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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・時のない街>


想い出をとじこめて −豪華絢爛な小箱−
●はじまり
「逃げてください!」
 クーデターだ、と誰かが叫んだ声が耳に残っていた。地下道へ通じる部屋の中に取り残され、ただ呆然と扉を見つめ指輪を握りしめた。
「開けて! 開けて下さい!! 私一人でなんて逃げたくありません!!」
「駄目です! 逃げて下さい。────私の為に」
 愛しい人は扉の向こう。固く閉じられた鉄の扉は、外から閂で押さえられている為開ける事は出来ない。
「きっと…きっと生きて再会して下さると約束してください…」
「…はい。貴女に捧げた指輪に誓って」
 彼から貰った大事な手紙。それを納めた小箱と指輪だけ。それが今の全てだった。
「いつか、いつか貴方がまた私の指にこれをはめてくれるその日まで、この小箱にしまっておきます。──お願い、一人にしないで……」
 ささやきになった最後は、複数の足音にかき消された。
 決して逢えないのはわかっている。しかし、一縷の望みを託して────。

「これがその開かない小箱ですか」
 持ち込まれたそれを見て、梁守圭吾は呟く。
「そうなんです……」
 篭原理美(かごはら・さとみ)は頷く。
 父親がどこかの古物商から手に入れて娘に贈ってくれた物だというが、実はこれが曰く付きで。
 小箱自体はとても細やかな細工が施された見事なものなのだが、いかんせん開かない。そして小箱を開けようと試み、それをぞんざいに扱うと悪い事が起き始めた、という。
「開けて欲しい、とかじゃなくて…引き取って貰えればそれでいいんです…」
 小さな声で彼女はつげ、席を立つ。
 それを見つつ、ヒヨリはひょいと小箱を持ち上げて軽くふってみる。
「!?」
 理美の顔が蒼白になる。
 小箱の中からはカサカサと紙がこすれるような音と、小さな物が箱にぶつかる音がした。
「あ、あの……お願いします!!」
 荷物を抱え込むように持つと、理美は慌てて店を出て行った。
「……なんか起こるのかな?」
 怖いような、しかし好奇心が打ち勝ったような顔でヒヨリは店内にいる人たちを見回した。

●開かない小箱
「こら、ヒヨリちゃん駄目でしょ」
 困ったような顔でシュライン・エマはヒヨリの持つ小箱を大事に取り上げ、テーブルの上に戻す。
「何かが起こる起こらないは関係なく、誰も粗末に扱われたら嫌でしょう? 私だって腹立つし、ヒヨリちゃんだって持ち上げられてふられたら気分悪いんじゃない? そういう用途の物でない限りやめた方がいいわ。特にこう古くて大事にされたような物はね」
「そうですわね。まだ何が起こるかわからないんですもの。乱暴に扱うのはよしましょうね」
「はーい。ごめんなさい」
 シュライン、そして天薙撫子に言われ、ヒヨリはしゅんと肩を落としながら小箱に向かって謝る。
「そういえば、私も何かここに持ってこようと思っていたのに……忘れてしまいました」
 結い上げた髪に服と同色の若草色のリボンをつけた白里焔寿があらあら、と困ったように呟く。
 それはまさしく天然なる行動であったが、場を和ませる空気にかわる。
「何を持ってこようとしたのかすっかり忘れてしましましたけど、これはちゃんと持ってきたので召し上がってください」
 と取り出しのはイチゴクリーム入りのパイシュー。焔寿の手作りである。
「これはうまそうだな」
 ひょいっと真名神慶悟はそれをとりあげて口に運ぶ。
「あ」
 焔寿の口が「あ」の形でとまる。
(圭吾さんに最初に食べて貰いたかった……)
 という乙女の想いは一切通じなかったらしい。
「うまい、うまい」
 焔寿は困ったような笑みを浮かべつつ「ありがとうございます」と答え、小箱をそっと手に取った。
 それを見ながら昔の事を思い出す。今は亡き両親の記憶……。この小箱と似たような物を母親が持っていた。何には父が母に贈ったアクセサリーが入っていて。勝手に持ち出して怒られた。そんな記憶がよみがえった。
「俺にも見せてくれないか」
 言って慶悟はテーブルの上におかれた手ふきで軽く指先を拭き、焔寿から小箱を受け取る。
「仕掛けとかはなさそうだな……」
「霊的干渉、って言うのが一番高いかしらねぇ」
 小箱を見つめながら当麻鈴が呟く。一切の沈黙を保っている小箱だが、僅かな霊的波動が伝わってくる。
「しかし、粗末に扱ったら何が起きるんでしょうか……」
 悪い事が起きる、と理美は言っていたが、具体的なことは何一つ言わずに飛び出して行ってしまった。
「室内にその、クーデターが再現されると言った可能性ですが……」
 形のいい顎を軽くつまんで、九尾桐伯は小箱を見つめた。
 クーデターが起これば拳銃などから年代が判別出来る。回を増す毎にマニアックになっていく桐伯だか、本人に自覚はない。
「でも無理に小箱を粗末に扱うのは気がひけますね」
「そうですね……別の方法でこの小箱に宿っている方とお話するのが一番かもしれないですね」
 声のトーンをさげた焔寿に撫子が同意する。
「さっきの子の連絡先、わかるかしら?」
 シュラインに問われて圭吾は書き記した理美の連絡先を手渡す。
「篭原理美、か……。あそこの企業の社長の娘かしらね……」
 興信所なんかをやっているとそういった関係も詳しくなってくる。特にすでになんでも屋と化している草間興信所では尚更……。
 隣の家から世界の果てまで、参上します草間興信所☆ がキャッチフレーズになったとかならないとか。
 その連絡先を見つつ、シュラインは電話をかけ始める。
「ちょっと拝見させてね」
 優しく小箱を手に取り、鈴が丹念に調べる。
「作り的には旧ドイツの物っぽいわね……。細工とかもそんな感じで……。あそこならクーデターとか多そうだし……」
 骨董品屋を営んでいる上に、364歳という年齢。そういった事も見てきていた。
 今度はその小箱を撫子が預かり、箱にこめられた念をさぐる。
 伝わってきたのは恋しい想い。そして悔しさ。生きて巡り会える信じていたのに、死ぬまで叶わなかった……否死んでも叶わなかった思い。
「……」
 胸が苦しくなるような感じを覚え、撫子は小箱をテーブルに置いた。
「霊的干渉を行って当人呼び出してすっきりさせた方が早くないか?」
 遠回りやややこしい事は苦手な慶悟が言うと、みな賛同した。
「招魂するには正確な没年月日が必要なんだが……」
 日はいいんだどけなぁ、と慶悟が呟いていると、シュラインが受話器をおろして振り向いた。
「篭原さんの方に連絡がついて、そっち方面からあたってみたわ」
「何かわかりましたか?」
 桐伯に問われてシュラインは頷く。
「買った店は覚えてないそうだけど、ドイツの古物屋だったらしいわ。それで、美術品とかに詳しい知り合いに特徴を話して色々当たって貰ったら、旧ドイツのクーデター辺りのものじゃないか、って」
「やっぱり……」
 鈴の鑑定眼は間違っていなかった、と感心したように焔寿は鈴を見つつ嘆息。
「その頃屋敷を襲われた家の娘が当時特注で作らせた物を類似しているらしいわ。本物を見せてないからなんとも言えないけど」
「それで、その娘さんはどうなったんですか?」
「ええとね……そのクーデター後消息は不明なんだけど、だいたいの話だとそれ以降小さな農村に身を寄せて、恋人を待っている間に流行病で亡くなってしまった、って。これが一応の没年月日」
 桐伯に促されて続けながら、シュラインは慶悟にメモ書きを手渡す。慶悟はシュラインからそれを受け取るとなにやら怪しげな呪具を取り出しテーブルに並べる。
 そしてメモ用紙に書かれていた名前、没年月日を筆で違う紙にうつす。
 それを見て撫子が周囲に結界を貼る。
 電気が消され、室内は一気に暗くなった。
 慶悟はゆっくりと呼吸を整えると、特殊な呼吸法からなる音が発せられる。
「あ」
 自分の声に驚いて焔寿は口をおさえる。
 視線の先には濃い金色の髪をした女性が悲しげに立っていた。
「貴女がこの小箱の持ち主ですか?」
 桐伯が問うと、女性はハッと振り向き、テーブルの上に置かれた小箱を手に取ろうとして素通りし、悲しそうに座り込んだ。
「とても大事な物なんですね」
 撫子の優しい声に、女性は頷いた。そして手に取る事の出来ない小箱を愛しそうに見つめ、小さく息をついた。
「この小箱を粗末に扱うと不幸な出来事が起こる、って聞いたんだけど、貴女の仕業かしら?」
『……この小箱は、あの人が来るまで決して開けないで、という約束で他の人に託した物……それを皆がこぞって無理矢理開けようとするから……』
 鈴に答える事は、どこまでも悲しげで。
『この中には財産的な物は一つも入っていないのに。あの人から貰った指輪と手紙。たったそれだけ……』
 そう語り続ける女性の向こう側で、シュラインがまたなにやら受話器を握りしめてメモっていた。
「ずっと、彼を待っていたんですね……」
 桐伯の言葉に女性は頷く。ずっとずっと待っていた。人づてに彼がまだ生きていると知らされて文を頼み。しかし返事は一切無く。何度も自分で捜しに行ったけれど見つからず。
 何日も、何十日も、何年も、何十年も。ひたすら彼が来るのを待っていた。
「小箱を開けられなくしてるんだ、不幸な出来事まで起こす事はないだろ?」
『……貴方にはわかるの!? 大事にして物を私利私欲の為だけに壊されそうになった気持ちが』
 キッと顔をあげ、鋭い眼差しで見られ慶悟は苦い顔になる。
 わかる、と言えば嘘になるが、わからない訳ではない。似たような経験は何度もしている。
「それでも、だ。何も知らない人まで巻き込む事はないだろう?」
『……』
「もしこのままにしておきたいんだったら、うちが預かっておくし。似たような記憶を持った物が、うちには沢山あるの。寂しくないと思うわよ」
 鈴の家は骨董屋。国は違えど似たような境遇を持った物は数多くあるだろう。
「貴女の心が閉じたままなら、無理に開ける事はありません。でもこれから多くの不幸を増やしていくなら、ひっそりと当麻さんの家に身を寄せるのもいいかもしれないですね。そうしている間に、私達の方で彼を捜してあげられるかもしれませんし」
「そうですわ、私もあちこちに頼んで捜して貰います! 貴女の話を元に」
 桐伯に続けて焔寿が言う。
「わたくしの方でも、これまでもつながりがら捜せるかもしれません……」
 と撫子が言いかけた所で、電話を切ったシュラインが慶悟に何かメモ用紙を渡しつつささやく。
 それに慶悟は重く頷き、意味ありげな笑みを浮かべつつ桐伯の肩を叩いた。
「ちょっくら頼み事あるんだけどな?」
「はい??」
 疑問顔の桐伯に慶悟は手短に呟くと、桐伯は困ったように首を傾げた。
「まぁ、人助けだ」
「……」
 困った顔のまま、それでも桐伯は頷いた。細かく言うと幽霊助けですか……とか呟きながら。
「それから嬢ちゃん方、ちょっと力を貸してくれや」
「??」
 撫子、鈴、焔寿の三人を集めて慶悟は簡単にこれからやる事を説明する。
「って訳でよろしく頼むわ」
「わかったわ」
「わかりました」
「はいです」
『何をするの?』
 自分が何もわからない状況におかれ、女性は困惑したように尋ねるが返事はない。
「梁守様、少々床を汚してしまいますけどよろしいですか?」
「構いませんよ」
 圭吾ににっこりと返されて、撫子は床になにやら手に持った物で書き始めた。
 それは結界のようで、しかし陰陽などが使う物とは少しかわってみえた。
「あそこの真ん中に立って貰えますか?」
 焔寿に促されて女性はその床絵の真ん中に立つ。
 そしてその横に困ったような笑みを貼り付けたままの桐伯が並ぶ。
 これからやる事を説明すれば。
 女性陣の力で女性を実体化させ、桐伯の方には男性の霊を宿らせる、と言ったものだった。
 シュラインが引き続き調べていたのは男性の方の消息で。そちらは簡単につかめた。
 彼は女性よりずっと先、そうクーデターの時に扉の前で絶命していたのだ。扉を背にし息絶えた彼のおかげで、彼女は追われる事がなかった。
 男性を生きている事にしたのは二つの思惑からだったらしい。一つは純粋な好意。肉親を亡くし、家を追われた彼女に同情した周りが、せめて彼を生きている事にしてやろう、と言った物。もう一つは彼女の持つ小箱に財産が入れられていると思った輩がついた嘘。
 巧妙に二つが合わさって、彼女に彼が生きていると思わせ続ける事が出来た。
 慶悟は巧みな筆使いで紙に男性の名前と没年月日を書き記し、桐伯の胸元へと貼り付け呪言を唱え始める。
 それに合わせて霊力を持つ女性陣が各自力を出す。
 霊力関係の力を持たないシュラインは、情報収集、という大事な役割を終え、その様子を見守っていた。
『……アネ……リーゼ……?』
 不意に桐伯の顔つきがかわり、目の前の女性、アネリーゼ・クルツリンガーを凝視する。
『クラウス!』
 鈴達の力によって実体化したアネリーゼは、喜びの声をあげてクラウス・エアハルトに抱きついた。
『ずっと、ずっと待っていたの……』
『すまない……』
 クラウスは彼女を抱きしめ返さず、瞳を伏せた。
『クラウス?』
『私は貴女を幸せにする事は出来なかった。だから……』
「そんな事はないはずです」
 口を挟んだのは焔寿だった。思わず声に出してしまった当人が一番驚いているらしく、目をパチパチさせる。
「そうだねぇ、幸せかどうか、って言うのも他人が計る物じゃなくて自分で決めるものだと思うわよ。ようは彼女が幸せかどうかって事じゃないかしらね」
「そうですね……。まずはそれを確認した方がいいと思いますよ」
 後押しするように鈴と撫子が続ける。
『そんな事確認なんかしなくたって……。私はこうして貴方に逢えたのが嬉しい。貴方といられた時間が幸せだった。貴方の存在が私の幸せ。だから……』
 嬉しそうにクラウスの胸の顔をうずめ、瞳を閉じる。
『こうして逢えた……それが今の幸せ……』
『アネリーゼ……』
「はい、どうぞ」
 今まで傍観していたシュラインがクラウスに小箱を渡すと、それは簡単に開いた。
『!?』
 中身を見、クラウスは驚愕して目を見開いた。
『こ、こんなものを持って逃げていたのか……』
 出来たのは手紙の束。彼女の部屋からならもっとお金になるものが沢山あったのに、大事そうに抱えて逃げたのは一文にもならない手紙だけ。
『私は私が一番大切だと思う物を持って逃げたの。それ以外必要ない』
 手紙の束の奥から指輪を見つけ、クラウスをそれを手にとってアネリーゼの指にはめる。
『あの時約束しましたよね。いつかこうやって……』
『はい……』
 アネリーゼの頬が涙で濡れる。と同時に身体の色が薄くなっていく。この世に未練がなくなったせいなのか。
 少しかかとをあげて背伸びして、クラウスの唇に自分のそれが重なるか重ならないか、という距離で彼女の姿は消えた。そして、これに答えたクラウスも桐伯の中から消え、残ったのは呆然と立ちすくむ桐伯の姿だけだった。
「一緒に持っていったらしいわね……」
 床に転がった小箱。それの中身は何も入っていなかった。拾い上げた鈴は、それをテーブルの上に戻す。
「二人とも、幸せそうでしたよね」
 にっこり笑って焔寿が圭吾を見ると、圭吾も笑って頷いた。
「とりあえず、今やらなきゃならない事は……床掃除よね!」
 モップを片手にヒヨリがごしごしと拭き始め、それにならうように撫子も掃除を始めた。
「それにしても事件に事欠かない店だな」
 感心したような呆れたような口調で慶悟が言う。
「……おや?」
 室内を軽く掃除をしていた桐伯が、壁にかかった時計に何を感じ立ち止まる。
「どうかした? ……あら」
 一緒になって覗き込んだシュラインも桐伯と同じ時計に目をとめた。
 それは時を刻む事をとめてしまった一つの時計。
 時計屋にあるどれもが全て別々の時をさしているが、止まっているものはなかった。
「電池切れですか?」
「あ、触っちゃ駄目です!」
 手を伸ばそうとした桐伯に圭吾の鋭い声が飛んだ。
 それにビクッと手を引っ込め、桐伯は圭吾を見るがいつもの笑みに戻っていた。
「後で電池をかえておきます」
 にっこりと言われ、それ以上追求する事は出来なかった。
「そ、そうでした。わたくし桜餅を持って来たんです。みなさんで召し上がりませんか?」
 場の雰囲気を変えようと撫子が言い、それにヒヨリが賛成の声をあげた。
「んじゃあたしお茶いれてくるー☆ やっぱ日本茶だよね〜♪ ちょっぴり渋めの緑茶をチョイス★」
「私はそろそろお暇するわ。長居すればするだけ仕事がたまりそうで」
 渋い顔をしつつシュラインは店を後にした。
「パイシューもまだ残ってますから食べて下さいね」
 小さなお茶会が始まった。
「そうそう、ちょっと見たいテレビがあるんだよねー」
 などといいながらヒヨリがテレビ台ごとテレビを引っ張ってくる。
 時計屋の室内の雰囲気に、テレビは思い切りミスマッチしている。
「この場合、みたいテレビじゃなくて番組、ですよね」
「桐伯ちゃん細かい事言ったら頭からお茶かけちゃうよ?」
「……」
 本気とも冗談ともとれなるヒヨリの言葉に桐伯は苦笑い。
「あ、深雪ちんだ〜」
 見るとちょうどお天気情報がやっていて、寒河江深雪の姿が映し出されていた。
「この後ろの曲は……」
「これって確か、海野いるかの『桜色の片想い』でしたよね。ドラマの主題歌だけでCD化されてない曲」
 先日何故か慶悟の家に送られてきたテープに入っていた歌と同じだった。
「珍しいバラードで、欲しい人沢山いるのに本人がCD化させない、って話でいたよね」
 女の子は噂話に詳しいらしい。撫子と焔寿が学校の教室で話しているがごとく盛り上がる。
 それに鈴もまざって話を始めた。
 女性は年齢関係なくこういった話が好きらしい。

「おう、遅かったな」
 シュラインが事務所に戻ると嫌にご機嫌な草間と、デスクいっぱいの書類に出迎えられた。
「なんか機嫌いいですね……」
 思い切り嫌味口調で言うと、蛙の面になんとやら。草間はよくぞ聞いてくれました! とばかりに満面な笑みを浮かべる。
「駅前にラーメン屋がオープンしてな。当日一杯100円だ、て言うから行ったんだよ。そしたらちょうど100名目だって事でタダだったんだよ!」
「……良かったですね」
 棒読みで返しつつ、シュラインは時計屋であった事件の話をしつつ書類整理に入る。もうやってくれ、とは言わない。
「指輪かぁ……」
 ふむふむ、等と言いながら草間は煙草を開け始める。
 そしてそれを吸うでもなく何かを作る。
「……うし。シュライン手を出せ」
 言われて思わず左手を差し出したシュラインに、桐伯はニヤニヤしながら中指に何かをはめた。
「?」
 指を近づけてみると中指にはまった銀色の輪っか。プンとニコチンの匂いと銀紙の匂いが鼻をついた。
「なんか少しでかくなぁ、中指がちょうど良かったな」
 人の指のサイズに詳しい草間も嫌だが、やっぱり知っていて欲しかったなぁと思いながら、それでも嬉しかったりする自分に、シュラインは苦笑した。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家+時々草間興信所でバイト】
【0319/当麻鈴/女/364/骨董屋/たいま・すず】
【0328/天薙撫子/女/18/大学生(巫女)/あまなぎ・なでしこ】
【0332/九尾桐伯/男/27/バーテンダー/きゅうび・とうはく】
【0389/真名神慶悟/男/20/陰陽師/まながみ・けいご】
【1305/白里焔寿/女/17/天翼の神子/しらさと・えんじゅ】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来聖です★
 今回は実は難産でした(笑)
 つか思い切り自分の不得意関係の話になりそうで、どうやって方向を修正しようか悩みつつ……こう無理矢理にえいっと……というのは冗談で。
 小箱の時代背景については色々考えたんですが、こんな感じになりました。
 まぁ、私らしく(笑)
 最後にちょこっと謎を残してみましたが……次回のひきかもしれません。が、この辺私なんで結構いい加減です。
 それではまたの機会にお会いできる事を楽しみにしています♪