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<東京怪談・PCゲームノベル>


闇の球体

◆合流
叫び声は、〈あやかし荘〉全体に聞こえた。
先にたどり着いたのは、風野時音。〈あやかし荘〉守衛である。
丁度、天空剣の稽古が終わり、師より早く道場から帰ってきたところだ。
「な、なんだ?此は…」
管理人室を空けると、直径2メートルもある漆黒の球体が浮かんでいる。部屋は何者かに荒らされたようにむちゃくちゃだ。
彼が一歩生み出すと、少年が息を切らして走ってきた。
「大丈夫ですか!あ!」
奉丈遮那である。恵美と話をしたかったので学校の帰りに此処に立ち寄ると丁度悲鳴を聞きつけたのだ。彼は、恵美に危機があると思ったことで、いつもの彼らしい冷静な雰囲気はない。時音にすら気がつかないほどに…。
「恵美さん!恵美さん!」
彼は管理人室に向かって、叫んだ。廊下に向かっても。返事はなくても涙を流しながら好きな人の名前を呼び続けた。
時音は遮那を掴み、頬に平手打ちをする。
遮那は我に返った。
「あ…」
「焦っていてはダメだ!いまは状況を把握しないと」
「は、はい…済みません…」
遮那は深呼吸して気分を落ち着かせた。そして気を失って倒れている嬉璃を抱き、食堂にて手当をする。
時音は念のために、師エルハンドから借りている結界符を管理人室の4方向にはり、管理人室の扉にも封印を施した。
丁度そのときに、時空跳躍で蒼乃歩が時音に抱きつくように現れた。
「うあ!」
「今日こそ、四肢を引きちぎって持って帰るよ!時音!」
「馬鹿野郎!それどころじゃない!」
「どういう事だよ?説明しろ?」
「その前に…どいてくれないか?」
二人の体勢は非常に危ない感じである。歩が時音を襲っていることは確かだが、見ようによっては恐ろしいことだ。時音は今の状況を非常にやばいと思った。
その予感は的中する。まぁ世の中はそういう物だ。
その現場を…歌姫に見られたからだ…。
「あ…これはその…」
時音の弁明を聞くことなく、歌姫は涙を流し…その場を走って去っていった…。
「いきなり現れるから誤解を招いたじゃないかぁ!バカ異能者、オタク女!」
遮那の次に大泣きする時音であった。

時音の部屋にいったん退避する3人。
行く道で時音と歩はお互い目を合わせないが、幼なじみ故に昔の習慣で歩幅が合っている。嬉璃を抱いてこの先を思案している遮那には其れは目に入らなかった。途中、通りすがる住民に恵美について住民に聞くが悲鳴を聞いたこと以外なにも知らないと言う。
「早く恵美さんを捜さないと…」
ブツブツと呟く。
時音の部屋は、嬉璃が起きるまで気まずい雰囲気に包まれていた。
嬉璃が目を覚ます。
「う…恵美…恵美は…?」
「嬉璃さん、暫くじっとして下さい。軽傷でよかった…」
「儂のことより…恵美を…」
「いま、聞き込みした結果、誰も分からないんです…」
「やはり…闇がさらったのか…ううう」
嬉璃はその現実に耐えきれず、涙を流す。遮那は彼女の涙をぬぐった。大切な人がいま居ない事で悲しいのは同じだからだ。
そのやりとりを聞いて、時音と歩が同時に
「「手伝う」」
といった。今はお互い意地を張っている場合じゃない。
「敵と協力するのは本来したくないが、今は別だ」
時音が歩に言った
「俺だって、お前が異能者側に来ればそれに越したことはないが…、今は(いろいろ悪いことしちまったし…)23歩譲る。此処には俺の友達がいるからな…」
歩も言い返した。
素直ではないのは仕方あるまい。
「心辺りがあるとすれば何かあります?嬉璃さん」
「闇の閃光がはしったとき…何者かが闇で恵美をさらっていったのは確かぢゃ…あと…儂を思いっきり叩いたのも良く覚えておる」
遮那が訊ねたら嬉璃はそう答えた。もう行く場所は決まっている。
「時音さん、歩さん、あの球体に行きましょう」
彼の決意は固まった。好きな人をそして友を守りたい目だ。
時音は頷く。
しかし、
「俺は別の形で手伝うよ」
少し照れくさそうに歩が喋る。
「どういう事だ?」
「闇から出てきたと仮定して…、奴らがすでにこの世界にいるかもしれない。俺はそういった敵を捕縛する。闇と言えば陰にも潜めるだろうからな。でも勘違いするな、俺は人なんか信じちゃ居ないからな…」
歩はそう答えた。無理に危険を冒す必要はない。彼女に〈あやかし荘〉の人を守って貰おう。時音はそう思った。そして、いざというと時は、加勢に来てくれるだろうと…信じて。

時間跳躍者二人がかりでの空間干渉結界「時空檻」を管理人室全体に張った。これで、不意に此処に迷い込む人はいなくなる。
時音と遮那は空間移動するための装備を固め、歩は檻の外で、感知式念動弾を展開する。
「へまはするな、時音…」
「分かってるよ」
歩は、彼を抱きしめたい想いがあった。このままでは帰らないと思うと…怖かったからだ。其れを我慢し。
「俺が〈あやかし荘〉を守る。行ってこい」
涙をこらえ、二人を見送った。
時音と遮那は頷き、闇の球体に吸い込まれるように入っていった。

◆闇の旅
完全な闇…
怖くて、1人ではトイレに行けない幼少のことも思い出す。
闇討ちを好む暗殺者から身を守るため…眠れない時も。
遮那と時音も闇対して持っている「恐怖」を思い出す。
遮那はタロットの「Sun」を取り出し、呪文を唱えた。
「闇夜は終わりを告げ新しい日々の始まりとなる…」
タロットが光り、辺りを照らす。闇は光を怖がり逃げるかのように避けていく。
進むに連れ、所々に、視線が当たる。殺気と憎悪を込めた視線。光によって近づけないのがよほど悔しいのか、咆吼する存在もいる。
「…こいつら【魔】の一種…闇陰…」
時音は昔倒した魔を思い出した。
「どういうものですか?」
遮那が訊いた。
「闇や陰を移動し、人の精を吸い取る奴らだ。特に夜を好むのは名前からでも分かるだろう。大したことのない魔物だが…」
時音は一間おいて話を続けた。
「彼奴らを自由に使役し、強化できる支配者階級の魔王がいる。退魔剣士5人以上の力の持ち主が多い」
「…」
「詩織さんと、まだ仲間だった歩達で、倒した事がある…しかし彼奴らは未来で勢力を…」
少し考える時音。
「もしかすると…何かが未来で起こったのか、これからきっかけが起こるのかの二つですね?」
「後者ならいいけど…」
遮那の言葉に、不安になる時音だった。
なぜなら、彼は光刃を捨て、「神」としての力を持ちつつある。「退魔」でなく「神格保持者」だ。何かの変動が未来に影響を及ぼしているだろう。歩の行動もまた未来に影響している。このことが本当なら何らかの形で相手も時空跳躍してくるだろう。
「その魔王の名は何だったのです?」
遮那が訊いた。
「闇の王、アンゼ…だ」
その言葉を口にしたとたん、周りの魔物達が騒ぎ出した。畏怖と時音に対しての憎悪…。
其れを感じ取った時音は信じられないといった顔になる…。
「あいつが…復活していたなんて…」
拳を血が出るぐらい握りしめた。
「時音さん…」
「遮那くん…此は僕自身で片を付けなければならない…。歴史を変動させてしまった。良い方向に向くと思っていたのが…」
時音の言葉に遮那が制した。
「其れは違います。僕は…恵美さんを助けたい。自分の手で助けたい。この事件の主犯や原因は良いのです。まずは恵美さんを助けましょう。この事件が終わってから…考えればいいのですから」
早く恵美を助けたいことをこらえ、焦っていながらも、落ち着いて時音を諭した遮那。手が震えているし、顔からでも焦りが見える。闇雲にこの闇の世界をさまようのは危険だとしっかり判断しているからだ。
「ごめん…君の気持ちを分からないで」
「いいですよ。行きましょう…」

◆神殿
時音達はある程度進むと、月夜ほどの明るい空間にたどり着いた。その先に、闇に紛れるかのように祭壇らしき物が建っている。また、大きな四角い檻が近くにあり、その中に誰かが気を失って倒れているのも見つけた。
「恵美さん!」
遮那が、走って檻に向かおうとする。
「まて!罠だ!」
時音は彼を制することが出来なかった。遮那の周りから影の「魔」が襲いかかる。遮那は2枚の大アルカナを「Justice」と「Sun」を取り出し叫んだ。
「「正義」の剣「太陽」の光を纏い、よこしまなる者を打ち消せ!」
タロットが太陽のように光ると輝く剣をかざした女性が、剣を薙ぎ襲い来る敵を霧散させた。
続けざまに、「World」を取り出す遮那。
「「世界」は我と共にあり。我の意志こそ「世界」。我願う…」
その瞬間…。遮那を大きな影が彼の胴をとらえ吹き飛ばした。
「痛っ!!」
丁度、時音が彼を受け止める。
「焦りすぎだ。アンゼのガードは魔王の中でも中級クラスだ。此処は僕に任せて」
「す、すみません…しかし」
「分かってるよ。恵美さんは君に任したから」
時音は、内服液の瓶を遮那に渡した。其れを飲めば先ほど受けた傷程度は回復するとのことらしい。
「倒してくる…」
一気に間合いを時空跳躍で詰める時音。相手とは戦い抜いている為、先が読みやすい。大体不意打ちをしてくる方向は足下だ。
彼は、腰に装備している特製のナイフを抜き、そこに「神格」を込め…相手がいる場所〜自分の影に〜投げはなった。魔物は、断末魔を上げることなく死亡した。全てを超越する「神格」の力は魔王さえも確実に殺せる。
次に、彼は師エルハンドから授かった日本刀を抜刀し、祭壇まで歩いていく。すでに日本刀には「神格」が込められており、青白く輝いている。
遮那が、薬を飲んでやってきた。薬の味は奇妙な苦さだったのか、彼はかなり複雑な顔をしている。
「時音さん?」
「なに?」
「光刃は…退魔剣術は捨てたというのは…本当だったのですね?」
「捨てたよ…現在の幸せと友達…自分の未来のために」
遮那には、時音の目は常に未来を見ているかのように見えた。
時音は、祭壇にある箱を地面に投げつけたナイフで壊した。ガラスを割ったような音と共に黒いカギが現れた。
「此があの檻のカギだ。僕は、この先にある玉座まで行くよ」
「玉座?」
遮那が訊ねると、時音は先の見えない闇の方を指さした。
「ああ、彼奴はそこで待っている。君は管理人さんを助けてここから出るんだ」
「それは出来ません…それに、時音さんだけ行くのは許しません」
遮那は、怒り口調で言った。
「此処まで来たのなら…僕も…その魔王と戦います。貴方にも大事な人がいるでしょう?」
遮那の口調が徐々に優しくなっていく。時音はやはり人間は良いと改めて思った。
「謎を解きに…そして魔王を倒し恵美さんと帰りましょう。それに…これは罠ですよ。」
檻を指さして遮那が言った。



◆時間変動
薄暗がりの中…玉座があった。少し体格が大きめの人間サイズに作られている。その玉座には、赤く燃え上がるような瞳を2つ持った影が座っていた。うっすらと細かい部分が見えるわけだが、形容しがたい魔王の姿であるのは変わりない。
「久しぶり」
魔王は昔の友人に再会したかのように時音に言った。
「仲良くはないのだが…いったい「この時代」まで来て何のようだ?それに…倒したはずだ?」
時音は、落ち着き闇の魔王に訊ねる
「そう確かに…あのときは死んだ。しかし、此処まで降り立った魔や刺客を徐々に倒していくお前達の行動が「本来の時代」を徐々に変化させている事が分かったのだ。簡単に言えば…お前が「光刃を捨てたことによって」未来が変わったわけだよ。大きく時間が巻き戻されたということだ。お前が退魔剣を捨てたことを感謝するよ。もちろん…「この時代」に来る前に…【お前と同じ存在】は返り討ちにしたがな…。」
魔王アンゼは…自分が復活したことが如何に嬉しいかの様に語った。
「師の言っていたことは本当だったな…」
善し悪しは問わないが、時音の行動が自分の時代を変えていることを実感する。
「恵美さんは何処にいる!」
遮那が怒り口調で魔王に尋ねた。
「占い師の小僧か…まさか、タロットを媒介にして術を使うとは恐れ入った」
「ご託はいい!何処にいると訊いているんだ!答えろ!」
焦っている遮那を時音が制する。
「アンゼは…落ち着いた口調で話しているが…心の中はドス黒い殺気に満ちている。本質が闇だから、あまり刺激しないほうがいい…こらえるんだ」
「しかし…」
遮那は反論するが…魔王の殺気を感じ取ったときに身震いをした。
「時音、私のことを良く覚えてくれて嬉しいよ…しかし、もう一つ分かるだろう?私が此処にいる理由!」
魔王の声が徐々に興奮する。周りが徐々に闇に支配されていく。
「分かっている」
時音が刀に「神格」を込め、魔王と同時に叫んだ
「復讐!」
時空跳躍で、闇の中を飛び越える時音。【Sun】を使い明かりをともす遮那。
遮那は魔王と時音が戦っている音だけしか聞こえない。全てを照らすほどの効果は出なかった。
「どうしたらいい…」
遮那は、小アルカナにも目をやる。4種のナイト、ジャック、クィーン、キングの12人の人物…そして大アルカナの「Emperor」…
「皇帝と8人の王と女王!しもべを従え、悪しきなる者を倒せ!勇気と慈愛と名誉の為に!」
彼は術を唱えそのカードを闇の中に放り投げた。
魔王は戦いながら感心していた…並の退魔剣士よりの力を持つタロットの戦士達が襲いかかってきたからだ。天空剣の攻撃をかわしながら、このカードの攻撃を受け止めるのは結構やっかいだ。
「良い仲間だな!時音!」
「魔が人を褒めるのは珍しいな?」
「なに、正直な感想だよ」
戦いながら会話をする二人。時音はアンゼが復讐しに来たことは分かったが、昔の容赦しない邪悪さが薄れている。まるで…復讐と言うより…。
「再挑戦というやつか?単に…戦いたいだけだったのか?」
時音はアンゼに訊いた。
「そうかもしれないな。確かにお前達に負けたことが悔しい。更に力を付けて戦える機会があるとわくわくしたんだよ。一部の魔でも突然変異は出ているな」
その感情がアンゼ自身おかしい物だと言いたいようだ。
「しゃべりは終いだ…。ケリを付けよう。神の剣士、風野時音!」
闇がいっそう濃くなっていき、空間を揺るがすほどの衝撃が走った。
「時音さーんっ!」
遮那は、地面に伏して叫ぶ。
「大丈夫だ」
不意に歩の声が聞こえた。
「二人で倒すから気にしないで…君の本当の出番はその後だから…」
歩は遮那を見ることなく跳躍した。
「歩さん…」
遮那は闇の先を見つめるしかなかった。

時音とアンゼの戦いは時間が掛かったように見えた。しかし実際はほんの1分…。
互角だと思われた二人だが、少しアンゼが上だった。地の利もある。上手いこと時音の死角をねらって殴りつけた。倒れる時音にとどめの一撃を見舞う所…。
時空跳躍し援護で魔王の拳を吹き飛ばした歩が居た。彼女は暗黒視ゴーグルで魔王が居る位置を把握していた。
すぐさま、時音は「神格」を最大限までに込めた刀を魔王の急所〜核〜に突き刺す。
「仲間が…居るというのは…良い物だよな…人間よ…」
敗北したと悟ったアンゼの言葉は爽やかだった。
「ここから先に牢獄がある。娘を連れて元の世界に戻るが良い…」
時音は、アンゼにこう訊いた。
「箱を送った人物は知らないのか?」
「知らないな…」
「…そうか」
「再び戦えて良かった…本当にさらばだ…」
魔王は霧散し、闇が晴れた…。

◆戦いが終わり
玉座の周りには時音と歩、遮那しか居なかった。闇の魔物はアンゼが死んだと同時に消滅したらしい。
周りは月明かりほどの明るさになりつつある。
「今度は、お前に助けられたな」
時音は歩に言った。
「前に助けて貰った借りは返した。停戦は解除だ。しかし此処を出てからだけどな」
礼を言われたので、照れくさく答える歩。志が違えど、やはり幼なじみだった。
「俺はもう帰る…あとは好きにしろ」
歩はそのまま立ち去った。
「…」
時音は黙したままだった。

暫くして、時音は傷の手当てをすました後、遮那を呼ぶ。
「アンゼが持っていたカギだ。これで牢屋を開けられる」
彼はカギを遮那に渡す。
「後は君の役目だよ」
「…時音さん…」
「早く行くんだ、お姫様がまっているよ」
笑いながら時音は答えた。


◆エピローグ
〈あやかし荘〉の事件は魔王の消滅によって幕を閉じる。

風野時音は、相も変わらず天空剣を極めるべく道場通いだ。時には歌姫も同行する。時音にとっては其れが日常で、未来の事は気になるが「現在を生きる」この平凡さが素直に好きになった。少し困ったと言えば…歩の視線を良く感じることだろう。今だ異能者派に取り込もうということは諦めてないらしい。
「いい加減懲りたらいいのに…まぁいいか」
歌姫の手をとり、鼻歌交じりで道場に向かっていった。

End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0506/奉丈・遮那/男/17/占い師】
【1219/風野・時音/男/17/時空跳躍者】
【1355/蒼乃・歩/女/16/未来世界異能者戦闘部隊班長】
※番号順です。
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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『闇の球体』に参加していただきありがとうございます。シリアス90%感覚で執筆しました。
書きたかったことも書けましたので、苦労しましたが楽しかったです。
「天空剣」の力は如何だったでしょうか?極めると「神格保持者」の人間になります。

では又機会がありましたらお会いしましょう。

滝照直樹拝