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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


妖精図鑑

*オープニング*

信じて貰えないと思いますが、と前置いて女は写真と1冊の本を差し出した。
「しおりを挟んであるページを見て下さい」
言われるままに、草間は「妖精図鑑」と書かれた本をめくる。
手作りの妖精人形の写真集らしい。
「似ていると思いませんか?」
写真の少女は10歳前後。
紺色の制服に赤いランドセルを背負ったポニーテールの少女。
しおりの挟まったページの写真のレースと木の葉の衣装を身に纏い、花に寄り添う人形。
「妹は私と5歳違いで……10歳の時に行方不明になりました。誘拐されたのか、何か事件に巻き込まれたのか我からないまま5年が過ぎ……」
つい先日、偶然立ち寄った古本屋で見つけた写真集をパラパラとめくって妖精の人形を見て以来、どうしても気になって仕様がないのだと言う。
「他の人の目にはどう映るのか…でも、私にはその人形が妹のように思えて……」
「では、この人形作家と人形についてを調べれば良いのですね?」
言われてみると、そっくりではないにしても何処か似た雰囲気がある。
「ええ、出版社の方に問い合わせてみたのですが、詳しい事は教えて頂けなかったので……」
妹がモデルなのではないか、或いはどこかで妹を見かけたのではないか、と女は言う。
「分かりました。引き受けましょう」
写真と本を目の前にして、草間は答えた。


***

女は、妹が生きている事に望みを持っているのかも知れない。
誘拐されたものの、どこかで生きているのかも知れない。だからこそ、モデルに成り得たのだ、と。
「その気持ち判ると思います。妹さんを探したいという思いのたけは」
写真を見る目にも優しさの溢れるな女の様子に、海原みなもは微笑ましいような痛ましいような思いで言った。
「あたしにも妹がいますから」
義理ですけど、と付け加えるみなもに女は微笑みを浮かべる。
義理でも何でも、人を大切に思う気持に血の繋がりなど関係ないのだ。
「妹さんがいなくなったのは?」
草間の横から、シュライン・エマが写真集に手を伸ばす。
翻訳家であり、作家でもあると言う職業柄出版社に多少の知識はあるのだが、写真集の出版元に覚えはない。
「1998年の、5月5日、丁度あの子の誕生日でした。GWの最後の日と言う事もあって家族で食事に行く予定でした。ところが、友達と遊びに行った妹は約束の時間に帰って来なくて――――、そのまま……」
一緒に遊んでいた友人とは公園で別れたらしい。
自転車に乗ったまま、翌日学校で会おうと声を掛け合い、その後の行方は知らない。
「1998年5月5日……」
呟きながら、写真集の最後のページをシュラインは見る。
「1998年12月24日初版発行……」
そこに書かれた日付を読み上げたのは、5人分の紅茶を運んできた天薙撫子。
「妹さんがモデルになった可能性がある、と言う事ですね」
撫子の言葉に、シュラインとみなもは頷く。
「ネットでその手の人形サイトなら、あたしなんて及びもつかない探査系特殊能力を持つ主が数多くお見えですから、何か情報があるかもしれません。尋ねてみますね。」
撫子から受け取った紅茶を女に差し出しながらみなもは言う。
「取り敢えずは情報収集ね。出版社にはアトラスからでも手を回してもらいましょ」
「わたくしはその人形作家の経歴・家族構成・作品などを大学の教授関連の出版社などのツテを通じて調べてみます」
簡単な役割分担をする3人に、女は恥ずかしそうに言った。
「あの……、こんな話しバカみたいに聞こえるかも知れませんけど、私、あの人形、本当に妹なんじゃないかと思うんです。人間が人形になるなんて小説や漫画の中のお話ですけど、モデルよりももっと妹に近い感じがして……」
普通、人が聞けば笑うような話しだが、3人は笑わなかった。
「大丈夫、まかせて頂戴」
むしろ最初からその方向を予想しているかのようにシュラインは女の肩を叩いた。


***

「なーんにも情報がないなんて、今時ちょっと変わっていますよね」
パソコンの前に座ったみなもが溜息を付く。
思いつく限りのキーワードを使って人形作家について調べようと試みたのだが、これと言った情報がない。
人形作家のサイトや妖精についてのサイトを幾つも回ってみたが、役立ちそうな事は何一つ分からない。
「何も情報がないと言うのは、逆に妖しい感じね」
言いながらシュラインは写真集を閉じる。
出版社は自費出版を主に扱う小さな所だった。
『妖精図鑑』も自費出版されたもので、流通には乗っていない。
出版社に問い合わせたところ、『妖精図鑑』の他に同一作家による出版物はなく、作家自信については一切教えて貰えない。
「撫子さん、何か分かったでしょうか」
みなもはディスプレイの右端に表示された時計を見る。
午後6時。
大学の授業の後、情報を集めて5時すぎにはここに来られるだろうと言っていたのだが。
シュラインとみなもの力でこれと言った情報が得られなかった今、撫子が頼みの綱だ。
そこへ「こんにちは、遅くなってすみません」と、漸く撫子がやって来た。
「どうだった?」
尋ねるシュラインに、撫子はにこりと微笑む。
「全然、駄目でした。不思議なくらい……、いえ、不自然なくらい何も分かりませんでした」
でも、と撫子は続ける。
「出版社の方にアトリエを見せて頂けるようお願いしてみました」
人形作家については何一つ教えて貰えなかったが、作家と連絡を取って交渉して貰えるように頼んだと言う。
「最初は、ファンを装っていたんです。でも全然相手にされなかったので、事情をお話して見たんです」
事情と言うのは勿論、依頼人である姉が妹に似た人形のモデルを知りたがっていると言う事だが、それに少々脚色を加え、妹が消えて以来病気がちな母親が、人形でも良いからもう一目娘に会いたいと訴えているのだと話したらしい。
わざとらしい話しだったが、応対した出版社は信じたのだろう。
「履歴書を送るように言われました」
「履歴書?」
面接でもあるまいに、何故そんなものが必要なのかとシュラインは首を傾げる。
「身元のハッキリした人でないと出版社の方も困ってしまうそうです……、それで、早速買って来ました」
言って、撫子はコンビニの袋から履歴書を取り出す。
「丁度3通入っていますから、すぐに書いて送りましょう。スピード写真を撮れば今日中に郵送できますから」
「履歴書って、書くの初めて……、でも、あたしたちはどう言う関係になるんでしょう?」
3人揃って姉妹と書くには、少々外見に問題がある。
「みなも様は、消えた妹の友人と言う事に致しましょう。2歳違いなら、分からないでしょうし」
シュラインの目は青い。それを隠せば姉として通用するだろうが、今はカラーコンタクトを用意する時間がない。
「それじゃ、あんたを姉って事にしましょ。私は――そうね、病気がちな母親のヘルパーって所かしら?母親に頼まれてお願いに来たと言うわけ」
3人はそれぞれに少々偽造した履歴書を書き、スピード写真を撮ると、速達料金分の切手を貼ってポストに投函した。
そして、2日後。
出版社を通して作家からの返答が届く。
日時は指定。3人ばらばらに尋ねて欲しい。面会は30分以内、住所は伝えず、当日駅まで迎えに行くと言うなんとも奇妙な内容だった。


***

シュラインが指定されたのは3人の中でも最も早い5月4日の午前10時だった。
駅のタクシー乗り場からやや離れた場所に、目印の花束を持って立っていると、一台の黒い車がするりと前に止まった。
自動で後部の扉が開き、中から男の声が名前を確認する。
どうぞお乗り下さい、と言われてシュラインは乗り込んだが、窓ガラスには黒いフィルムが貼られ、運転席と後部座席の間には壁のような隔たりがある。つまり、後部座席から運転手の顔は見えず、周囲の様子もハッキリ見えないと言う状態だ。
「随分徹底してるわね」
シュラインは思わず呟いた。
そこまでして住所を隠す必要があるのだろうか。
必要があるとすれば、それは何故だろう。
考えて居る間にも、車は殆ど揺れる事なく快適にシュラインからは見えない道を進む。
そして、ピタリと止まったかと思うとドアが開き、運転席から再び声がした。
「どうぞ、お降りになって真っ直ぐお進み下さい。正面の廊下を右に進んで頂き、突き当たりのお部屋で奥様がお待ちで御座います」
シュラインは時計を確認する。
驚いた事にたったの10分しか過ぎていない。
人形作家のアトリエ(或いは家)はすぐ近くにあったのだ。
内部に車を乗り込んだのは家の外観が目に付かないようにする為だろうか。
言われるままに廊下を進むと、突き当たりに金のノブがついた大きな扉があった。
廊下に窓はないが、広く明るい。洋風の作りだ。
扉をノックすると、中からやや高い女の声が入室を認める。
「お邪魔します……」
大きな部屋だった。前方に窓があり、白いレースのカーテンが揺れている。
右手に豪華なベッド、その上に、1人の老女が上体を起こして座っている。
年の頃は70……いや、80だろうか、白髪頭の小柄な体に、ベッドは大きすぎるような印象を受ける。
「初めまして。こんな所で、こんな格好でごめんなさいね」
この頃病気がちで、ベッドから出る事は殆どないのだと老女は言った。
「ご病気とは知らず申し訳ありません」
シュラインは申し訳なさそうに言い、花束を差し出す。
「いいえ、あなたのような素敵な女性のお客様は大歓迎よ。私のように年を取ると、お友達も少なくてお客様は滅多にいらっしゃらないからね。ああ、履歴書を送って欲しいだなんて、驚いたでしょうね」
老女は花に顔を近付けて香りを楽しむように息を吸い込むと、サイドボードの鈴を鳴らす。
呼び鈴なのだろうか、随分古風だ。
「以前にね、やはりアトリエを見せて欲しいと言った方がいてお招きしたのだけれど、その時に大事な人形を持ち出されてしまったの。勿論、あなたもそうだと言っている訳ではないの、ただ、やはり警戒してしまうのね」
部屋に入ってきた女中らしい女に花束を渡し、お茶を頼む老女に、シュラインは微笑んでみせる。
「亡くなった娘さんに似たお人形があるそうね?」
「ええ、はい。正確には、私がお世話をさせて頂いている方の娘さんです。『妖精図鑑』と言う写真集をご覧になって、お嬢さんに似たお人形を見つけたそうです。お嬢さんの事で随分心を痛めているらしくて、お人形でも構わないから一目会いたいと仰って」
シュラインは努めて気の毒そうな話し方をした。
直接人形のいる部屋に通される事を予想して依頼人の声を真似ていたのだが、部屋を見る限り人形は見当たらない。
「お気の毒ですね。私も娘を亡くしたので、その気持ちはよく分かりますよ。私がお人形を作り始めたのは、娘の為なの。娘に似たお人形を作ったら、1人で居させるのが可哀想になって、お友達を沢山作る事にしたのよ。『妖精図鑑』は娘が好きだった空想の世界を形にしてみたの。妖精のお人形に似たお嬢さんなら、さぞかし可愛らしかったのでしょうね」
老女は女中が運んできた紅茶をシュラインに勧めると、娘の思いでに浸るように目を閉じる。
「良かったら、お人形は差し上げましょう」
予想外の申し出に、シュラインは顔を上げた。
「大切なお人形を……、構わないのでしょうか?」
「お嬢さんと思って、きっと大切にして下さるでしょう?それに、私はまた、作りますから」
老女はにこりと頷き、再び呼び鈴を鳴らす。
「アトリエへ案内させましょうね。私は疲れたので、失礼させて頂きます」
時計を見ると、部屋に入ってから丁度30分だった。
人形が手に入るならそれに勝る幸いはないが、ガードが堅い割に随分アッサリと手放すものだ。
案内に現れた女中の後を追おうと立ち上がったシュラインはあまりの話しの早さを訝しく思いかけたが、時既に遅し。
立ち上がったシュラインは1歩も踏み出す事なく、その場に崩れ落ちた。
「アトリエへお願いね。ああ、でも残念だわ。人形にしてしまうと折角の素敵な声が駄目になってしまう……」
老女の言葉は、シュラインの耳には届いた。
しかし、意識までは届かなかった。


***

妙な居心地の悪さを感じて、シュラインは目を覚ました。
ボンヤリする頭を起こして自分の状況を確認するように辺りに目をやると、すぐ横に見知った顔がある事に気付く。
「ちょっと、一体どう言う事なの?」
辛うじて出せる声は無意識のうちに依頼人を真似ていた。
「うん……?」
その声に、身じろぎしたのは青い髪の少女。自分の後に人形作家を訪ねる事になっていたみなもだ。
「わっ、な、何……?」
シュラインと同じく自分の状況を確認したらしいみなもは、自分を取り囲むように並んだ人形に驚いて声を上げる。
「大丈夫?」
どうにか体を起こして尋ねると、みなもは何度か瞬きをして軽く頭を振った。
「シュラインさん…、はい、大丈夫です……」
そして、自分の隣に横たわる撫子の体を軽く揺すった。
「撫子さん、」
「ん……」
撫子が身じろぎして目を覚ますと、シュラインとみなもは手伝って体を起こした。
「ああ、すっかり敵の手に落ちてしまったのですね」
酷く痛む頭を押さえて、撫子は言う。
「そう言う事ね、でも取り敢えずはまだ3人とも無事で良かった」
言いながら、シュラインは自分の体に異変がないかを調べる。
「あの老女がどのように人間を人形にするのか分かりませんが、わたくしたちの置かれている状況がとても不利だと言う事は確かです」
「ここはアトリエでしょうか?」
危うく人魚の人形にされるところだったと思いながら、みなもは言った。
広い部屋だが窓はなく、電気もついていないので薄暗い。そこらそうじゅうに人形が転がっている。その人形達の全てが人間だったのかも知れないと思うと、ぞっとする。
それに答えず、シュラインは耳を澄ました。
何か音が聞こえたような気がした。
それは、とても小さな囁きだった。
「 お ね え ちゃ ん 」
シュラインの耳は、その声を聞き逃さない。
人形の一部がコトリ、と動く。
「シュラインさん、あれ!」
みなもが指さした場所には、背中に透き通る小さな羽を持った人形達。
「お ね え ちゃ ん 」
重なるように並んだ人形がゴソゴソと動き出し、なかから1体がゆっくりとした動きで現れる。
それは間違いなく、依頼人が妹に似ていると言ったあの妖精人形だった。
「………?」
撫子は息を殺すようにその様子を見守る。
「残念だけど、あなたのお姉さんじゃないのよ」
依頼人の声で、シュラインは言う。
「あなたを探しに来たの。その為に、お姉さんの声を借りただけなのよ」
妖精人形は、意志のない目でシュラインを見て、首を傾げる。
「あなたは……、」
卵から孵ったヒナが蠢くようなたどたどしい足つきで、妖精人形は動く。
黒い目はガラス玉のように物を映すが、それを認識してはいないようだ。
みなもは人形の様子を伺いながら、名前を確認する。
しかし人形は首を傾げるばかりだった。
そしてただ、シュラインに近付きながら姉を呼ぶ。
「あらあら、いけない子ね」
突如扉が開き、薄暗い部屋がパッと明るくなった。
咄嗟にシュラインとみなもは妖精人形を守るように身構え、撫子はその二人を守るように懐から『妖斬鋼糸』を取り出した。
「貴方達はもう目覚めてしまったのね。まだお洋服の採寸しかできていないのに、困ったわ」
老女は人の良さそうな笑みを絶やさず、ゆっくりと杖をついて3人に近付いた。
「貴方達のような素敵な素材と出逢うのは久し振り……、人形作家として、腕の振るい甲斐があるわ」
「人形作家ですって?作家なんかじゃない、あなたがやってる事は立派な犯罪です!」
みなもは老女を睨み付ける。しかし、老女はにこりと笑った。
「その子を返して頂けるかしら?妖精って、悪戯な子が多いのよ。驚いたでしょう?」
「返す訳にはいきませんわ」
撫子は『妖斬鋼糸』を使って自分たちの周りに結界を貼る。
「まあ、どうするつもり?この部屋から出す訳にはいかないわ。以前盗まれてしまったあの子のように、見殺しにするなんて出来ない……、私にはお人形を守る義務があるのよ」
「言っている意味が分からないわね」
シュラインは妖精人形を胸に抱いて守るように老女を見る。
「言葉通りの意味ですよ。私のお人形は私のもの」
「あなたの人形じゃないわ。生きた人間です」
「そう、そんな頃もあったわね。でも、人間は成長するもの。お人形は永遠にお人形。貴方達も、その若さと美しさのままこの世に留めてあげましょうね」
この老女には、どうも言葉が通じないようだ。
「シュラインさん、撫子さん」
みなもは小声で呼びかけて扉を指さした。
扉は一つ、今自分たちの動きを阻むのは老女1人。
逃げられる。
「永遠の若さも美しさも、望んでいません。この妖精人形だって、ちゃんと家族があって姉妹がいて、幸せに暮らしていたんです。勝手に人形にして、奪ってしまったのはあなたでしょう」
みなもは唇の端を噛む。
妹に似ていると言って、写真集を大切そうに胸に抱いていた依頼人を思うと、無性に腹が立ってしようがない。
「行きましょう」
撫子が小声で促す。
「私のお人形を盗むつもり?そんな権利が、どうして貴方達にあるの?」
老女は人形を取り返そうとシュラインに近付く。しかし、撫子の貼った結界の中にはどうしても入る事が出来ない。
「生きた人間を人形に変えてしまう権利が、あなたにはあったとでも言うの?」
怒りを含んだ声は冷たく鋭く部屋に響く。
老女は諦めたように首を振り、3人が部屋を出ることを止めなかった。
「可哀想に……」
溜息混じりの呟きは、3人の耳には届かなかった。


***

「 お ね  え ちゃ ん 」
途中誰に止められることなく老女の屋敷を出た3人は、走ってその場を離れた。
住宅地を走るタクシーはなく、近くの公園へたどり着くと肩で息をしながらシュラインの胸に抱かれた人形を見る。
「大丈夫、すぐに本当のお姉さんに会わせてあげる」
真っ直ぐにシュラインを見つめる妖精人形。
太陽の光を浴びて、背中に付けられた羽がキラキラと光った。
「依頼人の方、優しそうな方だったから、きっと受け入れてくれますよね」
残された人形達を思うとどうしようもない怒りがこみ上げる。
しかし、今は依頼人の妹を助け出せた事を喜ぼう。
みなもの言葉に、撫子は頷く。
「どんなに姿が変わっていても、大切な妹ですから」
「もうすぐ、お姉さんに会えるわよ」
微笑みを浮かべるシュライン。それを見てか、妖精人形の顔が僅かに動いた。
「あら、笑えるのね」
頬と口の端がゆっくりと持ち上がり、黒い目に初めて意志らしいものが感じられた。
「あ りが と う   お ねえ ちゃ ん 」
可愛らしい笑みを浮かべた人形。
しかし、それは長く続かなかった。
「あ、えっ」
みなもは言葉を発する事が出来ず思わず両手で頬を覆った。
黒い目が、突如ひび割れ、薄いレースと木の葉の衣装で覆われた肌が、パラパラと崩れ落ちる。
「どうして…っ待って!」
剥がれる羽を、撫子は慌てて受け止めようとしたが間に合わず、それは音もなく地面に落ちる。
「そんな……嘘……」
シュラインの腕の中で、妖精人形の足が抜け落ちた。
細く小さな腕がポロリと外れ、衣装がずり落ちる。
信じられないスピードで、妖精人形はその形を失ってしまった。
3人は呆然と、手の中に残った衣装を見つめる。
「いや……、こんなのヤダ……」
『見殺しにするなんて出来ない……』老女の言葉は、この結果を意味していた。
みなもは泣き崩れ、地に音もなく落ちた羽を拾う。
「ありがとうって、言いました」
震える声で、撫子は言った。
シュラインは姉の声を発した自分の口を手で覆う。
「シュライン様の口を通して、お姉さんの声を聞いて、嬉しかった……、きっと、もう一度この空の下に出られて、嬉しかった……」
シュラインは腕に残った妖精人形の衣服を堅く抱きしめる。
そして、泣いた。



end




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】 
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト  
1252 /  海原・みなも  / 女 / 13 / 中学生
0328 /  天薙・撫子   / 女 / 18 / 大学生(巫女)
  
  

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■         ライター通信          ■
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猫に散々邪魔されて、ちょっといじけている佳楽季生です。この度はご利用有り難う御座いました。
子供の頃、妖精の存在を信じていました。愛読書はおまじない類の雑誌に妖精関連本と言う、ヲトメだったのです、以外と。
今となっては遙か昔の懐かしくも恥ずかしい話しですが……(遠い目)
今回は、ちょっと長くなってしまったので申し訳ない限りです。
その上、解決したような解決していないような中途半端且つ暗い終わり方だったので、読まれた後にどんな印象を持たれるの
か、心配です。お楽しみと言う内容ではないので、少しでもお気に召せば幸いです。

シュライン・エマ様
またまたのご利用有り難う御座います。
情報収集のプレイングが使えなくて申し訳ありません(汗)
こんなお話しか書けないのですが、また何時かお目にかかれたら嬉しいです。