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黄昏は囁く―現―
●序
学校も、塾も、親も、友達も……くそくらえだ。俺の世界は此処だけだ。そう、此処だけしかないんだよ。俺は囁く。もう一人の俺に。もう一人の俺に命じる。目の前の扉を開けようと。扉を開けると、そこはラッキーゾーンだった。一つ願いが叶うと言う、超レアなラッキーゾーン。噂でしか聞いた事が無かった。
「初めて見た……本当にあったんだ」
俺は考え、もう一人の俺に指示を出そうとする。新しいアイテム、イベントの情報……いや、それよりも。
「このまま、此処にいられたら良いのに」
『じゃあ、いれば？』
ラッキーゾーンで、もう一人の俺がにやりと笑った。
草間興信所に、高橋・鈴子（たかはし すずこ）という女性が訪れていた。目の下のくまが痛々しい、中年女性。息子の高橋・征矢（たかはし せいや）が、どんなに起こしても起きないのだという。それどころか、半透明の征矢がパソコンの前にずっと座っているらしい。話し掛けても答えは無い。ずっとパソコンの前に座っているらしい。中学三年生である征矢は、毎夜ネットゲームに精を出していたのだとも。
「では、そのネットゲームが原因だと？」
「ええ……きっと、あのゲームから変な電波が出ていたんですよ」
（まさか）
草間は一笑した。ゲームとは『現夢世（げんむせい）』という、シミュレーションゲームである。自分の視点で進み、様々な場所で起こる出来事を体験したり解決したりする。自由度の高い世界性と、やりこみ要素の高いゲーム性、そして無限に広がるイベント、リアルに進んでいく時間等のシステムで人気が高い。一つのイベントに、特定の人数しかアクセスできないのも大きな特徴だ。だが、結局誰が作っているのかは不明である。
「ともかく、征矢君の目を覚まさせればいいんですね？」
「ええ。宜しくお願いします。もう二日も目を覚まさなくて……あれって、幽体離脱って言うんでしょう？なら、征矢は……」
「……分かりました。何とかお力になれるようにいたしますので」
草間そう答えると、鈴子は深々と頭を下げて去っていった。
「……人数制限のあるイベントなら、ネットから攻めても駄目だろうな。半透明の征矢君に対して、または外部から何かしらのアクションを起こすか……征矢君の意識を強制的に呼び起こすか」
草間は呟き、真顔になる。
「いずれにしても、すぐに向かってくれ。幽体離脱が起こっているならば、急がなければ手遅れになるかもしれない」
●生
「さやかさんがいる……」
歩いていた足を止め、露樹・故（つゆき ゆえ）は呟いた。場所は奇しくも草間興信所前。そこに何となく大矢野・さやか（おおやの さやか）がいるような気がしたのだ。故は携帯を取り出し、電話をかける。
『もしもし……？』
電話の向こうから、鈴を転がすかのような声が聞こえる。故の顔が、自然と綻ぶ。
「さやかさん？今何処にいるんです？」
『草間興信所に……』
（当たり、ですね。やはり俺は運命に恵まれているようです）
「それは奇遇です！」
故はそう叫び、パチンと指を鳴らした。その一瞬のうちに草間興信所の中にいた。さやかの柔らかそうな茶色の髪が見える。それを確認してから、故はさやかの周りに突如花を咲かせる。驚くさやかの向こうに草間がぽかんと口を開けて、言葉を発する事をも忘れているのが見えた。さやかは慌てたように後ろを振り返った。さやかの青の目が驚いている。そして同時に喜びを含んだ目。
「故さん……！」
「こんにちは、さやかさん。何となくここにいると思ったんですよ」
さやかは回りに落ちている花を拾う。
「有難う……嬉しいです」
「そう思っていただけるだけで、俺が嬉しいです。……ああ、やはりさやかさんには花が似合いますね」
にっこりと笑う故。草間ははっと我に返った。
「……いい所に来たな」
「そうでしょう？絶妙のタイミングですよね。さやかさんがいらっしゃるなんて」
「いや、そう言う意味でなくて」
思わず草間が突っ込む。そして、件の依頼を説明する。聞いていくにつれ、故の顔つきが変わって行く。心配そうにさやかを見ながら。
「つまりは、そのゲームに問題があるという事ですね？」
「そうみたいです。……でも、下手に触ったりしない方が……」
さやかの言葉を遮り、故はぎゅっとさやかの手を握り締めた。
「さやかさんが、そんな危険なゲームに誤って没頭したらどうするんですか！……さやかさんに何かあったら、俺はこの世を全て破壊しますよ」
至極真面目に故は口にする。至極、真面目に。
「では、俺はその会社を当たってみます」
「おい、征矢君はどうするつもりだ？」
慌てて草間が尋ねる。故はにやりと笑い、さやかの肩を軽く抱く。
「さやかさんに任せます。……さやかさんなら、大丈夫ですから」
「故さん……」
さやかは改めて故を見る。自分に任せる、という故からの信頼に小さく喜びを感じながら。
「ああ、でも危険になったらすぐに連絡するんですよ？飛んで行きますから」
「ええ。勿論」
見詰め合う二人に、草間は後頭部をぼりぼりと掻きながら溜息をつく。
「悪いが……早く行ってくれないか？一刻を争うんだが」
「野暮だね、草間さん」
「お前なぁ……」
故は小さく微笑み、さやかにも微笑み、それから真面目な顔つきでパソコンを睨んだ。会社に忍び込むのならば、夜がいい。しかし……事態が一刻を争うのならば。
（会社の位置だけでも確認しておくのがいいのかもしれない）
故の緑の目は、決心に満ちていた。
さやかを見送っても、故は未だ草間興信所に留まっていた。
「おい、何故まだここに……事態は一刻を争うと……」
「急がば回れ、ですよ。あ、パソコンお借りしますね」
故は有無も言わせず言い放ち、『現夢世』にアクセスする。
「何をする気だ？」
「会社を当たってみるって言ったでしょう？」
「だが、作成者は不明だ」
「でも、プロバイダを見れば……少しは手がかりがあるんじゃないですか？」
にやり、と故は笑った。草間はそれ以上何かを言う事を諦め、故の作業を黙って見つめる事にした。
（なるほど……作成者の記述は全くもって皆無。しかし、メールアドレスやプロバイダから割り出せるかもしれませんね）
メールとサイトのアドレスを確認し、故はそのアドレスのプロバイダにアクセスする。それを確認してから立ち上がる。
「おい、分かったのか？」
「とりあえず、プロバイダ会社に行ってみますよ。……何としてでも突き止めてみせます」
にっこり、と故は笑った。草間は苦笑しながら尋ねる。
「大矢野君のためにも、かい？」
「勿論。……さやかさんに降りかかろうとする危険要因は、俺が全て取り除きますよ」
草間興信所を後にし、故は小さく微笑む。冷たさを含む笑み。
「そう、全て……ね」
●鬱
「駄目です」
プロバイダ会社は、そう言ってきっぱりと断った。当然である。顧客のデータを見せてくれ、等という事ははプライバシー保護の為に禁止されている。
「まあ、そうでしょうね」
故はそう言って、頭を下げて出ていく。会社に訪れ、受付嬢をうまいこと言いくるめて上司に会う事までは順調であったが、やはり最後で断られてしまった。勿論これは予想範囲内ではあったが。故は出ていくふりをし、廊下に身を潜めた。事務所から一人の女子社員が出てくるのを見計らい、そっと近付いた。
「こんにちは、お嬢さん」
「え？」
故の登場に一瞬驚き、それから再び驚く。
「あ、あなたマジシャンの露樹故さんじゃ……」
（しめた）
故はにっこりと笑う。
「失礼ですが、迷ってしまいまして。……出来れば、資料室の場所を教えていただければ嬉しいのですが……」
「資料室、ですか？先ほど、うちの上司がお断りしてた筈では……」
一瞬身じろぐ。無理も無い。極秘資料のある場所に、簡単に案内して貰えるとは思えない。ましてや、先ほど上司が断っているのを彼女は目撃しているようなのだ。故は顔を彼女の間近に寄せ、至極真面目な顔で口を開く。
「実は、表ではああ言ってらっしゃったのですが……筆談で了承を得られまして」
「え？」
「表立っては断るしかないのだと、仰ってました。だから、こっそりと行ってくれ、と」
「で、でも」
未だ迷う彼女に、故はにっこりと微笑む。
「あなたがすぐ出てくる、と聞いたのです。道案内は、あなたに任せるからと」
故はそう言いながら、彼女の持つ資料を指差す。
「だから、あなたにこんな資料を持たせたんでしょう？資料室に行っても分からないように」
「……そういえば、いつもなら他の人に任せていたような……」
（人間の思考は、後で思えば……という現象を甘んじて受ける傾向がある。何にでもつじつまを合わせようとする、その思考）
にやり、と故は小さく笑う。
「なに、あなたは案内してくれるだけでいいのです。あなたが資料を置くだけの時間、一瞬見せてくれたらそれでいいのですから」
「そうですか。なら、こちらに」
にっこりと故は笑った。上手く行った、と考えながら。
資料室で女子社員が資料を置いているほんの一瞬に、故は資料の大体の場所を覚える。後で来た時の為だ。女子社員は資料を置き、資料室から出て鍵をかけた。
「有難う。……ああ、それと……」
パチン、と故は指を鳴らした。彼女の耳元に口を寄せながら。
「ここで俺に会った事は、忘れてください」
再び、故はパチンと指を鳴らした。と同時に彼女は虚ろな顔であたりを一瞬見渡してから、首を傾げながら帰っていった。故はあたりを見回し、誰もいない事を確認すると資料室のドアノブに手をかける。
「俺に鍵は……」
がちゃり。ドアが音を立てて開いた。確かに先ほど女子社員がかけた鍵など、忘れたかのように。
「通用しません」
故は中に入り、先ほど目星をつけていた資料に目を通す。その中から、一つだけ不思議な契約者のデータを発見する。住所、氏名、年齢、引き落としの金融機関……全て不備は無いのに、何故か首を傾げないにはいられない。そんな何とも言えず疑問を抱いてしまうような違和感を覚えさせるデータ。
「これでしょうね」
小さく微笑み、故はそのデータを頭に叩き込む。そして資料は元通りに収め、資料室を後にした。再びこの資料室に足を踏み入れたとしても、侵入者があったとは分かる事はないであろう。丁寧に、かつ素早く故は作業をしたのである。
「さて……違和感を確かめに行きましょうか」
会社をそっと抜け出し、故は伸びをした。ふとポケットに入っている携帯電話の履歴を見る。さやかから、何かしらのＳＯＳが入ってないかを確かめる為に。今のところは、大丈夫なようだ。
「さやかさん……無理だけはしないで下さいね」
呟きは、空へと溶ける。祈りのように。
●遂
故は、頭に叩き込んだデータの場所の前に立つ。そこは、明らかな廃ビルであった。中には誰もいない事は外見から容易に想像できる。
「違和感は、これでしたか」
眉を顰めながら、故は呟いた。書かれていた住所に、会社は無かったのだとぼんやりと思っていたのだ。『現夢世』ほどのアクセス数を持つネットゲームを運営する会社ならば、個人が作っているとは考えにくかった。
「……幽霊会社、とも考えにくいですけどね」
苦笑しながら、故は廃ビルに足を踏み入れる。まるで夢の中の出来事みたいだ、と故はぼんやり考える。廃ビルの中は昼間だというのに、薄暗い。現実とはかけ離れた……否、隔離されてしまった空間のようだ。
「まさか、本当に……」
思考を口にし、自分を保つ。一人いる事が、不思議な感覚を呼び起こしている。しん、とした音の無い気配も心細い。
「あれは」
故は何かを発見し、駆け寄る。それは、一台のパソコンだった。電気が通っているのかどうかも分からぬこの廃ビルで、光るパソコン。カタカタ、と音を立てている。動いているのだ。
「誰もいないのに、何故動いているんです？電源は何故ついているんです？」
『架空空間だからだよ。……驚いた、此処まで来るなんて』
画面が喋った。故は後ずさり、構える。
『嫌だな、そんなに構えないでよ。……何？あなたもあの少年絡み？』
「あなたは何者です？」
故は警戒をしつつ、尋ねる。画面には、全身を黒で固めた青年がいた。黒髪に黒の目。虚ろな表情と、口元に笑み。存在そのものが異常だと思えてならない。
『僕は、キョウ。……どうしたの？何がそんなに怖いの？』
「怖くなどはないですけど……事の異常さに驚いているだけです」
『そう……異常、ね』
キョウはそう言い、笑った。
「何がおかしいんです？」
『だって、僕のことを異常だって言うんだもの。どうして僕が異常だと思うの？どうして？』
「このような廃ビルに電気が通っている事自体、異常だと思いますが？」
『電気？……そんなの、ちょっと貰ってくればいいだけじゃない。電線なら一杯あるんだし。……ほら、まず一つ疑問が消えた』
「料金は払ってないんです？」
『払ってるよ。……違うか、払っているふりをしているんだ』
故は眉を顰める。恐らく、電気会社にアクセスし、盗んでいる電気量を誤魔化しているのであろう。この画面に映っているキョウは、それだけの事をやってのけているのだ。
「あなたは、何者です？」
『僕はキョウ。もう言ったじゃない？』
「違います。……どうして、あの少年の魂を閉じ込めたりしたんです？」
『望んだからだよ？……彼はね、僕の作ったラッキーゾーンに入ったんだ。そこは望みを全て叶える場所、滅多に出会えないレアなイベント部屋。そこで彼は願った。ずっと、此処にいたいと』
「だから、と言うんです？」
『そうだよ。だって、僕は望みを叶えると言ったんだもの。叶えないと、嘘でしょ？』
「そもそも、そのラッキーゾーンというのがおかしいのでは？」
『何故？皆が望んだんだから仕方ないじゃない。僕は皆の望みを叶えただけ』
キョウは笑う。にやり、と。
『イベントが永遠に続けばいい、ずっと遊び込めればいい、飽きが来なければいい、ゲームする時の契約料金が無ければいい……そんな皆の願いを、僕は叶えただけだよ。僕はそのために存在するんだから』
（一体、このキョウというのは何者なんです？何故、存在をしているんです？）
故の額を、汗がつう、と流れた。キョウは虚ろな目で笑っているままだ。
「其れに対する、あなたのメリットが見当たりませんが？」
『メリット……あるけど。それはあなたに語らなければならない事じゃないから』
そう言い終わった後、キョウの目に力が宿った。悔しそうに。そしてその直後、また再び虚ろな目に戻り、故を見つめた。忌々しそうに。
『あなたの仲間？……男二人と、女二人。あの少年、帰っちゃったよ。折角ラッキーゾーンの望みを叶えてあげたのに』
（さやかさん！）
故は笑った。それはさやかと、他の仲間たちが征矢を無事に目覚めさせる事ができた事を告げることであったから。
（では……俺はこれの後始末をしないといけませんね）
そう考え、故は改めて構えを取った。回線を凍結する。そうすれば、この『現夢世』と言うネットゲームは消滅する筈だ。故の体の周りに、冷気は微かに纏わりつく。出番を待つかのように。
『何する気？』
「心配事は無くなりました。……ならば、あとはこの回線を強制的に排除させてもらうだけです」
『無駄だけど？』
「そんな事は……やってみないうちに言うものではありません！」
故はそう叫ぶと、じっと回線を見つめる。体に纏わりついていた冷気は、出番を感じて一斉にパソコンに向かって行く。念を込めて見つめられた回線は、凍結してしまう筈だ。この忌々しい『キョウ』とかいう存在と共に。
ピキン、という音がし、完全にパソコンは氷に包まれてしまった。
「これで、名の通り凍結した筈です」
『無駄、だけど？』
キョウの声が、部屋に響いた。故は再び解いていた構えを取る。凍り付いてしまっているパソコンから、キョウの声が響く。
『これで終わらせる筈だった？……無理だよ。だって、望んでいるから。皆が、『現夢世』を求めているから』
キイン、と音が鳴り響き、パソコンを覆っていた氷は飛び散ってしまった。故は手を一疾し、飛び散ってきた氷の粒を全て花弁に変えた。赤い赤い、薔薇の花弁に。
『ふうん……雅だね』
「キョウ……と言いましたね？あなたは一体何者なんです？」
再び疑問を投げかけた。ありえない事に、故は半分焦りを感じていた。トリックなどでは説明のつかない現象たち。
『僕は僕。キョウはキョウ』
「答えとして、不的確です」
『じゃあ、あなたは自分が何者だと断言できるのかい？胸を張って、自信を持って断言できるの？』
キョウはそう言い、あの虚ろな笑みで故に言い寄る。
『自分が誰か、だなんて誰だって的確に言えるわけ無いじゃないか。……大切なのは、自分がどういう存在かを完全に理解する事じゃないないと思うんだけど』
「なるほど、興味深いですね。ならば、どういう事か教えていただきたいものです」
キョウは笑った。ただ、笑ってみせた。故の質問に答えるのではなく、ただ笑ってみせたのだ。不気味さが際立つ。
『僕が怖い？僕に近付きたい？……どっちでもいいよ。僕に会いたいなら来れば良いよ』
「何処に？」
『そこまで僕は親切じゃないよ』
苦笑したようにキョウは言う。
「おや、皆の望む事をするんじゃ無かったんですか？」
故の皮肉に、キョウは凄まじい悪意を持って睨んできた。故の背中が、ぞくりとする。
『僕は僕自身のメリットだけを求め、動いているんだ。……それを忘れないで欲しいな』
ぷつり、とパソコンは電源が切れた。故は再びパソコンを凍らせるが、やはり氷は弾け飛ぶだけであった。
「キョウ……」
故はそう呟き、廃ビルを後にした。取り敢えずは、征矢の目を覚ますことは出来たのだし、キョウとかいう存在と出会う事が出来たのだから。例え苦い苦い重みを、その胸に抱いてしまう事になったとしても。
●終
「さやかさん！」
高橋家に行くと、依頼を完了して家から出てきた面々と遭遇する。
（ああ、やはり念のために来て良かった）
故は噛み締める。お陰で、ちょっとだけ早くさやかに会えた。
「故さん！」
さやかがこちらに向かって走り出した。それを一緒にいた他の四人が見ていた。
「危険な事は無かったですか？大丈夫でしたか？」
「え、ええ。……故さんも大丈夫でしたか？」
（大丈夫……ですか。一応は、大丈夫ということにばるんでしょうね）
故は少し黙ってそう考え、それからさやかに向かって微笑んだ。
「ええ」
次に故は皆の方を向き、至極真面目な顔で口を開いた。
「キョウ、という存在に出会いました。『現夢世』のプロバイダを辿っていった廃ビルで、異常な存在と出会ってしまったんです」
「キョウなら、私たちも会ったわ。……何だか、不思議な感じだったわ」
と、青い切れ長の目で故をじっと見ながらシュライン・エマ（しゅらいん えま）は言った。纏め上げられた長い黒髪から零れ落ちている髪が、風に靡く。
「そうじゃな。なにやらむかつきを覚えたのう」
と、網代笠から覗く銀の目を光らせながら、護堂・霜月（ごどう そうげつ）は言った。
「相手にしたくない印象を受けた。というよりも、不穏な気を纏っていたといった所か」
と、派手な格好をものともせずに真名神・慶悟（まながみ けいご）は言った。金髪から覗く黒の瞳は真っ直ぐに故を射抜く。
「私も、何だか嫌な雰囲気を感じたわ。妙に矛盾したかのような」
と、さやか。それぞれが『キョウ』という存在に対して、良い印象を持ってはいない。むしろ、逆。
「あのゲーム、おかしいですよ。疑問が尽きない。……果たして、ネットゲームという存在は、現実世界に影響を及ぼす事が可能なんですかね？」
故はそう言って、さやかの肩をぎゅっと抱いた。さやかはじっと故を見つめた。そんな様子に、皆も思わず黙ってしまう。
「ともかく、今回は征矢君が無事に目を覚ましたことを喜びましょうよ。ほら、綺麗な夕焼けじゃない」
気を取り直すかのように、シュラインはそう言って夕日を指差した。燃えるような、真っ赤な色で染め上げられた空に輝く、赤い赤い太陽を。
●付
存在意義など、本人が自覚する意外に方法は無く。他人が例え存在意義を示したとしてもそれは本人の内部へと浸透する事は無いであろう。
ならばどうする？どうやって他者へ自分の存在意義を認めさせる？
叶えればいい。全てを、他者を、自らを。
その為に何かが必要だ。何かが必ず必要となっているのだ。
それが何かは、今は分からない。そう、今のこの時点では何も分かる事は無いのだ。それが運命。逃れる事を許さぬ、決まり事なのだ。
『苦しい』
誰かが呟いた。それは自分かも知れず、または他者かも知れない。ただ呟いたという事実だけが存在している。ただ、事実だけが。
＜現にて何かを悟りつつ・了＞
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【 0086 ／ シュライン・エマ／ 女 ／ 26 ／ 翻訳家＆幽霊作家＋時々草間興信所でバイト 】
【 0389 ／ 真名神・慶悟 ／ 男 ／ 20 ／ 陰陽師 】
【 0604 ／ 露樹・故 ／ 男 ／ 819 ／ マジシャン 】
【 0846 ／ 大矢野・さやか ／ 女 ／ 17 ／ 高校生 】
【 1069 ／ 護堂・霜月 ／ 男 ／ 999 ／ 真言宗僧侶 】
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■ ライター通信 ■
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お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度は「黄昏は囁く―現―」に参加して頂き、本当に有難うございました。今回はプレイングによってはバッドエンドも用意していたのですが、不要のものとなってしまいました。改めて皆様のプレイングの凄さを実感いたしました。有難うございます。
皆様それぞれお一人でも解決できるのでは？と思わせられるプレイングでした。勿論、お一人だったら大変だっただろうなぁと思う場面も少々あるのですが。相変わらずの分かりにくいオープニング文章で、あそこまで読み込んで頂けると嬉しいです。
露樹・故さん、初めまして。上手く描写できているかどうか、ドキドキしてます。如何だったでしょうか？大矢野さんとのラブラブっぷりはどうだったでしょうか？（え？そこ？）今回はお一人での行動を主にして頂きました。本当なら「キョウ」の存在はもっと曖昧なまま終わっていたのですが、故さんのプレイングによって結構出る事となりました。
今回もそれぞれ個別の文章となっております。顕著なのは露樹さんですが……一人別行動でしたから。宜しければ他の方の文章も読まれると尚嬉しいです。そして、今回は「現」です。前もって言っていた通り、これは「夢」と対になっている二部構成となっております。勿論影響しているだけで一つ一つ成り立つお話となっておりますので、続けて参加しなければならないという事は無いです。……続けて参加してくだされば、それは嬉しいですけど（ぼそり）
ご意見、感想等心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時迄。
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