃん!」
「何でだ?!!」
 大吾が半泣きになりながらアキラに噛み付いた。
「だって今日は4月1日。普通学生って3月末までしか保証されてないの。ほら、生徒手帳。3月末まで有効になってるでしょ。始業式始まるまで、俺たち身分不詳なんだよ。」
「………………。」
「よかったねー。殺されなくて済んだじゃん。」
 にこっとアキラが笑う。大吾は呆然としていた。
「ほっとしたのか残念なのか分かンねぇ……。」
「それとも新中2がふんどしになってて欲しかった?」
 アキラに報復するつもりが、それでは全く関係がなくなってしまう。大吾はがっくりと肩を落とした。完敗である。
「やっぱこんなのがあるのがいけないんだよな。残ってたら危険だし。」
 祐介はメガホンを地面に落として踏みつけた。
「あああ!」
 アキラが踏み潰されたメガホンに駆け寄る。恵もこのメイド服から脱出するためにどうにかしてメガホンを使おうと思っていたので(三下を脅して使わせるとか)、悲鳴を上げる。
「ウソつきペンペンくんPT5号がっ!!」
 壊されて哀しんでいるアキラに大吾は首を傾げた。
「ふと思うんだが、5号ってことはそれ以前があるんだよな。それ以前は失敗作か?」
「ううん。これが一番初めの奴。」
「だったらなんで5号?」
「気分。ちなみに、PTはプロトタイプの略。」
「……あっそ。」
 大吾はアキラの性格が分かったような、分からないような微妙な気分を味わった。


 *END*


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1098 / 田中・裕介(たなか・ゆうすけ) / 男 / 18歳 / 高校生兼何でも屋】
【1048 / 北波・大吾(きたらみ・だいご) / 男 / 15歳 / 高校生】
(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
4月1日ぎりぎり無理でしたね…すみません。
楽しい嘘をどうもありがとうございました。
如何でしたか? 満足して頂けたら幸いです。
それでは、また機会があったらお目にかかりましょう。