コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


有名タレントの謎

------<オープニング>--------------------------------------
「三下君」
碇が三下を呼んだ。
雑用を任せるような口調ではないので、三下はすんなりとやってくる。
「編集長、何でしょう?」
「前に独占インタビューできた有名タレントの葛城輝…もう少し詳しく調べられないかしら?」
「はい。確かに其れは僕の仕事ですし…」
少し声を詰まらせる。何かイヤな予感がする三下。
「どうも…怪しいのよね。…匂うのよ」
「そんなに匂いますか…僕」
天然ボケする三下に、書類の束で突っ込みを入れる碇。
「ばか。此は特ダネになるのよ〜。何かあるわ」
「その真相を調べるわけですね?」
「ま、そうね。貴方にしては上出来なネタ。ちゃんと上げてきなさい。特にいきなり彼がビッグになったことをね!」

補足:
有名タレント葛城輝。あやかし荘TV取材の時のレポーターのほか、有名ドラマで引っ張りだこの好青年。
三下の独占インタビューを受けた事がある。『あやかし荘TV取材』参照。


0. 風野・時音
〈あやかし荘〉でのんびりと時音はざるそばを食べていた。
管理人の恵美から三下が電話してきたと言われたので、食事を中断し電話をとる。
「もしもし」
「あ、時音君よかった〜」
「どうかしました?」
「葛城輝って知ってますよね?」
「はい、TV取材のリポーターで来ましたね。それが何か?」
「言いづらいのだけど…助手お願いできるかな?」
「う〜ん」
TVタレントなどに興味はないが…事情を詳しく説明してくる三下の言葉に受けざるを得ない感じになった。特に彼がいきなりの急成長というのが碇にとって匂うとのことだ。怪奇事件を取り上げている編集長の才能は誰しも認めるものだ。
「わかりました。食事が終わったら行きますので」
「ありがとうございますぅ〜」
相変わらず弱々しい声の三下だ。
「師匠に伝えて出かけようかな…」
師匠とはエルハンドである。食事が終わったら道場に行くという約束だったのだが…
「あれ?いないなぁ…。あの人って結構、ふらりと出かけるから、ま、いいか…」
何も言わずに出かけるのは毎度のことらしいので、時音は一応書き置きを残してそのまま月刊アトラス編集部まで出かける。

1.合流
接客質で三下は待っていた。大物タレントに再度会うことで緊張しているのだろう。
「相変わらず、度胸がないですね」
「いろいろ尋ねるのには…やっぱり勇気がいりますよぅ〜」
「ほかに準備は?」
「すでに…ア、アポは取り付けてますから、時音君との打ち合わせて直接自宅に…」
相変わらず、弱々しい三下だが、がんばっていることは確かである。確実ながら自分の夢に向かっている。時音はそんな彼が少し羨ましかった。

「僕は…怖いです…」
「どうして?」
三下の意図がよくわからない。
「彼が…葛城さんが何かの呪術でのし上がっているとすれば、彼はとんでもない悪い人と…。ひょっとするとすでに昔の彼ではないかと…」
「そうなると、打ち合わせで言っていた「葛城は能力者」ということですよね」
「はい、だから…本当の葛城さんってあのときにいたのかなぁと思うと…」
「だから僕に頼んだんだ」
「ごめんなさい」
三下は項垂れる。
「謝らなくてもいいですよ。もし、異能者や魔物なら僕がたたきのめしますから。本当に危ない場合は逃げてくださいね」
「…はい…」
確かに、過去の記録や資料からでは、今の彼を想像できない。小さい劇団にギリギリで入り、演技力もさほど無く、上がり性…。劇団ではほとんど脇役…。そんな彼が瞬く間…1年以内でデビュー出来たのは確かにおかしい。今では、一等地に高級住宅で暮らせるほどの実力なのだが平凡より少しランクが上なマンション暮らしという。
大物になる階段を踏んだ時期は…劇団で修行中ある人に恋をしたからとの噂もあるが、当時、ワイドショウにもでるほどでもなかった。
三下にもジャーナリストとしての勘がある。おそらくそこが重要なところと言っていた。
「まずは実行しましょう」

2.葛城とその恋人
程なくして、二人はマンションについた。セキュリティドアーがあるため、中には入れない。
三下は部屋番号を押し、インターホンを鳴らす。
呼び出し音がしばらく鳴ると、女性の声がした
「どちら様ですか?」
「月刊アトラス編集部、三下忠雄です。葛城さんにインタビューを申し込みの件で参りました」
「あ、はいしばらくお待ちください」
向こうが、ドアを開ける仕草が何となく聞こえる。
「恋人かなぁ?良い声でしたね〜」
「あ、うん…」
三下の言葉に、何となく頷く時音。やっぱり彼はおどおどしながらもしっかり仕事をこなしているのだと感心した。
ドアが開き、二人は中に入る。
そのまま、彼の部屋まで向かった。
「セキュリティにしてもエレベーターにしても本当にごくふつうだぁ」
「でしょ?でも、仕事が忙しい分、家はこぢんまりとしてゆったり出来る方が好きなのではないのかな?」
三下の言葉に、時音は客観的に答えた。
「豪邸で暮らすより良いですよね。好感を持てます」
成り上がって、大枚をはたく芸能人はたくさんいる。豪邸やら企業興しやら…。葛城はそうしたことをせず、殆どのインタビューには応じないと初会見でも述べたほど私生活の公開はしないのだ。しかし、噂やスキャンダラスな事件はない…。当然暴露本執筆や其れのターゲットにもされてないし、自伝、エッセイも書いてない。その秘密さが魅力と言うこともあり得る。

エレベーターから降りると、25歳ぐらいの美しい女性が立っていた。
「ようこそお越しくださいました。私は早乙女礼子といいます」
会釈する女性。わざわざ出迎えに来てくれたらしい。
「三下です、今回は…」
「堅苦しい言葉は無しにして、こちらにいらしてください」
「はい」
軽く会釈する三下と時音。気が利くというのか、彼女の雰囲気は緊張がとけるほど和やかだ。
葛城がすむ部屋番号まで案内すると、彼女はドアを半開きにしてこういった。
「三下さんがいらしたわ。お友達も連れて」
「わかった、入ってもらって」
遠くで男の声がする。聞き覚えのある声だ。
二人は礼子に案内されてリビングでくつろいでいる、葛城と再会する。
彼は、紅茶を飲みながら映画を見ていたようだ。
「久しぶりだね、三下さん。そして…風野時音君だったね?」
「お久しぶりです」
「名前を覚えてくれてびっくりしました」
「取材の打ち上げの時に彼に消化してもらったからね」
何となく彼といると心が和む。
「さて、インタビューだね?どんなことを訊きたいのかな?」
「では、失礼ながら早速…」
三下は、質問する内容を記したノートを取り出し、マイクロテープをセットする。
内容は至って簡単で、仕事に関わる内容と、雑談だった。楽屋の裏話や、アトラスとして重要なネタの一つ、彼が仕事の時に体験した怪奇体験などだった。
その間に、礼子がおいしい紅茶とケーキをもてなして和気藹々となる。
談笑のなか、時音は一つの「気」を感じた。「妖怪」だ…。
念のために念動鋼糸を持ってきている。いざとなれば、「神格気」による武器の具現化も考えた。
感じた先には…礼子がいた。いや、礼子に妖気を感じたのである。
(和やかにする雰囲気は彼女からの術なのか?)
時音は、彼女に少しだけ「神気会話」を試みる…。テレパスの様なものだ。「神の声を聞いた」という伝道師の発言の類はこの行為を指すのだ。
(君に話がある…)
彼女は妖気がでていたことと、時音が神格保持者であることで驚きを隠せなかった。手に持っていた食器を落として割ってしまう。
「あ、ごめんなさい」
すぐに片づけを始める礼子だが、同じようにテレパスで時音に話しかける。
(あなたは?誰なのです?剣士さんとは聞きましたが…)
(少し特殊な剣士でしてね…退魔剣士です)
(退魔…私を殺しに来たのですか?)
(敵対するなら…そうしていただろうけど…本当のことを訊きたい。彼に何をしたか、それと彼となぜいるのかを…)
(…わかりました…輝や三下さんを襲う気は全くありません…信じて)
彼女は、不安そうに時音を見つめた。時音は無言で頷く。

3.真相
時音と礼子は、買い物で出かけるという名目でマンションから出た。念のために、近くにやっかいなカメラマンがいるのかを確認して安全と知ると外に出た。
「結構貴女も用心してますね」
「はい、輝の秘密がばれてはいけないから…」
彼女の声は悲しそうだった。
「妖気を発するということは…貴女は妖怪…。しかもかなりの強い…」
「白狐です…」
「なるほど…」
白狐は、そんなに危険な妖怪ではないと言われている。確かに強力な妖怪だがおとなしい。確かに怒らせると恐ろしいたたりが降りかかるわけだが。
「私は…輝が高校生ぐらいの頃、登山をしている途中に狐の姿で罠にかかった私を助けてくれたのです。当然、猟師と口論になりました。しかし、彼の熱意で猟師は渋々私を見逃してくれました」
「たしか、狐は…種類によって保護対象ですからね…」
「ええ。第一、その地域で狐は居ないのですから…」
彼女の言葉には嘘はない。今では時音には神格による真意看破能力を展開しているからだ。
「では、彼に恩返しという形で側にいるのかな?」
「はい…ただ彼が落ち込んでいる時などずっと側にいました」
頬を赤らめる礼子。次にいたずらっぽく笑いながら
「当然、恩返しでも愛の鞭で演劇の猛特訓をさせましたけどね。彼ったら本当に上がり性で、演技好きなのに下手だったの。でも、才能が本当にあるのは事実よ」
と、言う。
時音はその猛特訓を想像すると、恐ろしくなり身を震わせた。
「彼がプライベートをひた隠す理由はすごくわかりました…」
時音は、自分が「天空剣」の修行のつらさを思い出しながら答えた。普通の人間が強力な妖怪にしごかれているのと、能力者が神にしごかれている事は同じだ。
「でもお願い、輝には私が妖怪と言うことは言わないでください…」
「わかった。白狐の掟…ですね。愛する人に正体を明かしてはならないと…」
時音は頷く。彼女は礼をした。
彼女は、時音に心を開き、色々愛する人の裏話を話してくれた。時音は彼女の笑顔につられ、自分の恋人と自分の失敗談など言った。そして、買い物をして帰宅していく。
そんな折りだった…。
「どこかにカメラマンが居る」
時音は、怪しいワゴン車…どう見てもTV取材用の車だ。そこから礼子の写真を撮っている!
「他のジャーナリストがスキャンダルネタをつかもうと…目標は貴女です」
「え?そんな…」
「おそらく…内偵していたのでしょうね…。能力者の手伝いがあれば気配を消すことも可能かも」
「輝が…あぶない!」
礼子は焦ってマンションに戻ろうとする。しかし、時音が腕をつかんで止めた。
「待ってください、なぜ葛城さんのところに?」
「輝は、本当に私が居ないと!彼はずっと……孤独になって…」
彼女は涙を流しながら訴えた…。
「輝は…私の力で生命を維持しています…」
「!」
礼子は、演劇中事故で瀕死の重傷を負った葛城の事を話した。いきなり照明が落ちて、脳挫傷と感電だったのだ。そのときすでに彼女は劇団にいた事も告げた。
「一度、彼は死んだのです…今では遠くにロケに赴いても良いのですが…私の正体がばれたら…彼は…」
その場でうずくまる礼子…。最後の言葉は…時音にはわかった…術が切れて死んでしまうと。
ワゴン車はどこかに行ってしまう。おそらく自分の編集部だろう。しかも中には能力者が居る可能性が高い。時音は、念動鋼糸を投げてワゴンのアンテナに巻き付けた
「礼子さんは落ち着いて…があなた達を守ります」
時音はそういうと、物陰に隠れてから時空跳躍し、葛城の部屋の前までたどり着いた。
「まだ入ってはだめですよ、深呼吸して…そう…顔もこれで拭いてね…笑顔で彼にただいまって言うのですよ」
「はい…」
時音はウエットティッシュで彼女の顔を拭いてあげた。
「では出かけてきます」
時音は、すでにワゴン車の念動鋼糸を発信器にしており、場所を見いだして跳躍した。

ワゴン車の中…
5人のジャーナリストとカメラマンが意気揚々としている
「『葛城の彼女は二股をしていた』と言うのは?」
「ひねりがねぇ」
「女を押さえれば、あいつの過去を洗いざらい手にいられるな」
「其れで俺たちはメジャー入りか?」
「あたぼうよ!」
下品な笑いが車内に飛び交った。
時音はすでにワゴンの屋根に到着している。念動糸から会話を聞き取った。人間を信じているとしてもこんな下劣な輩まで信じることはない時音だ。しかも中には能力者がいる。カメラマンのようだ。
糸を手に戻し…神格を込める。
師が言うには…
「天空剣は、基本は斬・封・解と3つ技。しかし、心に影響する4つ目の技がある。これは暗黒天空剣とも言われかなり危険がある…。心を操るのは危険だから注意しろ…使うのは自己責任…しかし反動が己に来るのは光刃の比ではないと思え…正当神格保持者〜『神』〜のみが何の障碍もなく扱える技だ…」
今は…暗黒天空剣を使うしかない…。反動は想像できないモノらしい…。元から神であるエルハンドでも想像は出来ないそうだ。
しかし、あの二人の夢と幸せを願うなら…。
「歌姫、ごめん…!」
神格を最高値まで高めワゴン車全体に絡めた。
「な!」
運転手が車をコントロールできないことを知り、あわてている。
霊能力者は、車の上に恐ろしいほどの気を感じて卒倒した。
「暗黒天空剣…心壊!」
時音は絡めた糸を引っ張って手元に納める。糸は神格の反動で塵となる。
車は、まるで電気を纏ったかのように光っていた。そのまま走り、電柱にぶつかり止まった。
時音は、跳躍して難を逃れるも、ひどい疲労が体を支配して動けなかった。
重い体を引きずりながら、確認する…けが人は居ないようだ。皆気を失っている。
カメラを取り出しフィルムを取りだし、関係書類を、その場にあるモノ(ペーパーナイフなど)を利用し破壊した。
警察と救急車を彼らの携帯から呼んで、時音は姿を消す。一番手っ取り早くて非道な技…心自体を破壊したのだ…。彼らは…この事件のことより自分自身が誰なのかわからないだろう…。
近くの公園で、ぐったりと倒れ込む時音…。暗黒天空剣の恐ろしさを知る。
「使うべきではなかったか…」
そう後悔しても、使ってしまったのは仕方ない。これからはいっさい使うことはやめようと肝に命じる。
(ホント馬鹿だね…無茶しちゃって…)
ふと声がした。声というより…テレパス?
居るはずもない、歌姫が目の前にいた。困った顔をして彼を抱きかかえ、ベンチで寝かせる。時音の頭は彼女の膝枕の上だ。
歌姫は子守歌を歌う。それにつられ、時音は深い眠りについた。

4.終幕
三下は、最後の質問である、此処まで急に大物になった理由を聞いた。葛城は少し困った顔をするが、涼やかな顔をしてやってきた礼子が。
「この人照れ屋だから、私が教えてあげますね」
「おい、ちょっと!」
「あ、其れはたすかりますぅ!」
三下は礼子に向かって笑う。葛城は項垂れるしかなかった。
「礼子にそういわれると、お手上げだね」
彼は、苦笑しながらもまるで、楽しい思い出話のように語り始めた(時に礼子のつっこみが入る)。

三下のネタは、シュレッダー行きは免れたらしい。

End

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
滝照直樹です。
今回の依頼は如何だったでしょうか?
杞憂で終わりましたね。
しかし人として、二人のささやかな日常を粉々にすることはやはり私が時音さんならこうしてます。
またの参加を楽しみに待っております

滝照直樹拝