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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 首から下は…

 何かが居る。
 ドアの向こう。
 草間興信所のドアの外に、何か人間で無い生き物が来ている。
 ドアの向こうにいる物の怪の気配を、草間は感じていた。
 やがて音も無しにドアがしずしずと開き、中学生位の少年と少女が草間が姿を現した。二人とも人間ではないようだ。
 「えとー、草間さん、この子の事をお願いできますか?」
 草間に声をかけた少年は、化け猫の『陸奥』。東京都の外れにある妖怪の里に住む妖怪で、草間の顔見知りだ。
 「すいません、お願いしますー…」
 陸奥に連れられた少女が、すまなそうに言った。
 彼女は、顔を見る限り普通の少女に見える。ただ、普通の人間と違うのは、首から下が無い事だった。
 「お、おう。何だか知らんが、とりあえず事情を話せ。」
 とりあえず、草間は少女の話を聞くことにした。
 「あのですね、私、全然、自分の事を覚えてないんです…
  ですんで、私の身元を調べて欲しいんですけども…」
 身元調査というのは、確かに興信所の仕事ではあるが…
 「う、うむ。記憶喪失って事か?」
 生首の身元調査って、あんまり経験無いな…
 草間は、ため息をついた。
 「私、気がついたら小平市に居たんです。
  それで、ふらふらしてたら、森で陸奥君に会って、草間さんを紹介してもらったんです。」
 小平という街は、草間も聞いたことがある。
 東京都の西部にある都市で、元は土地の半分程が墓地だったという噂だ。
 現在も街の四分の一程は、墓地だという。怪奇現象は、幾らでもある街だった。
 「うちの長老に、ちょっと見てもらったんですけど、この子、妖怪ってわけじゃないみたいなんです。
  人間の感じがするって、長老は言ってました。」
 陸奥が説明を付け加えた。
 「なるほどなー…
  とりあえず、小平まで行ってみるか。」
 現場へ行って、調べるしかないだろうと草間は思った。

(依頼内容)
・首から下が行方不明な少女が、自分の身元を調べて欲しがってます。誰か助けてあげて下さい。

(本編)

  1.シュライン・エマ

 草間興信所の、いつもの応接間である。
 「どうやって移動するか、ですか?」
 少女は、やってきた女性の質問に返事を返す。
 「うーん、自分でも、よくわからないです。
  あっちへ飛んでいこうかなー、って思うと、あっちに飛んでいけるって感じです。」
 そういえば喉も無いのに、私、どうやって喋ってるんだろう?
 と、少女は頭を傾げた。
 「なるほどねぇ…
  憶測なら色々出来るけど、調べてみないとわからないわよね。」
 少女と話していたのは、シュラインだった。
 「そうですよねぇ。」
 化け猫の陸奥が、シュラインに相槌を打つ。
 「そうね、小平に行って調べてみるから、写真撮らせてくれるかな?」
 シュラインが少女に言った。
 首から下が無いことをカモフラージュするのが少し問題だったが、顔だけ出してベットで寝てる写真を撮る事で、何とか誤魔化す。
 それも、不自然といえば不自然な写真よねと、シュラインは思う。何でこんな写真を撮ったのかと突っ込まれると、ちょっと答えにくいなと、思った。
 そうこうするうちに、草間に依頼された他の者が興信所にやってくる。
 「それじゃあ、皆さん、よろしくお願いします。」
 山へと帰っていく陸奥を見送って、シュライン達は調査を開始するのだった。
 
 2.小平市へ

 今回、草間の求めに応じて集まった人間は5人。
 『小平市周辺の未成年行方不明者が通う学校に、潜入して調べてみる。』
 そう言って、一足先に姿を消した加地・葉霧を除いた4人が、草間興信所に集まっていた。
 「ほら、巫女さんが踊ってる…
  小夜…そう、あれは小夜だ。」
 何かを呟きながら、少女に語りかけているのは、大覚寺・次郎。『他人にも影響を与える幻覚を見る』会社員だ。
 熱心に少女に語りかける彼は、他の者の言葉は耳に入っていないようだ。
 「ほ、ほんとだ。私にも見えました!
  不思議な事もあるもんですねー。」
 大覚寺の見た幻覚は、少女にも影響を与えているようだ。少女は面白そうに次郎に答える。
 ひとまず、次郎と少女の事は置いておいて、他の者は話を進める。
 「むう、さすがに手がかり少なすぎますな…」
 少し困ったように言ったのは、真言宗僧侶、護堂・霜月である。
 「確かになぁ。」
 草間が相槌を打つ。
 現状、少女の首から下が行方不明な事と、妖怪では無いらしい事位しか、手がかりは無かった。
 「身元不明の遺体の身元調査の常套手段として、歯型を調べてみるという手がありますな。
  歯医者にカルテは残ってるでしょうから、小平市周辺の歯医者を調べてみるのは、どうであろう?」
 少女の首から下が行方不明な理由はともかく、身元を調べるには有効でしょうと霜月は言う。
 「そうね、時間はかかるかもしれないけど、可能性は高そうね。」
 ついでに、写真でも持って聞き込みもしましょうと言ったのは、シュライン・エマ。ゴーストライターの傍ら、草間興信所でアルバイトをしている女性である。
 「わ、私、身元不明の遺体なんですか?」
 シュラインや霜月の会話を聞きつけた少女が、がたがたと首を震わせて言った。
 「ま、まあ、それは言葉のあやです。」
 霜月は否定する。
 「大丈夫ですよ、それだけ元気なんだし!」
 フォローしたのは、人魚の血を引く中学生、海原みなもである。
 首から下が行方不明の少女は自分と同い年位だし、何よりも自分の妹達がそんな目にあったらと思うと、彼女はいても立ってもいられなかった。
 「とりあえず、ネットで調べてみますね。」
 みなもは草間のノートパソコンを借り、会話の傍ら、小平市周辺の怪事件情報を検索していた。
 みなもが検索する手つきは、なかなか手慣れている。
 「わー、みなもちゃん、パソコンの打ち込み早いねー」
 みなもの手際を見て、少女はふわふわと飛んできた。
 「アムロ…僕にも時が見えたよ…」
 次郎は相変わらず、幻を見ている。
 「ていうか、真面目にやって下さい、次郎さん!」
 みなもが次郎に言った。
 「そ、そうか、すまない。」
 次郎は素直に謝った。
 「む、打ち込みなら負けませんぞ。
  かな入力のブラインドタッチも、お手の物です。」
 霜月がしゃしゃり出てきて、パソコンをいじり、
 「霜月さんも、真面目にお願いします!」
 みなもに怒られた。
 シュラインは何となく微笑みながらそんな様子を黙って見ていたのだが、ある事に気づいた。
 「ねえ、あんた、パソコンの打ち込みなんて、よく知ってるわね?」
 シュラインは少女の方を見て言った。
 「む、そういえば。」
 「あ、本当だ!」
 霜月とみなもが、シュラインの言いたい事に気づいた。
 「パソコンを知ってるって事は、お嬢さん、少なくとも100年前から小平の墓場で眠っていたわけじゃないみたいだな。」
 次郎が落ち着いた口調で言った。
 現代の文化について知っている少女が、大昔に埋葬された少女である可能性は限りなく低いと思えた。
 「あんた、普通にしゃべれたのね…」
 「ちょっとびっくりです…」
 普通にしゃべると知的に見える次郎に、シュラインとみなもは驚きを隠せない。
 「あ、そっか。言われてみれば、私、パソコンとか知ってます。大昔の幽霊さんとかじゃないみたいですね。」
 よかったよかったと、少女は言った。
 他に何か思い出さないかと、皆は彼女にたずねたが、身元に繋がるような事は思い出せないようである。
 「スタンダードに警察で未成年者の探索願を当たってみるのは、どうかな。
  何らかのワケありで無ければ、家族が警察に届けを出してるだろう。
  幸い、この子も顔だけは、はっきりしてるから、身元の調べはつくんじゃないかな?」
 幻覚の世界から抜けてきた次郎は、突然、正論を言う。
 「え、私、警察は嫌です…
  大騒ぎになっちゃいますし、恥ずかしいですー。」
 だが、警察で調べてみようという意見には、少女は乗り気では無かった。
 「うーん、そもそも警察に行く気があるなら、こんな所に来ないわよね。」
 警察は、ひとまず見送りましょうと、シュラインが言う。
 「こんな所って、どんな所だ…」
 草間は憮然としている。
 「本人が行きたく無いんじゃ、仕方ない…か。
  …ああ、そんな事より、馬だよ、馬。
  馬が走ってるよ…」
 頷いて考え込む次郎には、窓の外を走る馬の群れが見えてきたようだ。
 「あっち側に行ったり、こっちに帰ってきたり、忙しい御仁だのう…」
 なるべく早く、こっちに帰ってきなされよと、霜月は言った。
 みなもと少女は、窓の外の馬の数を数えていた。
 こうして行動方針を相談した一行は、活動を開始する。
 「それじゃ、準備が出来たら、私達も行きますからねー!」
 みなもは少女と準備をしてから行くと言ったので、他の三人が、ひとまず小平市へと向かうのだった。

 3.小平市の探索:シュライン編

 草間興信所を離れて、小平市へと電車で移動する三人。
 窓の外には、やけに墓場が目に付く様になってきた。
 「しかし、本人の前では言えなかったが、あの子、もう死んでる可能性が高いと思わないか?
  首が離れたら、体は生きていけないよ。」
 次郎がシュラインと霜月に呟く。
 「断定は出来ませんが、彼女の先祖が妖怪で、突然、先祖返りを起こしたという線が濃いかと思います。
  血が相当薄くなってるので、化け猫長老にも分かりづらかったのでは?」
 もちろん、調べてみなければわからないですがと、霜月は言う。
 「調べた結果が、悲しい事にならない事を祈りましょう、とりあえず。」
 そんなシュラインの言葉には、次郎と霜月も賛成だった。
 やがて、電車は駅に着き、三人は、それぞれ調査を開始する。
 霜月は小平市内の歯医者巡りを始めた。
 シュラインは少女の写真を持って、聞き込みである。
 次郎は、ひとまずシュラインに同行する事にした。
 少女が最初に気がついた、小平市の中心付近の住宅地へと、シュラインと次郎は移動する。
 「あの、ちょっといいですか。
  この写真の子、見た事無いですか?
  ちょっと、探してるんですけども…」
 少女が最初に気がついたという現場付近で、シュラインは店や学校などで聞き込みをする。 
 少しづつ絞り込んでいこうと、シュラインは思っていた。
 「お譲ちゃん、北斗七星の脇に、薄く輝く星が見えるだろう?
  あの星を見るとね…」
 次郎も、通りすがりの学生に声をかけている。
 だが、二人の努力にも関わらず、少女の情報は簡単には得られなかった。
 「あの子、見た感じ中学生だからな。
  私立に通って無い限り、家の近くの公立中学に通ってると思うし、子供に聞けば知ってると思うんだがなぁ。」
 あきらめないぞと、次郎は聞き込みを続ける。多少変わった性格だが、幻さえ見えていなければ、根は真面目なようである。
 「そうでなくても、やっぱり、近所なら知ってる人は絶対に居るわよね。」
 シュラインも、地味に聞き込みを続ける。
 そんな二人の地道な作業は、やがて実を結ぶ事になった。
 「あ、これ、うちのクラスの檜山友里ですよ。
  面白い子なんですけど、おとといから学校に来てないんですよねー。
  …ていうか、お姉さん、何者ですか?」
 中学校の校門付近で女生徒に尋ねたシュラインが、当たりを引いたようだ。
 「え、私?
  怪しい者じゃ無いわよ、ほんと。」
 シュラインは怪しまれないように、その場を離れる。
 さっそく、シュラインと次郎は草間に報告した。
 「おお、早いな。
  みなもと彼女…友里ちゃんて言うのか?
  二人もその辺に居るはずだから、教えてやってくれ。」
 草間の声は、携帯越しに弾んでいる。
 「夜になったら、人目につかないように、こっそりと家に帰してやりますか。」
 俺は、もう少し聞き込みを続けますからと、次郎が言った。
 「不審人物と間違えられないように、気をつけてね…」
 シュラインは次郎に言いながら、みなも達と合流しようかと、その場を離れた。
 あんまり幻ばっかり見ながら女子中学生に声をかけてると、本当にそのうち捕まるんじゃないだろうかと、少しだけシュラインは思った。
 みなもは、シュライン達が聞き込みをしていた場所からそんなに遠くない公園居た。
 彼女の傍らには、帽子とサングラスを被った女性らしき人影がある。
 「あんた、体、見つかったの?」
 シュラインは、驚いて声をかける。
 みなもが連れた『少女』は、首から下も少女だった。
 ありふれた洋服を着た、普通の少女に、シュラインには見えた。
 「えへ、違います。マネキンで作ったんです、これ。」
 『少女』の代わりに、みなもが答えた。
 シュラインさんでもわからなかったねと、みなもと『少女』は顔を見合わせて笑う。
 「そっか、武彦さんの所で用意してからいくって言ってたのは、それの事ね。」
 よく出来てるわねーと、シュラインは感心する。
 『少女』の意思で動くように作られているらしく、見た目には、全く普通の人間に見えた。、見た目には、全く普通の人間に見えた。
 「さすがに、ご飯とかは食べられないんですよねー。
  私の体が元気なら、早く戻りたいです…」
 それでも、少し悲しそうに少女は言う。
 「そうだ、それなんだけどね、『檜山友里』って女の子、知ってる?」
 シュラインが『少女』に尋ねる。
 「…あ、それって、私です。多分」
 『少女』は、マネキンで出来た手を、ぽんっと打つ。
 どうやら、話は早そうだった。
 夜になったら、人目につかないように檜山家まで行ってみる事にして、三人は夕暮れまで公園で雑談して過ごした。
 だが、『もう少し聞き込みを続ける。』
 と言っていた次郎は、夜になっても姿を見せなかった。
 その事が気がかりだったが、三人は檜山友里の家まで向かう事にする。


 4.先祖返りと呪い

 夜である。
 『檜山』という表札が掛かっている家の前で、シュライン、みなも、霜月達は合流した。
 「む、次郎様は、どうされました?」
 霜月が他の三人に尋ねる。
 シュラインと一緒に聞き込みをしていたはずの次郎の姿が無かった。
 「何だか、行方不明です…」
 「ま、まあ、彼の事は、ひとまず忘れましょう。」
 みなもとシュラインが言った。
 「中学校に忍び込んだ変質者が逃走中らしいんですけど、関係無いですよね…」
 あんまり思い出したくないように、友里(?)が言った。
 「…では、行ってみましょうか。」
 霜月も、次郎の事は忘れる事にした。
 「ここ、私の家です。間違いないです…」
 家を見た友里(?)が言う。
 彼女は、マネキンの手で、家のチャイムを鳴らしてみた。
 「あのー、友里です。帰ってきましたー。」
 名前を告げる友里(?)。
 すぐに、家族が玄関まで飛んできた。
 「友里、その体は、どうしたんだ!?
  それとあなた方は、一体…」
 玄関を開けた友里の父親は、かなり動転してるようだった。
 「この子、檜山友里に間違い無いんですね?」
 シュラインが動転する父親に聞き返す。それだけは確認しておく必要があった。
 「はいはい、それは、もう絶対。
  友里の体も元気です…けども、その友里の体は一体?」
 大げさに頷く父親は、友里のマネキンの体を見て、驚いている。
 「良かったね、友里ちゃん!」
 みなもが友里に言った。
 まだ、不可解な点もありますが、8割方は解決ですかなと、霜月は思った。
 「ともかく、中で話しましょう。家に上がって下さい。」
 父親はそう言って、四人を家の奥の座敷に通す。
 座敷には布団が敷かれ、友里の母親が布団の傍らに居た。
 「ああ、私の体!」
 布団で寝ている人影を見て、友里が言った。その人影には、首から上が無かった。 
 友里の首はマネキンの体を離れ、布団の人影まで飛んでいく
 「ゆ、友里!?」
 その様子を見た友里の母親は、気を失なった…
 「お、お母さん、大丈夫?」
 布団から起き上がった友里は、母親の介抱を始める。
 「大丈夫。
  多分、ちょっと驚いただけよ。」
 駆け寄ったシュラインが、母親の様子を見て、言った。
 「友里ちゃん、お母さんを脅かしちゃだめです…」
 首が飛んだら、普通は驚くよと、みなもが言った。
 ともかく、友里は自分の体に戻れたようである。
 「しかし、ご父兄の方々よ。
  何か心当たりは、御座いませぬか?
  普通の人間は、突然、首が離れて飛んでいったりしませんぞ。」
 母親が回復するのを待ち、霜月が両親に尋ねる。
 「はい、それなんですが、お坊様…」
 そう言って、父親が座敷の奥から掛け軸を取り出した。かなり古い掛け軸である。
 「飛頭蛮…ですな。」
 呑気な顔の生首が飛び回る絵の掛け軸を見て、霜月が呟いた。
 古来中国に、生首を体から離れて飛ばせる能力を持った、飛頭蛮という一族が居たと、霜月は記憶している。
 妖怪と言うよりも、超能力を持った人間に近い一族だったような気がしたのだが…
 「お、ご存知ですか。
  どうも、うちのご先祖様が、飛頭蛮の血を引いてるみたいなんです。
  先祖返りで、首が飛んでいく者が稀に居るって、私の祖父が言ってたんですが、私の祖父も父も私も、そんな体験は無かったもので…」
 今までは信じてなかったのだが、これからは信じる事にすると父親は言った。
 「なるほどね…
  でも、困った能力ね。
  自分でコントロール出来るようにするか、封印するかしたいわね。」
 突然首が飛んだら、日常生活に支障が出るわよねと、シュラインが言う。
 「うーん、ちょっと慣れれば、自分でコントロール出来ると思いますよ。」
 人魚がご先祖様のみなもが言う。彼女は自分の人魚の能力に、少なくとも振り回されてはいない。
 コツとかあったら教えて欲しいですと、友里が言った。
 「しかし、曽祖父の代から父の代までは何も無かったのに、急に先祖返りとは…」
 まあ、だからこそ先祖返りなのかと、霜月は思った。
 ともかく友里も無事に体に戻れた事だし、帰ろうかと一行が話し始めた時の事だった。
 座敷の外側の窓が、急に開く。
 両腕に、友里やみなもと同年代の少女を抱えた男が、土足で部屋に入ってきた。
 「諸君、この少女が友里クンに話があるそうだ。
  ご静聴、願えないかな?」
 少女を抱きかかえた男は、唖然とする一行に言った。
 「あの、どなたか知りませんが、土足で座敷に入らないで下さい…」
 友里の父親が、恐る恐る、男に言った。
 「すいません…」
 男は、そそくさと靴を脱ぐ。
 「ていうか、あんた誰?」
 シュラインが男に向かって言う。
 「シュライン・エマクンだね?
  僕は『アトラス秘密諜報部』の加地・葉霧。怪しい者ではない。
  ともかく、皆、この少女の話を聞くんだ。」
 颯爽と窓から不法侵入してきた男は、自分を怪しくないと言う。
 言われてみれば、そんな男が居ると、草間も言っていた。
 「あの、美和よね?
  何やってるの…」
 先程から、葉霧が抱えている少女と見詰め合っていた友里が口を開いた。葉霧が抱いている少女は、友里のクラスメートらしい。
 「ど、どもー…」
 美和は葉霧に抱かれてたまま返事をした。
 彼女は、最近ケンカをした友里の事を恨んで、本に書いてあった呪いの儀式を試したという。
 人形の首を切り落として、相手が顔に傷を負う呪い。それが、彼女が試した呪いである。
 急に友里が学校に来なくなり、心配していた所に葉霧がやってきて、事情を説明したのだ。
 「私が中学校に潜入した所、彼女の様子がおかしかったので、連れ去って問い詰めてみたのだ。
  本人も反省しているようだし、大目に見てやりなさい。」
 葉霧が言う。
 「中学校に潜入って…」
 みなもが呆れている。
 「ごめんね…」
 「うん、全然オッケーだから。」
 友里と美和は、何やら仲直りをしてるようだった。
 檜山家は、無意味に騒がしい。
 「呪いの儀式とやらが、偶然、先祖返りを誘発してしまったのですかな…」
 「どうなのかしらね…」
 霜月とシュラインは、まあ、本人達が納得してれば別に良いかと、ひそひそ話している。
 「そういう事だったのか…」
 そこに、窓からもう一人、入って来た。
 次郎だった。
 「あ、あんた、どこ行ってたの?」
 シュラインが次郎に尋ねる。
 「中学校に忍び込んだ容疑で、逮捕されてました…
  いえ、俺は学校の前で聞き込みをしていただけですが。」
 次郎はシュラインでは無く、何かを言いたげに、葉霧を見ていた。
 「…僕は、用事を思い出したので、これにて。」
 葉霧は次郎と目を合わせないようにして靴を拾い、窓から去っていった。
 次郎は無言で葉霧を追う。二人の姿は、夜空に消え去る。
 「でも、私の学校の前で、『お譲ちゃん、馬が見えるよ…』て言って、生徒に話しかけてる人が居たら、とりあえず通報するかもです…まあ、関係ないですね。」
 去っていった二人を見送りながら、みなもが言った。
 「間違ってない対応よ、それ…」
 相槌を打ったシュラインは、私達もそろそろ引き上げましょうかと言った。確かに、潮時だった。
 「それじゃあ、どうもお世話になりましたです。」
 友里が、引き上げようとする一行を玄関まで見送りながら言った。
 あんまり悲しい調査にならなくて良かったと思いつつ、一行は引き上げる。
 その後、八国山の暇な妖怪が数匹、草間に頼まれて友里の様子を見守っていたと言うが、友里が先祖帰りを起こしたという報告は、まだ届いていない。

 (完)

 (完)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1069 / 護堂・霜月 / 男 / 999歳 / 真言宗僧侶】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1252 / 海原・みなも / 女 / 13歳 / 中学生】
【1376 / 加地・葉霧 / 男 / 36歳 / 謎の指揮官A氏(自称)】
【1352 / 大覚寺・次郎 / 男 / 25歳 / 会社員】

 (PC名は参加順です)


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■         ライター通信          ■
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 毎度ありがとうございます、MTSです。
 今回は、色々と推理して頂いてお疲れ様です。
 確かに、首が飛ぶ妖怪って、身体とセットなのが一般的ですよね。
 全体的な流れとしては、興信所で打ち合わせをしている時点で、
 生首の彼女が昔の時代に亡くなったわけじゃない事が判明しましたので、
 以後の聞き込みの効率が大分良くなった模様です。
 ともかく、おつかれさまでした。
 また、気が向いたら、遊びに来てくださいです。