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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『巫女さんを救え!!』

【オープニング】
「ナマの巫女さん…」
 早朝。境内へと続く長い階段を愛用の竹ほうきでさくさくと掃いていた時だった、誰も居ないと思っていた背後からふいにそんな声が聞こえてきたのは。
「…え?」
 その、嫌悪感を催すようなざらついた声に振り返ろうとした、瞬間…後頭部に鈍い痛みを感じ、意識が急激に薄れていく。
 手首にお守りのように身に付けていた神楽鈴が甲高い音色を立て、石階段を転がっていった。
「悪いけど、君にはボクのサイトの目玉になってもらうよぉ…」
 不快感しか抱かないような笑い声に狭まる視界を必死に向ければ、その男の周りに雑霊の証である黒いもやが映った。

件名:全国の巫女マニアへ  投稿者:巫女ハンター
 やぁ。ボクは巫女さんが大好きで、ついに巫女さん専門のサイトを開く事にしたYO!
 ギャラリーには撮り立ての巫女さんの写真がいっぱい!なんてったって、本物だからね!
 ギャラリー&サイトの公開は今夜11時!テレホタイムに来てNE☆
『ヨーコ☆マニアックス』 http://www.**.***.ne.jp/~****/…

 掲示板の書き込みボタンを押すと、男は満足げに振り返る。しまりの無い体つきと、ニキビ顔に黒縁眼鏡という典型的なおたくスタイルの男だった。
「ボクは、これからもっとイイデジカメを買ってくるから、しばらくそこで大人しくしててねぇ…?」
 クスクスと笑いながら、後ろ手に縛り上げた巫女服姿の少女を残し、男は出て行く。
(……どうしよう…これが噂の変態さん…?いえ、思念に操られているんだわ…)
 せめて男についた悪霊だけでも祓う事ができれば…、と少女…陽子は思った。だが、力を増幅する神楽鈴は落としてしまった。それに手を縛られている状況では何もできない。
(誰か…助けてっ…)
 突然、囚われの身となってしまった彼女にできるのは、ただひたすら祈る事だけであった。

【カクテルの名は、おしおき】
 某大型電気店にて、新しいデジカメを物色していた九尾桐伯の耳に、その『雑音』が耳に入ってきたのは、全くの偶然だった。
「……ふふふ…。これで思う存分、あのコを写してあげるんだァ…。可愛い、可愛いボクだけの巫女さん…」
 一言で言えば肥満体の、多分、大学生くらいのニキビ面の典型的オタクファッションの男…は、周囲の遠巻きの視線に気が付いているのかいないのか…多分後者であろう、ニタニタと笑いながら手にとった最新型のデジカメを手に悦に入った呟きを発している。
 正直に言えば、非常に危ない。できればお近づきになりたくない種類の人種である。
(…ああ、春はやはりこの手の輩が多いですね。しかも、ここはやたらとそう言う類の人間が多い…)
 あまりといえば余りな感想を内心で呟いて、そっとその場を立ち去ろうとした時だ、目的の品を手にレジへと向かう男の台詞に聞き捨てなら無い響きを耳にしたのは。
「我慢できなくて急いで連れて着ちゃったけど、これを買ってからにすればよかったなぁ…。気絶してる写真も萌えだよねぇ…。ふへへ…」
 ぶつぶつと、不快感しか感じさせないその声は呟く。どう考えても、それは、犯罪としか思えない内容で。九尾の脳裏に『拉致』『監禁』という単語が浮かぶ。
(全く…個人の趣味嗜好は自由ですが…。そんなことは他人の迷惑にならないようにしていれば良いものを…)
 耳にしてしまった以上、放って置く訳にも行くまい。九尾は予定を変更する事にし、視線をレジに向かう男に向けた。
「お仕置き、決定ですね」
 指先で鋼糸の感触を確かめる。静かに呟いたその顔には艶然とした笑みが浮かんでいた。
(……しかも、フルコースで)
 そして九尾は、哀れな少女が捕まっているであろう、男の自宅を突き止めるべく、追跡を開始したのだ。

【鬼畜お仕置き隊・結成】
「…ねぇ、あんたもそこに用事なの?」
 女性の敵。もとい拉致監禁犯の変態男のマンション前にて、知り合いのツテでなんとか場所を突き止めた愛と、見るからに怪しい男を追跡してきた九尾はかち合っていた。
「ええ。どうやら犯罪すれすれ…いえ、犯罪そのものを実行されているようですので…。そういう輩にはおしおきが必要でしょう?」
 さらりと一つに束ねた緩いウェーブがかかった髪をゆらして九尾は微笑む。常の癖で退廃的なムードを漂わせては居るが、その紅の瞳ははた迷惑なこの部屋の住人に対して怒りの情を表していた。
「そうね。あたしもそう思うわ。実は、捕まっているのはどうやらあたしの知り合いみたいなのよ。良かったら協力してくれないかしら?」
 手短にカキコミの内容を説明し、愛は名刺を取り出した。それに気が付いた九尾もバー『ケイオス・シーカー』のロゴが入った名刺を手渡す。
「……なるほど、では、肉体的なお仕置きは専門の方にお任せしますよ」
 愛の名刺に書かれていた有名な歌舞伎町のSMクラブの店名を目にし、にっこりと微笑むとそんな事を言い、おもむろに鋼糸を取り出す。
「…それで、鍵開けをするのね」
 手首に巻いた愛用の鞭を撫でつけつつ、器用にドアの開錠に取り掛かる九尾を覗き込んで愛が問う。
「ええ、相手に気づかれたら囚われている方に危険が迫ります…」
 綺麗に整った指先を唇にあて、「お静かに」というジェスチャーをしてみせたところで、かちりと、鍵が開く音が響く。
 妙に場慣れした様子で潜入していく九尾に続きながら、愛は奇妙な親近感を抱いてしまった。
 お仕置きがお得意という点では、これ以上はないというくらい、最強のコンビが結成されてしまったことに本人達は気が付いているのだろうか。

【お仕置きSHOWタイム!】
「……いやですッ!家に帰してください!」
 ドアを開け、入るなり何かが倒れる音とともに少女の悲痛な叫びが響き渡る。外からは全く聞こえなかった所をみるとこのマンションは防音施設がついているのかも知れない。
「……防音完備とは、都合がいいですね」
 ぼそりと九尾が愛にしか聞こえない音量で呟く。少女と男の言い争う声が結構な音量なのでそれ程神経質にならなくても大丈夫と判断したのだろう。
「へへぇ…。ちょっと写真を撮るだけじゃないかよぉ〜。ほらぁ…笑っておくれよ〜」
 意外とこざっぱりした室内の、一番奥の部屋で、追い詰められた少女と悦に入った笑い声を上げる男とが居た。
 それを半開きになったドアから覗いていた九尾の長い指がちかり、と瞬く。
 キュィ……ン!
「いう事聞かないと……ぐへぇっ!!」
 鋭い金属音と、耳障りな男の悲鳴が同時だった。九尾の武器である、鋼糸が男のでっぷり太った体を締め上げたのだ。
 ご丁寧に悲鳴を上げられないように喉も拘束したのは流石だろう。
「…お見事」
 あまりに鮮やかな手並みに、愛が拍手しながら九尾に続く。それに微笑んで答えると完全に動きを封じられた男を無視して少女へと足を向ける。
「……た、助けに来てくださったんですか?」
 後ろ手に縛り上げられた巫女服姿の少女──陽子が、床の上に座り込んだまま声をあげる。その周囲には抗った後なのだろう、本やCDが散らばっていた。
 助けに来てくれたのだと頭では分かっていても、本能的に男性に対して恐怖を感じるのだろう。九尾が近寄ろうとするとビクリと震える様子に困ったように降り返れば、愛が頷き、
「…陽子ちゃん、あたしよ、藤咲愛。覚えてるでしょ?……大丈夫?」
 先ほどまでの剣呑な雰囲気とは打って変わって優しい声音で愛が陽子に話し掛ける。脇に退いた九尾をすり抜け、陽子へと近寄れば、陽子は涙を一杯浮かべ倒れ掛かってくる。
「愛さんっ…!!私っ、怖くてっ…」
「…もう大丈夫よ…安心して」
 震える体を抱きとめて、愛は陽子の拘束を解いてやる。相当もがいたのだろう、自由になった手首はすりきれ所々血が滲んでいた。
「……災難だったわね…」
 傷痕を見ている内に、ふつふつと怒りが湧き上がってきたらしい。抱き寄せた陽子の背中を撫でる愛は口調とは裏腹にぞっとするほど冷たく、妖艶な笑みを浮かべていた。
「………」
 不意に途切れた啜り泣きに首をかしげて覗きこめば、緊張の糸が切れたのだろう。陽子は気を失っていた。それを見て取った九尾は、陽子を抱え上げ、向かいの部屋に連れて行く。開け放したドアから、彼が陽子を置いてきた部屋のドアをきっちりと閉め、戻ってくるまでを確認すると、愛は立ち上がった。
「さぁ、ショータイムといきましょうか?」
 音を立てないようにと手に持っていたヒールを履きなおし、手首を返して愛用の鞭を取り出した愛は、九尾の鋼糸でまるでボンレスハムのように縛り上げられ、磔にされている男をねめつけた。
 その男は、愛よりも九尾の行動が気になっているらしい、あぅあぅと、締めあげられ満足な声量も出ない喉を振り絞って、パソコンデスクになっている事務机に陣取った九尾に訴えかけている。
「…ああ、少しきつかったですか?」
 それに気が付いた九尾が、にっこり微笑んで四方八方に蜘蛛の糸のように伸び、男を拘束していた鋼糸の1本に触れる。すると擦れたうめきしか出せなかった男がわめき始める。
「何するんだよ、それはボクのお宝なのにぃ…!!なんで、お前達。ボクとヨーコの邪魔するんだよぉ〜」
 うっとうしいという感慨しか抱かない口調で男がわめきはじめた。なるほど、男の視線の先では九尾が手早くパソコンのキーボードを操って、いかにも怪しげなタイトルレーベルのついたMOのデータを調べ上げ、初期化するという作業をしていた。
「…あなたにとってお宝でも、これは相手にとっては迷惑以外の何者でもないでしょう?本来なら物理的に破壊するか、焼却したいところなんですけどね。わざわざゴミを増やして善良な国民の血税を無駄にするのもいけませんし。プラスチック等は燃やすと有害ガスが発生するでしょうしね…」
 さらりと冷酷な一言をいうと次々にデータを抹消していく。ざっと調べれば男はアナログではなくデータ主義のようで、普通の現像した写真と言うものは存在していなかった。
 もっとも、データ化した写真のようなものを現像に出してちゃんと写真として戻ってくるかという点については怪しいものであるが。
「あぁ……せっかくアケミちゃんとユミちゃんにコスプレしてもらったのにぃ…」
 次々と消去されていくデータをなすすべもなく見つめて男がしくしくと泣き始めた。うっとうしい事この上も無い。
「……どうやら、彼はお待ちかねのようですから。藤咲さん、どうぞご存分に可愛がって差し上げてください。いい顔になったら記念撮影したいと思いますので」
 半分程、データを消去し終え、九尾は愛に声をかける。それにしっかりと頷くと愛はおもむろに鞭を振り下ろす。
 途端あがった悲鳴に、愛は唇をぺロリと舐め、ぞっとする微笑を浮かべた。
「…いつもはすぐ気持ちよくなるおまじないしてあげるんだけど、今日はじっくり可愛がってあげるわ…。さぁ、子豚ちゃん。いい声で鳴いてネ」
 ビシィーッ!バシィーッ!
 許し難い拉致監禁犯に、愛の特殊能力である、痛みを快楽に変える『おまじない』は必要ない、とばかりに素で鞭を振るう。
 心得ているとはいえ、結構な力で打たれているため、部屋の四方に突き刺さった鋼糸に磔にされた男の服が千切れ、赤いミミズ腫れが浮き上がっていく。
「いいわぁ…その、絞め殺される寸前の豚みたいな鳴き声…。ぞくぞくする…うふふ…」
 仕事モードに切り替わり、誰も止める事が出来ないいわば──全開モードの女王様──愛は男の醜いわめき声を嬉々として受け止めると、縦横無尽に鞭を振るう。
「…他人の自由や権利を侵害するなら、それなりのリスクがあるという事を学ぶべきですね」
 愛の艶めいてはいるけれど、サディスティックな高笑いと男の悲鳴の協奏曲をBGMにパソコンをあやつりながら九尾はあっさりと締めくくった。

 その夜、約束の時間、例のホームページには、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった半裸の男の写真がでかでかと貼り付けられていた。
 当然、そのサイトはアラシの被害に合い見るも無残な状態になってしまったが、悪質なウィルスによってパソコンが再起不能になってしまった男本人は全く知らない事である。
 また、男は九尾と愛にされた仕打ちを警察に訴えようとしたらしいが、綺麗サッパリ、髪の一筋ほども残さず綺麗に証拠隠滅をした九尾の手際によって、取り合ってはもらえなかった。
 そうこうするうちに、男自身、どういう訳か『男専門』の方々に付けねらわれるようになり、二人に復讐する所ではなくなったという。

───…愛によって『イイ顔』に出来上がった彼の顔写真が、ホモサイトの愛人募集コーナーにすこぶる電波的な文章とともにアップされていたのを男が知るのは、まだ当分先の話であった。

【エンディング】
 救出騒ぎから数日したある日の昼下がり。バー『ケイオス・シーカー』にて九尾は思わぬ来客を迎えていた。
「すみません、まだ準備中で……おや、陽子さん。どうなさったんですか?」
 ドアチャイムに振り返れば、ごく普通の服装をした陽子が小さな風呂敷包みを持って佇んでいた。
「お忙しい所、すみません。あの、この間はありがとうございました」
 どうぞ、と促せば陽子はぺこりと頭をさげて包みを手渡してくる。
「いいえ。困っている時は助けるのが当たり前でしょう?」
 それにああいう人種は嫌いなのです。と付け加えると陽子はふんわりと笑みをうかべ、もう一度頭を下げた。
「これ、桜餅なんです。お礼と言ってはなんですが…召し上がってください」
 感触から、風呂敷包みの中身は重箱か…と考えていた九尾に陽子が中身を教えてくる。
「ありがとうございます…いただきます」
 そういえば、桜の季節だった、と呟くと陽子はこくりと頷いて、
「はい。うちの神社も桜がとても綺麗なんですよ。よろしければ花見にいらしてくださいね」
 それでは、と明るく笑って去っていく陽子の姿を、店先から見送った九尾に春の暖かな日差しが降り注いでいた。

──『巫女さんを救え!!』──終わり──

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0332 / 九尾 桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
【0830 / 藤咲 愛  / 女 / 26 / 歌舞伎町の女王】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。新米ひよっこライター・聖都つかさです。
 今回は思いっきり少人数で書きたいという我侭によって生まれたお話にお付き合いくださいましてありがとうございます。
 女性の敵・もとい性犯罪者(笑)をメタメタに〜というコンセブトのお話でしたが、いかがでしたでしょうか?
 私は、お二人のお仕置きっぷりに胸がスカッとする思いで、大変楽しく書かせていただきました。プレイングの方も、九尾さんは精神的に、愛さんは肉体的に…という感じでいい感じに補うような感じを受けたのですが…。
 毎度、お馬鹿なお話ばかりですが、少しでも楽しんでいただけましたなら、光栄です。
 よろしければ、感想などいただけると励みになります。
 次は、のんびり花見ネタを予定しています。時期的なものなので、それ程間を空けずに窓口開けるとは思うのですが…。
 それでは、また機会がございましたらよろしくお願いいたします。

・ここから個別に御挨拶です。
 はじめまして。九尾さん(のPLさん)。好きなライターさんの作品中でよく登場されている方のご参加を頂いて、非常にドキドキしながら書かせていただきました。
 流石に慣れていらっしゃるだけあって、プレイングも非常に丁寧かつ的確な内容で、とても助けられました。
 楽しいプレイング、ありがとうございました。
 これからも、ぜひ、お仕置きのフルコース(笑)を悪人共に味あわせてあげてくださいませ。
 それでは、この辺で失礼致します。
 また、お目にかかれる時を楽しみにしております。