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<東京怪談ノベル(シングル)>


トキメキと決戦の日曜日。

 じりりりりりりりりりっっっ。
 がおぉぉがおぉぉ、がぉぉぉぉっっ。

 二つの目覚まし時計が一斉に鳴り響く。
 あ、‥‥あれ、確か、10分間隔をおいてセットして眠ったんじゃなかったっけ。
 掛布団の中に五月蝿い音から逃れて一度もぐりこんでから、腕だけを上げて、手さぐりで二つのベルの音を止めた。
「ふにゃ‥‥今、何時?」
 手に収まる大きさの丸い時計を、何度か失敗しながらようやく掴んで、顔の前まで持ってくる。
 ‥‥8時40分。
 なんだ、まだ9時にもならないじゃない。
 ‥‥9時?
「きゃああああっっ!!」
 あたしは悲鳴を上げて飛び起きた。
 待ち合わせはお昼の12時。
 シャワー浴びるでしょ、髪乾かすでしょ、それから髪をまとめて、それから洋服を選んで、軽くお化粧して、それから時間があればネイルも可愛くしたいし、アクセサリーだって決めてない!
 その場所に向かうまでは、ゆっくり見積もって1時間くらい。
 もうちょっと早くは着くかもしれないけど、遅刻前提でなんか、向かいたくはないし。

 シャワールームでパジャマを脱ぐのももどかしく、裸になって栓を絞る。
 頭から熱い湯をかぶると、ようやく目覚めたけだるい体に神経が隅々まで目覚めていく気がする。
 そういえば昨日眠ったのが遅かったのだった。
 ‥‥今日会ったら、どんな顔するのかな。
 ‥‥こないだ見つけた、笑ったときに右の頬に小さなえくぼが出来るの、あれは見間違いじゃないよね。今日会って、今日もそうだったら教えてあげよう。
「あっ」
 慌てて湯を止める。
 もうどうして、どうしてっ?。考え事始めちゃうと時間が止まっちゃうの!
 急いでるのにっ。

 バスタオルで体を拭い、部屋着に着替えるのも面倒なのでバスローブを羽織る。
 これから外出着にすぐに着替えるのだから、朝といってもこれでも大丈夫。‥‥ただ、こんなとき、誰かが尋ねてきたらヤバイけど。

 ピンポーン。

「ちょっと待ったっ!」
 くらり。軽い眩暈を感じつつ、バスローブから部屋着への早着替え。
 そりゃもう歌舞伎役者もびっくりの素早さだ。
 でもその間に待ち人は、玄関のホンを3度も鳴らす。そんなに鳴らさなくたっていいじゃん!まったくぅ〜。
 そしてドアを開くと、これまたとってもつまらない宗教の勧誘。
「急いでるんです!!」
 いつもよりも真実味こもった言葉のせいか、ごり押し強い彼らも今日はあっさり引き下がってくれた。

 ドライヤーで髪を乾かす。
 櫛でといて、編み込みにしてみる。‥‥三つ編みにしてみる。‥‥上にお団子型に小さくまとめて、ウェッグをつけくわえてみる。
「‥‥」
 どうしよう。
 鏡の前で途方にくれてみる。
 問題はそう。
 あの人の好みがわからない。
 ‥‥溜息がこぼれた。
 あの人のことが好きなのかどうかは、はっきり言ってまだよくわかんない。
 好きなのかもしれない。嫌われたくないし。可愛いって思ってもらいたいし‥‥
 でも、あの人も同じ‥‥なのかな。
 クラスメイトにいる、赤いボディスーツがよく似合う大人びた友人が頭に浮かんだ。
 彼女はとても男にもてる。携帯電話に数え切れないくらいの男友達の番号が入っていて、休み時間になるたびに誰かに電話をかけたり、急がしそうにメールを打ってる。
 ナイスバディで美人で背も高くて‥‥彼女の真似してみたら、あの人はなんていうかしら。
 ‥‥多分、驚くだろ〜な〜‥‥。
 こないだ友達と図書館に行った時、彼女が連れていた友達は、眼鏡の似合うお嬢様風だった。タータンチェックのスカート、ベージュのハーフコート、ブラウスもアイボリーで緑色のネクタイ。色白でとても可愛らしい顔立ちで、性格もおとなしくて、なんだか女の子でも放っておけないようなタイプ。
 その子と似たような服なら持ってる‥‥かも。
 ベレー帽を頭に乗せて、ゆるめにかけた三つ編みにする。
 鏡の中のあたしは、‥‥あたしだけど、なんだかいつものあたしとは違う雰囲気。
「‥‥‥うー」
 カッコウ♪
 柱にかけた時計が鳴いた。
 振り返ると、10時半。
「!!!」
 何時の間に。
 私はドレッサーの前に仁王立ちになり、「もぉっっ」と叫びながら服を手に取った。
 薄いブルーのスプリングコート。白いニットに、デニムのミニスカート。
 いつもながらのファッションだけど、それが、いちばんしっくりいったりして。
 まったくもー。

 ネイルは少しもいじる時間がなくて、普段つけている透明ネイルがはがれてないことだけ急いでチェック。
 化粧水、下地クリーム、ファンデーション、アイメイクと頬紅はほんの少し、口紅も自然なピンクで。でもグロスはつける。
 姿見ごしに写す時計。
 11時にどんどん近づいていく。
 コロンは‥‥好みがわからないので今回は控えておくことにした。
「バスの時間!!」
 叫びながら玄関の側に張ってあるコルクボードに駆け寄った。ピンでバスの時刻表が書いてある。
 11時8分。
 11時過ぎならそれが一番早いらしい。
 うん、間に合いそうだ。

 お気に入りのプラダのハンドバックを手に取り、忘れ物が無いか、背にした部屋を振り返りチェックする。
 洋服が散乱している‥‥。
 ‥‥ま、まあ、いいか。おうちに戻ったら片付けよう〜っと。
 私は玄関を抜け、扉に外から鍵をした。
 外はとってもいい天気だった。
 抜けるような青空に、生まれたばかりの燕達がチュンチュンと騒いでいる。
「ふぅっ」
 大きな深呼吸をして、私は新鮮な空気を吸い込んだ。そして腕時計を見つめ、慌てて走り出す。

 今日が絶対楽しい日でありますように!


                                         おわり。もしくは、つづく?


  WRITE by 鈴猫。
  素敵な恋を応援しています♪