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<東京怪談・PCゲームノベル>


Surprise Party

三下の誕生パーティーを開くので、是非来て欲しい、と言う因幡恵美からの電話を受けたのは昨日の事だった。
あの歳になって誕生パーティーはあるまい。
大体何が悲しくて男が男の誕生日を祝ってやらにゃならんのだ、と断る気満々だった真名神慶悟は、結局恵美の「お料理もお酒も、沢山用意してありますから」と言う言葉につられて、今、あやかし荘の前に立っている。恵美の方が一枚上手だったらしい。
「たのもー」
冗談めかした呼びかけに、猫柄のエプロンを掛けて頭に三角巾をした恵美が笑顔で迎える。
「いらっしゃい、慶悟さん。もうちょっとで準備が終わりますから」
パーティーの会場は調理室らしい。
他の住人達が準備をしているので手伝って欲しいと、慶悟を調理室に案内し、自分は腕に抱えたボールの中身をせっせと泡立て器で混ぜている。
「男の人って、どんな物を喜ぶのか分からないから、私からの誕生日プレゼントはケーキなんですよ」
にこやかに話す恵美に相槌を打ちつつ、慶悟は自分が手ぶらで来た事を告げた。
「男が男に何かやる、というのも何だろう?でもって男が男に何か貰っても困るだけだ。」
慶悟なりに気を遣ったのだ。
金が惜しかった訳では、決してない。
「…ところで、あんたは何してるんだ?」
慶悟はひょいと視点を下げて、足元を走り回る嬉璃を捕まえた。
一体何の仮装だろうか、白いシーツを頭から被り、顔の当たりに紙に描いた目と大きな唇を貼り付けている。
「三下を驚かすのぢゃ」
……大の大人が、男が、こんなチャチな仮装で驚くだろうか。
考えて、慶悟は内心首を振る。
あの三下ならば、間違いなく驚くだろう。
「それがあんたのプレゼントって訳か?」
何とも迷惑なプレゼントではないか。
呆れる慶悟にSurprise Partyなのだと恵美が説明する。
「Surprise Party?」
「本当は、こっそり誕生パーティーの準備をして相手を喜ばせる為に驚かせるんですけど、何か皆勘違いしたと言うか、悪のりしちゃったみたいで……」
嬉璃はお化けになり、柚葉は妖艶な美女に化け、歌姫は暗闇の中で恨みつらみの歌を歌って、三下を驚かせるつもりなのだそうだ。
天王寺綾はと言うと、何やら階段でゴソゴソ動きまわっている。
「階段の両端に蝋燭を立ててるんです。皆さん、お部屋の灯りを消して真っ暗にするから、階段の場所がちゃんと分かるように」
暗いあやかし荘内、蝋燭に浮かび上がる階段。
三下なら、その場で腰を抜かしてしまって登れないのではないかと思うが、三下の部屋は2階。
全員2階の調理室に身を潜めるので他に助けはいない。
三下は、嫌でも階段を登らなければならないのだそうだ。
成る程成る程、と頷きつつ、慶悟もどうせならば驚かせてやろうと思い始めていた。
「さて、どうするかな…」


*1時間前*
Surprise Partyを開くと言っても、平日。
三下が、定刻に仕事を終えて帰路に着くか、残業をして遅くにどんより疲れ切って帰ってくるか、検討がつかない。
さり気なく帰宅時刻を聞き出せれば良かったのだが、よもや間違って口を滑らせてしまっては大変。
三下が何時に帰宅するのだか、サッパリ検討付けられぬまま、時刻は午後9時を回った。
三下の帰宅時間は10時。
予定通りならば、あと1時間で帰宅する事になる。
「あと1時間ですよー!」
と、何故かフライパンの裏をお玉杓子で叩きながら、恵美が建物を走り回ると、あやかし荘内は突然騒がしくなった。
慶悟はと言うと、何をして三下を驚かせるか未だ決まっていないのだが、なんやかんやと雑用を頼まれて忙しくあちこちを走り回っている。
「なぁ、三下なら確かに驚くだろうが、全然恐くないぞ?」
嬉璃のリクエストで、お化けの仮装に赤い絵の具で血を塗りながら、慶悟は言った。
「恐くなくても、三下が驚けば良いのぢゃ」
顔の所にも血を付けるよう指示しながら、嬉璃は笑う。
嬉璃はもう一つ驚かせる為の仕掛けを用意していた。
玄関を入った三下の額に当たるよう板蒟蒻をつり下げる為に、慶悟を踏み台代わりにし、ついでに確実に額に当たるよう慶悟をスケール代わりに使った。
階段では、どうせなら順番に蝋燭に火が点るように出来ないかと頭を悩ませる天王寺に、芯を伸ばしてつなぎ合わせ、ドミノ状に火が点るようにアドバイスをしてやった。
調理室に行けば、恵美が差し出す小皿を受け取って味見。
誕生パーティーへの出席を誘ったと言うよりも、どちらかと言うと雑用係の為に呼びつけたと言う方が正しいのではないかと思うほど、慶悟はあれこれこき使われている。
漸く椅子に腰を下ろし、一息付くために煙草に火を付けた慶悟は、もううんざりするほど疲れ切っていた。
タダ飯・タダ酒のつもりが、とんだ誤算だ。
吐き出す煙が何だかとっても虚しい。
しかし、乗りかかった船。どうせならば楽しまなくては。
「ま、いっちょ式神で驚かせておくか」
どうせやるならば徹底的にすれば良いと思うのだが、そこはそれ、相手は三下だ。
徹底的にやると泡を吹いて倒れて仕舞うのが落ち。
「ちっとは手加減してやらないとな」
呼ばれて立ち上がった慶悟の横を、
「♪踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら 踊らにゃそんそん〜」
と、楽しげに歌う歌姫が通り過ぎていった。


*10分前*
問題が持ち上がった。
準備はすっかり出来上がり、料理も酒も、見事な程にテーブルを埋め尽くしている。
あとは三下の帰りを待つばかり、なのだが。
「三下が帰って来たのを、誰が合図するんだ?」
ふと慶悟が口にした言葉で、わいわい盛り上がっていた一同が静まりかえる。
三下がすぐそこに帰ってから電気を消して身を潜めたのでは、少々無理がある。
かと言って、何時帰るとも知れない三下を、延々暗い部屋の中で待つ訳にもいかない。
「9時50分……、何時もはちゃんと10時にここに着くんだろ?」
「そうですね、大体そうです」
答えるのは恵美。
エプロンと三角巾を外し、手にはクラッカーを持っている。
「10分前なら……、どの辺だ?公園を過ぎた角の辺りを歩いてるのか?」
慶悟は頭の中に三下の帰宅ルートを思い描く。
折角準備したパーティーだ。こんな些細な事で失敗に終わってしまってはつまらない。
「しょうがないな…。我が内の理に従いて疾く…急々如律令…」
溜息を付いて札を1枚取り出し、印を組み式神を召喚する。
「忍びて三下を追え」
その言葉に、現れた式神がするりと窓を飛び出して行く。
「三下が十字路を曲がったらアレが戻ってくる。それから身を隠せば丁度良いだろう」
「それじゃ、あの式神さんが戻って来るまでは安心して動ける訳ですね?」
「ああ、十字路からここまでは3分と掛からないだろう?先に1階と3階の電気を消して、式神が戻り次第すぐ身を隠せるよう準備しておくんだな」
言われて、恵美は階段を駆け下りる。
「なぁ、あの式神に一つ頼みたい事があんねんけど」
クラッカーを配りながら、天王寺が言った。
「うん?何だ?」
「あんな、階段の蝋燭あるやろ?あれに、火ぃ付けて欲しいねん」
本当は天王寺が階段の横に潜んで火を付けるつもりだったのだが、見付かってしまう可能性があると言うのだ。
「分かった、三下が玄関を開けた時に火を付けさせよう」
それくらいはお安い御用だ。
慶悟は快く承諾したのだが、天王寺は喜んで礼に後で洋酒を1本呉れると約束した。
そこへ、恵美が戻ってきた。
「1階と3階の電気、全部消しました。2階の他の部屋の電気が付いていないか、皆さん各自確認してください」
その声で、2階の住人達がそれぞれ自分の部屋を確認に行く。
そして、皆が戻った時に丁度式神も戻って来た。
「おい、式神が戻ったぞ、全員隠れろ」
言って、慶悟も式神に次なる命令を下して新たに札を数枚撒く。
「光と影の印契…摩利支天の真言に依り…そして我が意に依りて変われ…急々…」
呟く様に慶悟の口から言葉が紡ぎ出され、式神に代わった札が、今度はが次々に三下の姿になる。
「わぁ、凄い……」
感嘆の声を上げたのは誰だろうか、慶悟は構わず三下の姿をとった式神を調理室から廊下の奥へ移動させ、身を潜ませる。
次に慶悟自身も、テーブルの下に隠れてポケットからクラッカーを取り出す。
柚葉が美女の変化して廊下に出たのを確認し、恵美が電気を消した。
「静かに静かに!」
誰もが息を殺すように、暗闇の中で身を潜め、もうすぐ玄関を開けるであろう三下を待った。


*三下帰宅*
「ヒャァッ!」
その声は、間違いなく三下のものだ。
テーブルや戸棚の影に身を潜めた住人と慶悟は、思わず笑ってしまいそうになって必死で口を手で押さえた。
玄関を入ってすぐの、嬉璃が仕掛けた板蒟蒻を額に受けたのだろう。
すぐに、今度は「わっ!」と言う声が聞こえてくる。
続いて、ドシンと言う音。
式神が蝋燭の1本に火を灯したのだろう。
ドシン、と言うのは三下が転んだか、腰を抜かしたかした音だろう。
「ううううう〜っ、な、何なんですかぁ……、皆さん、いないんですかー?」
情けない声が、階段を昇ってくる。
「ブフッ」
下品に吹き出したのは天王寺で、隣にいた慶悟は慌てて口を塞いだ。
と思うと、「ギャッ!」と言う声と共に再びドシンと言う音。
階段を昇りきった所で待機していた柚葉が姿を現したのだろう。
白い着物に身を包み、赤い紅を塗った口がなんとも妖艶な笑みを浮かべる。
子供にしちゃ上出来だ、とその姿を見せられた慶悟は褒めたが、考えてみれば柚葉は人を化かす事が商売の狐なのだ。
美女の化けた柚葉が調理室まで三下を誘導し、辿り着いた処で嬉璃が現れて驚かせると言う筋書きだ。
柚葉が誘導して来る間、歌姫は消え入りそうな声で歌を歌う。
入口に潜む嬉璃の後ろ辺りから、歌姫が歌い始めた。
「♪憎い 恋しい〜 憎い 恋しい〜………」
何故八代亜紀なんだ、と少々突っ込んでみたかったが、そんな事をしている場合ではない。
階段に煌々と灯る蝋燭、謎の美女、暗闇に消え入りそうな歌。
未だ見ぬ三下は、もう息も絶え絶えで怯えきっている事だろう。
1歩1歩と調理室へ近付いてくる三下の足音。
皆必死で笑いを堪えていた。
慶悟もまた、片手で天王寺の口を塞ぎ、反対の手で自分の口を塞ぎ、笑いを堪えるので必死だ。
「さぁ、どうぞ……」
囁くような美女の声に促されて調理室へ入ってくる三下。その足元を、暗闇ではサッパリ分からないだろうが血塗れた白い布を被った嬉璃が走り抜ける。
「わぁぁぁぁっ!!」
ガチャン、バタン、と派手な音が全てを物語っている。
驚いて腰を抜かした三下と、その手から鞄が床に落ちたのだ。
暗闇の中で、恵美がコンコン、と床を叩いて合図をする。
慶悟は天王寺から手を離して、床からクラッカーを取り上げた。
恵美の合図から3秒後。
「HappyBirthDay!」
それぞれ二つずつ持ったクラッカーが一斉に放たれて、パッと灯りが付く。
「三下さん!お誕生日おめでとうございます!」
にこやかに立ち上がる恵美。
しかし。
「あ」
慶悟が短い声を上げる。
「あっちゃ〜」
誰かが溜息を付いた。
「おーい、三下?しっかりしろ?」
床に伏したまま動かない三下に、慶悟は虚しく呼びかけた。


*Party*
5分後、豪勢な料理と酒の並んだテーブルの一席に、三下は座っていた。
頭には氷袋を当てて、したたかに打ち付けた額の痛みに耐えつつそれでも用意された料理を褒め、本当に恐かったんですよ!と強調しながらも皆のもてなしにも礼を言う。
「とか何とか言いながら、美女にはすっかり誘惑されてたんじゃないのか」
慶悟の言葉に、三下は顔を真っ赤にして否定した。
狐に化かされたなどと、納得したくないのだろう。
「実はな、俺もあんたにプレゼントを用意したんだ」
言って、慶悟は暫く待機させておいた式神を呼び寄せた。
もう少し早く出現させて三下を驚かせるつもりだったのだが、仕方がない。
しかし、驚かされても騙されても三下と言う男は根が素直らしい。
プレゼントと聞くと、そんな気を遣わないでくださいよ、等と言いながら顔が笑っている。
慶悟に呼ばれた三下の姿をとった式神達が、1人ずつ調理室にやって来て、三下の左右に座っていく。
と言っても椅子が足りないので、床に体操座りだ。
スーツを着込んだ冴えない男が床に揃って体操座り。
「むさ苦しいな……」
そうさせたのは自分なのだが、慶悟は溜息を付く。
「慶悟さん〜、プレゼントって、これですか〜!?」
何人もの自分が床に揃って座っている様子を見て、三下はとても嫌そうな顔をした。
「そうか、気に入らないか」
慶悟は暫し考えて、指をパチンと鳴らす。
パーティーと言えば宴会、宴会と言えば踊り、宴会と言えば一発芸。
慶悟は三下の右側に座った式神に踊れ、と命令し、左側に座った式神には歌えと命令する。
更に何体か式神を増やし、やはり三下の姿をとらせると漫才をするよう命令を下した。
人間よりも多い三下の姿になった式神達が、そこらそうじゅうで踊り、歌い、芸をして漫才を始める。
スーツを脱ぎ捨てて腹芸を始める式神がいれば、布巾をマイク代わりに、歌姫とデュエットを始める式神がいる。
リンボーダンスをする式神、その横でフラダンスをする式神、やや離れて漫才をする式神。
三下は嫌がったが、皆には盛況だった。
「慶悟さぁん、いい加減にして下さいよぉ〜」
折角のプレゼントが、三下はお気に召さないらしい。
「まぁ、折角のパーティーなんだ、堅いこと言うな」
たらふく食べて、したたか飲んで、慶悟は機嫌良く三下の肩を叩く。
「な、何ですか?」
「いつも難儀に見舞われて御苦労さんだな」
慶悟は懐から1枚の厄除け札を取り出し、三下の赤く腫れた額に貼り付ける。
今日はその難儀の1つに自分も入っていたのだと言う事を棚に上げて、しっかり天王寺から洋酒の瓶を1本受け取り、慶悟は満腹の腹を抱えて家路についた。


end



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】 
0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20 / 陰陽師

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■         ライター通信          ■
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佳楽季生です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
誰かをビックリさせるって、大好きです。怖がらせるのも好きです。
故に、友人からは性格の悪い奴だと言われます。
一度はSurprise Partyを開いて誰かを驚かせたいのですが……。
ではでは、また何時か何処かでお目にかかれたら幸いですv