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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


雪の街に、消えた【完結編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『雪の街に、消えた』――。
 去年の年末、金沢の卯辰山展望台にて1人の青年が殺された。青年の名は森崎弘樹(もりさき・ひろき)、百万石大学経済学部の学生だ。
 月刊アトラス編集長の碇麗香から調査を引き受けた一行は、さっそく雪降る金沢の街に向かい、各々の考えの下で調査を行っていた。調査により、いくつかのことが明らかとなってゆく。
 去年の9月に弘樹の恋人だった麻生美香(あそう・みか)が何者かによって殺されたこと。今年の1月には東山のひがし茶屋街で、男が1人殺されていること。そして弘樹の部屋に何故か、東京で以前起こった怪奇事件を引き起こした画家・立岡正蔵(たておか・しょうぞう)の名前が記されたキャンバスがあったこと。そのキャンバスは白く、ただ右下に赤黒い3本の血の筋があるだけで……。
 また、弘樹と思しき青年を探し出して尾行したり、行く手に立ち塞がる者も一行の中には居た。けれども青年は、その姿を美香の物に変えてある場所を目指して歩いてゆく。
 その頃、弘樹の眠る霊園には怪し気な男の姿があった。男は誰かを待っているようだった。
 雪の降り止まぬ金沢の街。果たして一行は、この哀しき事件に終止符を打つことが出来るのだろうか――。

●祈り【1B】
 シュライン・エマは、未だ東山・ひがし茶屋街の喫茶店に居た。先程の店員を呼び、さらに詳しい話を聞いている最中だったのだ。
「彼らがどんな話をしていたか、覚えていませんか?」
「うーん……そう言われると、何とかいう画家さんの名前が出ていた気も」
「立岡画伯?」
「あ! そう、そんな名前で!」
(繋がったわ)
 この店員の言葉は、2人が立岡のことを知っていたということの裏付けとなった。シュラインはそれから、ここで殺された竹田という男のことについても聞いてみたが、そちらについては分からないという答えが返ってきた。
 店員が戻ると同時に、シュラインの携帯電話に篤旗から画像付きのメールが送られてきた。霊園に居る男の姿を撮って送ってもらったのだ。
(……初めて見る男よね)
 画像は不鮮明だが、ある程度の雰囲気はつかめる。けれどもシュラインには全く見覚えのない男であった。
 メールを見終わると、シュラインはそのまま電話をかけた。かけた先は月刊アトラス、編集長の碇麗香にだ。麗香はすぐに電話に出た。
「もしも……」
「ちょっと。いったいそっちで何が起きてるのよ」
 シュラインが話すより先に、麗香の不機嫌が声が聞こえてきた。何事かと思い話を聞いてみると、『立岡美術館』から『金沢で絵画が見付かったそうだが本当か?』という問い合わせの電話が、ついさっきかかってきたのだという。
「適当に誤魔化しておいたけど、何がどうなってるのか、筋道立てて話してくれる?」
「ええっと……ご、ごめんなさいっ。取込み中なので、また後でかけなおします!」
「あっ、ちょっと!」
 どうにも長くなってしまいそうだったので、慌てて電話を切るシュライン。今頃怒りの矛先は恐らく三下に向いているだろうが、事件が解決するまで辛抱してもらおうとシュラインは思った。
「……誰か連絡したのかしら?」
 首を傾げるシュライン。美術館からの問い合わせに具体的な地名が出ているのだから、そうとしか考えられない。で、その人物は電話をかけた際にアトラスの名を使ったのだろうと容易に想像出来る。
(あ、誰か分かったかも)
 そういうことをしそうなのは、金沢に来ている中では1人しか居ない。あえて言うまでもないけれど。
(麗香さんにはしばらく電話出来ないし、次は美術館にかけてみようっと)
 気を取り直して、シュラインは『立岡美術館』に電話をかけた。2回コールした後、電話口に職員が出る。
「はい、『立岡美術館』でございます」
「もしもし、私、草間興信所の者ですが……」
 興信所の名を使い、職員に話しかけるシュライン。別に嘘は吐いていない。だが、職員から返ってきたのは意外な言葉であった。
「ああ、昨日調査をお願いした?」
(えっ?)
 『調査をお願いした』とはいったいどういう意味か? シュラインは相手に話を合わせつつ、探りを入れていった。
「はい、その草間興信所です。実は資料の件でお尋ねしたいことがありまして」
「資料といいますと、調査先のお宅の住所などのことでしょうか? その資料に、何か不備が……?」
「いえいえ、そういうことでは。ただ、念のため確認させていただこうと思いまして。お手数でなければ、確認のために住所を読み上げてはいただけないでしょうか?」
 そう言いながら、シュラインはメモの準備を始めた。職員は何の疑いも抱かず、住所を順次読み上げてゆく。シュラインはそれを一言一句漏らさずメモ帳に書き留めていった。
「ありがとうございます。どうやら間違いはないようです。はい……はい、こちらこそお手数をおかけしまして。はい……では失礼いたします」
 丁寧に礼を言って電話を切るシュライン。そしてすぐにメモ帳に目をやった。記されている住所はいずれも京阪神の物で、その中に気になる名前があった。
「麻生……?」
 美香の名字と同じではないか。しかも住所は神戸となっている。もしやこれは……?
 その時だ。シュラインの携帯に、電話がかかってきた。番号を見ると、草間の携帯からだ。電話に出るシュライン。
「もしもし、武彦さん?」
「ああ、そうだ」
 電話をかけてきたのは草間であった。
「……今どこに居るの?」
「何だ、お前も薮から棒に。大阪だ、大阪。零も隣に居るぞ」
「あー、零ちゃんも……」
 草間の居場所を聞いたシュラインは、瞬時に何故そこに居るのかを理解していた。
「『立岡美術館』からのお仕事かしら」
「おい……何で知ってる!?」
 びっくりしたような草間の声。そりゃあ驚くだろう。
「それはどうでもいいの。こっちにしてみれば、好都合だわ」
「好都合って……そういや、電話しろって言われたからしたんだが、俺の仕事に関係あることがそっちで起きてるんだって?」
 草間によると、ついさっき十三から電話があって、これこれこういうことだから詳しくはシュラインに電話するよう言われたのだという。
 そこでシュラインは草間に経緯をかいつまんで説明し、麻生家と立岡の関係を調べてもらうよう頼んだ。
「ああ、分かった。どうせ聞かなきゃいけないことだからな」
「絵画の存在の確認のついで?」
「……だから何で知ってるんだ、そのこと?」
「気にしないで。じゃ、麻生さんの実家の方には私から連絡しておくから」
 と言って、シュラインは電話を切った。
(本当に、いいタイミングだわ、武彦さん)
 苦笑するシュライン。指は美香の実家の電話番号を押していた。
 シュラインは、美香の実家に草間が間もなく伺うことを伝えた。それからそれとなく、美香の話題を持ち出してみる。直接美香の名前は出さず、『子供さんも立岡画伯の絵が好きなんでしょうね』というように。
 その質問は的を射ていたらしく、美香は確かに立岡の絵が好きだったそうだ。ただ、去年の9月に亡くなったとも言われてしまったが。
「……そうですか、それは本当に御愁傷さまでした。ところで、その後で何か変わったことはありませんでしたか。例えば幽霊が出るとか、噂とか……」
「いいえ? 全く何も。妙な質問ですね。けれど幽霊でも何でも、美香が私たちの前に姿を見せてくれれば、とても嬉しいんですけどねえ……」
 相手はシュラインの質問に寂し気に答えた。美香が亡くなってまだ半年、心の傷も癒えてはいないのだと感じられる言葉であった。
 シュラインは礼を言って電話を切ると、今度は沙耶に電話をかけてちょっとした頼みごとをした。狙いが上手くゆくかどうか、分からないけれども。
 沙耶への電話を終えた後、シュラインは深い溜息を吐いた。
(やれることはやったわ……)
 自分の出来ることはやった。後は他の者たちの行動に期待し、無事に事件が解決するよう祈るだけしかない。シュラインはすっかり冷めてしまった紅茶に口をつけた。
 シュラインの元に事件解決の一報が入るのは、それからしばらく経ってのことだった。
 曰く、悪魔が退治された、と。

●そして――雪の街に、全ては消えた【4】
 2月20日、事件解決の翌日――一同は卯辰山の展望台に居た。もう1度、花を手向けに来たのである。
「……空が泣イテル……」
 金沢市街を見下ろしていたソネ子は、顔を空へ向けた。雪は積もってはいるが、灰色の空からは今は雪は降っていない。だがまたいつ降り出してもおかしくはない状況だった。
「悲しい事件やったな」
 沙耶が花を手向ける様子を見ながら、篤旗がぼそっとつぶやいた。
「どっかでボタンが掛け違ったんかもなあ……」
 悪魔が妙なことを考えなければ、また弘樹が復讐など望まなかったら……違った未来があったのかもしれない。でも今となってはもう過ぎてしまったことである。
「これ読んでみな」
 十三が1冊の文芸誌を取り出した。それは弘樹の所属していたサークル『文学研究会』が、学園祭で発行した物であった。
 智哉が受け取り、弘樹の作品を探して目を通した。最後の一文にはこう書かれていた。
「『悪魔の誘惑に耐えられる者が居るだろうか』か……意味深な言葉だね」
「こっちも見てみな」
 十三がまた別の本を取り出した。今度はシュラインが受け取って、開いてみる。
「これっ……日記?」
「ああ。カバーかけて、本棚にあった」
 短く答える十三。文芸誌はサークルで、日記は弘樹の部屋から探してきた物であった。
 日記を読み進むシュライン。そこには美香との恋愛の様子が記されていたが、美香の亡くなる前日から少し様子が変わっていた。
 前日の日記には美香が立岡の絵画を見付け、明日買って見せてくれるということが。当日の日記は白紙で、その翌日の日記には美香の部屋から絵画を持ってきてしまった後悔の念が綴られていた。
「『どうして僕は約束の時間に遅れてしまったのか。悔やんでも悔やみきれない。出来ることなら犯人を見付け、この手で殺してやりたい』……読んでて辛くなっちゃうわね」
 溜息を吐くシュライン。それ以上読み進めることはなく、パタンと日記を閉じた。
「でだ……これが今朝、旦那から送られてきたファックスだ」
 十三が折り畳んだファックス用紙を取り出した。偶然仕事で大阪に居た草間から送られてきた物だ。さくらはそれに目を通すや否や、目を細めた。
「これは……」
 沙耶が横から覗き込み、はっと息を飲んだ。
「美香さんの写真ですか?」
 ファックスには顔写真が写っていた。不鮮明だが、美香のように見える。だが十三はそれを否定した。
「そいつァ、祖母だ。そっくりだろ」
「え、じゃあ……?」
「ああ。あの絵は祖母を描いたもンだ。あいにく、糞爺とはそういった関係はなかったようだがよ。年代が合わねェしな」
 少し残念そうに言う十三。これも草間の調査による物である。
「……霊園に居た男は、自供したのか?」
 無言で空を見上げていた慶悟が、尋ねるようにつぶやいた。十三がそれに答える。
「古田の旦那曰く、らしいなァ。泥棒に入ってた所に美香が帰ってきて……ブスリ、だとよ。たく、つまんねェ理由で殺りやがって……」
 何か思う所があるのか、吐き捨てるように言う十三。篤旗が小さく頷いた。
「……また雪が降ってきましたね」
 さくらがそう言ったように、空からはまた雪が舞い降りてきていた。空のダイヤも、鉄道ダイヤも、大混乱の最中。この分では、明日まともに帰ることが出来るかどうかも怪しい。
「うー、寒っ。そろそろ降りて街で土産物でも買って、今夜はパァっと飲むか。懐もあったけェしよ」
 ポンポンっと懐を叩き、ニヤッと笑う十三。美香を殺した犯人を古田刑事に引き渡したことによって、情報屋としていくばくか報酬を得ていたのだった。
「……若ェ2人の冥福でも祈りながら、な」
「付き合おう」
 十三が先に歩き出すと、すぐに慶悟が続いた。そして様々な思いを抱えつつ、他の皆も後に続いて歩いてゆく。
 やがて展望台から一同の姿は消え、辺りはしんと静まり返った。
 未だ雪舞う金沢の街に、悲しき悪魔の姿は――もうない。

【雪の街に、消えた【完結編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0134 / 草壁・さくら(くさかべ・さくら)
         / 女 / 20前後? / 骨董屋『櫻月堂』店員 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 16? / 古木の精 】
【 0527 / 今野・篤旗(いまの・あつき)
                   / 男 / 18 / 大学生 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、足掛け3ヶ月かかりましたこの一連の物語の完結編をここにようやくお届けすることが出来ます。もう5月手前ですからねえ……ともあれ本当に、皆様お疲れさまでした。
・皆さんのプレイングによって、この一連の物語は高原の思惑より深い所に入った展開になったように思います。立岡の絵画についてのことは『参考依頼』でしたので、当初は深く触れようとは思っていなかったのですが……不思議なものです。
・今回は大きく3つに分かれるのではないかと思います。まず悪魔と向かい合う人、次いで立岡の方面から絡む人、そして件のキャンバスに着目した人と。他の方の文章で補完するような形になっていますので、もしよろしければそちらもお読みください。
・一応、ここで流れをまとめておきましょう。本文で触れていないことも合わせて書かせていただきます。まず、美香の祖母が立岡に神戸で絵を描いてもらいました。その絵は引っ越しなどのどさくさで行方不明になり……回り回って、金沢の古道具屋に来ていた訳です。それを美香が見付け、その翌日に事件が起こってしまった訳ですね。後の流れはもうお分かりかと。
・本文中『悪魔』とは表現していますが、本当に悪魔かどうかは分かりません。が、そういった類の存在ではあるのでしょう。
・あと『文学研究会』。これは高原が大学時代に所属していたサークルが元ネタで、名前はそうなんですが別に文学の研究なんかはやっていませんでした。本当に部室にこたつがあったんですよ。
・シュライン・エマさん、49度目のご参加ありがとうございます。ちょっと行動の順序が分かりにくかったですが、推理はそんな感じでおおよそ当たっていますね。しかし、何故草間の居場所が分かったんでしょうか。お土産はちゃんと買ってますので。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。