コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


激走!お召しバトル☆


 ■はじめまして■

「でぇすからぁ……そうゆう危険な〜……」
 困ったように云ったのは、ここ最近、アトラス編集部では御馴染みの若き枢機卿である。麗香はジロリと見た。いかにも「黙らっしゃい」と云わんばかりである。
「私は忙しいのよ、ユリウス……ふらふらここで遊んでるってことは暇なんでしょうに」 ファレルがドアを開けると言い込められるユリウス・アッレサンド枢機卿と、はなから「行くのよ貴方は」といわんばかりの態度ありありの麗香がいた。
「あ〜…ユリウスさんだ」
 ぼんやりとファレルが行った途端、兄貴分の少年は背を向けた。
「どこ行くの?」
「……用事思い出した。他のバイト入れてたんだった。帰ります」
 棒読みっぽい調子で一気に言うと、むるりと背を向け、脱兎の如く走り去る。
「あ〜……」
 前回のカラオケが忘れられなかったらしい。
 ファレル以上に音に敏感な彼なら逃げてもしょうがないだろう。仕方なく、ファレルは編集部に入った。そこには話し合う大人二人と小さくて愛らしい少女がいた。
 自分と同じ銀の髪に親近感が沸いた。
「今回のは簡単な調査なんだから行ってきて頂戴よ」
 麗香は写真をヒラヒラとさせる。覗き込むと、それは原宿駅が写っていた。
「幽霊列車がここから出発するって本当かどうか確認するだけなんだから、大した事無いじゃないの」
 そう云うが、先程から嫌な悪寒がゾクゾクと背を駆け巡っている。「小フーガ」が運命的な旋律で脳裏に鳴り響くのは何故だろう?
 ユリウスは身震いした。
 もう一枚の写真の中では、猛烈な速度で疾走する列車が写っていた。列車の先端には日の丸の旗が風に舞い上がっている。
「あのう……麗香さん」
「何よ」
「これって……」
 ユリウスは言葉を切る。
「お召し列車ですよね?……」
 麗香は「それが?」と、にべもなく答えた。
「幽霊列車〜? おろしろそ〜!」
 少女はわくわくが隠し切れない様子で、瞳を輝かせている。
「お出かけお出かけ〜♪ ねぇねぇ、ユリウスって確か甘いもの好きなんだよね? やっぱ、お出かけには駄菓子は基本だよね〜」
「みあおちゃん……遠足じゃないんですよ」
「いいじゃないのよ〜う」 
「あのさ、『お召し列車』ってナニ?」
 離れたところで聞いていたファレルは歩み寄りながら言った。
「お兄ちゃん、誰?」
「俺? ファレル・アーディンだよ」
「みあおはねぇ……海原みあおっていうの。ねーねー、みあおも「おめし」なんとかってわかんない」
「天皇陛下が乗る電車のことですよ、みあおちゃん。原宿駅から必ず発車するんです」
「ふーん」
「そうだったんだ……」
 ファレルも初めて知ったらしい。感嘆の声を上げた。
「さぁさ、調査員も来た事だし行って来て頂戴」
 碇・麗香はさっさとユリウスを追い出したいらしく、シッシと手でやっている。
「相手は小学生と中学生ですよ?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、ユリウス。ここに来る人間に年齢は関係ないの!」
「ふわ〜い……」
 麗香に一喝され、一蹴され、すごすごと引き下がった。


 ■調査しましょう■

「グレープジュース2リットルペットで持って行って〜。渋めに甘納豆〜。剥き栗、あずき、焼き芋の携帯サイズ〜。忘れちゃいけない、冷凍みかん〜」
「み〜あ〜お〜ちゃん♪」
「なあに?」
 コンビニでカゴにお菓子を詰め込んでいたみあおは、ふいにユリウスに声を掛けられて振り返った。
「何しにいくか覚えてる?」
「……あ、幽霊列車の調査だっけ!? じゃぁ、装備は懐中電灯とか使い捨てカメラ買わなきゃ」
「そうじゃなくって……」
 言うユリウスを完全に無視して、みあおは「ドラマとかのお約束の手土産には無理だから、くさやの干物とか、きんきの一夜干しかなあ?聞き込みはやっぱり無職のおじさんだよねv」などと言いながらカゴにポンポン入れていく。 
 呑気な様子にユリウスは頭を抱えた。
「違う……何かが違う」
「ユリウスは頭カチンコだね」
「はぁ?」
「カタブツってこと」
「主よ、何だか私、ヒドイ事言われてます」
 声も立てられないほど腹を抱えてファレルは隣で笑っていた。
「く…くっふ、ふははくっ〜く……苦し……」
「ひ…ひどい……」
「そうだ、ユリウスさんは歌禁止。鼻歌もダメだかんね!」
 ガックリとうな垂れ、地面に『の』の字を描いて、ユリウスは溜息を吐いた。

 買い物の跡後、あおのご要望どおり、無職のおじさんに差し入れしつつ、聞いたところでは(本当に情報が取れるとは!)、深夜になると原宿駅に日の丸の旗を付けた電車が走ってゆくという。
「やっぱり深夜だね」」
「幽霊列車だモンな……ど〜する、ユリウスさん」
「調査しないわけにはいかないでしょう」
 とほほと言って、ユリウスは二人を連れ、表参道のジョナ○ンで時間をつぶすことにした。


 ■スイングスイング 列車は揺れる■

 深夜の十二時も過ぎると流石に眠たいらしく、みあおはコックリコックリと舟をこいでいた。ファレルもゲームボーイアドバンスにも飽きたのか、今は止め、十杯目になるであろう紅茶を啜っている。ユリウスは時計を見た。
 午前十二時十五分。
 最終は十二時だから、そろそろ幽霊列車の活動時間だろうか。
「さて、行きましょうか」
「あ……時間?」
「えぇ……。みあおちゃん、行きますよ」
 ユリウスに揺り動かされ、目を覚ますとみあおは手で擦った。手早く荷物を纏めると、お勘定を済ませ、外へ出る。そこから駅は近い。
 原宿駅に向かうと、辺りはまだ賑やかだった。そこから新宿に向かって線路伝いに歩くと、小さな白い木造の建物があった。それは何処か田舎の駅の造りに似ている。
「着きましたよ」
「ここが天皇陛下専用の駅なの!?」
 ファレルは呆気にとられた。多分、馬鹿でっかい駅を想像していたのだろう。愛らしい駅をファレルは見つめた。
「かっわい〜♪ みあお、この駅は好きだなァ〜v」
「それはよかったで……おや?」
 そこまでユリウスが言いかけたとき、ライトを煌々と輝かせてそれは現れた。悠々と国旗をはためかせ、走る雄姿。

 ゴオオオオオオオオオオオオ! ガタンガタンッ! キキ―ッ!!

 プシュゥ〜〜〜〜〜〜……

 三人はあんぐりと口を開いたまま言葉を失う。眼前で停まったそれは、如何見てもSLにしか見えない。呆けていると、人が降りてくる。
 ファレルは幽霊だろうと思い、足があるか確認したが、少年の淡い夢をぶち壊すかのように、ご立派な二本の足は大地を踏みしめていた。
 その人影はふとこちらへ向かうと、しっかりとした足取りでやってきた。
「原宿ゥ〜、原宿ゥ〜ってな……おや? アンタら、誰だい?」
「貴方こそ、誰です?」
 幾分、ショックから抜け出たユリウスはそう返した。
「俺か? 俺はブンタ。東海道線の蒼い流星・スズハラブンタって、人は呼ぶな」
「スズハラブンタさんですか……」
 ブンタはJR職員の制服を着ていた。年のころは四十半ばというところか。
「ねーねー、おじちゃんは幽霊でしょう?」
「あぁ、そうだよ。お嬢ちゃん」
「なにやってるの?」
「バトルだ。男なら何処までも走らねぇとな……」
「取材していーい?」
 チャンスとばかりにファレルは取材許可を求めた。折角だ、こうなりゃトコトン行くしかない。
「いいぜ…坊ちゃんよ」」
 …と、ブンタは快く承知してくれた。

 三人はSLに乗り込んだ。みあおとファレルの二人は大喜びで、走り始めるとはしゃぎ様は最高潮となる。中は石炭を燃やす溶鉱炉は無い。その代わり、最新式のコントロールパネルがあった。
「新宿ゥ〜新宿ゥ〜」
「はぁ〜あ……」
 ブンタの隣で座り込んでいたユリウスは深い溜息を吐く。アトラス編集部で感じたあの「ゾクゾク」感が戻ってきたのだった。汗がじっとりと手のひらに浮かぶ。カソックの襟元も汗でひやりとした。
「どうした?」
 ブンタはニヤッと笑って言った。
「い…いえ……」
「そーか……んじゃ、行ッくぜぇ!!」
 レバーを最高速度のところまで持っていくと、ガクンッ! と車体が前に傾ぎ、それから一気に速度が上がる。速度が上がるたびに、カーブで車体は傾いていく。
「うぉらッ!! 現れた!」
 ブンタが叫ぶと隣の線路に山手線の列車が現れた。運転席の窓が下がり、中から声が聞こえる。
「よぉ、ブンタ! 今夜はいただく!」
「フザケロ。日本の線路は東海道の走り屋、この俺のものだ!」
「バトルだ!」
「ああ……後悔しやがれ」
 SLとしてあってはならない速度と機動性で、がんがん速度を上げ、後部車両はグラリと揺れる。その姿も振動も恐ろしい。
「………………ぁッ!」
 車体が揺れ、斜めになるたびに声無き声をユリウスは上げた。
 それもそうだ、線路変更などいきなりされたら誰だって怖くなる。
 というか、宙を飛んで線路変更するのもどうかとユリウスは思った。このSLだけならいい。相手の電車も線路変更するのだ。たまったもんじゃない。
「んんんんんあああああああああ………………ッ!」
 隣では、ファレルも窓枠を掴んでふりまわされながら絶叫していた。
 一方。色々調べ、写真とってメモして、みあおは冷静に記事を仕上げた。まぁ、最悪飛んで逃げればいいと思っているだけだが。
「うがああああああああああああ!!」
「そんなに叫ばなくったって大丈夫だよ、ファレル。みあお、幸せの青い鳥だし。ユリウスのラッキーに期待していいよ」
 それを聞いてファレルは気が遠くなりそうだった。振動と流れ去る景色の速さに気持ち悪くなっていたが、今度は目の前が暗くなる。
「きた…い…できな……」
「え? 何で?」
「俺……ちゅ…中和能力者だ…から……」
「…………うそ…」
「マジ……」
 聞くや否や、みあおは荷物を纏め、窓枠に手をかけた。
「どこ行くんだよ!」
「ラッキー中和されちゃったら、みあお危険だもん」
「俺も、俺も!!」
 とち狂ったようにファレルは小柄な美少女にしがみついた。目には涙さえ浮かべている。ばたばたと、みあおはもがいた。
「離してよ〜!!」
「連れてって! 俺も連れてってよ〜ぅ!」
「きゃ〜だぁ〜ッ!!」
 みあおはお菓子の詰まったバックをファレルに叩きつける。ファレルはもんどりうって、反対側まで転がっていった。
 ブンタの方はご機嫌そのもので、バトルに夢中になり、鼻歌まで飛び出す始末。
「お? TUBUですか?」
「あんちゃんも歌うか」
「いいですねぇ……」
 寒気に我慢しかねたユリウスは気晴らしに歌おうとした。それに気がついたファレルは叫ぶ
「歌禁止!」
 ファレルの禁止も振り切って二人は歌い始めた。
 魔の「TUBU」を……

「おおおおおおおわああああああああああああ!!」
 ユリウスの歌声を聞き、目を剥いてブンタは仰け反った。ムンクもかくやというべき叫びだった。絞め殺された猫のような形相で運転席に張り付いている。
「きいいいいやああああああああああああああ!!」
 カクンッ!と抑制装置が破裂し、弾けとぶ。
「鼻歌もダメって云ったのにィ!」
 ファレルの抑制も虚しく、ブンタは暴走を始めた。眼前にはトンネル。後方には山手線。左右は山の二本線路。躑躅の鮮やかな色合いを楽しむことなく過ぎ行き、死への片道列車はトンネルへと向かう。みあおは青い半鳥人に変身すると、荷物を鉤爪で掴んで羽ばたき、外に飛び出した。ファレルの手が虚しく宙を掴む。
「俺も連れてってぇええええええええええええええええ!!」
「ごめーん♪ また……」
 ニッコリと笑った声が急速に通り過ぎ、最後のほうは聞こえなかった。
「ぎゃあー! ト〜ン〜ネ〜ル〜ッ!!」
 皆は叫んだ。

 どぐわしゃぁあ!!……

 轟音が木霊し、東京郊外の山の中に響いていた。


 ■夢っていいですね…■

「……猊下…猊下ッ!」
「んにゃぁ〜…」
 ボケた声でユリウスは答えた。
 呼んでる声は、シスターの星月 麗花だろう。
 暴走列車に乗る夢なんて不吉な……今しがた見た夢に背が凍る。今日は何処にも行きたくなかった。
「今日はアトラス編集部に行くって云ってましたでしょ」
 アトラスと聞いて、ユリウスはブルリと震え、布団に潜り込む。
「行きたくないです……」
「だめですってばぁ〜!」
 動かないユリウスを起こそうと、仕方なくシスターは銀の髪を持つ先輩の携帯へと電話をかける。
「あ……先輩、実は猊下が……」
 そこまで云ったところで電話は切れた。何も云わなくても分かるらしい。多分、五分としないうちに彼女はやって来ることだろう。
拳銃を持って。

 そんなことも知らないで、二度寝を決め込んだユリウスは布団の中で惰眠を貪る。

 浅き夢にまどろみながら……

 ■END■

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  1415  /海原・みあお/女/ 13歳  / 小学生

  0863 / ファレル・アーディン/男/14歳/中学生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちわ、朧月幻尉です。
 長らくお待たせいたしました。遅れて申し訳御座いません。

 無事みあおちゃんは逃げることが出来たようで何よりです。
 今回も楽しく書かせていただきました。

 感想・苦情等御座いましたら、気軽にお申し付けください。
 ぜひとも、改善させていただきます♪

 では、またお会いできることを願って。

朧月幻尉 拝