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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


少女ばーさす吸血鬼ぱにっく

■オープニング■

 やかましい。
 心中、草間は嘆く。
 何がやかましいかと言えば久々の依頼人。それも一応普通そうな依頼の…と付く、心から求めていた客。
 …の筈だったのだが。それはやはり幻想だったらしい。
 依頼人のこの少女、つい今し方まで真っ当に人捜しの依頼を話していたかと思ったら…途中でいきなり妙な暴挙に出た。そのしなやかな細腕から、彼女の真横に突如発された激しい炎。その先にこれまた突如現れていたのは妙齢の貴婦人。夜の似合う色香を持つ姿。口許には牙の如き乱杭歯。顔色も鑑み、単純に考えて吸血鬼。
 何の脈絡も無く、いきなり目前でバトルが繰り広げられ始める。それを見ておろおろと心配する零の姿。…とは言え草間が心配なのか事務所内の後始末が心配なのか微妙なところだが。
 草間はと言えばぎょっと目を見開くが次の瞬間――諦めた。
 …んなもんに横から手なんぞ出せるか。
 草間は憮然と黙り込む。…妙な事態にはいい加減慣れた。
 そのまま暫く黙って成り行きを見守っていたが、やがて草間は突然椅子から立ち上がる。
 反射的に騒ぎが止まった。忘れられていたようでも、やはり本当には忘れられていなかったらしい。
「取り敢えず」
 草間は悠然とした足取りで窓に向かい、達観した様子で、外を眺めた。
「続きは外でやってもらおうか?」
 …が、その穏やかな背中から聞こえたのは、むやみやたらとドスの利いた低音だったのは気のせいか。


■状況把握■

「こんにちはー、って…え?」
 …学校帰りに草間興信所のドアを開いた海原(うなばら)みなもは瞬間的に凍り付いた。
 顔を出した途端に所内からの注目を浴びる。突き刺さる険呑な視線がふたつ、おろおろ困って助けを求めるような視線がひとつ、――そして感情の読めない視線がひとつ、煙草を吹かして一見、平気な顔でいた。
 もひとつおまけに室内の惨状には目を覆いたい。
「あ、あの…お取り込み中でしょうか?」
「あああ、みなもさんちょうど良かったですー!」
「え?」
 縋るように飛び付いて来た「助けを求めるような視線」の主――零の様子にみなもは驚く。
「依頼人さんが暴れ出しちゃって困ってたんですー! 草間さんもキレちゃいますし、何より後の御掃除が――」
「え? 御掃除?」
「手伝ってくれますよね? みなもさん?」
 有無を言わせぬ零の科白。細腕とは言え初期型霊鬼兵。みなもを捕まえてがっちりと離さない。
 …科白の要点としては『御掃除を手伝え』。
 なんだそりゃ?
 この騒動(?)を止めないと現状より更にその必要が増えるって事!?
 と、一応ながら理解したみなもの、その背後に。
 今度は和風美少女が立っていた。
「何をなさってるんです、皆様? …ってあの? ちょっと? え?」
 彼女――天薙撫子(あまなぎ・なでしこ)がみなもの背後からドアの中を覗き込む間にも、何やら修羅場の気配がひしひしと。
 一瞬呆然とするが、すぐに撫子は中の様子を一通り見回し状況を確認する。
 その最後、一見平気な顔をしているが奇妙に「感情の読めない視線」の主――草間の尋常ならざる様子を認めた。
 ――これは、まずい。
 思ったところで、
「よかったあああ撫子さんもいらして下さったんですねー!」
 零の声。
「零様――でも止められなかったんですね」
「い、いきなりだったんですよー! 事務所内めちゃくちゃなんですー! どうしましょうー!」
 見るからにパニック状態。
 …所内の惨状がそんなにショックなのか。
「あれあれー? 今日は随分と可愛い女の子がいっぱい居ますね、草間さん。僕の日頃の行いがいいからかな?」
 撫子の後ろから男が顔を出した。「キミ、名前は?」などと撫子、みなも、零、と近いところから早々に口説きに掛かっている。所内の惨状も視界に入っているだろうに、まったく気にしていないのもある意味凄い。
「…葵か。ちょうど良かった。まとめて連れて行ってくれ」
 五人目の来訪者である男――葵の姿を確認するなり、草間はぼそりと吐き捨てた。
「え? 良いんですか? ま、良くなくても僕はそうしますけどね☆」
 にっこりと、嬉しそうな甘いマスク。
 みなもと撫子はぎょっとした。どうやら「まとめて」の中に自分たちも含まれている。
「ちょ、ちょっと待って下さい草間さん!?」
「あの草間様!?」
 けれど草間は聞く耳持たない。…どうやら本格的にキレている。何を言っても無駄のよう。
 咄嗟に焦るみなもと撫子の様子も気にせず、葵と呼ばれた男は良く響くテノールで話し出した。
「初めましてお嬢様方。僕は相生葵(そうじょう・あおい)と言います。葵と呼んでね?」
 さらりと言うと所内へ足を踏み入れる。
 優雅に歩みを進め、一度だけ指を鳴らした。
 呼応するように少女の手から炎が消える。驚いて見たそこには水の気配。
 葵は少女に微笑みかけた。
「こんなところで火なんかつけたら、危ないよ?」
 次には吸血鬼らしい妙齢の女性に向かう。葵は跪いて手を取った。
「お会い出来て光栄です。美しいひと」
 その甲に、そっと掠めるように口付ける。手を取られた彼女の方は面白そうに葵を見た。
「…こんなところに割って入ったら、危ないわよ?」
 笑みを含んだその科白が終わるか終わらないかの内に、葵の背後で不穏な気配が膨れ上がる。

 直後に再び炎が舞っていた。


■説得(?)開始■

「何あんた?」
 依頼人の少女は憮然としたままぼそりと呟く。
「…ず、随分積極的なんだね、キミ」
 真っ直ぐ発された炎の槍に、反射的にみなもは葵を庇う形で水の壁を張っていた。
「大丈夫ですか! 相生さん!」
「…有難うね。みなもちゃん。でも出来れば葵と呼んで欲しいな?」
「何でもいいですから早く炎の届かないとこに逃げちゃって下さいこれ長くはもたないんです…!」
 言う間にも炎に押される水の壁。
「えーと…やっぱりもちません…!」
「…では、わたくしが代わりましょう」
 言って撫子が捕縛の為妖斬鋼糸――対『妖』用に便利な道具、神鉄製の鋼の糸――をあっさりと繰り出す。
 …但し今回、捕縛対象はどうやら妖の類でないが。
「きゃっ!」
 煌く糸は火を発しているデバイスの役目と思われる少女の指、手首、腕から先に絡め取る。
 撫子の妖斬鋼糸は大して時を置かず少女の行動の自由を奪ってしまった。

■■■

 暫しの冷却後。
「…大丈夫です。解いて下さい。もう暴れません」
 冷静な少女の声。
 少し考えてから撫子は妖斬鋼糸を解いた。
「私は――」
 それから少女が語りだす。
 …私の名前は相楽(さがら)まのみと言います。人を捜す為にここに来ました。保護する為です。私ひとりの力では情報収集にも限界がありますから。探偵さんに頼む、と言うのも選択肢のひとつではあったんです。
「この『炎』は神に授かった奇蹟の力」
「…貴方は、キリスト教の?」
「はい。カトリックです」
 ヴァチカンの列聖省も確認している祝福された奇蹟――彼女の「炎」はそう言う事になっている。
 一歩間違えれば魔女だった。だが両親の信心深さ故か、聖なる奇蹟と認められた。
 けれどその代わりに、密かに魔を滅する役目を、任された。無論正式なエクソシストと言う訳ではないが、力あるものの責任として。
「――捜しているのは、イオって男の子です。…早々に保護しなければならない、って言われたんです。
 それをこの『神の敵』が毎度毎度余計なちょっかいを…!」
 ごぉっ
 語尾に重なり躍る炎。当然のように受けようと構える女吸血鬼。
 だが、直後。
 ばっしゃあああぁん
「…」
「…」
 みなもは何処からともなく取り出した、なみなみと水を満たしたバケツをふたりに向け派手にぶちまける。
 …ところがまのみと女吸血鬼にだけではなく、場所の問題で葵にもついでに水が掛かってしまった。
「あ、ごめんなさいっ!」
「…ま、水も滴る良い男って事でね。気にしないで?」
 言う側から葵は目を閉じる。集中するような仕草。
 そして次の瞬間、葵に掛かっていた水気が消えた。ついでにまのみと女吸血鬼に被った水気も消えている。
「水を操るのは得意技だから♪」
「…そうなんですか?」
「そうそう、キミも同じ水属性なんだね。相性が良さそうで嬉しいな」
「…えー、っと」
 空になったバケツを手にみなもは答えに困る。
 彼は一応、『女の子』としては警戒した方がいい相手…のような気がするので。
 と。
「………………先程、もう暴れないと仰っていませんでしたか、まのみ様。…どうしても穏便に話し合えませんか?」
 停止。
 …今の科白には何やらこれまで以上に強烈なプレッシャーが。


■本当のこと■

 まのみを葵とみなもに任せ、撫子は今度は女吸血鬼の方に向かった。
 火属性には水属性である葵とみなも、妖怪・妖魔の類には天薙という構図が適していると見たのだろう。
 それに、今までを見ていてどうやら特に危険なのは女吸血鬼ではなくまのみの方だ。だからふたりに任せた。
「わたくしは天薙撫子と申します。お名前を伺っても宜しいでしょうか」
「私はエル・レイ、で通っているわ」
「ではエル様、単刀直入に伺いますが貴方がここに来た理由はなんですか?」
「まのみの依頼を邪魔しに来たの」
「草間様に対する営業妨害ですか」
「…だってこっちの都合が悪いんだもの。イオを捜して欲しいなんて有名な怪奇探偵に頼まれちゃ、ね」
「では、貴方はまのみ様の捜し人を見付けて欲しくないと言う事なのですね。まのみ様は、早急な保護が必要な方だと仰ってましたが。エル様の目的はその逆、と」
 …イオ様と言うその方を害するつもりなのですか。
 そう含ませ撫子は問う。
「とんでもない。イオに保護が必要なんて嘘っぱち。あの子は今もひとりでのびのび生活してるわよ」
「…?」
 何やら雲行きが違う。
「…保護が必要、と言う事は何らかの危険が迫っている、と言う事ではないのでしょうか。…まのみ様?」
「詳しい事は何も聞いていません。でも、教会の皆さんは、切羽詰まった様子でした」
「詳しい事は聞かせられなかったんじゃないの? まのみには」
「どういう意味よ!?」
「貴方には私が側に居た過去があるから」
「それは私にとっては人生最大の汚点よ!」
「…そうそう。いつでもそんな調子だからね。私が顔を出せばそれだけでまのみは怒るから。依頼そっちのけでこっちに矛先向くと思ったのよ。だから来たの。貴方を追って」
「…ちょっとそれどういう事よ!?」
「まのみ様お静かに」
「…昔は素直で可愛い子だったのにねえ。虚勢張って生活してると人生疲れるわよ?」
「うるさいエルっ!」
「挑発するのも止めて下さいエルさん〜!」
「黙ってて下さいっ!」
「キミ、怒った顔も魅力的だけど、笑っていてくれた方がもっと魅力的だと思うな?」
「貴方たちには関係無いでしょっ!」
「…ですから」
 すらりと伸びる糸の煌き。
 それを認めてまのみは即座に黙る。
 苦々しげにまのみは呻いた。
「…貴方は知ってるのね、エル。イオが何処にいるのか」
 まのみの声にエルは薄く笑みを浮かべるだけ。
「答えてよ!」
 叫ぶ。
「…仕方無いわね。本当の事を言おうか」

■■■

「イオはね」
 エルはまのみをじっと見つめる。

「覚醒していないだけの、生来の吸血鬼よ。今の状態だったら、普通の人間と何も変わりないってだけ」

「な…! いい加減な事言ってんじゃないでしょうね!?」
「それは貴方が一番よくわかっている筈よ。まのみ」
 忘れられない優しい声。
 …こんな場面で、エルは嘘を吐かない。
 もし簡単に嘘を吐くようだったなら――きっと、本性を名乗りはしなかった。
「でも、私は…」
 イオと言う男の子を捜してくれ、と何故か頼まれて。
 本来自分は、悪魔を倒す事、それだけを求められていて。
 そのどちらも、出所は同じで。

 …考え合わせれば予想は付く。
 暗に、何を求められていたのかを。

 捜し人――イオが吸血鬼として覚醒する前に、殺せ、と言う事。

「…あの子を捜すのは、諦めなさい。
 でなければ私は、全力を持って最後まで貴方の邪魔をする」
「――」
 言葉を失う。

 …そんな中。

「こんな答えは如何でしょうか?」
 ぽつりと発されたのは撫子の声。
「え?」
「…単純に、幾ら捜しても見つからなかった、と言う事になされば?」
 撫子の言葉にみなもはポンと手を打つ。
「そうですね。お捜しのイオさんはのびのび生活してる、ってお話なんでしたら放っといてあげた方が。
 エルさん、信用の置ける方なんでしょう? おふたりの様子を窺っていると、あたしにもそう思えますから」
「そうだね。草間さんも利用したらいい。探偵を通した事にすれば、見付からなかったと言う事に信憑性も増すだろうし。こう見えて、草間さんは信頼ある実績を持ってる探偵だからね」
「…私の名前を出しても構わないわよ。攫われた、って。『エル・レイに攫われた』んだったら、諦めも付くでしょ。それなりに。『貴方の後ろの人達』は」

 ――そんな話を受け入れて、いいのか。
 まのみは悩む。
 本当にできるなら、それが良い。
 ――でも。

 嘘は、罪だ。

 まのみは唇を噛み締めたまま、エルをきっ、と睨む。
 対するエルはと言えば静かに佇んだまま、まのみをじっと見据えて。
 場に掛かる再びのプレッシャー。
 …だが。
「この場での騒動は」
「もう止めてくれよ。レィディたち?」
「折角の桜餅が台無しになってしまいます」
 もう慣れたのか、そんなふたりにも関らず、みなもは水を満たしたバケツをちゃき、と装備し、葵は指先に不穏に水をちらつかせる。そして撫子は妖斬鋼糸をつい、と取り出していた。三者三様にふたりに向け調停を――脅しを掛ける。…今日初めて会ったと言うのに絶妙なコンビネーション、かもしれない。
 と。
 一瞬緊張が走っていたまのみとエルの間だったが、誰かの発言を聞いた途端、いきなりその緊張が解けた。
 エルがぽつりと呟く。
「…桜餅?」
 彼女が気に掛けたその発言の張本人、撫子は目を瞬かせた。
「ええ。お裾分けにと思ってこちらに伺ったんですよ。そうしたら貴方がたが…」
「是非ご一緒させて頂けないかしら?」
「え?」
「…一度食べてみたいと思ってたのよ。日本の桜餅」

■■■

 まのみは障害物を押し退け所長のデスクに向かった。
 そして草間が何か言うより先に思い切り頭を下げる。
「すみません! 依頼、無かった事にして下さい!」
「………………は?」
 大声に毒気がいきなり完全に抜かれた。
「ごめんなさい御迷惑掛けました! …勿論騒いだ後片付けはさせて頂きます!」
「…そ、そう」
 拍子抜け。
 我に返った草間は得体の知れぬ疲労感にがっくりと項垂れた。

 そして後に残った視界に写る事務所内の惨状。
 見渡して一同も溜息を吐く。
「…では、手分けして早々に片付けてしまって、それから皆でお茶にしませんか?」
「お茶?」
「桜餅持って来たんですよ草間様。どうぞ御機嫌、直して下さいませ?」
 撫子は小さな包みをちょこんと持ち上げ、示した。

【了】


■ティータイム・海原みなも■

「何となく、雰囲気似てますよね。おふたりとも」
 撫子持参の桜餅を味わい、ゆっくりと緑茶を啜って落ち着いてからみなもは言う。…ふたりとはまのみとエルの事だ。
「あら、そう? 嬉しいわ」
「…似、似て…って」
「気に障るようでしたらごめんなさい。でも、親子かと思いました。はじめ」
 両手を合わせ謝るような形でみなもは言う。
 エルは悪戯っぽく笑った。
「ま、似たようなものかもしれないわねえ。この子がまだ小さい時は母親、ある程度大きくなってからは姉ってところかしら」
「…誰が吸血鬼なんかの妹なんですかっ」
 まのみの抗議の声も迫力無く裏返る。…それは本気で否定してはいない証拠。だが立場上、認められない。そう自覚しているのだろう。
 少し、悲しい。
 ヴァチカンの列聖省も確認している祝福された奇蹟――彼女の「炎」はそう言う事になっているらしい。
 …でもだからこそ、吸血鬼と仲が良いなんて――赦されない。
 そうなのだろう。
 ――つらい宿命。
 それでもこのふたりを見ていると、何やら微笑ましい気持ちになっても、来る。
 …エルさんの懐が大きそうだからかなあ? 本当にお母さんだかお姉さん、って感じよね。
 まのみもエルと居る事を本気で嫌がってはいない。戦闘中にもエルはころりと態度を変える。よく笑う。

 …即ち、この騒動は少々険呑なスキンシップの延長と言う事なのだろうか。
 と、なればあまり周囲を破壊しない事を願うばかりである。

 みなもはもう一度、適度な苦味と甘味を持つ緑茶を啜った。

【ティータイム・了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 ■整理番号■PC名(よみがな)■性別/年齢/職業

 ■0328■天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)■女/18歳/大学生(巫女)
 ■1252■海原・みなも(うなばら・みなも)■女/13歳/中学生
 ■1072■相生・葵(そうじょう・あおい)■男/22歳/ホスト

 ※表記は発注の順番になってます。

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■         ライター通信          ■
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 ※出演『オリジナル』NPC紹介

 ■依頼人■相楽・まのみ(さがら・まのみ)■女/17歳/高校生・吸血鬼バスター
 ■襲撃者(?)■エル・レイ(える・れい)■女/?歳/吸血鬼

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■おまけ■

 ごー、と大きな音を立て、零の操る掃除機が室内を縦横無尽に駆け巡る。みなもと撫子、まのみの手にはハタキやら雑巾。せっせと埃を叩いたり拭いたりしている。男手、と言う事で葵とエル(吸血鬼なので怪力は標準装備)、そして草間はカバーの破れかかったソファやら割れかけたテーブル(…)を修復+片付ける役目を負った。
 音頭を取ったのが綺麗好きな零を筆頭とする女性陣だったので、凄まじい惨状の割には案外手際良く進む。

 そして一段落の後。
 皆でお茶にする前に、こんな密かなやりとりがあった。

「有難う。まのみ?」
 ――捜さない事にしてくれて。
 まのみの耳許で、小さく囁くエルの声。
「…エルの為じゃない」
 同じように、だがこちらはぼそりと返すまのみ。

 幾ら本性は吸血鬼だって言ったって、罪の無い子供を殺すなんて嫌だ。
 罪が無い訳じゃない、「そこに居る事が既に罪なんだ」って言われても、納得行かない。
 だから依頼するのを止した――だけだ。撫子さんたち三人の提案に乗っただけ。

 まのみはエルの顔を見上げる。

 ………………他の理由は――無い、筈だ。

【おまけ・了】

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 さてさて。
 初めまして。深海残月です。
 天薙様、海原様、相生様、この度は御参加有難う御座いました。

 …海原様、すみません。
 母娘、と言うのはある意味、正しかった(?)のですが、
 捜しているのは父親ではありませんでした(笑)
 ちなみにまのみの背後の教会と言うのはユリウスさんのところとは別です。
 …あの神父様のところだったらこれははじめから騒動になっていないような。
 こちらは恐らく、もっと過激な人達がいると思われます…。

 おまけは…掃除中の場面だったので本文中に上手く挟み込めずあんな書き方に(汗)
 あああ未熟者っぷりを露呈してますね…。

 …こんなん出ましたが、楽しんで頂ければ、御満足頂ければ幸いなのですが…。どうでしょう…。
 気に入って頂けましたなら、今後とも宜しくお願い致しますね。

 深海残月 拝