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<東京怪談・PCゲームノベル>


剣客の下宿3 管理人さんにお礼を

◆式顎の場合
心の中に「訃時」がいる
すでに漆黒の光刃を手にした破壊者、式顎。
【魔】に魅入られ、訃時の狂気に犯された魔剣士。
目的は全てを破壊すること。
人の思いやりや、仲間意識など関係がない。作り上げられる物は全て壊れる。其れが理なのだ。
しかし…。心の中に何かが止めている。
全てを破壊していく野望でも、仲間はいるし、今生きていることでは人としてのこの営みは必要だった。
「皮肉な物だな、裏切られた人間どもと共に暮らさないと行けないと言うのは」
この時代に住む以上そのルールに則ることがよい。さもないと仲間さえも見つからない。
携帯が鳴る。
「もしもし…ふむX区にアジト?…分かった殲滅してくる。で幾らだ?…分かった」
そういって電話を切ると、時空跳躍で跳んでいった。
次の日には、新聞で暴力団事務所が襲われたという記事が載った。生存者0人…。

風の噂か、ある人物が〈あやかし荘〉の管理人因幡恵美にプレゼントを贈るという事を聞いた。ならば、そこに住む風野時音も動くだろう。チャンスである。
「彼奴はすでに、魔に堕ちることを拒絶した。しかし仲間に出来る可能性はないわけではない。戦うことで堕ちることが出来るだろう」
彼はそう思った。
気配を消して、〈あやかし荘〉を眺める。
まず出てきたのは、時音とつい最近住人になった剣客らしい男。その1時間後に歌姫という少女。恐らくどこかで待ち合わせるのかもしれない。
後を付けるべきかと思ったが、時空跳躍してきた少女を目撃した。蒼乃歩だ。
「何のために来ているのだろう?」
首をかしげる顎だが、直ぐに理由はわかった。彼女も又、管理人に何か渡すためにやってきたのだろう。
案の定、柚葉とともに〈あやかし荘〉を後にした。
「後を付けていくか…」
彼の計画が始まった。時音をおびき寄せるために。

顎は歩を尾行してアトラス編集部から三下を連れてくるのをたしかめると。途中の公園で待ち伏せすることにした。
「人間となれ合いとは、異能者戦闘隊のお前も甘くなったな」
「破壊者!式顎!」
堂々と立っている彼を見て歩は驚く。
「全ては破壊するためにある。わかるか?君も人間の存在を憎しみ、異能者の理想郷を作るとほざいているが、其れは無意味だ。いずれ、私によって全て破壊されることが世の理だ」
冷たい気迫が辺りを支配する。
「俺をどうするつもり?」
「そうだな…まずは…時音を呼ぶ為の餌にするか」
顎は光刃を召還した。しかし他の光刃よりも違う。漆黒のレイピアだった。
「暗黒光刃…とうとう【魔】に…」
「すでに知っているだろう?退魔剣はもともと【魔】の力だからな!」
「三下さん柚葉ちゃんにげて!」
「情が移ったか!異能者!」
隙を見いだし、間合いをつめた顎。しかし歩は光刃を跳ね返す念動障壁を自動発動して受け流す。
そのあとは、念動弾で顎が間合いに入らせないようにするのが精一杯だった。
力量は顎の方が凌駕しているし、歩には今守らないと行けない物がある。この時代で得た大切な友達。そして弟のような時音。其れが足かせになっていることは承知の上だった。
「いま、あのお人好しが来たらややこしくなる…俺が何とかしなくては」
能力を連続して行使し分身をつくる。しかし、式顎の力は其れさえも打ち破った。光刃の弾丸が全ての幻影を打ち消したのだ。
「甘くなったな!」
「しまった!」
後ろを取られた歩に、式の一撃が決まった。腕を貫かれ、そこから分解されていく。苦痛を我慢し、三下達を庇うように跳躍した。
「急所は外した。しかし、お前が消滅するのは時間の問題だ」
顎は不敵な笑みをこぼす。
すでに、力が失いつつある歩。
「歩さん!」
「だめ、にげて!」
「でも、歩さんを置いて逃げるわけには行けないよ!」
「そうだよ」
三下と柚葉は、怖がりながらも、その場を動かなかった。
「大切な友達を…おいて逃げること出来ない」
三下の言葉に歩は胸をうたれる。
しかし、今の状況では自分はこの【魔】に殺され三下も柚葉も殺されてしまうだろう。
大事なときに無力だった。
そのとき、懐かしい声が聞こえた。
風野時音であった。
「歩!」
「ばか…おそいんだよ…人間になんか」
「しっかりしろ、其れはお前だって同じじゃないか…」
時音は彼女の後ろには、彼女が必死に守ろうとする二人の人間…をみつめる。
まだ、人を信じてくれている事が時音には嬉しかった。本当なら憎しみで彼らさえも殺すはずだった彼女が…。
光刃の能力で、徐々に体が崩れていく歩…。治す術は神陰流の時間逆流と同じ効果しかない。が…そこまでの能力は時音にはなかった。
「きたか…風野時音!」
「式顎…」
時音は歩を抱きしめて顎を睨む。顎は、二人の会話を傍観するかのように待っていた。虚空のような目で…。
「お前はにげろ…三下さん達を連れて」
歩は時音に訴えた
「馬鹿なことが言えるか!同じ跳躍者に「距離」はない。式にしたって同じだ。それに…」
「それに?」
「お前が…人を守ろうとすることが嬉しかった。敵のまえに本当にキミは僕の幼なじみだ…」
時音が涙した。歩は其れを頬に受け止め、
「バカ…。だから破滅的お人好しなんだよ、お前は…」
涙を流す歩。
「退魔剣は使わず…アイツを倒す」
「え?アレしか持って無いじゃない!」
歩は時音の言葉を聞いて驚きの声を上げる。
「…三下さん」
「は、はい」
「歩を頼みます。それに危険なのでこの場所から最低5kmは離れて下さい」
「わ、分かりました」
重傷の能力者を担いだ三下は、柚葉と一緒にその場から離れた。
「決着だ…破壊者、式」

顎の光刃を紙一重でかわしていく時音。また、剣客に習った精神盾を生み出し防御に集中した。
「なぜ光刃をつかわぬ!」
「光刃は捨てた! 今の幸せのために、明日への未来のために!」
「そんな夢物語が存在するか!」
「存在する!未来は…未来は変わるんだ!」
剣を入れているバックでで、光刃を受け止める。そしてぼろぼろになったバックから日本刀が現れた。
「これでお前を倒す」
日本刀を腰にさして抜刀する。正眼の構えで間合いを取っていく。
「おろかめ!神陰流を極め、破壊することがお前の望みだったはずだ」
「其れは違う。貴様のように破壊者にはならない!」
「言ったな!今此処でお前を亡き者にしてくれる!」
顎は時空跳躍し、時音の懐に入った。
「!」
「終わりだ」
破壊者の光刃が…空を切った。しかし、そこには時音の姿がない。
「跳躍したか?…!」
彼の頬に赤い一筋の線が浮かび上がり…そこから血がにじみ出る。
「馬鹿な…っ!」
振り向いた先には…時空跳躍で移動した時音がいた。彼の周りには青白いオーラを纏っていた。
「すー…神格覚醒…」
そう時音が呟いた瞬間…。己に存在した『神格』が顎を襲う。破壊者は光刃で、その気を受け止めるが、光刃から伝わる精神干渉で、苦しみに顔を歪ませる。
「隙有り」
すでに時音は顎の間合いまで届いていた。峰打ちで彼の右手を折った。
「ぐぁああああ!」
骨はくだけ光刃が薄れ出す。
そして、刃の向きを変え、その刀に『神格』を込める。刀は、神々しい光を放つ。
「なんだ!その剣は!退魔剣ではない!退魔剣以上に強い剣があるというのか!?」
式は見たこともない時音の能力に恐怖した。
「終わりだ、式。そして最後の訃時の思念!」
時音は、「力」を込めて式を…彼の心の中にいる【訃時】を切り裂いた。
沈黙が訪れる。
式顎は動かない。時音は納刀しようとするが、刀は『神格』の力に耐えきれず粉々にくだけた。
「これが天空剣…すごい力だ…」
その力を出しても、体の疲労、精神疲労が光刃を振るうよりほとんど無かった。
「式?」
式は、光刃を持つことなくその場で立ったまま、気を失っている。生きている事は分かった。
退魔剣固有の剣気すら感じられなかった。
彼の精神は…外世界の旅路へ向かっていたのだ。

真っ白な風景…
その先に、優しかった家族が呼んでいる。慕ってくれた仲間がいた。
「もう、いいのよ憎しみは憎しみしか生まないから」
「しかし…皆裏切りによって死んでしまった…なのに?」
式は家族に訊いた。
「いえ、其れは未来のこと。未来は変わるよ」
「隊長、俺たちを失望させないでくれよ」
「そうそう、志乃さんも困ってますよ」
「祈?」
その広い風景に、白いワンピースで悲しそうな顔をする少女がいた。
「もう苦しまなくても良いの…退魔剣の呪縛から解放されたの」
「どういう事だ?」
少女は彼を抱きしめ、しくしくとないた。
「辛かったね。でも、大丈夫。いまは貴方が本当にしなきゃいけないことをして。人として」
「人…として」
自分の心が何故か軽い。今までの憎しみが嘘のように消えていた。後は哀しみだけが感じる。
自分は死んだのだと…。
「生きてるよ。ほら」
遠くに、ドアが現れる。その隣に男がいた。
「お前は何者だ?」
「時音の今の師匠というべきかな。お前が持ち得た全ての呪いは無くなった。いまは時空跳躍の能力しかない。自由の身になった」
彼がドアを開ける。
「今からはお前自身で道を切り開け。魔に戻るかそれとも人として平穏な人生を歩むか。そしてもう一度人のために剣を振るうか、このまま死ぬかをな…」
そう言い残すと、男は霞のように消えた。
式は…そのドアの先に何があるか不安になったが。決意した。
ドアに手が伸びる…。

End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【0970 / 式・顎 / 男 / 58 / 未来世界の破壊者】
【1355 / 蒼乃・歩 / 女 / 16 / 未来世界異能者戦闘部隊班長】

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■         ライター通信          ■
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どうも滝照です。
剣客の下宿3に参加して頂きありがとうございます。
またこんどお会いしましょう。
短い通信ですみません。

滝照直樹拝