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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘事件簿

「栗羊羹……お腹空いていたんでしょうね。きっと」
にこにこ笑顔で志神みかねは息上がる二人を見ながらのんびりと言い、恵美たちに挨拶をした。
「こんにちはー」
「あら。いらっしゃい、みかねさん」
「大変ですね。盗み食いですか?」
「そうみたい。一体、誰が持ってったのかしら?」
首を傾げる恵美に気だるそうな男が声をかける。
「さっき食って忘れただけじゃねぇのか?」
無職文無しであやかし荘に食事をありつきに来ていた忌引弔爾は肩肘テーブルに立て、チビチビ茶を飲みながら続ける。
「……また買って来る、ってのはナシなのか?」
弔爾の言葉に恵美はちょっと首を傾げ、困ったように答えた。
「んーでも、あの栗羊羹。三橋屋の栗羊羹だったんですよね……」
「なにぃ?!」
驚きの声を上げる弔爾にみかねの目を見開いてあらら、と言った言葉が重なる。
「ねぇねぇ。三橋屋ってなに?」
ふりふりと首を忙しなく動かし周囲を見る柚葉に、嬉璃が腕を組みしかめっつらをして言う。
「三橋屋の栗羊羹といえば、高級和菓子の老舗ぢゃ。……そうか。三橋屋の栗羊羹ぢゃったか……」
「高級……なんだか分かんないけど、栗羊羹食べた〜い!」
「同感だ!」
ぐっと万感込めた同意の言葉と共に、縁側から金髪にスーツという夜のお仕事帰りですか?と尋ねたくなる様な姿の真名神慶悟は入ってくるなり、深刻な表情を浮かべる。
「三橋屋の栗羊羹が盗み食いされるとは……そのような大罪を犯した不届き物は許して置けないな」
「真名神さん。どこから入って来るんですか」
「ま、気にするな。それより、犯人探しだ」
慶悟の言葉に皆大きく頷く中、みかねは持ってきた紙袋を少し掲げる。
「私も栗羊羹、持って来たんですけど……じゃ、これは犯人探して解決した後に食べましょ」
のんびりと笑顔で紙袋をテーブルに置くと、みかねはさてと手を叩き戸棚に向かうと中や外をあれこれ調べ始めた。
「んー何か証拠が残ってないかな……」
がさごそと探るみかねを見、弔爾は頬を掻き呟く。
「俺は食べられればこの栗羊羹でもいいがなぁ……」
と、物欲しそうに紙袋を見る弔爾の頭の中で別の声が響く。
『何を言うか。如何なものであれ人の物を黙って盗る…人として許される事ではない!』
弔爾にとり憑いている妖刀・弔丸が憤慨しながら更に続ける。
『やはり、ここにいる全員の行動を聞くのが常套であろうか……』
(……探偵気取りかよ)
ウンザリとしたため息を吐きながら、弔爾は頭の中の弔丸の声と同じように何やらやる気らしい慶悟を見た。
「まずは、全員をここに呼んでもらえるか?」
そう言われた柚葉は二つ返事でまるで鞠のように飛跳ねながら管理人室を出て行った。
「食い物の恨みは恐ろしいというからな。晴らさねば要らぬ災禍を招くやもしれん」
んな馬鹿な……そう弔爾が言おうとした背後からみかねが大きく相槌を打つ。
「そうですよね!おいし〜食べ物を取られたら、誰でも怒りますもんね」
「その通り。煩悩の所業というものは恐ろしい」
「何でも良いが、どうする気ぢゃ?」
トテトテと嬉璃は指定席となっている自分の座布団に座りながら、慶悟に尋ねた。
「式を使う」
式とは慶悟の使う式神の事で笠を被った可愛らしい姿をしているのだ。
みかねは相変わらず、茶棚を探している。
「ん〜羊羹の包みでも落ちてるかと思ったんだけど……」
「……落ちてないだろ。普通。俺がもし犯人だったら、証拠はどっか別のところに捨てるな」
ぼそり、と何気なく言った弔爾をみかねは驚きに目を開いた。
「そこまで細かく……弔爾さんが犯人だったんですね!?」
「なんでだよ!」
あまりの突飛な考えに、がくっと頬杖がずれて危うくテーブルに顔をぶつけそうになった弔爾はみかねを振り返った。
「俺は、『もし俺だったら』って言っただけだろうが。なんで、俺が犯人になるんだよ」
『それは貴様の食い意地の悪さと、日ごろの行いの悪さ故だろうな』
ふふん、と鼻を鳴らすように言った弔丸の声に、弔爾は黙れと心の中で唸った。
「ま、何にしてもすぐに判る事だ……」
そう言って、慶悟は出口へ視線を向けた。
軽い跳ねるような足音と複数の人間の足音が近づき、管理人室の扉が開いた。
「呼んで来たよー!」
元気良くそう言った柚葉に慶悟はご苦労、と言うと皆を自分の前―壁側に並んで座るように促した。
「なんや〜?一体、どないしたんや??」
「……三下がいないようだが?」
「三下は仕事や。今朝、半べそかきながら出て行ったで」
訳が判らずも、そう答えた天王寺綾は座布団を引き寄せ座った。
歌姫も相変わらずの微笑みを浮かべて少し、首を傾げたものの何も言わず静かに座る。
みかねも恵美も柚葉も座布団を取り座り、これから何が始まるのかと、慶悟の顔を見た。
「我が内の理により来たれ…救急如律令…」
すっと、目を閉じ、小さな声でそう言った慶悟の周りに三体の式神が現れ、ふわりと宙に浮く。
慶悟はひたっと皆の顔を見据えたまま、式に命令する。
「俺の栗羊羹を…否、盗み食いという大罪を犯した不届き者を探せ…とりあえずは証拠…栗羊羹の包みをな」
心の中では別にここの者達に憑き、何か不信な行動をした場合は報告しろと裏命令も付け加えた慶悟は式を放した。
「栗羊羹?一体、なんの話なん?」
訝しげに問う綾に、みかねが腕を組み、眉を寄せ深刻そうな表情で言った。
「恵美さんが置いていた栗羊羹が無くなっちゃったんです。犯人は、きっとお腹一杯でお昼寝でもしていたのかも……」
と、また自分勝手な推理を展開し始めたみかねは立ち上がると、ブツブツ独り言を言いながら、今度はゴミ箱を覗いたりして行く。
「……私が犯人だったら…食べた後は眠くなってお昼寝だね。それから……今ごろ起きて、慌てて……」
と、押入れの戸を開け、布団の間に首を突っ込むみかねを見ていた弔丸。
己も犯人確保に動きたいらしく、うずうずとした声を出した。
『弔爾よ。我等も盗人を捕らえる手助けをするのだ!』
だが、弔爾は面倒な事が嫌いな怠け者。
だらしなく背中を丸めて頬杖を突いて、呆けっと呟いた。
「……面倒くせ〜」
この言葉に憤怒する弔丸の大声がガンガンと弔爾の頭の中に響くが、他の誰にも聞こえはしない。
耳を押さえ、むぅと唸り眉を歪める弔爾の顔を恵美は不思議そうに覗き込む。
「大丈夫ですか?忌引さん」
だが、弔爾からの返事は無く、俯き耳を塞いでいたかと思うといきなり立ち上がった。
「拙者に任せて頂きたい!」
そう言った弔爾――いや、弔爾の体を乗っ取った弔丸は部屋に居並ぶ面々を見下ろした。
「隠してあった事を知っていたとあれば、身近な者の犯行で外部の者ではあるまい」
皆、口調の変わった弔爾にぽかんと口を開けているが、慶悟は慣れたものらしく、テーブルの上の煎餅に手を伸ばしながら頷く。
「その通り。だから、式達を屋敷内に放した。……もしかしたら、何か証拠を見つけてくるかもしれんな」
そう言って、少しの表情の変化も見逃さないように慶悟は鋭い視線を走らせた。
「ちょい待ち!ってことは、何?ウチが盗み食いしたとでも言う訳?」
「……ま、その可能性もアリって事だ」
「失礼なやっちゃな。たかが栗羊羹の一本を食い逃げするような真似、ウチが……このウチがすると思うんか?!」
どうやら、慶悟の言葉は綾のプライドを傷つけたようで、ワナワナと肩を震わせ怒鳴る。
「まぁまぁ。犯人捕まえれば良いだけの話ですから」
にこにこと暢気な事を言うみかねに綾は憮然として座り込み、ぶつくさ文句を言っているが、弔丸は気にせず、すらりと持っていた日本刀を抜いた。
「我が刃は邪な者のみを断ち、誠なる者を傷つける事はないのだ……これより皆を一度に一閃する」
この言、本当は嘘である。
弔爾の体の中では、感心する弔爾に弔丸があっさりと嘘も方便だとなんだと言っているが、周りは知らぬ事。
『え〜〜?!?!』
はもる声も軽く無視し、弔丸はギラギラと蛍光灯の光を反射する刀身を振りかざしながら声高に言う。
「ささっ!皆、並ばれよ!!」
「並ばれよ、ではない!もし、怪我したらどうする気じゃ!?」
怒りをあらわに怒鳴る嬉璃に他の皆も同調する。
「そうですよ。やっぱり、大丈夫といわれても怖いですし……」
「そやそや」
恵美の言葉に綾も歌姫も大きく頷く。
「勝負?おしっ、やるか〜!?」
「でも〜皆さん、盗み食いしてないんですよね?だったら大丈夫ですよ!」
一人、ワクワクとした顔で弔爾の前でファイティングポーズを取る柚葉の後ろから、みかねが自信たっぷりに拳を握って皆を見た。
「そう言う事。それとも、何かやましい事でもあるのか?」
パリっと煎餅を噛み砕きながら言った慶悟の言葉に顔を合わせ、しぶしぶと恵美は一歩、弔丸の前に進み出た。
「……怖いですけど、スパッと早く終わらせてくださいね」
綾も歌姫も恵美の横に並び、気合を入れたようだが、嬉璃は固まったかのように動かない。
「どうした?嬉璃」
慶悟の問いに嬉璃は口をぱくぱくとさせ、その額からは薄っすらと汗が滲んでいるのを弔丸も慶悟も見逃さなかった。
「……もしや」
「お前が食ったのか?」
ビクリと体を震わせ、嬉璃は立ち上がるとそそくさと立ち上がる。
「そうぢゃ。そろそろ散歩の時間ぢゃったな……」
「おい……待て」
「何?羊羹、嬉璃が食べちゃったの!?」
「さらばぢゃ!!」
脱兎のごとく逃げ出す嬉璃。
「あー!逃げるな〜!!栗羊羹かえせ〜〜!!」
「犯人、待て〜!」
それを追いかけ、部屋を飛び出していった柚葉とみかねを呆然と見送っていた弔丸は数回瞬きすると、肩を落とし、刀を納めた。
「やれやれ……犯人探しと言って己から疑いの目を逸らそうとしていたのだな」
「ま、これで一件落着だな」
菓子を頬張りつつ遠くで聞こえる柚葉とみかねの声を聞きながら、慶悟はみかねの持ってきた袋から栗羊羹を取り出した。
「さて、食うか」
「まったく、なんやっての?」
綾に歌姫はとんだとばっちりを食った形で、慶悟は無言で二人に栗羊羹をちょっと差し出しながら聞く。
「……栗羊羹、食うか?」
「食う。腹減った……」
ベタン、と糸が切れた人形のようにテーブルの上にあごを乗せて言う弔爾に恵美は小さく噴出し、切って来ますと言って慶悟から預かりその場を離れた。
いまだ響いてくる嬉璃の悲鳴を聞きながら、慶悟はどこか明後日の方をみつつ、食べ物の恨みは恐ろしいな……と呟いたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0845/忌引弔爾(キビキ・チョウジ)/男/25歳/無職】
【0249/志神みかね(シガミ・ミカネ)/女/15歳/学生】
【0389/真名神慶悟(マナガミ・ケイゴ)/男/20歳/陰陽師】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。
ゴールデンウィーク明け、如何お過ごしですか?
壬生ナギサです。

今回のお話、ギャグ・コミカルと書いておきながら
果たしてそうなったものか……
皆さんの想像していたものと少しばかり同じような部分があれば
幸いかと、そう思っております。

未熟者の私ですが、
もしまた機会とご都合が良ければ宜しくお願いいたします。