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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:東京鬼奇譚 ─ 弐 ─
執筆ライター  :紺野ふずき
調査組織名   :草間興信所

■ オープニング ■

『練馬区向山で行方不明少女、保護される。この少女は下校途中、何者かに連れ去られた形跡があり、二日前に警察で公開捜査に踏み切った所だった。保護された時、少女はまるで一ヶ月も飲まず食わずで居たような憔悴ぶりだったと言う。少女が連れ去られてからまだ三日しか経っていないと、関係者は首をひねっている。また付近には指定暴力団『極勢会本部』があり、少女の誘拐に黒いベンツが目撃されている事から、警察では関連の有無を調べている』
「か……」
 草間は読んでいた新聞を放り出すと、火のないタバコを唇の端に挟んだ。
 ここ一週間ばかり、こういった事件が練馬区で多発している。怪奇探偵としては──いや、探偵としては大いに気になる所だった。
 行方不明者の失踪状況はバラバラだが、一致する点が三つある。誘拐には黒いベンツが使用されている事、必ずこの練馬区向山で見つかると言う事、それに発見時には生気を抜き取られたような状態である事だ。
「さて、どうしたものか……」
 追ってみようか、否か。やらなければならない事はたくさんある。そこへ──
 ダムッ、ダムッ、ダムッ──
「た、武さん! いる? 俺、四月朔日(わたぬき)だけど!」
 と、黒いパーカーにジーンズ姿の青年が転がり込んできた。彼の名は四月朔日・頼火(らいか)。退魔家業を継いだばかりの十九才だ。その筋にかけては、まだまだ果てしなくひよっこである。腰には柄だけの刀を下げており、くしゃくしゃの短い髪と、元気だけは人一倍ありそうな目をしていた。
 困った事があると草間を訪ねてくるのだが、今日もまた何か厄介事が発生したのだろう。手には銀色のアタッシュケースを提げている。草間はやれやれと肩をすくめた。
「今日はどうしたんだ?」
 前回は遊園地で着ぐるみを着ての鬼退治だった。慌てて飛んできて同様の内容なら、追い出してやろうかと言う視線を、草間は投げた。
「そ、そんな顔しなくてもいいだろ? また人手を頼みたいんだ」
「内容次第だな」
 草間はタバコに火を付ける。頼火は「むう」と唸った。
「実は、また『鬼』が出たんだ。しかもタチの悪い……。触れた相手から生気を吸い取るだけじゃなく、気にいった相手に乗り移る事も出来る。吸い取った相手を操る事も出来るんだ」
「生気を、ね……」
「うん、それをこないだ追っかけてて逃がしたんだよ」
 草間は深く息を吸い込んだ。チラリと頼火を見る。頼火はバツの悪そうな顔で頭を掻いた。
「どこで逃がしたんだ?」
「としまえんの近く。練馬区だよ」
「失格」
「え?」
「いや、何でもない。ならもう居場所の見当はついてる。間違いないとは思うが……」
「さすが、武さん!」
 頼火は顔を明らめて、アタッシュケースを広げた。中に入っていたのは、銃身が銀色の拳銃が五丁。草間の眉根が思わず寄った。
「Beretta 92FS。弾は9x19mm パラベラム。空気銃だよ」
 頼火は草間にカートリッジを手渡した。中には玉が十五発、表面に梵字が描かれている。
「鬼退治用の呪さ。逃げられてから大分経ってるからね。相手の数が分からないから、あった方がいいかと思って」
「分かった。とにかく行ける手があるかどうか、探してみよう」
 頼火は「そうこなくちゃ」と指を弾いた。


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■■ 二十五時の侵入 ■■

 極勢会──
 池袋や新宿などを拠点とし、一都一道十三県に及んで暗躍する、二千人近い構成員を抱えた指定暴力団である。代表者は、永周成(えい・しゅうせい)。その根城は練馬区向山にあった。
 シュライン・エマ、北波(きたらみ)大吾、四月朔日(わたぬき)頼火の三人は、永の自宅でもあり極勢会本部でもある、この向山に訪れていた。
「こんな時間にどこへ行くのかしら」
「散歩、なわけないか」
 細い月が空で笑う二十五時。
 瓦を乗せた白壁の塀。三間にも渡る通用口は、白木で組まれた純和風の数寄屋門だ。構えた屋根は重々しい。右手脇にインターホンと小さなくぐり戸がついているが、男はそこから現れた。
 まだ若い、二十代そこそこのチンピラ風情である。男は、曲がり角に隠れている三人に気づきもせず、急ぎ足で街灯の向こうへ消えた。後には元の静寂が残される。
「とりあえず、あそこから中へ入れそうだな」
 男が鍵をかけていった様子は無い。
 大吾は手にしていた竹刀入れから、刀を抜き出した。鞘付きの、ズシリと重い日本刀だ。刀身に文字の刻まれた、大吾の愛刀だ。大吾は鞘から刃を引くと、そこに言霊を落とした。
「邪気を放つ者、鬼、異形の徒を探せ」
 大吾の声に応じるように、刀が鈍い光を発した。頼火は興味津々で、それを覗き込む。
「へえ、いいなぁ。俺のはこれしかないからなぁ」
 そう言って、頼火はベルトに差していた柄を裏返した。刀身はどこへ消えたのか。根本から折れて無くなっている。
「どうしてこうなったの?」
 シュラインが問うと、頼火はサラリと明るく言い流した。
「俺にも分からない。退魔師だった親父の形見なんだけど、これ握って死んでたんだ」
 半年前の事である。仕事へ行くと出かけ、頼火の父はそのまま帰らぬ人となった。どんな依頼を受け、何が起きたのか頼火は知らない。それまで大学生として平和な日々を送っていたが、急遽、家筋を引き継ぐ物として退魔業に本腰を入れざるを得なくなったのだ。
 軽い修行はしてきたものの、実戦経験はまるで無い。彼が頼りないのは、そのせいだろう。
 話を聞いたシュラインは、事務所で借り受けたエアガンを取り出した。頼火の用意した物である。そこに不安げな視線を落とした。
「……どうしたんだ?」
 大吾が眉根を寄せる。シュラインは顔を上げた。
「……まさか、ここに書かれてる文字は『当たれ』、とか『命中』とかじゃないわよね?」
 と、カートリッジの中に一発だけ収めた弾丸を指す。
 前回、頼火はシュラインに鬼の可視化の呪をかけた。その時に手の平を通して送った気は、『鬼の顔』と『必勝』だ。結果、シュラインは、鬼を見る事が出来るようになったのだが、本人は、それでよく見えたもんだと、感心したのだ。
 恐ろしい程に、一生懸命でいい加減なのである。
 シュラインはそれを思い出していた。
「大丈夫。ちゃんと本を見て書いた、呪詛の詞だよ」
「それならいいんだけど……」
「……って、本当に大丈夫なのか?」
 一瞬、涼しい笑みが三人の顔に浮かんだ。
「ま、まあ、大丈夫だよ。いざとなったら俺が何とかするから」
 不信感露わなシュラインの肩を、大吾が叩く。
「俺と、この霊紋刀もあるしな! 早いとこ中へ入ろうぜ。さっきのヤツが戻ってこないとも限らないしな」
「そうね。ここで立ち話してる場合じゃないわよね」
 シュラインは頷くと、銃をバッグに収めた。


■■ 同時刻──別地 ■■

「御仏の慈悲が届かぬが故……鬼に堕ちる。その鬼を救う為、御仏は慈悲心から忿怒を持って正しき道を示す。此度……儂も、忿怒を以てか。心苦しくはあるが、いた仕方あるまい──」
 黙々と歩を進めていた浄業院是戒は、目的地に辿り着き立ち止まった。
「ほお、これは見事よ」
 染井吉野に、八重桜。栄華の夢たる夜桜が是戒を迎える。
 歩道の両脇を埋める樹々は、音も無く花を降らしていた。二人の仲間──真名神慶悟、水無瀬龍凰もそこに佇んでいる。
 場所は同区春日町にある『としまえん』の入口だ。永の自宅の向山から、ものの数百メートルと離れていない。
「ここで間違いは無かったようだ」
 笑いかける是戒に、慶悟はどうかなと肩をすくめる。
「生気を吸い取るという資質。人が多く集まる場所……。吸い取る側にしてみれば都合がいいといえば良い。その判断でここへ来てみたが……当の本人がいない」
「む? そうなのか」
 龍凰も頷く。
「ああ。もしかすると、極勢会本部とやらの方かもしれねえ」
 フライングパイレーツや、シャトルループなどの大型遊具が、暗い空に向かってそびえている。ネオンの消えた遊園地は、不気味な程に静まりかえっていた。
「こうして立っていても拉致があかない。思いっきりハズレで何も出来なかった、では話にならないしな……」
 慶悟は呪を唱えると、十二神将を召喚した。現れた異形は、慶悟に命ぜられるがままに、園内に散ってゆく。数体が主の護衛に残った。
「それじゃ、俺達も──」
 龍凰は言いかけて、口を噤んだ。男が一人近づいてくるのだ。是戒も目を凝らした。
「あれは……、四月朔日殿か……?」
 それにしては少し年がいっているように見える。遠目に見た服装も、ごろつきのようだ。
「……違うな」
 慶悟は声のトーンを落とした。神将がにわかに殺気立つ。男は三人を認めるや否や立ち止まった。キョロキョロと辺りを見回し、踵を返すと元来た道を走り出す。
「鬼か!?」
 三人は間髪置かずに駆けだした。


■■ 合流 ■■

 屋敷からは何の物音も聞こえない。
 大吾がくぐり戸に手をかけると、それは何の抵抗もなく横に滑った。カラカラと小気味の良い音がする。シュラインは人気の有無を確認する為、辺りをザッと見渡した。
「とりあえず、大丈夫みたいね」
 三人は手近な植え込みの裏に飛び込み、そこに身を潜めた。
 砂利敷きの広い敷地には、刈り込まれた松や石灯籠、それに巨大な庭石が置いてある。門扉から正面奥の邸宅までは、点々と渡り石が続いていた。家は長屋で、やはり純和風のどっしりとした造りだ。部屋のいくつかには明かりが点いていた。
「あれが例のベンツか?」
 大吾は家の右側に連なるカーポートを指さした。
 黒二台、銀一台。いずれも上級クラスだと思われるメルセデスが、停まっている。ヘッドライトが番犬を気取るように、こちらをギロリと睨んでいた。
 近頃、周辺で起きている誘拐事件は、全て黒いベンツが絡んでいる。まだ、この車だと断定は出来ないが、被害者が発見時に生気を抜き取られたような状態である事、頼火が鬼を見失った場所がこの周辺である事を考えれば、鬼が暴力団関係者を操り、事件を引き起こしている可能性は高い。
「ね、人に乗り移る事が出来るって言ってたけど、その方法は? 乗り移った体でもそれは出来るのかしら」
 屋敷の明かりを見つめていた頼火は、シュラインの問いに振り返った。
「方法は接触。でもただ触れるだけじゃないみたいだ。こうしてから──」
 頼火は自分の頭を右手で鷲掴んだ。
「取り憑くまで少し時間がかかった。それから同じ方法で、人から人へ渡る事も出来る」
「なら、頭さえ取られなきゃいいわけだな?」
 大吾が言うと、頼火は頷いた。
「それと操られてる人達に気をつけるように。鬼の本体を逃がす為に、妨害してくるから」
 ジャリ、と音がして一同は、一瞬身をすくめた。闇に映える白い体が横切って行く。
 猫だ。
 猫は悠々とした動作で、塀を乗り越えて消えた。

 前方を逃げる男の背を見つめて、龍凰は言った。
「どうする。このまま泳がすか、やっちまうか」
「闇雲に逃げているとは思えん。様子を見るとしよう」
 是戒の言葉に、龍凰は頷いた。
 男の脚は遅い。角を曲がり、直進し。追従する三人の視界から消える心配は全く無かった。手足を大きく振っているが、それに応じた速度が出ていない。
「様子が変だな。無駄な動きが多い。まるで──」
 操り人形のようだ。だが、単に操られているだけにしては、神将達の反応は大きかった。
 これが鬼そのものだとしたら、乗っ取った体に馴染むには、時間が必要なのかも知れない。
 走る慶悟達の視界に、長い白壁の家が見えてきた。
 
「ねえ、そう都合良く鍵が開いてるかしら……」
 門扉は難なく通過できたが、玄関はどうだろうか。三人は物影を伝って、玄関にほど近いガレージまで移動した。そこから玄関の様子を伺う。
「俺、見てくる」
 大吾は足音を殺して扉に近づくと、千本格子の引き戸に手をかけた。その感触は先程のくぐり戸と同じだ。軽い。
 少し力を入れると、簡単に隙間が空いた。先程の若い衆が、閉め忘れたのだろうか。
 大吾は手でシュラインと頼火を招き寄せた。
「随分と不用心な家だな」
「開いてるの?」
 大吾は頷いて、ゆっくりと戸を開けた。人一人が入る位まで、戸を滑らせる。
 と、刀が突然、鳴き始めた。音では無く、気で。
 鬼を感知したのだ。大吾は咄嗟に、剣を鞘走った。
 塀の向こうから、数人の足音が聞こえた。
「な、何かしら」
「戻ろう」
 頼火はシュラインの腕を引き、大吾と共に再びガレージに身を潜めた。
 くぐり戸が軽快に開かれ、男が飛び込んでくる。
「さっき出てったヤツだ!」
 大吾は驚いて、立ち上がった。
 男の後から次々と影が入ってくる。その数は、三つ。
「あれ、真名神君じゃない」
「本当だ! じゃあ、あの男は──」
 大吾、シュライン、頼火の三人は男の行く手を遮るべく、庭に飛び出した。
「やっぱりこっちだったのか!」
 龍凰が回り込みながら叫ぶ。
 男は前後を塞がれて立ち止まった。その目が逃げ場を探して彷徨う。そして、逃げられぬと悟ったのか、鬼はとうとう男の体を手放した。乗っ取られていた体が、地に頽れた。
 後に残ったのは、節くれ立った毛の無い体と、眉間から延びる角が一本。シュラインは銃に手をかけた。
「鬼……」
 鬼は大きく口を開いた。下顎から突きだした円錐型の牙の間から、ねばっこい液体がこぼれ落ちる。鼻は上を向き、目は垂れ下がった瞼に隠れて見えなかった。全体的に黒く、ぶよぶよとしている。
 鬼は歯を小刻みに打ち鳴らした。
 それが合図だったのだろう。家のガラスと言うガラスが、派手な音を立てて一斉に割れた。中から木刀や、刀を手にした男達が飛び出してくる。
「様子見は終わりだ、片を付けさせてもらう」
 跳躍する男達に、慶悟の十二神将が飛びかかった。素早く印を切り九字を唱える。男達の動きが止まった。縛の呪だ。
「人の世にでしゃばり過ぎだ。散れ!」
 慶悟の声と共に雷鳴が閃いた。男達の体にそれが突き刺さる。倒れ行く体を除けながら、シュラインは鬼と対峙した。
「一か八か、ね」
 銃を構え、引き金を引く。軽い衝撃があって、弾が射出された。鬼は倒れた男をすくい上げる。銃弾は楯代わりとなった男に、命中した。鬼はシュラインに手を伸ばす。
「これが通用するといいけど──」
 シュラインは大きく息を吸い込んだ。鬼の苦手な物を連想して、それを声にする。
 シュラインの口元から、豆の爆ぜる音がはじけ飛んだ。鬼は、歯噛みして耳を塞いだ。
「イギャァァァァァ」
 ザリザリとした、甲高い絶叫を上げる。操られている者達の動きが、一瞬止まった。大吾はその瞬間を見逃さなかった。
「死と美の、黄泉の──花園の如く燃え広がれ。『火焔蓮華法っ!』」
 言葉の焔が舞い上がる。鬼に捕らわれた者達が、その熱波に飲まれて気を失った。
「人を陥れ……、御仏の慈悲に背かば、忿怒の明王参りてその身を焼かん」
 是戒は、二本の指を顔の前に据えた。
「ナウマクサマンダ──」
「俺も……」
 龍凰の赤い髪が、それ以上に紅い焔に包まれる。二人同時に、火を放った。
「行かせてもらうぜ!」
「バザラタンカン!」
 二つの異なる業火が、鬼を包み込む。燃えさかる炎の中で、鬼は両手を突き上げた。いくつかの光の弾が、そこから発せられる。それは一度空に上がり、東の方角へ向かって消えた。
「今のは──?」
 大吾の呟きに、慶悟は眉を潜める。
「……命? いや、吸い取った生気か……?」
「うむ。そのように見えた。恐らくは、今まで手に入れた魂の欠片。解放されたなら、元の主の所へ帰るはずだが、皆、同じ方向へ流れた。もしかすると、どこかに受け取る者がおるのかもしれん」
 是戒も厳しい表情をしている。
 誰か通報した者がいるのか。遠くからサイレンの音がやってくる。
「これだけ派手に騒いじゃなあ」
 龍凰は周囲を見回した。サッシュのガラスは割れ、庭中に飛び散っている。三十名近い極勢会のメンバーが、あちこちで折り重なって倒れていた。その中に──
「……やだ、どうしたのかしら……」
 シュラインは呆然と、足下を見下ろした。
 頼火が地面に突っ伏していたのだ。どうやら先程の鬼の悲鳴で気を失ってしまったらしい。ピクリとも動かなかった。
「本当に頼んねぇ、退魔師だな」
「……神将、かついでやれ」
 龍凰と慶悟が呆れ顔をする中、是戒と大吾は顔を見合わせた。
 赤色灯が永宅に滑り込んだ時、六人の姿はその場から消えていた。


■■ そして ■■

「『極勢会本部、急襲! 組長含む会員三十名が、謎の気絶。誘拐事件全面関与、車から被害者の毛根』……面白い記事だろう?」
 草間に言われて、頼火はぼんやりと新聞を眺めた。意識を取り戻したのは、事務所のソファーの上だった。
「『謎の気絶』……。俺は何で、ここで寝てんの?」
「覚えてないのか?」
「ない」
 頼火は腕に出来た擦り傷へ、目を落とした。頭も痛む。触れると大きな瘤が出来ていた。
 草間は頼火が首を傾げているのに気づいたが、あえて口を添えなかった。
 何故なら、話すと怒られそうだったからだ。
「……全部片づいたんだね」
 頼火は腰をさすっている。そこも痛むらしい。
「あ、ああ。落着だ」
 草間は頼火から目を逸らした。
「じゃあ、皆にお礼言わなくちゃ」
 フラフラと頼火が事務所から出ていくのを、草間は苦笑いで見送る。
「さて、お礼を言われた連中の顔は見物だろうな……」
 草間は緩くなったコーヒーに口をつけた。

 * * * * * * * * * * * * 

『これ、どうする』
『ああ、じゃあ、その辺に適当に──』
『捨てとくか!』
 ボイ──
『!』

 寝かせておいてくれ。
 草間はそう言うつもりだった。
 しかし、大吾が言った冗談を真に受けて、神将は頼火を通りに向かって放り投げたのだ。
 止めようと上げたシュラインの手は、中途半端な位置で固まった。慶悟は沈黙して神将を見た。頼火は万歳した体勢で倒れたまま、目を覚まさない。
「……ま、大丈夫だろう」
「そ、そうね……、武彦さん。後、よろしく」
「俺はここにいなかった、っつう事で」
「さ、さあ、腹減っちまったから、飯でも喰って帰るか!」
 ゾロゾロと事務所から去って行く最後尾、大阿闍梨だけが頼火に心配そうな目を向けていた。


                        終




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 (年齢) > 性別 / 職業】
     
【0086 / シュライン・エマ(26)】
     女 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
     
     
【0389 / 真名神・慶悟 / まながみ・けいご(20)】
     男 / 陰陽師
     
【0445 / 水無瀬・龍凰 / みなせ・りゅうおう(15)】
     男 / 無職
     
【0838 / 浄業院・是戒 / じょうごういん・ぜかい(55)】
     男 / 真言宗・大阿闍梨位の密教僧
     
【1048 / 北波・大吾 / きたらみ・だいご(15)】
     男 / 高校生
     
     
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■          あとがき           ■
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 こんにちわ、紺野です。
 大変、お待たせしてしまいました。
 本当にごめんなさい。
 
 今回、初めてお逢いできた方、いつもお世話になっている方、
 この度は当依頼を解決してくださり、誠にありがとうございました。
 
 さて、お話をテンポよく進めたい所なのですが、
 現在、壮絶な花粉症で生きる屍と化しています。
 皆様は大丈夫ですか?
 私は毎日が鼻声で、地の声を忘れてしまいました(汗)
 早くこの季節が過ぎる事を願うばかりです。
 
 次回はギャグか、『鬼奇譚 ─参─』になります。
 
 それでは今後ますますの皆様のご活躍を祈りながら、
 またお逢いできますよう……
 
                   紺野ふずき 拝
(前回も確か、こんな感じの冴えないコメントでしたね……f(^ー^;)