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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


闇の指輪

◆噂と流行
 近頃、女子中学・高校生の間であるものが流行っていた。
「ねえ、あれ買った……?」
「買った買った。なんたってつけてるだけでってのが魅力よねー」
 身につけているだけでやせるという不思議な指輪。少女達の心を利用したまがい物商品に思えるが、それは確かに効果を持っていたのだ。
 指輪を身につけた者は日々やせ細せ、ついには栄養失調や最悪、死にまで陥るという。だが、奇妙なことに本人に自覚はないらしい。むしろ体と心が軽く天にも昇る心地よさだそうだ。
 もちろん、この指輪は一般的なメディアを通しての販売はされていない。友人からのメールでの紹介を中心に、密かに売られているらしい。

 集められた資料をぱさりと置き、碇麗香(いかりれいか)は静かに告げる。
「今のところ集まってる情報はこれだけ。ちょっと調べにくいかもしれないけど、あのアホに頼んだところでろくな取材してこないと思うの。だから、あなた達に頼みたいのよ」
 いつになく真剣な眼差しで麗香はじっと見つめる。
「……お願い、出来るかしら?」

 暗い地下室に一人の男性がいた。奇妙な形をした生き物のつまったビンに囲まれ、彼の手で今まさに作られているのは、巷で流行している……あの「やせる指輪」だ。
「香澄(かすみ)……もう少しの辛抱だ。この指輪ですいとった精気もずいぶんとたまったよ。もう少しで君をこの世界に呼び戻せられる……」
 そう呟くと、彼は目の前にある大きな水槽の中に沈められた女性に向かって、不気味な微笑みを浮かべた。
 作業の手を止めて、ゆっくりと振り返り、彼は闇に佇むもの達に告げる。
「ぼくらの邪魔をしようとしている者達がここに来ようとしている……君達の力で僕と香澄を守ってくれ。報酬は君達の望むものなら何でもあげるよ……よろしく、頼む」

●調査のうちあわせ
 喫茶店「Celest」の片隅で。香り高いエスプレッソを堪能(たんのう)しながら森里しのぶは手持ちの書類をじっと眺めていた。特大パフェを半分ぐらい平らげたところで、退屈そうに水野想司(みずのそうじ)は呟く。
「ねえ、しのぶー。待ち合わせのひとってまだ来ないのー? ぼくもう飽きちゃったよ」
「んー……そろそろ時間なんだけど……あ、来たみたい」
 程なくして、麗香と撫子がやってきた。店員に軽くオーダーをして麗香は早速本題へと話を進める。
「……まずこれが被害者である女性達の一覧よ。殆どが10代後半の……高校生か大学生ばかりね。ただ、この中の多くは病院に入ってたり行方不明になっていたりするから……実際に話を聞きだせる子は少ないかもしれないわ」
「それなら大丈夫です。指輪の回収を想司が行ってくれるそうです」
 そうだよね、としのぶは目で同意を求めた。最後のクリームを口にほおばりながら想司はこくりと頷いた。
「あ……この子。わたくしのクラスメイトですわ……」
 一覧表を眺めていた撫子がひとりの少女を指さして言う。あまり面識はないが、数日前から登校拒否をしていたのでクラスでも話題にのぼっていたらしい。
「ならば、そのこの取材をお願いできるかしら。全く無関係の私達より見知った人のほうが相手も安心するでしょうからね」
「また取材の打ち合わせか? 相変わらず忙しいようだな」
 そう言いながら、店員である百目鬼一(どうめきはじめ)がコーヒーを差し出す。まあね、と軽く挨拶を返しながら麗香はコーヒーに口をつける。
「そういえば……あなたのほうに頼んでいた調査のほうは進んでいるかしら?」
「さすがに少々手間取っているよ。だが、まあ……そう難しい話ではないだろうな」
 朗報は期待しないようにと苦笑しながら、一はキッチンへと向かっていく。
「そういえば、雑誌で面白い記事見つけたの」
 そう言ってしのぶは一冊の本を取り出した。最近女子高校生の間で流行している占いとおまじない雑誌だ。その中の読者投稿のページを開き、指差す。そこには「やせたいの! 良い方法教えて☆」と募集欄に短く記されていた。
「ふぅん……これに指輪の話が持ちかけられるのなら、面白いわね……それじゃしのぶちゃんと想司くんはこの子の調査をお願いできるかしら?」
「了解。想司、頼んだわよ」
「はーい! なまはげ大作戦決行だね☆ まかせといてっ!」
 想司は軽く胸を叩き、ウインクをしながらそう言った。

●封印されしもの
「……それで、これが渡して頂いた指輪です」
 撫子はことりと机に指輪を置いた。一見シンプルなつくりだが、指輪の内側に細かい模様が描かれている。どうやら刻まれた模様で呪いを発動させているようだ。
「誰か読める?」
「……うーん……ちょっと知ってるのとは違うけど……呪いとあともうひとつあるような……」
 ぽつりと想司が呟く。伊達に多くの事件に乱入……もとい、協力しているだけのことはないようだ。闇の世界に長かったことも要因のひとつだろう。
「もうひとつ?」
「うん。多分、これ……封印か何かだとおもうよ? 割ってみると何かでてくるかもね♪」
 そう言ってどこから取り出したのか想司はハンマーで叩き割ろうと身構えた。
 周囲の者達が止めるより早く、指輪は乾いた音をたてて粉々に砕け散る。それと同時に細長い煙が指輪の残骸から立ち昇り、次第に生き物の形をかたどっていく。手のひらサイズの子供のような姿をし、目つきは鋭く頬こけている。手足は骨と皮だけのように細く、腹だけが妙に膨れていた。
「餓鬼……?」
 生き物は撫子の言葉に一瞬反応するも、そのままひょいと机から飛び降りた。
「一さん! そいつ捕まえて!」
 丁度カウンターにいた一はあわてて振り返るも、肝心の獲物の姿を見つけられない。無理も無い、彼は撫子と違い霊を見る力が強くない。わずかな気配を頼りに相手の居所を探るが、あっさりと逃げられてしまった。
「やれやれ……良い手がかりを見つけられたと思ったのに……」
 じろりと想司を横目で睨みつけながら麗香が呟いた。
「……まあ、過ぎたものは仕方ないさ。それよりひとつ聞きたいんだが……作戦会議なら編集部で出来ないのか? 他の客が不思議そうに見てるぞ?」
 ことり、とウィンナーコーヒーを置き、一はさりげなく麗香に言う。
「決まってるじゃない。ここなら美味しいコーヒーが飲めるからよ」
「そうそう、あとパフェとかケーキとか♪」
「あ、僕オレンジジュース欲しいなっ☆」
「……了解……」
 あきらめまじりの返事をひとつ、一は小さく告げた。

◇貫く思い
「ようやく……必要なだけの力が整ったよ」
 男は満足げにそう告げる。闇の中に佇む男性に向かい、彼は感謝の意の述べた。
「君のおかげで順調にことをすすめることが出来た。後は彼女に力を注ぎ込み目覚めさせるだけ……」
 男の背後にある水槽の水が怪しげな光を放ち始める。それと同時に細かい泡が発生し、互いに重なり合い、こぽこぽと水面を泡立たせる。
 水槽の中にいた香澄が一瞬、ぴくりと痙攣(けいれん)し、その重いまぶたをゆっくりと開き始めた。
「おはよう……僕の愛しい人……」
 男はゆっくりと水槽に手を触れる。香澄は薄く微笑み、その手に重ねるように手をさし伸ばした。そのとたん、ガラスがパリンと音を立てて割れた。
「う……うわーっ!」
水の流れに飲み込まれる男に香澄はかぶりつき、その生き血をすすりはじめる。
「た……たすけ……」
 闇から姿を現した男性ー……一は冷酷な瞳でその光景を眺めていた。
「彼女がこうなることをおまえは分かっていたはずだ。だが、おまえは再び彼女が生きることを望んだ。満足だろう?」
 地上から人が降りてくる気配が近づいてきているのに一は気づいた。恐らく編集部の少女達だろう。
「ようやく見つけたというわけか。まあ……お手並み拝見といったところだな」
 そう言いながら一は地上へ向かうもう一つの階段に足を向けていった。

●元凶の指輪 
わずかな情報を元にようやく一行は指輪の製造元を調べ上げて、無事に到着した。
「この地下に……どうやら潜んでいるみたいよ」
 慎重に歩みを進めながら一行は奥へと進んでいく。
 ふと、背後に気配を感じて想司は素早くナイフを投げつけた。
「きゃっ!」
 妙に愛らしい悲鳴が聞こえた。一行の後ろにいたのは茉莉奈だった。彼女もまた情報から販売元を聞き出し、説得を試みるため来ていたようだ。
「やっぱりこういうのって見逃すわけにはいかないもん」
「でも、どんな危険があるかわかりませんのよ。それでも……よろしいの?」
「んー……まあ、なんとかなるよ♪ ねっ」
 にっこりと茉莉奈は微笑む。
「ま、想司くんもいることだし、たぶん問題ないわね」
 しのぶの同意に撫子も仕方が無いといった表情で肩をすくめた。
 
 階段を降りきったところで、彼らは足元が水浸しになっていることに気づいた。恐る恐る扉を開けると……裸の姿をした香澄が水浸しの床の上で何かにむさぼりついている。彼女は一行に気がつくと四つんばいのままゆっくりと一行に近づいてきた。
「あの方……死人(しびと)ですわ」
 低い声で撫子は呟く。
「どうやら、一番最悪のシナリオのようだね……」
 香澄が飛びかかるのと想司がナイフを投げるのはほぼ同時だった。苦痛の表情で倒れこむ香澄に追い打ちをかけるように撫子が浄化の力でなぎ払う。
 奇怪な叫び声を上げて、香澄は泥となって崩れ落ちた。
「な、なんだったのいまの……」
「……どうやら、これが全ての元凶だったみたいよ」
 しのぶは泥の中から小さな指輪を拾い上げた。それはまさしく少女達に配られていた指輪と同じものだ。
「恐らく何らかの術によって、この指輪に力が送られるようになっていたのでしょうね」
「じゃあ、それを破壊しちゃえば問題解決ってわけだねっ」
「そうはいかないわ。こういうのをうかつに壊すと反動が大変なのよ。そうね……撫子さん、これの浄化をお願いできる? 麗香さんへは私から事情を話しておくから」
「もちろんですわ。犠牲者の皆様が早くよくなることをお祈りして……その役目果たさせていただきます」
 撫子はりんとした口調で静かにそう言った。

●小さな親切大きな……?
 事件のあらましを一通りまとめあげ、麗香はふうとため息をついた。
「記事の校正はこれでおわりっと……さて、と……」
 ちらり、と麗香は机の上に置いてある指輪に視線を移す。先日、忠雄が「簡単、美しくきれいにやせられる指輪」という名目で売られていたこの指輪をどこからか仕入れてきたのだ。
 シンプル形で内側に模様のような飾りが彫られている……件の指輪と見まごうことなくそっくりの品だ。
「今度きたら、あのボウヤ……しっかりとおしおきしてあげなくちゃね……」
 薄く目を細めて麗香は静かにほくそえんだ。

おわり

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名  /性別/ 年齢/ 職業】
 0328 /天薙・撫子 / 女/ 18/大学生(巫女)
 0424 /水野・想司 / 男/ 14/吸血鬼ハンター
 1060 /百目鬼・一 / 男/ 31/喫茶店店員(?)
 1421 /楠木・茉莉奈/ 女/ 16/高校生(魔女っ子)
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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせ致しました。闇の指輪をお届けします。
 今回はシリアスチックを目指してみたのですが……うん。微妙ですな(何)
 皆で仲良くなれるようにするという行動をされていた方もおられましたが、そうは問屋が降ろさないと言う結果、かなり破滅的な終わりになってしまった気がします。
 
 百目鬼様:御参加ありがとうございました。立場上、あまり描写出来ずもうしわけありません。後ろで操作してる系はどうも本文にほのめかしく書くのが好きでして(何)立場的には高みの見物に近いかもしれません。それと、喫茶店の名前は「Celest」でよろしかったでしょうか? 雇い主の方のお店の名前がそれでしたので、おそらくそうだと思い使わせて頂きました。
 
 それではまた別の物語でおあいしましょう。
 谷口舞