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あやかし荘奇譚・草間氏が避難?
●シュライン・エマ
「あれ?」
シュライン・エマは〈あやかし荘〉に遊びに行く時に聞き慣れた声を聞いた。雇い主で恋人である草間武彦の声だ。
「気のせいかしら?」
彼女は首をかしげた。
しかし彼女の聴力はかなりのモノだから決して空耳ではない。そう思った彼女は興信所に電話をかけてみた。
「あ、零ちゃん?あたしだけど。武彦さんは?え?居ない?…そう、ううん何でもないの…またね」
携帯を切ると一言
「おかしいわねぇ」
彼女はこの近辺で彼が来ると思われるところは…〈あやかし荘〉しかないと判断した。
聞き取った声は、誰かに追われている恐怖に満ちたもの。草間が恐怖して逃げるほどのこととは何かある。ただ冷静になると草間自体に責任あるのか、無実で本当にやばいのかわからない。色々可能性を考えてみると…草間にはかなり前科がありそうなので頭痛がした。
「頭の中で考えるよりまず…本人から訊いた方が良いわ…。本当にどうしたのかしら…(汗」
彼を愛する故、やっぱり心配である。
〈あやかし荘〉についた時、ニヤニヤ笑いの嬉璃が恵美の代わりに掃除をしていた。
「あら嬉璃ちゃん、こんにちは」
「おお、シュラインか。こんにちは」
「ねぇ?武彦さんここに来なかった?」
シュラインは座敷わらしに訊ねた。黙りを決めようと思った嬉璃だが…シュラインの草間を心配する顔をみて、笑いを止めた。
「あいつはしばらく避難したいそうぢゃ…。しかし、なぜかは訊いてない」
「避難!」
よほどのことがあるのだろう。卒倒しそうになった。其れではだめだ、気をしっかり保て!と自分に言い聞かせた。
「あ、ありがとう…どこに隠れたかわかる?」
「うーん。わからん。適当な所に(開かずの間も含め)隠れているかもしれんのう…」
「あ、ありがとう…嬉璃ちゃん」
「お、おい大丈夫か?」
シュラインの足取りは、ふらふらだった。流石の嬉璃も彼女を手伝うことについて行く。
(本当に奴は何をおびえているんぢゃ?)
聞き耳をするシュライン。この狭そうで広大な〈あやかし荘〉で個人を探すのはかなり難しい。でも彼女には其れは簡単だ。耳などが良いからだ。
鋭敏な聴力と、いつも聞き慣れている足音などで草間を判別できると判断した。後ろで嬉璃が心配そうについてきている。
しかし、玄関先から急いで走ってくる音を聞いた二人は、いったん捜索はやめてそちらに向かった。
なんと、歌姫がものすごい形相で、10歳の少年を担ぎ、時音の部屋に向かっているではないか!
「お、おねえちゃん?」
少年が混乱しているのがわかる。
「誘拐でもしたのかの?」
嬉璃が歌姫の行動に疑問を持つ。
「…一難去ってもないのにまた災難?」
本当に歌姫が誘拐しているならただ事ではない。
「まずは…歌姫さんに事情を聴きましょう…」
「うむ…そうぢゃな」
嬉璃がさきに歌姫を追う。シュラインはもう一度あたりを確認してから…向かおうとした時…。壁からドアが音も立てず現れ…そのこら手がのび口を押さえられてしまった。
「むぐぐ!」
そのままシュラインはドアに引きずり込まれ、ドアは消えた。
シュラインは、藻掻いて離れようとするが…いつものヤニ臭さに我に返る。
手はゆっくりと離れていき、一言
「いきなりですまない…」
「武彦さん!びっくりさせないで!」
「いや…色々事情があってな…後ろの剣客が居なかったらどうなっていたことか…」
周りを見渡すと、妙な透明な球体の中だ。周りは灰色の霧に包まれているが、そこかしこに同じような球体がある。
草間の後ろにはのんびりとソバと酒で食事を摂っているエルハンドがいた。
「〈あやかし荘〉では蒼乃がやってくる確率が高い。が、此処には空間干渉の達人が居る。此処なら特殊世界につながりやすいから身を潜めた」
「はぁ?」
草間の説明でも状況が今ひとつわからないシュライン。
草間は申し訳なさそうに歩が時音を探していることを断り、彼女に殺されかけたことを伝えたのだ。
「あの女も…どんどんエスカレートしてくるわね…」
呆れかえるシュライン。
「全くだ…」
「呑気に酒を飲まないでよ!あんた!」
シュラインがエルハンドの持っている酒を奪った。
「此処にいれば、一応外界の情報もとれるから焦るな…」
神はため息をつき…球体が動かした…するとぼやけながらに〈あやかし荘〉の玄関に立っている事がわかった。
「今までは深層精神界に居たが、実際はこういう風に見える…。蘊蓄は今入らないな」
剣客は簡単に相手の様子をうかがえて安全な場所を提供した。それだけだった。
「蒼乃の件となれば…歌姫さんの異様な行動も…何となくわかるわ…」
「歌姫がどうかしたのか?」
「少年を誘拐して…」
「ま、まて!どういう事だ!」
二人とも混乱してきている。
「ああ、おそらく其れは私の馬鹿弟子だ。迷惑かける…」
「弟子って…時音くん?」
「「そうだな…今の歌姫が必死になるのはそれ以外に考えられない…」」
草間とエルハンドは同時に言った。
嬉璃が、シュラインも消えたことでおたおたしているのを見つけた。
「嬉璃ちゃんもこっちに…」
「其れをすると不自然だろう?」
草間がシュラインの提案を止めた。
「相手の出方次第で行動をとるつもりだ。まずは…時音を元に戻した方が良い」
いつもの草間に戻っていた。シュラインは緊張が解けるかのように涙を流す。
「ばか、ばか、ばかぁ。本当に心配したんだから」
「す、すまん」
彼女は草間の胸をぽかぽか叩いて泣いた。
二人のやりとりを見ないようにエルハンドは少し場を離れた。
「弟子をどうやって戻すか…それともあのままでどう動くか…」
そんなことをつぶやいていた。
蒼乃歩はおどおどしている嬉璃を見つけた。
「こまったものぢゃ…」
「どうした?」
「ん?なんでも…ある…」
インスタントカメラのシャッターを押しかけの歩に嬉璃は恐怖する。彼女は大のカメラ嫌いである。カメラ自体を見るだけでは怖くなくなったが、写されることに対しては耐性がない…。
(恐るべし…蒼乃歩…)
最強の凶器を突きつけられては服従するしかない嬉璃だった。
「まずは…草間がどこにいるか知らないか?」
「居ることはいるが…どこにいるかわからん」
「本当のようだな」
「嘘つけるか!」
「反抗するな…」
「ううう…お姉ちゃんがいぢめる…」
子供言葉になってしまった嬉璃。
「もう一つ…時音はどこ?波動を感じるのはわかっている!捕獲器が壊れていることも発見した」
「たぶん歌姫の部屋…」
「ありがとう」
嘘はついていない。いまでは歌姫は時音を愛してから守衛室に入り浸っているからだ。はっきり言って同棲だ。
当然歩が歌姫の本来の部屋についた時、歌姫は居なかったし、時音も居なかった。おそらく逃げたか?
「くそ!先に草間だ!」
歩はどこからともなく大きな鞄をとりだし…中からはゴシックロリータの本や、オタクアイテムを抱えて玄関まで戻ってきた。
そして…
「草間ぁぁ!諦めて投降してこないと、この『世界メイド服大全』という神秘の本や『萌え萌え巫女服友の会定例新聞』だのの詳細を、イラスト込みで零に詳細に濃厚に語ってやるぞー☆」
と叫んだ。
ある意味…退魔銃で撃たれて死ぬより…こっちの方が恐ろしい。
歩の叫びを精神界で聞いた草間とシュラインは、思いっきりずっこける。
「なんなのあれ!」
「俺はそんな趣味はない!」
「そうよ!武彦さんに…か…限って」
「なんだ?どもってるぞ?」
ジト目でシュラインを見る草間…。何事も無かったように、あさっての方向を見るシュライン。
「そんなことより!早くあの変態女を始末しないと!」
話題をそらす。
「其れは時音がするだろう…」
剣客はにやりと笑った。
草間とシュラインは首をかしげた…。10歳になった時音に何が出来るのだろう…?
「どこだー!」
もう狂気のオタクになった歩に敵はいないと思われた。しかし!
廊下に写真が落ちていた…それは…『時音5歳』のロリロリ写真だった。彼女にとって超レアアイテムだ。
「あ!宝物めっけー!」
拾った瞬間…天井から日本刀の雨霰が降ってきた。
「うわあ!!」
奇妙なポーズで何とか攻撃をかわす歩。
「このブービートラップ…。時音ね!」
刀を抜くと今度は壁から、でかいボクシンググローブが出てきて彼女を直撃する。反対側の壁が鉄板になっており、かなりのダメージを被った。
「なかなかやるな…」
鼻血を出しながらにやりと笑う。
先に進むと…鉄鋼糸が張り巡らされている。
「ははーん。俺が念動弾でこれを切り裂こうとするか…さけると逆に罠が発動するって事だな」
「よくわかったね」
その先には10歳の時音がいた。しかも可愛い小学生の制服のコスプレをしている。
「時音!…か、かわいいい〜」
罠のことはお構いなくなった。もう可愛い時音に目を奪われた歩はただの馬鹿でしかなかった。
当然、罠に引っかかり。もう説明出来ないトラップの嵐をもろに受ける歩だった。
「あ、アレで引っかかる?」
「ふつうはないだろう?」
「あう言う奴らしいな…歩は…それより、敵の弱点を知り尽くしての対策。流石時音だ」
ノックアウトしている歩を傍観しているシュラインと草間はこの光景が信じられなかった。
剣客だけは笑いをこらえている。
「流石、戦いなれているな…」
エルハンドはいきなりドアを出し、呆然としたシュラインと草間をつれて現実世界に戻った。
歩が目を覚ますと…
殺気だった5人が立っていた。殺されかけるしかつオタク扱いされた草間と、本当に彼を心配していたシュライン、捕獲器で子供になってしまった事と草間たちに迷惑をかけた事で怒る時音と歌姫。カメラを向けられた嬉璃…。
エルハンドは玄関の方で黙っていた。手には捕獲器を持っている。
完全に分が悪い…本当に分が悪い…歩は冷や汗をかく…。
「欲も俺を殺そうとしたなぁ〜。しかも零に……」
「武彦さんをオタク扱いしたわねー」
「元に戻った僕の剣で封印されたいかな?」
「カメラを向けた罪は重いぞ、小娘ぇ〜」
にじり寄る5人に、歩は退く。彼女はエルハンドに助けを求めるが…
「自分のまいた種ぐらい自分でしっかりかたつけろ。萌えの廃人」
神にまで見放されたら…もう人生終わった。しかも廃人扱い…。
「そんなのいやぁ〜!」
その叫び声が、彼女の断末魔となった(半殺しですみましたが)。
「すまなかった〜!」
草間はシュラインに土下座する。
「いいわよ…もう怒る気も失せたわ…」
管理人室でのんびりしたあと、草間とシュラインは事務所に戻っていった。
時音は、小鳥の檻にいる小鳥をみている。歩のなれの果てだ。能力を一時的に封印すると同時に、デリケートなカナリアに変化させたのだ。悲しく歩はぴーぴーと泣くしかなかった。
数時間後には、異能者との取引で釈放されることだろう。向こうも恥ずかしすぎて、
「今回はすまない…こちらで後処理はするから…信じてくれ…」
と謝罪したぐらいだ。
異能者部隊長がこんなのになってしまった部下に哀れみを感じる。
なんというか、この事件は単なるどたばたで終わった。
End?
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【1355 / 蒼乃・歩 / 女 / 16 / 未来世界異能者戦闘部隊班長】
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■ ライター通信 ■
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どうも滝照です。
このたび、『草間氏が避難?』に参加していただきありがとうございます。
蒼乃様のおかげで、思いっきりどたばたギャグになりました。こちらが考えた以上の行動お疲れ様です。
本当に心配しておられたシュライン様、如何だったでしょうか(滝汗
風野様は若干年齢を要望より下げました。先がおもしろいと思ったので。
作業中、笑いが止まらなかったです…。
ただ、蒼乃様が零ちゃんに「アレ」を伝授し、零ちゃんが実行した場合…。
考えただけでも恐ろしい…。
これからもよろしくお願いします。
滝照直樹拝
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